ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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 今回、緋咲虚徹様『【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく』から『072:組織が大きくなれば祭も大きくなるもので』を参照すると分かりやすいかと思います。


とある黒札の性癖がブッ壊れた話02

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 色々と、考えた。

 

 ドブカスニキは「特に期限も切らんし、必要になったらいつでもおいで」と言ってくれたので、ある程度なら待ってもらっても構わない……少なくとも、失礼にならない程度の間は、だが。それがどれくらいかは、ちょっとよく分からないが。

 

 得な話だとは分かっている。つまりは、ほとんどタダみたいな条件で、修羅勢御用達の術式を教えてもらえるという事。

 社長にベタ惚れのドブカスニキは女の子にはまず間違いなく手を出さないし、適当なように見えて誠実な人であるのも分かっているから、騙されるなんて事もまず、ない。そしてそれ以前に、真偽判定とかその手の異能者まで抱えているガイア連合で詐欺なんて普通は無理。 

 

 ただ……どうなんだろう。

 

 別に強くなりたくないわけじゃない、が、それって私が望む行く先なんだろうか。

 私は非戦闘員の料理部員だし、将来的にも目指している先は料理人だし。

 それはそれとして、ただひたすらにそれだけを極めていれば満足する、みたいな……例えば有名どころならエロを極めたミナミィネキ、剣術に全力投球する星杖ニキみたいな求道者というわけでも、ない。

 

 でも、そもそもレベル上げないと異能者としては先に行けないのも、また事実。

 

 

 

 そんな具合にうだうだと考えながら一週間────夏祭りの日が訪れた。

 

 

 

 星霊神社、夏祭り────通称、“星大祭”。今と違って黒札の数もガイア連合の規模もそこまでじゃなかった昔は、身内の黒札同士で集まって楽しむささやかな夏祭りだったらしいが、今となっては町を上げての規模で開催される実に大掛かりなイベントだ。

 昔の面影とかは……まあ、私はそんな古参じゃないから、分からない。

 

 ともあれ、子犬モードに変化したシキガミを抱えながら、祭りの町中をぷらぷらと歩いている。本来なら修行先の膳王飯店でちょっとした屋台を出していたところなのだが……いや、別にサボリとかではなく、ただ悩みというか、料理に集中し切れてない事を炒飯ネキことルミ先輩に見抜かれて、気分転換でもしておいでと言われて、こうしてちょっとした散歩に勤しんでいるのだ。

 

 いやまあ、実に賑やかでは、ある。

 

 ある、が。

 

 

「むぅ……」

 

 

 どこに行って、何をすればいいのか。そんな単純な事が、ちょっと分からない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 昼飯代わりに持たされた袋が、微妙に重い。中身は炒飯ネキの異名を取るルミ先輩特製の賄い、炒飯焼きおにぎりだ。どう考えても普通に美味しいしかない食べ物だが、これがあるから、その辺でちょっと買い食いとか、そういう気にもなれない。

 いっそ今すぐに食べてしまおうか、とも思うが、アリスを真似て買ってみたベルト固定式のポーチ型COMPの時刻表示では、昼食にはまだまだ微妙に早い時刻だ。

 

 何か近くでイベントでもやっていればいいのだが、そういった事をやっている舞台は微妙に遠い場所にあって、軽く歩いて見に行くにも微妙な位置だ。いや、この時間に昼食手渡しで放流されたって事は、ちょっとしばらく帰ってくるなって感じだろうから行こうと思えば行けるのだろうけど、どうにも足が向かない。

 

「……こういう時、アリスとか他の子だったら迷わずに済むんでしょうか?」

 

 ベンチに腰掛け、子犬モードの我がシキガミとじっと見つめ合う。不忠な我がシキガミはニンゲンの事情など知らんとばかりに、無邪気に首を傾げているが。

 

「仕方ありませんね。もうちょっと歩きましょうか」

 

 裏通りを歩いても、シキガミ同伴なら事件に巻き込まれる心配もそこまでないし。ちょっと変わった出店を見つけるのも楽しいかもしれない。そんな風に思いながら、祭りのパンフレットを片手に、普段は歩かないような裏道へと踏み込んだのだが。

 

 

「…………いや、どこですかココ。地図にもこんな場所載ってませんよ?」

 

 

 空気の肌触りからして、違う。

 

 これは異界だ。

 

 ガイアグループの城下町として一般人にも開放される表向きの星大祭とは隔離された、山梨第二支部を中心に展開した簡易異界内に展開された、金札を始めとする覚醒者向けエリアとも根本的に異なる────空間それ自体を完全隔離する本格的な異界だ。

 

「『ザイダベック』、周りに【アナライズ】! ええと、それからそれから、こういう時は……?」

 

 とりあえず腰のCOMPを操作してエネミーソナーを起動。とりあえず周囲に敵性反応はなさそう、という事だけは感知でき、ほっと一息吐くものの。

 

「……何なんですか、ここは?」

 

 一旦深呼吸して、少し気を落ち着けて周囲を見回す。

 本来の星大祭の会場ではない異界の内側はいくつもの店舗が並ぶ商店街のように見え、立ち並ぶ商店の間を歩きながら店の看板を伺うと、『メタルヒーロー系デモニカ専門店』『眼帯メイド喫茶』『人体改造受け付けます』『ア○ル開発専門店“QB”』などと業の深い店名の看板が並んでいるのを見て、少し安心する。どうやら、ここは“俺ら”の領域であるらしい……店でやってる事がまんま“俺ら”だ。

 

「本当に、どうしましょうか、この状況……」

 

 デモニカや人体改造なんかにはそこまで興味もないし、割と気後れする分野でもある。だから普段の自分の領分と少しでも関わりのある食材系の店でもないかと周囲を見回してみると、その中の店の一つで見覚えのある顔が店番をしているのがガラス越しに見えた。

 そこまで面識のある相手ではないけれど、しかし有名人ではある。取って食われはしないだろう……しないよね?

 

 ともあれ。

 

 店の看板はそこまで業の深そうなものでもなかったので、ひとまず扉を開けて中に入ってみる事にする。

 

「おや、給食ネキじゃないですか……珍しい顔ですね。こんな場所で出会うとは……いえ、これも必然かもしれませんね」

 

 私を出迎えたのは探求ネキ────私が所属する料理部と繋がりの深い農業部……とさらに繋がりの深い個人研究勢の黒札の人だ。

 

「……私の顔、覚えていたんですか?」

「料理部の食材評価で、たまに農業部に顔を出しているでしょう、その時に見掛けたので、少し。それよりようこそ、星大祭ブラックマーケットへ」

 

 探求ネキの解説によると、どうやらここは星大祭の期間中にのみ設置された異界『星大祭ブラックマーケット』であるらしい。年が過ぎるごとに星大祭が規模を拡大していくにつれて“表”と関わる割合が増え、黒札の手から離れていき、その運営に携われない事に不満を抱いた“俺ら”────主にヒーホー系の連中が作り出した身内用の裏祭であるらしい。

 で、ご新規様を娯楽や性癖の沼に引きずり込もうと目論むヒーホー系俺らの手によって、覚醒者か、あるいは何らかの秘めたる欲望を持った未覚醒者を容赦なく異界に引きずり込むシステムになっているらしい。

 

「…………特別な品を売買できる機会でもありますよ。それこそ非所属の異能者や一般ガイア連合員では買えないくらいの」

 

 と、ああこの人もヒーホー勢だったんだな、という私の視線に気が付いたか、探求ネキは慌てたように付け足した。

 

「でも、何で給食ネキがここに招き寄せられているんでしょうね。何か、秘めた欲望に心当たりでも?」

「うっ…………し、知りませんよ」

 

 秘めた欲望などと聞かれたら無論、心当たりは大ありだ。アリスという究極の美少女(少女とは言ってない)と出会って以来明後日の方角へと捻じ曲がった自分の性癖、オープンにするには乙女の尊厳とか色々がこの上なく辛い。

 セルメダルを捻じ込まれたらさぞや変態的なヤミーが誕生するだろうその欲望を知られたくはない────特に、アリス本人には。

 

「まあ、言いたくないなら詳しくは聞きませんよ。詮索を止めるようなルールはありませんけど、それでもあまり褒められた事じゃありませんからね。代わりに、助言もできませんが」

「はい……まあ」

 

 何も言えないが、ともあれ。

 

「それはそれとして商品、見ていっても構いませんよね」

「ええ。一見さんが買うには少し勇気がいる品揃えでもありますからね、冷やかしでも構いませんよ」

「……そうですか」

 

 なるほど、確かに。

 これはちょっと、買うにしても勇気がいる。

 

 探求ネキが出している店というからには食材か装備関連だと思っていたが、そういうアレではなく、商品棚に並んでいる品揃えの列、どちらかといえばむしろスケベ部が売っているようなエロ関連のアイテムが目立つ。

 

「ううん、これ、探求ネキ本人がレジに立つんじゃなくて、店番用のシキガミでも用意した方がいいんじゃないですか? こう、見た目は人間味のないロボットみたいなの」

「……そうでしょうか?」

 

 本人はほとんど意識していないようだが、これ、レジに立ってるのが探求ネキだという時点で壮絶に厳しい。美人なので。

 こう、男子とかエロ本を買うにもレジに立っているのが女性店員だと尻込みするとか、そんな話を聞いた事があるが、なるほど確かにその通りだ。

 探求ネキみたいな、それこそ女優もビックリな美人の御姉様がレジに立っていたら、探求ネキ本人の理解の有無とかそういうのに関わらず、普通の“俺ら”はエログッズなんてレジに持っていけないと思う。それこそゼンラーみたいに恥とかそういう部類の概念を何一つ持たない特殊種族でもない限りは無理だ。

 

「あ、カタログもありますけど、見ますか?」

「……見ます」

 

 それはそれとして、エログッズは気になる。

 こう……特定の男の娘を誑かして、こう……そう、例えば私の事を無二の恋人だと思い込ませるような、そんなアイテムとか、ないだろうか…………なんて。

 

 あ、いや、むしろこう、例えば特定の男の娘を押し倒して、そう、その子のどこにナニを突っ込むようなあれやこれや…………いや、何でもない。

 

 まあ、流石にガイア連合員としてそこまで倫理観を放り出した代物を探求ネキが作るとも思えない。あるとしても多分、さすがに同じ黒札は対象外になる、はず。

 というかそもそも、レベル差で弾かれるだろう。異能者としての性能が違い過ぎる。

 

 

 しかし。

 

 

「種類、多過ぎません……?」

「たくさん作りましたからね。まあ確かに、作り過ぎたかな、などと思ったりした事もありますが」

 

 それはクリエイターとしては素晴らしい事ではあるのだが、こう、欲しい商品を探す側としては、また大変では、ある。

 そのためにカタログがあるんだよ、と言われてしまえば、それまでなのだが。

 

 ともあれ。

 

 このまま考えていても埒が明かないので。

 

「なら、ガチャでも引いていきますか? 一応、試験的に逆物欲センサー術式を組み込んでいますから、景品のレアリティは上がりませんが、それとは関係なく引いた人間の無意識下の欲望に合致するか、霊的資質や技能と相性がいいアイテムを引きやすいようにはできていますので、ええ……本当に役に立たないアイテムを引く事はあまりないはずですよ」

「……やります」

 

 探求ネキが指し示したのは、カウンターの横に置かれた大型のガシャポンだった。高速道路のサービスエリアなんかにたまに置いてある、高級ブランド品を客寄せ商品として見せびらかしているようなタイプの大型ガチャだが、多分そういうのとは異なり、普通に当たりクジが当たるはず。

 

 かくして。

 

 私が引いた10連ガチャの結果はといえば。

 

 

・[SSR]七色の腕輪

・[R]悪魔娼館・新造特殊部屋利用券

・[R]スキル練習用指輪【植物改造】

・[R]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化/増強版)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

・[N]部分変化薬(用途限定・ふ○なり化)

 

 

 ……性癖が、バレた。

 

 

「ええと……何と言ったらいいのか……普通ならここまで偏った結果にはならないはずなんですけど……よほど強い欲望を抱えていない限り」

「…………」

 

 

 何を、言えと。

 

 

 笑えよ。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「────と、いう事になったのでした。どっとはらい」

 

 アクセルをベタ踏みしながら、ハンドルを握る。ギアチェンジとか面倒な操作が必要ないのは、この車が私のシキガミだから。本来の姿に戻った私のシキガミ『ザイダベック』は、重々しいエンジン音を上げて薄暗いハイウェイを爆走中。

 そして、後部座席には学校のクラスを同じくする友人にして黒札仲間二人、『古戸エリカ』と『雁桐慈奈子』。

 

「ブフォ! 性癖モロバレで草wwwwwwwww」

「落ち着いてくださいませ慈奈子さん、さすがにそこまで爆笑するのは……ブフォ」

「結局笑ってるじゃないですかエリカのアホー!」

「うぷぷ……これは友情! ちょっと口から友情が漏れただけの事ですわ……プークスクス」

「殴りますよ!」

 

 異界『幻の三十八号線』────山梨第一支部の割と近場にある、総全長数十kmに及ぶ高架道路によって構成された異界。その特性もあって保全がなされ、製造班の作る車両系製作物の走行テストなどに利用されている場所だ。

 私のシキガミの特性もあり、レベル上げのために割とよくお邪魔している異界であるが。

 

「でもフウカちゃんの欲望の対象って事は、その相手ってアリスちゃんっスよね。男の娘を掘りたいとかいう欲求……それも逆物欲センサーをそこまで反応させるレベルって、どんだけ生やしたかったんスかねwwww」

「うーん、この悪友ども、殴りたい……」

 

 深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けた私は、ストレス解消代わりにアクセルペダルを蹴りつけるように繰り返し踏んで、加速を重ねていく。上空、薄暗い曇り空の景観はあまり良いとはいえず、何やら不吉な予感を掻き立てられるような気はするが単なる背景だ。

 後方から追走してくる首なしライダーに向かってハンドルを切り、テールを振って車体後端をブチ当てると、首のないバイカーを乗せた金属塊は気持ちよく吹っ飛んで高架の防音壁へと衝突、部品と爆炎を盛大に撒き散らしながら大破する。

 その余韻を後方に置き去りにしながら走る我がシキガミ────世紀末マッドマックス風装甲キッチンカー『ザイダベック』に挑み掛かるように、さらに新たな悪魔が出現する。

 

 『外道 クリス・ザ・カー』一台。

 『怪異 オボログルマ』、三台。

 『怪異 首なしライダー』、たくさん。

 『鬼女 ターボばあちゃん』及びその類似種、たくさん。

 

「ちょっとちょっと、後ろから来てますよ~! これはもうジナコさん達も動いた方がいいんじゃないっすか~?」

「とりあえず誰か銃座に登った方がよろしいのでは?」

「え~! それって耐久型異能者のジナコさんがやらなきゃじゃないですか~! 引きこもりが動くと過労で死んじゃうんだからね、労基に訴えるよ!」

「労基を動かしたかったら定職に就いてからになさいませ!」

「横暴だ~!」

 

 悪友共が騒いでいる。このザイダベックの装甲ならあの程度の敵は割とどうとでもなるのだが、とりあえずシート脇のタッチパネルを叩いてダッシュボードにセットしたCOMPを起動、一番耐久力のある仲魔をザイダベックの屋根上に設置された銃座へと召喚。

 

「大丈夫です! フロスト君お願い!」

『ヒーャッホァー! とりあえず撃ちまくればいいんだっホー!? そういうのだったら任せろホァー!』

 

 セリフ回しが微妙におかしいフロスト君こと『外道モヒカンフロスト』の視界がCOMP画面に映し出されると同時に、頭からトサカ状の髪を生やした雪ダルマは銃座に座り、丸まっちい小さな手で器用に車載機銃を動かしながら、近寄ってくる悪魔に片っ端から銃弾の洗礼を浴びせてくれる。

 それでも銃弾の雨を躱して近寄ってくるやつらはいるのだが、生憎とその敵はといえば。

 

「この程度なら……こう!」

 

 再びハンドルを切り、テールを振って車体をぶつけ、ターボばあちゃんやその類似品共を撥ね飛ばしていく。異界の中まで道交法が有効なら即逮捕の案件だが、生憎と悪魔に人権はない。

 

「ぶっ飛ばしてあげますよ!」

 

 逃げ出そうとしたオボログルマの側面に、アクセルを全開にしたザイダベックの車体が激突する。太いスパイクが植え込まれたザイダベックの車体は、その質量を極悪な凶器へと転換しながらオボログルマの車体を大きくひしゃげさせ、そのまま防音壁とザイダベックの装甲に挟まれたままメリメリと凶悪な音を立てて潰れていく。

 圧壊していくオボログルマの側面窓に赤く無数の手形が浮かぶが、その様はホラーというよりは最早必死に助けを求めて窓ガラスを叩いているようにしか見えない。

 

「……うーん、これは結構ストレスが溜まっていますね~」

「ストレスというか鬱憤ですわね。とりあえずあまり刺激しない方向性で行きましょう」

「やかましいですよ、そこ!」

 

 ハンドルを切って車体を防音壁から離すと、後方に置き去りにしたオボログルマの残骸がマグネタイトへと分解しつつ爆発炎上する。それを背に加速したザイダベックは、逃げ惑うターボばあちゃんを数人まとめて轢き殺しながらハイウェイを爆走していく。

 

「それで、肝心のSSR装備はどんなんですか? やっぱりナニを生やす装備だったりします?」

「そろそろナニから離れません? ……まあ、違いますけど」

 

 探求ネキ製の装備『七色の腕輪』。その正体は、某エロゲの能力“痴漢技”を再現したスキル鍛錬用のアイテム“痴漢の美学”シリーズ、その最上級品だ。

 状態異常を与える【ライトニングチャージ】【デモンズハンド】、自分と相手を加速する【ギルティプリズン】【ラビリンス】、痴漢技の効果を高める【マインドバースト】【デッドマンズビジョン】、性交で霊力を回復する【ヘヴンズドア】と……エロ限定ながら法外な効果を与えるスキルばかり。

 普通に販売されている通常の“痴漢の美学”シリーズはこれらのスキルの内の一つだけを習得、または使用できるようにするものだが、最上級の一品ものであるこの『七色の腕輪』はそれら七つのスキル全てと、それに加えてもう一つのスキルまで習得できる。

 

「もう一つって?」

「【耽溺掌・改】らしいですよ。七つ全部を習得する事でロックが外れるらしいです」

「ちょっ……【耽溺掌】ってアレッスよね、京都のアッーニキの必殺技! 何でそんな代物まで組み込まれているんスか!?」

「まあ探求ネキですし、としか」

 

 凶悪な物理ダメージと共に魅了・幸福の状態異常を与える極悪なスキルだとか。

 しかも一見エロシーン限定と思われる性質を、平然と普通の戦場で使ってくるから恐れられているのがアッーニキだとか。

 人間だろうが悪魔だろうがこの【耽溺掌】で人事不省に追い込んで物理的にも社会的にも、そして性的にも敵を次々と抹殺していく恐るべき武闘派なのだとか。

 

「普通に箇条書きするだけでヤベーヤツってはっきり分かるんスね……」

 

 うーん、この。

 

「でも痴漢技……ちょっとそれ、マズいんじゃないんスか? アリスちゃん、触られるのとか大の苦手というかトラウマっしょ? 試しに仕掛けてみたら……」

「前に、気軽に頭撫でようとした男子生徒が撲殺寸前まで行ってましたわね」

「じゃあガチの痴漢なんて仕掛けたら…………」

 

 うん、普通に撲殺案件だ。これっぽっちも冗談では済まず、友情もブッ壊れるだろう。

 

 ……何てものを、引き当ててしまったのやら。

 

「うーん、これ、ちょっとかわいそうじゃありません?」

「まあ、確かに一生使う相手がいないっていうのも、何というか……」

「さりとて、APP限界突破勢に性癖を破壊された人間が普通の相手で満足できるかというと……」

「そこ、聞こえてますよ!」

 

 全速で逃走するクリス・ザ・カーを追い掛けて追突し、そのまま速度を落とさずその車体に乗り上げて押し潰しながら、潰れゆくクリス・ザ・カーの車体をジャンプ台代わりに利用して飛び上がり、そのついでに車体を左右に振って左右の壁にガンガンぶつけて、逃げ惑うバスケばあちゃんやホッピングばあちゃん、首都高を走るドナルド、100キロで走る車と並走する自転車に乗ったまじめなサラリーマン風おじさんとかその辺適当な連中を轢き殺しながら走り抜けていく。

 

「もうこれ、売っ払っちゃった方がいいんじゃないっスかね?」

「でも、もったいなくありません? 探求ネキ製のSSR装備ですよ」

「まあ、それはそうっスけど、でも使いどころ、あるんスか? 普通の戦闘スキルと違って練習相手もいないし。フウカちゃんのシキガミってボクらと違って旦那型じゃないっしょ」

 

 うん。

 

 コイツらに相談した私が間違っていた。

 

 これからは、もう少し真面目に取り合ってくれそうな相手に相談しよう。そうしよう。

 

 ……とはいえ。

 

「練習相手がいれば、あるいは?」

「いるんスか? そもそも、フウカちゃんの基準ってアリスちゃんっスよ。基準が完全にブッ壊れてるのに、相手なんて見つかるんスかね?」

「ううん……心当たりは、まあ、確定ではありませんけど……………………フウカさんが手に入れたの、スキル鍛錬用霊装ですからね。レアスキル獲得を餌にすれば、あるいは、ってところですが、まあ。駄目元ですが、連絡、取ってみます?」

「いるんスか……そっスか…………世間って広いっスね」

 

 期待する気持ちも、ないでもない。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 そうして。

 

 

 私は。

 

 

 とある小さな公園のベンチに座っていた。用があるのはここから少し離れた場所にあるスケベ部運営の悪魔娼館なのだが、そこに行く前に待ち合わせだ。

 そこで、我が友人である古戸エリカが紹介してくれるとかいう、その……スキル訓練の練習相手と待ち合わせをする事になっていた。

 

 手にしたスマホの時刻表示をチェックする事、数回。今の時刻は待ち合わせの30分ほど前だが、気ばかり逸ってついついこんな時間に来てしまった。

 

 

「……どれだけ焦ってるんだか」

 

 

 練習相手。

 

 顔も名前も知らない相手。

 

 白い服に青いリボンで見分けられる、らしいのだが、あまり自信はない。

 

 

 エリカ曰く、“まず間違いなく私の好みに合致するのは確定”とかいう相手だとか。……私の好み、といえば、まあ間違いなく私の友人である立花アリスの事を示す……女装した男の娘、それも見た目小学生にしか見えない小柄な子がタイプだとか、我ながら業の深い話だと思う。

 

 そんな都合のいい人間がいるのかどうか。

 そもそも、それ以前にアリスに匹敵するだけの相手がいるのかどうか。

 

 実を言えば一度、異界探索で得た小金を握り締めて悪魔娼館に行ったこともあるのだ。だが、途中で帰ってしまった。

 応対してくれたホストの子に問題があったわけじゃない。“女装した幼い男の娘”とかいう業の深いオーダーに対しても完璧に応えてくれていたし、接客にも何一つ不備はなかった。

 

 ……行為に及ぶ前振りとして、会話している内に“何だかこれは違う”と思って、そのまま終了だ。かなり失礼な事をした自覚はあるのだが、それでも耐えられなかった……本当に、申し訳ない話だが。

 

 アリスと出会って以来、どうしようもなく歪んでしまったのだ。

 

 性癖が。

 

 

「でも」

 

 

 だからこそ、こうも思うのだ。

 

 

「アリスの事ばかり考え続けて、いいのか」

 

 

 自分の感情など理解している。そう、自負している。

 

 私が立花アリスに抱く感情は純粋な恋愛感情なんてものじゃない、もっとドロドロとした醜い欲望だ。

 

 撫でたい。

 抱きたい。

 触りたい。

 舐めたい。

 犯したい。

 

 そんな見苦しいものをアリスに対してさらけ出せるわけもない。

 それは相手を傷つけないようにという配慮のオブラートに包まれた、こんなものを見せたら今まで築いてきた関係すら壊れてしまうだろうという臆病と紙一重の足踏みでもあるし、何ならこのまま叶わぬ想いを抱え続けていてもあまりいい事はないだろうなどという見苦しい計算だって含まれている。

 

 だから、やはり。

 

 私の、この感情は。

 

 ────そこまで考えたところで、はっと顔を上げる。

 

 気がつけば周囲、空気が変わっている。雰囲気というか、気配というか、異界に踏み込んだのとは根本的に何かが異なる、まるで周りの光景それ自体が変化したような、絵のタッチが変わり、彩度が増して、まるで世界が鮮やかに広がっているような、そんな気配。

 その空気の変わり方を知っていた私は、ネガティブな思考を振り払って慌ただしく立ち上がる。

 

 周囲に視線を彷徨わせて公園の出入り口に目を向ければ、そこには想像通りの人物がいた。

 

「アリス……!」

 

 立花アリス。

 

 世界の輝度が鮮やかに塗り替わり、その全ての輝きを唯一人に集約させたかのような、世界の理想を形にしたような美少女は真っ直ぐに私に視線を向けると、ぱぁっと屈託のない笑みを浮かべた。

 

「あー、愛清? こんなところで会うなんて、珍しいね」

「あ、アリス!? そ、ソウデスネ」

 

 嬉しいには嬉しいが、それ以上に気まずい。それはもう、この上なく。

 

 何か悪い事をしたというわけでもなし、私が勝手に恋をして、そして勝手に諦めただけの話。だから何一つ咎められる事なんてありはしないが……いざ風俗店に踏み込もうとしたところを初恋の人に見つかってしまったとでもいうかのような……というか、それ、今の状況そのものだ。

 

「……き、奇遇、ですね」

「そだね。奇遇だよね」

 

 この状況、キツい。

 

 まるで浮気現場を見つかったかのような罪悪感。絶対に見られたくなかったというか、本気で気まずいというか、申し訳ないというか、でもそんなこっちの事情はこの子には何一つ関係なくて、だから当たり前の顔をして笑顔を浮かべているその顔は普段通りにとんでもなく可愛らしくて。

 

 そしてアリスは今日も綺麗だ。夏らしい涼しげな白いワンピースに、胸元の淡青色のリボンがアクセントになって実に素晴らしい。

 そうやって立っているだけでも何の変哲もない周りの風景がキラキラと輝き出すような、あまりにも可憐な美少女っぷりは今日も健在だ。

 

「あ、アリス……えとその、今日も綺麗、ですね…………」

「え、いやうん。そういう事言われると、少し照れるけど、ありがとうね」

 

 いや、何言ってるんだ私。

 

 それより早いところ話を切り上げなくちゃ。

 こうしている内に待ち合わせの相手がここに来たら、最悪、アリスに私がここに来た目的がバレかねない。恋人にはなれなくても、せめて友達として、そういう事をする人間だって見られたくない。

 

「えっと、それはそれとして愛清もオシャレ着なんだね。そういう恰好珍しいけど、うん、すごく似合ってる」

「……まあ、それなりに頑張ったので」

 

 そう、それなり程度に。

 ブラウンを基調にしてTシャツとスカートを合わせて、その上から白いジャケットを羽織った感じの、どっかのお嬢様みたいな恰好……普段とはできるだけイメージを変えてみた感じ。ジャケットと、髪を束ねた黒いリボンがアクセントで、ついでに待ち合わせの目印になってるのだが。

 

 目の前の超絶美少女と比べると、まあ神獣の麒麟と、動物園のキリンくらいの差があるけれど。もちろん私が動物園にいる方だ。

 

「そ、それでアリスは何を……?」

「何って、待ち合わせでしょ。それより、さすがに緊張するし、もう行こうよ」

「行こうって……え?」

 

 私を誘うような言葉に、何を言われたか分からずに一瞬混乱する。いやまあ、アリスの誘いなら嬉しいけど、それはそれとして待ち合わせを無視するのは良くないし、でもでもこのまま二人で出掛けるチャンスを失うのはどうしても惜しいわけで、だからといって、しかし。

 

「あれ、ひょっとして愛清、気付いてない? ほらほら、僕の恰好」

「え? あれ? ……え?」

 

 一歩離れてその場でくるりと回ってみせるアリスの姿に思わずぼぅっと見惚れて、そうして思考が追い付いてくる。

 アリスの服装────白いワンピースに、胸元を飾る青のリボン。

 

「あ、あ…………まさか、待ち合わせの相手って…………」

 

 アリスを美貌の基準にしたら、該当者はアリスしかいなくなるのは自明の理。なら、私とアリスの共通の友人である古戸エリカが誰に声を掛けるのか、少し考えれば予想できたはず……だと思いたい。でも、それはそれとして、よりにもよって何て相手に声を掛けてくれるのか。

 

 

「あ、あ、あの性悪探偵娘……っ!!」

 

 

 後で殴ってやる。絶対。

 

 

 でも。

 

 

 それはそれとして。

 

 

 

「えっと、それでどうする、愛清? 行かない? 都合悪いなら、やめとく?」

「……………………行きます」

 

 

 

 いや、それ以外の選択肢なんて、ないし。

 

 




 今回の事件の後、なぜか名前で呼んでもらえるようになったフウカ。

 なお今作のフウカは異界の外でハンドルを握らせてはいけないタイプ。前方に人の姿を見ると反射的にアクセルを踏みたくなるので。



~割とどうでもいい設定集~



・星大祭ブラックマーケット
 緋咲虚徹様『【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく』より。
 星霊神社にて例年恒例にて開催される夏祭り『星大祭』の期間中にのみ開催される色々な意味でブラックなマーケット。黒札内における一般的な倫理観に基づいて運営されているため、麻薬などの倫理的ご禁制品は売っていないが、黒札ではない一般ガイア連合員くらいの立場から見ればどう考えても御禁制クラスのアイテムが普通に販売されているブラックな市場。
 探求ネキも出店していた。
 何らかの欲望を持つ覚醒の兆候が近づいている未覚醒者、または覚醒者のみが侵入可能。このためフウカはバッチリ該当者になった。

・逆物欲センサー術式
 今回フウカが引いたガチャに組み込まれていた。
 ガチャを引く側の欲望を感知し、相手の欲しいもの、必要としているもの、また相手の霊的資質に合致するものを引きやすくなる。
 景品のレアリティを向上させるような効果はないので悪しからず。
 なお、こういうR-18仕様の場で使用すると、ガチャを引いた者の性癖が容赦なくバレる。

・雁桐慈奈子
 元ネタは『Fate』シリーズ。ジナコさん、もしくはガネーシャさん。太ってなければ美少女……まだ引きこもりになってない時の姿なので太ってないし、普通に美少女。
 女子側のクラスメイト3人の内の三人目。
 本霊はガネーシャ。元ネタ的に。
 経済系のスキルに秀でた異能者であり、戦闘能力は半分くらいシキガミ頼り。
 なおバラゴニキの姪であり直弟子で、FXや株を利用して儲けた末に、この年齢で既にガチの富豪系俺らの一員としてそっち側の世界に首を突っ込んでいる。

・ザイダベック
 愛清フウカのシキガミ。
 世紀末仕様マッドマックス風装甲キッチンカー。
 元々は『どこでも料理が作れるとか素敵』などというメルヘンな理由からキッチンカー型シキガミとして仕上げられた代物だが、最良の戦闘手段が轢き逃げアタックである事に気付いてしまって以来、装甲やトゲなどを少しずつ増設する形で改修を繰り返していった末、もうマッドマックスやメタルマックスなんかで最前線を爆走していても違和感がない世紀末仕様の凶悪キッチンカーが爆誕した。
 普段は子犬の姿に擬態している。

・外道モヒカンフロスト
 愛清フウカの仲魔。
 オリジナルのフロストバリエーション。世紀末モヒカン風のフロスト族。
 「ヒャッハー」と「ヒーホー」を融合させたような独特の鳴き声を上げる。

・七色の腕輪
 探求ネキ製“痴漢の美学”シリーズ最上級品。
 七種の痴漢技、その全てを習得する事が可能な、スキル鍛錬用アイテムの最上級品。さらに七種全てを習得する事で【耽溺掌・改】の習得が可能となる。

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