ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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とりあえず終了。
どうにかこうにか。


魚沼TSV ~転生者バリエーション~ 06

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 午後、二時。

 

 昼食時が過ぎてさほど時間も経たない内に、偽りの魚沼市内部における戦闘は終了した。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 鳥煮亭総合学園、体育館。

 

 魚沼市の全貌が描かれた鳥観図を前に立っているのは、北斎ネキこと葛城北斗、そして秋葉ほむらの二人だけだ。

 

「偽魚沼市からは、全員退出したみたいだね。もう誰も残ってないはずだけど、取りこぼしがあるかもしれないし、一応確認しておこうか」

「そうですね。念のため」

 

 一通り絵を眺め、中に味方がいないかどうかを確認するが、中にいるのはまだ逃げている最中のメシア教会過激派の人員くらいのものだ。

 

「あ、裏面はどうですか? 確かトラップゾーンになっているとかいう話でしたけど」

「おっ、そうだったな。どれどれ……あー、うん、問題ないよ。捕まってるのはメシアンだけだ」

「そのようですね。では……始めましょう」

 

 眼前に持ち上げた掌の上に軽く【アギ】の炎を灯すと、ほむらはその灯火にふっと軽く息を吹き掛ける。そこから燃え広がった炎が、壁一面に広げられた画布へと静かに燃え移った。

 

「水の属性が強過ぎるとか、そもそも紙の概念を排しているとか理由は色々あるけど、基本的に、僕の絵は燃えない────燃えないけど、例外はある。今回は特にそう、燃えやすい画布に、燃えやすい油絵の具を使ったからね」

 

 ほむらの意志で制御される炎は体育館の壁や床に燃え移る事なく、音もなくただ静かに画布一面に広がり、画布を燃やし尽くしていく。偽の魚沼市が描かれた画布は数秒もすれば灰の塊となり、中に幽閉されていた生き残りのメシアン達共々、跡形もなく焼き尽くされていた。

 メシアンの残損兵力を残さず、神殺しの炎で絵として描かれた異界ごと焼き尽くし、処分する。それが、ほむらの今回の仕事だった。

 

 

「────これで、終わりですね」

「だな。ご苦労さん」

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 魚沼市、横町通商店街。

 

 その中心辺りにある広場は、今日は特に盛大に賑わっていた。広場の中心には大きな臼が設置され、そこで搗かれた餅が参加者たちに振舞われている。喪失した両腕両脚をシキガミパーツに置き換え、杵を振るっているのは意外な事に、先日メシア教会から助け出されたばかりの御坂美琴だった。

 

 低レベル覚醒者を中心に行われたメシア教会撃退イベントに参加できなかった一般異能者を中心に、自分達も何かやりたい、と溢れたその場のノリに対して、それならという事でサオリが提案したのが、これだ。先日アリウススクワッドの面々で揃ってやる予定だった餅つきパーティを、規模を大きくして商店街全体を巻き込んで行っている。

 企画や準備はアリウススクワッドと商店街が合同で進め、そこには商店街で働くようになったミサカシリーズの何人かも参加している。

 

 メシアン幹部ベアトリーチェが遺したアリウス計画、その最後の落とし子であるミサカシリーズは、一人残らず無事に保護され、全員が別々の道を歩み始めた。

 オリジナルである御坂美琴と共にデビルバスター稼業を始めた者達、アリウススクワッドの見習いになった者達、ガイア連合魚沼支部の事務員になった者達、駄菓子喫茶カラフルで働き始めた者達などなど、ほんの数日でそれなりに自我を発達させた彼女達は、それぞれが自分の意志で……主に食い意地で進路を定め、生活を始めている。

 

「ん、美味し……」

 

 そんな様子を余所に、広場の片隅にあるベンチに腰掛けたアツコが食べているのは、しっとりとした醤油の味付けが特徴的な納豆餅だ。上品でどこか育ちの良さが伺える食べ方の割に食べるペースは早く、ハイペースで餡子餅を口に詰め込もうとするヒヨリすら食べた量では既に越えている。

 そんな二人を横目で見ながら、ミサキは黄な粉餅の淡い甘味をのんびりと楽しんでいた。

 

「こういうのも悪くないね。自分のしてきた事が無駄じゃないっていう感覚……本当に不思議」

「そうだな。こうして全員生き延びて、別れた皆にも再会できた。これ以上を望むのは欲を掻き過ぎだと、そう思うのに、きっとおそらく、私達はまだまだ幸せになれる……そんな風に思うんだ」

 

 オーソドックスな焼餅を、海苔で包んで醤油を付けて口に運び、サオリは賑やかで、それでいて穏やかな時間を心の底から満喫していた。

 

「平和だね。これで私達の因縁、全部終わったのかな?」

「さあな。案外、しぶとく生き残って復活してくるかもしれん。だが相手が因縁の相手であっても、そうじゃなくても……私達のやる事は変わらない。そうだろう?」

「違いない」

 

 こんな奇跡のような時間が、いつまでも続けばいい……まあ当然、とりたてて厄ネタの火薬庫というわけでもないのに大事件が連発する東北地方なので限界はあるのだろうが。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 俺がサーシェスニキと出会ったのは結構昔、ガイア連合が発足してそれほど経っていない頃の話だ。

 当時、ガイア連合内部における“俺ら”のレベルは今と比べて低く、GPがまだ高騰していない事を脇に置いても、その辺の悪魔に対して無双できるような強者俺らの頭数は少なく、それは非戦闘員の部署である農業部においては余計に顕著な話だった。

 

 要するに、弱かったのだ。

 

 だからまあ、その頃は警備も結界と5レベル前後のイヌガミにアガシオンが数体って有様で、それでも非覚醒者の作物泥棒くらいなら余裕で防げたんだが……当時はまだ健在だったファントムソサエティ所属のダークサマナー相手に、地方組織から頂戴してきた呪物を結界に投げ込まれて異界化されてしまったりすると……ちょっと、こちらの対処能力の限界を越えていた。問題の呪物の中には、20レベルの悪霊インフェルノなんていう当時の基準では特級クラスの大物も混ざっていた事だしな。

 おかげで、色々と植えていた畑が燃えた燃えた。せっかく手塩にかけて育てた俺のニンジンにレタス、キャベツ、ジャガイモ、トウモロコシ…………うん、もう滅ぼすしかないよね!

 

 で、それはさておき、盗まれたのは首領パッチソードに甘葛、メンマ竹、ベーコンの葉に火栗の木の苗、といったところで…………イチゴとかシャインマスカット“程度”ですら盗まれてたらしいからなあ……それ以上の価値と利鞘のあるオカルト作物とか、そりゃ盗まれるよって話だ。

 

 中でも問題になったのは甘葛とメンマ竹だ。何せ盗んだ甘葛とメンマ竹を素材にして、ファントムソサエティに所属していた術師が“現行の化学捜査では検知できない癖に一定のラインを越えるとやたらと依存性が高くなる”とかいう危険ドラッグを開発してやがっていたので。

 

 まあ、その辺はヤクザ系俺らの虎ネキ……藤村さんとかその辺、当時ファントムソサエティとの抗争の最前線にいた裏社会系俺らが頑張ってくれたようで、数週間で大体どうにか片付けてくれたらしいのだが……彼らの力でも海外に流れた分は、割とどうにもならなかった。

 

 

 そう、海外にまで横流しされていやがったのだ。

 

 

 何でも、ファントムソサエティに所属していた木っ端ダークサマナーが、金目当てに半グレ経由でお隣の半島へと横流ししていやがったらしく、国内の裏社会に詳しいニキネキも、さすがにこの辺の海外に関してはお手上げという話で、事件を追い掛けてくれていた虎ネキ……藤村さんなんかに頭を下げられても、恐縮する他なかったのだが。

 

 そんな時に手を挙げたのが、当時はひろしニキと呼ばれていたサーシェスニキだった。ビジネス畑出身の彼だが、当時結婚していた奥さんが不倫して、その不倫相手が彼の上司だったとかいう話で、勤めていた商社をクビにされたばかりとかいう最悪のタイミングだったため、自暴自棄になっていた部分もあったのだろう。

 

 だがまあ、ともあれ優秀なビジネスマンだったサーシェスニキは、傭兵に転向しても優秀だった。複数の言語に精通したマルチリンガルは異国の地でも困る事なく、本場のビジネスで鍛えた情報収集と交渉スキルを占術と巧みに併用して問題の品が流れたルートを辿り、やがて現地の非合法組織の末端が半島奥地で劣化品を育てていた畑を数日で発見。

 そして当時習得したばかりの【マハラギ】を使って、畑をその管理者だった異能者や悪魔ごと焼き払い、余裕の体で帰還してきた。その報酬は、彼の新たなパートナーであるシキガミを作成するのに使われたらしく────。

 

「────ふぅん、大変だったんだねぇ」

「そうなんだよ……いや、本当に。まあ苦労したのはどっちかといえばサーシェスニキだと思うけどさ」

 

 まあ畑を焼かれたのは痛かった。

 

 畑泥棒絶許。

 ダークサマナー滅ぶべし慈悲はない。

 

「あははっ、悟志君も苦労してるんだねえ」

「それはまあ、それなりにね」

 

 とはいえ、俺自身の苦労といえば焼かれた畑を元通りに戻す事くらいで、そこまで大変な事は…………いやまあ、それ相応に大変だったけどな! オカルト作物とかオカルト農法って、栽培法が確立できてないから色々と大変なんだよ。

 それをどっかの馬鹿が途中で燃やしてくれたせいで、一年分の研究成果がパー。特に首領パッチソードや甘葛の一年間における栽培サイクルなんかは、もう一年かけて研究し直しという憂き目に遭った。うん、むしろその辺が一番大変だった。

 

「まあ、誰かの大事な人が死んだとか怪我したとか、そういうわけじゃないから問題なかったんだけどさ」

 

 そういうのが無かっただけ一番マシだったとは、いえる。死人が案外簡単に蘇生してしまうこの世界だけど、それでも誰一人死なないのが一番だってのは、そうだと思うのだ。

 

「そうだね。……本当に、それはそう。もう会えないと思ってた人が、実は生きててくれていて……それがどれだけ嬉しかったか、ね」

 

 ぽつり、呟いてミカは遠く、少し離れた畑へと目をやった。そんな畑の方では────。

 

 

「────森田殿直伝、【変位抜刀霞斬り】収穫モードでござる! ニンニン♪」

 

 

 無数に分身しながら、ブッ飛んだ速度でトウモロコシの収穫を進めていく狐耳娘が約一名……いや、分身した状態で一人って数えていいのやら、どうか。その隣ではアズサちゃんやらオトモのミサカシスターズ数名が、こっちは自分達のペースで和気藹々と農業体験中。

 

 ベアトリーチェとかいうメシア教会の幹部が企んだ魚沼シェルター侵攻……ついこの間起きた事件において、ミサカシリーズは一人残らず無事に保護され、現在は各々が別々の道を歩き始めている。

 向こうで農業に勤しんでいるのもそういう子らの内の何人か。大半はウチの農場に就職を決めた子らだが、中にはアズサちゃんとイズナちゃんら二人と一緒に宮城に引っ越す子らもいたりする。そういうのを見ていると、何人も同じ顔が並んでいてもやっぱり全員違う人間なんだと、妙な感慨が湧いてくるものだ。

 

 

 平和だ。

 

 

 あんな事件があったとは思えないくらい、この上なく平和。

 振り返ってみればメシア教会過激派の活動においても規模だけなら終末期においても珍しいくらいの事件ではあったが、味方側の重傷者・死者合わせてゼロ人、敵側の生存者もゼロ人で、敵を異界に引きずり込んでの決戦だったから市街地に出た被害もゼロと、実際問題ロクに爪痕も残せていないのだから仕方ない。

 

 

 ……本当に平和だ。

 

 

 温室代わりの異界の内側に広がる広大な農地、綺麗な黄緑色に色づいたトウモロコシ畑。太い茎の先端には濃い黄色に色づいたコーンの房────サイズは一抱えほど。探求ネキが開発したBBコーンを、サイズダウンさせて、もう少し一般向けに食べやすくしたベビーBBコーン……略して『BBBコーン』だ。

 収穫に巨大ロボでも持ち出すつもりかっていうサイズ感の原種と比べると随分と縮んだが、これでも房の一つ一つがカボチャやスイカ並みにでかい…………まあ、人間が扱えるサイズにまで縮んだのだから十分過ぎるくらいか。

 

 いや、本当にちょうどいい時期に来てくれたものだ。労働力なんて簡易シキガミの頭数を増やせばどうとでもなるからどうでもいいが、それ以上に大事なのは楽しんでくれる事、それが何よりありがたい。

 

 そんな風に思っていると。

 

「ふぎゃぁ~~~~~~~!?」

 

 縄張り争い中の猫のような叫び声が聞こえてくる。どうやら異界の入り口の方らしいと振り返ってみると、そちらの方から土埃を上げて走ってくるのは見慣れたコハル義姉さんだ。ダッシュしてミカの背中から生えた羽根の後ろに隠れたコハル義姉さんは、ミカの背中に隠れたまま横から顔を出して周囲を伺っている。

 

「あれ、コハルちゃん? そんなに慌てて、何かあったの?」

「へ、変なのがいた! 何か滅茶苦茶四角いの!」

「……変なの?」

 

 義姉さんが走ってきた方を確認してみると、そっちの方から誰かが近づいてくる。あのやたらとカクカクしたレゴブロックの人形のような特徴的なシルエットは、ロボ部員のスティーブニキだな。

 

「フシャ~~~~~~! ガルガルガル!!」

 

 ミカの前に飛び出したコハル義姉さんが近寄ってくるスティーブニキに威嚇している辺り、やっぱりコハル義姉さんはスティーブニキを見て逃げ出してきたんだろう。あの見た目は単なるゴッドモザイク術式なんだけどな。

 

「やあ農業ニキ、今日はいい天気だね。今日は雨を降らせないのか」

「今日は収穫日だからね。止めてるんだよ」

 

 ちなみにスティーブニキのあの見た目、元々はショタオジの作だったりする。元を辿ればあのビジュアルは本来、電脳異界の開発が始まった頃に同時に開発された、全電脳シキガミの原型となった機体のものだ。

 

 電脳世界におけるあらゆる活動に対応し、データ観測にも秀でた性能を持つ、まあ性能面では十分傑作と呼んでいい出来ではあったのだが……いかんせん絵心/zeroのショタオジの作という事か、あの外見が電脳部の面子には受け付けず、シキガミ造形部と話し合った結果として作り直されたのが現在の電脳異界で主流となっている“ミクさん”だ。

 で、ミクさんの実装により廃案となったテクスチャをわざわざ過去のアーカイブからサルベージして完成し、ゴッドモザイク術式による光学迷彩としてファッションスティーブをやり始めたのが、マイクラ職人だったスティーブニキだ。

 

「それが琴線に触れたのか、ショタオジにはちょっとだけ特典を付けてもらったけどね。だからこんな事もできる」

「ひにゃぁあああああああ~~~~~~~~~~!?」

 

 そんなスティーブニキは、ゴッドモザイクによる幻像をコハル義姉さんの視線の先に残しつつ、本体は光学迷彩で姿を消してそっとコハル義姉さんの背後に回る。マクロ制御でいきなり踊り出したスティーブニキの幻像に警戒心の全てを注いでいたコハル義姉さんは、ゴッドモザイク術式を再びオンにして姿を現したスティーブニキに背後から肩を叩かれるまでその存在に気付かず、そしていつの間にか背後に立っている事に驚いて、思わず全力で後退った。

 

「な、なななな何なのよ!? こ、怖がってなんて全然ないんだからね!!」

 

 警戒しながらじりじりと後ろに下がっていくコハル義姉さんの前で、四角形を無造作に結合させて無理矢理人型にしたかのようなスティーブニキの姿が無数に分身し、等間隔に並んでコハル義姉さんの周囲をグルグルと回転し始める。それを見て半ば恐慌状態に陥ったコハル義姉さんが可愛らしい悲鳴を上げて。

 

「はい、コハルちゃんをイジメるのもその辺にしておきましょうね」

「アッハイ」

 

 それを横から眺めていたスティーブニキの本体だが、横から手を伸ばしたミカにその後頭部を掴み上げられて大人しく沈黙し、コハル義姉さんの周囲で踊っている複数のゴッドモザイク術式を解除する。相当力を入れて握っているらしく頭蓋が軋む音がここからでも聞こえてきそうな感じ。その指にもう少し力が入ったらそのまま頭蓋を握り潰してしまいそうだ。

 

 ……まぁ、自業自得なんだが。

 

「すごいのです! 分身の術なのです! えっと、この術式だとこの辺がこうなってて…………えっとえっと、術式が高度過ぎて頭がこんがらがってきたのです! もうちょっと良く見せて欲しいのであります!」

「そりゃショタオジ製の術式だからね、そう簡単に見抜けたりはしな痛ったたたたたたた! そろそろ離してくださいお願いします痛たたたたたた! 頭が割れる! 頭が! 砕ける!」

「頭を割るよりもう少し術式の構成を割り込んだところまで見せて欲しいのですよ!」

 

 ある意味これ以上ないくらいに忍者らしい技を披露したスティーブニキに、目を輝かせたイズナちゃんが詰め寄っているが、本人はそれどころじゃない様子。あの状況なら答えるよりスティーブニキの頭蓋が割れるのが先だろうが。

 

「イズナ、もう少し落ち着いて。…………ミカ姉様、どうしたんだ? そっちの……えっと、四角い人は、知り合い?」

「うん、知り合いの黒札の人だよ。水耕栽培式の野菜工場を作る時に、色々と協力してたんだよ」

 

 ほらあっち、とスティーブニキをぶら下げてるのとは逆の手で指差すのは、異界の端の方に並んでいるガラス張りの近代的なビル。その中身は、天候や季節に依存せず安定して作物を収穫できる野菜工場だ。

 

「今メインで作ってるのはヒランヤキャベツだね。今インドの辺りで物凄い需要があって、結構なペースで売れてるんだよね。土地浄化用のキャベツ水に加工して、ガンペリーとかに積んで空から一気に散布するんだってさ」

 

 技術の基幹になっているのは、技術部と農業部が共同開発した太陽灯だ。

 太陽灯の素材となった日天合金木は太陽の概念を宿しており、本物の太陽とほぼ変わらない光を発生させると同時に、火炎や核熱といった太陽に近しい概念MAGを注ぐ事で使用者の力を増幅する性質を持つ。これを利用し、不浄や災難を除去する三宝荒神の力を宿した『三宝荒神式浄炎発電機』から動力を供給する事により、作物の成長速度を高めるだけでなく、太陽灯を介してヒランヤキャベツの持つ浄化の力をさらに高める事が可能となっている。

 都合のいい事に、三宝荒神はインド復興のために精力的に活動しているガネーシャ神=歓喜天と同一視される事があり、この性質もあってインドではキャベツ水の力を非常に高効率で引き出せているらしい。

 

「ってなわけで、本当によく売れてるんだよな。むしろ今も需要が足りてるかどうか怪しいところなんだよね」

「だから今日はその相談に来たんだよ。キャベツ工場、増やそうぜ。多分、インド以外の連中も絶対に欲しがるからな。というか、もうアメリカの狩人ニキから要請が来てるくらいだ」

 

 スティーブニキが口を挟んでくるが、まあそれもそう。キャベツ水の需要は、インドだけじゃ済まない。プルートーやクトゥルーの土地汚染が進んでいたアメリカとか、黙示録の四騎士が跳梁跋扈していたアフリカからヨーロッパに掛けてとか。

 

「まあ増産のためには日天合金木が不可欠なわけだが」

「佐渡でそっちの増産も始まってるっていう話だけど……」

 

 太陽の概念を宿した日天合金木の生産には、太陽の力を宿した高位悪魔の権能や、同じく太陽の力を持つ異能者の力が必須。核融合炉の燃料として必須となっているヘリウム3の生産に関わるヘリオス神を抱えているガイア連合佐渡島支部であるが、ヘリウム3以外にもアポリオンキラーの生産というタスクを抱えているヘリオス神がオーバーワーク気味になっている事も事実。

 そこでヘリオス神の下位分霊を大量召喚し、高位分霊の権能を借りて代行するヘリオス神作業Bot化システムを計画しているらしいが、そこまでして作業漬けになりたくないヘリオス神がごねるのに、ガイアとダイアナの二柱掛かりによる説得も少々難航しているとか。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、同じく太陽に関わる異能を持つ────底辺ニキである。生成された日天合金木を素材にした専用の増幅霊装を作成する事を条件に契約した様子だが、その前にレベル上げが必須という事で、今はひたすらレベリングに勤しんでいる模様。

 

「……まさかここであのゼンラーが出てくるとは」

「あのゼンラーが、まさか脱がす以外の役に立つとか……それ以前にあの野郎が強化されるとか、単純に効果範囲が広がるだけでも地獄絵図の予感しかしないぞ……」

 

 何かしら、どこかで騒動が起きるのは間違いなさそうだ。できれば、巻き込まれたくはないものだが。

 

 とにかく。

 

「キャベツ工場の増産は、まあ決定事項でいいと思うんだよね。むしろ、それに伴う色々に巻き込まれないようにする事が一番大事だと思うんよ」

 

 キャベツ水の需要拡大に託けて信仰の拡大を狙っているガネーシャ神が何やら企んでいる様子なんで……まあ、その辺は好きにしてくれ、と言いたいところだが、絶対に何かしらちょっかいを掛けてきそうだからなぁ……。

 

「特に農業ニキのペルソナはインド神話出身の『バララーマ』だからな。クリシュナの兄貴にして龍神アナンタの化身、そして農具を武器として扱った武神にして農耕神」

「絶対、何かやってくるよなぁ……ハニトラ系ならミカが傍にいれば心配いらないと思うんだが……うぅむ」

 

 何なら、何かしら他の神格とコンタクトを取っておくとかいう手も使えるか? 三宝荒神と同一視されるのは別に歓喜天だけでなく、不動明王や文殊菩薩だっている。特に不動明王は直接的に浄化の力を宿しているだけに、ガネーシャ神にとっては強力なライバルになるだろうな。

 あるいは純粋に太陽関連というなら、それこそ佐渡にいるヘリオス神とか? うーん、難しい。

 

 本当ならその辺、一介の農民が関わる話じゃあないんだが。

 俺は忙しいのだ。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 轟々と風音が鳴る。

 

 ただひたすらに冷たく、重苦しい冬の風だ。

 

 森の木々を揺らし、大地を白く塗り潰す雪とみぞれを運びながら、実りの枝葉を剥ぎ取っていく、強い風。

 

 聞くだに寒々しい大質量の風音に合わせ、鋭い風鳴りが耳元の空気を切り裂いていく。

 

 冷厳な音が空気を支配する中、黒髪を結い上げた少女は一人、部屋の中でキャンバスに向かい合っていた。

 

「……ふむ」

 

 淡々と絵筆を滑らせていく。キャンパスの上に描き出される人物画は、若者と呼ばれる年齢を少しばかり過ぎた、細身の男性のもの。その表情には労苦の多い人生を送ってきた事を伺わせる疲労の影が滲んでいるが、そこに己の所業を恥じるような暗い気配は見当たらない。

 

「……さて」

 

 見る角度を何度も変えて絵の彩りを確認しながら、絵筆を握る手を動かして、記憶に残る人物像────あるいはその魂の深奥に宿る力の根源を描き出していく。表面的な外見を忠実に模倣するのではなく、より深く、より克明に、画家の眼と感性で捉えた相手の本質をこそ描き写す。

 

「……ふむ」

 

 よし、と一つ頷いて、次は別の角度から視点を変えて、絵の具を塗り重ねていく。その様はまるで、ある種の求道者にすら見えた。

 

 そんな折、吹雪の音とは異なる遠慮がちなノックの音が、部屋に響いた。集中している少女はそれにも気付かず、ひたすらに筆を動かしている。あるいは耳に届いてこそすれ、意識の端にも置かずに描き続けている。

 

 再び、扉が叩かれる。

 

 そしてわずかな時間を置き、相も変わらず気にせず絵を描き続けている少女に再度の気付きを要求するように、先程より一回り強い調子で、もう一度。見かねた彼女のシキガミが、少女の肩を叩いて来客を知らせた。

 

「マスター、ドアが叩かれていますが」

「あれ? …………あ、本当だ。入っていいよー」

 

 気の抜けた返事と共に念動か何かの作用によるものか、誰も触っていないドアの鍵が外れ、扉が開く。そうして部屋に踏み込んできた青年は、室内を満たす厳冬の寒気に思わず身を震わせた。

 

「……寒っ!? 何これ、ちゃんと暖房入れてる!?」

 

 反射的に叫んだ声が冷え切った空気の中に拡散し、白く凍えた雲が広がった。対照的に閉め切られた窓の外は雲一つなく晴れており、青年が確認した窓の向こうには冬場の魚沼市にしては穏やかな青い空が見えている……というかそもそも今は本来、冬場ですらない。

 

「おっ、カズフサニキじゃん。暖房入れても意味ないんだよね、今コレ描いてるからさ」

「えー……いや北斎ネキ、何やってるのさ」

 

 部屋の隅には床の上に雪の粒子が小さな塊を作っているのに気付いて思わず顔を引き攣らせた青年は、少女の手元を確認する。恐ろしい事に……部屋を満たしている雪混じりの厳冬の寒気は、少女が描いているキャンバスの中から吹き込んできているのだった。

 

「…………いやいやいや、マジか!? マジだよ……いや本当に何なんだよ、これ」

「ただの絵だよ。ロボのお礼、普通にマッカ払いだけってのも芸がないからさ、ロボ部の人達とか、魚沼で世話になった人達なんかに送る絵を描いてんの」

 

 その内の一枚が、これ。

 

「この絵、田舎ニキ? だから氷の力で気温が下がって、部屋がこうなるのか」

「やー、ちょっと微妙に違うかな。絵が氷結系の魔力を帯びているのは、あくまでも結果。この絵は単に、絵の周りを“冬にしている”だけ」

「…………ちょっと待ってこの絵、まさか権能までコピーしてるの!?」

 

 少女が手近な場所に置かれている別のキャンバスに向かって指を振ると、キャンバスを覆っていた帆布がその指運に合わせて外れ落ち、独りでに畳まれて床に落ちる。そうして露わになったキャンバスに描かれているのは、全裸のまま春の草原に飛び出した青年だ。

 田舎ニキの肖像画とは異なりコミカルなタッチで描かれたキャンバスから溢れるのは瑞々しい春の陽光。心地よい春の空気がキャンバスから溢れ出し、一瞬前まで部屋を満たしていた冬の寒気を押し流していく。氷点下まで下がっていた気温が元に戻っていくのを感じて、青年は感嘆の息を吐いた。

 

「こっちの絵は底辺ニキか……下手すると、本当に何でもありだな……」

「や、そこまでじゃないって。ここまで忠実に権能まで再現するなら、ちゃんと書くべき場所を用意するか、さもなきゃ相応に時間掛けて練習しないと即興じゃ無理無理。最低限、作品として満足いく出来にはならないとね」

「…………できないとは言わないのな」

 

 まあね、と頷いて、少女は筆を置いた。話しながらでも描けないとは言わないが、しかし集中力は落ちる。戦闘以外でそれをするのは、絵に対する冒涜だと少女は思っている……戦闘中なら許されるのは、修羅勢の習性といったところか。

 両手にこびり付いた絵具を落とし、来客を迎えるためにティーポットを準備し始めた少女の肩越しに、青年は絵をまじまじと観察する。

 

「この絵……ひょっとしてこれ本人というか、霊的起源を描いてる?」

「おぉ、鋭いね。そうだよ。だから、本人以外が見る分にはただのオカルト絵画だけど、描かれた本人が見る場合、それは絵を通して自分自身の霊能の根幹を覗き見る行為になる。それが何を意味するのかは、本人次第だけどね」

 

 受け入れるのか、拒絶するのか、無視するのか、それとも呑み込まれるのか。

 どうなるにせよ、己の霊的起源を理屈ではなく体感的に理解する事になる。上手くいけばそれは自身の異能への理解を深め、その力の掌握を進める事に繋がるだろうし、あるいは異能の担い手が未熟であれば取り込まれて暴走する危険とて存在する。

 

「まあ、その辺は自己責任。黒札ならその辺、耐性はあるみたいだから本霊に呑み込まれる心配はないと思うけど、そうじゃない現地民異能者に関しては慎重に進める必要があるし……その辺は魚沼支部に委託する形になるかな」

「……って事は北斎ネキ、アンタひょっとして視界に入る人間全部の霊的起源が見えてるって事じゃ……」

「さすがに、そこまでは行かないよ。絵を描く上で、相手をしっかりと観察する事は必要だからね。描きながら理解を進める事ができないわけじゃないけど、ぱっと見で分かるのは割と少ないかな。よっぽど特徴的じゃないとね」

 

 何の役に立つかは分からないが、とりあえず凄いのは理解した……青年はただただ、苦笑いするばかりであり。

 

「ちなみに田舎ニキの霊的起源は割と分かりやすいよ」

「そうか? ……いや、冬や氷雪に関わる自然災害系だってのは何となく分かるけどさ」

「その中でも特徴的なんよ、田舎ニキの本霊は」

 

 普通、雪や氷に関わる神格っていうのは基本的に死や衰退、滅びなんかを象徴する事が多く、例外はそれこそ冬という概念のないハワイで信仰されるマウナケア山の女神ポリアフや、ツクヨミ級に情報がない天之冬衣神くらいのものだが。

 

「でも、その中に一柱だけ“守護”“外夷伐祓”の側面を持ったヤツがいます────そう、冬将軍だね」

「ナポレオンの東征もヒットラーの機甲師団も追い返した、永久凍土最強の守護者かぁ……なるほど、たまに軍事面で妙に才気走った行動をすると思ってたけど、そういう理由も……」

「んだね。多分、単純な気候神としてのジェド・マロースだけじゃなくて、ピョートル一世とかステンカ・ラージンとかその辺、縁深い色々な伝説的軍人も習合してんだろ。だから永久凍土の寒気を“軍事的”に行使するのが本来の適性だと思うんだけど、普通に戦うだけでそっち系、戦争向けの使い方には手ぇ伸ばしてないみたいなんだよね」

 

 もったいない、と、紅茶のカップの取手を手に持ったまま、少女は器用に肩をすくめた。

 

「うー、しばらく寒い中にいたから、ホットな紅茶は暖まるねぇ」

「そりゃ、あんなリアル冬の中にいたらな。……でも最近は【女王艦隊】なんかも使うようになってきたから、そっち系の能力も伸びてくるんじゃないかな?」

「だよねー。単純に戦場を氷で閉ざすだけでもなくて、一息で氷の城壁を築いたり、それこそ【女王艦隊】の応用で氷の兵団とか作り出したりとかもできるかもしれず。知らんけど」

「いや、知らんのかい」

「自分のスキルツリーをどんな方向に伸ばすかなんて、田舎ニキが自分で決める事だからねー。アドバイス程度ならともかく、他人が横から口を出すべきでもないだろ」

「それはそう」

 

 冬将軍────あらゆる生命を平等に篩に掛ける極北の世界を厳冬の力で統べる死の神であると同時に、その凍てついた大地の上に根付いて強く生き抜こうとする生命を庇護する守護者の側面をも有する神格。冬の神格としても、ほぼ例を見ない特異性。

 

「だから、魚沼とは相性がいいんだろうね。ほむらちゃんなんて特にそう────彼女は炎の神格であるヒノカグツチの転生体で、カグツチは本来なら野を焼き人を焼く厄災の象徴であるけれど、この地では春の訪れを告げる野火の神であり、その一方で鍛冶や何やらを始めとした文明の火としての側面もあって、それはこの凍えた大地では人が生きていくための生存圏を維持するための命綱だ。彼女はこの魚沼シェルターにあって、そういう在り方を確立し始めている」

「災害そのものではなく、別の災いを中和する守護神としての在り方に自らを変えつつある、と。彼女自身の人格との相性なんかもあるのかな?」

「だろうね。そして、いつかのマーベルヒトモドキとは絶望的に相性が悪い」

「試される大地は甘えを許さないからな……そりゃ相性最悪ってなもんだ」

 

 二人して肩をすくめて……ふと、少女は思い出す。

 

「ところで、カズフサニキは何しにこっちに?」

「あー……ちょっと用事があって、その辺通りかかったんだけど、ドアの前に変な封筒が落ちていてね、これなんだけど」

「ほいほい、んーどれどれ、何々?」

 

 封筒を手渡された少女は、受け取った封筒を雑に破りながら開けると、中から数枚のレポート用紙を取り出した。その紙面に書かれていたのは。

 

「ふーむ、おやおや……へぇ。そりゃそりゃ…………アイツら、まだ続いてたんだ。へぇ」

 

 その背中から、わずかに険を漂わせる。ただそれだけが高波にも等しい圧を伴った超越者級の気配の揺らぎに、青年は思わず顔を引き攣らせながら肩をすくめた。

 

「カズフサニキ、情報ありがとね」

「いやいや、俺はただ落ちてた封筒を拾っただけだって」

「うんうん、じゃーそういう事にしとくよ」

 

 隠された何もかもを残らず光の中に描き出してしまいかねない画家の瞳に見据えられた青年は、秘密の多い自身の身を恥じて逃げ出すかのように、悪戯っぽく笑む彼女の視界からフェードアウトしていった。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 日常の業務に一段落ついて、静かに昼下がりのティータイム。向かい合うように座った対面で、セイアは相手の顔をじっと見つめた。ティーポットとマカロンタワーを挟んで向かい合ったナギサが口元で傾けたティーカップの水面から立ち昇った湯気が、緩やかな午後の風に吹かれてわずかに揺らぐ。

 

 メシア教会過激派による魚沼シェルター襲撃事件────長々と時間と手間を掛けて準備されたにしては随分とあっさりと片付けられてしまったレベル上げイベントの事後処理もそろそろ終わり。

 ナギサは校内に在籍している異能者達の成長具合を確認し、記録を終えた。

 セイアの占術は、この事件がこれ以上尾を引かず、魚沼に害をもたらさない事を確認し終えた。

 

「今回は、残念だったねナギサ」

 

 先に口火を切ったのは、セイアの方だった。

 

「? 何の話ですか?」

「例の事件の最中に────北条さんとこんな話をしてね」

 

 

 

『そうそう、一夫多妻制に興味はないかな? 今なら私だけじゃなく、ナギサも一緒に着いてくるけど。お得だよ』

『悪いね、正直ミカだけで手一杯なんだよ』

 

 

 

 形のいい唇から紅茶を吹き出して咳き込むナギサを余所に、セイアは肩をすくめた。

 

「ちょっ、ちょっセイアさん!? 貴女、何考えて人の事を売り飛ばそうと!? というか私はオマケ扱いですか!? ちょっとその辺を突っ込んで詳しく聞かせていただかないと────」

 

 仰天して立ち上がるナギサを置き捨てるように、湯気を上げる手元のカップにミルクを垂らしてかき混ぜる。銀色の小さなスプーンが水面の上で回るたびに、透き通った褐色の水面の下で踊るミルクの渦が紅茶の中で溶けて、濁ったミルクの色に染まっていく。

 ミルクティーを吹いてわずかに冷まし、小さな口元を隠すようにティーカップを口元へと運ぶ。今日の紅茶はセイアが淹れたものだが、会心の出来になったと自負してもいいかもしれない。

 

「────人の旦那にしか興奮できない性癖」

「言い方!!!!」

 

 カップを置いて、セイアは再び肩をすくめる。

 

 言いたい事なら、山程あるのだ。

 

「理想の王子様の条件が“ミカを幸せにしてくれる事”なのはいいと思うよ。でも、いつまで抱えてるつもりなのかね」

「…………ですが……こんな感情、打ち明けられるわけがありませんわ。ミカさんを幸せにしてくれる貴方が好き、だなんて、そんな事」

 

 ナギサに。

 そしてセイア自身にも。

 

「……分かるよ。でも、それだっていつまでもこのままじゃいられない。もう少しすれば、子供だって産まれるんだよ」

「それは…………」

 

 二人の間に、重苦しい沈黙が落ちる。

 

 メシア教会によって改造された天使人間の多くがそうであるように、聖園ミカは最初から天使人間だったわけではない。

 

「セイアさん、昔の事……覚えていますか」

「ああ、忘れるものか。ミカがいなくなった時、ミカがいなかった頃。私達の幼馴染だったミカが行方不明だった頃」

 

 五年以上、昔の話。

 

 ちょうど魚沼市に暮らしていた普通の少女だった聖園ミカは、まだ穏健派と過激派が組織として完全に分離していなかった頃のメシア教団によって家族共々誘拐され、魚沼市から姿を消した。

 ちょうど半島の隣国による拉致事件が複数起きていた新潟・佐渡の比較的近くだったため、当初はその中の一ケースであると思われており捜査は難航、やがてそれが間違いである事が発覚した頃には、既に少女の身柄は日本になく、大陸へと運ばれた彼女は、天使を長時間活動させるための肉の器として人間を調整するための技術開発のため、実験体として扱われる事になった。

 

「忘れるわけがないとも。あの頃ちょうど私は覚醒したんだ、ミカを探すための占術の力に。でも、何度占っても知る事ができた結果は一つ────『私にできる事は何もない』『私の手は届かない』という、たったそれだけ」

「私は……それすらありませんでした。何もできず、ただ無為に時を過ごすだけの時間でしたわ。覚醒しても、傷を癒す能力ではミカさんを探す事はできず────」

 

 ミカを救えるのなら、この身を捧げてもいいと思っていた。

 

 そのまま二人が何もできないまま数年経って、そうして、しかしある日、何事もなかったかのようにミカはひょっこりと帰ってきた。少し離れた祖父母の家に引き取られた彼女は、いつだってかつてのように明るい笑顔を浮かべていて。

 

 しかし。

 

「それが、表情を取り繕っているだけだという事は、私にも見れば分かりました」

「そうだね。あの頃のミカは、見ているだけで辛かった」

 

 家族と共に攫われて、しかし戻ってきた時には一人。一緒に攫われた両親がどうなったのかは、想像に難くない。

 

「そんなミカをどうにかして救いたくて……本当に色々とやったよね。今でも覚えている」

「ですね。うっかり小学校の校舎を全焼させてしまった時には……ええ、本当に大変でしたわ」

「こっくりさん騒動の時だね。あれは……うん、不可抗力だよ。いくら何でも普通のこっくりさんで20レベルの悪霊インフェルノが湧いて出てくるなんて誰も思わないじゃないか」

 

 こっくりさんに参加していた小学生の一人が持っていた“恋愛成就のお守り”の正体が、呪物だった。そんな、よくよく注意していればセイアやナギサでも事前に見抜けたミス。

 

「そのせいでミカが重傷を負って……」

「懐かしい話ですわ……あの頃は、ミカさんは最強で無敵だと本気で信じていて、だからミカさんが負けるわけがないから何をやっても大丈夫だなんて」

「本当に、ね。タロットで死神を引いたのに、ミカの力を過信してこっくりさんを強行した私が言えた義理じゃないけどね」

 

 どこぞの霊能名家が御し切れなくて手放した呪物がダークサマナー経由で裏ルートに流れ、それを砕いて加工した代物を、メシア教会が別のダークサマナーを雇って地元の小学生相手に売り捌かせていた、というオチ。霊的事件を誘発させ、それを自分達が解決するマッチポンプを企んでいたらしい……子供を狙い撃ちしていたのが、実に嫌らしい。

 

 結果、こっくりさんにより召喚された悪霊インフェルノ────業火を撒き散らす焼死者の怨念は、【物理貫通】が使えなかった当時のミカにとってはどうしようもなく相性の悪い相手であり、結果、押し寄せる炎の波から他の子供達を助けて、ミカは重傷を負った。

 

「相性の悪い敵って、いるものだよね。もう少し考えて行動するべきだったと、今でも思い出すよ」

「その時に助けてくれたのが農業ニキ様────北条悟志さん。まさか、日本まで密航してきたミカさんを助けて下さった方だったとは思ってもいませんでしたけど……今も覚えていますわ。たまたまあの人が駆け付けて下さらなかったら、ミカさんも、私達も…………ええ。ミカさんが心の底から笑ってくれるようになったのはあの時から、ですわね」

 

 その時に二人がどんな言葉を交わしたのか、ナギサもセイアも知らない。おそらくそれは、ミカだけが胸の奥に大切に仕舞い込んでいる記憶であって、長年共に過ごした幼馴染であっても余人には触れる事はできないものであるのだろう。

 

 その後、当時から魚沼支部の支部長だった碧神凍矢に捕まって、副支部長である九重静に三人揃って散々叱られたのを覚えている。あの二人には、あの頃から散々迷惑を掛けたものだ。その後の謝罪行脚は……半分以上、ナギサの仕事だったが。

 

 ともあれ……命を救われた子供が、命の恩人に付きまとうようになったのはその少し後の事であり、そんな子供が美しく成長して美少女となり、やがては彼と結ばれる事になるのだった、が。

 

「羨ましいよね」

「それは、どちらが?」

「両方に決まってる。ああ、何度思ったか分からないよ。あそこに立っているのがどうして私じゃないのか、って」

「……分かります。私も一緒でしたから。ミカさんを幸せにしたい。北条さんから愛されたい。……二人のどちらも、大切にしたい」

 

 寂しげに笑って、思い出したように手元のカップを傾けた。いつの間にかカップに注がれていた紅茶はすっかり冷め切って温くなっており、既に湯気も途切れている。これはもう、淹れ直した方がいいかもしれない────そんな風に思った、ちょうどその時。

 

 

 

「ふーん……二人とも、人の旦那様の事をそんな風に思ってたんだ」

 

 

 

 思わず、反射的に背筋を反らした。

 

「…………み、ミカ!?」

 

 ことり、と小さく音を立てて、ティーカップがテーブルの上に戻る。その音がまるで死刑宣告を告げる鐘の音であるかのように、百合園セイアはどこもかしこも未発達の小さな身体を震わせた。横目で隣を伺えば、ナギサも同じように振り返って硬直している。

 

「か、鍵は閉めておいたと思ったけど…………」

「うん、開けるのが大変だったよ」

 

 振り返ってみれば、しっかり閉まったままの扉の横の壁に、ちょうどミカが通れるくらいのサイズの大穴が開いている。ここまで盛大に壁が破壊されていて誰も気づかなかったのは、使い捨ての呪符でも使って音を消していたからか……昔から、脳筋の癖にこういういらない場所で妙な器用さを発揮するのはミカらしいが。

 

 視線を逸らしつつ、手元にあったタロットカードを一枚引き抜いた。引いたのは“塔”のカード────意味するのは災難、災害、破壊、緊迫事態、受難。正位置でも逆位置でもお構いなしにロクな意味のないハズレカードだ。

 カードに描かれた絵図、落雷に晒され崩れ落ちる石塔の姿が、まるで自分の運命のように見えた。

 

「占いの結果は出たかな、セイアちゃん」

「な、何の話かなミカ……? 何を言っているのか分からないな。……それより、ちょっと用事を思い出してしまったから、ここで……────」

「ダウト」

 

 ひゅっ、と喉が掠れた音を上げた。

 

「私が何を言いたいか、分かってるよね」

「……あはは」

 

 セイアの額に一筋、冷や汗が垂れる。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「…………ねえセイアちゃん、ナギサちゃん」

「「は、はひ」」

 

 ヤバい、と。

 

 セイアとナギサは二人揃って、本格的な死を覚悟した。

 

 

「ちょっと、お話ししよっか」

 

 にこやかに笑うミカの背後から『悪魔らしいやり方で』という不要な副音声が聞こえた気がしたのは、本当に気のせいだったやら。

 

 

 ともあれ。

 

 

 鳥煮亭総合学園は今日も平和ではあるらしい。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 新潟・群馬の県境近い、人里離れた山中。

 

 鬱蒼と生い茂った木立の下に、小さな池ができている。一年の内の数日、雪解け水が流れるだけの涸れ沢から流れ込んだ水が作り出した、少々立派な水溜まりでしかない、そんな場所。

 

 ボウフラが湧いたその岸辺を下から突き破るように、一抱え程のナニカが泥を撥ね飛ばして姿を現した。不揃いな脚を広げた蟲か節足動物のように見える異形は、人に酷似した口を広げ、快哉の声を上げる。

 

『は、あははははははは! 生きている! 生きているぞ! 生きて、助かった……ああ天使様、感謝いたしますわ! アッハハハッハハハハハハハハ!!!』

 

 人間の生首に酷似した胴の左右から伸びる無数の羽根を節脚のように扱い地を這う異形の蟲────それが、今のベアトリーチェの姿だった。メシア教会過激派において司教の地位までなり上がり、一派閥を率いた古株の幹部の、成れの果てだった。

 

『だが……だが! 私さえ生き残っていれば、いくらでも巻き返しは効く!』

 

 そう叫ぶ怪物の姿は、怪獣のごとき威容を誇ったかつてと比べれば実に惨めであり、しかし。

 

『マグネタイトを蓄え、元の力を取り戻し、手足となる天使を召喚して、そして……そしてぇッ……!! 必ずや、この東北を天の業火で焼き払い、その焼け跡に光溢れる千年王国を────!!』

 

 それが可能なのも、また事実。

 

 兵となり手足となる天使を無限召喚できる天国の門の権能を以てすれば、組織的な地盤など無くとも、マグネタイト源さえ確保してしまえば、それだけで一大勢力を確保できる。

 

 

 もっとも、それすらも。

 

 

「“────この場を生き延びられれば、の話ですけどね!”」

 

 誰もいなかったはずの背後から唐突に投げつけられた声に、ベアトリーチェは反射的に振り返った。そこに立っていたのは、まるで何の変哲もない銀髪の少女の姿をした影であり────間違いなく人間のカタチをしているはずなのに、どうやっても“影”としか表現できない闇の深さ。

 

『っ……!? 何者!? お前は一体……っ!?』

「“どうも、邪神です”」

 

 羽根の節脚を蠢かせながら後退るベアトリーチェの姿に、邪神を名乗る怪物はにんまりとまるで人のごとき笑みを浮かべた。ベアトリーチェとは異なり紛れもなくに人間の形をしているはずなのに、どうしようもなくヒトに見えない不気味さに息を呑んだ彼女に向かって、邪神はまるで友人に対してするように楽しげに話し掛ける。

 

「“いやー、探しましたよベアトリーチェさん。ぶっちゃけ本音を言わせてもらうとGM的にはね、もうね、そろそろ退場してくれません? ほら、いつまでも同じ敵キャラが続投してると観客もぶっちゃけ飽きるというか何というか、ほら、よく言うじゃないですか『何度も出てきて恥ずかしくないんですか?』って。貴女、キャラとしての因縁イベントはありったけ消化しちゃったんですから、いい加減これ以上目立たれるとね、観客の人達もうんざりすると言いますか、私も通りすがりのGMとして困ってしまうと言いますか……これ以上出てきてもね、ストーリー的に美味しくないんですよ”」

 

 立て板に水を流すように語り始める邪神になど付き合っていられないとばかりに、多数の羽根を器用に動かして走り出すベアトリーチェだが、走っても走っても周囲の風景に変化はなく、相手との距離も広がらない。

 

「“あはは、逃げちゃ駄目ですよー、そうやって異能生存体みたいなノリで毎回出てきて人気取るようなキャラもいますけどね、そういうのって大抵ギャグ補正持ちですし、貴女そういうキャラじゃないですし。さっさと退場してくれないと”」

『おのれ、おのれおのれおのれェっ!! 私は、私はこんなところで……ッ!!』

「“いやいや、そんなテンプレみたいなセリフこんな場所で吐かれても困りますから。そういうのはクライマックスの最後でやってくれないと。はー……まったく、これだから三流の悪役は困りますねぇ”」

 

 無限の広さを持つのではなく、どこまで行っても距離が有限の空間に閉じ込められている。だからどこにも辿り着けない。そんな理屈を分析する事もできず。

 

「“それじゃあ天之河さん────さぁ、召し上がれ!”」

『あ、ぅ……や、やめっ……ぁぎぃやぁあああああああアアアアアアアアアア!!!!』

 

 ベアトリーチェの絶叫が、聞く者とていない無人の山中に響き渡った。

 

 

 

 




 やっと片付いた……これだけで一年ばかり掛かってる気がする。
 実に遅筆。

 まあ焦っても仕方ないし自分のペースでゆるゆるやっていこう。




~割とどうでもいい設定集~


・ミサカシスターズ
 元ネタは『禁書目録』シリーズ。
 メシア教会過激派幹部、司教ベアトリーチェが進めていたアリウス計画における最後の成果。
 ペルソナ使いの資質を与えた多数のクローンを量産・育成し、兵士として訓練しつつメシア教会の“弱いペルソナ使いを育てる技術”で育成。
 そこに大天使として召喚した邪神アイホートを召喚し、アイホートの雛を脳内に埋め込む事で本体である御坂美琴とのリンクを構築し、疑似的にメメントスを作り上げる。
 こうして完成した疑似メメントスを通路として、魚沼シェルターの防御を破って攻め込む予定だった。

 ミサカ達の持つペルソナは全員同じ『正義・グリゴリ』。見た目は『ポケモン』のコイル。
 戦闘系の能力は正直低いのだが、一様に千里眼と高い情報処理能力を持つ感知・支援型ペルソナという特異性の強い集団だったりする。
 また何気に全員が情報共有能力を標準装備しており、実はアイホート抜きでもミサカネットワークが使える。原作との差異として、このミサカネットワークはオリジナルである御坂美琴も接続できる。

 事件後はガイア連合に保護され、魚沼シェルターを中心とする色々な場所で働くことになった。
 オリジナルである御坂美琴と共にデビルバスターを始める個体、アリウススクワッドの下で働く個体、魚沼支部で事務員として働く個体、ガイアミートのウインナー工場で労働する個体、駄菓子喫茶カラフルで働く個体、農業ニキの農場に就職した個体、イズナとアズサに着いて宮城へと引っ越した個体など、行き先は様々。
 全員、既にこの時点である程度の自我が目覚めており、概ね自分の意志で進路を決めた。


・畑泥棒放火事件
 ガイア連合発足初期、それも本当に初期の初期、まだ“俺ら”の中でもそこまでの強者が存在していなかった頃……まだファントムソサエティが存命だった頃に起きた惨劇。
 ガイア連合農業部……という形態が定まり始めた時期のスローライフ嗜好の“俺ら”の集団が作っていた畑に、ファントムソサエティ所属のダークサマナーが農作物目当てにカチコミ掛けた事件。

 農業部という非戦闘員の巣窟に、当時としては破格である20レベルの悪霊インフェルノをブチ込まれたせいで畑が大炎上&異界化し、星祭神社などの修羅勢までが消火活動&異界攻略に駆り出され……その隙に探求ネキの初期作品を含む苗や種子が盗難の憂き目にあった。
 特に問題だったのが甘葛とメンマ竹であり、盗んだこれらの株を素材としたファントムソサエティの術師がオカルト素材製新型ドラッグを開発し、もう少しで量産ルートに乗せて売り捌くところまで進めていた。
 この辺はファントムソサエティと大絶賛抗争中だった裏社会系の“俺ら”が出動し、盛大な抗争の果てに最終的にファントムソサエティを崩壊に追い込んで片を付けたのだが……ファントムソサエティの下っ端ダークサマナーの手によって半グレ経由のルートで海外に横流しされており、そこで栽培が続けられていた。

 この辺を海外出張して片付けたのが、同時はまだビジュアルが野原ひろしだったサーシェスニキ。巧みな情報収集スキルで栽培地を炙り出し、非合法組織の拠点をいくつか盛大に本能寺して、海外に流れた分を丸ごと焼き払ってくれた。

 これ以降、農業部のある者は畑泥棒絶殺系農業修羅勢として覚醒し、またある者は侵入者の抹殺に血道を上げるタワーディフェンスガチ勢になった。


 外部組織の現地民がガイア連合に畑泥棒を仕掛けるならどうすればいいか……を逆算して色々考えた結果生まれた設定。
 日本国内にいたらカン・ユーニキとか流石兄弟から逃げられる気がしないし。


・BBBコーン
 探求ネキが開発したBBコーンを、人間が生身で取り扱えるサイズ感にまで縮めた新種のトウモロコシ。
 カボチャやスイカくらいのサイズがあるが、それでも20階建てのビルに匹敵するサイズの原種と比べればびっくりするほど小型化している。
 味は原種とそれほど変わらないが、未覚醒者でも食べられるとかいうオカルト食材の傑作。薬効はさすがに原種より落ちる……というよりも味と未覚醒者食用可に全振りしているため、オカルト作物としての効能はサイズと一緒にダウングレードしている。


・変位抜刀霞斬り
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 忍者系異能者“森田”からイズナに伝授された必殺技。
 本来は複雑にフェイントを掛けながら攻撃の左右を読ませず踏み込む幻惑付き単体攻撃……なのだが、イズナの場合は分身して一斉攻撃を仕掛ける全体攻撃技になっている。
 あまつさえ、今回はトウモロコシの収穫に使用された。


・スティーブニキの幻術
 見た目マイクラのスティーブなガワの幻術。
 ショタオジが作成したビジュアルを気に入って使っている。
 見た目の下になったのは電脳異界用のシキガミの原型としてショタオジが作成し、ミクさんのベースになった個体。ミクさんになったのは見た目の問題。
 ビジュアルを偽装するだけの光学迷彩……というよりも変装や偽装としてあまり役に立たないファッション幻術だが、ショタオジが作っただけあって優秀だし多機能で、幻術だけあって本体とは無関係に踊らせたり分身させたりと割と無茶が効き、本体は光学迷彩で姿を隠しつつある程度自律させて動かす事も可能なため、攪乱に最適。


・野菜工場
 水耕栽培式の野菜工場。技術部と農業部の共同開発。現在はインド亜大陸の浄化のため、ヒランヤキャベツの生産に全振りしている。
 日天合金木を利用した太陽灯を使って成長促進している。不浄や災難を防ぐ三宝荒神の力を宿した『三宝荒神式浄炎発電機』からの電力供給を行い、これを日天合金木の力で増幅する事により、ヒランヤキャベツの持つ浄化作用をさらに強化する。
 インド復興のまとめ役は三宝荒神と同一視される歓喜天=ガネーシャ神であるため、ヒランヤキャベツ水の効果を最大限に引き出す事ができている。


・インド亜大陸復興事業
 名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
 インドに陣取っていたメルカバーが⑨ニキにより打倒された後、奪還されたインドは核兵器による放射能とメシア教会による地脈のロウ化により重篤な汚染を受けており、終末期の現地インドではこれを解消するために現在は復興事業の真っ最中。
 多神連合により都市神として祀り上げられたガネーシャ神が自腹を切って借金して各地で都市復興の音頭を取っており、またガイア連合側からは盟主王ニキ率いる地球環境再現浄化機関『ブルーコスモス』が環境回復のために日夜走り回っている。


・北斎ネキの絵
 ロボ製造のお礼に送られたもの。世話になった人間、黒札現地民問わず全員分の肖像画が“霊的起源ごと”描き出されている。

 自分自身が描かれたこの肖像画を見た者は、自分の持つ霊的起源が何なのかを理解する事になるため、己が持つ霊能の理解や掌握を強制的に一段階進めてしまう事になる。
 これは自分自身の本霊を直視してしまう事と同義なので、本霊からの干渉に極端に強い妙な魂を持つ黒札連中ならともかく、現地民の場合は自分の絵を覗き込んでしまえばそのまま本霊に人格を取り込まれかねないため、現地民の分はガイア連合魚沼支部にまとめて預けられた。

 そうでなくとも絵そのものが描かれた対象に合わせて霊的な作用を周囲に引き起こすため、霊装やその素材としての需要もある。
 多分、大抵の現地民の場合、絵を見ないで素材として使い潰してしまうのが一番幸せ。その場合でも絵の所有者に最適な霊装の材料にできる。


・小学校炎上事件
 ティーパーティーの三人が小学校時代にやらかした最大の事件。
 小学生のこっくりさんで20レベルの悪霊インフェルノが呼び出され、学校に残っていた生徒多数や教職員を巻き込んで小学校一つが丸ごと燃える大火災に発展した。
 こっくりさんの主催者だったミカ・セイア・ナギサの三名も盛大に巻き込まれた。

 何でこっくりさん程度でそんな大物が呼ばれたかといえば、どこぞの霊能名家が御し切れなくなった呪物をダークサマナー経由で買い上げたメシア教会が、呪物を砕いて加工して、別のダークサマナーを雇って流していたから。幸運だか恋愛成就のお守りだか言って、地元の子供に捌いていた。
 挙句、それを自分達で解決する事でマッチポンプ、失敗しても異教徒の餓鬼と大人が死ぬだけなので自分達は無関係……と言い張る予定だった。

 事態を解決しようとした小学校時代の三人娘がインフェルノに突貫し、相性が最悪だったためミカが重傷を負う事態に。
 偶然にも近くに滞在していた農業ニキが畑泥棒事件でインフェルノ対策(ガチ)として携帯していた田舎ニキ製のアクエスストーンやマハアクアストーンを盛大にバラ撒いて消火した。

 裏で動いていたメシア教会はガイア連合魚沼支部やシスターフッドや、最近子供達の間で妙なお呪いが流行っているのを怪しんでいたババアネキと商店街の皆さんが頑張って走り回って全力で潰した。

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