皆さん新年おめでとうございます。
今年もよろしく。
◆ ◆ ◆
マン島。
イギリス、ブリテン島とアイルランドに挟まれたアイリッシュ海の、ちょうど中間に浮かぶ島。
広さは概ね淡路島と同じくらいとさほど大きなものではないが、法的には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」の一部としては扱われず、また主権国家ではないため半終末前のイギリス連邦の加盟国でもなく、しかし自治権を持つイギリス王室属領という特有の地位を維持し、独自の通貨や法律を保ち、イングランド・アイルランドとも異なる独自の文化を築いてきた。
────それも半終末が来るまでの話だったのだが。
半終末に際して、世界各地を襲った核攻撃の対象にこそならなかったが、しかし早々にアイルランドのキリスト教系過激派組織を取り込んで地盤を固めたメシア教会過激派からの襲撃を受け、ブリテン島侵攻への橋頭保としての基地化が進められていた。
地元の神格────常若の国ティル・ナ・ノーグの王である航海神マナナン・マク・リールはメシア教会の数の暴力に対して抵抗し切れず敗走、生き残った配下の妖精や異能者の半ばを引き連れて落ち延びた末、現在はブリテン島を勢力圏とするガイア連合イギリス支部へと身を寄せていた。
△ △ △
【ハギスは】地方防衛スレ・海外版(イギリス)Part.123【悪い文明】
772:名無しの転生者
と、いうわけでマン島です。
773:南ィ
マン○島と聞いて!
775:名無しの転生者
>>773
マン○は関係ねぇwwwwwwwww
776:名無しの転生者
エロマンガ島は別にエロ漫画の島じゃないし、スケヴェニンゲンの住民が即スケベって事にもならないからね。マン島もそれと一緒だよw
777:南ィ
(´・ω・`)そんなーwwwwwwwww
779:名無しの転生者
>>777
さりげなくラッキーセブン踏んでて草
783:名無しの転生者
それはそれとして、そろそろ真面目に話そうぜ。
マン島の解放作戦、やるんやろ。
784:名無しの転生者
せやで。
曲がりなりにもマナナンの島……つまりは曲がりなりにも本来なら大規模異界ティル・ナ・ノーグの基盤になる土地や。
いつまでもメシアンに持たせとくわけにはアカンねんからな。
786:名無しの転生者
特に今回のティル・ナ・ノーグは幻魔マナナン・マク・リールの本拠地奪還作戦だからな。
マナナンといえばケルトの主神ルーに魔剣フラガラッハ、Fate/zeroで幸運/zeroだった事で有名な英雄ディルムッド・オディナには双剣、そしてダーナ神族がアイルランドを巡る戦いに負けて追い出された時には楽園エヴヒンと不死の酒と無尽の食料を授けたとされる神格だ。
それだけに報酬も期待できるぞ。
787:名無しの転生者
その幻魔マナナンがモルガンネキにも大量の素材を差し出したらしくて、それをベースに色々作ってくれるらしい。
活躍したヤツにはモルガンネキ製の英傑シキガミも褒賞に入るとかって話やで。
788:名無しの転生者
マジか。
そりゃ全力で色々やらんと。
791:名無しの転生者
ま、喜んでばかりもいられへんがな。
偵察に出したシキガミからの入電によると、さっきマン島の要塞に超高レベルの魔人ペイルライダーが入城したらしい。確認できた限りじゃ82レベルだとか。
792:名無しの転生者
マジか!?
ガチだったら厳しい戦いになりそうやな。
793:名無しの転生者
その辺は、スペインやエジプトの連合員からもペイルライダーがイギリス近傍の海域に向かってるって情報が届いとるから信憑性はあるで。
やっぱマン島入りしとったか。
794:名無しの転生者
そもそもマン島攻略戦が決まったのって、マン島要塞のメシアン共がイギリスへの直接攻略狙いで戦力増強してるって情報が来たからや。
つまり、向こうが攻めてくるために体勢整える前にぶん殴って潰しておこうって考えやな。
797:名無しの転生者
でもペイルライダーですか……厄介ですね。
下手をすると数の暴力で押し寄せてくる天使の一体一体がペイルライダーの疫病の撒き散らす媒介源になってきますよ。
798:名無しの転生者
本当、他の赤黒白といい黙示録の魔人共は直接戦闘よりも戦争向けの強敵だよな。
どれも厄介で物騒極まりない。
801:名無しの転生者
今、ペイルライダーの疫病対策で宮城支部からピーコックメモリ100本を購入した。
密輸課経由のトラポートで輸送してもらって、もう受け取りも支払いも済んでるからな。
802:名無しの転生者
ピーコックメモリっていうと、孔雀明王の疫毒祓いの権能を込めたアレか。
なるほどアレなら確かに対抗手段になるな。
804:名無しの転生者
宮城とコネクション出来てて本当に助かったわ。
あっちの支部にはもう感謝しかない。
806:名無しの転生者
呉支部から購入したバルキリーに搭載して、疫病祓い付きのミサイルで弾幕貼って初手で対策する予定やで。
それ以外でモルガンネキも今、寝ないで病魔退散の護符を量産しとる。明日朝には実戦部隊の主要メンバーに行き渡る量が出来上がる予定やと。
810:名無しの転生者
緊急速報やで!!!!
今、呉支部からの援軍が参戦するって妙な連絡が!
813:名無しの転生者
マジか!?
814:名無しの転生者
しかもその援軍、呉のマークザインやて。
816:名無しの転生者
嘘乙。
⑨ニキはもうホワイトグリントに乗り換えてる。ザインは厳重に封印凍結中のはずやで。
819:名無しの転生者
いや、マークザインはあくまでもロボだから、ホワイトグリントからマークザインにまた戻す可能性もあるし、他のパイロットに変えて出てくる可能性もある。
820:名無しの転生者
でも真面目な話、あのデメリットマシマシ機体を乗りこなせるパイロットなんて、⑨ニキ以外におりゅ?
◆ ◆ ◆
青い海。
白い雲。
空には輝く太陽。
やってきました、アイリッシュ海。
「何か、水色というか深緑というか、寒色系というか。日本の海と微妙に色違うよね」
「そうね、マスター。ほら見て、あそこ魚が跳ねてる」
普段のロシアとは違う。まあ今のロシアなんて地域全体が氷でできた殺人ミキサーみたいなものなんで、そんなフロストパンクな末期世界を見慣れていれば、こういう真っ当な自然の風景は逆に新鮮に見えてくる。
シトナイと一緒に座る操縦席は窓どころか最低限のモニターやコンソールすら付いていない鋼鉄の子宮────全ての外部情報は神経接続を介して人間と機械との間で直接情報をやり取りする形式。
シキガミをそれを介して人間にも分かりやすく翻訳した結果として、僕の視界に直接投影される形で、外部の視覚情報が表示される。
僕と一緒に呉支部を介して派遣された味方である僚機は、合わせて四機。
呉支部の空戦部に所属するマスクニキのエルフ・ブル。
星祭修羅勢でもあるドモンニキのシャイニングガンダム。
ロボ研のテストパイロットを務めるバージルニキのアヌビス。
同じくテストパイロットであるダンテニキのジェフティ。
これ以上ない精鋭四機、編隊を組んで飛行している……で、バイトみたいな感覚で参加している僕の機体もその編隊の真後ろにいるわけだ。
『アヌビス、ジェフティの空間転移は概ね成功といったところか』
『呉から南アメリカを経由して、アイリッシュ海……で合ってるよな』
『ああ。GPSも正常に作動中で、位置情報も合っているし、周辺海域の地形観測データとの齟齬もない』
そして何より。
『東側から押し寄せる天使の大群────少なくともここが戦場である事は間違いないようだな。アリスネキ、想定以上の敵数での初陣だが問題はないか?』
「ばっちり! 問題ありませんよ、行けます!」
力のために自分も家族も何もかも切り捨ててそうなビジュアルの割に面倒見良いらしいバージルニキが通信越しに声を掛けてくるが。
『おい、まずいぞ!』
『どうした、マスクニキ?』
『敵の本陣が想定より早く動いたらしい! レーダーを見ろ、あと数十秒もすれば敵が目視範囲……見えるぞ!』
そう、問題ない。
所詮、たかだか敵が多い程度────せいぜい、押し寄せる蝗の群れのごとく空を埋め尽くし、太陽の光を遮って空が暗くなる程度の寡兵。
この機体は“多くを刈り取る”ために製造されたのだから。
本来は⑨ニキのために建造された、この機体────『Mk.Sein』は。
『敵陣より大規模魔法の発動を確認……【フレイダイン】八発、来るぞ!』
『皆、俺の周りに! 【ゼロシフト】で回避する!!』
「大丈夫────この機体を預かっておいて、この程度の数の相手に遅れは取れませんから。僕とシトナイと、そしてMk.Sein“White Lover”が全て轢き潰します」
僕が搭乗する機体────Mk.Sein“White Lover”。
ベースとなったMk.Seinに上半身を中心に大量の増加装甲と追加装備が施されている事もあって、見た目にはマークザインというよりは白いマークレゾンと呼んだ方が近い。その背部に翼のように配されたスラスターが顎門のように開放され、内蔵されたイージス展開基から膨大な熱量が放出される。
出現するのはヘキサゴンを連ねた巨大な光壁、もはや盾というより城壁と呼んだ方が相応しい巨大なシールドが一瞬で展開され、白熱し飛来する光弾を防ぎ止める。輝く城壁へと直撃した砲弾は僕の持つ反射耐性に弾かれ、そのまま来た道を逆戻りし、恒星のごとき破壊力を敵陣の只中へと振り撒いた。
『Jack Pot! アリスネキの物理魔法万能反射耐性……相変わらず破格だぜ』
『気を緩めるなダンテ、敵とて阿呆ではない! すぐ次が来るぞ!』
『ハッハァ! 兄貴も気ぃ抜くんじゃねぇぞ!』
『フン、誰に物を言っている!』
最初の攻撃は僕達だけを狙ったものではなく、避ければその背後に広がるブリテン島に点在しているシェルターや集落に直撃するように狙いが計算されていた。だがこのMk.Seinの守りが簡単に抜けるものじゃないと悟ったか、そんな意地の悪いお遊びは一旦棚上げにして、直接こちらに狙いをつけてきているのが分かる。
展開しっ放しのイージスの光壁に無数の攻撃が雨霰と撃ち当たっては反射し、敵に向かって跳ね返り爆炎を散らす。核熱属性だけじゃない。物理、火炎、氷結、衝撃、電撃、破魔、果ては呪殺や精神、万能に至るまで、とんでもない数の攻撃が当たっては弾かれる。
当然、こちらに傷はない。
ない、が。
「でも、だからって大人しくサンドバッグにされてやる必要はないよね!」
「照準を展開、優先度順にマーキングするわよ」
両肩に装着された盾のごときホーミングレーザー発振器が唸りを上げ、赤く燃え上がる拡散レーザーを放射する。無数の枝分かれして拡散しながら敵を追尾する熱光線は優先順位別にシトナイがチェックした敵を狙い、容赦なく敵陣を斬り刻み、分断していく。
背部のマウントラッチに搭載された双のルガーランスがアームによって両肩に移動、穂先を展開して内蔵された砲身から眩い灼熱光を放つ。
両手のベヨネットが刀身を展開し、内蔵された銃口から白熱するプラズマ弾を乱射する。
「シトナイ、こっちの観測システムからの情報を味方各機に共有して」
「任せて。各機体のシキガミ各位、エルフ・ブルのバララ、シャイニングガンダムのレイン、ジェフティのAIDA、アヌビスのDELFIにチャンネルを解放、相互データリンクより伝達開始!」
この“White Lover”の素体であるMk.Seinはそもそも、『探知術式や遠視術式等の機械化』をコンセプトとして製造された機体だ。搭乗者の霊感を補助し、増幅する形で発動する索敵・感知能力は編隊を組む五機の中でも群を抜いて高い。
その索敵支援を受け、僚機であるエルフ・ブルとジェフティもホーミングレーザーを斉射、シャワーのように降り注ぐ光の矢が、こちらに狙いを付けた敵から順番に射貫いていく。
「たった五機でも敵の物量に対抗できる────できてしまう。たった五機しかいないという事が、敵からすれば多分弱点に見えるだろうし、事実その通りではあるんだけど」
さて。
敵だって必ずしも馬鹿じゃない。いや、どうしようもなく馬鹿なのは間違いないが、それはそれとして馬鹿にしていい相手でもない。
攻撃が効かないとなれば、他の手を考える。
それが【テトラコワース】とかその辺の防壁破壊スキルなら効かないので概ね無視しても構わないが。
たとえば。
「障壁の内側に転移しての強襲とか」
まあ、意味ないのだが。
転移魔法に先行して発生する空間の揺らぎ、この“White Lover”の索敵系統が既に捕捉している。数にして18、転移が完了して敵が顕現するより速く、それら全ての情報は僚機へと転送済みだ。
バージルニキが操るアヌビスが拡大顕現させた武器型シキガミ“閻魔刀”を抜刀。転移系スキルを応用して空間それ自体を斬断する抜刀術が、空間の揺らぎを伝って転移を完了する前の敵を先行迎撃。
【食いしばり】や【不屈の闘志】で耐えた敵には出現した瞬間に、ドモンニキの操るシャイニングガンダムから【光輝唸掌】を込めた手足や気弾が突き刺さって爆裂四散させ、消し飛ばす。
『やれやれ……案外、対抗できてしまっているな。このまま、敵の物量に磨り潰されなければだが』
『弱気になるなよマスクニキ。この程度、修行用異界の深層じゃ普段通りだぞ』
『修羅勢と一緒にするな……とはいえ、このまま引きこもっていても埒が明かない、か。どうする、敵の攻撃を掻い潜って突撃するか? 俺なら2割程度の損耗を許容すれば、突入までは行けると思うが』
『おいおい、ジェフティとアヌビスの【ゼロシフト】なら一瞬だぜ。その2割は突入の後に取っときな』
『とはいえ、イギリス支部の動向を無視するのも良くないな。そちらに連絡は……ああ、こちら呉支部からの援軍だ。そちらはプーサーニキか、そっちの様子はどうなっている? 急ぐ必要はない、十分以上に持ち堪えられているし、何なら攻勢に転じるくらいの余裕は────』
うん、まあ。
戦うとか、そういう話じゃないんだよ。
このMk.Seinが────Mk.Sein“White Lover”が戦場に出てきた時点でね。
「────“同化”を使います」
途端、その場にいた全員が黙り込んだ。
『……使えるのか?』
「この程度の数、⑨ニキなら秒で片付けました。僕なら……まあ10秒くらいかな」
『何も、こんな場所で発動させなくてもいいんじゃないか?』
「いえ、多分、今、この場が一番奇襲性が高い。だから、最大速度で片付けます」
『いいね。OK、やってやるさ。護衛は任せとけ』
『寄ってくる敵、全て斬ればいいのだろう。要は普段通りだ』
『ボヤボヤしてるなよ。のんびりしてれば、俺達が全部倒しちまうぜ』
『全く……これだから修羅勢とエンジョイ勢は……!』
そんな仲間達のやり取りを目を細めて聞きながら。
「それじゃあシトナイ、【子守歌】を」
「ええマスター。精神防護を全開に、ニュクスの歌を────」
ペルソナを呼び出し、意識を集中させる。
「じゃ、始めようか。
意識が知覚する領域を一段階上、あるいは下の方向へとシフトさせる────魂とか精神が存在する位相、アストラル界とかイデア界、プレーローマ界、あるいは────集合的無意識。そんな風に呼ばれている、その薄皮一枚下の領域へと呼び掛ける。
意識の塊として存在しているアバターを、一つ、水面の下にある闇の中へと潜行させる。
《あ な た は そ こ に い ま す か ?》
呼び掛けは、問いという形で放たれた。呼応であれ反発であれ、悪魔であれば決して無視する事ができない“自己の存在証明”という尋問が、集合的無意識を伝って世界を浸食していく。
◇ ◇ ◇
同化。
Mk.Seinの代名詞ともいえる、最大の秘奥にして最悪の欠陥。操縦者の霊感を補助し増幅するMk.Seinの索敵機能を最大限に稼働させ、集合的無意識を介して伝播する呼び声を媒介に、巻き込んだ敵の霊基を魔晶に変えて暴食する奥義。
超広範囲に対し精神同調を仕掛けるこの技の最大の問題点は、それが“同化”であるという一点に起因する。
自身が相手の存在を読み取るように、同じく同化した相手にもまた、自身の存在が流れ込む。当然、Mk.Seinに騎乗した自身の存在は敵に気付かれるし、そして自身が敵を読み取ったのと同程度には、敵にも自身の情報が流れ込んでしまう。
それはさながら、深淵を覗く時には深淵もまたこちらを覗いているというニーチェの格言によく似ていた。
それどころか圧倒的物量の悪魔が発する膨大な思念に剥き出しの精神を曝露する事になるため、精神に掛かる負荷はどうしても過大なものとなる。それでいて索敵の際に思念波を放つ基点となるのが剥き出しの精神という事もあり、護符やシキガミの加護といった通常の対策はまず不可能。
結果としてMk.Seinのこの機能は、術者だけが多大な負荷を得ながら、自身の存在を超広範囲に喧伝しているような欠陥能力ともいえる仕様に成り果てていた。
それを立花アリスが鼻唄を歌うような感覚で軽率に取り扱えるのは、彼がペルソナ使いであるからだ。精神の鎧であるペルソナ『シュブ=ニグラス』によって精神の露出を防ぎ、集合的無意識を逆流してくる思念の波濤から自我を強力に防護する。
そして、それだけでもなかった。
◇ ◇ ◇
メシア教会過激派の戦力にも、それなりに種類がある。
主戦力は、悪魔召喚プログラムの原型である天使召喚プログラムによって召喚された膨大な数の天使だ。日本国内を除く海外各地の地脈が法の属性に染まり切っているため、地脈から相性の良い生体マグネタイトを無尽蔵に汲み上げて行われる機械制御での召喚は、ただそれだけで戦術も何もなく絶大な物量による平押しで勝てる。
それ以外にも高い練度と狂信によって統率された人間の兵士や彼らが操る近代兵器群、オカルト技術によって製造された天使人間など、駒は組織規模相応の幅を持つが、やはり基本は天使だ。
その中でも、天使召喚プログラムの機能の一つとして、異なる神話体系に属する悪魔を強引に天使としての枠に押し込んで召喚する事ができる。性質といえば、どちらかといえば通常の天使の中に異なる悪魔の権能を押し込めて使用可能とする、というのが近い。
スペインの戦線から転戦してきた二騎も、その分類に属している。
軍神ウィチロポチトリの権能を宿した、陽光の大天使シャムシエル。
幻魔トラロックの権能を宿した、降雨の大天使マトリエル。
かつて征服者の手によってアステカの大神殿から持ち去られた聖遺物を媒介に、アステカの大神の権能を取り込む形で召喚された大天使達。天使群の中でも間違いなく上位に位置する大戦力の一つだ。
シャムシエルは陽光を凝集させた投槍を生成しては投げ放つ【ジャベリンレイン】で狙い撃ち、マトリエルは頭上に形成した巨大な雨雲から無数の雨粒を針のように圧縮形成した【刹那五月雨撃ち】にて広範囲を薙ぎ払う。
「私はともかくマトリエル、お前の雨の権能で少数の敵を狙い撃つのは難しい。太陽の権能で我が槍を強化してくれ」
「心得た。しかし、それであの防壁を貫けるかどうかは……」
「うむ、しかし所詮は人間の作りしもの。神の加護がある我らに破れぬ道理もあるまい」
マトリエルの元になった幻魔トラロックもまた、寡少ながら太陽に関わる権能を持つ。それを合わせれば、シャムシエルの太陽の力を増幅・強化する事も不可能ではない。頷きを交わした二柱の天使は力を合わせ、直径十メートルほどの大火球を生成する。それを全力の集中で槍の形へと収束させ、今こそ投擲しようとした刹那。
《 あ な た は そ こ に い ま す か ?》
ぞくり、と、背筋に冷たいものが走る。興奮に冷や水を浴びせるように叩きつけられたその思念波に、絶対に、答えてはならないという事だけは本能的に理解できた。
はい、でも、いいえ、でも、答えの内容は関係ない。
だが悪魔であるのなら、ただ、その存在の是非を問われれば、何かしらの答えを返さずにはいられない。それは、そういう問い掛けだった。
だからこそ、自ら口を塞ぎながらも、心の奥で、思念で、意識で、応答を返してしまう。その応報は、脳内に流し込まれる絶望的なまでの情報の奔流によるものだった。
《其れは豊穣の女神、母神。千の仔を孕みし森の黒山羊。ハスターの妻でありヨグ=ソトースの妻であり────》
《其の姿は泡立ち爛れた晦き雲塊、時のその一部が蔓のごとき触手と化し、あるいは粘液を垂れ流す口となり、蹄を備えた奇形の脚となり、おそらくその脚の形から山羊の称号が────》
《高さ15メートルの鉄塔上に載せられた、軸を中心に回転する多数の鏡と、その中央に位置する巨大な凸レンズによって構成される機械装置、これをムーンレンズと称する────》
《シュブ=ニグラスにまつわる信仰は世界各地に確認され、時にはドルイドの一宗派、時には月の処女神を崇拝する魔女団、あるいは“偉大なる母”に生贄を捧げる祭司の集団など────》
《時に女神は無数の触肢の内から一本を生贄へと差し伸ばし、哀れなる生贄を引き寄せる。彼は女神が備えた無数の口の一つに捧げられ、噛み裂かれ、啜られ、命なき干からびた屍と化す────》
《“畝の後ろを歩くもの”はシュブ=ニグラスの植物性の化身の一つ。アイオワ州のオークヴァレーにある鄙びた田舎町とその周辺に現れるとされ、あるいは他の地域でも崇拝される豊穣神。アイオワのトウモロコシ畑の地下にあるトンネルと洞窟の込み入った迷宮に────》
溢れる悪性情報、正気を削ぎ落とす冒涜的な知識が脳内を根こそぎに侵略し、浸食し、凌辱し、蹂躙し、殺戮し、略奪し、そして破壊し尽くしていく。
天使としての矜持。
同胞への対抗心。
聖戦の希求。
信徒に対する傲慢と慈愛。
神への信仰。
欲望。
規範。
生の欲求。
理性。
本能。
知性。
精神。
自我。
無意識。
それら全てを押し流し、上書きし、脳内を席巻する悪性情報、冒涜的な知識の氾濫が無遠慮に何もかもを黒く塗り潰していく。
「う、あぁ、あ、あ、あ、あ、…………かみ、さま…………わ、たし………………あ、あぁ、やめてやめてとめてやめて………………」
いや、そもそも神とは何だったろうか。
自分の事すら思い出す前に、そもそも自分という概念すら消し去られ、狂気の中へと引きずり込まれていく。
Mk.Seinの最大の欠陥────それを、立花アリスはこれ以上ないほど効果的に行使していた。
ペルソナという鎧で自我へと掛かる霊的負荷を軽減するのみならず、同化を発動した際に自身の情報を敵に曝け出してしまうという最悪の弱点を、クトゥルフ神話における最大の邪神の一柱を象ったペルソナにて、その冒涜的な悪性情報を散布するという破滅的な知性破砕兵器として運用する。
それは単に精神を磨り潰す狂気の散布というだけに留まらない────情報の露呈という欠点はあくまでも同化に伴う副次的な作用に過ぎず、また同時に、術式情報の開示という呪術的な“縛り”すら兼ねていた。
吐き気を感じて、天使は喉からそれを吐き出した。咳と共に散った無数の羽根と共に、喉の奥から白く長い腕が生え伸びた。
伸びた腕は蛇のようにのたうちながら、あらぬ方向にばたばたと暴れ回り、それを契機に眼孔、耳孔、鼻腔、口腔、性器、肛門、汗腺、全身のあらゆる穴をゴムのように押し広げながら、無数の腕が生え出してくる。あるいはそれすら足りないとばかりに口が眼が鼻が耳が臓物が血管が脳神経が全身の至るところから生え出でて、その中からまた無数の腕が伸びてくる。
それを繰り返しながら天使達は醜く膨れ上がった肉塊へと変わり、そしてさらに膨張していく。
それは一時的な状態異常にあらず、霊基そのものの強制的な歪曲変成。邪神シュブ=ニグラスの持つ肉体変容の権能行使────そこに、この戦場に広く配置されたメシアンの信徒達から強制的に引き剥がした天使化の呪詛を添え、同化作用を利用して広範囲へと伝播する。
呪詛が足りなくなれば適当な天使を生贄に焼べて呪詛に変換し、さらに増幅しながら、敵を二度と戻れぬ肉塊へと変成し。
そして抵抗できなくなった敵を、皮膚や肉を裂いて生え出す無数のマグネタイト結晶が内側から刺し貫き、無惨な血塊がマグネタイトと散り、吸収されていく。
◇ ◇ ◇
天使の陣容が崩壊していく。
それはさながら、純白の砂糖菓子の上に憎悪たっぷりの強酸をブチ撒けるがごとく。
《 あ な た は そ こ に い ま す か ?》
冷酷にして荘厳な問い掛けが響くに合わせ、美しくすらあった秩序の軍勢が溶け崩れ、醜悪な肉の塊に成り果てていく。
そしてそれは、後方すら例外ではなかった。
◇ ◇ ◇
マン島、主都ダグラス。
イギリス側沿岸に位置する港湾都市。自然の入り江を利用した港として誕生し、中世には密輸の拠点として栄え、近代には行楽地へと方針を変え、現代へと至り────そして現在はメシア教会過激派に占拠され、その岸辺を護岸工事によって頑強なコンクリートの防壁で固められた軍港と化していた。
分厚いコンクリートの防波堤を巡らせた湾の内部には複数の大型軍用艦の艦影が見え、その上空を飛び交う賛美歌を歌いながら天使の群れや、それに追随する軍用ヘリの姿が、防備の堅牢さを示している。
《 あ な た は そ こ に い ま す か ?》
そんな堅固な海の城塞の中ですら、混乱は発生していた。
「て、天使様!? これは一体……!?」
悲鳴のように、信徒の声が響く。だが、それに応える声が一つもない。
「あ、あべ、あべべべべべべべべべべべっ…………!!」
「Ma、MahHAAAAAA、MAaaaaaaaaaaaaaaaahrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」
「いあ! いあいあいあいあいああああああああ!!」
「たすけ、かみさまたすけ、あ、、あっあっあっあっ!」
「ざざす! なさだなだ! ざざす!」
「わたしはてんし、わたしはてんし、てんしてんしてんてんてんてんてててんてててててててて……」
「ふんぐるい! ふんぐるい! かるこさ! よなるり! となろろ! くふぁやく・ぶるぐとむ!」
「いひぃひぃひぃ…………」
頼みの綱の天使は一体残らず、譫言を垂れ流しながら醜怪な肉塊へと変化している最中。何となれば、新たに召喚した天使すら顕現したその瞬間に全身を膨張させ、狂い果てながら全身の輪郭を溶かし崩しながら異形へと成り果てていく。
「あ、あぁ……何だこれは、何だこれは!! まるで悪夢だ!」
いっそ悪夢であればよかった。頭の腐った監督が作ったB級未満のホラー映画ですら見られないような、ただひたすらに醜悪さを撒き散らしたかのような光景に耐え切れず、信徒は悲鳴を上げながら逃げ出した。
その海上に浮かぶ大型巡洋艦が、ぐるりと砲塔を巡らせる。天使だった肉塊が、人員や機材を押し潰しあるいは同化しながら艦橋内部で増殖し、潰れた機材の断面から機械を侵食して、魅了呪詛を流し込んでシステム中枢を掌握。その機構を操作する。
甲板に据え付けられた機関砲を斉射して港湾を守る結界装置を狙い撃つも、その結界に弾かれる。メシア教会の技術で作られた破魔属性の弾丸は、同じく破魔の属性を持つメシア教の結界に対しては相性が悪い。
ならばと、甲板から溢れた肉塊を融合させ、呪殺と核熱の属性を付与しながら連射された砲撃で結界装置が歪み出すも、そもそも呪殺属性そのものがメシア弾との相性が悪く、思ったように威力が上がらず。
しかし、最終的にシステムを掌握された巡洋艦から巡航ミサイルが射出され、単純な物理的破壊力で結界装置は吹き飛ばされた。
同様の事態は、マン島の各所で発生していた。イギリスを狙う要塞拠点の島内を守る結界基点がことごとく破壊され、剥き出しとなったマン島は外界からの侵攻に対する防壁を完全に喪失した。
◇ ◇ ◇
同、ダグラス都内。
信徒が人間である以上、どれだけその生態を効率化しても人間としての生理機能を維持するため、最低限の衣食住を供給する必要があり、メシア教会の軍港として改装された港湾都市の内部にも、生活設備は存在する。天使の忠実なる走狗にして家畜である信徒達を飼育するための生活設備。
例えば、食料生産のための農業区画。
例えば、装備と最低限の生活必需品を調達し、維持するための工業区画。
例えば、人間が生活するための水道やガス、電気などを分配するインフラ区画。
その中でも、とりわけ中心に位置するのが兵舎であり、そして────よりいっそう凄惨な状況に陥ったのも、兵舎だった。
メシアンの拠点において最も数が多い戦力は当然、天使だ。それらは一瞬で“汚染”され、無惨な肉塊へと変貌していった。その肉塊に、変化が起こる。単細胞のアメーバのように脈打ちながら、そこだけは変わらない天使の羽根を広げ、空中に浮かぶ肉塊のその表面に、人間のそれと変わらない無数の口が形成される。
それらは形の良い唇を開き、白い歯の生え揃った口腔を露わにしながら、不揃いな歌を────賛美歌を歌い始める。聖母へと捧げられたラテン語の歌詞にオルガンの伴奏はなく、ただ足並み揃わない合唱を、人間と同じ形をした口から放たれたとは思えない耳障りな金切り声で一斉に歌い出す。
────天使の歌。
天使が人間を洗脳する時の手段として、脳に埋め込む天使の羽根と並んで代表として挙げられる、メシア教会の御家芸。それが今、メシア教会の軍勢を蹂躙するために使われていた。
真っ先に被害を受けたのは兵士達────メシア教会の技術によって生物としてのバランスすら無視して強化された元人間達。その中でも、特に天使の因子や素材を利用して強化された“天使兵”達。
降霊術にて天使の霊基を憑依させられた霊媒型。
医学的に天使の血肉を移植した外科手術型。
天使のフォルマを素材にした霊薬を注入した薬物投与型。
聖別した鋼と天使素材で組み上げられた機械式臓器に内蔵した天使の霊基を駆動する機械移植型。
それら種別はあるものの、例外はなく天使の讃美歌を浴び、内蔵された天使の組織や霊基が暴走する。
人間本位に製造されるガイア連合製のシキガミ改造人間とは異なり、メシア教会製の人体改造を受けた天使兵は基本的には例外なく“天使優位”の調整が為される。憑依霊媒型や機械移植型のように天使を内包する器として製造されたタイプであれば、宿主に過ぎない人間の意志よりも憑依した天使からの内部制御が機能的に優先されるし、外科手術や薬物投与で天使化した人間であっても体質的には天使に近くなるように調整される。
だからこそ、そのシステムが仇となる。
「あ、あが、ごぼ…………っ!」
白目を剥いた天使兵の一体が、その口から赤黒く濁った血を吐き出した。ゴミ一つ落ちていない清潔な石畳へと広がった血反吐は、その中に何枚もの白い羽を浮かべ、やがて地面に広がる血溜まりそれ自体が微細な羽根の塊へと変化して中空へと舞い散っていく。
それはそれだけ見れば幻想的な光景かもしれないが、現実には吐き気を催す冒涜的な怪奇の一つに過ぎず。
「やめてくれ、やめて! たすけて! やめてやめてだれか、だれか……っ!!」
悲鳴を上げる天使兵の変容はさらに続き、全身の筋肉を不規則に隆起させながら体内に埋め込まれた機械部品を排出し、その身体を変容させていく。暴走する天使の組織が人体を侵食していくにつれ、体表に無数の眼球や口が生じ、脇腹や股間から異なる手足が生え伸び、あるいはその背中から不揃いな奇形の翼が幾枚も発生し、苦悶と共にその身を天使へと近づけていく。
それは彼一人の事に留まらない。
メシア教会過激派によって要塞化されたダグラス全域、あるいはマン島の全てに起居する天使兵達、その全てが、同じような状態に陥っていた。全身を天使の組織によって侵食されながら、人間としてのカタチを喪い、奪われていく。
それは本来、天使への奉仕を栄誉とし、天使にその身を近づける事を目指したメシアン達にとっては望むべき形であったとはいえ、しかしそれを喜ぶ者はほぼおらず。
そうして変容を終えた者達は完全に天使化し、そして元々天使だったモノ達と同様に讃美歌の列へと加わっていく。
◇ ◇ ◇
現状、ダグラスで最も高い建物はメシアンの手によって建設された大聖堂────その機能は人々の心の支えとなる宗教施設ではなく、人間を天使に奉仕させるための屠畜場であり、そして同時に都市の意志決定を司る議会であり政庁だ。それよりも高い建物は取り壊され、現状のダグラスに高層ビルなど存在しない。
市内を見下ろす高台に築かれた大聖堂、その最も高い位置に置かれた司教室は小規模な礼拝堂を兼ねており、それなりに広く取られた室内の壁には採光を兼ねた大きめのステンドグラスの窓が嵌め込まれている。その窓から見下ろすガラスの向こうは、ちょうど地獄だった。
空を埋め尽くすのは肉塊の怪物と化した天使の群れ。元々天使だったモノ達も、あるいは元人間も別なく含まれ、天使人間を天使に変える讃美歌を流し、あるいは。
その肉塊の全身から剥離し、撒き散らされる煌めく粒子。埃のように微細なそれは、ミクロレベルにまで小さな天使の羽根だ。それらが逃げ惑うメシアンの身体に付着した瞬間、讃美歌に反応してメシアンの肉体を侵食し始める。
そうなれば一瞬だ。接触部位から侵食が全身へと波及し、人間ではなくなり、単なる天使という名の悪魔へと成り果てた事で同化の対象となる。
それは、天使とは異なる権能で形作られていた────ちょうど司教室の祭壇に突っ伏した状態で、全身を天使の組織に侵食されながら苦悶の声を上げる魔人ペイルライダーの持つ疫病の権能。
全身を覆う黒いローブすら天使の白い羽に侵食されたペイルライダーの権能は同化によって制御を奪われ強制的に操作されており、天使化の効果を疫病として拡散させ、まだ天使の因子を組み込まれていない下級のメシアン達でさえも同化の対象へと取り込んでいく。
「っ……おお、死が、死が見え…………イア、イア、おお聖母、聖母が見える…………────」
空中の天使の半ばを食い潰して生成されたマグネタイトを供給されたペイルライダーの手がゆっくりと掲げられ、その先にある天使を描いたステンドグラスが爆ぜるように割れ砕ける。その先に広がる空の上に禍々しい暗雲が湧き出し、その中心から顕現するのは巨大な悪魔。
黙示録の四騎士の内、赤い騎士は剣を、白い騎士は弓を、黒い騎士は天秤を持つとされるように、ペイルライダーに対しては死が付き従うという。強制的に引き出されたその権能を用いて発動する眷属召喚、呼び出されたのは────死神ハーデス。
ギリシャ神話における冥府の王、あるいはギリシャ・ローマに対する宗教的侵略によって都合良く捻じ曲げられた地獄の悪魔、さもなければ冥府や死、地獄それ自体の具象化であるが。
それ自体も悪魔である事には変わりなく、同化の対象には違いなく、召喚された傍から例外なく溶け崩れ落ちて肉塊へと変容する。ただハーデスの霊基を回収するという余禄のために、ペイルライダーの尊厳は冒涜され、破壊された。
◇ ◇ ◇
また、同じく大聖堂、地下────厩舎。異能者にせよ未覚醒者にせよ、メシアンの捕虜となった人間の大半が運び込まれるのが、コストと生産効率のバランスを取れる限界まで時間加速されたこの異界化施設だった。
牛馬が繋がれるような細かなブースには一つ一つに人間の女が繋がれ、スライム化した悪魔────大天使ガブリエル・スライムに凌辱され、悲痛な喘ぎや嬌声を上げている。男だろうが子宮を司る大天使アルミサエルの権能により女体化されており、次世代のメシアン兵を生み出す母胎となるのだ。
天使の羽根や讃美歌といった洗脳手段により戦力化するよりも、こうして生産設備で子供を産ませる家畜として扱った方が単純に“効率が良い”。
そういう意味では、むしろ男の方が価値は高い。性転換されたばかりの男は例外なく処女であり、だからこそ魔術的な価値があり────天使の祝福により生まれた初子は例外なく“父親”の資質を受け継いだ、優れた異能者の素質を持つ。
兵士にしてもいいし、素材としても有用だ。
ゆえに母胎として扱われるのは大抵“元男の女”だ。そうでなくとも男性経験のない処女でも同じ事、利用価値としては大差ない。下級天使の唄う賛美歌により精神を擦り減らしながら、いつ終わるとも知れない凌辱に身を任せるしかない。
それより一段価値の劣る最初から女で、しかし処女ではなかった者達の境遇は、より一層陰惨なものだ。
繁殖場とは異なる区画。
天使の祝福を多量に含む乳香と没薬の芳香は微弱な毒性を────未覚醒者であれば高濃度のマリファナを吸引するのと大差ない症状を得る程度の、覚醒者にはほぼ通用しない程度の毒性を有しており、しかしそんな匂いですら消し切れない程の濃密な臭気は、サバトに特有の淫臭と似て、しかし決定的に方向性の異なるもの。
血臭だ。
空気にこびり付くように濁った血の臭いと、そこに混じったわずかな排泄物の臭気が、その場所の本質を雄弁に物語っている。天使の讃美歌などでは打ち消せない悲嘆と死の気配が、背筋を震わせるほど濃密に漂っていた。
そこは屠畜場であり、精肉場であり、工場だった。
広く空間を取られた中央に配置されているのは、100mプールにも匹敵するサイズの長方形の巨大な水槽だ。その中は肉色の粘性の泥で満たされているが、おぞましい事に肉泥の水面は絶え間なく揺らぎ、時折人の顔や手足のようなものが浮かび上がっては沈んでいく。
メシア教会が各地から狩り集め、あるいは培養してきた無数の異能者を、邪神ラフムの泥に中国神話の生ける土を混ぜ合わせた溶媒に同化させた“人間の塊”────それが水槽の中身だった。
天井から垂れ下がる肉鉤が機械制御による無機質な動きで時折、泥の中に突き込まれては、その中から巨大な肉塊を引きずり出し、隣接されたコンベアへと運んでいく。
そのスペースから少し離れた場所に配置されている列では、天井から垂れ下がる金属製の肉鉤が規則正しく並び、そこには直径五メートルを越える巨大な肉塊が吊るされ、赤黒い血の色をした列を作り上げている。
皮膚を剥がされ、自動車よりも巨大な肉の球体と化したそれらが、元は人間だったと初見で理解できる者が、どれだけいる事か。
精肉用の人体改造────治癒魔法と、そして破魔による浄化を得意とするメシア教会だからこそ可能な、人間に対するこれ以上ない程の尊厳破壊。
手足を切り落とした人間を、治癒魔法の応用である生体操作によって肥大化させたもの。吊るされた“肉”達は機械制御によって自動的に血液を吸い出され、出荷されていく。
“肉”本体を死なせないように肉を採取するその手法は、治癒魔法に秀でたメシア教会の異能者だからこそ可能とする技法だ。皮膚や髪など無くとも、破魔による浄化は雑菌による感染症など引き起こさず、状態異常も治癒できるから病も毒も関係ない。
そうして出荷された血肉は、工廠区画で素材として使用され、現在メシア教会の総力を挙げて開発されている新型兵器の素材となるのだ。
曰く『マライカアーマー』。
ガイア連合のデモニカスーツを模し、数多の異能者の血肉を“素材”として利用して開発されたメシア側の装甲強化服『マライカスーツ』、それを叩き台に士魂号やヴァルキリーに代表されるガイア連合の機動兵器に対抗するべくか。その素材の供給源として限りなく効率化された、言わば“人間のブロイラー化”。この世界においてメシア教会がある意味体現する“行き過ぎた秩序の果て”、その極北ともいえる光景が、これだ。
あるいは、それすら不適格と見做された素体の扱いは────飼料生産用として扱われる。直径数メートルにも及ぶ巨体のその体表から一抱えもある乳房を無数に生やした異形は、皮肉な事に原始時代の女神像にも似通っており、その乳房から絶え間なく分泌される高濃度MAGを含んだ母乳がチューブを通して供給され、飼育される“家畜”達の飼料として供給されている。
そんな中で────そんな日々は、今日あっさりと終わりを告げた。
《 あ な た は そ こ に い ま す か ?》
冷徹にして無機質なその声が響くと同時、繁殖場で生白い粘液と無数の翼で構成されたガブリエル・スライムが一斉に膨張を始める。無秩序に暴走する肉塊は秒単位でその質量を増大させながら、その身体から無数の触手を解き放ち、無秩序に暴れさせ、生産に携わるメシアンを追い散らし、設備を破壊していく。
溢れる肉塊は津波のように膨張しながら溢れ出し、その余波は繁殖場にも及び、震動によりいくらかの肉塊が鉤から剥がれ落ちていく。
「っ、どうした!? 何が起きた、暴走か!?」
「分かりません、ですがっ……!」
「ともかく事態の収拾を! 召喚だ、天使様を呼べ!」
生産施設を管理するメシアン達が一斉にCOMPを操作し、自身が契約する天使を召喚しようとするが────彼らが目にしたのは、それら天使が全てその身を溶け爛れさせながら肉塊へと変貌していく姿だ。それは同化によって媒介された邪神シュブ=ニグラスの権能による肉体変容であり、それ即ち宇宙的狂気の産物でもある。
ましてや天使崇拝者であるメシアンが直接契約した天使とは、すなわちメシアン自身の魂と精神を守護する守護天使でもある。魂を直接保護していた天使が機能を喪い、それが邪神の権能に囚われて変容していく姿を直に見せつけられれば、もはや冒涜的な怪異がもたらす狂気からは逃れられない。
天使だったものを媒介にして邪神が伝染させる狂気の権能に間接的にでも触れてしまえば、メシアン達が正気を保っていられるはずもなく。
「ああ、ああ~~~~~~~!?」
「てんしさま! てんしさま! たすけたすけたすけてててててててて…………」
「ああ、窓に! 窓に!」
「いあいあ! しゅぶ・にぐらす!」
「宇宙とは……真理とは…………ああ、ああ!」
「あははははは! いひひひひひひ! ひーっひっひっひっひっひ! ひゃーはは!」
あられもなく発狂していく。
ある者は虚空に助けを求め、あるいは譫言のように宇宙的な祈りの文句を唱え、あるいは笑い、どこかで聞いたような言葉を無自覚に垂れ流し────そして散布される讃美歌と疫病に侵食され、精神と肉体の双方から天使の体組織に侵食され、屠畜場の肉鉤に吊るされていたものと大差ない冒涜的な肉塊へと成り果てていく。
そんな中。
床に転がったルサルカ・シュヴェーゲリンは数度咳き込んで肺の奥から得体のしれない粘液を吐き出すと、身体を起こし、呆然と周囲を見回した。
「……ひか、り?」
囚われ、“肉”として利用されている間、うんざりするほど見続けてきた聖なる光ではない。何の変哲もない、人間が作った蛍光灯の光だ。その眩しさに、ルサルカは光を遮ろうと手を翳し────そして気付く。
「手が……私の手が、腕がある…………!! 足も!? 肌もある、髪も、全部全部……!」
息を呑む。
声が、震えた。
傷一つない綺麗な肌だ。天使の治癒魔法によって醜悪に膨れ上がり、加工しやすいように皮膚を剥がされた肉塊では、ない。その事実に、涙すら零れてくる。
「ああ、ああ! 私の手、足……体…………!」
荒い息を吐いて、体を抱き締めた。
天使の奇跡によって霊基から歪められる人体改造は、通常の治癒魔法では治せない類のものだ。それを治した存在────ある程度、予想は付く。治癒ではない生体改変の権能を持つ大悪魔、それこそ数瞬前に自分の精神に触れてきた存在。
《あなたはそこにいますか?》というあの冷酷な問い掛けがあったからこそ、崩壊し、廃人になりかけていた自分の意識を取り戻せたのだ。そして、こうして体も治癒された。
それはもう感謝しか、ないが、それこそ後でどれだけの代償を取り立てられるものか……あるいは、かの存在にとってはどうしようもなく安易で、わざわざ対価を要求する程の価値すらない行為でしかないのかもしれないが。
処女、プライド、死後の魂、あるいは尊厳。代償を支払う事など、慣れている。
そんな事を考えている余裕はない。身を震わせたルサルカは大きく息を吸って吐いて数度、深呼吸を繰り返し、波立つように揺らぐ感情を鎮める事に成功する。
ひとまず今優先するべきは現状把握。
ここは……まあ、メシア教会の施設で決まりだろう。視界に広がる屠畜場だったこんな施設、用意できるのはメシア教会かガイア連合くらいのものだ。もう一つの対抗馬である多神連合に、こんなものを用意できるような組織力などありはしない。
何より、周囲で阿鼻叫喚の声を上げている連中のどれもこれもが明らかにメシアンだ。
だが、それがこうも冒涜的かつ効果的に破壊されているとは、どういう事か。
「一体、何が……事故、それともやっぱり、噂のガイア連合……?」
どちらにせよ、助かったのは事実、か。
ふらつく頭を振りながら、それでもここに留まっているわけにはいかない。弱った体に鞭を入れるように、ルサルカは立ち上がった。
もう一度辺りを確認するが、周囲には冒涜的な神々を讃えるか恐れるかしながら狂い回る、冒涜的な肉塊に成り果てたメシアンの成れの果てばかり。情報を聞き出そうにも、周囲が狂人ばかりでは拷問の達人だろうが御手上げだ。
周囲がこの惨状で、それでいて自分には傷一つないのは不可解ですらある、が。
「────おそらくは何かしらの攻撃、しかも無差別ではない、ね」
自分が想像できる範囲でここまで大掛かりな……最低でもメシアンの施設一つをここまで完全に破壊、いや破滅させる事ができる術法といえば、高位悪魔の大規模召喚による権能行使、などだろうか。
たとえば自分であれば適当なソロモン七十二柱あたりを使うのだろうが、こんなにもあからさまにグロテスクな惨状を作り出すなら、召喚されたのであればおそらくはクトゥルフ関連の高位神格と見て間違いは………………いや、そうでもないか。メシア教会の業とて、グロテスクの方向性こそ違え、イカレ具合の程度は似たり寄ったりだ。
これでも、メシア教会に捕まる前は名だたる黒魔女としてそれなりに有名だった身だ。その程度の判断は付く。
「近代の、それもパルプ・フィクションのホラー小説の神が、古代から信仰を集めた神々や魔性と同格の力を持つなんて……笑わせるわねぇ」
しかもある程度の敵味方識別も出来ているようで、この施設を管理していたらしき天使やメシアンが例外なく不気味な肉塊へと変貌しているのとは裏腹に、何人か、自分と同じように肉塊やスライムの孕み袋から解放された者がいるようだ。
「一体、どんな術者が何をやったのやら。本当に滅茶苦茶よね…………まあ、今は考えても仕方ない、か」
ルサルカは手近なラックに吊るされていた職員用の白衣を羽織ってとりあえず肌を隠すと、自分と同じように肉塊から解放された少女へと歩み寄る。
「アンタ、立てる? 名前は?」
「私、ですか? ロキシー・ミグルディア……貴方は?」
その名前を聞いて、ルサルカは思わず目を丸くした。
「ロキシー!? アンタ、ロキシーなの!? いやいやいやいや、確かに言われてみれば面影はあるっちゃあるけれど……ずいぶんと可愛らしくなっちゃってまぁ」
「……私を知っているんですか? 貴女、一体……?」
「私? 分からない? ルサルカ・シュヴェーゲリン……覚えてない?」
肩をすくめたルサルカに、ロキシーと呼ばれた少女は目を丸くする。黒魔女と白魔女……お互い、在り方の異なる魔女としてメシア教会の台頭前には何度も殺し合った仲だ……メシア教会の勢力が拡大してからは、幾度か共闘した事も。
「っ、貴女ルサルカ!? 死んだって聞いて……いや、それ以前にその姿……っ!」
「うるさいわね。アンタだって同じよ、アンタも面影くらいはあるから、名前を言われれば気付くけどね」
驚愕する今のロキシーの姿は、ルサルカの知る過去のものとは大きく異なっている。確かに美女ではあったが、こうも強烈に人の感覚に訴えかけてくる強烈な美貌を持っていたわけではなかった。
「多分だけど……人間としての原型がないくらいに改造されてしまった私達の霊基を治すのに、“誰か”の霊基を参照したのね。まるで電子データをコピーペーストするように……」
なるほどその理論であれば、理屈の上では不可能ではない……途方もない技術が必要になる、という以外は。ルサルカたちの常識では、とてもではないが元の人間らしい姿に復元できるような代物ではない、はずだ。治癒にも長けた白魔女であるロキシーであっても、ここまでの奇跡は不可能だ。
あんな肉の塊のような姿になってしまえば、その場で可能な限り素早く苦痛なく命を断ってくれるのが一番の慈悲であり唯一の選択肢……そのはずだし、ルサルカでも同じ決断を下すだろうが、彼女達の救世主はその選択をしなかったらしい。
「……本当に、奇跡みたいな」
「そう、ね」
今この場で、その存在に何かしら言葉を投げ掛けられれば、それだけでその一言がその後の人生の軸になってしまいそうな程に、精神がぐらついている。それを自覚しているから、こうして平静を装って現状把握に努めているが。
最低限の冷静さを保っているからこそ、分かる事もある。
「こうしてばかりもいられないわ。さっさと動くわよ」
「そうね。でもルサルカ、この状況からどうするの?」
ロキシーのそんな言葉に、ルサルカはすっと目を伏せた。メシアン共に捕縛される以前に契約を結んだ悪魔は一体残らず消滅させられているし、黒魔術による契約のラインも残っていない。
そういう意味では身一つしか残っていないが……その身一つが驚異的だ。自分の身体を治すために霊基情報を提供した“誰か”は、よほど才能に溢れていたらしい。儀式も霊装も悪魔との契約も何一つない状態で、黒魔女として名を馳せた以前と遜色なく魔法を扱えるとなれば、もはや呆れるしかない。
魔女ルサルカ・シュヴェーゲリンの黄金期は、今か、そうでなければこれからだ。全身を巡る魔力とマグネタイトの流れを把握し掌握して、その事実を実感したルサルカはにっと笑みを浮かべる。
言われるまでもなく、彼女が最終的にやるべき事は既に決めている……そして、今やるべき事もだ。
「そのためにも、まずは現状把握、と言いたいところだけど、そんな事を言っていられる余裕があるかどうかも分からないわ。とりあえず生存者を確保して、囚われている人間を可能な限り救出、ってところかしら」
「救出、ね……貴女がそんな、人助けみたいなことを言い出すなんて」
ロキシーは軽い驚きに目を瞬かせた。ルサルカは古い知り合いであり、同門だったこともあるが、総じて悪辣な人間だ。それがこんな事を言い出すのは、正直意外だった。
「別に、善意ってわけじゃないわ。ただ、あと少しでガイア連合が突入してくるかもしれない。その時に、できるだけ心証を良くしておきたいでしょ」
「……なるほど、貴女は本当に変わっていないようですね。……いいでしょう、私もやりますよ」
二人はまだ困惑している周囲の生存者たちを取りまとめるべく、手分けして動き始める。
そんな中で。
「…………変わっていない? ええ、そうね。今は、まだ」
自分達を救った、神のごとき何者か。
その誰かと出会ってしまえば、その時にこそ、自分はその相手に何もかもを捧げてしまうのだと、そんな確信が、ある。
◇ ◇ ◇
大聖堂から郊外へと一直線に伸びる間道にて、一台の装甲車が走っていた。車体の両脇には全身甲冑で身を固めた騎士が騎馬で随伴して周囲を警戒しているが、彼らの意識はどちらかといえば道を塞ぐ肉塊の排除に注がれており、鍛え上げられた熟練の異能者としての戦闘力にこそ微塵の陰りもないものの、警護として考えるならその能力は平時よりも落ちている。
かつての“彼ら”であれば、そのような無様は晒さなかったはずだ。それはあるいは、かつて時代が半終末期に移り変わったその当時、メシア教会による核攻撃によって彼らの主力にして最精鋭が、それを率いていた騎士団長もろとも核の炎の中に消え去った時に、終わっていたのか。
(……隊としての質は、確実に落ちているよーね)
配下の騎士達を供回りに置き、装甲車の座席に揺られる女は、その慨嘆を周囲に悟られないように小さく溜息を吐いた。
かつての英国王室を継ぐ最後の一人として、アーサー王を名乗る小娘や、彼女を担ぎ上げたガイア連合英国支部の存在を許容できず、メシア教会に入信してまで戦い続けてきた身の上ではあるが────身の振り方を、誤ったかもしれない。そんな風に思ったのは今回が初めてでは、ない。
「殿下……いえ、大司教。我々はこの先、どうなるのでしょうか?」
「勝つに決まってるでしょーが。私がいれば連中に……成り上がりの、自称アーサー王の餓鬼に対抗できる正統性は、ある。“切り札”だってしっかり私が持ってるから、戦いの決着がついても欧州や他の天使やメシアンからの干渉は不可だし。これだけ揃って、何をどうすれば負けるっていうのよ」
「はっ……」
自身を守る騎士の一人が吐いた弱音に、女は────現メシア教会過激派大司教にして、かつての英国王室第二王女キャーリサは、内心を押し隠して答える。弱気の欠片も見えない強い言葉を受けて騎士の顔には希望の色が広がるが、しかしそれとは裏腹にキャーリサの内心は酷く暗鬱なものだった。
(……多分、この盤面は詰み手だし)
端的に言って、キャーリサは天才だ。主に軍事方面において発揮されるその天才性は、優れた戦術・戦略眼と統率力によって彼女が率いるメシア教会過激派がガイア連合イギリス支部と正面から拮抗できた要因の一つであり、英国本土に王手を掛けようとしたこの期に及んで、この戦場で……あるいはこれからの戦いにおいても勝ちの目が完全に無くなった事を彼女に対して否応なしに見せつけていた。
(……まさか、こんなところでヤキが回るとはね。挽回の余地も絶望的だし)
キャーリサは、腰の剣帯に吊った“切り札”の柄をそっと撫でる。普段は深い安心感を伝えてくるその感触が、今はどうにも頼りない。
彼女の切り札────英国王室重代の魔術霊装『カーテナ・オリジナル』は英国内の地脈と接続して膨大なマグネタイト供給を得ると共に、イギリス国内に限り担い手に対して大天使ミカエルの権能を付与するというもの。また、それと同時に配下の軍をミカエルの天軍に対応させる事によって絶大な力を供給する事もできる。
だが、それは言い替えるなら配下全てを天使兵へと変化させるというものであり。
(“感染”の順序はまず天使、そして天使兵、最後に人間が感染して天使化し、喰われていく。つまり敵が使ってきたこの攻撃は、要するに対天使特効の力であって、その力は天使兵に対しても有効。カーテナを発動させれば、その時点で私の負けが確定する……この状況、どう足掻いても八方塞がりなのは確定なよーね)
だが。
だが、敗北はあくまでもこの盤面上での話。この攻撃の主をどうにかして排除する事に成功すれば、カーテナは再び使用できるようになる。その時こそ、逆襲の時。
穴だらけの戦略だ。姿を見せずにこれだけの規模の攻撃ができる敵となれば、とんでもない高位の異能者。あるいは何かしら弱点があるにせよ、その程度が何をどうしたってどうしようもない程度にはがっちりと周囲を固めているはずだ。
そんなものに頼らなければならない程に追い詰められている事実から目を反らしつつ、キャーリサは進む。それが起死回生の道であるか、それとも死出の旅路であるか。
だが。
(何にせよ、この場を乗り切らなきゃどうしよーもない……────)
そんな風にゆっくりと思案できたのも、その時までだった。ドア越しに鋭く振るわれた騎士の長剣が、鉄板をバターのように斬り裂きながらキャーリサの利腕を断ち落としていた。それだけでなく、隣の席から抜き打ちで放たれたコンバットナイフの刺突、運転席から肩越しに撃ち込まれる銃弾、後部座席の裏から伸ばされた剛腕による首絞め、それら全てが本来彼女を護衛するはずの騎士によるものであり。
「っ、ぐッ…………!? お前、ら…………」
血反吐を吐きながら腰の拳銃を抜き放ち、首を締め上げる太い腕の肘関節を撃ち抜いて逃れ、そのまま転がり落ちるようにして装甲車から飛び出した。常人ならそのまま落下死も有り得る状況だが、身体強化程度の心得もあり軽い打撲程度で済ませたキャーリサはそのまま身を起こし、走り去っていく装甲車を見送った。
装甲車の人員からの追撃がない事に軽い疑問を感じながら、全身の負傷の程度を確認。利腕は斬り落とされ、腹腔にはナイフの刺突傷、どちらも通常なら致命傷の部類だが、懐の魔石を噛み砕いて呑み込めば出血も止まり、異能者の身体能力でまだまだ動ける。締め上げられた首は捻挫したように痛むが、こちらは今気にしている余裕がない。
そして何より、最悪の問題。
「っ、……やられた」
気付いて思わず舌打ちする。操られた騎士たちが連携してきた事からしてどこかに“人形遣い”がいるのは間違いなさそうだが────しかし敵はどうやら本当に底意地が悪いらしい。
「……意地だけじゃねーな。性格と、何より手癖もだ」
運転席から撃たれた銃撃、その弾丸はカーテナを吊っていた腰の剣帯を的確に撃ち抜き、破壊している。落ちたカーテナは、走り去った装甲車の床だ。
「片手だけで生き残れる状況か……いや、どーだろうな」
その場に残ったのは騎馬の騎士二人、どちらも完全武装で、その槍先がこちらへと向けられている。
「お前ら、誰に武器を向けてんのか、分かってんだろーな」
「無論でございます! 全ては姫様を大いなる聖母に捧げるために!」
「これが我らの忠誠の証です! お受け取り下さい姫様!」
調子外れの声で返す騎士たちの両眼が眼窩から押し出され、空になった瞼の下から天使の翼が伸びてくる。……彼らは、もう駄目だろう。
かつての部下に心の中だけで短く謝罪して、キャーリサは眼前の敵へと向かい合う。聖母、などとわざわざ告げるのも一般的なキリスト教徒であればまだしも、メシア教徒としては随分と違和感の強い言葉であるが────そんな事を考えている余裕も既にない。
背後から、それも複数、別のエンジン音が響いてくる。おそらくは敵の増援。時間的余裕など皆無で、悠長にしていれば出血からしてまず自分が保たない。
覚悟を、決めるしかない。
「────いいさ。ならば相手になってやろう。だが、このキャーリサ、今や英国王室唯一の正統後継者だ! 容易くこの首、取れると思うな!!」
△ △ △
【悲報】地方防衛スレ・海外版(イギリス)Part.124【マン島、一撃死だった件】
194:名無しの転生者
吐いた。
196:名無しの転生者
吐いた。
197:名無しの転生者
ワイも。
199:名無しの転生者
吐いた。
200:名無しの転生者
抜いた。
201:名無しの転生者
いやー、キツいっス!
205:名無しの転生者
ワイも。
206:名無しの転生者
同上。
208:名無しの転生者
グロ杉ィ!
210:名無しの転生者
ちょっと待て>>200
214:名無しの転生者
マジだし。
一人だけ変なの混じってるぞwwwwwwwww
217:200
だって普段は無駄に高慢なメシアンがグロ肉塊に変えられていくのって興奮しない? するよね!
219:名無しの転生者
しません。
220:名無しの転生者
いやーキツいっス!
221:名無しの転生者
単なるグロ画像だし、無理。
224:名無しの転生者
でもマークザインの同化ってこんなんだったっけ?
226:名無しの転生者
少なくとも原作だったらもっとこうマトモなものだったはずだよ。
敵が緑色の結晶に覆われていって、その結晶が砕け散ったら中身の敵も消えてるみたいな演出の。
228:名無しの転生者
少なくとも⑨ニキが使っていた時はほぼ原作再現の同化だったよ。
アリスネキのこれは……よく分からん。
231:名無しの転生者
多分だけど、同化を媒介にして何かのスキルか術式か権能を伝播させてる。細かい事は分からん。
233:腐れ外道
修羅勢のワイが画面越しに【アナライズ】してみたで。
とりあえず何かの権能だって事は分かった。それ以外はよく分からん。
235:名無しの転生者
【悲報】修羅勢さん、案外無能wwwwwwwww
237:名無しの転生者
おっ外道ニキオッスオッス。ハゲは治った?
238:詐欺師
>>235
いや直に顔合わせてるわけでも、リアルタイムで撮ってるわけでもない動画の画面越しに【アナライズ】を通せるだけでも結構有能だぞ。
霊視ニキみたいな解析系能力者でもないのにそれだけできれば相当なもんよ。
240:腐れ外道
>>237
全然治らん。
>>238
セツニキオッスオッス。フォロートンクス
あと今度こそハゲ治す術式を教えてクレメンス
242:詐欺師
外道ニキ、人間には実現可能な事と、そうでない事があってなwwwwwwwww
243:名無しの転生者
>>242
無情で草wwwwwwwww
245:詐欺師
それはそれとして、あれは権能で正解だ。
シュブ=ニグラスの肉体改造の権能を同化のシステムに乗せて広域感染させているらしいな。しかも術式を利用して効果を高めてもいる。
246:脳缶
同化を利用した探知の代償に、探知した相手に自分の情報が流出するみたいだけど、それを上手く利用しているね。
邪神シュブ=ニグラスのペルソナを利用して冒涜的な知識を意図的に流す事で、自分の情報は隠蔽しつつ相手を発狂させて一方的にアドバンテージを取れるようにしているみたいだ。
で、冒涜的な知識を流した分、術式開示の縛りで術式と権能が強化される。
さらに同化を利用して制御下に置いた天使に讃美歌を歌わせて、天使兵の天使化を強制促進しているみたいだね。
248:名無しの転生者
術式開示……縛りとは一体?
249:詐欺師
踏み倒すものだろww
250:名無しの転生者
セツニキ、コテハン通りの超詐欺師っぽいセリフだ!
251:名無しの転生者
座殺博徒のあれやな。
術式開示と言い張って、開示してもデメリットのないどうでもいい情報を流す事で、相手の集中力を削ぐ効果。まあ集中力が削がれるどころか、クトゥルフ神話知識なんでSAN値直葬の危機なんだけどね。
252:脳缶
むしろ流し込まれる情報量的には無量空処レベルっぽくてドン引きしてる。
脳味噌に仕掛けるDOS攻撃というか。
それでいてこれが本命の効果でなくて単なる情報開示っていうのがまたブッ飛んでるというか何というか、実に上手くできてるよね。
253:名無しの転生者
(敵が)デメリットを被る事で、(自分が)術式効果を高める方法。
254:名無しの転生者
術式開示のデメリットが一欠片もないwwwwwwwww
257:社畜
しかもあれ、クトゥルフ神話的に考えると実に極悪だよ。敵に流してるのが〈クトゥルフ神話知識〉だからね。
259:探究者
!?
260:社畜
メガテンのシステム程の絶対性はないけど、クトゥルフ神話が実物として存在している以上、クトゥルフのシステムだってある程度の強制力はあるんだよね。
263:★ハム子
隣で何ぞ探求ネキがガチですごい顔してるけど、何かヤバいの?
というか、クトゥルフ神話知識ってどういう事? 単なる知識じゃないの?
264:探究者
クトゥルフ神話TRPGにおいて、〈〉で区切られた表記は技能の事を指します。
つまり社畜ニキの頭と発言が確かであれば、アリスニキは、相手の頭にクトゥルフ神話TRPGにおける〈クトゥルフ神話知識〉技能を流し込んでいるという事になります。
266:名無しの転生者
久しぶりに背筋が寒くなったぞ。
TRPG界隈で一番いらない技能じゃんねwwwwwwwwwwwwwwwwww
267:★ハム子
ああ納得。
それは、とても、いけない。
270:名無しの転生者
ちょっと意味わかんないけど、知識が増えるならいい事じゃないの?
271:★ハム子
普通の知識ならね。
でも〈クトゥルフ神話知識〉はね、技能値の分だけ最大SAN値が減るデメリットスキルなんだよ。
SAN値っていうのは正気度、つまりそのキャラクターに後どれだけ正気が残っているのかを数値的に示したパラメータって事。HPと違って回復する手段がほとんどないのに、敵との遭遇、魔導書の解読、呪文の習得と発動、みたいに消費する機会は山程あるから、ぶっちゃけHPよりも重要。
これが5点減ったら一時的発狂になる。その場でパニックを起こして、何かしらの方法で落ち着かせるまで大声を上げたり混乱したり、場合によっては自殺したり仲間を刺したりする。
一気に現在値の20%減ったら不定の狂気。一月から長くて半年くらい続く精神的障害で、ランダム決定のサイコロの出目が悪いとそれ以上探索が続けられなくなって、そのまま精神病院送りになる。
0になると永久的狂気。これに罹るとGMに問答無用でキャラクターシートを没収される。優しいGMなら長期間の療養で回復させてくれる可能性もある。多分社畜ニキはこの状態。
しかもほとんどの場合、SAN値減少に対して抵抗するのもSAN値で判定するから、減れば減るほど減りが激しくなってきて危険。
272:探究者
補足しておくと、〈クトゥルフ神話知識〉で減るのは現在値ではなく最大値です。基礎ルールブックでも公式サプリメントでも、これを回復する手段はほぼ存在しません。
なのでクトゥルフ神話TRPGでは、これによって減ったSAN値は基本的に、何をどう足掻いても回復できません。こちらの世界なら記憶消去の術式や権能があれば、あるいはですが。
そんなものを無量空処並みの、相手が対処し切れない情報量で叩きつけてくる時点で、ほぼSAN値直葬は免れませんね。
273:名無しの転生者
>>271>>272
ハムネキ探求ネキ解説トンクス
さすがTRPG本の版元は違うぜ!!
274:名無しの転生者
>社畜ニキはこの状態
なるほど心の底から納得できた。
276:詐欺師
しかも>>270の理屈が成り立つから、これが情報開示の縛りとして成り立つんだぜwwwwwwwww
277:名無しの転生者
えげつないwwwwwwwwwwwwwwwwww
279:名無しの転生者
ところでさっきから気になってたんだけど、天使兵の天使化って何かの意味あるの?
280:脳缶
あるよ!
完全に天使化すれば、同化でリソースに変換できるからね!
281:名無しの転生者
>>280
い つ も の 脳 缶 ニ キ !!
283:名無しの転生者
うん、そっすね。
284:名無しの転生者
一から十まで脳缶ニキが大好きな外道戦術って事が理解できたわ。
285:脳缶
いや、俺はもうちょっと相手がやられて苦しむやり方のが好みかな。
どっちかというと、アリスネキのやり方は苦しめるより殺す方に偏ってる気がする。
286:名無しの転生者
相変わらずの外道で草。
288:名無しの転生者
だがよく考えてほしい。
やってるのは脳缶ニキじゃなくて、アリスネキの方やでwwwwwwwww
289:名無しの転生者
それはそう
291:名無しの転生者
うん、まあほら、アリスネキを責めるのはちょっとね。
あんな可愛い子を槍玉に挙げるのはねww
293:名無しの転生者
脳缶ニキなら槍玉に挙げていいのかwwwwwwwww
295:名無しの転生者
何でや!?
ワイの最推しビヨンデッタちゃんが可愛くないやて!?
296:名無しの転生者
脳缶ニキとビヨンデッタちゃんは別人でFA。
297:名無しの転生者
うん、それは、まあ。
305:名無しの転生者
こちらマン島制圧部隊や。
今、主都ダグラスに入港した……けど、綺麗さっぱりもぬけの殻や。
悪魔も人間も誰もおらへん。
307:名無しの転生者
いや、何でや?
天使含む悪魔が全滅してるのは分かるけど、人間はおるはずやろ。
309:名無しの転生者
何で?
アリスネキが天使化を蔓延させたせいでバイオでハザードなグロ肉塊祭りになってるんじゃないの?
312:制圧部隊
マジで人っ子一人おらへん。
静か過ぎて耳が痛いくらいや。
破壊の痕跡はある。
せやけど、守備兵とかの生き残りもいないし、肉塊の影も形も見えへん。
SAN値直葬的な肉塊が見当たらないのはありがたいけどな。
とりあえずその辺の警備室から記録を抜き出して確認したけど、肉塊もある時点を境に消滅しているっぽいな。
314:名無しの転生者
アメンドーズ先生みたく見えなくなってるだけだったりwwww
316:制圧部隊
ヤメロヤ
318:名無しの転生者
ヒント:>>279>>280
320:名無しの転生者
いや、まさか人間も天使化させて根こそぎマグネタイトにリソース変換したってのか!?
321:名無しの転生者
う わ あ
322:名無しの転生者
こ れ は ひ ど いwwwwwwwww
325:制圧部隊
ようやく生存者発見。
メシア教に捕まって苗床とか資源にされとった地元異能者らしいで。
ともあれ最低限嘘は言ってない事も確認したから、とりあえず保護やな。最低限会話ができる異能者は、今の時代は大事なリソースやからな。
327:名無しの転生者
メシアンじゃないからアリスネキに見逃されたんやろな・・・
328:名無しの転生者
そう考えると、生存者はとりあえずメシアンではないって保証されたみたいなもんか。
◆ ◆ ◆
シトナイの【子守歌】が止むと同時に、現実世界へと復帰する。敵は一体残らずマグネタイト結晶とフォルマとデビルソースと悪魔カードの山へと変換して機体内蔵のCOMPへと回収済み。こうして回収できた素材は全て僕のモノになる契約になっているので、想像以上に報酬が美味しかった。
何でか量産されていた大量のスライムを合成する事で完成した大天使ガブリエルの悪魔カードとか、戦線投入されていた大天使を分解したら出てきた軍神ウィチロポチトリと幻魔トラロックのフォルマとか、ペイルライダーとハーデスのフォルマとか、その他大量の天使素材……大半は売却に回す結果になるだろうけど、それもそれでマッカ報酬が美味しい。
『それだけじゃないぞ。イギリス支部からも報酬が出る事になってるからな。今回はほとんど一人でマン島を壊滅させてしまったようなものだからな、MVPは間違いないだろう』
通信越しにマスクニキがそんな事を言ってくる。イギリス支部からの報酬……そういえばそんな話もあったか、他にも参加者は大勢いるだろうし、イギリス支部にも強い人はたくさんいるからMVPなんてそういう人らが取ってくと思ってたから、参加賞くらい貰っておくか、ぐらいの感覚で、ぶっちゃけ気にしてなかった。
MVP報酬……何がもらえるんだっけ? まあ、いいか。
それはそれとして、イギリス支部には呉支部から派遣された技術班が到着しているはずだから、そっちで整備と補給を済ませつつ、それが完了したら日本に帰る予定。確か整備はロンドンのヒースロー空港だったか、そっちまでの空路図を視界内に表示する。
これで仕事は終わりだから、操縦はオートパイロットでも問題ないだろう……まだ不完全燃焼っぽいダンテニキやドモンニキが不平を漏らしているが、まあ気にしない事にして、僕はMk.Seinの機首を英国本土へと向けた。
石は転がる様の『【カオ転三次】DRUG FATE』では割と早い段階で退場してしまったMk.Sein。
登場当初はデメリットの多い機体だと思いながら、じゃあ何をどうすればノーリスクで同化を使えるのか逆算して色々と考えた結果が今回のこれ。
~割とどうでもいい設定集~
・マン島
実在の島。イギリス本島とアイルランドのちょうど真ん中辺に浮かんでいる。
海神マナナン・マク・リールが治める大規模異界ティル・ナ・ノーグが存在していたのだが、半終末発生時にメシア教会過激派の攻撃を受けて陥落、その後はメシア教会過激派によって占拠され、島丸ごと要塞化されていた。
・マスクニキ
『Gのレコンギスタ』のルイン・リーみたいな見た目の黒札。
呉支部ロボ研に所属するパイロット。乗機はエルフ・ブル。
割と面倒見が良い常識人であるため、修羅勢やエンジョイ勢と組むと常識の差から毎回振り回されては苦労する担当。
異能者としては射撃系、かつ高速・並列での情報処理に優れており、とりわけマルチロックオンを得意技としている。
シキガミはバララ。
・エルフ・ブル
元ネタは『Gのレコンギスタ』。
呉支部で開発されたロボの一機。マスクニキの専用機であり、黒札向け可変型高級可変機の試験機でもある。
その開発にはバルキリーを作った開発チームのスタッフが多く関わっており、バルキリーのノウハウを多く引き継いだ高性能な空戦型可変機に仕上がっている。
とりわけその機体は、ホワイト・グリントに搭載されるビーム兵器の試験機としての役割も担っており、武装構成はビーム系に偏っている。
とりわけ胴体中央内部の「セントラル・ビームシステム」にて発生させた出力を機体各所に設けられたエネルギー兵装に高速供給する事で、多数のビーム兵器を効率的に運用する事が可能となっている。
・アヌビス&ジェフティ
石は転がる様『【カオ転三次】DRUG FATE 』より。
呉支部所属、『ターミナル以外の転移・転送の可能性追求』をコンセプトにした、転移についての実験機。珍しくロボ研主催ではなく、流通系の部署に備品として貸し出されている。
ターミナルに頼らない転移をコンセプトに製造されており、電脳異界を搭載していないため、原作ほど自在な武装変更はできないが、ホワイト・グリント級のキャパを持つスペシャル機であり、理論上は核ミサイルを転移でアメリカに送り返せるだけの性能を持つ。
⑨ニキ主導で開発された機体である可能性が高い。
・シャイニングガンダム
元ネタは『機動武闘伝Gガンダム』。
ドモンニキの愛機。バリバリの格闘機であり、ガチの素手格闘系修羅勢であるドモンニキの動きを無理なく完全に再現できる、ハイレベルな駆動系の実験機。
この機体で得られたデータは、ホワイト・グリントの駆動系や近接戦闘用OSなどにフィードバックされている。
ドモンニキの戦闘力と相まって、その両腕が届く範囲においては圧倒的な戦闘力を誇る。
・ダンテニキ&バージルニキ
元ネタは『Devil May Cry』。
普段は山梨で何でも屋『Devil May Cry』を営んでいる双子の黒札。二人してロープレ上等エンジョイ勢。
ダンテニキの方は割と原作通りだが、バージルニキの方は原作程パワーパワーしておらず、兄弟仲は割と良好で、二人仲良くデビルハンターを営んでいる。道を違えなかった兄弟。
戦闘スタイルはほぼ原作通りで、多彩な霊装を使いこなすダンテニキと、転移スキルを剣技と組み合わせて原作のスタイルを再現したバージルニキ。ダンテニキの方にも転移系の適性はあり、それを霊装の呼び出しや換装に利用している。
このため、アヌビス&ジェフティのテストパイロットにスカウトされた。
なお二人とも“銀髪&赤コート”“銀髪でオールバック”の組み合わせなのでアーチャー連盟にも籍を置いている。
・Mk.Sein“White Lover”
⑨ニキのお下がり。
⑨ニキの霊基改造も完了し、またホワイト・グリントが完成した事で御役御免となったMk.Seinを凍結封印から引っ張り出してきたもの。
ベースとなったオリジナルのMk.Seinから生残性を重視した可能な限りの重装甲・重武装化が施されており、そのシルエットは元の機体から大きく掛け離れたものとなっている。
見た目はほぼ白いマークレゾンだが、よくよく見てみると下半身などを中心にMk.Seinのフォルムが残っているのが見て取れる。
武装は両肩のシールドに搭載されたホーミングレーザー、背部のイージス展開基とルガーランス、両手のベヨネット。攻撃力よりも防御力に振った構成になっており、とりわけイージスから展開される光壁は城砦にも匹敵する対軍・対城規模の防御性能を発揮する。
Mk.Sein最大の奥義としての同化も健在であり、霊基改造の必要がないアリスにパイロットが交代した事により運用が変化した事もあって、むしろ凶悪さは増している。
単純に操縦者がペルソナ使いであるためペルソナによる精神防護が有効である事に加え、偶然にもシキガミであるシトナイが集合的無意識の領域にまで精神保護を届かせる事ができる【子守歌】を獲得していた事で精神耐性が向上している事、またそもそも操縦者が天使フォルマ吸収による霊基改造を必要としていない事で、操縦者に対する負担は大幅に軽減。
同化に伴う情報露呈に対しては、クトゥルフ神話系のペルソナを基点としたクトゥルフ神話知識の積極的な情報拡散により凶悪な精神破壊兵器として運用。
さらには、それを術式開示による縛りとして利用する事で、敵に一方的なデメリットを押し付けながら性能強化を行いつつ、シュブ=ニグラスの生体改造の権能を伝播させ、影響下に置いた天使を使役する事で敵陣内部からの破壊工作に利用。天使兵の強制天使化や、さらにはメシアン内部での非天使兵戦力に対する天使化の感染による人間戦力の掃討、さらに非天使戦力からのリソース回収のような真似まで可能としている。
欠点として、そもそも素体となったMk.Seinそのものが戦闘を前提とした機体ではないため強化にも限界があり、また現時点で可能な限りの重装化を施しているため、これ以上の装備強化が不可能である点。
また、そもそもアリスのために設計された機体ではないため、いくら同化機能の運用のために最高の適性を持つとはいえ、機体そのものと完全に適合するのは無理がある。
・マライカスーツ、マライカアーマー
アビャゲイル様『【R-18】アビャゲイルの投下所第二支部【カオス転生ごちゃまぜサマナーN次創作】』、名無しのレイ様『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』より。
メシア教会版のパワードスーツ、並びにその延長線上の発展型として開発された人型機動兵器。装甲強化服がマライカスーツ、それを大型化した機動兵器がマライカアーマー。
ガイア連合から鹵獲したデモニカを参考に設計・製造されたと思われ、構造や原理などは共通しているものの、人血から鋳造された装甲や人肉を素材にした人工筋肉など、人間由来の素材を大量に使用している。
多くのカルトマジックにおいて生体素材として使えるラフム製『神代の泥』に中国神話の生ける土『息壌』を混ぜ合わせ、そこに『生命の木』の技術を応用して大量の異能者を“溶かし”込んで、作り出した“おおむね、ヒト”の肉泥を息壌の効果で増殖させ、天使ケルプと融合させる事で人工筋肉が製造される。今回描写された分は後でケルプと融合させて各種処置を済ませる事で、完成品の人工筋肉シリンダーが完成する。
倫理的には多大な問題がある一方、性能面においては装着者の能力に関わらずプラスアップ方式でレベル10相当の強化が可能などと、最低性能と強化幅を両立した汎用性など、誰が使っても最低限強化にはなるという面では優秀。
・メシアン式生産施設
母胎用と素材用、飼料用。
異界を利用したクローン素体の促成栽培が軌道に乗りつつあり、わざわざ外から生産用の素体を攫ってくる必要が無くなってきているため、外部の異能者を素材とした母胎生産は廃れつつある。
一方、マライカスーツやマライカアーマーが開発された事で素材としての人体需要が高まりつつあるため、母胎から素材取り用に転用される異能者も増えている。
素材用に関しては人工筋肉用以外にも、装甲素材となる血液採集用が存在している。
四肢の骨髄には造血機能がほとんど含まれないため四肢を切除、代わりに造血機能を保つ赤色骨髄を多く含んだ胴体、特に胸骨と腸骨を強制的に肥大、及び増設している。
それに伴い心臓を中心にした循環系を発達させ、大量の血液を循環・維持させる事を可能としている。
これら生産用の“家畜”の製造や維持管理には【ディア】系の治癒魔法を応用した生体変異促進の他、【ハマ】系を応用した殺菌なども使用されている。
・ルサルカ・シュヴェーゲリン
元ネタは『Dies irae』。
現地民異能者。元々は西欧・東欧を中心に活動していた魔女または黒魔術師で、ヨーロッパ一円でかなり名の知られた犯罪者志向のダークサマナーだった。
半終末期初頭にメシア教会の捕殺部隊と交戦して捕縛され、胎盤や素材として使用されつつ数年間幽閉されていた。捕縛されたのはドイツ周辺だったが、資材として様々な拠点に移送される内にイギリスまで運ばれていた。
アリスの搭乗するMk.Sein“White Lover”の遠隔同化により“素材”状態から解放され、人間の身体を取り戻した後、ガイア連合の制圧部隊に発見され、他の生存者共々救助される。
・ロキシー・ミグルディア
元ネタは『無職転生』。
現地民異能者。元々は東欧を中心に活動していた白魔女。ルサルカとは異なり至極真っ当な活動をメインとする白魔女であり、スタンスが異なるルサルカとは元同門のライバルであり、魔女としてのスタンスの違いから基本的には敵対し、しかし時折共闘するような関係だった。
多神連合に所属してメシア教会過激派に対するレジスタンス活動を行っていたが、半終末期初頭、ちょうどルサルカが捕まった時期と前後する辺りでメシア教会に捕縛され、資材として“使われ”ていた。
現在はルサルカ同様に救助され、ルサルカや他の生存者達と行動を共にしている。
・キャーリサ
元ネタは『とある魔術の禁書目録』。
現地民異能者。
英国王室最後の生き残り……だった。元英国王室第二王女であり、軍事方面においては間違いなく天才だった。
メシア教会過激派の核攻撃により他の王族が全滅し、自分一人だけが公務で別の場所を訪れていたため生き残ったのだが、彼女が配下をまとめ上げるよりも先に英国の多神連合により“アーサー王の再来”が擁立され、ガイア連合によって支持された時点で、キャーリサがガイア連合と合流する選択肢は消失した。
以後ガイア連合・メシア教会双方からイギリスの支配権を奪還するための手段として、配下を引き連れてメシア教会過激派へと合流。至上霊装カーテナ・オリジナルがもたらすミカエルの権能を以て英国方面のメシア教会過激派を糾合し、アイルランドを中心に勢力を伸ばしてガイア連合英国支部に対抗していた。
最終的には英国内からガイア連合の影響力を排除しながら、欧州本土のメシア教会とも関係を断ち切って独自の勢力圏を構築しつつ、カーテナの機能で英国それ自体を地球から切り離してメシア教会からも完全に独立する事を狙っていた。
なお、多分モルガンネキあたりは『コイツがもうちょっとしっかりしてくれてたら、アーサー王の再来程度が政治的価値を持つなんて馬鹿話の被害に遭う事もなかったんだろうなー』くらいに思ってる。
・カーテナ・オリジナル
元ネタは『とある魔術の禁書目録』。
英国の統治権を持つ者のみ振るう事が可能となる英国王室至上霊装。マジもののレガリア。草薙剣の英国版。
ぶっちゃけほぼ原作通り。
王権神授説に基づき、英国国内に限り担い手をミカエルの権能を振るう代行者とし、その配下を天軍に対比させる事で指揮下の軍勢に対しても莫大な力を与える。言い換えれば、英国軍を強力な天使兵に変える霊装。
また本来は地球から英国領土を切り離して隔離、その内界を管理制御するための儀礼剣であり、その特性を応用する事で空間ではなく“次元”を切断する『全次元切断術式』を搭載している。
キャーリサが英国圏内のメシア教会過激派を統率できたのも、この剣あっての事。ヒエラルキーが絶対的な強制力を持つロウ勢力において、ミカエルの権能を持つ存在に逆らえる者などいるはずもない。
反面、国家元首をミカエルの代行者に変える霊装などという代物を欲しがるはずもなく、ガイア連合からの扱いは厄ネタ以外の何物でもない。