ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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気付けば一月経過。しかもまた伸びた・・・


アルカトラズ・レポート 後編-1

 

 

 

   △    △    △

 

 

 

【スーパー系】技術開発班ロボ部【最強説】Part.242

 

412:名無しのロボ部

ダン・オブ・サーズデイ!

ダン・オブ・サーズデイ!

 

413:名無しのロボ部

情報量大杉で草wwwww

 

414:名無しのロボ部

ダン来たよダン

 

・・・いつの間にあんなん開発しとったんだ?

 

415:名無しのロボ部

ダンの動きも滅茶滅茶綺麗よな。

もう体操選手でもやってるのってくらい。

 

416:名無しのロボ部

多分単純に動かしている操縦者の技量が高い

その上で、それを再現できるくらいにダンの基礎スペックがヤバい

 

417:名無しのロボ部

ダンってバク転できるんやな・・・

 

418:名無しのロボ部

反転月面宙返りまで・・・

 

419:パピヨン

人工筋肉技術の広告塔だから

 

420:名無しのロボ部

呉のガンダムでもあそこまでの動きは見たことないで……

 

421:名無しのロボ部

流派東方不敗がいればワンチャン・・・

 

422:名無しのロボ部

ダン・オブ・サーズデイvs巨大天使

 

胸圧やな

 

423:名無しのロボ部

胸熱やろJK

 

424:名無しのロボ部

>>422

>胸圧

おっぱいの圧力は正義って事ですねわかります

 

425:名無しのロボ部

ヴァルシオーネたんは最高だからな

 

426:名無しのロボ部

・・・これだから巨乳信者は。

ロボのパートナーはロリっ娘だと相場は決まってるだろJK

 

427:名無しのロボ部

コクピットの空間容積は限られているから、コスト削減的にもね。

 

428:名無しのロボ部

せやな。

だから手足とか余分なパーツは切除してダイレクトコネクトを実装しようぜ!

 

429:名無しのロボ部

サイコザクですね分かりますw

 

430:名無しのロボ部

そこはR-TYPEやろJKwwwww

 

431:名無しのロボ部

R-TYPEならミョルニルアーマー作ろうぜ

G3のシステム流用とかで逝けるやろ

 

432:名無しのロボ部

>>427-430

普通に外道で草wwwwwwwwww

 

433:名無しのロボ部

おいおいおまいら、巨乳フェチにロリコンとか頭大丈夫?

 

434:名無しのロボ部

巨乳とロリは一般性癖やろJK

 

435:名無しのロボ部

いや、ロリは手出したら普通に犯罪やろ

 

436:名無しのロボ部

そこはほら、シキガミちゃんという天使がおるやろ

 

437:433

よく考えろおまえら、巨乳もロリもどこにでもある普通の一般性癖やろ

普通の俺らだったらもっと業が深くて救いようがない趣味に走ってるはずや

 

438:名無しのロボ部

どう考えても風評被害で草wwwww

 

439:名無しのロボ部

しかしある意味真理でもある

 

440:名無しのロボ部

ナ、ナンノコトカナー(汗

 

441:名無しのロボ部

え?

男○娘ア○ル出産は一般性癖だよね?

 

442:名無しのロボ部

ふた○りケモ○ョタは一般性癖に入りますか?

 

443:名無しのロボ部

メシアン集団TS天○化信○排泄悪魔合体妖精娼○化プレイ・・・

 

444:名無しのロボ部

業が深すぎるッピ!?

 

445:名無しのロボ部

おいおい話がズレてるぞwwwww

 

446:名無しのロボ部

何か全方位から動画撮影してるけど、これどうやって撮ってるの?

 

447:名無しのロボ部

普通に簡易シキガミ飛ばしてるみたい。映像拡大すればたまにカメラ視点でも他の撮影シキガミが映り込んでるから。

 

448:名無しのロボ部

というか色々飛び回り杉で目が付いていかないんですけど・・・

 

449:名無しのロボ部

よくよく見たらカメラシキガミ以外にも本当に色々いるな。

ダン以外にもネメシスT型にガイバーにアプトムに・・・アマゾンズまでおるんかい!?

 

450:名無しのロボ部

呉製のナイトメアフレームもしれっと混ざってた件

 

451:名無しのロボ部

あの機体はグラスゴーやな。

最初期の機体やから、もう骨董品みたいなもんやで。

 

452:名無しのロボ部

普通に目が付いてかないからスロー再生して見てるけど、連携がエグ過ぎるんだが・・・

 

453:名無しのロボ部

巨大天使の顔面にナイトメア部隊が一斉射撃で陽動、敵が一歩踏み込んだ足元にネメシスT型がギガントを撃ち込んで足場を崩し、その隙にアマゾンシグマ部隊が全員同時ライダーキックで翼を切断! 動きが止まった瞬間にダンの刀でトドメ!

 

454:名無しのロボ部

どうやって連携してるんだ本当に・・・

 

455:パピヨン

つ データリンク

 

456:名無しのロボ部

何か出たwwwww

 

457:名無しのロボ部

アマゾンズって、あれ大丈夫なの?

溶原性細胞とかwwwww。

 

458:名無しのロボ部

パピヨンニキの作品なら多分デモノイドのはずだから、多分大丈夫。

 

459:名無しのロボ部

ええー? ほんとにござるかぁ?

 

460:パピヨン

本当やで

何ならアマゾンズドライバーは量産済みでウチのカタログにも入ってる

興味あるなら日本生類創研から買って

 

461:名無しのロボ部

いやアマゾンズ普通に売ってるのかよwwwww

 

462:名無しのロボ部

公式サイトでカタログ見てきたけど、意外と普通のデモニカで草

 

463:名無しのロボ部

マジかよ・・・まさかガイバーもか?

 

464:名無しのロボ部

あれもデモノイドのはず

 

465:パピヨン

基本的には展開式デモニカ。

変身時にドライバーに仕込んだ小型COMPからデモノイド『強殖生物』を召喚して、アーマーを作っている。

 

466:名無しのロボ部

あーあー納得

そういうアレかー・・・

生体型パワードスーツよな

 

467:パピヨン

外部装備として使うのがアマゾンズドライバー。

体内にシキガミパーツ移植して使うのがユニット・ガイバー。

 

460:名無しのロボ部

なるほど、ガイバーは移植が前提なのね。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 12時30分から3時50分まで、休憩なしで採掘労働。それが終わったらたったの10分、短い休憩時間が挟まれる。

 

「あ~……きっつい!」

 

 数分おきに横目で見ていた仕事場の時計が3時50分を指した事を確認して、三好は深々と溜息を吐くと、ツルハシを放り出して地面にへたり込んだ。そのまま昼に購買で買ったミネラルウォーター『AromaOzone』の残りを一気に飲み干すが、独特の苦味が口の中に残って気持ち悪い。

 吐き気のような不快感をこらえながら三好は空になったペットボトルを投げ捨てるが、ボトルはゴミ箱の縁に跳ね返って床に落ちる。監督役のクローンヤクザに見つかると容赦なく殴られるので、慌てて立ち上がって拾い上げ、あらためてゴミ箱に突っ込んだ。

 

「ったく、何やってんだよ三好」

「うるさいよ。放っておいてくれ」

 

 乱暴に溜息を吐いて、地面に腰を下ろす。がらり、と床に散らばっていた屑石が転がる音がした。その一つを持ち上げてみるが、やはり拾う価値もないと捨てた屑石だ。それを投げ捨てて、三好と安藤は二人揃って溜息を吐いた。

 

「何で俺達、こんな事やってるんだろうな」

「だよな……月架手町で抜けた富竹さんとか北条さんが何とかしてくれていればなあ……」

「魚沼じゃデモなんてやってみてもシェルターは何もしてくれなかったし、政府は一体何をやってるんだ」

「本当にな。ガイア連合もシェルターなんて作るんなら、社会保障とかそういうところをしっかりしてくれないと」

 

 ぐだぐだと何の意味もない他力本願な愚痴を言い合うが、それも仕方なし。自力で真っ当にどうにかしようという気性と根性を持ち合わせていたのなら、二人ともこんな場所に流れてくる事はなく、浦野牧や魚沼で真っ当に職を得て真っ当に暮らしていたはずなのだ。

 二人揃って空中に吐き出した不平不満と溜息は、何の意味もなく薄暗い坑道の灯の中に拡散してゆっくりと消えていく。

 

 だが、居心地は悪い。

 

 当然だ。

 

 休み時間だというのに、作業音が絶えない職場。音の源は“死んでいる作業員”共だ。土気色に染まった虚ろな死人の表情を浮かべたまま、時間も気にせず延々と、黙々と、淡々とツルハシを振るい、鉱石を運んでいる。こちらに視線一つ向けないその背中が、どうにも居心地が悪い。

 他に面倒を引き受けてくれる英雄がいれば恥も外聞もなく寄生することに躊躇いを持たないマーベルヒトモドキであるが、そのくせ多勢による同調圧力には弱く、今も無言のまま作業を続ける死人作業員達が、まるで自分達を非難しているようにすら感じられる。

 そういう人間がいれば足を引っ張って、真面目に働いている人間の方を誹謗中傷しようとするのが彼らの習性、であるのだが、生憎と“死んでいるはずの作業員”達の方が、単純に数が多い。

 

「……どうする?」

「いや、どうするって言ったって、なあ」

「だよねぇ、ハハハ」

 

 そうやって顔を見合わせる彼らのところに、もう一人の男『大槻太郎』がやってくる。

 

「なあ君達、ちょっといいかい?」

「あ、大槻班長!?」

 

 この大槻という男は現在、実質的に作業員たちの顔役となっており、また監督役のクローンヤクザ達からも作業員たちのまとめ役として認知されている男だ。だから作業員達も決して本心からというわけではなくとも、それなりの対応をする。

 もっとも、彼らにできるのはせいぜい軽く敬語を使うくらいのものだが。

 

「いや、ね、休み時間だっていうのは分かっているし悪いんだけど、ほら、向こうで今も働いているやつらがいるよね。あいつらが働いている間、私達がこうして休んでいたら、監督役のヤクザ達は私達の事をどう思うか……いや、ごめんね、責めている訳じゃないんだ。でも、少し心配になってね。ほら、そんな事になったらあのヤクザの連中が何をするか、考えるだけでも怖くないかい?」

「え? あ、確かにそうかも……」

「うん、大槻さんの言う通りかもしれない。あいつらが働いている時に俺達が仕事をしてないところなんて見られたら……」

「でも、どうする……?」

 

 大槻の言葉で、労働者達の間に不安が拡散し伝播していく。誰が言い出したかも分からない、しかし一定の信憑性がある憶測として、不安は広まっていく。ガラスのコップの中に垂らした一滴の泥のように、ドス黒い不安が場の空気をゆっくりと、しかし確実に悪化させていく。

 

「よし、試しに言ってみればいいんじゃないか?」

「だ、誰が行くんだ……?」

「それは……」

「言い出したやつが行けよ、ほら」

「えぇ……」

 

 自分は行きたくない。そんな自己主張を込めた視線を交わし合い、貧乏くじを押し付け合って、そうやって最終的に役割は転がるべき場所に転がって、そして。嫌々ながら、役割を押し付けられた三好は、他の仲間に押し出されるように前に出た。

 死人の顔色を浮かべ、しかし動きだけは健康体そのもののまま、鉱石を詰めたバケットを台車に乗せ、押していく作業員の一人に目を付け、声を掛けるが。

 

「ねえ、ちょっと」

「…………」

 

 名前も知らない作業員は三好の声に答えず、振り返るどころか視線一つ動かさず、淡々と作業を続けている。

 

「ねえ! あのさ!」

「……」

 

 作業員は答えない。ただ坑道の壁に向かってツルハシを振るい、鉱石を積み、バケットを運んでトロッコを押し、黙々と仕事を続けている。さすがに苛立った三好は、そんな作業員の肩に向かって手を伸ばす。

 

 その身体に触れた瞬間、生者のそれとは明確に異なる温度のない感触に不気味な違和感を感じるも、それより一拍早く振り向いた作業員の白く濁った瞳孔と視線を合わせ、思わず怯んだ三好は反射的に後ずさった。その後を追い掛けるように、死人の身体に触れた手の違和感が明確な不快感となって神経を上ってくる。

 ふと、気が付いた。無言だと思っていた死人の唇が小さく動き続けている。感情もなく、ただひたすら「納期が」「ノルマが」と、耳に届くぎりぎりの小さな声で呟き続けているようだ。聞いているだけで全身から気力が失せていくような奇妙な不快感に襲われ、三好はそんな呟きから意識を逸らした。

 

「…………」

「っ……! い、いや何でもないよ! うん何でも!」

「…………────」

 

 何もせずに引き下がった三好を特に邪魔にならないと判断したのか、作業員はそのままぐるりと元の姿勢に戻ると、変わらず黙々と作業を再開する。死人に触れてしまった手を抑え、跳ね上がった心拍数を抑えるように、三好は大きく息を吸って、吐く。

 

 こうなったら、ヤケだ。

 

 三好は一歩を踏み出すと、作業を続ける死人の肩へと手を掛け、そして。

 

「ね、ねえ今時間だからさ! ほら、仕事する時間じゃないの! 分かってる? 分かってるよね?」

 

 振り向いた死人に向かって言い聞かせるように大きな声を出す三好の背後に、大きな影が差した。

 

「────ダッテメッコラー! 何やってんだテメスッゾオラー!」

「ぐほぁっ!?」

 

 背後に現れた監督役のクローンヤクザが、三好の顔面へと拳を振り下ろす。鼻血を吹いた顔を押さえた三好の腹に、クローンヤクザは岩石のように固い拳を叩きつけた。くの字に曲がった胴体を蹴って、転んだところで再び顔面に拳を振り下ろし、わずかな抵抗の気配もないと確認すると、クローンヤクザは三好に最低限の治療を施して、その場を放置してそのまま去っていく。

 

 どうやら、死人は殴られないようだ。

 

「うう、恐ろしいなあ……休み時間にも働かなけりゃ殴られてしまうなんて酷過ぎる! ここはなんてひどいところなんだ~!!」

 

 震え声で頭を抱えた大槻の叫びが、奇妙なほど耳に残る。そうやって、彼らは結局何もせず時間を消費して、無為に休み時間の終わりを迎えるのだった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 午後4時。

 

 ちょうど水平線の西端、空と海の境界線上に夕暮れの紅色が滲む頃合い。

 

 佐渡島北部、外海府海岸沖────日本海。その上空。

 

 薄白い飛行機雲を曳きながら飛翔する四機の機影があった。

 

 その内の三機はF-2────航空自衛隊の主力戦闘機として数えられる内の一種。鮮やかな青の濃淡で塗装された色合いが特徴的な鋭角の機体だ。

 

 全天候運用能力。

 高度な電子戦能力。

 対艦ミサイルを4発搭載。

 短距離ミサイルを2~4発搭載。

 中距離ミサイルを2~4発搭載。

 対艦攻撃における約830km以上の戦闘行動半径。

 

 それら航空自衛隊の要求を元に、アメリカの戦闘機F-16をベースに、各部大型化を施し様々な独自技術を盛り込んで製造されたのがこの機体である。さらに現在はガイア連合の技術によりシキガミコアを搭載された事で、物理法則が正常に働かない終末期の空をも自在に飛び回る事を可能としていた。

 

 

 それと対峙するように空を舞うもう一機。

 

 

 戦闘機には決して不可能な鋭角の機動を描き、音速を越えて自在に空を舞う異形の機体。

 

 少なくとも既存の科学技術で作られた飛行機械とは一線を画し、しかし鳥に代表される飛行生物の一種にも見えない。頭部があり、二本ずつの手足がある人型の機体だ。全体的なバランスとして頭部が大きく、それが後方に張り出した鳥の冠羽に似た突起によってさらに強調されている。

 デザインとしては一見機械的に見えて、それでいて機体の装甲表面は金属や塗装というよりは、ある種の甲虫が身に纏う甲皮によく似た生物的な光沢を持つ。

 

 ────デモノイド・グランチャー。

 

 急降下から跳ね上がるような軌道を描いて急上昇に転じ、ミサイルロックオンを回避。展開されるフレアチャフを貫いて出現するグランチャーがその手に握る銃剣型の武器『ソードエクステンション』を向け、射出される【ギガ】の光弾にて撃墜判定を一つ。限界まで低出力に調整された光弾は命中しても軽い衝撃が伝わる程度だが、実戦で使用する威力であれば撃墜は必至。

 さらに飛来する他機体の機銃によるロックオンは全方位に展開されるチャクラシールドによってダメージ判定には繋がらず、戦闘機には決して不可能な戦闘機動、わずかに機体を横滑りさせるだけで敵機を回避しつつ背後を取り、オプションとして装着されたミサイルベイからのロックオンで再度撃墜判定。

 同時、最後に残った敵機からのロックオンによるミサイルアラートは逆に【トラフーリ】で背後に回り、さらにソードエクステンションから展開する光刃をコクピットに突き付けて終了。

 

 最低限とはいえ、ガイア連合の技術で強化した三機を相手に危なげなく勝利したグランチャーは、ソードエクステンションを背中のラックに戻すと、そのまま空中で静止した。フロートパネル系の系譜に属する重力制御に加え、【アギ】【ザン】系統のスキルを再現した魔導噴流推進器は、既存の機械工学技術を上回る出力を持ちながらも、操縦者の神経信号パターンと同期する事によってきわめて精密な出力操作ができる。

 重力制御と魔導噴流推進器の併用による飛行機能や、【アギ】【ギガ】系統のスキルカードをセットした銃装剣はそれぞれガイア連合ロボ部の技術を転用したものであり、半終末期に製造された空戦機体“トイボックス”の開発で確立された技術だ。

 大概超科学の部類だが、しかし、どれもガイア連合にとっては“枯れた技術”。

 

「ふぅ……」

 

 そのコクピットの中で元航空自衛隊所属、沙霧尚哉大尉は小さく溜息を吐くと、キャノピー越しに黒みがかった日本海の海面を見下ろした。

 

「呆れた話だ……俺程度の若造が基地司令とは」

 

 佐渡分屯基地に拠点を置き日本の空を守っていた第46警戒隊は、“終末”当日に壊滅した。悪魔の襲撃によって基地幹部の多くを含む隊員が死傷し、基地設備や機体を維持する能力すら喪失した。鍛えてきた技術、最新であるはずの装備、全て無力だった。

 そしてその後に駆け付けたガイア連合のシキガミ部隊によって救助された数少ない生き残り達は、ガイア連合佐渡島支部の一部署『佐渡島防空局』として再編成された。施設や装備を維持する要員を含み、部隊運用に必要だが足りない要員は全てシキガミによって賄われている。

 

「張り子の虎ですら生温い……戦力から人員まで、何もかもガイア連合頼みとはな……」

 

 沙霧は展開型デモニカスーツ『アマゾンオメガ』を装着した掌を操縦桿から放し、握り締めるが、手を放してなお、操縦に支障はない。背後のシートから伸びた有機コードによって彼のデモニカは有線で機体と接続されており、その限りにおいて既にこの機体は彼の肉体の延長のようなものだ。

 肉体を動かす感覚で意識すれば機体が動き、飛び、戦う。そんな次元においては、操縦の技量という意味すらかつてのそれとは完全に別物だ。

 

「戦闘機としての性能……速力やレーダー性能、火力から何もかもがかつての機体を上回り、旋回性能はヘリと同等、それどころか垂直離着陸やホバリングすら可能……か。本当に悪い冗談だ」

 

 与えられた圧倒的な力を実感する程に、己の力の無さを更に思い知る事になる。そんな葛藤を押し殺しながら日々を戦う。そんな沙霧のコクピットに、ノイズ混じりの通信が響く。先程の演習で交戦していたパイロット達、そして沙霧にとっての部下でもある。

 

『圧倒的ですね、流石です隊長!』

『お見事です隊長!』

『おいオマエら、もう隊長じゃなくて司令だって言ってるだろ!』

 

 軽いノイズの混じった通信越しであっても変わらず騒がしい部下達に思わず毒気が抜ける。ついでに、身体に入っていた余分な力も、だ。

 こんな醜態を部下に見せるわけには行かないな、と、思考の堂々巡りから解放された沙霧はコクピットの中で背筋に力を入れた。

 

 そんな折だ、沙霧の下に新たな通信が入ったのは。

 

『沙霧大尉、並びに航空隊の皆さん。外部からの緊急連絡です。日本海沖にて、メシア教会穏健派船籍『St.ベネディクト』より入電、内容は『我、襲撃を受ける。至急救援を求む』────以上です。航空隊は速やかに現地に向かい状況を確認、後、対応をお願いします』

「了解した。沙霧大尉以下四名、すぐに現場に向かう!」

 

 妙見山レーダーサイトを統括する“七陰”の一人『ベータ』からの入電だ。それを聞いて、沙霧は表情を引き締める。任務となれば、もう余計な葛藤は必要ない。旗が違ったとしても守るべき国は変わらず、護国の刃として戦い続けるだけだ。

 

 配下を引き連れた沙霧は、そのまま全速力で現地へと飛翔していく。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 午後3時。

 

 ガイア連合佐渡島支部の資材搬入口には、大型コンテナに封入された貨物が運搬されてきていた。専用簡易シキガミ数体がかりによる【トラエスト】による転移で搬入口前に直接出現させられた数基の大型コンテナを、作業用のナイトメアフレームがそれぞれ二体がかりで持ち上げてラボの奥深くへと運び込んでいく。

 

「……ようやく到着」

 

 囁くように呟いたのは、ラボを管理している“七陰”の一人『イータ』だった。金刀比羅神社の金屋子神の工房から搬入されてきた貨物は、アルファに任されている大型ロボット兵器『ダン・オブ・サーズデイ』に続く二号機の製造に欠かせない素材だ。

 鍛冶の神としての権能を持つ金屋子神が骨格の形に鍛造する事で“骨”としての概念を得たアダマスを専用の炉で一旦鋳溶かして、それを改めて本格的に機体の骨格として鍛造するわけだが。

 

「……楽しみ」

「そうかそうか、それはそうだ」

 

 一見普段と変わらない無表情に見えるが、わずかに口元が吊り上がっており、心なしか口調も弾んでいるように聞こえる。

 巨大ロボの製造など、技術者のロマンだからな。そういうのが分かるようになっただけ、イータもシキガミとして情緒を発達させてきたという事だろう。

 

 イータと二人で貨物の到着を待っていた俺は、この終末下でも使えるDDSで金屋子神に受け取りの連絡を簡略化した感謝の一文と共に送信する。正式な礼は後日直接伝えに行くとして、それはそれとして、の話だ。

 

「ところでマスター、グランチャーのテストに関する報告は、もう受け取った?」

「ああ。沙霧大尉もばっちりやってくれているみたいだな。悪くない」

 

 ダンには耐久力を重視して骨格素材にアダマスを採用した一方、飛行を前提にしたグランチャーの骨格は太平洋戦争中にゼロ戦の機体素材として使用されていたアルミ合金“超々ジュラルミン”とヒヒイロカネの合金『ヒヒイロカネ・ジュラルミン合金』だ。

 ロボ部で機体装甲などに使用されるヒヒイロカネ・マルエージング合金と同様に【物理耐性】を持ち、強度は一段階落ちるものの相当なものであり、さらに軽量性では上回るため、そのため航空機などの素材に向く。

 

 ……ボーキサイトは日本では採掘されない?

 

 佐渡島金山異界では採掘できますが、何か?

 

 といっても日本に存在しない鉱物が自然にその辺から生えてくるはずもなく、安定生産ができるようになるまでは、鉱山神である金屋子神の権能を併せて色々と、結構難易度高めの異界制御に挑戦する必要もあった。まあその辺、終末以前に魚沼の田舎ニキがオーストラリアで戦った龍王ユルングが落としたウロコとかその辺の素材とかも合わせて使っていたりもする。

 そしてそれ以前に多分、本格的にアルミの量産がしたいなら、それこそ普通にオーストラリアから輸入した方が早いという、もうね……今の時代、ターミナルなんかも普通にあるしね。

 

「むしろグランチャーの機体は軽過ぎる、って操縦者がコメントしてる」

「それはそれで悪くない。コスト削減を検討できるかもしれないし、もしくは更なる重装化もプランに突っ込めるかもな」

 

 対して、ソードエクステンションの性能には一定の評価がされていた。元々はトイボックスに装備されていた銃装剣をベースに、変形機構を排して強度と容量を稼ぎ、【アギ】【ギガ】に加えて【剛切断】【九十九針】スキルを組み込んで物理戦闘にも対応可能となった装備だ。

 ただ搭載スキルの数が多過ぎる面もあるので、量産化に伴ってコストが高騰するなら四つのスキルのうちのどれか使わないものを削除してコストダウンを図る必要もあるだろう。

 

 自衛隊パイロットが乗る戦闘機の代替としてのニッチを想定して搭載したオプションのミサイルコンテナは呉支部の「フォルマ弾倉」技術をリバースエンジニアリングした代物だ。

 装填された弾丸の一発一発を独立したものとして扱わず『弾倉+弾丸』という一つの概念情報体として記録する事で、血を吸った妖刀が刃毀れを治すのと同じ原理で生体マグネタイトを消費し、万全な状態へと回復させる事で弾薬の生成を行うため、生体マグネタイトが続く限り弾切れがない。

 重要なのは情報としての強度であるため弾倉のサイズの大小は関係ないが、弾倉が小さい方がコストが掛かるため、今の佐渡島支部が持つ技術で人間用の携行兵器への応用は難しいのだが、ロボの兵装に回す分には問題ない。

 これに関して、弾薬の一発一発に対して大切に数をカウントする習性のある自衛隊出身のパイロット達からは困惑の一言ばかりが寄せられていた。再生成の為のコストや所要時間こそあるとはいえ、弾数無限のサイコガンなど意味不明にも程があるのだろう。

 

「そういえば……機体関連といえば、終末期の治安維持用に設計していたグラスゴーの現地改修型、あれについて色んな所から問い合わせが来ているな。とりあえず仕様書なんかをまとめておいてくれるか?」

「了解。前にアルファ様のところに上げたものの焼き直しでいい?」

「ああ。頼んだよ」

 

 市役所前で発生した暴動と、その際に市民がメシア製の悪魔召喚プログラムを起動した事で起こったテロ紛いの“事故”……あれと同じような事件は、どんなシェルターでも起きる危険性がある。その事実をあらためて把握して、あちらこちらのシェルターを纏めている管理側の面子に危機感が募っているようだ。

 

「デモや暴動の可能性はどんなシェルターにも存在する。他国に比べて段違いに物資が豊かな上に、一般人の毛並みが良く、悪く言えば平和ボケしている日本国内でも、だ。そうやって暴れる大半はレベル0以下の非覚醒者や、それに毛が生えた低レベル覚醒者だけど、でもその上で、手近な場所に凶器があれば脅威度は跳ね上がるんだよな」

 

 一般人でも扱える対覚醒者用兵器────否、爆弾。メシア教会過激派や邪神の教徒が作成した粗製悪魔召喚プログラムは、そういう存在に成り得る。

 

 インターネットを通じて世界のどこからでもダウンロードできたし、コピーも簡単。だから誰がどこにどんな形で所持していても不思議じゃない。

 そして誰にでも使える。ガイア連合製の正規品は使用者のレベル以下の悪魔しか召喚出来ないようにリミッターが掛かっているが、メシア製の罠プログラムは使用者を殺して使い潰す事が前提だから制御など考える必要はなく、そんな制限はない。

 周囲の人間から無差別に生体マグネタイトを収奪する関係上、コストを事前に用意する必要すらなく、一旦起動すれば使用者の力量や限界など関係なく、使用者の力量に見合わない強力な悪魔を召喚する事ができる。

 

 そうして召喚された強力な悪魔────概ねは天使、は、とにかく周囲に害しか引き起こさず、使用者の生還やそれ以降の魂の尊厳を度外視して自爆前提で被害を出すために使う自爆テロという用途の為なら普通に利用できる。

 それどころか自爆自殺など何一つ頭にない善良な一般市民がオカルトに関する無理解から、そういった粗製品をガイア連合製の正規品と同等に────しかも未覚醒者や低レベル覚醒者でも高レベルのデビルサマナーと同等に強力な悪魔を操る事ができる夢のアイテムだと誤解して使用するような、実に馬鹿らしい事故も起こり得る。

 

 市役所前の暴動で起きた“事故”など、まさにその通りの事態だった。

 

「どれだけシェルターの防備をガチガチに固めていても、間抜けか狂人のどちらかと粗製プログラムが揃っていれば素で防備を抜けて高位悪魔が召喚されかねない。あらためて、そういう危機感を煽る結果になったわけだ」

「だからハイデッカーの大量発注が急に入った?」

「そういう事だな」

 

 ハイデッカー────クローンヤクザのバリエーションである。

 

 戦闘用のスキルやステータス的にはクローンヤクザと大差ないが、外見や言動を警官風に弄ってある他、現役警察官から回収した【警邏】【犯罪捜査】【捕縛術】【追跡】【尋問】【簡易鑑識】といった各種技能を内包した警官用汎用スキル詰め合わせセットを搭載してあるため、治安維持にも高いポテンシャルを発揮してくれる。

 オプションとして【光合成】スキルを搭載すれば維持に必要な生体マグネタイトも削減する事ができ、合理的。値段はクローンヤクザより多少値が張るが、それでも値段分の価値はあるはずだ。

 

 日本生類創研が生産するデモノイドの中でも、終末直後という今の時代において最も売れている商品だ。

 

「デモノイドが売れ、人工筋肉が売れ、金属資源が売れ、そして収容所としてのニーズでも売れ……うん、うちも稼ぎ時だな。あちらこちらで売れてくれて、実にいい感じだ」

 

 アマゾンズドライバーやユニット・ガイバーはG3あたりと競合するからそこまで売れないだろうが、それ以外の商品は比較的いい感じに売れてくれている。おそらく、今が佐渡島支部の黄金期といっても過言ではないだろう。

 だから今の内に安定的かつ継続的な収入源を確保してしまいたいところだ。

 

 妙見山……レーダーサイトの機能を統括する“七陰”の一人であるベータから入電が来たのは、そんな折だった。

 

『光爵様……今、お時間よろしいでしょうか? 日本海沖で演習中だった佐渡防空局のF-2三機、及びグランチャー一機が、海上からの救難信号を受け航空支援に出動しました。映像出せますが、どうしましょう?』

「なるほど。いいな、グランチャーの実戦投入は俺も気にしていたところだ。出してくれ」

「私も見たい。見せて」

 

 了解の意を伝えると、俺が持つタブレット端末に映像が映し出される。鮮やかな海と空の色の奥に一点異なり、炎を上げる異物の色が見えた。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 日本海上空を駆ける四機。先行試作型グランチャーが一、終末対応型F-2が三。

 

 宵闇の色が混じり始めた大気の中、白く飛行機雲を曳きながら音速超過で飛び駆ける鋼の機体。音速を越え、大気を切り裂き、雲を吹き飛ばしながら飛翔する先は日本海の沖合だ。

 

『接敵まで残60秒切りました!』

『先行偵察ドローン射出! 有効範囲に入り次第、遠隔【アナライズ】を開始します!』

『メシア教会穏健派所属「St.ベネディクト号」の反応を確認。及びその周囲に大型悪魔の反応、計十九体……全て敵性です』

 

 レーダーに表示されたその結果に、多いな、と、コクピットの沙霧は思わず呟きを漏らした。

 

『こちら管制。ドローン、アナライズ可能域に到達まで残り5秒────3、2、1、【アナライズ】開始されました』

 

 頭部を覆うヘルメット一体型のHUDを通して、【アナライズ】結果が表示される。最低限、対象の名前とレベル数値、そして危険な耐性に絞って高速解析されたデータはところどころ歯抜けが残っているが、それでも戦うには十分だ。

 

『解析出ました! 敵悪魔『龍王キッコウセン』、Lv21────なるほど、これはメシア籍の船では対処できませんね』

 

 半終末から終末期にかけて日本海に出現するようになった日本海の御当地悪魔────最も、彼らはこの海を“東海”と呼ばなければ怒り狂うのだが。

 

 伝承通り砲撃能力と高い物理防御を誇る水上の鉄壁砲台であり、半島の守護を名目に日本船籍の船ばかりを襲撃してくる海の厄介者だ。もっともガイア連合とメシア教会以外に船を出せる勢力が存在していないこの御時世、ガイア籍の船は自衛ができるため、被害に遭うのは東アジア方面への支援物資を積んだメシア教会穏健派の船ばかりであり、結果として彼らの活動そのものが半島の首を絞める結果となっているのは皮肉以外の何物でもない。

 

『またアイツらかよ……いくら日本海に湧く悪魔だと言っても、いい加減同じ事して飽きないものかね』

『そういう悪魔なんだから仕方ないだろ……まあ製造元の国も毎度似たような事繰り返してたけどな』

『そりゃそうだ、似たような対応すれば勝手に頭下げてタダで小遣いくれる聖人みたいな国が隣にいたからな!』

 

 未だ視認可能距離に入らない敵に対して通信越しに皮肉を言い合う僚機の仲間達は笑い合う。その内容には沙霧尚哉当人も甚だ同感ではあったものの。

 

「お前達、そろそろ接敵だ。気を引き締めろ!」

 

 緊張感の足りない僚機の雰囲気を引き締める。軽口が途絶えれば、通信に混じる微かなノイズの中に残るのは、鋭く無骨な戦士の闘気だ。

 

「お前達も分かっている通り、このグランチャーは従来の戦闘機とは性能も運用法もまるで異なる! 戦闘機と同様の戦闘行動を取るのは難しいため、お前達はA-2を臨時の小隊長として三機でフォーメーションを取り行動せよ! 俺はグランチャーで独自に行動し支援を行う!」

『『『了解!!!』』』

 

 通信越しに響く了解の声に頷くと、沙霧はグランチャーのスロットルを引き絞る。何もかもが異なる機体でも、戦闘機に可能な戦闘行動は問題なく可能であり、航空自衛隊が培ってきた空戦のセオリーは決して無駄にはならない。

 まずは初撃決殺、レーダーで捕捉した後、敵の攻撃が届かない距離からミサイルで仕留める基本的なドクトリン。悪魔に対してはまず対象を認識しなければ攻撃が通らないという特殊性こそあるものの、その程度は最初から分かっていればどうとでもなる。

 

『先行偵察ドローンよりカメラ映像入ります!』

「よし、ASM-2、発射!」

 

 デモニカの視界の隅に、敵を捉えたドローンのカメラ映像が映し出される。竜頭を象った木造船の背中を、ある種の亀にも似た特徴的な金属のドームで覆った、巨大な海棲爬虫類を思わせる怪物じみた船────日本人であれば歴史の授業で誰もが語り聞かされる半島の軍船「亀甲船」。

 キッコウセンは頑強だが、そのステータスの大半を物理防御に割いているためか鈍重であり、さらに最大の問題として、攻撃手段である砲門は舷側に開いており、そこから砲を前後左右にも、そして無論上下にも動かす事ができず、空を馳せる戦闘機に対しては射角を稼ぐ事ができず、そもそも反撃が飛んでこない。

 戦闘機からすればサンドバッグもいいところ、雑魚を通り越して単なるボーナスステージだ。反面その防御力は頑強で、通常のミサイルであれば直撃でも鋼の甲羅を凹ませるのがせいぜい、なのだが。

 

「ASM-2全弾、直撃を確認! 対象、三に減少!」

 

 沙霧の号令と共に一斉発射された空対艦ミサイルがその棘だらけの甲羅に直撃し、幾重にも咲き誇る爆炎は氷雪の白。射出されたのは通称“魚沼弾”────魚沼市の豪雪という概念を利用して量産された冷凍弾。ミサイルに乗せられた氷結属性の魔法弾が海面を巻き込んで炸裂し、海上に無数の流氷や氷塊を作り上げながらキッコウセンを乱打する。

 金城鉄壁の防御力を誇るはずのキッコウセンの甲羅は卵の殻のように脆く砕けて崩れ落ち、爆風に捲かれてその残骸は海面へと没していく。

 

『ヒュー! さっすが魚沼弾、痛快だねぇ!』

『あの頑丈なクソ亀が一発か! 時代は変わったねぇ!』

「調子に乗るな、弾と製造元のお陰だ。……舞い上がるのも分かるが、まだ倒し切っていない。油断するな」

 

 最初の頃は通常型のミサイルを数発撃ち込んでようやく倒せる、そういう敵だった。今ではこの通り、一撃で倒せる敵だ。

 

「残り敵数、三か……なら、残りは俺が仕留める!」

『任せましたよ隊長……じゃない、司令!』

 

 沙霧の搭乗するグランチャーは、従来の戦闘機には絶対に不可能なヘアピンじみた異様な軌道を描いて反転、超音速のスピードを維持したまま空を駆ける。大気を引き裂くような獰猛な飛翔はほんの数秒で標的であるキッコウセンを捕捉し、構えたソードエクステンションの剣先から放たれるのは火炎属性の【アギ】だ。

 二、三発と連射で当ててやれば標的のキッコウセンは意外なほどにあっさりと撃沈する。数秒と保たず船体が火炎に包まれ、鋼の甲羅も溶鉱炉で炙られたかのように融け落ちていく。木造船は火災に弱く、金属は五行思想において炎に剋される……つまるところ火炎弱点だ。

 

「……弱点を突いた時の効果がこれほどとはな。ふむ、上に火炎属性弾の実装を提案しておくか」

 

 味方は沈み、自在に空を舞うグランチャーに対して砲撃は届かず、そして弱点である火炎属性が降ってくる。不利を悟ったキッコウセンは、意外なほどに素直に船体の向きを変え、海の向こうへと消えていこうとする。だがこうも有利な状況下で、そんな逃走を許す程に甘くはなし。

 連続の【アギ】を当てて一隻、二隻、と容易く撃沈し、戦闘は終了する。

 

「しかし、今回の敵は妙に多かったな。連中が群れるのは普段通りとはいえ……ふむ、上に報告しておくとするか」

 

 呟きながら、沙霧の意識と連動したグランチャーは頭上を背後へと振り仰ぐ。その視線の先には、今まさに沈んでいこうとする水平線上の太陽が見える。終末だというのに、どうやらこの景色だけは変わらないらしい。

 

「……それは、悪くないな」

 

 呟いて、沙霧はスラスター出力を引き上げて佐渡島へと帰還するべくグランチャーの機首を巡らせた。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 午後4時を過ぎたら6時50分まで、鉱山労働者達はまた労働だ。何かあれば容赦なく怒鳴りつけ拳を振るうクローンヤクザ達に監督されながら、労働者達は必死にツルハシやスコップを振るい鉱石を掘り返していた。その中に“屍鬼”が混じっていようが一切気にしない……する余裕も既にない。

 

 人工の灯に照らされて作業が続く坑道を見下ろす位置に張られた金属製の足場に腰掛けて、金毘羅権現=金屋子神は作業の様子を眺めていた。その神格を宿したシキガミボディは幼い少女の外見ながら、昼間に燦達を出迎えた時の表情とは裏腹に、その視線は驚くほどに無機質で感情の籠らない冷酷なものだ。

 

「鉱山の再開……鍛冶を司る山の神としては、実に喜ばしい事じゃ。本当に感謝しておるよ」

「ええ、光栄です。我が主、光爵様にもお伝えしておきます」

「うむ、よろしく頼むぞイプシロン殿」

 

 少女の姿をした金屋子神と並んで鉱山の作業現場を見下ろすのも、同じく少女姿のシキガミだった。

 銀色のツインテールを左右に垂らした彼女が、祭祀や神々との交渉を担当する“七陰”の一人『イプシロン』だが、眼下の労働者達を見下ろすその視線は金屋子神以上に冷たいものだ。

 

「金毘羅権現様、金山異界の管理は順調でしょうか? 問題や違和感があったら報告して欲しいのですが」

「む、それは……ワシ、何かやらかしてしまったかの?」

「いえ、そちらは問題なく。ただ、昼間の市役所での暴動で何か問題が起きた可能性があれば報告が欲しい、というだけです」

 

 直接の上下関係があるというわけではないが、イプシロンはガイア連合佐渡島支部のトップである蝶野光爵の直属であるシキガミだ、金屋子神にとって睨まれてもいい事は何一つない。

 そんな具合に一瞬心配そうな表情を浮かべた金屋子神だが、イプシロンの言葉に安堵の溜息を吐く。

 

「ああ、少なくともワシが管轄する表の方の管理は順調だぞ。今のワシは本分たる金毘羅権現並み……とまではいかんが、その一歩手前にまで強化した分霊だからな、力は十分に有り余っている。その上、旦那様のペルソナの中の一つがこの異界を死者の世界にしておるから、統率もしやすい」

 

 労働者達を管理するためだ。

 

 ゾンビで有名なブードゥー教の死神にして魔術神である『死神・ゲーデ』は死を司る神々の中でも少しばかり特殊な、“生と死の境界を司る”という性質を持ち、その権能で佐渡島金山を異界化させる事により、あえて過労死するような環境に放り込んだ労働者を“死なせず”、過労死直前の状態で生きたままに保つ。

 つまるところはゾンビ化の術式だ。元々ブードゥー教におけるゾンビは死体の使役術であると同時に、薬物や社会的制裁により生者を使役する術でもあり、異界に組み込んだこれは生者用の方のゾンビ化。

 

 で、そんな理由で今の佐渡金山は異界化しているからして、当然のように悪魔が湧く。大半が未覚醒者である労働者共をそんな環境で働かせて継続的にプラスの収益を得たいなら、それこそ乳幼児にするように付きっ切りで護衛するか、さもなければ出没する悪魔が労働者達に危害を加えないよう、何かしら悪質な裏技を捻り出す必要がある。

 

 そんな裏技に必要なのが『屍鬼ワーカホリック』という悪魔だった。

 

 「ワーカホリック」という言葉は“仕事中毒”と直訳される。仕事に熱意を注ぎ込み過ぎた果てに自分や家族さえ犠牲にするに至る、ある種の精神的な病を表す言葉。行きつく先は当然過労死。そして、その名を冠しているのが屍鬼ワーカホリックという悪魔である。

 

 女神転生という世界観で初めてその名が登場したのは『新・女神転生Ⅱ』だ。メシア教会が全てを支配する世界における楽園ミレニアム、そこで消費されるもの全てを生産しているファクトリーという施設で死んだ労働者の成れの果てが屍鬼ワーカホリック。

 ……どう考えても過労死ですありがとうございます。

 

 だからこうして蝶野光爵が保有するペルソナ『死神・ゲーデ』の権能で、佐渡島金山異界には屍鬼ワーカホリックしか湧かないように制限が敷かれている。

 

 ワーカホリックが異界に湧いた瞬間に労使契約が結ばれてワーカホリックは金屋子神の支配下に入り、ひたすら周りの人間に混じって何も考えずに労働を始めるのだ。契約によって支配されているから、というのもあるが、それ以前にワーカホリックという悪魔の性質上、そこに会社と仕事が用意されていれば本能的に、自身の存在を維持すら放棄して、給料も休暇も必要とせず、ただひたすら仕事をする事を優先してしまう────生まれた時から霊基情報に “社畜”の概念が刻まれた、生まれながらのブラック社員とかいう哀れな存在なのだ。

 

 そんなワーカホリックに混ざってワーカホリックのように、ワーカホリックと同じ労働をこなす事で、労働者達はその肉体も霊質もワーカホリックに近しい存在へと変質していく。ある転生者が邪神ロキのマグネタイトを大量に取り込んだ事で前世をロキに乗っ取られたように、肉体的にも社会的にも屍鬼ワーカホリックと触れ合う事で、人間というカテゴリから外れる事はなくとも、体質・霊質共に限りなくワーカホリックに近しい存在になっていくのだ。

 

「では、異常なしという事で?」

「うむ、ワシの担当する側……“表”にはな。まあそもそも、ワシの仕事は鉱山神として山の恵みを生み出す事と、そして屍鬼共の制御じゃ。異常が出れば即座に事故に繋がる故、簡単に一目でそれと分かる分野じゃよ、特に後者はな。むしろ異常が出ているとすれば────」

 

 “裏”の方。

 

 そんな風に金屋子神は口に出す。

 

「裏────つまり金山異界の裏側を管理する夜魔オネイロイ達の……」

「うむ。あやつらが管轄する佐渡金山異界の裏面────『メメントス・ハレル』じゃな」

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 市役所前。

 

 佐渡の妖怪団三郎狸もビックリの神話大戦の最前線と化したこの周辺も、戦い終わって既に事後処理の段階だ。被災地には複数の消防車や救急車が集まって救助活動を行っており、その中には警察から治安出動してきたハイデッカーや、重機として消火活動や瓦礫の片付けを行うグラスゴーなどの姿も混じっている。

 判で押したように同じ顔をしたハイデッカーが数体ずつ組になって動き回る様はどこかシュールレアリスム絵画よろしく現実感がない。

 

「上手い具合に証拠を隠滅された、かも……?」

 

 そんな中を歩きながら、佐渡島支部を仕切る七体のシキガミ“七陰”の一人『ゼータ』はそんな事を呟いて、頭の上に伸びる三角形の獣耳を震わせた。

 

 一般的なビジネススーツを着込んだゼータの姿は、しかし美貌に加えて獣耳と尻尾を出している事もあって常人とは明確に区別できる。不安定な瓦礫の上を歩きながら周囲を見回すその立ち姿は驚くほどに危なげがなく、猫種の魔獣を霊基のルーツとする驚異的なバランス感覚を伺わせていた。

 

「何か証拠物件でもないかとは思ったけど、中々どうして上手くいかないものだよね。まあ、そんなものがあればハイデッカーがとっくに見つけているか」

 

 高レベル覚醒者や高位悪魔が持つ直感は単なる勘の良さという領域を越え、理由も理屈もなく正答を導き出すその力は、ある種未来視や過去視といった超常的な感覚にすら通じるものだ。それは高レベルのシキガミであるゼータ自身も例外ではなく、だからこそゼータがこうして現場に出張ってきたわけだが、それは言い換えるなら確証など何一つない、そういうものに頼らざるを得ないほどに事件を追うための手掛かりが不足しているという事でもある。

 

「……参ったね、もう」

 

 思わず溜息を吐いた、そんな折。

 

「あら? 七陰の……六人目だっけ。事件の捜査?」

 

 そう声を掛けてきた少女が一人。

 

 ゼータに少しだけ似ているが、見た目の年齢は一回り幼いエルフ型のシキガミボディ、ボディの銘は『妖精弓手』────神としての名は『五十猛神』。佐渡島で最上の格を持つ“一宮”の称号を冠した渡津神社の祭神であり、金毘羅権現と同様に佐渡島シェルターの結界基点を保持する神格の一柱。

 別名を射楯神とも呼ばれ、父である素戔嗚尊と共に地上に降ると共に、地上に樹木の種子を持ち込み、日本全土で植林を行った事から植林の神として崇められている。

 その来歴通り林業・建築・造船といった“木の文化”を司る神格であり、造船の他、航海術に秀で車の普及に当たった事から、海上・陸上の交通安全の神としても信仰される他、年一回の例祭では流鏑馬が奉納されるらしく、弓の神としての側面もあるのだろう。

 

 その隣に立っている二人も、見覚えのある相手だ。

 

 片方はローマ神話系の月女神である『地母神ダイアナ』。ガイア連合佐渡島支部ができる以前、佐渡島にて【人類ママ活計画】と題して何やら大変な真似をやらかし、魚沼の田舎ニキと交戦して敗北。現在は心を入れ替えて森林地帯に湧く魔獣を仕留めては佐渡島の防衛に貢献しているところだ。またガイア孤児院の佐渡支部を運営してもいる。

 彼女が仕留めた魔獣は大半がガイア連合調理部に売り渡され食材として消費される他、一部の素材はデモノイドの原材料としても使用されている。まあ、その辺は同じ七陰でも統括役のアルファや、経済担当のガンマや技術担当のイータといった面々の担当なので、治安と諜報を担当とするゼータにはあまり関係のない話だが。

 

 同じくもう片方は、佐渡島において最も有名な妖怪である『団三郎狸』。淡路の芝右衛門狸、香川の太三郎狸と並ぶ日本三名狸の一角として数えられ、佐渡の狸の総大将“二ツ岩大明神”として神社に祀られている神格持ちの大妖だ。

 魔獣系の悪魔といえば人間を襲うものが大半であり、そうでなくとも人間とは一線を引いて距離を取る者が多い中、困窮した人間に対してはわざわざ自分で働いて稼いだ金を貸し出したり、病気に罹った時には人間の医者に治療を受けたり、自身の穴倉を蜃気楼で豪邸に見せ掛けて人を招いたり、と人間と関わるのをとにかく好む性格だ。人間と知恵比べをして負けた経験から人間を化かす事を辞めた逸話もあり、人間に危害を加える事もまずない、と、人間と協力しやすい大妖怪であり、佐渡の地におけるガイア連合の協力者の中でも特に有力な一人だ。

 

「……五十猛神? こんなところで何を?」

「買い物、するつもりだったんだけどね。製材所や工場で働いている氏子に差し入れでも、とか思ったんだけど、こんな状況じゃね」

 

 そう言って妖精の姿を持つ五十猛神は肩をすくめた。鍛冶を司る神格である金屋子神=ユーミルが自身の工房を持っているのと同様に、林業の神である五十猛神もガイア連合佐渡島支部からいくつかの施設を任されている。製材に適した木材を産出するスギ林の異界を中心に、採れた木材を加工する製材所やパルプ工場だ。

 特に林業の神の庇護を受けた製材所やパルプ工場は、佐渡の未覚醒者にとっては有力な働き口として今後を期待されており、現在少しずつ規模を拡大しているところ、とガンマからも聞いているが。

 

「仕方ないから、ちょうど居合わせた三人で簡単に、避難誘導とか初期の救助活動とか。権能違いだし、団三郎以外は治癒魔法の一つも使えないからできる事も限られてたんだけど」

「そうそう。弓は得意なんだけどね、私達……速く動いて弓を射る、で片付かない仕事は、やっぱり難しいわ」

 

 五十猛神とダイアナが揃って肩をすくめる中、団三郎狸はドヤ顔で胸を張る。

 

「いやいや、【ディア】の一つくらい覚えておくと色々な時に潰しが効いていい感じじゃよ。今時なら修行が嫌でもガイア連合からスキルカードを買うという手もあるから、銭さえあればどうにでもなる。値段もそこまで張るものじゃないからの」

「あー、なるほど悪くないわね、それ」

 

 日本生類創研のカタログを頭に思い浮かべたゼータは、なるほど、と頷き一つ。スキルカード関連も扱っているため【ディア】もラインナップに入っているが、治癒の基本ともいえる最低位のスキルであるため、なるほどそこまで値段は掛からない。

 

「そりゃ五十猛神様は金持ってるからいいかもしれませんけどね、私の収入じゃちょっと厳しいかも……」

「アンタの場合は孤児院に金使い過ぎなだけでしょうが」

「うぐっ……」

 

 五十猛神のツッコミを受けて、ダイアナは恥ずかしげに目を逸らした。

 

 そんなダイアナを見て、大丈夫かな、とゼータは首を傾げる。佐渡のトップである蝶野光爵は彼女が管理するガイア孤児院佐渡支部に対してはそこまで興味を持っていないが、あまり無駄遣いが過ぎて破産すれば、さすがに管理者の地位を取り上げられかねない。

 とはいえ、まあ大丈夫だろう。いくらポンコツにしか見えないとはいえこれでも女神、大事にしている孤児院を取り上げられるような間抜けは犯さないだろう……と、そんな風にゼータは納得する事にした。

 

「そっ……それより、この辺で最寄りの結界基点は牛尾神社でしょ。ここがこんな事態になっても全然出てこないんだけど、あそこの祭神はどうしたのよ? メシアの封印はもう解かれてるんでしょ」

「あいつらは何が起きても滅多に出て来んぞ。牛尾神社の祭神は牛頭天王の子である八王子権現……陰陽道の八将神でな。八方の方位を司るが単なる方位神じゃなく、どこにどう動いても五行の属性に応じて何かしら凶事を引き起こす凶神でもあるからな、基本的に社に引き篭もってばかりじゃよ」

 

 どうやら話題を逸らす事にしたダイアナに、団三郎狸が肩をすくめた。

 

「制御ができるガイア連合の高位術者が呼び出せばすぐに駆け付けて、いくらでも力を貸すらしいがな……それができるのは、ここ佐渡では支部長の蝶野殿か、七陰統括のアルファ殿、同じく祭祀担当のイプシロン殿辺りじゃろうが、要請がなければ絶対に出て来んよ。自身でも制御が効くか怪しいからな」

「あー……なるほど、難しいのね」

 

 そんな風に騒ぐ三神、少女の姿は愛らしく、しかし高位悪魔である事には変わりないが、それでもゼータの見る限り人間とはそれなりに上手い事付き合っており、終末後の活動も上手くいっているようだ。

 

「そう、それでね……今ちょうど、ガイア連合の人員を探していたのよ。面倒なもの、拾ったところでね……この子が」

 

 と五十猛神は肩をすくめつつ、ドヤ顔で胸を張るダイアナを指差した。見れば髪や衣装が煤けており、端の辺りなど少々焦げている部分も見える辺り、単純に拾ったというよりも、現在進行形の火災現場に突撃して、あらかじめ狙いをつけていたブツを回収してきたのだろう。

 

「さすがは狩猟神……目敏い」

 

 ダイアナが摘まむように差し出してきたのは、一見すれば単なるゴミに見えた。半ば焼け焦げて原型を失ったプラスチック塊、元は板状だったのだろうが、火災現場の炎に炙られて原型を失って、それこそまるで溶け掛けの板チョコのようだ。それを受け取ると、ゼータはそれを用意してきたジップロックに詰め込んで、近くで捜査に当たっていたハイデッカーに手渡し、鑑識に回させる。

 

「さっきの暴動で昼の事件で天使を召喚した学生が使っていたスマホの残骸、らしいわよ。手掛かりになるといいんだけど、これだけボロボロでも大丈夫?」

「ああ、最低限の手がかりとしては十分だよ。これで、もう少し事件の詳細に迫る事ができそうだ」

 

 問題のスマホにはメシア教会過激派が製造した天使召喚プログラムの粗製品がインストールされていたはずだが、外装も半ば融解し、中身も無事かどうかは怪しいところ。

 終末以前の警察組織であるならば事件の手がかりとして有効かどうかは微妙なところだが、オカルト組織のガイア連合であればどうとでもなる。過去視に占術、悪縁の探知と、終末前であれば絶対に証拠物件を挙げる手段とはならなかった技術を、今なら公然と証拠として真犯人を検挙できる。

 

「……後は、黒幕を追い詰めるだけ、か」

 

 明らかに精神汚染の痕があった神父の様子からして、何かしら黒幕がいる、というのはゼータ自身も、あるいは同僚にして統括役であるアルファや、主である蝶野光爵自身も共通で抱く見解だ。だが、その正体を暴く手がかりがなかった……今までは。

 だがこのスマホが、影で糸を引く黒幕に繋がる手助けになってくれる、かもしれない。

 

「本当に、よろしく頼むわよ。この佐渡島は私達にとって限られた安住の地なんだから。民草にとっても、そして神々にとってもね」

「ああ、アルファには私から、ダイアナが確保したと伝えておく」

 

 その言葉に目を輝かせるダイアナと、それを見守って肩をすくめる五十猛神や団三郎狸を余所に、ゼータは自身に組み込まれた相互通信機能を使って、統括役であるアルファへと連絡を取るのだった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 佐渡島北辺、外海府海岸。

 

 その沖合に浮かぶ無人島の一つ『名前のある島』。

 

 佐渡島近海にいくつか浮かぶ、外様神に与えられる専用の領土“出島”の一つである。

 そして同時に、佐渡島シェルターの結界基点の一つも兼ねている重要拠点。

 

 この島は元々存在していた無人島を異界として俺自身が調整したものだ。少々問題があって、他の黒札を頼れなかったのだから仕方ないが、地脈も異界もそれなりに悪くない出来になったと自負している。

 

 個人用ボート代わりの龍神マカラに騎乗して佐渡島の北岸を辿るように移動していけば、やがて朧に煙る霧に包まれた島影が見えてくる。目的地が近づいてきた。

 

 護岸壁で囲われた内湾の港へとマカラを入港させると、マカラを桟橋に止めてその背中から降りる。そうして桟橋の向こうを見れば、そこには既にこの島を治める三位一体の神格である『夜魔オネイロイ』達三人が待っていた。

 ギリシャ神話における夢の神三柱。夜の女神ニュクスの子であり、死の神タナトスや眠りの神ヒュプノスの兄弟であると伝えられる存在。

 

 シキガミボディ“エウリュアレ”に宿った『夜魔モルフェウス』。人の姿を取る夢を表し、夢や空想に人のカタチを取ったイメージを送り込み、夢を形作り、夢に宿るものに形を与える存在。

 シキガミボディ“メデューサ・ランサー”に宿った『夜魔イケロス』。獣の姿を取る夢を表し、悪夢を生み出し、獣に夢を配るもの。

 シキガミボディ“ステンノ”に宿った『夜魔パンタソス』。大地や水、草木のごとき非生物の夢を表し、不可思議で預言的な夢をもたらすもの。

 

「こんな場所にようこそ、御主人様。終末以来、忙しいのではなくて?」

 

 小首を傾げて問うモルフェウス。一見して可憐な少女の姿に、無垢な令嬢のような仕草。しかしそんな印象とは裏腹にどこか妖艶さを帯びていた。

 

 それは三柱皆が同じ事、幼くも楚々とした少女らしい姿だが、しかし彼女達は金毘羅権現や五十猛神と同様、結界基点を任せた神々の中では最も神らしい神々だ。だが、だからこそ契約している限りは、それこそ下手な人間以上に信用できるともいえる、か。

 

「ああ、悪いが仕事の一環でね。金山異界の“裏”側……『メメントス・ハレル』に面倒な異変が起きているそうだな」

「起きています。先刻、アルファ様とイプシロン様に一通りの報告を済ませたばかりですが、お聞きになられていらっしゃいますか?」

「ああ、既に確認済みだ。パレスとはな……全く厄介な話だ」

 

 溜息一つ、ポケットからシガレット代わりのチョコを一粒取り出し、口に放り込んで噛み砕いた。甘味が口の中一杯に広がるのに合わせ、揺らいだ思考を落ち着かせていく。

 

 起きるはずもない、と想定していた異変。異変の発生率はほぼ確定でゼロに等しかったのだが、起こってしまったものは仕方ない。異変を感知するシステムは三柱の中でもイケロスが管轄とするところだが、それに引っ掛かったらしい。

 

「確認するのに随分と手間が掛かりました。昼頃、魔獣ラクチャランゴが放出された際に一瞬だけ隠蔽が解除されたようで、それでようやく感知が追い付いた程です」

「なるほどな、デルタが首を傾げていたが、そういう事だったか……いや、助かった。だが感知システムは増強した方が良さそうだな。これも近い内に着手するとしよう」

 

 ガイア連合製の電動自動車に乗り込み、田舎らしい畦道を走っていく。三神の出身であるギリシャに合わせて地中海気候に調整された『名前のある島』の空気は乾燥しており、頬を撫でる風の体感気温は実際のそれよりも一回りほど涼しく感じられる。

 この島の主産業は農業であり、道の左右にはキクリ米が作付けされた水田と並んで、芥子の花が植えられた花畑が一年を通して咲き乱れている。赤く、あるいは白く鮮やかな花が咲き誇るその様、見た目は非常に美しいのだが、その一方で作り出されるのは麻薬の原料だ。

 芥子を原料として製造される麻薬であり麻酔“モルヒネ”の語源こそモルフェウスだ。またモルヒネを精製すればヘロインとなる。だからモルフェウスはその権能で強烈な薬効を持つ芥子の花を育てられる。

 

 ここで育てられた芥子の花は、覚醒者にも有効な麻酔薬その他各種薬品の材料として、ガイア連合の技術部や各傘下企業へと出荷される。単純な医学用の薬物としてだけでなく、各種アイテムや黒魔術や魔女術など様々なカルトマジックにおける魔術薬の素材としても貴重なもの、割と高値で売れる優良な商品作物だ。

 

 そして……これを使って製造したアヘンを日本国内で流通させようとしたアホがこの三神である。無論あっという間に発覚し、満場一致で地獄へ没シュートとなるところを、俺が身柄を買い上げて配下として招き入れた。薬物を生産する権能、何かしらの役に立つと思ったからだが、それ以上にもう一つ、夢を介して集合的無意識領域に干渉する権能に目を付けたから、でもある。

 

 そういう意味では不安な存在でもあるのだが。

 

「……私達が裏切らない事、分かってらっしゃるでしょう?」

「ああ、知ってるよ」

 

 彼女達は裏切らない。

 

 それは契約を交わしたから、でもあるし、そしてそれ以上に“裏切れなくした”からでもある。

 そのためにわざわざ女性型のシキガミボディを与えて、その上でスケベ部の技量で快楽漬けにしたので。

 

 色々な意味で、俺から離れる事ができない。

 

「でもまあ、裏切らなくても何かしらやらかしそうな気はする」

「なら、やらかさないようにずっと、手綱をとっていらして下さいね」

 

 うん。

 

 やはりちゃんと見てなきゃ何やらかすか分からなくて気が気じゃない。特にコイツら、ギリシャ神だからなー……うん、ギリシャはな。原典の神話からして、存在そのものがやらかしと不祥事と昼ドラ展開のオンパレードだ。危険過ぎる。

 

「……着いたか」

 

 天井にソーラーパネルを満載した電動自動車はゆっくりと停車する。

 

 車を降りてアスファルトで固めた駐車場に出れば、そこに建っているのは一軒の工場だ。白く塗装された壁の上に大きく描かれた“ハチミツ漬けのミイラ”のエンブレムが特徴的で、しかしそれ以外の特徴がない無個性な長方形の建物だが、その実、この場所こそが日本ブレイク鉱業購買部『マナによる慈善財団』第一工場。

 佐渡島金山異界の労働者が主食としている食料加工品『ソイレントグリーン』の製造元である。

 

 その分厚い鉄扉の脇には、人待ち顔で幼い少女が立っていた。体格に見合わない巨大な戦斧を担いだ少女は、俺もよく知っている相手であり。

 

「来ていたのか、金屋子神」

「うむ。じゃがユーミルと呼んでくれてよいのだぞ」

 

 つまりこれでこの場には、佐渡島金山異界の管理に携わっている神格全てが揃ったという事だ。

 

「もう……喫茶スペースに案内したところだったのに、こんなところまで出てきてしまって。入れ違いになったらどうするのですか?」

「ワシが旦那様の気配を間違うはずもなかろうに。だからこうして出てきたんじゃよ」

 

 金屋子神はオネイロイ達と軽口を叩き合いながらも、どこか剣呑な視線を交わす。互いに警戒しているという事でもあり、互いにある意味競争相手のような立ち位置にもあるのだろう。そこまで競合するような立ち位置でもなし、その辺の機微は俺自身にはそこまでよく理解できないのだが、ともあれ。

 

「こちらですよ御主人様。奥へどうぞ」

 

 オネイロイ三柱に案内されて招かれるまま工場の中を先へと進んでいくと、ソイレントグリーンの加工工程を一望できる。この工場で、ソイレントグリーンの原材料の加工から包装まで全ての工程を片付けてしまうようにできており、専用の製作スキルを搭載したクローンヤクザ達が忙しく動き回っていた。

 

 ソイレントグリーンの主原料は魚沼原産のキクリ米だ。黄泉平坂に近しい土地で生まれたこの米種は呪殺属性に高い親和性を持ち、それはつまり呪詛に属する術式と相性が良いという事。大きな麻袋に詰め込まれて運ばれてきたそれをクローンヤクザが抱え上げ、直径数メートルの破砕機に流し込むように放り込む。破砕ユニットには金屋子神の加護が入った呪鉄を使い、術式への親和性を更に高める仕組みになっている。

 そうして粒がいい具合にクランチされたところでコンベアに解放、そこに別のラインから様々な素材が合流してくる。

 

 まずは水飴。そして味を調えるための砂糖と適当な調味料。

 この島特産、モルフェウス権能付き芥子の花の乾燥粉末。通風乾燥機の熱風で乾燥させた上で、ドラム内で材料同士をぶつけ合わせる事で破砕する気流式破砕機により粉末化した代物。

 佐渡島金山異界で自然湧きした屍鬼ワーカホリックを凍結状態で運び込み、それを衝撃式破砕機にかけて粉砕した粗挽きワーカホリック粉末。

 フグをベースに各種薬草をブレンドしたブードゥー教伝来のゾンビパウダー。

 

 それらを一斉にミキサーに流し込んで撹拌し、流れてきた高温のペーストを型に入れて板状に成形。さらにまだ軟度が高い内に儀式を行って術式を刻み込み、切断してサイズと形を整え、包装してソイレントグリーンの出来上がりだ。

 完成したソイレントグリーンは箱詰めして出荷され、その日の内に日本ブレイク鉱業の購買部へと運び込まれる。

 

 そんな生産ラインの間を歩き、設置されていた階段を降りて地下へと進んでいくと、その先は分厚い鉄扉で阻まれている。その左右を守るクローンヤクザの一部隊は、俺達の姿を見るや脇に退いて道を譲り、モルフェウスの合図と共に鉄扉が開いて、中の空間が解放される。

 

 そこに置かれているのはコンクリート製の碑に見えた。破砕されたビルか何かの破片、それらを巨大な鉄のフレームで締め上げて石碑の形にしたような、そんな異様な構造物。東京の地下に広がっていた認知異界メメントスから回収された構造材の一部を利用して作り出したオブジェ。

 その下に開いた隙間には、滅んだ現代文明を想起させる退廃的なオブジェには不似合いな真紅の鳥居が置かれており、その間には幾重にも注連縄が張り渡されて通れないようになっている。

 

「では、参りますか?」

「ああ。遠慮なく。金屋子神、やってくれ」

 

 俺の言葉に前に進み出た金屋子神が手をかざすと、鳥居を戒めていた注連縄がひとりでに解け、その中央には地脈から溢れ出した生体マグネタイトが青黒く輝きながら流動して渦を形作る。俺達は迷いなくその中へと踏み込んでいった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 日本海────佐渡島沖、海中。

 

 闇が忍び寄るように空に広がる夕刻という事もあって、海中の視界は暗く、深く潜る程に闇に閉ざされていく。その淀んだ闇を引き裂くように、一条の光が走る。揺らめくような水中生物の生体発光とは異なる、揺らぎ一つなく無機的な、それでいてわずかに熱を伴った人工の光。

 

 光の源は巨大な影だ。巨大な質量の生み出す水の抵抗をハイドロジェットエンジンの出力任せに圧し進みながら、巨大な鋼鉄の塊は水中を我が物顔で遊泳する。ヒトを象った頭部と四肢を持つという一点を除けば水中抵抗を極力抑えた流体力学に配慮した設計の巨体で、水中探査用の大型投光器を左右に動かしながら時折、その照り返しで明度の低い青黒の洋上迷彩を露わにする様は、さながら巨大な海棲哺乳類が暗中を彷徨っている様子。

 その巨体をゆらりと動かすと頭部に装着された大型投光器の照り返しの中に、波模様の上に「頼」の字を図案化した瀬戸組の代紋が浮かび上がる。

 

 機体名『アッガイ』。その佐渡島仕様現地改修型。ガイア連合呉支部で開発され量産されている水中用モビルスーツ『アッガイ』、その瀬戸組におけるカスタムタイプであり、元はグラスゴーなど治安維持用の機体を現地改修して使用するためのプロトタイプだ。

 

 制御系にはシキガミコアを組み込んで無人機としての運用を可能とする。

 固定兵装として対人機銃と多目的グレネードといった対暴徒を意識した対人兵装を搭載。

 装甲部材には強度の高いヒヒイロカネ・マルエージング鋼を採用。

 表面塗装は海上・海中環境に適応した青黒の洋上迷彩。

 主に宮城で運用された機体『トイボックス』で技術が確立された魔導噴流推進器の術式を【アクア】系の水撃魔法に置き換えたハイドロジェット推進機関を装備。

 装甲各所には作業用のハーネスや、貨物固定用のハードポイントを設置。

 

 その内、グラスゴー佐渡島仕様には無人機運用のためのシキガミコアと各種対人兵装が制式採用されているが、このアッガイ瀬戸組仕様にはそれ以外にも海上・海中戦闘を意識した各種改装が施されている。

 

 その装甲表面のハーネスに掴まってぶら下がるように水中を泳ぐのは、瀬戸組の組長である瀬戸燦だ。下半身は魚類のそれに変化しているが、変身系の異能としてオーソドックスなデビルシフターではなく、悪魔との混血の結果として伝わった遺伝子が表出した“半魔”と呼ばれるタイプの異能者だった。

 水中で呼吸もできるし、必要に応じて下半身を人魚のそれに変化させる事ができるが、ステータスや耐性は非変身時にも変化せず、スキルにも変わりはない。便利といえば便利な異能者だった。

 

 そんな彼女と同じようにアッガイのハーネスに掴まりながら燦の後について泳いでいるのは、同じく瀬戸組に所属する異能者達だ。全員が燦と同様に海産物系統の半魔かデビルシフターであり、水中でも呼吸の心配がない。

 

「んー、この辺みたいやね。最低でもこの辺、半径1km以内……うーん、広いなあ。ま、いいか。皆、この辺で捜索始めて。今回沈んだキッコウセンは十二隻って話やきん、大仕事だから皆頑張って!」

 

 手首に固定した水中仕様のPDAに表示された索敵画面を見た燦が、アッガイの装甲表面を軽く数回叩いて停止の意を伝えると、アッガイは四肢を広げてゆっくりと水中で減速。瀬戸組の面々もアッガイから離れると、各々の隣に固定されていた小型コンテナからそれぞれの武器や作業具を手に周辺海域の捜索を始める。

 

 異界探索や悪魔退治とは微妙に異なるが、これも瀬戸組の“漁”の一つ────数刻前に佐渡島防空局の戦闘機によって撃沈された龍王キッコウセンの残留フォルマの回収作業だった。

 

 アッガイの肩部に増設された水中用広域センサーが展開し、周辺海域の走査を開始する。同じように瀬戸組の面々も背中に背負ったセンサー型霊装を使って周囲の海域を探りつつ泳ぎ回り、目的となる亀甲船の残骸を発見し次第ネットやアンカーで確保しては、アッガイの後ろ腰にワイヤーで接続されたフロートコンテナに放り込んでいく。

 

「ねぇ、政さん」

 

 その仕事ぶりを監督しながら、燦はぽつり、と溢すように呟いた。

 

「へい、何ですかい姐さん」

「前々から思ってたんだけどさ、蝶野さんって人の事……異能者じゃない堅気の人とか、ガイア連合の外の人達の事、信用してへんよね」

 

 こんな暗い海の中だろうか、普段は穏やかで燦がそんなネガティブな言葉を口にした事に少しばかり驚いたか、水中でも掛けっぱなしのサングラスの下で、政は少しだけ目を見開いた。

 

「ああ、ええと、お嬢……いえ、すいません。蝶野さんが、姐さんにそんな事を?」

「あ、いや蝶野さんはそんな事、一言も言ってへんよ。でもこれ、この子の仕様とか、元警察や自衛隊の人をデモノイドに入れ替えてる事とか、そんなの見てるとさ、そんな本音が見えてくるような気がするんよ」

 

 この子、と言いながら燦は青黒に塗装されたアッガイの装甲を叩いてみせる。

 

 そんな燦の言葉に、政は否応なく納得せざるを得ないものを感じ取っていた。昼間に起きた市役所前の暴動、その事件に瀬戸組は直接の関りを何一つ持っていないが、しかし何かしら思うところがあったのかもしれない。

 

「アッガイは、警察用のグラスゴーのテスト品でもある。そんなアッガイに対人機銃とかグレネードとかそんなものを用意してるって事は、終末が起きる何年も前からさ、普通の人に向かって機銃とかグレネードとかそんなもの撃ちまくる事を考えてたって事だよね」

「っ……あー、まあ言われてみれば、それはそうでやすねぇ……」

 

 想像以上に物騒な事を考える。だが、おそらくは当たっている。

 

 一介のヤクザ者である政自身は、ガイア連合佐渡島支部を作り上げた蝶野光爵という男の腹の中をほとんど知らない。その辺は、半ば形だけに近くとも愛人という立場にいる燦の方が何倍に詳しいだろう。だが、しかし燦の言葉はおそらく正鵠を射ている、という妙な確信もあった。

 そもそも……魚沼で暴動が起きてから佐渡で収容所が開設されるまでのスパンが短過ぎる。“普通の人間”向けの収容所が必要になるような、最初からそういう事態を想定して準備していなければ、そんな事は絶対に不可能だ。

 

「多分ね、アッガイを私達に預けたのって、将来的にこの子が私達にとって必要になってくる、って考えたからじゃないかって、そう思うんよ」

 

 憂いを帯びた言葉を口に乗せながら、珍しく自嘲気味な燦は計算された流体力学に基づいて設計されたアッガイの曲面装甲をそっと撫でる。

 

「つまり、私らがこういう……対人機銃やらグレネードやら、そういったものでカタギの連中を撃ちまくる必要が出てくる……っていう事でしょうかい?」

「うん。少なくとも蝶野さんはそんな風に考えてると思うよ。だってほら、私達任侠は堅気の人達を傷つけないように戦うものだけど、でも堅気の人達にとって私達ヤクザは────」

 

 

 ────社会の敵だから。

 

 

「私は蝶野さんの愛人や。そんな私が組長やっとる瀬戸組は蝶野さんの紐付きで、当然、佐渡での地位は高くなる。嫉妬もされるし、嫌われるやろな。当然の事やて覚悟は出来とる。でも……蝶野さんはもっと先の頃から、そういう覚悟決めとったんやろな」

 

 そう言い切った燦の横顔は、どこかここから遠い場所に向けられているようだ。遠い場所を見つめる彼女の視線は、おそらくこの場にいない蝶野光爵に向けられているのだろう。

 

「お嬢……成長しましたね」

「それはそうだよ。これでも何年か組長を続けてるからね、考える事も少しはあるんよ」

 

 その成長を喜ぶべきかは分からないけれど。

 

 頼もしく思うべきなのだろう。無邪気に任侠の正義を信じていた少女に様々な事を押し付けてしまったのは申し訳ないとしか言えないが、しかし。

 

「お嬢、必要なら何でも言ってください。俺ら任侠瀬戸組一家、地獄までお付き合いさせていただきやすから」

「ふふ、そうやな。ありがと皆、地獄までよろしくな」

 

 そんな風に考える政は、作業に加わるべく人魚の尾鰭を一打ちしてコンテナへと向かう燦の背中を見守っていた。

 

 

 

 

 




世界が動くペースが早い・・・


~割とどうでもいい設定集~

・デモノイド・グランチャー
 元ネタは『ブレンパワード』。
 戦闘機のニッチに入り込む事を目的とした空戦型デモノイドの試作機。現在では佐渡島防空局で運用されており、試験が終了すれば日本生類創研にて正規量産品の『ブレンパワード』をライン生産・販売開始していく予定。
 パイロットが装着したデモニカスーツと同期する事で操縦される。またデモノイドであるため、COMP一体型の展開型デモニカに格納する事ができ、割とどこにでも携帯できたりする。便利。
 マギジェットスラスタやフロートパネルをベースにした飛行技術、銃剣一体型のソードエクステンションなど、各所で登場した既存技術が多用されている。
 ソードエクステンションに組み込まれた【アギ】【ギガ】【九十九針】【剛切断】に加え、オプションとして搭載されたミサイルランチャーに氷結属性弾を搭載しているため、計五属性使えるとかいう多芸仕様。
 またデモノイドであるため、生体マグネタイトさえあれば部品や弾薬の調達が不要でありターミナルが常設されていない僻地でも使いやすいという利点がある。

・ソードエクステンション
 元ネタは『ブレンパワード』。
 グランチャーの装備。
 トイボックスに採用された銃装剣をベースに、変形機能を排している。
 【アギ】【ギガ】に加えて【九十九針】【剛切断】のスキルを搭載している。

・沙霧尚哉
 元ネタは『MuvLuv-Alternative』シリーズ。
 佐渡島防空局の基地司令。同時にグランチャーのテストパイロットもやっているため非常に多忙。
 元は航空自衛隊に所属する一般のパイロットだったが、終末時の悪魔出現に際して空自の佐渡島基地が壊滅した際、残存した士官の中で地位が一番上だったために先任士官として管理職に担ぎ上げられた。
 現状、書類の決裁処理など大半の仕事はガイア連合から派遣された量産型シキガミが担当しており、ガイア連合抜きでは仕事も儘ならない状況。

・F-2改
 佐渡島の自衛隊基地に存在した既存の機体をガイア連合の技術で簡易的に改修した機体。
 シキガミコア搭載により終末後の環境下でも稼働可能、基礎性能も向上して治癒魔法も有効となっており、さらにパイロットがデモニカスーツを装着する事により強化され、常人の限界を越えた機動性を発揮できる。
 弱点として、終末後の社会では部品や弾薬の調達が難しい。

・佐渡島防空局
 終末前まで佐渡島に配備されていた旧自衛隊組織を再編成し、ガイア連合に組み込んだ組織。元は空自であるため、実は同じ自衛隊でも陸自出身の五島部隊とはあまり関りがない。
 基本的には旧航空自衛隊の遺産である戦闘機を終末環境下に合わせて改修・維持・運用する空戦部隊であるが、限界があるため佐渡島では専用に開発されたデモノイドへと少しずつ入れ替えていく予定。

・龍王キッコウセン
 亀甲船。
 李氏朝鮮時代の半島で活躍したとされる半島軍の軍船。
 ステータスは物理寄りの防御型で、スキルは銃撃が主。たまに【ファイアブレス】が使える個体も。物理耐性持ちであるため物理攻撃に対しては非常に頑強だが魔法攻撃にはそれほどでもなく、特に火炎属性には弱い。
 弱点としては速が低くて鈍重な上に、水面から上にも下にも離れる事ができず、また砲門がろくに動かせないため射角を上下に稼ぐ事ができないため、空や水面下から狙われると単なる的にされる。
 そのフォルマからは【物理耐性】のスキルカードが生成できるため、ロボの装甲やフレーム材の強化や、ヘイローの素材など使いどころも多く、有用性は高い。
 朝鮮半島を守るべく日本海に出没し、日本船を狙い撃ちにしてくるが、ガイア連合とメシア教以外に船を出せない世界で、ガイア連合船には返り討ちにされるため、被害に遭うのは専らメシア船籍の船、しかも積み荷は半島を含む東アジア方面への支援物資と来ており、皮肉にも彼らの行動そのものが半島の首を直接的に絞める形になっている。

・魚沼弾
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 魚沼市の豪雪という概念を利用して大量生産された氷結弾。大半は携行兵器に使用されている様子だが、こちらではミサイルとして搭載されている。

・フォルマ弾倉
 石は転がる様『【カオ転三次】DRUG FATE』より。『DRUG FATE』61話末尾に詳細あり。
 ガイア連合呉支部にて開発された技術。
 生体マグネタイトを消費する事で残弾数を回復する。

・ハイデッカー
 元ネタは『ニンジャスレイヤー』。
 クローンヤクザをマイナーチェンジした治安維持仕様の警官モデル。
 ガイア連合佐渡島支部の日本生類創研から販売されているが、治安維持用という用途から、購入するためには黒札か、支部長クラス以上の金札、またはシェルター管理者の資格保有者である必要がある。
 ベースであるクローンヤクザから外見・言動が警官風になり、また治安維持活動に役立ちそうな各種汎用スキル詰め合わせを組み込んでいる。
 オプションで【光合成】スキルを搭載して維持コストの軽減も可能。

・屍鬼ワーカホリック
 『真・女神転生II』に登場する悪魔。
 過労死した社畜の成れの果てという悲劇の産物。
 佐渡島金山異界に自然湧きする悪魔。
 ソイレントグリーンの材料として使用される他、日本生類創研から販売されてもいる。一般デビルサマナー向けに戦力として使用される他、単純労働用の労働力として一括購入も可能。

・五十猛神
 シキガミボディの元ネタは『ゴブリンスレイヤー』より。
 佐渡島最古の神社である渡津神社の祭神。素戔嗚尊の子にして林業を司る。植林や林業全般の他、建築や造船なども司り、また海陸の交通安全なども司っている。
 林業用に異界を持っている他、七陰の一人ガンマの直轄で製材所やパルプ工場を運営している。

・地母神ダイアナ
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 【人類ママ活計画】なる事件をやらかして田舎ニキに〆られた後、ガイア連合傘下に入って魔獣狩りをやる傍ら、現在ではガイア孤児院佐渡支部を運営している。

・団三郎狸
 見た目の元ネタは『東方』シリーズより『二ツ岩マミゾウ』。
 日本三大名狸の一角にして二ツ岩大明神として祀られている神格持ちの大妖怪。

・名前のある島
 外様神オネイロイ三柱が治める出島。気候や地脈などはギリシャ風味に調整されている。
 主な生産品は魔法薬の素材として便利な芥子の花。

・オネイロイ三柱
 シキガミボディの元ネタは『Fate』シリーズよりステンノ、エウリュアレ、メデューサ・ランサー。
 夜魔モルフェウス、夜魔イケロス、夜魔パンタソスによって構成される三柱。
 夢を司る神。夜の女神ニュクスの子であり死神タナトスの兄弟。
 元はとある地方都市で神の権能を突っ込んだ芥子の花からアヘンを量産して流通させようとして〆られたのを、パピヨンが買い取って傘下に置いたもの。

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