ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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今年もよろしくお願いします。


アルカトラズ・レポート 終編

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 石化した大天使が、抵抗すら許されず砕けていく。

 

 ガラスのように破砕する空間ごと崩れ落ち、消滅していく。

 

 どんな敵であれ殺し得る事を目的に開発された最終兵器『D4レイ』────空間歪曲と共に“世界を滅ぼす権能”を叩き込んで局所的な世界の終焉を引き起こし、空間ごと敵の存在を抹消する。デスザウラー=デストルドスの砲撃よりもわずかに速く、落下した石片が存在した。

 大天使の体躯からすればあまりにも小さい……せいぜいが一抱え程の小さな石片が海に落下し、砕け、中に納まっていた肉片は海流に巻き込まれ流されながらも、ぐにゃぐにゃと蠢いてはそのカタチを少しずつ変化させ、やがて。

 

『オギャァアアアアアアア~~~~~~!!!』

 

 赤子と呼ぶには禍々しく、そして毒々しい醜悪な産声を上げる。大天使の霊基を母胎とし、弱体化したそれを内側から喰い破って現れた異形の肉塊は、生々しく、狂おしく、何かを、誰かを、その存在を渇望するかのように、見苦しく、しかし濃厚な執念の籠った声を上げ、波紋となって薄暗い日本海の大気を震わせる。

 

 『レベル0.5 母子合体魔人 天之河光輝』────霊視の瞳を持つ人間が波間に流されていく肉塊を【アナライズ】すれば、そんな名前が映っただろう。

 

 それを目にする人間など一人もおらず、しかし。

 

「“────おやおや”」

 

 人以外の物であれば、一人。

 

 あるいは、一柱。

 

 波間を流れる生命と霊基が混沌として融け合った異形、それに目を止めたのは、やはり異形の高位悪魔だった。銀髪の少女のような“貌”をしたソレは、波間に漂う肉塊を拾い上げると、闇に包まれたようにその全貌も判然としない顔面に穿たれた、燃え上がるように輝く三眼を笑みの形に歪めた。

 

「“おやおやおや、これはいいものを見つけました!”」

 

 ソレと視線を合わせた母子合体魔人は、魂の底の底、自分自身にすら必死に押し隠していた醜悪さすら見通して読み取ってしまう、全てを見通し、全てを嘲笑してやまない、あまりにも不躾な視線に絶叫する。

 

「“このしぶとさに加え、プレイヤーのヘイトをいくらでも買い放題なその身勝手さ、実に素晴らしい! 貴方であれば次のシナリオフックにぴったりです! いやあ、本当にいい拾い物をしましたねえ! やっぱり私ったら、“持ってる”っていうんでしょうか、こう……GM適性の運命力に恵まれているみたいな!? あはは~、いやあ、自分でこういう事を言うのは、ちょっと恥ずかしいんですけどね”」

 

 当然、逃げる事など出来はしない。できる事といえば、肉塊の表面に浮かんだ顔を恐怖に歪め、不揃いに生えた畸形の翼をビチビチと振り回すくらいだ。そんなもので、眼前の“邪神”を振り払えるわけもなく。

 

「“でも困りましたね。ここまで出来がいいシナリオフックなんてそうそうありませんし、これは一世一代のシナリオにしないと割に合いませんけど、それはそれとして誰に、どう使ったものか、っってね、迷うんですよね~あはは。ご執心のアリスって子と絡んでもらうのもいいですし、あるいは佐渡や新潟で暴れてもらうのも楽しそうですし! やー、夢が広がるってこういう事を言うんでしょうか”」

 

 嬉しそうにペラペラと、あまりにも冒涜的な言葉を吐き散らかす邪神は。

 

 その絶大な知性と見識に反し、魔人そのものを何一つ見ておらず、その価値を認めておらず。

 

 だから、そんな魔人に救いがあるとすれば、それは次の刹那に邪神を包み込んだ紅蓮の業火のみだろう。

 

「“んにぎゃぁあああああああああ~!!! 熱い! 熱い! アチチ! アチチ! い、一体誰ですか失礼な! いきなり人に向かって貫通ブースタ各種完備に【コンセントレイト】付き【マハラギバリオン】なんて撃ち込んでくるのは!? 大事なシナリオフック、落としちゃったじゃないですか!?”」

 

 少女の姿を象った邪神は、唐突に自身を襲った本物の地獄さながらの獄炎に、全身を炎に包まれながらも抗議の声を漏らす。そうして炎が飛来した軌跡を振り仰げば、こちらに向かってくる小型漁船の上に立っていたのは、白髪紅眼の青年だ。

 普段は飄々とした、どこか優しげな笑みを浮かべるその顔には、今は冷たく仮面のような無表情が貼り付けられており、冷たくこちらを睨みつける青年の姿。その背後に浮かぶペルソナの業火により、頭部の半ばを欠損した邪神は歓喜で身を震わせる。

 

「“いやー、カオルニキさんじゃないですか、嬉しいですね! こんな時にまで攻撃を仕掛けてくるぐらい私の事が大好きだなんて~照れますねえ、本当に。でもでも、今の私は次のシナリオを用意するための準備期間なので、ちょっとそのラブコールには答えられないかなって。だから参戦はシナリオの舞台ができあがってからにしてくれたらな~、なんて熱っちい~!! 熱い熱い、焼き邪神になっちゃいます~!!”」

 

 占術を得意とする黒札仲間の託宣によってこんな場所にまで追撃してきた邪神狩人は、巧みに炎を操って灼熱の業火を邪神に向かって叩き付ける。その猛襲に思わず邪神は撤退しようとするも、巧みに操作される火炎がその逃げ道を的確に塞ぎ、また最速で起動しようとする転移魔法も青年の結界術が確実に潰していく。

 

「“あー、駄目ですねこれは……貴方が私を殺し切るだけの攻撃力を持っている限りですが”」

「うるさい。黙って死ね」

 

 だが、それも無用な心配というもの。

 

 既に最寄りの戦場に、邪神が最も苦手とする恒星の業火を操る術師が立っているからには。

 

「“何と……そんな手を使ってきますか……いやー、仕方ありません。今回は私の負けって事で、大人しく諦めておきましょう。あー、今回のシナリオ報酬は用意できませんでしたけど、次の時にはまた次のシナリオに繋がる素敵なシナリオ報酬を用意して待ってますから熱い!”」

 

 戦場に輝き燃える横一線を描く閃熱が、邪神へと直撃する。遥か数km先の佐渡島から、強殖装甲を展開したままのデストルドスにより放たれた荷電粒子砲────邪神が最も苦手とする炎の邪神クトゥグァの業火を、全身の重力魔法発生装置にて生成した重力リングで細く収束し、対人レベルにまで収束して投射し、確実にこの場を狙い撃った。

 

 それはさすがにどうしようもない。千変万化の邪神とて、対立神格から叩き付けられる核の炎はどうにもならない。

 後はひたすら、白髪の青年が操るペルソナにてタコ殴りだ。

 

 かくして、大天使とパレスを巡る一連の事件は本当の意味で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 とあるシェルターから始まり、月架手町、浦野牧、魚沼と所在を転々とした難民達の旅────あるいは、その旅の黒幕だった大天使の謀略は、ついにこの佐渡島で終着を迎える事になった。その終幕を飾るにはいささか虚しくなるまでの大天使の醜態だったが。

 

 ともあれ、無事に終了した。

 

 まあアルファを筆頭に“七陰”の中の内政担当者は未だに終わらない事件後の処理に奔走しているし、イータは“七陰”専用機の完成を急ぐと共に、今回の最終戦におけるデスザウラー=デストルドスの稼働で見えた様々な問題点・改良点の改善に勤しんでくれている。

 特に忙しくしているのはガンマだ。今回の戦いにおいて発生した被害の処理もあるが、それ以外にもブレンパワードを始めとする新規ビジネスに対する販路開拓や、各地から送られてくる迷惑難民の新規受け入れ、エトセトラエトセトラ、様々な仕事が山積みになっており、護衛役のデルタと共に佐渡島の内外を忙しく動き回っている。

 

 そして。

 

「俺の方の後処理もようやく終わり、と」

 

 デミナンディ関連で起きたシヴァ神暴走事件にて、事件の責任の一端を……まあ一端だな、一番に責任を負うのは客観的に見ても暴走したシヴァ神であるからして……そう、責任の一端を背負う事になった俺は、その責任を取って約一週間ばかり、ショタオジ主催の修行を受ける羽目になっていた。

 俺がいなくても佐渡島支部の運営が回るシステムになっていなかったら、事件の事後処理なんかもあって、もう少し時間が掛かっていたところだが。

 

 それも片付いて、ようやく解放されたところだ。

 

 術者としての実力は向上したし、修行を完遂した褒賞としてレベル83の破壊神シヴァの悪魔カードも拝領した。この特級の素材を何に使うかは、後で考えたいと思うが。

 

 ともあれ。

 

 まあ皆の仕事が片付いたら身内だけで軽く打ち上げってのも、いいかもしれないな。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 佐渡島、山奥。

 

 小佐渡山地の山間を通って小さな集落の間を結ぶアスファルトの道路の上を、奇怪な影が走る────影は、中途半端にヒトの形をしていた。筋肉質の男性のボディラインを浮き彫りにする黒のライダースーツを着込み、大型バイクにまたがって夜道を疾走する、影。

 

 だが、大事な部品が足りていない。

 

 首から上は刃物で刎ね落とされたかのように欠落し、まるで失われた頭部の代わりとでもいうかのごとく、その断面から溢れ出す生体マグネタイトの茫洋とした揺らぎが黒煙のように揺らめいていた。

 

 街灯だけが照らす夜道を、人間としてあるべきカタチを欠落させた『怪異首なしライダー』は思う存分疾走する。

 

 

 だが、単騎ではない。

 

 

 その背後から追い縋るバイクが数騎。迫る騎影は“アマゾンシグマ”────制式配備された半生体式デモニカを装着し、迫るのは吸血鬼殲滅隊ブラッドジャケット・佐渡島分遣隊の兵士達だ。デモニカと連動したバイク型デモノイド『ジャングレイダー』を駆り、首なしライダーの後背へと追走する。

 

 逃げる獲物に向かってじわじわと距離を詰めていくブラッドジャケットの兵士達、そのさらに後方。

 真紅の両牙を象った吸血鬼殲滅隊のエンブレムを側面に大きく描いた、鈍い銀色のフルサイズバン。

 

 その車内にて。

 

 運転や周辺警戒は部下に任せ、後部座席にて通信機器片手に指揮を執っているのは、ブラッドジャケット佐渡島分遣隊・第二中隊の隊長である愛染ノエルだ。幼さを多分に残した、年若い少女のようにしか見えない美貌の持ち主だが、実際には二回りほど年嵩の人物だ。

 シキガミパーツ移植の副作用で若返った────彼女を肉体改造したKSJ研の面子も、どうしてこうなったと首を傾げていたのだが、ともあれ。

 

「ブラボー、ブレンパワードに懸架して空から先行、脇道で待機して。警察、ハイデッカー部隊の非常線は……設置完了? よし。アルファ、チャーリーは既定のポイントまでそのまま距離を保って追跡続行」

 

 部下に指示を出し、多方面との連絡を取り合い、まるでチェスの駒を配置するように包囲を組み上げていく。

 

 そうして数分後、首なしライダーの討伐完了報告を受け取ったノエルは、ほっと溜息を吐いた。

 

「……今日も無事、何とかなったわね」

「そうですね。我々にも市民にも被害ゼロ……睡眠時間は削られましたが」

 

 ぼやく副官と小さく快哉を交わし、素早く撤収作業に移る。配置した各部隊に撤収命令を出し、協力した別組織には短く感謝を表すメールを送り、そうして副官の運転で現場よりも一足先に詰め所に戻る。現場には機材回収や機体整備などの仕事があるが、部隊長は書類作成その他事務作業が山程あるので、時間を無駄にはできない。

 これで後は詰め所に戻って最低限の事務作業を済ませ電子書類を送ったら、仕事は終わりだ。時間的にも書類作業が終わる頃には夜も明けてそれなりの時間になっているはずだし、そうなればシフト交代だから帰って休める。

 

「シキガミ体でも、精神的疲労はどうしようもないのよね。こういう時、自分がまだまだ人間なんだって実感するわ」

「同感ですね。さっさと休みたい」

「なら、早いところ書類作業を終わらせないとね。肉体労働の現場より仕事が多いって、わけ分からないわよね」

 

 指揮車両のラックに固定したPDAで作戦のログを確認しながら、膝に乗せたノートPCのキーボードを叩いて素早く書類作成を進めていく。揺れる車の中での書き物は楽ではないが、わざわざ詰め所に着くまで休んでいたら、いつ作業が終わるかも分からない。

 

「ま、これでもこの前に比べたらマシな方よね。大天使なんてのが来たら、非番だろうと関係なく駆り出されるもの」

「はは、それは仕方ありませんね」

 

 それも、佐渡の防衛戦力が整うにつれ問題なく対処できるようになっていくのだろうが。

 

「しばらくはこのまま、って事ね」

「その辺は、諦めるしかありませんね。事件が起きないよう、せいぜい祈るとしましょう」

 

 ハンドルを握りながら器用に肩をすくめる副官を、ノエルは横目で睨む。

 

「祈るって誰に? こんな世の中なのに」

「生憎と、地元神様にも加護もらってる身なので。氏子の仕事は面倒もありますが、こういう時に祈る相手がいるのはありがたい事です」

 

 自慢げに言う辺り、余程に気前のいい神様なのだろう。ファンタジーが現実になった終末後の世界では、神の加護も奇跡も頼るべき現実的な手段の一つだ。それを昇華とするか、堕落と見るかは人それぞれだが。

 

「はいはいそうですかー。じゃあ私は、そうね……黒札の方々にでも祈っておく事にするわ。下手な神様より御利益あるものね」

「それはまあ、否定できませんね」

 

 吸血鬼殲滅部隊ブラッドジャケット────黒札であるKSJ研のトップ三人の、慈悲とも言い難い救いの手に縋ってシキガミパーツ移植を受けた者達の成れの果てだ。だから祈る相手といえば、今の己を製造したKSJの三人か、あるいは今の上司であるガイア連合佐渡島支部の支部長────蝶野光爵当人か。

 

「まあ、四人まとめて祈っておけば、それでいいか」

 

 こういうのは、適当でいいのだ。

 日本人らしく。

 まあ御利益はあるだろうし。

 

「何か良い事がありますように……」

 

 適当に祈る。

 

 その祈りが届くかどうかは、祈られた当人たちにすら分からないが。

 

 死者のごとき彼らの祈りは不遜なれども。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 金刀比羅神宮。

 

 終末前より一回り大きく作られた社務所の一角で、畳の上に座した沙霧尚哉は、そのまま深々と頭を下げていた。

 

「陛下、この度は御助力、誠に有り難うございます。心から感謝いたします」

「うむ、良い良い。そう畏まるな、防人よ。朕も必要だと考えたから、そうしたまでだ」

 

 沙霧を出迎えた崇徳院は一般的な鳥と同サイズの鳶の姿のまま、鷹揚に頷いた。その気配は相も変わらず重々しく、鳥の表情は読めない。おそらくそれを読み取れるのは、今はこの場にはいない金毘羅権現や瀬戸燦くらいのものだろう。

 それでも、どこか上機嫌に見える。

 

「そして、これを……お返し致したく」

 

 崇徳院の前に、一振りの太刀が差し出される。旧自衛隊の制服には似合わない黄金色の豪奢な拵えは、前回の戦いで沙霧に貸し出されたものだ。崇徳院から貸し与えられた剣であるのだから、崇徳院に返すのが筋だろう。そう考えて、こうして謝礼の品と共に太刀を持ってきたのだが。

 

「謝礼は受け入れよう。だが、太刀は持っておくがいい。それはもうお前に与えた者だ。お前は防人なのだ、少なくとも刃物相応の役には立つだろう」

 

 崇徳院は首を振った。

 

「曲がりなりにも神刀だ。それが重いかね?」

「それは……」

 

 神格に与えられた武具。

 

 ガイア連合に支給された装備とは意味合いが異なる。

 単純な武器としての性能であれば、それこそアマゾンズドライバーの方が上回りもする。

 だが武具の形を取った神格の加護という、その性質が重い。

 

 ましてや、それが眼前の“皇”の格を持つ存在から預かった物であるなら。

 

 だが。

 

「その重さは、この国を守るという事。元よりお前の責務であろう」

「……謹んで、拝命致します」

 

 沙霧が志した自衛官という仕事は、元より、そうすると自らで決めて背負った責務だ。それは、今でも変わらない。

 

 だから結局、もう一度深々と頭を下げて、沙霧は太刀を受け取ったのだった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 なお。

 

「ふむ……さすがに今回は受け取ってもらえたかの」

 

 沙霧が去った後。

 

「旦那様には断られたからの」

「それを言わんでください、権現様」

 

 鳶が一羽、少女が一人。あるいは神格が二柱。

 

 そんな感じで膝を突き合わせた崇徳院と金毘羅権現は、二人して微妙過ぎる安堵の溜息を吐いていた。

 

「儂の太刀……強い武器のはずなんじゃが」

「日本最強の怨霊の加護を鍛冶の神が鍛造した太刀じゃし、真っ当な異能者が手に入れられる武具の中では間違いなく最高級の逸品のはずなんじゃが……」

 

 ガイア連合には、もっと強い武器が割とある、という話。

 

 そんなこんなで神格二柱は二人して、深々と溜息を吐いたのだった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 日本各地に点在するシェルターの中でも、佐渡島シェルターを含む新潟県は比較的……どころではなく恵まれている部類であるらしい。事務所の冷蔵庫に詰め込まれたエナジードリンクの瓶を一気飲みしながら、小手川唯は溜息を吐いた。

 物資が欠乏せず、流通が保たれている。ドラッグストアに行けばエナジードリンクが普通に買える、そんな生活が維持されている。

 

「……頭が痛い」

 

 安物の回転椅子に身体を投げ出し、乱雑に溜息を吐いた。

 

 外の世界は大変らしい。大震災でも来たかのように文明は崩壊、それでいて救助に駆け付けてくるはずの警察や消防は機能せず、狭苦しいシェルターに押し込められて、乏しい物資を分け合いながら……場合によっては奪い合いながら、世紀末じみた生活をしている場所も多い、との話。

 そんな状況で文明を当たり前に維持しているガイア連合とは一体何なのか、などという困惑にも、既にいい加減うんざりだ。天使に洗脳された村人に追い回されてタヌキに助けられた辺りから、もう考えるのをやめようと心に決めた……あまり実践できてはいないのだが。

 

「というか、デストルドスってアレ何なのよ……怪獣!? うんうん、悪魔が佐渡島を襲ってきてもアレが守ってくれるから安心………………できるか! 怖過ぎるでしょ、あのビジュアルは!」

 

 うんざりするような気分を抑えながら、調べ物に戻る。終末を迎えても維持されているDDSネットワークを使えば、こんな終末環境下でもそれなりに情報が集められるから便利だ。その便利さが一番納得がいかないが。

 

「ええと『日本生類創研』、ガイア連合佐渡島支部の傘下企業よね。これが佐渡島の流通やインフラを保っているのは分かるけど…………って、待って! 何で日本ハムなんて大企業を子会社にしているのよ!?」

 

 確か一時期、問題の企業が倒産寸前に追い込まれていたのは、北海道に拠点を置いていた球団を手放した事で、オカルト関係なしの表社会でも大きな話題になっていたから記憶に残っている。そういえば、その手放された球団を買い取って北海道ガイアホッパーズとして再出発させたのも、ガイア系列の医療法人だったか。

 

 そしてそれと同時期に、球団を手放した企業の方も同じくガイア系列の日本生類創研に買収されてしまっていた、らしい。

 

「…………そんな大事件、何で報道されないのよ」

 

 大きく深呼吸して、また溜息気味に息を吐き出す。内心の困惑と憂鬱とをブレンドしたかのような重苦しい吐息が、床の辺りでわだかまって場の空気に重苦しい雰囲気を加算する。

 

 だが。

 

「そんな事はどうでもいいのよ。それよりも……」

 

 テキストファイルを立ち上げて、今週の予定を確認。終末が訪れたというのに、やるべき事は多い。もしかしたら終末前よりも増えているのではないだろうか。

 

「ええと、まず第三小学校の通学路見回り運動、老人ホームの訪問に……ええと、悪魔と遭遇した時の対処法についての講演依頼? それからこっちは、集団で店にやってくる妖怪との交渉? それに……村を徘徊する悪魔の退治!? 無茶言わないでよ、私素人なんですけど!?」

 

 一応、天使に洗脳された村人に追い回された時に覚醒していたらしく、悪魔が見えるといえば、見える。かといってそれで、ガイア連合の戦闘員のように悪魔と真っ正面から戦えるかといえば、目をそらすしかない。

 そしてそれ以前に、そういうのはどう考えても市議会議員の仕事じゃない。

 

「……こんなもの、渡されてもねぇ」

 

 横目で睨んだ視線の先に置かれた銀色のジェラルミンケース、中身は佐渡島版展開式デモニカ『アマゾンオメガ』。ケースを開けてみればそこに収められているのは赤のベルトバックルと、説明書である小冊子。

 一応中身を確認して、説明書にもしっかりと目を通し、デモニカの個人認証も済ませ、その上で一応起動して、生体装甲を身に纏える事は確認し……必要な事は全て済ませたが、しかしそれはそれとして戦える気がしない。

 最低限空手の心得があるとはいえスポーツの範囲内、こちとら一般人だ。

 

 説明書には悪魔を倒してのレベル上げを推奨していたが、警察でも戦闘のプロでもない一般人、しがない一介の市議会議員に要求するハードルが高過ぎる。

 

「うーん、こういう時には専門家に依頼……誰よ、専門家って!」

 

 頭を抱えて記憶を辿る。こういう時に頼りになりそうな相手といえば……そういえば。

 

「ああ、そうか」

 

 ふと、記憶の端に昇った相手。

 

 確か団三郎狸が、子狸派遣サービスなんてものをやっていたはずだ。アレも見た目は小動物だが悪魔であるはず、つまりレベル上げの際に護衛になってくれるタヌキを紹介してもらえるはずだが……と、

 

 思い立ったが吉日。小手川唯は、つい先日知り合ったばかりの悪魔の連絡先を確認すべく、アドレス帳の検索を始める事にした。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 メメントス・ハレル最深層。

 

 その天井付近を複雑に交差する足場の上から、イータは中心にある地底湖を見下ろしつつ、PDAのコンソールを操作していた。その動きに従って、天井に設けられたレールを伝ってクレーンやアームが動き、多数の整備班クローンヤクザと共に、地底湖の中心に佇む巨大な機体────デスザウラーの周囲で作業を続けている。

 

 大天使を屠ったデスザウラーの整備は、未だに続いていた。損傷や消耗の大半は全て自己修復の範囲内でどうにかなる部類だったが、しかし、だからといって整備を欠かす理由にはならない。マニュアルの項目を一つ一つ注意深く確認し、全ての項目を埋めたところでチェックを完了。

 

「ふぅ……よし。今日もデスザウラーの調子は良好、と」

 

 個人の固有能力に依存した機体だ、どこで不具合が出るとも限らない。まして、これほどの重量を持つ機体で、全身を鈍器として扱う怪獣プロレスのごとき挙動を行っていたのだから当然だ。いくら頑丈さを重視して邪龍ヨルムンガンドの組織をベースにした人工筋肉、そして総アダマス製のフレームに装甲とはいえ、限界はある。

 実際、挙動の要となる重力制御装置は回路の数ヶ所がオーバーヒートを起こし焼き切れていた。自己修復でどうにかなる程度のものではあるが、それも戦闘が長期化すれば分からない。

 

「この分だと、重力リング形成による荷電粒子砲の拡散放射にはもう少しシミュレーションを繰り返す必要がある、か……」

 

 損耗した部品、焼き切れた回路を取り外し、新たなパーツへと付け替えては、【ディア】系の治癒術を用いて周囲のパーツや疑似生体組織と融合させ、馴染ませていく。

 外したパーツも無駄にはできない。劣化し、焼き切れたからこそ、これらのパーツは成立時点で、デスザウラーそのものが持つ概念に馴染みやすい性質を持っている。だからそれらも素材単位で分解し、鋳融かして、また新たな素材の原料となるのだ。

 

 同時に、フレームに組みつけられた人工筋肉に対しても調整が行われる。消耗し劣化した人工筋肉のシリンダーは一旦フレームから取り外され────ここで通常のメンテナンスであれば、筋肉の元となる悪魔の霊基情報この場合は邪龍ヨルムンガルドの概念情報を注入され、特殊な【ディア】と共に劣化した筋肉の概念情報を補填し、筋肉も新生させて新品同然の状態にまで持っていく。

 この場合、そこから悪魔の体組織が再生する、ある種の暴走を引き起こす可能性があるわけだが。

 

 デスザウラーの場合はデモノイド製造技術を応用し、あらかじめ操縦者込みで成立する“デスザウラー”という一体の悪魔の概念を人工的に構築し、複写した概念を損耗した筋肉に再注入する事によって、暴走のリスクを引き下げる、というプロセスが試験的に行われていた。

 まだまだデータが少なく、安全なシステム構築が終了しているとは言い切れないのだが。

 

「超感覚知覚、並びに透視スキャンにも問題なし。占術班からも直近の未来における暴走の危機は感知できず、か。おおむね問題はなさそう。うん、いいね」

 

 イータの整備にとりあえず問題はないようで。

 

「それじゃ他の機体は……と」

 

 台座に安置された二機の機体。

 

 ダン・オブ・サーズデイ。

 ディアブロ・オブ・マンデイ。

 

 大天使戦で活躍した二機にも問題なし。いまだ整備作業は続いているが、いつでも動かせる。

 

 未完成のまま出撃したデルタのディアブロも、今は全身の装甲やスラスター、電磁バリア発生機能、追加装備など各種オプションを装着し終えた完全体だ。

 そして、既に三機目────新たな機体であるメッツァ・オブ・チューズデイがロールアウト直前にまで漕ぎつけている。

 

「メッツァはイプシロンの機体……佐渡島の防衛を考えるなら、本当はベータのサウダーデこそ真っ先に完成させるべきなんだろうけど……」

 

 そう上手くもいかない。

 

 メッツァを完成させたら、次はゼータが搭乗する予定のダリア・オブ・ウェンズデイ。

 デフォルトの変形機能に加え銃剣という複雑な機構を備え、また空戦型という他の機体とは一線を画する特性を持つサウダーデ・オブ・サンデイは技術的なハードルがとりわけ高く、だからサウダーデの順番は最後に近い。

 

「シン・オブ・フライデイ、セン・オブ・サタデイの合体機構とどっちが大変かは、ちょっと微妙なところだけど……」

 

 難しい。

 

 あるいは……ひとまず防空用のブレンパワードは、簡易量産型のスフィアソルジャーと合わせて既に第一ロットの量産が始まっているから、サウダーデの完成をそこまで急ぐ必要がないのは僥倖だろうか。その生産ラインは、この最深層の一つ上の層に設置されているのだが。

 

「防空戦力の量産具合はどう?」

 

 と、話し掛けてきたのは、ちょうど開いたドアから入ってきたデルタだ。七陰の中では同じ頭脳労働担当という事で、微妙にシンパシーを感じている相手だが。

 

「悪くない。当初予定されていたよりも数割増しで進んでいる。この分ならスフィアソルジャーの導入すら不要かもしれない」

 

 直近、同じ新潟県で起きた事件で、ちょうど必要なものが手に入ったのだ。

 

「あら、そこまで進んでいるの?」

「そう。海泥の神────邪神ラフムの残滓の御陰」

 

 邪神ラフム。

 

 バビロニア神話における創造神二柱、真水を象徴するアプスーと、塩水、すなわち海を意味する龍にして女神ティアマトとの間に生まれた、謎めいた存在。河口、湾口といった汽水帯に存在する泥質の島や、あるいは海の沈泥などと関連付けられ、古くは河川の精霊としても崇められた。

 

 つまるところ────泥の神。

 

 新潟県と長野県との県境に位置する三国峠のシェルターを支配していた多神連合出身の外様神だが、このラフムは多神連合の中でも駄目な部類の神……の中でも、さらに悪質な部類の神格だった。数々の非人道行為を行い、人間を犠牲に多数の分隊を生み出した上、隣に位置する十日町シェルターへと攻撃を仕掛けたのだが、新潟県を守護する多数の黒札の手によってあっさりと鎮圧された。

 

「確か、デルタもディアブロ・オブ・マンデイで参戦したのよね」

「そう。その馬鹿デルタがラフムの分身体のいくつかを悪魔カードにして拾ってきたんだけど」

 

 そうしてデルタが持ち帰ってきた数枚の悪魔カードを合成、完全版邪神ラフムのカードを作り上げ、それを基に泥の生産装置を完成させていた。

 

「マグネタイトを突っ込めば、神代の神秘を宿した泥ができる。オカルト素材としても成立していて、実際便利」

 

 生命は泥から生まれた────少なくとも神話上は。

 

 聖書の創世記でも、神は人間を土から作り出したとされている。

 中国神話においても女神女媧は泥を捏ねて人間を作ったと言われる。

 メソポタミアの水神エンキは、土の女神ニンフルサグと交わる事で植物の神々を生み出している。

 

 土は生命の源だ。

 

「つまり、神代の泥はデモノイドの素材として最適。その御陰でブレンパワードの量産も当初の予定以上に進んでいる」

「……なるほど」

 

 ブレンパワードの正式量産以外にも、メタトロン事件で発生した被害を補填するためのデモノイドの追加生産やら、色々とやるべき事はある。

 

「“七陰”専用機……オリジナルセブンの建造もそうだし、それにデスザウラーの展開能力も問題」

「虚数展開カタパルトでも足りませんか」

 

 【トラポート】系の術式を用いて機体を長距離転移させる【機神召喚】のシステムは自然、基盤となる【トラポート】スキルの射程や制度に左右される。そして、それがオリジナルセブンやデスザウラーの展開範囲の限界になってしまう。

 今はそれでも問題ないが、将来的に特記戦力としてのデスザウラー=デストルドスやオリジナルセブンを外交カードとして考えるなら、何かしらその先へ進めるためのものが必要だ。

 

「今の虚数展開カタパルトは佐渡島シェルターの結界範囲程度ならカバーできるけど、それが限界。それ以上を求めれば、地脈やメメントス・ハレルから絞り出したマグネタイトを過剰消費して無理矢理射程を引き上げるしかない」

「一度や二度ならともかく、コストを考えれば問題外だものね」

 

 実際、ラフム騒動の際のデルタの“出張”に関しては、クローンヤクザが操縦するブレンパワード数機でディアブロ・オブ・マンデイを懸架して空輸する、という手段を取っていた。

 

「だから“中継システム”を用意した。現在、鋭意製作中」

「それが、あれ?」

 

 ガンマが指し示した先に置かれているのは、イトマキエイを装甲化したかのような異形の戦闘機『シンカー』だ。現在、その頭部に相当するハッチが展開され、中枢となるシキガミコアの接続作業が始まっているが。

 

「ロボ部……デモンベイン召喚に使われた『魔翼機バイアクヘー』をベースにしたマイナーチェンジ機体『シンカー』。これに転移の中継システムを組み込んだ。とりあえずこれが一機完成すれば、日本海対岸の新潟でもオリジナルセブンの一機くらいは稼働できる」

「なるほど……それなら、私の仕事もやりやすくなるわね」

 

 もっとも転移阻害を受けた場合などを考えれば最低限の保険は必要で、場合によっては機体運搬・回収用のユニットが必要になる可能性もある。

 

「そんな時のために飛行艦……これに関してはまだ構想段階。今はシンカーがあれば十分だから」

「むしろ、そんなのがあるなら私の部署で使いたいわ」

「それもあり。まず確実に、装甲以外の戦闘スペックを度外視した輸送艦みたいな代物になる。普段はそっちの方で使った方が有用」

 

 これに関しては、まだまだ後の話だ。

 他にやる事は山のように残っている。

 

「直近だと、インドのシヴァ神がプッシュしてきた件もある」

「ああ、あれね。知ってるわ。確かに私にとっても無関係な話ではないもの」

 

 デミナンディ────畜産型デモノイドの第一号。

 

 通常の家畜を養うためには、多大な労力が掛かる。それは文明の庇護が喪われた終末環境下では尚更の事だ。とりわけ飼料の確保という一点において“1㎏のステーキのために25㎏の穀物が必要”などと言われるほどに効率が悪い畜産は、とりわけ日々の物資にも事欠く僻地のシェルターにとって難しく、さりとて狩りをして得られる獲物など終末環境下では、食い詰めた人間くらいのものである。

 世界各地において、食肉とは手の届かない贅沢となりつつある。牛の餌を作るより、人間の餌を作らなきゃならない、そんな優先順位が食肉業界を圧迫しているわけだ。

 

 そこでデモノイド────生体マグネタイトのみで生育できる畜産型デモノイドは、飼料の作れないこの終末環境下では限りなく理想的な家畜といえる。

 

 とりわけ佐渡島版デミナンディのベースになった魔獣テーグーは地震を引き起こすと伝えられる妖牛だ。大地震を起こすには霊格が足りないが小規模な地脈への干渉が可能であり、魔獣としての格を家畜として劣化させながらも残滓のようなその力を、地脈から生体マグネタイトを吸い上げる事に特化させる事により、高効率での生育が可能になっている。

 

 いるのだが。

 

 そこで、デミナンディの名の元になったインドの牛神ナンディ、その上司であるシヴァ神からの干渉だ。

 

「まさかアルファ様経由で来るなんて予想外よね。言われてみればアルファ様の本霊は大黒天……元を辿ればシヴァ神だけど」

 

 たまさか覗き見た黒札用掲示板の内容に扇動されてしまい、ナンディをデモノイドの素材として使う事により、この終末環境下にて“牛肉を生み出す食糧神”としての側面を獲得しようと画策したシヴァ神だったが、その辺の騒動は比較的あっさりと鎮圧されてしまった。

 だが、その割にまだ諦めていないようで、今度は別ルートによりプッシュしてきたのが、聖獣ナンディの配偶神である乳牛の女神、聖獣スラビーである。

 

 そのスラビーを利用して生み出した乳牛型デモノイドが『デミスラビー』だ。マグネタイトを突っ込む事で大量の牛乳を生成する、という単機能に特化した代物で、それだけに生産効率は中々に高い。現在はガイア連合佐渡島支部の影響下にある試験牧場で、試験的に育成中だ。

 

「他の支部での畜産事情とバッティングしないかが不安よね……十勝支部とか。いっその事、こっちから売り込んでみようかしら」

「戦いを避けられるなら、そうするべき。特にガイア連合の身内同士なら」

 

 とりわけディストピアと名高い十勝支部は、終末以前から乳業とは縁が深い土地だ。そしてまた、佐渡島金山異界────日本ブレイク鉱業に収監した難民達の中から覚醒者が発生した場合の移送先としての契約相手でもある。

 争いになるのは、ガンマとしても非常によろしくない。七陰の経済担当は、外交にも気を遣う。考える事がとにかく多いのだ。

 

「……何にせよ、平和が一番」

「そうね、本当」

 

 そういう話だ。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 相変わらず、三好と安藤は必死にツルハシを振るっていた。大天使が襲撃してこようが彼らの労働内容は何一つ減っていないし、待遇も改善されていない。せいぜい監督役のクローンヤクザから飛んでくる罵倒のバリエーションが増えたくらいだ。

 

「あんな事があったんだし、もっと待遇良くしてくれてもいいじゃないか」

「……おい、黙って仕事しないとまた殴られるぞ」

 

 思わず込み上げてくる不満を漏らしながらも、自然と勝手に体が動く。栄養も足りていない、気力もない、苦痛が減じたわけでもない、それなのに仕事となれば勝手に体が動くようになったのはいつ頃からだろうか。だが頭は回らないし、この状態を改善するような良い知恵もない。

 何ならデモを起こすような知恵のある人間もこの間、大天使の苗床になって無意味に死んだ。

 

 彼がいなくなっても何も変わらず、仕事は続くし、給料は安いまま。

 何の意味もなく、何一つ成し遂げられず、彼は消えた。

 

『ダッテメッコラー! 働けッコラー!』

『ぎゃぁああああああああ~~~~~~ッ!!』

 

 そんな彼らの背中を叩くかのように聞こえてくるのはお決まりのクローンヤクザの罵声と、いつも通りの労働者の誰かの悲鳴だ。まだサボる元気があった事からして、おそらくは京都から運ばれてきた名家難民の誰かだろう。少なくとも三好と安藤の“同期”ではない。

 もっとも数日もすれば彼らも、不平不満を並べる元気もなくした立派な労働者になっている事だろうが。

 

 ちらり、と安藤は坑道の隅に置かれた時計に視線を向ける。あと数分で休み時間になる……予定だ。

 

 だがそれを心待ちにしているのも“新入り”だけだ。

 二人は気にせず、ひたすらツルハシを振るい続ける。

 

 なぜなら、休めないから。

 

 休み時間になって、しかし。

 

 何一つ気にせずツルハシを振るい続けるのは、労働者達の半ばを占める屍鬼ワーカホリック共だ。

 そして時計に気を取られつつも嫌々仕事を続けているのは、三好と安藤の同期である旧来の労働者達。

 

 そして曲がりなりにも休み時間になったのだからと、その場に作業道具を置いて休もうとした新入り達は。

 

「ええと君達、ちょっといいかな」

 

 そんな新入り達に向かって、班長である大槻がやんわりと話し掛ける。

 

「ごめんね、確かに今は休み時間なんだけどねえ……ほら、あそこで働いている死人みたいに気味の悪い連中、いるよね。あいつら、気にせず働いているだろう。彼らが働いているのに、休んでいるのを監督役に見られたら、あいつらがどんな風に思うか……ほら、ちょっと想像してみたら分かるだろ?」

 

 言われて監督役のクローンヤクザ達の方を振り返った新人たちは、サングラス越しにこちらを向いた表情の見えない視線に、顔を蒼くして目をそらす。そうしてモゴモゴと覚束ない返事をしてその場を離れようとして。

 

 しかし、彼らは既に囲まれていた。

 

 この職場と呼ぶには劣悪に過ぎる、苦痛を長引かせるためだけに生命を繋ぐ悪辣な仕掛けしかない苦役場の先達である魚沼出身の難民達が、新参の彼らをぐるりと取り囲んでいた。

 

 己で手を汚す責任を負わず、手間を取るという労も取らず、都合のいい御題目で糊塗する事で罪悪感を回避させてもらいながら、都合のいい自分達の代弁者が自分の代わりに自分達のエゴを異端者に押し付けてくれる事を期待して、この時ばかりは主に忠実な獣のように一つの群れを形作り。

 

 だが、彼らの言いたい事は明白だ。

 

 自分達が苦労しているのに、お前達だけ楽をするのは許さない。

 自分達が苦痛から逃れられないのに、お前達が苦しまないなど許せない。

 

 集団による同調圧力。

 無言によって表明される数の暴力。

 口にせずとも理解しなければならない暗黙の了解。あるいは、場の空気。

 

 そういったものを武器にして弱者を作り、苦労や皺寄せ、あるいはそんなものですらない概念的な、都合の悪い何もかもを押し付ける事で集団を作り出し、利を貪るしか能のない彼らに、その流れに逆らうような力があるはずもなく。

 

「うんうん、辛いのは分かるよ。世の中、どこにだって理不尽な事はあるもんだ。でもね、それにいちいち逆らってもいい事ないって知ってるだろう。それにほら、世の中決して悪い事ばかりじゃないからさ。だからほら、ね」

 

 難民達は、ほんのわずかな休憩時間も放り出して、自主的に働き始めるのだった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 佐渡島にも、名産と呼べるものはそれなりに存在する。

 

 たとえば稲作。

 かつては魚沼と並び、佐渡産コシヒカリには特別な銘柄が与えられていた程の米どころだった佐渡島だが、ガイア連合佐渡島支部が地元との繋がりをあえて希薄に保っているという事もあり、ヒノエ米、キクリ米といった終末環境下における新銘柄の導入が遅れ、現状はコメ後進国と言わざるを得ない状況に陥っている。

 現在はガイア連合主導で農協と協議を行いキクリ米の作付け指導を進めているが、まあ、それも年単位で進めて初めて結果が出てくる話だな。

 

 その一方で、調子がいいのが畜産────佐渡名物の佐渡牛である。品質の良さに加えて希少性もあり、幻の和牛などと呼ばれる、佐渡島の誇る名産品だ。それ以外にも島黒豚やらひげ地鶏やら、探求ネキの作品の一つじゃないが牛豚鶏と名品が三拍子揃っている。

 この辺の畜産業に関しては、割と早期からテコ入れしていたからな。佐渡版デミナンディとかその辺を生産するためにはちゃんとした実験農場が必要で、そのためにはきちんとしたノウハウのある人員を拾ってくる必要があったから、ちょうどタイミングよく資金難に陥った農場に乗り込んで、こっち側に引き込んだのだ。

 そこら辺の畜産用デモノイドの開発にも貢献してくれたし、逆に佐渡牛や他の畜産物に関してもガイア連合側からの技術がフィードバックされて、肉質とか色々が向上している。オカルト飼料とかバンバン投入したからな。

 

 で、その実験場として抱え込んでいるのが、ここ『御影牧場』だ。

 

 メインで飼育しているのは牛だが、ガイア連合として経営を乗っ取ってからは実験農場として豚や鶏その他、割といろいろな種類の家畜を揃えてもいるし、デミナンディを始めとした各種畜産デモノイドもラインナップに入っている。何なら探求ネキ製のオカルト生物『牛豚鳥』の繁殖にも成功している。

 

 そんな場所で俺が何をやっているのかといえば。

 

「えー、それじゃ打ち上げを始めようと思います。はい、乾杯」

 

 淡々と祝辞を述べて打ち上げ開始を宣言……祝辞の体を為しているかは微妙なところだが。ともあれ一同、割と適当に拍手され、牛豚鶏と大量に揃った高級肉を連続投入してのバーベキューパーティーの始まりである。

 

「いや、予算的には高級料亭なんかを借り切ってもいいんだが、この時期にそれをやってマスゴミに粘着されると面倒だからな。まあその分高い酒と肉を用意した。っていうわけで遠慮なく食べてくれ。俺は隅っこで引っ込んでるから」

 

 上司がいると居心地が悪くなる。

 これ、職場の鉄則。

 

 よく働いてくれた相手を労いたいのだから、俺は引っ込んでるのがベストだろう。

 

 ああ、だが引っ込む前に一つだけ伝えておくとすれば、だ。

 

「今回の事件、命懸けで本当によく頑張ってくれた。その頑張りを一般市民が評価するか、そうじゃないかは知らないが、しかし彼らがそうやって言い合えるのも、君らが頑張ってくれたお陰だ。ガイア連合佐渡島支部の支部長として、心から感謝する」

 

 そんな、腹を減らした彼らからすれば、おそらく肉と酒に比べれば大した意味もなさそうな話を手短に終わらせて、彼らを解放してやる。長ったらしいスピーチなんて、話す側も面倒臭いし、聞く側もうんざりする、害悪そのものだ。

 だからさっさと隅に引っ込む。これがベストだ。

 

「ではマスター、御供いたします」

「ああ、助かる」

 

 と、いうわけで、よく働いてくれた色々な面々……例えば佐渡島防空局のパイロット組や吸血鬼殲滅隊の面子とか、そういった実戦部隊の連中に対する慰労会だ。主役は彼ら、だから俺はこうして、会場の片隅に確保していたスペースで、エセルドレーダや他のシキガミ達と一緒に、のんびりと肉を焼いている。

 うん、野球チームを手放すまでに困窮した日本ハムの株式をガンマが買い占めたのは本当に正解だったな。こうして終末後も焼肉のタレのレシピが残っている。

 

 ……いや、それ以前に、日本ハムを買収した事により、開発した畜産デモノイド肉の量産とか加工とかその辺の販路関係が派手に広がった事の方を評価するべきだとは思うのだが。

 

 そんな事を考えていれば。

 

「イータ、お前もう少し肉食べないと本当にモヤシになるのですよ! ほら、もっと食べるのです!」

「私は野菜の方が……」

「まあまあ、デルタも落ち着いて。肉は逃げていきませんよ」

「そういうガンマも食べるのです! こんないい肉、滅多に食べれないのです!」

「おっと、これは……牛豚鳥の手羽先だね。骨が多いから無理矢理口に突っ込むのは……ストップストップ、それは私の口もが……!」

「ちょっとちょっと、やめなさいよこの犬耳馬鹿!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なのですこの馬鹿シロン!」

「何ですって!」

 

 やはり同じテーブルに陣取った七陰達が、色々とじゃれている様子だが。

 

「デルタ! いい加減にしなさい!!」

「ひゃい! ごめんなさいなのです!?」

 

 エセルドレーダに次ぐ長姉であるアルファの一喝で、その場は割とあっさり収まった様子だ。エセルドレーダと二人でそれを一歩引いた位置から見守っていると、何となく、だが、小さく笑いが込み上げてくる。こういう催し物は生来苦手だと思っていたんだが、自分でも思った以上に楽しめているらしい。

 

「悪くないな」

「イエス・マスター。楽しめていらっしゃるなら、幸いです」

 

 そんな風に思っていると、話し掛けてくるのは赤みがかったミディアムヘアの女性だ。飾り気のないシャツの上からでもはっきりと分かるくらいの恵まれた体型の持ち主であり、飾り気のないデニムのオーバーオールが逆にそれを隠し切れていない、健康的な美女。

 

「蝶野君、楽しめてる?」

「ああ。今日は場所貸してくれて助かったよ、御影」

 

 御影アキ……穏やかで人懐っこい性格の持ち主である彼女が、ここの御影牧場の管理人だ。基本的に非戦闘員であり、この間の事件とはあまり関りはないのだが、今回の打ち上げに際して場所を貸してもらっている。

 

 潰れかけていたここの牧場を佐渡島支部の名義で乗っ取った時からの付き合いであり、そして。

 

「御影さん!? 久しぶりじゃない!」

「小手川さんも久しぶり。学校にいた頃はあんまり話す機会もなかったけど、うん、これからは結構、関わる事も多くなるのかな」

 

 同時に小手川と同じく、かつて俺が学校に通っていた頃の同級生でもある。だから当然、小手川とも同級生だから、こうしてお互い顔を覚えていても不思議ではない、と。

 

「……そっか、ここ御影さんの牧場だったのね。ここでは、やっぱり牛を?」

「うん、一番多いのは牛かな。ガイア連合と関わるようになってからは、それ以外にも色々と育てているけど。結構不思議なのもいるんだよ、ほら」

 

 と御影が指し示した辺りには、常識的な家畜の数倍もあるような巨体の牛がのんびりと草を食んでいるが、あれが佐渡版デミナンディだ。ナンディの名を冠しているが、実際にはナンディン神の要素など欠片も入っていない、低位の牛系妖怪がベースになっている。

 その近くには似たようなサイズの豚なデミフリムニルや、やはり同サイズの山羊デミタングの姿が見られるし、何ならホルスタイン柄の豚にニワトリの羽根を生やしたような怪生物『牛豚鳥』……探求ネキ製のオカルト生物を家畜化して繁殖させたものが、飛べない翼をパタパタと動かしながら動き回っている。

 その周囲を忙しく走り回っているのは、牧羊犬にして番犬代わりに導入したイヌガミだ。

 

 畜産用デモノイドは可能な限り低レベルの状態で出荷できるように色々と措置を施してあるが、それでも家畜としては非常にサイズが大きい事もあり、未覚醒者には困難な仕事だ。専用デモノイドにイヌガミくらいは欲しい。

 

「…………なるほど、ガイア連合と関わると、ああなるのね」

「そうです、ああなるのです。……色々と新しい仕事が多くてね。ああいう新開発の家畜を育成して、その手順をマニュアル化するのが私の仕事なの。大変なことも多いけど、結構楽しいんだよ」

 

 温和な性格の持ち主である御影もそうだが、市議会では色々と苛立っていた小手川も本来は人格に何かしら問題があるというわけではなし、ああやって穏やかに顔を合わせる事さえできれば、普通にコミュニケーションを取る事ができる様子。

 

 そんな光景を余所に、スマホからDDS経由のメッセージが来ていたので軽くチェック。差出人はデストルドス計画における俺の最大の協力者の一人……なのだが。

 

 『濡れた』だの『毎日オカズにしてるよ』などと艶めいたメッセージが綴られており、普通なら性的な話になってくるのだが、コイツがオカズにしてるのはデストルドスのD4レイで大天使を消し飛ばした処刑シーンなんだよな……まあアイツらしいといえば、その通りだが。

 業が深過ぎ……と言いたいところだが、スケベ部じゃこの程度は一般性癖の部類だ。とはいえ、とりあえずどう返事していいか分からないので既読だけ付けておくと、話を終えたらしい小手川が、今度はこっちに話し掛けてくる。

 

「蝶野君……って呼んでいいのよね。思ったより元気そうでよかった。仕事、大変なんでしょ?」

「いや、そうでもない。佐渡島支部はアルファ達がいれば、俺がいなくても回るようになっているからな。むしろ各地の支部長としては、楽をさせてもらっている部類だよ。それと呼び方については好きにしてくれ」

 

 俺にしかできない仕事がないわけでもなく、俺が手を離せない仕事の割合が多かったのは事実だし、大天使出現以降の最近は割と忙しかった、というのも事実だが。

 

「それより、忙しいのはそっちの方じゃないか?」

「仕事に手を抜けないっていうのは、まあそうなんだけど……むしろ周りからオカルトに詳しいなんて思われているのが大変で……」

「まあ、それはそう。そうなるだろうな」

 

 団三郎狸とも仲が良く、大天使事件の時にはコンビを組んで色々と動き回っていた事でも有名ともなれば、そうもなる。

 

「だからって、悪魔退治の依頼まで一介の議員に寄越さないで欲しいわよ。佐渡の警察もオカルト対応できるようになってるんだし、それ以外にもガイア連合佐渡島支部の受付とか吸血鬼殲滅部隊とか、連絡すべき場所がいくらでもあるじゃない……」

 

 まあ、それでもデモニカ装着して色々と動き回っているのは立派だと思うが。

 

 ともあれ。

 

「何とかやっていけてるようで何より」

「そっちも、ね」

 

 そんな話。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 何となく、一人になりたかった。

 

 だからこっそり会場を抜け出して、少しだけ散歩気分でその辺を歩いてみる。少し離れた会場は何やら盛り上がっているようで、距離を置いて伝わってくる喧騒が静けさに色を添えていた。

 

 ……静かなものだ。

 

 緑と褪せた褐色、そんな二色が調和する田園風景の中を、エセルドレーダと二人して歩く。

 

「……マスター、私を連れてきて良かったのですか?」

「いいんだよ。お前以外に誰がいるんだ」

 

 そんな事を言って返すと、エセルドレーダは、ちょうど雲間から差し込む控え目な冬の陽光のようにその顔を小さくほころばせ、小さな指先でこちらの袖口を摘まむように引いた。

 

 そうやって手を引かれるままに牧場裏の山道を少し歩くと、唐突に視界が開けて明るくなった。木立の合間を抜けて進んだ先に広がる小さな広場。切り立った崖に接しており、朽ちかけた小さな柵の向こうには波立つ冬の日本海が広がっていた。

 公園にでもするつもりだったのか、広場の隅に置かれていた柵と同じくらいに古いベンチの上に積もった埃を払って腰掛けると、付き従っていたエセルドレーダも何も言わず隣に腰掛けた。

 

「ここは……こんな場所があったんだな。知らなかった」

「イエス・マスター。私もここに来たのは初めてです。前回のデスザウラーでの戦闘後、地形のスキャンデータを整理していた時に見つけたのですが」

 

 なるほど、言われてみればここは、あの戦いで最後に大天使を倒した場所に比較的近い。逆にいえば最悪の場合、御影牧場にまで被害が飛んでいた可能性もあるわけだが……水際で守り切った、そんな風にポジティブに捉えておくのが一番かね、ここは。

 

「二人で佐渡までやってきて、支部を作って……どれくらい経つかな」

「半終末の、少し前でしたね。……懐かしい」

 

 あの頃は二人きりだったな。

 

 で、人手が足りなくなるから七陰を作って、少しずつ面子が増えていって……いつの間にか、想像以上に規模が拡大していた。今でも支部のシステムの大半はシキガミとデモノイド、そして契約悪魔が担っているから、人間はほぼいないのだが。

 

「可能な限り運営に現地民を関わらせない支部のモデルケース、なんて、どうせすぐに破綻する……なんて、最初の頃は思っていたんだけどな」

「本当、想像以上に上手くいきましたね、マスター」

 

 普通に考えれば、現地民のマンパターンを積極的に取り込んで運営する真逆のパターン……例えば霊山連合支部みたいなコンセプトの方が、どう考えても真っ当に上手く運営できると思うんだがな。

 ああ、いや、でも信用できない相手を身内に引っ張り込むリスクがなく、引っ張り込んだ相手との繋がりを考える必要がない分、こっちのやり方の方が安定している部分もあるのか。

 そう考えると、離島という佐渡島の地勢もプラスに働いた部分があるな。他所と繋がりが薄い分、ガラパゴス化がやりやすかった……考える事が多いと大変だからな。

 

「その辺、他の支部長勢はどうしているのやら……」

 

 田舎ニキあたりは、かなり多忙だと聞いているが。

 

 現地民の異能者を結構な割合で取り込みつつもロボ部の施設誘致など、色々と手を伸ばしているようだが。その辺のバランス感覚は、俺にはないものだ。他黒札や現地民といった戦力の取り込みに関しては、基本的に消極的だったからな。

 その辺、そういう俺がやらなかった事を全部やりながら、運営を何とか軌道に乗せている時点で尊敬に値する。シェルター経営に失敗してシェルターを手放すケースも、結構あるらしいからな。

 

「と、なると」

 

 一定の金額さえ投資すれば、ある程度安定してシェルター経営ができる基本セット……みたいなものを構想してみるのも楽しいかもしれない。量産型の動力炉を中心に、結界装置と生産設備。経営用の簡易シキガミのセットに、労働用と治安維持用に分けたデモノイドの詰め合わせ。手腕やカリスマ性に不安がある素人が安定を求めるならマンパワーは現地民よりも、基本的に裏切らない簡易シキガミやデモノイドを採用するべきだ。

 プラスして、オマケ程度にある程度のランダム要素を差し込んでみるのも、シェルターごとの特色を出しやすくなっていいかもしれん。追加の生産設備とか、何か使えそうな悪魔カードとか。

 

 とりあえず雑に数秒で考えた限りではこんなものだが、まあ、これで生産ラインと商品ラインナップに乗せられるかどうか……まあ、ガンマやアルファと相談だな。

 

「ああ……色々考えてると、少し楽しくなってきたかな」

「ええ、それは何よりです」

 

 目を閉じたエセルドレーダがこちらの肩に頭を預けて、そっと目を閉じる。

 

「これからも、よろしく頼むよ」

「イエス・マスター。何時までも、何処までも」

 

 うん、今日も平和だ。

 

 多分。

 

 この平和が、出来るだけ長く続いてくれれば、それでいい。

 

 

 

   ■    ■    ■

 

 

 

■ガイア連合佐渡島支部

 

◆勢力圏

 佐渡島、もしくは旧新潟県佐渡市。及びその近海の航路。

 佐渡島各所に設置された結界基点を中心に展開するバブル状の結界空間を展開している。

 

◆規模

 小規模、または大規模。微妙。

 所属している黒札は支部長である『蝶野光爵/パピヨンニキ』一名のみ。他の構成人員もほぼ全員がシキガミまたはデモノイドで、そういう意味では小規模支部。

 ただし保有戦力という意味では大規模支部に匹敵する。

 

◆主要人員

・支部長『蝶野光爵/パピヨンニキ』

 

・“七陰”

 『シキガミ アルファ』“七陰”統率、副支部長

 『シキガミ ベータ』防空・防海担当 傘下組織 『佐渡島防空局』、海防隊

 『シキガミ ガンマ』経済担当 傘下組織 『日本生類創研』『日本ブレイク鉱業』『佐渡島メシア教会』『日本ハム』他

 『シキガミ デルタ』戦闘・護衛担当 傘下組織 対悪魔戦闘部隊、『吸血鬼殲滅隊・佐渡島分遣隊』

 『シキガミ イプシロン』祭祀担当 傘下組織 佐渡島シェルター結界、各地寺社組織、出島

 『シキガミ ゼータ』警察・諜報担当 傘下組織 佐渡市警察

 『シキガミ イータ』技術開発担当 傘下組織 メメントス・ハレル、御影牧場

 

◆主要戦力

 支部長である黒札『蝶野光爵』、並びに彼が搭乗する最大級のロボット兵器『デスザウラー/デストルドス』を最大戦力とする。

 その下に、シキガミ“七陰”と彼女達の機体『オリジナルセブン』が存在するが、一部未完成。

 直属の戦力として戦闘用デモノイドを主力とする佐渡島支部直属の対悪魔部隊。特殊戦力としては吸血鬼殲滅隊・佐渡島分遣隊や、旧航空自衛隊を取り込んだ佐渡島防空局、海戦型シキガミによって構成された海防隊などが存在する。

 また治安維持部隊として、旧佐渡市警察を半ば乗っ取る形で警官型デモノイド『ハイデッカー』や治安維持用シキガミ化ナイトメアフレームの多数配備を行っている。

 

◆政治体制

 現地民を可能な限り支部の運営に関わらせず、極力黒札のみで運営する形のモデルケース。

 基本的にガイア連合佐渡島支部は自治体には関わらず、インフラと流通、治安維持のみを掌握して市民とは距離を置いている。代わりに市政に関しては旧佐渡市議会と佐渡市役所に委託され、また佐渡市各所に存在する結界基点を設置した寺社などを保有する高位悪魔を傘下において封建貴族のように扱い、市民とのバランスを取らせられている。

 

◆経済

・一次産業

 農業、特に稲作に関しては他支部と比して出遅れており、現状は現地の高位悪魔がガイア連合・農協と共同してヒノエ米、キクリ米の導入を進めているレベル。また果樹栽培に関してもオカルト技術の導入が進められている。終末の事前準備だけはしていたので、ひとまず数年もあれば終末環境対応化が完了する。

 一方、漁業に関しては半終末期初頭から現地漁協を兼業していた瀬戸組が傘下に入っていた事もあり、宮城で研究されていたオカルト漁法を取り込んで早期から終末対応が完了していた。とくに盛んなのはブリ漁だが、それ以外にもエビや牡蠣、ズワイガニなども盛ん。

 また日本生類創研による畜産用デモノイドの開発と、日本ハムの取り込みによるその量産が行われており、また佐渡島伝来の佐渡牛の保護なども行われていた牧畜・食肉加工業に関しては他支部を一歩リードする成果を出している他、五十猛神の協力を得て早期から終末対応を進めていた林業などにおいても成果を出している。

・二次産業

 佐渡島金山異界から産出される鉱物資源は、最大の財源の一つ。異界化の影響により埋蔵量の回復した金、銀の他、銅、鉄、亜鉛、石炭が採掘でき、さらにボーキサイトのように本来なら佐渡では産出しない鉱物や、オリハルコンやアダマスといったオカルト金属なども輸出のラインナップに入っている。プラスして迷惑難民の最終処分場としても機能しており、各地からそういった厄介難民を引き取ってはブチ込んでいる。

 また終末前から盛んだった造酒業に関しては、現在はガイア連合の指導を受けてオカルト対応が進められている。

 日本生類創研においては元来、海外からの輸入が途絶えた食肉用家畜のニッチに滑り込んだ畜産用デモノイドの他、ロボ用の人工筋肉、生体型のシキガミパーツなどの生産を行っていた他、終末期に入ってからはマンパワーを補う多目的デモノイドであるクローンヤクザや、治安維持用のデモノイドであるハイデッカーの生産量が増えている。

 

◆住民の生活状況

 終末後としては極めて良いレベル。しっかり海路を維持して本土との交流も保たれており、流通もしっかりしていて、食料に困る事もない。

 さすがに終末前と比べると生活水準は落ちているが、非覚醒者でも贅沢せず普通に暮らしていく分には問題ないレベル。

 また警察組織も強力で、対人間・対悪魔合わせて治安は特に良好。ただし逆にガイア連合の権力と警察権限が非常に強く、時には強引な捜査も辞さないため、そういう意味ではある意味圧政に近い。

 

 




佐渡編も完了。
何か当初の予定の数倍くらい長くなった。



なお七陰の本霊は七福神。





~割とどうでもいい設定集~

・渚カヲル
 本家どくいも様『カオス転生ごちゃまぜサマナー』、やる夫スレより。
 邪神狩人。多分ショタオジの次くらいに強い人。
 ガイア連合発足前にペルソナ1・2の事件をクリアしているため、多分その時点でレベル100とか行ってる。
 ガイア連合発足後から終末期にかけてはニャル関連の事件を専門に追って世界中を飛び回っている。

・日本ハム
 ややや様『【カオ転三次】現地民とのぐだぐだ小話』より。ガイア系医療法人により球団としての日本ハムが買収され、「北海道ガイアホッパーズ」として再出発している。
 曰く、「食料品&海外展開のダブルパンチなので手放すのは仕方ないかなと考えてます。」との事。まあ安い肉は基本的にオーストラリアとか海外産なので、半終末期以降は輸入が死ぬのは確定。当然、日ハムのみならず、食肉業界含む海外輸入に依存した産業は全般的に死亡確定。
 ガタガタになった日ハムに佐渡島支部が資金と技術を提供する形で経営を乗っ取った。何気に、これが七陰にとって初の大仕事だったりする。
 そんな具合なので、安価な海外肉のニッチに佐渡発の畜産用デモノイドを突っ込んで業界を安定させる結果になった。流通がしっかりしているところなら、割とどこでも日ハムのウインナーやベーコンがスーパーの食品売り場に並んでいる。
 なおデモノイドなんて終末前には表に出せないから、当然ながら食品偽装案件である。

・邪神ラフム
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 元多神連合の外様神、その中でも悪質寄りのやらかし犯。
 海の沈泥を司る、という一見微妙そうな性質を持っている割に、それを利用して疑似的な霊道を作るとかいう、終末期においてはとりわけ有用な能力を持っている。
 アホな事せずに泥をオカルト素材として売り捌いていれば成功者になれた気がする。

・魔翼機バイアクヘー
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 ロボ部開発、高速飛行ロボシキガミをベースに製造された対クトゥルー兵装。

・シンカー
 元ネタは『ゾイド』シリーズ。イトマキエイ型ゾイド。水空両用に加えてホバー走行機能付きで対応できない地形がほぼ存在せず、しかも量産性も高いとかいうチートゾイド。
 魔翼機バイアクヘーをベースに製造された機体であり、機体構造は大差ないが、佐渡島の地勢を考えて空中・海上での活動能力も付与されている。
 その性質上、ビヤーキーの代わりにフォルネウスやイソラ辺りの霊基組み込みも検討されている一方、ビヤーキーの主である邪神ハスターが湖中を本拠とするという伝承を持つため、やはりビヤーキーでも十分ではないか、という意見も。

・デミスラビー
 肉牛として開発されたデミナンディの乳牛版。ナンディ神の妻である乳牛の聖獣スラビーを本霊としている。
 性質も大人しく、育成コストも生体マグネタイトだけで済むため、終末後の家畜としては理想的。

・御影牧場
 ガイア連合佐渡島支部の割とたくさんある傘下組織の一つ。
 デミナンディなどの開発に関わり、育成マニュアルを作り出した実験牧場。
 元は高級牛である佐渡牛を出荷していた牧場であるが、現在では佐渡牛以外にも多数の畜産用デモノイドや牛豚鳥などの育成も行っている。

・牛豚鳥
 緋咲虚徹様『【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく』より。
 探求ネキ製、トリコ原作再現食材。
 ニワトリの翼を生やしたホルスタイン柄の豚みたいな生物。牛とブタとニワトリのキメラ。肉の三色パン。
 佐渡島支部ではこれの育成に成功し、本格的な畜産に取り掛かっている。

・御影アキ
 元ネタは『銀の匙』……のキャラをやる夫スレ時代のAA元にしていた『ゴブリンスレイヤー』の「牛飼娘」。
 御影牧場の管理人。基本的に非戦闘員なのだが、各種畜産用デモノイドや牛豚鳥などの育成マニュアルを完成させた有能人。
 パピヨンニキや小手川唯などにとっては学生時代の同級生でもある。

・シェルター経営スターターセット
 これがあれば誰でもシェルター経営者になれる、そんな夢のようでいて夢のないセット。
 中身は基本的な動力炉、結界装置、生産設備に加え、経営用の知識や事務作業・秘書スキルなどを詰め込んだ簡易シキガミや、労働用・治安維持用の各種デモノイドなど。
 プラスしてランダムな生産スキルを突っ込んだアガシオンもオマケとして付いてくるため、シェルターごとの特性・特産物を出して後の外交などにも繋げやすくなっている。
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