ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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書き溜めが、書き溜めが溶けていく……!


無惨(顔だけ)、西へ

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 アイテム作成というのは、ある程度魔術系の修行を積んだ異能者にとっては割といい感じの小遣い稼ぎになる。とにかく需要があるので。それは僕にとっても例外ではなく、メメントスに行かない時には式神作成の合間合間に少しずつアイテムを作って売っては、小遣いに変えている。

 成果はそこそこ。材料費は掛かるものの、売却単価は高いし需要もあるので。

 

 今現在、僕の目の前に置かれているのは一枚の紙。210×297㎜というA4サイズに規格化された、しかし見た目どう見ても単なる画用紙にしか見えないこの白い紙は、しかし色々な霊木・霊草を素材として和紙として作られる過程で様々な霊的儀式を施された、これ一枚で数万円とかいう高値が付く霊紙である。

 それに、同じく霊獣の毛から作られた筆に、霊炭を素材にして作られた霊墨を霊水で溶いた霊的な墨汁をたっぷりと沁み込ませて……何でもかんでも霊ナントカと付ければいいってものじゃないと思う。

 

「……んじゃ、始めますか」

 

 何度か深呼吸を繰り返して呼吸を整えてから、全身に巡る生体マグネタイトの流れを通じて呪力を流し、体幹から腕に、腕から手に、手から筆に、そして墨に、と魔力が行き渡っていく。そうして墨から呪力が溢れ出す直前の力加減を見極めて、素早く手を動かしていく。

 最初に書き込むのは霊紙の中心。ぐるりと円を描いてその円周上に梵字を配し、さらに定着目的の呪縛術式を配置。そこから周辺部分にラインを伸ばしていくつか別の円を描き、中心の円を補佐するように定着術式を刻んで、互いに結び付けるように術式同士を接続していく。

 

 ガイア連合の最大の特産品ともいえる式神、その基盤となる代物だ。部品としての性質としては電子基板、霊的・魔術的には曼荼羅に近く、デザイナー班が制作した式神のガワ、その頭蓋の内側にこれを貼り付け、霊的なコアとなる悪魔を不完全降霊体であるスライムに各種術式を施した上で中心の定着術式に設置。さらに衛星位置に配された定着術式には異能者の血肉だの悪魔素材だのといった各種の素材を配して霊的に固着。

 ここに式神のマスターとなる人物の生体マグネタイトを注ぎ込む事で、コアとなるスライムを中心に術式と素材を一気に取り込んで特殊霊基を構築、オーダーメイド式神が完成する、という寸法だ。この基本は式神の量産化がある程度進んだ現在になっても変わっておらず、術式の規格化や効率化こそ進んでいるものの、基本的なところは一切変化していない。

 

「で、この霊紙を今日中に三十枚、と」

 

 別にそこまで難しい仕事ではない。陰陽師としてある程度の技量がある転生者なら、せいぜい30分もあれば一枚終わってしまう。僕の場合は3分ほどだが大差なく、一日三十枚程度なら休憩を挟んで二時間。これをガイア連合の式神製作部門に納品するだけで相当いい値段で売れる。大事なのは手抜きをしない事。

 魔力の循環を途切れさせないようにしながら、テンプレートに沿って確実に術式を刻んでいく。これもその内にオートメーション化が検討されているわけだが、それでも性能面では優秀な術者による手作業には勝てない、という事らしい。

 

「ふぅ……と。ひとまずはこんなもんか」

 

 十枚ほど書き終えると、一旦筆をおいてひとまず休憩。霊紙から霊水から霊墨からと何から何までクッソ高い材料を使っているという事もあり、そうそう失敗できないので、集中力が切れないように適度に休憩を挟むのも大切。

 霊紙が置かれた机から離れて、近くに置かれた卓袱台へと転がり、縁側からぼんやりと外を見る。大学を卒業してからはガイア連合で仕事をするようになったが、まあどうにも、今のこの仕事は性に合っているのだろう。

 

「ご苦労様です、マスター。もう目標の三十枚ですし、そろそろ切り上げたらいかがですか」

 

 後ろから作業を見守っていたメディアが声を掛けてくる。柿を齧る猿の絵柄が描かれた湯呑に緑茶を注いだメディアが、ことり、と音を立てて卓袱台の上に湯吞を乗せた。僕は卓袱台の上に積んであったモナカを一つ手に取って齧ると、湯呑の緑茶を口の中に流し込んだ。

 

「ああ、助かるよメディア。スキルカードの作製も先に終わってるし、後は、これをモルガンさんに提出してくれば後は宝石の分を片付けて終わりだし、墨が乾いたら頼めるか?」

「ええ、お任せください」

 

 モルガンさん────エヴァンズ夫妻の奥さんの方。ガイア連合で式神の製造とかその辺の関連に関わっている技術屋の一人だ。FGOのモルガンっぽい名前と外見を持って生まれた転生者。とはいえ、いくら本人の名前も“モルガン”で、髪と目の色がそのキャラと似通っているからって、この世界はFateじゃないし、当人が問題のモルガン本人として生まれたわけでもないっていうのはしっかり頭に入れておくべきだと思う。

 もっとも、現役アイドル子役をやっているガイア連合の知り合い曰く、その手の前世創作物のキャラに似た連中は実際にそのキャラの生まれ変わり、のさらに生まれ変わりである可能性がある、とかいう話だったが、それなら自分は鬼舞辻無惨の生まれ変わりって事になるのだろうか。それは少し嫌だ。

 

「その辺、メディアはどう思う?」

「ふふ、私はマスターの式神ですから。どんなマスターでもマスターはマスターですよ」

 

 穏やかに微笑むメディアの姿に、少しだけ、軽く心臓が跳ねる。まあでも、心の奥まで鬼舞辻無惨になった僕など想像もしたくない。メディアやダ・ヴィンチにパワハラ三昧とかいうクズは死ねばいいので。そんなどうでもいい事を考えながら、半分サイズにまで減った最中を口の中に放り込んで食べてしまう。

 ささやかなおやつタイムを終えたら、再び卓に戻って作業再開だ。式神用大型呪符の制作を終えたら、次は割と簡単なアイテムの作成。宝石をベースに魔力を込めるだけで割と簡単に製造できる。製造の手間が簡単なので、むしろ大型呪符よりも効率がいいくらいだ。そうやって出来上がる品揃えはデカジャストーンにデクンダストーン。ムド系やジオ系も作れるのだが似たような物を作っている競合相手も割といるので、作るのはもっぱらデカジャ・デクンダのストーンだ。いつでも一定以上の需要があるし、高値で売れる。

 

 そうやって内職を進めていると、唐突にポケットのスマホが震動した。とりあえずメールのようなので慌てず騒がずキリのいい所まで作業を進めてからスマホの画面を確認すると、どうやら異界攻略の依頼との事である。基本的に制作関連とメメントスで割と手が塞がっている事もあり、この手の戦闘依頼が僕に来るのは、実は割と珍しい。

 内実が戦闘に偏ったガイア連合では直接戦闘ではなく、割と高度なアイテムの製造や結界の展開なんかの裏方仕事ができる術者というのは比較的稀少であり……つまりアレだ、外に出る暇があったら中の仕事をこなせるだけこなして、多忙なショタオジの負担を減らしてやれ、という話である。特にオーダーメイドの式神関連。

 

「異界攻略…………長崎? 随分と遠いな。何で?」

 

 と依頼内容を細かく確認。戦闘依頼だ。どうやらショタオジ当人からの紹介依頼という事だから割と重要度は高そうだが。思案しながらも指先は止めずに画面をスクロールしつつ、視線で文面を辿って、最終的に頷きを一つ。

 

「あーなるほど、そういう事か。確かに、それなら割と納得だ」

 

 敵は、天使。

 

 長崎、という土地柄は江戸時代初期に天草・島原の乱が起きた場所であり、現代でもキリスト教の宗教勢力が強いという事もあってか、天使系の悪魔が湧く異界が出来やすく、特に天草・島原の乱における一揆軍の本拠となった原城址を核とした大規模異界【聖都天草】が存在するのだが。

 ここ最近になって、【聖都天草】が存在する南島原市において多数、それに類似した天使が湧き出す異界が同時多発的に十以上も発生した、とかいう話で、さすがに洒落にならんので潰してこい、と。いずれ【聖都天草】を攻略するにあたって聖都の出城として機能するそこをあらかじめ潰しておく事で、後の【聖都】攻略を確実にするという目的もあるようだ。

 ただし、僕と同じく呪殺魔法を得意とする天使キラーでありながら式神製造に関わっていないため本来僕よりも気軽に動かせるブスジマ君は、生憎と根源寺からの依頼に加え、これ以上の仕事は学業に差し支えるので無理、と。現役学生はつらいよな。

 

 うん、まあ。それじゃあ、僕が出るしかないって事だ。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 狭苦しいビジネスホテルの一室に絶叫が響く。助けを求めて苦しみ藻掻くその声に被さるようにして、ぐちゃりぐちゃりと肉を咀嚼する音が繰り返し、そして時折関節が外れたり骨が砕けたりする音を立てながら、少しずつ叫び声が小さくなっていき、やがて消える。

 最近開発された汎用スキル《霊体化》のスキルカードを取り込ませた事で非実体化ができるようになった悪魔の奇襲を受けて、侵入してきたメシア側の異能者と天使は無惨な屍と化していた。手を下したのは、あらかじめ僕が召喚しておいた屍鬼コープス、無数の死体が雑に溶け合ったような異形の不死者が侵入者を捕食する光景。

 

「うるっさいなー……歴史上数えんのも面倒なくらい殉教者出しまくりな宗教の狂信者が、よりにもよって死に際に命乞い始めるとか。ったく、何のための狂信だってんだ。これだからメシアンは」

「え、メシア教ってそんなに凶悪な教えなのですか? え、母体になった一神教の方? あ、周囲の敵性反応は完全に消えていますよ」

 

 冷静にツッコミを入れながらも一応周囲を続けているメディアの頭上で、電子回路のような幾何学模様を表面に浮かべたUFOのような奇妙なペルソナ『星・ナコティック』が側面からアンテナを展開しつつクルクルと回転している。ペルソナとしては非常に珍しいサポート型に分類されるこのペルソナは、そのため非常に高い索敵能力を持ち、その索敵を逃れられるのは外部から見れば隔絶した能力の持ち主が集う現在のガイア連合でも、別格の実力者であるショタオジくらいのものである。

 そのメディアが言うのであれば、間違いなく敵はいない。それを証明するかのように、割れた窓の外の向こう、薄白い三日月に照らされた南島原市の夜景は平和そのものといった様子で静まり返っており、敵らしき気配はゼロ。

 

「ふむ、今日は焼肉にするってのも悪くないな」

「ですか。では近場の焼肉屋でも検索しましょうか?」

「悪くないね。できるだけガッツリ食べれるような、食べ放題の店がいい」

 

 と、適当に雑談しながら会話していると、その内に悲鳴も命乞いも仲間に助けを求める声も小さくなって聞こえなくなる。突入してきたメシアンと天使は全員が無惨な肉塊となって、屍鬼コープスの腹に収まっていた。とりあえずこれで、状況終了と考えていいだろう。

 結論付けた僕はとりあえず、と背後にいたもう一人の同行者の方を振り返る。

 

「さ、ささささささ流石ですな、流石は音に聞こえたガイア連合の【鵺】殿! まさか、あのメシア教会の精鋭部隊【聖鉄鎖騎士団】をこうも容易く破るとは!」

 

 などと言いながらベッドの上でガタガタと震えながらこっちを見る中年の男性『仁良光秀』は、日本の霊的国防組織【根願寺】から派遣されてきたサポーターだ。一応は覚醒者であり多少なら魔法も使えるが、アナライズしたところレベル6とかいうレベルなので、社会的なサポート担当と割り切って、正面戦闘で戦力として数えるのはやめたほうがいいだろう。

 

「あー……そんなに有名な連中だったんかコイツら」

「ええ、ハイ、もう! アメリカのセイレムを拠点に、三十人以上の魔女を摘発して火炙りにしてきた歴戦の部隊だとか!」

 

 うーむ……実感ない。

 

 確かに、ホテルの部屋の入口の窓側、ついでに爆破でブチ抜いた壁の穴と三ヶ所から一気に突入してきた手際こそそれなりに見事……だったかなって感じだが、それだけ。夜遅くの到着だったのでとりあえず一泊して翌日から仕事スタート、と思ったら初日の夜から襲撃掛けてくる素早さにも驚いたが、それだけ。

 霊体化させ潜ませていたコープスを実体化させた瞬間、部屋の床も天井も壁も一切を無数の死体が無造作に溶け合ったような異形の肉壁に覆われた地獄絵図と化し、そこから伸びる無数の手であっさり囚われ、十数秒という短い抗戦も虚しくあっさり全員が引き裂かれて死亡した。

 そんな具合だったので、どいつもこいつも一山いくらの雑魚という印象で、ぶっちゃけ大して強い印象がない。

 

 にしても、同じく根源寺経由の仕事を受けたブスジマ君は裏吉原だとかいう大人の店で接待された上で美少女特殊部隊と共同任務でキャッキャウフフしてた挙句、その特殊部隊の美少女隊長が転校生として地元に引っ越してくるとかいうハチミツ具合だったようだが、僕の場合はコレ。この格差は一体何なんだろう。まあ、どうでもいいが。

 

「ま、いいけど。とにかく、仁良さんはシャワー浴びて着替え、それから根願寺に連絡して事件の隠蔽を依頼して。僕も本部に連絡するから」

「あ、ハイ……こっ、こここここれはお恥ずかしい…………! 申し訳ありません……!」

 

 コープスを封魔管に戻すと、割れた窓と壁の穴以外には大した損害のないホテルの壁や床や天井が現れる。何の変哲もないビジネスホテルの室内だ。震え上がって失禁していた仁良さんは、恐る恐るベッドの下に足を下ろすと、ひょこひょこと引き攣ったような足取りでホテルの部屋のバスルームへと駆け込んでいく。

 でっかい世界地図が広がるベッドを見て溜息を吐き、スマホを取り出した僕は、一通りの事件の顛末をショタオジに報告する。一通りの報告が終わって数分経つと、着替えを終えた仁良さんが部屋に戻ってきた。

 

「お待たせしました。とりあえずホテルの方から新しい部屋に変えるように手配しておきましたが」

「いや、いい。すぐに移動するからね。メシアンに居場所がバレてる状態で寝泊まりとかできない。次はもっと戦力増やして襲ってくるのは目に見えてるし」

「で、では送迎を用意するように根源寺に連絡を────」

「それもいい。車なら自前で出せる」

 

 と、メディアと仁良さんを引き連れてホテルの外に出る。ホテルの駐車場には数台の車が止まっており、仁良さんはどれが僕の車なのかと周囲を見回しているが、どれも不正解、と僕は封魔管を開けてその場に自動車型の悪魔『クリス・ザ・カー』を召喚する。

 クリス・ザ・カーといえばスタイリッシュなスポーツカーであるのが大半だが、僕が従えている個体は闇に溶け込む黒のハイエース、要は割と普通のワゴン車だ。自動車の姿をした悪魔は、僕の目の前に出ると自ら僕を迎え入れるように側面のドアを横にスライドして開く。躊躇いなく後部座席へと滑り込んだメディアの後を追い掛けるように仁良さんがおっかなびっくり助手席に乗り込むと、クリス・ザ・カーはそのまま滑らかに発進した。

 

「【鵺】殿は運転免許もお持ちで……?」

「免許自体はペーパーだけど、この車は悪魔だから実質自動操縦みたいなものですよ。カーナビ乗せとけば運転席で居眠りしてても勝手に目的地に着いてくれる」

「はは、それは便利ですねえ……」

 

 さして規模もない地方都市の風景は、都心のものとは大きく違う。二階建てを越える高さの建物なんて駅前にも滅多にないし、そもそも画一的な形のビルなんてものもない。そういう意味では地べたにへばりついているようにすら見えるかもしれない。

だが、そんな街並みも今は夜の闇の中に沈んで目立たない。

 

「で、仁良さんはどう思います? つまり、どこから情報が漏れたかって事ですが」

 

 と、僕が口に出すと、先程から妙に顔色が悪い仁良さんは、ぎくりと身を震わせて、マズいところを突かれた、とでも言うかのように身を震わせた。

 

「は、ははは、急に何を!? い、いえその……【鵺】殿は襲撃がある事を予想していたので?」

「そりゃ、キリスト教が盛んで天使系の異界が山程な長崎近辺なんてメシアの勢力圏みたいなものですから、襲撃の一つや二つ起きても不思議じゃない。最低限の備えくらいはしてますよ」

 

 だから屍鬼コープスを伏せておいたのだ。霊体化を解除すれば室内全域が肉壁に侵食されたかのような状態になる。つまりは、外部からいきなり狙撃されたりしても壁になる、という事。今回のように直接踏み込んでくるような侵入者の場合も、迎撃用のトラップとして機能する。

 んで、どこぞのセイギノミカタな魔術師殺しみたくホテルごと爆破されたりすれば、まあその時は空飛んで逃げるしかない。そういう時は基本的に自分とメディアだけで精一杯になるので、仁良さんなんかは見捨てていく事になるのであるが。

 

「さっ、最低限……あそこまでの怪物が…………最低限。ははっ、あはははははははははは…………」

 

 蒼褪めた顔で壊れたようにケタケタと笑う仁良さんだが…………コイツ、今の自分の立場分かってるのかね。んな事を思いながら、彼に気取られないように後部座席にいるメディアに指示を出す。汎用スキルでテレパスを入れているので指示の通りは問題なく、ミラー越しに視線を合わせると、分かっていると言わんばかりに頷きを返してくる。

 

「ところで仁良さん、さっきから気になってたんですけど」

「はっ、はひっ、何で御座いましょうか!?」

 

 ま、結局のところ彼はここで終わりなのだが、せっかくなので、突っ込むべきところを突っ込ませてもらうとしよう。

 

「いや、僕の勘違いならいいんですけど────何でアンタ、さっきのメシアン共が聖ナントカ騎士団だって知ってたんだ? あいつら名乗り上げる前に全員殺しただろ?」

「え!? い、いやそれは、その、何と言いますか、ですね、……ハハハ、あれでも有名な連中ですから! まあ知名度の割に大した実力はなかったようですが、そ、それでもですね、アハハ」

 

 顔にびっしりと冷や汗が浮かんでいるのは、自分の失敗に気付いたからか。それでも諦めずに弁解を続けようとするのは、往生際が悪いというか、生き汚いというか、まあ褒めてやるべきだとは思うのだが、無駄な足掻きだが。

 

「じゃあもう一つ。メディアのペルソナはサポート型で、高い情報戦能力が特徴なんだが、それ使ってアンタの電話を盗聴させてもらってた。ナイ神父とか言ったっけ、アンタの電話相手」

「なっ…………っ!」

 

 咄嗟に懐の拳銃を引き抜いた仁良さんの手が、後部座席から伸びた手に押さえ込まれる。背後を振り返ってその腕の主の正体に気付いた仁良さんが、絶望に顔を歪めた。そこにいたのは、背中に純白の翼を広げた天使アークエンジェルだ。

 もっとも、“生前”と比べてその顔には生気が抜けて蒼白く染まり、その眼にも意志の光がない。ついでにアナライズ表記でも分類が“屍鬼”になっていたりする。

 

「なっ……何で!? だって、だってそいつは!?」

「ああ、アンタも知っての通り、聖鉄鎖騎士団とかいう連中の最大戦力だった天使アークエンジェルだな。さっきウチのコープスの夜食として美味しく頂かれたばかりだが、何、そのくらいなら蘇生すればいいのさ。“ネクロマ”って知ってるか?」

 

 ネクロマ。反魂魔法、というヤツだ。リカームのような治癒の延長線上に存在する復活術ではなく、死者を死者のまま立ち上がらせて死者として強制的に使役する術。仁良さんがシャワー浴びながらアメリカのナイ神父と楽しくお話ししている間に、それで蘇生させた大天使に全部喋らせた。

 メシア教会の作戦内容も、作戦目的も、コイツは全て知っていた。メシア教会の序列において、天使は人間の構成員よりも上の立場にいるのだから当然か。だから当然、誰が内通者なのか、もコイツが知っていた。まあそんなわけなので、結局ここまでの詰問は遊び程度の意味しかないわけで、仁良さんの抗弁とか言い逃れとか一つ残らず全部無駄でした、と。めでたくなし、めでたくなし。ウケる。

 

「じゃ、刑事ごっこ探偵ごっこはいい加減終わりにしようかね。明日はショタオジが増援寄越してくれるっていうから、合流のためにもさっさと寝たいんでね。無駄肉はお片付けと行こうじゃないか」

「あ、あひぃいいいいいい! 待って、待って、待ってやめて、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて誰か、そんなつもりじゃ、ごめんなさい、ごめんなさい、あぁあああああ誰か誰かぁああああああああっ!」

 

 僕は思わず運転中のハンドルから手を離して、両手で耳を塞ぐ。さすがに五月蠅い。防音結界も張ってはいるが、残念ながらこれは悲鳴が外に漏れないようにするための結界なので、車内の騒音を軽減する役には立ってくれないので。

 天井辺りの空間を占有するようにして召喚された屍鬼コープスが、狭い車内の天井から垂れ下がるように無数の腕を伸ばして仁良を拘束し、無数の口を広げてその肉に齧りつく。こんな状況で内通者、それも敵の立場からしても助ける価値もないような足手まといプラス獅子身中の虫をぶら下げたままメシア教会の大勢力の御膝下を走り回るとか冗談じゃないので、コイツにはきっちり死んでもらう。

 コイツが内通者なのは根源寺のミスだからこっちに責任は無いし、もっと情報が欲しいならネクロマで屍鬼か悪霊として蘇生させて聞き出せばいいし、で、生かしておく理由もなし。死体もスタッフが美味しく頂いてこうして綺麗に処理してくれるので後腐れもないし。

 

 さて、それじゃあさっさと落ち着ける場所に移動するとしますかね。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 夕食を終えて焼肉店を出る。本音を言うと焼肉食べてる最中にメシアンが襲撃の一つでも掛けてくるかと思っていたのだが、そういう事もなかった。何か余計な事でも企んでの戦力温存か、それとも単純に手持ちの戦力が尽きたのか。

 【聖都天草】以外にも天使が湧いてくる異界を単純計算で10以上も抱えているメシア教会が、戦力枯渇? いや、どう考えてもそんなオチは有り得ない。物量に物を言わせた人海戦術で安定と信頼のメシア教会だぞ。絶対、何かあるに決まってる。

 

「そうと決まったら、だ」

 

 愛用しているポーチから呪符を取り出して、そこに霊墨インク入りのガイア連合謹製ボールペンでさらさらと術式を書き加え、呪力を込めて投げ放つ。数はざっと20枚ほど。僕の血液を素材にした霊墨を使ったオリジナル呪符は空中で弾け散り、溢れるマグネタイトが呪符に封じた霊基を解凍・具現化させる。

 式神法によって具現化されるのは妖獣ヌエ。妖獣化の力を持つデビルシフターの血肉を素材にして作った呪符に、当のデビルシフターである僕のマグネタイトを吸わせて発動する身外身の術法。要するに西遊記の孫悟空が使う分身の術を再現したものだ。

 さすがに本体である僕自身や契約悪魔よりは弱いものの、それでも現地人からすれば怪物的なレベルの悪魔だ。空も飛べて、相応にステルス性能もあり、命令もしっかり聞いて知能も高い。それだけでも十分以上に価値がある。

 

「情報にあった天使の湧く異界と、それからメシアと根源寺の拠点、それぞれに一体ずつ飛んで監視。行け。メディアはコイツらをレーダーでマーキングして、システムをリンク。消滅したら報告頼む」

「ええ、お任せくださいマスター」

 

 指を鳴らすと、合計二十体にも及ぶ妖獣ヌエはそのままその身を黒雲の塊へと変じて霊体化し、そのまま南島原市各所に点在する各拠点へと飛んでいく。状況の把握は大事だし、とりあえず最低限の事はやっておかなきゃって事で。

 にしても、天使が溢れるほど湧いてるくせに未だ、この町は信じられないほどに平和で穏やかな日常を享受している。さっきの焼肉店で店員や客の頭をサーチしてみたが、天使に洗脳を食らっている様子もなかったし、頭に羽根が埋まっているなんて事もなかった。

 

「うーん……どうなってんだろうね、この状況」

 

 ちょっと意味が分からないが、ともあれ最低限の情報収集はやっておかんと。

 

「式神ヌエ各個体の知覚機能を『ナコティック』とリンク……全個体、正常に稼働中。所定の位置に到着したようです。ナコティックからマスターの端末にアクセス、リアルタイムで情報を転送しますから、必要になったらそちらからも確認できますよ」

「僕の式神だから視界を借りるのは普通にできるんだけど……まあ、それも助かる。記録取って……それから、ショタオジのとこにデータ転送も頼む」

「はい、大丈夫ですよマスター。そちらも既に進めています」

 

 メディア有能。しかしこれで、またショタオジの仕事が増えるな。申し訳ないが仕方ない。ぶっちゃけ個人で研究施設を渡されている僕は、言うなればショタオジの直属の部下といえる。したがって、その部下からの報告を受け取るのは上司の義務ってわけで。

 実際問題、状況がデリケート過ぎるから記録だけは詳細にとって報告できるタイミングで送り付けないと色々とヤバい、と思われるので。最善の行動を取っていかないと何が起こるか分からない、非常に怖い状況だからな。そのためにも、ショタオジには涙を呑んでもらうしかない。ごめんね。

 

 

 




 割とどうでもいい設定集

・聖鉄鎖騎士団
 元ネタは『ベルセルク』、ファルネーゼとかが最初に所属していた騎士団。割とあっさり解散した。何となく教会所属っぽくて、かつあっさり噛ませで潰されても驚かない程度の戦闘集団、という事で採用。
 今回殺された中にファルネーちゃんやセル彦がいたかどうかは知らん。いたつもりで書いてたけど、後で本編様や他の人の作品にそれっぽいキャラが登場したならいないって事で。
 所属していた人間の戦力は実はそこまで大した事はなく、ゴトウ配下の自衛隊とぶつかったら三分で蹂躙される程度の練度。まあ、原作設定からして貴族のボンボンの寄せ集めだから仕方ないね。無惨ニキから割といい評価をもらっているのは、弱過ぎて交戦時間が短か過ぎ、評価できなかったから、っていう理由もある。
 が、決して弱いってわけでもなく、レベル15くらいの天使アークエンジェルを召喚して大量のバフを掛けてもらい、上がったスペックに任せて突撃する戦法を得意としていた。というかそれしか引き出しがなかったが、現地人相手にはそれなりに有効だった。アークエンジェルが(現地人基準では)強かったという事もある。
 まあ基本、アークエンジェルが本体な集団。言うてメシアじゃ人間よりも天使の方がえらいから仕方ないね。

・仁良光秀
 元ネタは『仮面ライダードライブ』。主人公たちの上役に就任した挙句、敵と内通しまくって最終的には逮捕されボッシュートされたヤツ。
 元々は主人公のサポーターとして根源寺から派遣された人員、って程度で、戦闘力は低いけど政治力または世話力が高いキャラ、って事でゴッフとかペンウッド卿とか考えたけどどっちも日本人じゃないから日本勢力の根源寺では出しづらい……とか考えて、何となく思い浮かんだのがコイツ。で、採用した後で「あっコイツ絶対裏切るわ」とか思って、こういう結果になった。
 根源寺でも何かえらい家系の当主。レベル6とかで、新進気鋭の若手当主がレベル3、他に『【カオ転三次】俺が不幸なのはどう考えてもメシア教が悪い!』で登場した特殊部隊の隊長が確かレベル9とかだったはずなので、レベル6は現地人基準では相当に強い。
 多分、根源寺ではメシア関連の交渉なんかを担当していた。そのためメシアの脅威と戦力差をよくよく理解しており、メシアに媚を売った結果こうなった。化け物級の敵に怯えて寝返ったら、実は味方の方がもっと酷い化け物だったとかいう割とどうしようもないオチ。


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