ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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木星から来るもの

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

《タカ!》

《トラ!》

《バッタ!》

 

 聞き慣れた金属音を立てて、オーメダルがドライバーへと装填される。その中に格納された霊基情報がスキャナーを通して認証され、ドライバーを通じて全身の霊基へと供給される事により、“彼女”の主はその姿を変えていく。

 電脳異界の中空に浮かぶ仮想モニタ越しにその姿を眺めて、衛星軌道都市ラピュタを統制する中枢制御型シキガミ『ヴェリタス』の筆頭であるヒマリは、ほう、と溜息を吐いた。

 

《タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!!》

 

 ホルスの千里眼、テペヨロトルの鉤爪、パズスの速度。それらを兼ね備え、かつ負担を最小限に抑制する形で調整された基礎形態『仮面ライダーオーズ・タトバコンボ』。変身と同時に踏み込んだ仮面ライダーオーズは、空間跳躍じみた速さで一瞬にして距離を詰め、敵の懐へと飛び込んでいた。

 手先の技にて撃ち抜く【鳶穿】にて敵手の首から上を千切り取り、崩れ落ちる敵の背後へとすり抜けるように現れて、その心臓を抜き取り握り潰す。同時、穿たれた傷口から身体改造によるものかオイル混じりの鮮血を噴き出しながら、マライカスーツ『スラッシュザクウォーリア』が爆散した。

 

 その爆炎を背後に悠然と立つオーズは、思わず一歩を退いたメシア教会の信徒達を睥睨し、ゆったりと視線を巡らせた。

 

 

「部長、何見てるの?」

「ほら、これですよ。ハレちゃんも見ますか?」

「これは……『グリゴリアイズ』のカメラが捉えた映像だね。それもリアルタイム、って事は、ここは中華戦線か。でも戦っているのがメシア教会の兵力ばかりという事は、本来の目的の方は好調とはいえないみたいだね」

「目的はモビルワーカーの素体となる中華系魔獣悪魔の捕獲ないし悪魔全書への情報登録……ですが、北神奈川支部からしてもそこまで強く期待してはいないそうですから、問題はないかと。この調子だと取引に関わる支払いの方は、マッカ払いで済ませる事になりそうですね」

 

 一段落した仕事を脇に置いてヒマリがウィンドウに表示されるアイコンをタップすれば、データ上に再現され具現化されたセイロンティーが卓の上に生成される。湯気を上げる白磁のカップを口元に運び、二人のシキガミはじっとモニタに表示される画面を眺めた。

 

《タカ!》

《トラ!》

《ゾウ!》

《ロケット・オン》

 

 ドライバー内蔵のトリガーホルダーからロケットモジュールが右腕へと展開、その推力で加速して敵の背後に回りながら、脚部をゾウメダルに換装。鮮やかなオレンジ色の炎を背後に散らし、安定性に秀でたゾウの足を踏み下ろせば、その足元から地面が引っ繰り返るような強烈な衝撃波が噴き上がり、巻き込まれた兵士達が頭上へと吹き飛ばされていく。

 跳ね飛んだ敵に向かって振るわれる震脚の勢いまで乗せてトラの鉤爪は装甲をものともせずに、量産されたマライカアーマーの大群を容易く斬り刻んだ。

 

「多いね、マライカスーツ」

「ですね。もしかしたら近くに工場があるのかもしれません」

「人間を精肉して作るメシア製デモニカ工場か……ぞっとしないね。マスターの交戦記録から敵の戦力配置を逆算すれば、製造元か配備ルートが算出できるかな?」

「もうやっていますよ。マスターと現地周辺の友軍には算出結果を伝達済み。さらに衛星軌道からラピュタ支部所属のBALLS達やホエールキングを動かして、周辺の敵拠点全てに対して20分以内に落下するように小惑星やスペースデブリを誘導中です」

「……相変わらず仕事が早いね。さすがは自称超天才清楚系病弱美少女ハッカー」

「それはもう。たとえ地上と衛星軌道、離れた場所にいたとしても私達はマスターのシキガミなのですから、マスターのバックアップは私達の仕事です」

 

《クワガタ!》

《ウナギ!》

《ゾウ!》

《ガトリング・オン》

《ランチャー・オン》

 

 大量召喚された天使の群れが迫る中、【十種影法術・鵺】にて召喚された影の巨鳥を呼び出すと共に、コアメダル二枚を同時換装。

 頭部は広視界と魔神バアルの雷電の権能を宿すクワガタヘッド、両腕のウナギアームからは二本の長鞭ウナギウィップを展開。周囲を薙ぎ払うように振るわれるウナギウィップに追随する【マハジオダイン】による大放電、影の巨鳥との連携により飛躍的に攻撃範囲を拡大し、届かない敵も双鞭で強引に引きずり込んで電撃耐性を持たない敵を一掃、残る敵は両脚部に展開するガトリング砲とミサイルポッドから放たれる十字砲火が的確に始末していく。

 

「上手くいったら、褒めてもらえるかな?」

「それはどうでしょうか。まず私達ならスペック上これくらいはできて当然、かもしれませんよ」

「……うーん、難しいね」

 

 コアメダルをさらに換装して戦場を駆け回るオーズの姿を仮想モニタに表示される映像越しに見守りながら、ヒマリは傍らに新しい仮想モニタを展開する。そこに映し出されるのは、ラピュタの中枢演算機関の演算能力を利用して毎秒合計数万回の簡易占術を繰り返す未来予測プログラムだ。

 前提条件を微妙に変えての占術とそれに基づく未来予測演算を複数回繰り返す事により、総合的に超高精度の未来予測を可能とする高速思考プログラムは、悪魔変身矯正システム内蔵型強化霊装『ゼロワンドライバー』の開発によって得られた成果だが、それによる未来予測は『ヴェリタス』の中でもシキガミとしてのヒマリが最も得意とする分野。

 

「ターミナルシステムを利用した【分身】転送機能、そして電脳異界を介して転送される私達専用のデモニカ────この辺の技術が完成すれば、私達もマスターと共に戦場に臨む事ができる」

 

 ヒマリの操作に従ってデモニカの中核となるベルトの立体画像が電脳異界の中に表示される。少女達が見守る中、その表面全体を覆う液晶画面は起動に伴って様々な色彩を投影し、やがて見開かれた眼を思わせるシンボルが映し出される。

 それに伴って、少女達の眼前に仮想表示されたデモニカが、未来的なデザインの黒い装甲の上に眼球のようなパーツを装着され、完全展開したその姿を立体映像として露わにするが。

 

「完成すれば、だけどね。最近、マスターも忙しいでしょ」

「……ですので、技術開発分野でダ・ヴィンチ姉様の補佐を行う『エンジニア部』が追加製造されるとか。これなら研究開発のペースも進むはずです」

「そのためにも、また開発だよ。やっぱり時間が掛かるのは確定だね」

「仕方ありません。しばらくは代替のデモニカシステムで我慢するしかなさそうですね」

 

 溜息を吐いてカップを片付ける少女達の背後に表示されるのは、既に完成済みのカブトゼクターを元にした各種の新型デモニカ。

 

 量産試験型『ザビーゼクター』。

 射撃兵装試験型『ドレイクゼクター』。

 近接戦闘適性試験型『サソードゼクター』。

 

 加えてカブトゼクターの試験機を、カブトゼクター同様に調整した『ダークカブトゼクター』を加えた四種類。それらを表示した仮想モニタを軽く手を振って消去すると、ヒマリとハレは本来の仕事を始めようと新しいモニタを展開し。

 

「……あら、これは?」

 

 遥か遠く星間宇宙、小惑星帯に仮設された観測拠点からの緊急入電に、ヒマリは思わず首を傾げた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 ふぅ……と肺に溜まった呼気を吐き出し、全身から力を抜いた。悪魔変身を解除すると同時に腰のオーズドライバーから三枚のコアメダルが自動的に排出され、転送術式にてドライバー内蔵の壷中天へと格納される。

 

「またメシアンか。中華戦線だから致し方なし、とはいえ……いい加減飽きてきたな。土着悪魔の顕現は、まあ無理か。地脈のロウ汚染も深刻だからな」

 

 悪質な、人為的な環境汚染のようなものだ。地脈の属性が極端な法と秩序の属性に侵食されているせいで、自然発生する異界から生まれてくる悪魔は法の属性に寄っている存在……そしてその大半が天使だとかいう地獄絵図だ。ロウ属性の悪魔といえば霊鳥なり妖魔なりそれなりに種類がいるはずなのだが、片っ端から狩られているのか、それともそもそも顕現すらできないのか、全く姿を見かけない。

 黄褐色の痩せた荒野の土にそっと触れる。指先に触れた土は乾いており、指を擦り合わせればそのまま跡も残さず地面へと零れ落ちていく。自然の生命力ともいえるマグネタイトはひどく希薄で、あるいはどこか近くの異界にでも吸い上げられているのかもしれない。

 自然のマグネタイトがここまで枯渇していれば、オカルト作物の栽培はまず不可能。農作よりも、それをどうにかするための環境回復の方が先だろうな。

 

「泰山山脈も近いってのにこの調子だと、復興に何年かかるやら……ま、復興よりも奪還が先か。取り返さなきゃ復興なんて絵に描いた餅にしかならんかね」

 

 この調子なら、この周辺がメシア教会軍に蹂躙されるのも時間の問題か。中華戦線は基本的にじり貧の、地獄の撤退戦だ。

 

 その最大の原因には、一つには抵抗する多神連合やメシア教会穏健派、中国政府軍などなど各勢力の連携が取れていない事が挙げられる。それはそうだ、そもそも多神連合はそれ自体、どこが頭なのかも分からずマトモな指揮系統の存在しない烏合の衆で、中国軍を統制すべき政府はその思惑すら統一できていない有様。

 メシアン穏健派にしたところで、彼らが他と共闘して“もらえる”か、というのは別問題だし、またKSJ研から供給された物資を独自判断で投棄するなど穏健派メシアンの問題行動に関わる報告も挙がっているのは間違いない。

 

「ガイア連合の技術力でも、難しいかしら?」

 

 振り向くと、配下である部隊を引き連れて近付いてきたのは軍服姿の小柄な女性だ。少女のような見た目だが、これでも元は政府軍に所属していた立派な軍人であり、政府が倒れた今はこの安徽省から華北平野に掛けての一帯を活動範囲とする曹軍閥を率いる『曹華琳』大佐だ。

 

「霊脈に対する楔にされている泰山大聖堂その他、ユーラシア大陸全土のメシア教会拠点を破壊するのが最低限の前提条件。でなきゃ出力の問題で話にならないな」

「そう……やはり、そこからね」

 

 中国大陸におけるメシア教会過激派が有する中でも最大級の拠点が存在する泰山、かつては道教信仰の聖地でもあったその山並みへと、彼女は鋭い視線を向けた。道教のみならず多くの寺院や孔子廟などといった霊的拠点が築かれていた泰山であるが、それも半終末が始まった最初期の核攻撃によって焼かれ、既に跡形もない。

 中華戦線における最大の攻略目標の一つではあるものの、膨大な数のメシアンと天使に守られた泰山大聖堂に対し、現在その攻略は夢物語だ。

 

「泰山大聖堂……貴方ならどうやって攻略するかしら?」

「そうだな、とりあえず宇宙からコロニー……もとい小惑星落としでも仕掛けて陣地を削るかね。それで倒し切れるとも限らないけれど、小惑星に高位の鬼神か魔王の霊基でも仕込んで霊脈に対する楔にすれば、霊脈のロウ汚染を緩和できる可能性は高い。で、その内にどうにか前線を押し上げて陽動にしつつ、敵が対応に上位戦力を出してきたところを、呉からMk.Seinあたりの出撃を要請して敵数を溶かしつつ……の、最終的には少数精鋭を送り込んでの斬首戦術が適当かね」

「……そうね、それくらい出来れば、可能性は出てくるわね」

「今のところ実現性がある範囲の手段だと、こんなものだな。ラピュタで進めている開発案件が色々進めば、もう少しマトモな勝率が出せるかもしれないが……」

「……………………そう、あるのね勝率……あるのね実現性」

 

 この半終末期における戦争の本質は、霊脈と人間というマグネタイトの二大リソースを奪い合う陣取りゲームだ。その戦争において、地球上の霊脈の大半を汚染して支配下に置き、またクローニングで量産している分を含め膨大な信徒を抱えるメシア教会過激派は、既にほぼ勝利しているといっても過言ではない。

 戦場での殴り合いなど消化試合でしかなく、霊脈のマグネタイトを直接物量の暴力に変換できる天使召喚プログラムという兵器を得たメシアンが雑兵を蹂躙し、そしてマグネタイトの生産リソースを奪われて痩せ衰えた抵抗側の特記戦力を、肥え太った大天使が雑に殴り殺して終わり、というのが現在の地球全土における戦況だ。

 人間・悪魔問わず高レベル者もレベルを保つのにマグネタイト供給が必要な以上、この趨勢はまず覆らないだろう。ガイア連合の後方支援があっても……まあ、負けるだろうな。

 

 ……それを理解している者が人間・悪魔共に数少ないというのも大問題ではあるのだが、この曹華琳大佐はその辺をしっかりと理解しており……だからといって負けるつもりもないようだ。とりあえず、しばらくは彼女の率いる曹軍閥を支援してやるのが一番の鉄板だろうか。

 

 そんな風に考えた、ちょうどそんな時だった。

 

『マスター、緊急の業務連絡です。小惑星帯の観測基地を統括していたコタマちゃんの分身体から』

「……小惑星帯の?」

 

 ラピュタにいたヒマリから、緊急の連絡。

 

 メシアンも天使もそれ以外の土着悪魔も湧かず、事故以外の何かが起こる可能性が最も低い、と思われていた場所。そんな場所からくる緊急連絡といえば、それこそ小惑星群との衝突で観測基地が丸ごと壊滅したとか、それくらいの大事故でも起きなければ有り得ない話だ。

 だが、それでも観測基地を────外宇宙用の観測衛星を多数配置し、あまつさえヴェリタスの分身体まで置いていたのは、心のどこかでこの展開を予期していたから、ではあるが。

 

『小惑星帯の向こう側、木星軌道上より飛来してくる未確認物体を観測したとの事────』

 

 それだけ聞くと、僕は即座に決断を下す。迷ったり悩んだり、あるいは他で時間を潰している暇もない、かもしれない。こと宇宙が絡むのであれば、それは僕が相対するべき事柄だ。

 

「すまない華琳大佐。緊急事態らしい、僕は一旦戻る事にする」

「随分な慌てようだけど、もしかして日本に、かしら?」

「いや、衛星軌道上……ラピュタに、だ」

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 曹華琳大佐に空中司令部として貸与していたホエールキングの内部に設置された大型ターミナルから、衛星ネットワークで繋がった電脳異界を通じてラピュタへと急行する。そしてラピュタを経由して、さらにターミナルを通して移動したのは、小惑星帯に設置された観測基地『アクシズ』だ。

 アクシズと名付けられた同名の小惑星を核として現在も増築が続く基地は、要塞化された小惑星『アクシズ』と、物理ブリッジで接続された球状の居住区『モウサ』によって構成されており、その周囲を『グリゴリアイズ』と同規格の観測衛星が無数に浮かび、取り巻いている。

 将来的には地球圏や火星・木星との大規模輸送を行うための宇宙港やウーレンベック・カタパルトが設置され、宇宙交通の中継地点として整備される予定だが、今はまだそこまでの完成には至っていない。

 

 その中心部に設置された大型ターミナルを通って現れた僕を出迎えたのは、この観測基地を管理する『ヴェリタス』の一人であるシキガミ『コタマ』だった。あくまでも【分身】体の一つではあるが、しかし本体と遜色ないだけの管理能力は持ち合わせている。

 

「……で、これが例の未確認物体、と」

「はい。この形状、ほぼ確実に人工物であると思われます」

 

 コタマが展開した大型の仮想モニタに映し出されたのは、どこか人型に似た、しかし決して人型ではありえない刃金の機体。計測から、サイズはおよそ全長50mを越えているだろうか。

 その背部に備わった巨大な両翼を見るなら、そのモチーフは天使なのだろうか。だが肋骨を連ねたような形状の胸部ダクトを持つ胴体の構造は痩せ衰えた骸骨を思わせ、特徴的な円錐状の頭部形状と相まって、まるで即身仏が天使の翼を生やしているかのようなチグハグな、それでいて死そのものが悪意を持って襲ってくるかのような不気味な印象を与える。

 

「現時点での軌道から進行ルートを算出した結果、おそらく20日後には地球に到達するものと推測されます」

「それはまた……厄介だな。どう見ても人為的なあのデザインからして、明確な意志と目的地があるのなら、軌道をずらして他に飛んでいってもらう事も難しいだろうしな」

 

 

 というか、これは。

 

 この見た目は。

 

 

「…………ディビニダドだろ、これ」

 

 

 『機動戦士クロスボーン・ガンダム』に登場するラスボス機体。確か原作設定では……木星帝国が開発した地球侵攻用の巨大モビルアーマーであり、その用途は地球への侵略……などという可愛いものではない、木星帝国総統クラックス・ドゥガチが量産した、地球を焼き尽くし死の星に変えるためのマシンだ。

 その最大の特徴は、戦闘技能のないドゥガチが直接搭乗して地球を焼き払うという個人的な目的のために搭載された過剰なまでの核武装だ。全身の至る所にアホみたいな量の核ミサイルと核融合炉を搭載しており、何となれば組織のトップが搭乗する機体でありながら機体そのものを巨大な核爆弾として自ら特攻し自爆する事すら視野に入っているという、ドゥガチの狂気と妄執を体現した機体であるのだが。

 

「グリゴリアイズによる観測では『邪龍クラリオン(下位分霊) Lv49』との事です。それ以上のデータは、取得できませんでしたが」

「いや、良くやってくれた。……しかしクラリオンと来たか。とりあえずレベルを考えれば、ギャラクシーメガよりも一回り強いくらいか。じゃあメガシップを先行偵察に出して」

「了解」

 

 クラリオン────その名前には聞き覚えがある。前世においては女神転生シリーズの中の一漫画作品『デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト』に登場する、その作中におけるラスボスだ。その正体は宇宙から飛来した生物であり、クトゥルフ神話系の悪魔のような“宇宙から来た設定があるだけの普通の悪魔”とは一線を画する、正真正銘の外宇宙存在だ。

 

 そういう意味では宇宙から、そして木星から飛んできたとしても決しておかしくはないのだが。

 

「うぅむ、実際問題この世界のライドウってコドクノマレビト事件とか、どうしてたんだ?」

「はい、少々お待ちください。ガイア連合のデータベースにアクセス……ええ、普通に倒したようですね。山梨第一支部のデータベースに、悪路王異界からの発掘資料の電子化記録が保存されています」

「あー、幼女ネキが回収した奴か。となると……地球でライドウに倒されたクラリオンが、また宇宙からやってきた? ぶっちゃけ矛盾…………いや、二体目か?」

 

 

 不可解だが、もう一つ不可解な点もある。種族が“邪龍”になっている事だ。

 

「魔神や魔王、外道あたりならともかく……龍、ドラゴンって宇宙にも存在するのか?」

「確かに。龍というのは蛇や大河から連想されたもの……というのが一般的な定説ですね。銀河を象徴するゴーチフルなどの伝承もありますが、それとて地球の伝承には違いありませんし」

「遥々宇宙からやってきた宇宙生物が、地球独特の“龍”という種別に分類される……フィクションなら分かるけど、そうじゃないからな」

 

 宇宙にもドラゴンが存在するのか、という疑問。

 そして何より。

 

「……それ以前に、何でロボになってる?」

「分かりません。ですがあれは、あのような形をした悪魔や生物というよりは、精錬された金属を加工した、実体として存在する機械のようです。霊基の反応もありますが、それは金属の奥深くに」

「つまり機体は呉ロボ研で作っている機械技術偏重のロボに近く、そして技術的に最も近いのは山梨の多脚戦車やシキオウジロボ……ってところか。マライカアーマーですら、ないんだよな」

 

 まあ、その辺は考えても仕方のない話、か。情報が少な過ぎる。

 

 

「最大の問題は、このディビニダドモドキの設定がどこまで原作通りなのか、だけど。特に核武装方面を」

「不明です。ですが、あの機体の内部には熱核融合炉と類似する熱源反応が各所に分散配置されているのが確認されています」

「なるほどな。疑問ばっかりだけど、その点だけは原作通りという事か。じゃ、大量の核ミサイルも搭載されているってのを前提に考えた方がいいか」

 

 

 ……つまり、地球には絶対に近寄らせちゃならない、って事だ。

 

 

 さて。

 

 計算上、あの見た目ディビニダドな邪龍クラリオンの軌道は、この観測基地『アクシズ』からは少し外れた位置を通過し、約一ヶ月ほどの時間を掛けて地球へと到達する予定であるようだ。ある程度時間的な猶予はある、が……それを阻止するとなると、だ。

 

「ひとまずは先行偵察と行こうか」

「ではメガシップによる偵察を?」

「ああ、頼んだ」

「了解です。ウーレンベック・カタパルト、起動します」

 

 アクシズに設置された大型のウーレンベック・カタパルト、普段は小惑星帯より内側の火星軌道に向けて資材となる小惑星を飛ばすために使っているものだが、それが向きを反転させ、宇宙の闇の中でなお鮮やかな青の円盤型のメガシップが転移魔法の光と共に一瞬で射出される。

 警備・警戒用の機体としてアクシズに配備されていた二隻の内の一隻、射出された機体がクラリオンの軌道とランデブーするまで約一日。その前に光学迷彩と反ミーム迷彩を起動し、距離を取って監視に努める予定だが。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 で。

 

 翌日。

 

 

「────……ギャラクシーメガ、撃破されました」

 

 

 まさかの瞬殺、と。

 向こうの方がレベル高かったからして発見されたのは仕方なく、見つかったのも仕方ないから、仕方なく戦闘に入ったわけだが。

 

 

 しかし。

 

 

「接敵した瞬間、急激なレベル上昇を確認しました。上昇後のレベル値は測定不能」

「上昇後はレベル高杉で測定不可、と。……上がり過ぎだろJK。にしても何かしらのギミックボスか……情報が少な過ぎて何のギミックかも分からないな。にしても高過ぎて測定不能とは…………それ以外に分かった事は?」

「接敵時に敵が使用した攻撃のスキル名です。【光子力ビーム】、と」

 

 ……マジンガーか。

 

 なら光子力エンジンでも積んでいるというのか。

 

「それと追加情報ですが、レベル上昇時にあの機体がスラスターや翼部から放出した放射光を【アナライズ】した結果、『ゲッター線』という名称が確認されました────」

「待て待て追加情報!?」

 

 ゲッターなのかマジンガーなのかはっきりして欲しいという。

 

 もうね、本当にね。

 

「はぁ……」

「申し訳ありません、マスター」

「いや、君の仕事に問題はないし、良くやってくれている。問題は敵の方だ」

 

 果たしてゲッター線が石川賢の『ゲッターロボサーガ』に登場する原作通りの代物かは分からないが、しかしますますあのディビニダドもどきを地球に行かせるわけにはいかなくなった。

 

「最低でも、全身に分散配置された原子融合炉。内部に搭載されている可能性の高い大量の核ミサイル。そしてゲッター線…………とりあえず今観測できている原子炉類似の熱源、あれが全部単純に核融合炉だと仮定して、それが地球上、大気圏内で爆発した場合の被害規模は?」

「連鎖的な核融合による大規模な核爆発により直径30キロメートルが焼失。並びに直径1万5千キロメートルに対し放射能汚染を始めとした壊滅的な被害が発生します」

「ちょうどユーラシア大陸が丸ごと収まるかどうかってところか……洒落にならないな」

 

 それがゲッター炉心であれば、どうか……確か前世で読んだゲッターロボ関連の漫画作品の内の一つに『偽書ゲッターロボダークネス』なる作品があったはずだ。ゲッター炉心の暴走事故……とかいう人災らしき爆発事件によって日本全土が“蕩けた”世界を描いたある種のポストアポカリプス世界。

 動植物から有機物無機物の別なくあらゆる物質が蕩けて融合し、その中からはゲッター線を浴びて異形の怪物と化した人間の成れの果て『イデア』が湧き出し、ゲッターの旗印の下に世界を侵略する狂った世界。

 

 それが日本丸ごと、どころかユーラシア大陸並みの規模で落下してくる可能性がある、と。仮にユーラシアに落ちなくても被害甚大なのは間違いない。多分、コロニー落としよりも酷い事になる。

 最悪、ゲッター線に汚染された粉塵や海水が地上と空をそれぞれ覆い尽くし、地球がガチで死の星になる……いや、地球ごと大爆発して吹っ飛ぶ可能性もある、か?

 

 

 ……はい、立派な終末案件ですね。

 

 

 とりあえず、どうにかせにゃならない、って事は分かる。

 

 

「じゃ、現状アクシズに配備中のオッゴの半数を作業に回してくれ」

 

 作業用シキガミポッド『オッゴ』。内部に操縦手として量産型作業用シキガミ『BALLS』を載せ、現在も拡張作業の続くこのアクシズにて工事に携わっていたり、あるいは周辺の小惑星帯から資源を掻き集めてきたりと、やっている事は色々だ。

 その半数を動かして、進行中のクラリオンのルート上に交差するように、ある程度質量のある小惑星を射出する。衝突でダメージを与えられれば御の字、せいぜい迎撃させてデータ収集の一環になれば十分という腹だ。オッゴを使って進めている作業が滞るのは承知の上、とりあえずラピュタ支部の工場で増産を掛けて補填するしかない。

 

 ランデブーは三日後か。

 

 これで時間が稼げれば御の字。秒すら稼げない可能性もあるが、その時はまあ仕方なし。

 

 とりあえずこれまで分かった事をレポートにまとめ、各種データを添付してショタオジに送信する…………また仕事を増やしてしまったな。申し訳ないが、しかし報告を怠るわけにもいかない。

 

 

「ともあれ最低限の猶予がある今の内に、どうにかして対策を練って……とはいえ測定不能レベルの敵なんてどうやって対策取れば………………ん?」

 

 いや、待てよ。

 

 唐突に浮かんできた希望を頭の中で何度か繰り返しシミュレートし、さらに占術プログラムまで使って可能性を算定し、そうして。

 

 

 

 ……案外、どうにかなるかもしれん。

 

 

 

 無理だったらショタオジ案件として、それはそれとしてトライしてみるべきだ。これまでの経過をレポートにまとめてショタオジに送ったら、早速行動開始と行こうじゃないか。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 迎撃は、小惑星帯で行う事になった。

 

 

 最初のシキガミであるメディアを伴って僕が搭乗した2隻目のメガシップは、アクシズに備え付けのウーレンベック・カタパルトから転移魔法の光芒と共に射出され、小惑星帯の中へと姿を現した。

 

 周囲には無数の宇宙塵が浮かび、岩塊のような小惑星が音もない真空中を各々勝手に流れつつ、それでいて一定の秩序を保った軌道で動いている。

 宇宙線や一定以上の光を遮蔽するべく処理が施された窓を一枚隔てれば、そこから先は真空の宇宙空間だ。その闇の彼方には無数の星々が浮かんでいるが、大気のない宇宙空間での星は地上から見上げるものとは異なり瞬き一つなく、それがどこか違和感と無機質な恐ろしさを呼び起こす。

 あるいは、クトゥルフ神話を最初に綴ったラブクラフトが語る“宇宙的恐怖”というのは、こういうものの事を言うのかもしれない。

 

 ……これで、あと数時間も経てば、あのディビニダドモドキの邪龍クラリオンが姿を現す、はずだ。

 

 勝負は、その時に着くはずだ。

 

「……コタマ、破壊されたメガシップの残骸の回収作業は?」

『既に行っています。幸い、メガシャトルの方が無事だったのでそちらの内蔵ターミナルからオッゴ数体を転送して、作業を開始……敵性体がそちらを気にした様子はありませんでした』

 

 気にする程のものでもなく興味もないのか、それとも気が付いていないのか、あるいは攻撃できない理由でもあるのか。占術で引いた結果は“三番目”という、少々興味深く、そして僕が思いついた曖昧な勝算を最低限裏付けてくれる内容だった。

 

「現在、メガシャトルのステータスに異常なし」

「対宇宙塵処理機能も、想像以上に役に立ってくれているな」

「小惑星帯ですからね。機能していなければ、消耗は大きかったはず」

 

 ガン・地変複合属性の常時展開により、周囲に漂う極小サイズの岩石性の隕石や小惑星の軌道を逸らし、無害化する機能。

 広大な宇宙空間の移動においては、相対速度差により細かい宇宙塵ですら対戦車ライフル並みの弾速を持った凶弾と化すのだ。それを防ぐためのシステムは宇宙空間での活動において必要不可欠であり、呉宇宙研でも優先度を高く設定して研究されていた。

 その実地活動がこんなところで行われるとは思ってもみなかったが。

 

「……静かですね、マスター」

「すぐに、それどころじゃなくなるけどな」

 

 接敵まで残5分。それまでに機体各部の機能を軽くチェックしつつ問題がない事を確認。同時にメディアも戦術データリンクを通じて戦場周辺の仕掛けも万全である事を確かめ……そこで5分が経過する。

 

「マスター、来ます」

「分かっている……!」

 

《タカ!》

《トラ!》

《バッタ!》

 

 まだ不明瞭な、銀色の翼を広げた天使のごときシルエットを望遠レンズが捕捉し、その姿が拡大と補正を繰り返し、データ通りのディビニダドを模した邪龍クラリオンの姿が仮想モニタに表示される。同時、メダルを装填されたオーズドライバーがその機能を発動した事で“戦闘開始”と見なされたのだろう、モニタ中央のディビニダドの双眸が白く眩く光を放つ。

 

「来い!」

 

《Clock UP!》

《Clock UP!》

 

 ドライバーの両脇にカブトゼクターとダークカブトゼクターが同時にドッキングし、接続されると共にクロックアップを発動。電脳異界が機体を包むのももどかしく、メガシップの船体を包む時間速度が通常宇宙から多重に切り離されながら加速していく。

 一直線に迫る【光子力ビーム】を二重の時間加速で振り切って躱し、メガシップから切り離されたメガシャトルが艦体上部に再ドッキング。船体各部が展開してメガシャトルの装甲が開き顔面を構成、全高55mに及ぶ人型機体『ギャラクシーメガ』が完成する。

 

《タ・ト・バ! タトバ! タ・ト・バ!!》

 

 ホルスの眼力、テペヨロトルの鉤爪、パズスの両脚。反応速度と俊敏性を兼ね備えたタトバコンボは、機体操縦に最も長けた形態だ。その各部機能がギャラクシーメガの全身に反映され、獣の敏捷を得たギャラクシーメガは多重クロックアップによって永遠に引き延ばされていく時間の中ですら超速の【光子力ビーム】をギリギリで回避しつつ、反撃の【ジオダイン】は相手の装甲を貫けず、その表面で火花を散らして終わる。

 

「これがレベル計測不能の防御力か……で、これが────」

 

 真っ先に飛んでくるのは巨大なビーム砲塔を兼ねた円錐形の頭頂部から放たれる【ゲッタービーム】。その直径は明らかにクラリオンの機体全長よりも太く、エメラルドグリーンに輝く巨塔のごとき極光を回避し、それに追随する【光子力ビーム】の連射。

 閃光の嵐を掻い潜る────レベルの差は歴然で、向こうからすればこちらの存在は既に微生物のようなもの、それだけのレベル差があり、ステータス差があって、それでも回避を可能としているのはタトバコンボの反射神経に加え、二重のクロックアップと“書斎”による反応速度加速による多重加速効果によるもの、それがあって尚、ギリギリの回避を強いられながら敵の弾幕を掻い潜っていく。

 

「馬鹿みたいな攻撃力、だがオーバーソウルだの固有結界だの捻った能力は無し────ひょっとするとレベル上昇ギミック以外に、何か特殊な何やらがあるわけじゃない?」

「ですが気は抜けません。集中してくださいマスター」

 

 メディアの言う通り、考えている余裕はさほどない。

 四肢を動かして重心バランスを操作しながら全身のスラスターを吹かし、【光子力ビーム】の弾幕を掻い潜って────捉えた。敵は至近、一足一刀の間合いからの【メガダッシュカッター】を叩き込んで、しかし無傷。装甲に毛筋ほどの傷も付けられず、むしろこちらの剣が折れた。

 馬鹿みたいに堅く、そしてそこから反撃に繰り出されるクローアームはその速度だけですら回避は困難で、立て続けに振るわれる両腕をどうにか避けたところに撃ち込まれるのは悪意に燃えた両眼からの【光子力ビーム】。その軌道上に咄嗟に折れた剣を投げ込めばそれだけで盾が爆散し、しかし手札を一つ失ったおかげで回避には成功。

 そこに降り注ぐ【光子力ビーム】によるオールレンジ攻撃はクラリオン自身への直撃軌道を避けたためか狙いが甘く、しかしその機体の身震いだけですら装甲を大きく削がれかねないステータス差は依然として脅威。

 

「だったらチマチマと射撃を繰り返すより、純粋なステータス差で圧殺するのが一番正しいやり方だ────」

 

 どう考えても、そういう結論に達するよな?

 

 クラリオンの翼から放出される馬鹿みたいな数の『フェザーファンネル』から降り注ぐ【光子力ビーム】の雨霰。もはやオールレンジ攻撃と表現する事すら馬鹿馬鹿しいくらいの物量、全方位から呆れるほどの密度で放たれてくる閃光に加え、駄目押しで飛んでくるのは極太の【ゲッタービーム】。

 それと同時に大きく翼を広げ、背部スラスターを全力で稼働させクラリオンは加速する。振り上げられるのは両腕の巨大なクローアーム、大振りだが、そもそも普通なら回避できるような速度じゃない。

 

 白熱する閃光の嵐を躱して躱してまた躱し、避け切れない攻撃は盾を犠牲に防ぎつつ全力で回避に徹し、それでも避け切れずに片腕が吹き飛び両脚が抉れ、最後に機体の胸部中央を【光子力ビーム】が綺麗に貫いてギャラクシーメガは爆散。

 その直前で分離した頭部が『メガシャトル』となって脱出すると共に。

 

 小さな塊が、その機体から放出された。

 

 

「────ショタオジ特製、逃走用の煙幕弾だ」

 

 

 その力は転移や撹乱などといったちゃちな効果じゃない、もっと直接的かつゲームシステム的な『戦闘終了』という現象を引き起こす事。だからこそ使い捨てだが、使えば確実に一度だけ戦闘から逃げ切れる。

 だが今、最も重要なのは、ちょうどそこで戦闘が終わるという事────戦闘が終わった事でギミックが停止し、邪龍クラリオンのレベルが元に戻る。

 

 

 

 レベルオーバー状態での最大加速を維持したままで。

 

 

 

「気を付けろ、車は急に止まれない。車だけじゃない、モビルアーマーもな」

 

 

 突っ込む先は小惑星帯。戦闘を始める前にあらかじめそこに撒いておいた大量のアステリコン合金木の丸太────奇仏寺ウッドマテリアルなんて会社を経営していて良かった。開発者の探求ネキには今度何かしら、御供えをしておこう。

 

 レベル40少々のステータスで急停止する事はできず、その宇宙空間に浮かぶアステリコン合金の丸太群。オリハルコンとブラックダイヤを元に生成された幻想合金は、修行用異界深層でも通用するほどの硬度と強度、そしてついでに結構な重量を持つ。

 レベルオーバーの加速を保ったままレベル40程度の耐久力でそんなものに激突すれば、当然のごとくタダじゃ済まない。

 本来であれば敵を仕留める前にどうにかして減速するんだろうが、予想外のタイミングで戦闘を切り上げられてしまったから、こうなった。

 

 こっちが破壊されたメガシップの残骸を回収するのを向こうが見逃した理由も、おそらくはコレだ。レベルオーバー状態で下手に加速などしようものなら、敵を倒してレベルが元に戻った後で止まる事ができなくなる。どこに飛んでいってしまうかも分からず、再度の軌道調整の為にはまた飛んでいった先のどこか遠くで運良く新しい敵と出くわしてギミック発動が叶う事を祈るしかない。

 

 

 

 真空中だ、音は聞こえなかった。

 

 

 

 だが小惑星が密集した中に立て続けに爆光が弾け、繰り返しデブリが飛び散っていく。最後に弾けたのはエメラルドグリーンに燃える閃光────おそらくはゲッター炉心に特有の燃焼光だ。

 

 

「敵性反応、いまだ未消失────まだ、生きてます」

「みたいだな。やっぱ仕留めきれないか……まあ最低限、【食いしばり】くらいは持っていても不思議じゃないからな」

 

 それくらいは想定している。【不屈の闘志】や【生還トリック】、あるいは○○サバイバ系のスキル等々、このメガテンの世界に類似スキルは割と多い。そしてHPが1でも残っていれば、そこから【ディアラハン】一発で復活されてしまう。

 だから一定のレベルを越えた強者が格下からのラッキーパンチ一撃で沈むなどという番狂わせは、まず起こらない。

 

「…………どうしますか? 放置しておけばいずれは再生、追撃すればレベル上昇による急速回復。どちらにしても最悪のパターンは考えられますが?」

「当然、追撃するさ。……大丈夫、それも含めて勝つ算段は付いてるよ」

 

 本体であるメガシップは破壊されてしまったが、そこから分離したメガシャトルそれ自体も想像以上に傷ついていた。装甲の歪み凹みは当然として、それ以外にも敵のビーム攻撃で半ば融けかけた装甲は火傷にも似て見るに堪えない状態だったが、それでも最低限の役割は果たしてくれている。敵の元に向かうのに支障はない。

 僕はメガシャトルの機首を巡らせると、アダマントスの丸太の中で半壊状態になった邪龍クラリオンの元へ向かうべく、メガシャトルのスラスターに再点火した。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 ベルトの両脇から二基のゼクターが分離する。限界を越えた出力を発揮してオーバーヒート寸前のカブトゼクターとダークカブトゼクターは、その外装の隙間から黒い煙を吐きながらも“書斎”に組み込まれたDDSネットワークへのバックドアを通じてラピュタへと帰還していった。

 素の状態になったオーズドライバーから三枚のメダルを外すと、ドライバー内蔵の壷中天から吐き出された機械部品のように無機質な追加パーツがオーズドライバーの上から接続され、完成した『ギンガオードライバー』のスロットに三枚のコアメダルとアストロスイッチが装填される。

 

《サメ!》

《クジラ!》

《オオカミウオ!》

 

「……変身」

 

《コズミック・オン》

 

 全身を覆う鈍色の装甲の上から金色に燃えるエネルギーラインが這い回るように伸び、背中を覆う月齢髄液の可変外套には電子回路図にも似たパターンが描かれる。バケツヘルムにも似た特徴的な円筒形の頭部では、ただそれだけが感情の表れだと言うかのように赤青二色のランプが無機質に明滅した。

 サメ・クジラ・オオカミウオのメダルによって変身する怪人形態────『超銀河王』。原作とは異なりその腰に装着されたままのギンガオードライバーに装填されたコズミックスイッチを通じて太極炉術式ネットワークに接続して莫大なエネルギーを吸い上げ、同時に多数のアストロスイッチの力を同時に振るう事を可能とする現状の最強形態だ。

 

「行くぞ」

「はい、マスター……お供します」

「そこまで緊張するなよ。多分、思っているよりも危険はないよ」

 

 メガシャトルのエアロックから宇宙空間へと飛び出した僕は、周りに浮遊している大量のデブリを指差して肩をすくめる。

 どれもこれも似たような形をしたデブリの正体は、さっきクラリオンが撒き散らした攻撃端末フェザーファンネル────原作のディビニダドと同じ仕様であれば、大量搭載するための小型化の代償として機能を限りなく簡略化されているせいで、一度飛ばしてしまえばエネルギーの再充填は不可能なはずだが、しかしわずかにでもエネルギーが残っていれば、いつ【光子力ビーム】が飛んできてもおかしくない。

 

 そうならず、ひたすら動かず沈黙しているのは────そうできない理由があるから。

 

 コズミックスイッチに組み込まれた重力制御を稼働させ、さらに右腕にはロケットモジュールを展開。逆の腕にメディアの細い身体を抱えて宇宙空間を移動していくと、やがてクラリオンが突っ込んだらしき宙域が見えてくる。

 僕が丸太を設置したのは、元々クラリオンの進路上にあった中でも特に小惑星の密度が高い宙域だ。さらに外から小惑星を撒いて、より物理的な密度を高めてもいた。

 だからその場には無数の小惑星が集まっていて、その隙間からはエメラルドグリーンに燃える放射能が広がっていた。【アナライズ】の結果見えたその名前は『ゲッター線』、つまりこれ自体が厄ネタというわけだが……攻撃の為ですらないのに、こんな勢いでゲッター線が放出されているのはどういう事やら、おそらくはゲッター炉の中身が漏出するくらいに機体が損壊しているのだろう。

 

「やっぱり、な」

 

 一際大きな小惑星の中にめり込むようにして、邪龍クラリオンは沈黙していた。片翼が千切れ、半身も大きく抉れた状態で、その胸部中央に存在する主動力炉と思しき機構も半壊した状態で露出し、中から溢れ出す濃密なゲッター線に包まれたその姿は、まるで火炎地獄に焼かれる罪人の姿を思わせた。

 漏れ出すゲッター線の緑色の輝きの中でゆっくりと始まっていた自己再生は僕が近づくのに合わせて停止し、こちらに気付いた邪龍クラリオンは右半分が潰れた顔面の視覚センサーの視線を向け、どうにか反撃しようと巨大なクローアームを持ち上げるが。

 

「っ、マスター……!」

「大丈夫だ。もう、アイツには何もできない」

 

 力が足りないのかクローアームの動きは途中で止まり、ゲッターの輝きに全身を焼かれながらクラリオンは憎々しげにこちらを睨みつける。

 

「確かにそのようですが…………なぜ?」

「マグネタイト不足。ここは真空の宇宙空間だからな」

 

 霊脈もない。信者だっていないから信仰MAGも得られない。そしてその生命密度の低さときたら、砂漠や極地と比しても無に等しいレベルであり、生物を手当たり次第に殺戮して生命MAGを掻き集めるなんて事もできやしない。

 

 そしてこの世界は女神転生の世界だ。曲がりなりにも機械の身体の内側に悪魔としての霊基を持つコイツが何をするにしても、その存在を維持するためにはマグネタイトは必要で、それが尽きれば存在が維持できずに弱体化し、スライムに成り果て、溶けて消える。

 常であれば機体内部のゲッター炉心の熱量をマグネタイト変換して賄っていたのだろうが、その炉心が潰れた今、クラリオンは深刻なマグネタイト不足に陥っている。

 

 それでも本来ならレベル低下と引き換えに残存マグネタイトを節約し、時間を掛けてゲッター炉心を再生していけば復活の目はあった。現に今さっきまで、そうやって機体を再生しようとしていた。

 

 僕が来た事で、それも駄目になったのだが。

 

 この世界のルールとして、存在とレベルを維持するためにはレベルに相応しいマグネタイトを消費する必要があり、そしてその消費量はレベルが高ければ高い程に膨大になっていく。それはこの邪龍クラリオンとて変わらない。

 ましてや、再び戦闘状態に突入したせいでギミックが発動してしまい、計測不能域にまで届いているコイツが必要とするマグネタイト量は天文学的なものとなっている。ましてや下手にレベル上昇ギミックなんてものを使っているせいで、戦闘が終わらない限りレベルを下げて消費を抑えるなんて中途半端な真似もできない。

 どれだけ大量のマグネタイトを備蓄していようが追いつくわけもなく、残量が底を突くのは時間の問題だし、何なら腕一本動かすためにも必要なマグネタイトが存在の維持に吸われてしまい、もはやクラリオンには何もできない。

 

「で、後は……」

 

 壷中天から取り出したアタッシュケース型のユニットを展開し、折り畳まれていた刃が上下に解放され、矢を象った光矢射出ユニットが伸びて機構弓『アタッシュアロー』が完成する。

 本来は滅亡迅雷フォースライザーやAIMSショットライザーのようにプログライズキーを使用するデモニカシステム御用達の武装だが、武器として振るう事に問題はないし、プログライズキーがあれば武器側から必殺技を発動する事だってできる。

 今回取り出したのはゼロワン用に開発された『メタルクラスタホッパープログライズキー』。それをバタフライナイフのように展開し、アタッシュアローの機関部に装填して。

 

 

《Metal-Hoppers Ability.》

《Charge-Rise, Full Charge.》

《────メタルライジングカバンシュート!!》

 

 

 アタッシュアローの機関部から溢れ出す月齢髄液が殺戮蝗の大群へと変形し、その蝗の一匹一匹が流体金属の矢へと再構成されてクラリオンへと降り注ぐ。その射撃は半壊状態とはいえレベルオーバー状態のクラリオンに対して傷一つ与える事はできないが、しかしその装甲表面で弾けた流体金属は蝗の大群へと再構成され、延々とクラリオンへと攻撃を繰り返す。

 その牙は動けずとも絶望的なレベル差により埒外の防御力を保つクラリオンの装甲を傷つけることができず一見無意味な行動に見えるが、しかしクラリオンに継続的に攻撃を続けるという目的は果たされている。こうして継続ダメージを維持する限り“戦闘状態”は続くからギミックは解除されず、クラリオンは指一本動かせない。仮にギミック解除ができるにしても、その時はその時で正面から打倒すればいいだけの話。

 

「後は、お前の存在を維持するマグネタイトが涸れ果てるまでこうやってゆっくり待っていればいいんだが────その前にやっておきたい事があるんだよ」

 

 異世界からの脅威。

 

 今回のように、どうしようもなく対処不能な敵が出てくる事もあるだろう。

 完全に未知の存在であり、解析すらできないとあれば、倒すための糸口すら見えない事もあるだろう。

 

 それでも勝たなければならない。

 出来なければ生き残れない。

 

 そのために。

 

 敵が何であれ、勝つために。

 

 

 ここで試すしかない。

 

 

「そのためのサンドバッグとして、限りなく都合がいいんだよ、お前は」

 

 

 隔絶した力を持つ極大強度の敵を、主人公補正等という不確かな力を借りずとも、間違いなく捻じり潰すための手段を試す実験台として。

 

 手持ちのアタッシュアローの下端、格闘用のエッジを近場の小惑星に突き立ててその場に設置し、続いて取り出す武器は大罪武装“悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)”。その後端に設けられた原作には存在しないカードリーダーにサーヴァントカードを装填すれば、“悲嘆の怠惰”の白と黒のシンプルな色調とは裏腹に複雑な形状をした腕を象った刀身は青白いマグネタイト光を散らして光の粒子へと分解され、柄の上下に円錐形の穂先を持つ最果ての聖槍へと姿を変える。

 

「……行くぞメディア」

「お供します、マスター ────大罪武装『焦がれの全域(オロス・フノートス)』起動します」

 

 最果ての聖槍を握った僕の手の上から、メディアがそっと手を添えれば、その穂先を中心に無数の仮想モニタが展開し、穂先から溢れるマグネタイトとは異なる蒼の輝きが強くなっていく。

 

 メディアがその内界に宿す、嫉妬を司る大罪武装『焦がれの全域』────その実態は、全ての大罪武装を統括制御し、その出力を最大限にまで引き出すためのOSだ。サーヴァントカードの力で見た目の形は変わっても、“悲嘆の怠惰”が大罪武装である事には変わりなく、メディアの制御を通じて“悲嘆の怠惰”は最果ての聖槍としてその力を解放する。

 

 コズミックスイッチを中心に多数のアストロスイッチが出力を共鳴増幅させる太極炉術式ネットワーク、そしてその中に組み込まれたメテオスイッチを通じて、遥か遠方のラピュタの動力炉やメガソーラー、四国霊道環状線と直結した“祖国(ファーターラント)”などから莫大なマグネタイトが流れ込み、それが上下の穂先に収束し。

 

 やがて仮想モニタに表示される出力ゲージが100%を越えたところで、聖槍が柄上に取り付けられた小さな円盾から朧な光輪を散らし、世界は大きく様相を変えた。

 

 

 蒼輝銀河即ちコスモス。

 エーテル宇宙即ち秩序。

 

 その場に岩塊のごとき雑多な小惑星やデブリは消え失せ、ただそこにあるのは人々の誰もが少年時代に抱く宇宙への憧れをカタチにしたような、静寂の宇宙に拡がる銀河のシルエット。『無』を食い破り、宇宙を拡げる真理そのもの。

 その只中でカタチを失い、世界を繋ぎ留める二本の大光柱となって、溢れ出すエネルギーが象る二つの穂先。

 広がり続ける宇宙の最前線として“世界の果て”を定義し、宇宙の秩序を守る天秤となる。

 

 

 

 ここまでは既に試した、宝具の解放に問題はない。

 

 これから試すのは“その先”だ。

 

 この世界を侵そうとするのであれば、たとえ敵が何であれ完全に殺し切るために。

 

 

「 南無大天狗、小天狗、有摩那天狗、数万騎天狗来臨影向。

悪魔退散、諸願成就、悉地円満随念擁護、怨敵降伏一切成就の加ァァ持!!

唵 有摩那天狗 数万騎娑婆訶 唵 毘羅毘羅欠 毘羅欠曩 娑婆訶、

 

下劣畜生────邪見即正の道ォォォォ理!!!!」

 

 

 『混沌の言語』による詠唱により、“俺ら”の認知を素材とし、集合的無意識それ自体が僕の必要とする術式を過不足なく編纂する。

 構築され、展開するのは外宇宙接続術式【獅子像孤狼】。

 

 

 サーヴァントカードが生み出す虚像のように不確かで微かな“縁”を通じて、遠く遠く世界の外側、限りなく彼方に存在する、絶対に接続してはならない深淵へと接続する。

 

 僕の背後に浮かぶ蒼輝銀河の渦動を内側から引き裂いて、どこか限りなく遠くから、たった一粒の宇宙よりも遥かに巨大な機械仕掛けの眼球が、こちらを観ていた。

 限りなく深く、文字通り限界がないほど絶望的な、深く狂おしく重苦しい憎悪の視線が降り注ぐ。

 宇宙の果てを示す階が断末魔の絶叫にも似た軋みを上げる。

 

 この術式が繋げる世界は、かつて僕が自ら封じた、決して接続してはならない場所へと繋げるもの。

 

 

 それは限りなく制限された、ほんの一瞬のものでしかなく、しかしそれでいて、それが引き起こした結果は甚大だった。

 

 

 蒼輝銀河に走る亀裂越しに、あまりにも破滅的な滅尽滅相の理が流出する。

 

 僕の背後に浮かんだ機械仕掛けの眼球から降り堕ちる、いっそ優しくさえある撫でるような視線の一瞥に触れただけで、空間が圧倒的な質量により爆砕され、眼前のクラリオンを基点にこの宇宙に流れ出そうとしていた外宇宙の理が、さらなる絶望により上塗りされて爆ぜるように弾け飛んだ。

 

 後は、それで終わり。

 

 反ガイアという理の加護を喪失したクラリオンを、最果ての聖槍を振るって断罪し、壊れかけた蒼輝銀河を閉じれば、あの廃絶した外宇宙からの視線は宇宙の境界線が閉じた事によって遮られ、再び慣れ親しんだこの世界本来の宇宙が戻ってくる。

 

 

 その直前。

 

 

 最後に、蒼輝銀河に走る亀裂の向こうから投げ掛けられる視線が、僕の背中の、さらにその向こう側に拡がる宇宙空間の彼方を一瞥する。

 

 

 ────汝は邪神、罪ありき。

 

 

 狂乱にして憎悪に狂った機械仕掛けの神は、たったそれだけを言い残して瞼を閉ざす。

 

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 

 数多恒星が闇の中、小さな点となって煌めきの残滓だけを底なしの虚空に灯している。天体規模の核融合反応により巨大な質量から常時発散され続ける無数熱量の輝きは、しかしその大半が何の成果ももたらす事もなく、虚無なる闇の中へと散っていく。

 

 

 宇宙。

 

 

 いずれ発展を続ける人類が直面する、あまりにも巨大な虚空。

 

 その只中、恒星と呼ぶには一歩遠く、しかし周辺に浮かぶ別の星々に比べれば最大級の大きさを誇る惑星、その大気圏内を満たすメタンの海の中に、“それ”は潜んでいた。

 

 

 人に非ず。

 悪魔に非ず。

 

 地球の存在でもなければ、この宇宙を起源とする存在ですらない。

 だが“地球”という星と浅からぬ因縁を持つその怪物は、果てしなく遠く、しかし広大な宇宙空間の尺度からすれば目と鼻の先といえる程に近い場所から地球へと狙いを定め、侵攻の機を狙って眷属を増やし、そして今。

 

 数万を越える数の軍勢を惑星の大気圏内に従えたまま、メタンガスの深淵に身を沈め、追憶に浸っていた。

 

 

 かつて宇宙から地球へと飛来した“それ”は、ちっぽけな、しかし宇宙の中では宝石よりも貴重な生命溢れる惑星を手中に収めるために謀略を巡らせ、しかし敗れた。陰陽師の末裔を従え、人を異形に変える薬物を流通させ、帝都の守護者を異界へと放逐し────しかし時を置かず帰還した帝都の守護者と戦い敗れた、それが最初の敗北。

 

 しかし死なず、滅びず再起した“それ”は、その世界にて水面下で謀略を張り巡らせていた“法の神”と手を結び、やがて討ち果たされた“法の神”に代わって復活を遂げるに至り、しかし。

 

 

 敗れた。

 

 

 彼らに抵抗するべく、善性を司る旧来の唯一神による最後の足掻きによって異世界から呼び込まれた、ちっぽけな魂を抱えた転生者達。

 あまりにも小さく頼りない力しか持たないがために視界にさえ入っていなかった彼らは、霊能ではなく科学技術を己の牙として磨き上げ、異世界からの来訪者らの手によって支えられ、ついには“法の神”が築き上げ、“ガイア連合の世界”すら上回るほどに強大に仕上げた牙城、その世界のメシア教会さえ滅ぼすに至る。

 

 

 そうして。

 

 

 “それ”は敗北した。

 “女神転生”の規格すら遥かに凌駕して強大な肉体は粉微塵に砕かれ、死霊と化して落ち延びようとして尚も捕らえられ、滅ぼされた。

 

 

 而して。

 

 

 

 砕け散った霊基、その最後の残滓たる一欠片が、とある平行世界に根差す邪神の興味を引いた。何もなくともただその存在のみで世界を掻き乱す“蛇”という性質を持つその“神”は、たまさか自身の世界へと流れ着いたその欠片を手慰みに再生し、そしてまた別の世界へと送り出し。

 

 

 そうしてこの世界へと流れ着いた“それ”の霊基が、木星へと降着した。

 

 

 太陽から遠くその光は届く事なく、冷え切ったメタンの海が広がる巨大な水平線の下より、惑星が生み出すマグネタイトを吸い上げて、かつての強壮なそれには劣れど強靭な肉体を作り上げ、それにも飽き足らず、かつての盟友であった“法の神”から掠め取った権能と知識を用いて眷属を生み出して勢力を増していく。

 

 何より幸運だったのは、気まぐれに“それ”を拾い上げた神格が敷いた覇道より流出する“太極”としか呼びようがない異界の法理に触れた事。

 平行世界の邪神にして聖神たる世界蛇がもたらした理は、掠め取った信仰を急造の神座に詰め込んだ、太極として他と比べれば完成度において劣るものであれど、しかし“女神転生”の法理から半ば逸脱した異界法則に接触し、染め上げられた事により“それ”の性質は大きく変貌し、太極の眷属としてかつてを上回る強大な力を得た。

 かつての世界における仇敵であった『ボーダー』に対しては何の意味もなく、しかしこの世界であれば地球の────あるいは宇宙の全てを蹂躙しても足りぬ、それこそかつての同盟者たる“法の神”すらも越えて己が至高天の神座に立つ事すら可能とする程の。

 

 

 そうして。

 

 

『う、嗚呼ああああああああああ……ッ!! 痛い! 痛い痛い痛いぃいいいいいいいいッ!!!!!! 何で!? どうして!? 何でェええええええ!? 何で、この私が、何でぇえええええええ!?』

 

 

 “それ”は絶叫していた。

 

 

 ディビニダド────機械の外殻に中枢として組み込んだ分霊の一体が砕かれた程度であれば、どうという事もない。

 何なら地球圏を軽く焙るくらいの感覚で、核で焼く程度は期して放った駒だ。それが衛星軌道にさえ届かず小惑星帯などという辺鄙な場所で潰されたとあれば腹立たしくはあれ、しかし先行偵察に出した程度の個体など、いくらでも複製できる使い潰し前提の駒でしかない。

 

 だが、それを通じて砕かれたのが太極の理であれば話は別だ。ましてやそれを為したのが外宇宙の理、あらゆる邪悪を赦さず遍く宇宙に滅尽滅相を敷く絶望にして終焉の理となれば尚更に。

 死滅の視線が宿した廃絶の理は、クラリオンが同化していた反ガイアの理をその重量だけで破砕するだけでなく、その亀裂の奥深くまで喰い込み、理に宿る殺意は治癒も蘇生も許さず、じわじわと侵食してクラリオンの存在そのものを内側から喰い破り、根本から破壊しようとしていた。

 

 叫んでも、暴れようとしても、決して痛みから逃れられぬ。唯一の可能性があるとするなら、それはクラリオンを蝕むこの滅尽滅相の理の主を討ち滅ぼす事だが────所詮“太極”にとっては一介の走狗でしかないクラリオンが、主である“太極”と同格にして格上たる、かの破滅の神格を打倒する事など、一介の砂粒が恒星に挑むに等しい無理難題だ。

 

 

 故に、滅びは避けられぬ。

 既に、滅びは避けられぬ。

 

 

 なればこそ。

 

 クラリオンは決断する。

 

 その本来の存在意義に立ち返り、破滅の理が総身を滅ぼし切るより先に、総力を挙げて人類文明を抹消すると。

 

 

 そうして。

 

 残り9機のディビニダドを解き放った邪龍クラリオンは、地球に攻め込むべく木星から膨大なマグネタイトを吸い上げ始めた。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 結論から言って────大目玉を喰らった。

 

 

 まあ、当然である。

 

 いくら人間の感覚からすれば地球から遠く離れた小惑星帯とはいえ、【獅子像孤狼】にて呼び出される対象の本来の存在規模を考えれば、その影響が地球まで波及する可能性は十分以上に有り得た話だ。幸いにも地球に影響はないものの、終末案件スレスレのやらかしは本当に洒落にならない。

 

 ……とはいえ、アレをあれ以外の手段で斃し得たか、と聞かれたら首を傾げざるを得ないし、だからこそ最終的には許されたわけだが。

 

 

 クラリオンに【獅子像孤狼】をぶつけた時に、クラリオンの理が砕けゆくその一瞬、細部や来歴の詳細まで正確に読み取る事は無理だったものの、クラリオンが纏っていた理の大雑把な全体像を【アナライズ】する事ができた。

 今回外宇宙から飛来したクラリオンが纏っていたギミックの正体は、“反ガイア連合”とも呼べるルール────つまり『ガイア連合に所属する相手と戦う際、ガイア連合に所属する人間の才能限界の合計値まで自身のレベルを上昇させる』というもの。

 

 ガイア連合、とりわけ黒札の強さの根幹が青天井ともいえる才能限界の高さに由来する以上、これはきわめてどうしようもない代物だ。たとえば才能限界100レベルの人間がガイア連合内に100人いるだけで、クラリオンのレベルは1万まで上昇する計算になる。実際は、間違いなくもっと上まで行くだろう。

 しかも理そのものが“滅尽滅相”と比べてもかなり急造品であり能力者の主観に依存しているためか、観測データを判定したショタオジ曰く、この“ガイア連合”判定も非常にユルユルである可能性が高い……ほんの爪先だけでもガイア連合の恩恵を受けていれば、それこそ一度ガイア製の傷薬で治療した経験でもあればギミック発動待ったなしとかいうガバガバ判定であるらしい。ギミックを回避したければ名目上の別組織を立ち上げた程度じゃどうにもならず、それこそガイア連合と縁を切ってシキガミも捨てるとかでもしなければどうしようもないとか何とか……うん、どうしようもないネ。

 

 戦闘においては絶対に勝てない相手が核兵器を抱えて地球に突っ込んでくる…………うん、紛れもない終末案件だな。宇宙から飛来してくる敵が、何でこうまで対ガイア連合に特化した能力を持っているのかは知らんが、実に迷惑な話である。

 

 

 今回は詐欺みたいな手法で上手くいったが、次は同じ手段が通じるとは限らないのだ。あのクラリオンは一介の分霊に過ぎない。

 例えば某ゲームのオンライン対戦で廃プレイヤー共に好き放題に狩られオモチャにされた事で有名な某チートプレイヤーは、しかし狩られるたびに新手のチートを繰り出してきたし、またプレイヤースキル自体もその経験相応に成長していったという。

 なら当然、敵だって強くなったり、現状に適応してきたりするだろう。

 

「やれやれ超絶気が重いというか、関わり合いになりたくない」

「無理だね」

「……ですよねー」

 

 ショタオジに断言されるレベルなので、どうしようもない。

 

 

 とはいえ収穫もある。

 

 

 まず何より、レベルが上がった。

 

 ゲッター線を浴びた事でレベル上限が上がり、そこに【獅子像孤狼】を発動した副次的な効果で“呼んではならないもの”から莫大な存在強度が流れ込んだ事により、一気に30ほどレベルが上昇した。

 それだけあの神格が強大だったという事だが、事後に精密検査を担当してくれたショタオジによると、下手をするとその時点でパァンしていた可能性もあるからして、運が悪ければ死んでいたかもしれない、という話。

 

 それに加えて、体内にあの神格の残滓である邪神特攻が残留しているため、僕自身とその仲魔に限り、次以降は今回のディビニダド程度であればレベル差を無視して攻撃と防御ができる可能性がある、とか。

 

 ともあれ、これでゲッター線関連の技術は封印指定だな。才能の無さにピイピイ言っている名家やなんかが欲しがりそうな技術だが、そんなインスタントにレベル上限を上げられる技術を最も効果的に活用できるのは物量とマグネタイト資源の掌握率に勝るメシア教会……過激派・穏健派問わずだ。

 もしそんな状況でこの技術が外部に漏出すれば、何が起こるかは…………うん、想像したくもない話だ。

 

 だからまあ、その辺の一通り確保できた資料とサンプルは、ショタオジの手で保管される予定。

 

 

 そして第二に、超合金ニューZαのサンプルが回収できた事。

 あのクラリオンが戦闘中、大量にバラ撒いていたフェザーファンネルから、超合金ニューZαなる名称の金属のサンプルが確保できたのだ。オリハルコンやアダマスなんかの神話金属に匹敵するかそれ以上の強度と硬度を兼ね備えた、ある意味“理想の金属”を体現する材質……そんな代物を惜しげもなく使っているとか、贅沢な話だ。

 そして金属である以上、合金樹の技術を利用して増やす事ができる。これでロボやライダーの開発が捗りそうだ。

 

 それ以外にも【光子力ビーム】の発射機構のサンプルが回収できた事も大きい。これを解析すれば、将来的には純科学技術に秀でた呉のロボ研あたりが光子力エンジンの実用化に成功するやもしれない。

 

 

 とはいえ────木星から地球に向けて飛来する9機のディビニダドとかいう厄ネタが観測されたから、最低でもそれを乗り切ってからになるけどな!

 

 

 ……大罪武装と聖譜顕装の開発を急がないとな。その辺はショタオジも手伝ってくれるという話だけれど…………もう本当に、今から気が重い。

 

 

 

 

 





 社畜ニキ「おっ、平行世界から何か面白そうな宇宙生物来とるやん、ちょっと壊れてるけど修理してみよっと……あっこれこっちの世界のショタオジにバレたらマズいわ。ワイもいらんし、元々平行世界から来たものだから、平行世界に返しときゃバレへんやろ、ヨシ!」
 渦動破壊神「やあ」



 中華戦線で戦っている時点で、無惨ニキのレベルはだいたい深層に潜って深層素材を扱えるくらい。

 なお無惨ニキは亜種形態も割と使っていくスタイル。



~割とどうでもいい設定集~



・曹華琳大佐
 元ネタは『恋姫』シリーズ。曹操なので有能。
 安徽省から華北平野に掛けての一帯を実効支配しつつメシア教会への抵抗運動を行っている曹軍閥のトップ。中華戦線における最大規模の霊的拠点の一つである泰山の奪還を中期目標として活動している。
 地獄の中華戦線を支えられるだけあって軍事・政治双方に関しても極めて優秀であり、また異能者としても単純に強い。
 半終末期の戦闘で覚醒した口であり、元々実年齢より幼く見える外見が悩みの種だったのが、覚醒して肉体それ自体ごと完全に若返ってしまい、歳は取らないし身長は伸びないし他の部分も色々と全く成長しないしで、割と困惑している。
 元政府軍大佐だが、既に政府との縁はほぼほぼ切っているというか、それ以前に政府自体がほぼほぼ息をしていない。

・アクシズ
 元ネタは『機動戦士ガンダム』シリーズ。
 小惑星帯に設置された観測基地。
 将来的には地球圏や火星から木星にかけての長距離輸送を行うための中継基地として宇宙港などの設備が整備される予定。

・邪龍クラリオン
 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)様『カオス転生リスペクト-転生者がロバなんで独自設定に走っても良かですか?-』より。
 本来は『デビルサマナー 葛葉ライドウ対コドクノマレビト』のラスボスであり、メガテン公式作品では数少ない“悪魔でも人間でもない”敵であり、本物の外宇宙からの来訪者……なのだが、ロバ独世界においては微妙に事情が異なり、その実態は『トップをねらえ!』の世界における母艦級宇宙怪獣が別世界であるロバ独世界へと迷い込んだ代物で、ロバ独世界を牛耳っていた“法の神”の数少ない『同盟者』。
 ロバ独世界におけるメシア教勢力の敗北が確定した後、その報復のためメシア教側勢力の手によって完全復活を遂げるが、その世界の転生者達やその仲間達、そして別世界から救援に駆け付けたスパロボ勢力と戦い敗北し、完全に消滅したのだが…………。

 その残滓がたまさか別の世界に存在していた、世界蛇の性質と重度のやらかし癖を持つとある邪神に拾い上げられ、復活。邪神が持つ反ガイアの理を与えられて平行世界へと送り出され、木星へと落下して勢力を蓄え続けてきた。
 なお、カオ転世界での葛葉ライドウが戦ったクラリオンとは平行存在であるが別個体。

 なお、種族が邪龍になっているのは世界蛇の理を受け入れた際にその存在を変質させたため。その本質は従属神というよりは射干と呼んだ方が近い存在。
 世界蛇の邪神の曼荼羅に取り込まれた存在であるため、邪神から流出する反ガイアの理を有しており、これによりクラリオンやその下僕がガイア連合に所属する敵と戦う際にはレベルが『ガイア連合に所属する者のレベル上限の総計』まで跳ね上がる。

・ディビニダド
 元ネタは『機動戦士クロスボーン・ガンダム』。
 邪龍クラリオンが分霊を宿すための鋼の外殻。
 ロバ独世界のメシア教会側の技術をクラリオンがパクって製造した代物であり、ガワはガンダムシリーズの癖に、中身はゲッターとマジンガーのちゃんぽん。
 実は主動力炉は光子力エンジンなのだが、機体各部に大量のゲッター炉心を分散配置しており、その出力をマグネタイト変換する事により、邪神の理が発動した際のレベルを維持するためのマグネタイト生成源としていた。これはクラリオンが本来所属していたロバ独世界のメシア教会側勢力がゲッター線の意志から敵意を抱かれており、ギミック発動によるレベル上昇抜きではそれを抑え込む事ができないため。
 主兵装として【光子力ビーム】や【ゲッタービーム】を搭載しており、それ以外にも巨大なクローアームや大量のフェザーファンネルの他、最大の目玉機能として全身に分散配置されたゲッター炉心により機体そのものが巨大なゲッター爆弾として機能する特攻兵器。

・焦がれの全域
 元ネタは『境界線上のホライゾン』。嫉妬=全竜を司る大罪武装。
 全ての大罪武装を統括制御し、最大出力で稼働させることを可能とするOS。
 “悲嘆の怠惰”に続き、無惨ニキ製の大罪武装シリーズの中では二番目に開発されたものであり、無惨ニキの最初のシキガミであるメディア・リリィに搭載されている。

・獅子像孤狼
 元ネタは『神威神咒神楽』。
 外宇宙接続術式。
 あいてはしぬ。
 “旧神のフォーリナー”のサーヴァントカードを縁とする事で“絶対に呼び出してはならないもの”と接続し、その理と存在強度のバックアップを受けつつ攻撃する。発動時には背後に“機械仕掛けの神”の視線が召喚され、敵の動きを封じる……副次的な作用により、敵対神格の流出を理のせめぎ合いにより相殺、あるいは破壊する事が可能。
 攻撃時には“機械仕掛けの神”が持つ滅尽滅相の理が働くため、大抵の敵は邪神冤罪剣によるゴリ押しで消し飛ばせるし、それで生き延びたとしても“神”の理が邪神の死以外の結末を赦さないため、“神”と同格以上の存在強度がなければ自然治癒の阻害どころか、最悪は勝手に傷口が押し広げられて継続ダメージで残滓すら残せず、だいたい渇かず餓えず無に還る事になる。

・超合金ニューZα
 元ネタは『マジンガー』及び『スーパーロボット大戦』シリーズ。マジンカイザーの装甲材。
 とにかく馬鹿みたいに頑丈な、スパロボ系作品の中でも最強クラスの素材。耐熱性や腐食耐性も万全。
 スパロボFでは超合金Z製のマジンガーZにゲッター線を浴びせる事で超合金ニューZα製のマジンカイザーに変異した経緯があり、今回のディビニダドから超合金ニューZαがドロップしたのはそれが理由。




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