ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

53 / 64
 アリス編、続き。
 またイギリス。


永久凍土探索行 英国編02 見習い国王と傾城傾国

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 視界の中心で両手の親指と人差し指を伸ばして組み合わせ長方形を形作ると、その内側にカメラフレームが描画される。後は思考トリガーでシャッターを切れば、視神経が捉える映像から切り出されたフレーム内の情景が、カメラアプリを通じて一枚の画像としてCOMPのフォルダ内に保存される。

 そうやって保存された画像は、機械的なモニタやホログラムなどを介さず視界へと直接映し出されたウィンドウを思考操作でタップすれば閲覧可能だ。

 

 実にSF的な光景を演出するその本体は、呉ロボ研の系列企業から購入した最新型のCOMPである。デモニカの技術を転用した思考接続による機械制御と、Mk.Seinやナイトメアフレームなどを始めとする呉ロボ研発の機体群から技術転用された神経接続技術、その二つを組み合わせる事で視神経を通じて脳が捉える映像の内側にCOMPのウィンドウを描画し、それを操作する事ができる。

 スマホで出来る事は大抵可能で、慣れればスマホより便利だし、戦闘においてはCOMP操作なんかの予備動作なしで悪魔召喚や各種アプリ、内蔵トリガーホルダー、電脳異界化壷中天ストレージ、穢教滅閃用爆撃管制アプリなどなど様々な機能を操作実行できるという非常に便利な代物だ。

 

 

 

 ロンドン郊外、パディントン駅。

 

 

 

 英国首都ロンドンはパディントン地区にある、ナショナル・レールとロンドン地下鉄という二つの路線を抱えた鉄道駅だ。その四つに並んだカマボコ型のガラス屋根が特徴的な駅舎の前にある広場の中央には、小さな可愛らしい銅像が建っている。

 ぶかぶかのコートを着て大きな帽子をかぶり、小柄な体格に似合わない大きな旅行鞄を引いた小熊をモチーフとする銅像だ。

 

 その隣で可愛らしくポーズを取ってくれているのが、銅像とほぼ同じサイズかつ全く同じ格好の小熊────銅像のモデルになったイギリス発の児童文学作品『くまのパディントン』に登場する言葉を話す熊だ。

 

 

 半終末当時のメシア教会によるICBMによる爆撃と、それに続く召喚テロにより壊滅したロンドンだが、それに立ち向かった者達は数多く存在した。

 

 人間だけでなく、悪魔にも。

 それは例えば、仇敵である海賊と手を組んでロンドン上空を襲う大天使と戦った緑衣の少年であり、あるいは多数の避難民を妖精郷に避難させてガイア連合の援軍が到着するまでの数日に渡って攻め寄せる天使の大軍に抗ったシャーウッドの義賊団であり、獲物を探すメシア教会の聖戦士の手から逃れた子供達を自身の依り代である衣装箪笥の中へと匿った屋敷妖精であったりもした。

 

 その多くが既にガイア連合へと合流しており、各々が得意分野を生かして活動しつつ、その力相応に信仰を集めているのだが……その中の一体がこの小熊『聖獣パディントン』だった。元々はとりたてて武力や生存に秀でた悪魔というわけでもないのだが、ご当地補正と知名度で集まっていた信仰により下手な小神よりもレベルが高く、その上で運良く同じロンドンを拠点とする名探偵とベイカー街遊撃隊との連携が取れていたため市民を守りながら自身も生き残る事に成功し、こうしてのんびりと観光客の相手をしていられるわけだ。

 

 本日の僕は観光客。半終末期の今の時代、この御時世の海外でのんびりと観光なんてやっていられる人間は限られているが、それはそれとして観光である。

 

 ……マン島攻略が想定外にあっさり終了してしまって、その間に進める予定だった呉支部とイギリス支部との技術交流会が一気にポシャッたそうで、その埋め合わせというか何かで、双方の技術部が共同してMk.Seinの整備を進めるとかで、僕の仕事がなくて暇なので。

 パートナーであるシトナイもそっちに連れていかれちゃってるので、今日は僕一人で観光…………ちょっと寂しい。

 

「それで黒札さん、あっちのあの子はいいんですか?」

「あの子?」

 

 と、パディントンはそのフカフカな肉球の手で僕の背後を指差した。途端、そこにいた人影が赤く塗られた円柱型のポストの裏にさっと引っ込んで、その身の大半を陰へと隠す。こちらから見えるのは、ポストの上から突き出して揺れる金色のアホ毛だけだ。

 後方警戒を自動でやってくれるCOMPアプリ『百太郎』なんてものもあり、その対尾行オプションが操作する外部カメラが、そんなアホ毛の主の姿をしっかりと撮影して視界の片隅に展開した小ウィンドウに表示していた。

 

「あー……」

 

 うん、まあね。

 

 さっきから、いたよね。物陰に隠れて、ずっとこちらの様子を伺っていた。異能者としてはそれ相応に高位であれ、生来の異能や気質そのものが根本的な部分で逃げ隠れする事に向いていないんだろう、はっきり言ってバレバレだった。

 どうしたものか、と軽く思案した僕は、結局声を掛けてやる事にした。こうも明らかにツッコミが必要な状況を見たら、ツッコミを入れざるを得ないだろう。

 

 

 と、いうわけで僕は相手が隠れている場所まで歩くと、手を伸ばしてポストの上から突き出しているアホ毛をぎゅっと握り締めた。

 

 

「ちょっ、痛たたたたたた!! やめてください、髪を引っ張らないで」

 

 

 引っ張り出されてきたのは知っている人に良く似た顔立ちの、しかしその雰囲気は大きく異なる、そんな女の子だった。

 着ているのは見た目普通の青いジャージだが、見た目が一般的なだけでこれ結構な高級のオーダーメイド霊装だ。

 

「えっと……確か『アルトリア・エヴァンズ』さん? 何でこんなところに?」

「報奨の一部としてパーシヴァルの槍を受け取った人がどんな方なのか気になっただけです。……まさか、普通に観光しているだけとは思いませんでしたが」

「あー、これ?」

 

 ちょうど破損中のキングケルベロスの代わりに腰裏の鞘に納めている、ショートソードのような拵えにしたロンギヌスの槍の穂先。少し前にブリテンのどっかしらで発掘されたらしい。

 結構前に色々あって⑨ニキの治療に手を出した頃から破魔属性の適性が生えてきて、先日ヨグ=ソトースとの戦いで“四番目”の霊基を開放した事でそれを完全に解放できるようになった……してしまったので、魔槍と聖槍という両側面を持つこの武器は割と便利なのだが。

 

「これ、どっちかというとご褒美っていうよりは厄介払いだよ」

 

 ……モルガンネキの娘さん、か。

 

 何気に、壮絶面倒臭い運命を押し付けられてるんだよな、この子。アーサー王の宿命だとか、個人的にはそんなもの人生の足を引っ張るだけの重荷にしか見えんし、色々無視してさっさと日本に帰ってしまうのが一番賢かったんじゃないかと思うんだが……まあ、それはさておき。

 

「……厄介払い、ですか」

「そらそうよ。ロンギヌスの槍だなんて、円卓にとってはただの死亡フラグみたいなものだろ? ベイリン卿の悲劇から、そのやらかしに端を発するカーボネック城の大惨事、果ては聖杯探索の果てに王国の荒廃を引き起こした、特級の厄ネタだよ」

「…………否定は、しませんが」

 

 苦々しさ全開で、アルトリア嬢は頬を膨らませた。まあ何かしら、思うところがあるのだろうが。

 

「しかし厄介払いというのであれば、それはそれで不当な話ではありませんか? 貴方がマン島攻略の最大の功労者であるのは、否定しようがない事実です。にもかかわらず、その褒章に装備の厄介払いなどと……お母さんは何も言ってないのですか?」

「ああ、いや。それに関しては気にしないでね。この槍穂が特級の神話霊装である事には変わりないし、それ以前に、それ以外の報酬も普通に支払われる予定だからね。特に英傑シキガミなんて、モルガンネキとその辺の新規シキガミの仕様については何度か話し合いの場を設けてもらってるから」

 

 真っ先に考える事がコレ、か。まあナチュラルにそういう事を考えられる辺り、彼女の人の良さが滲み出ているな。それは見る人によっては危うさとも映るだろうが、同時にそれは“王の器”でもある、のか。

 

「ならば良いのですが…………私から何か、して差し上げられる事でもあれば、などと……思ったのですが……」

 

 ん、今何でもするって……まあ、言ってないが。

 

 ともあれ、この場合はどうするのが正しいのだろう? いや、そもそも今は仕事中でも何でもないし、やりたい事をやればいいのか。だとして……どうしたいのか。少し考えて、ややあって僕が出した答えはというと。

 

「それなら、本日の僕のロンドン観光に付き合ってもらえるかな?」

「……そういう事であれば……ええ、いいでしょう。騎士に二言はありません。ですが一日だけですよ! 一日!」

 

 と、そういう事になったのだった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 パディントン・ウォーターサイド。

 

 パディントン駅から歩いてすぐの場所にある川沿いのエリアだ。

 半終末前には川面を観光用のボートが行き交い、川辺は高級マンションや各種店舗、カフェ、レストランなどが立ち並ぶ観光エリアだったそうだが、半終末が訪れた今はその辺もメシア教会の軍が攻め寄せた際の戦禍に焼かれ、今ではそれ以前の、物資の運搬が行われる運河としての性質が強くなっている。

 かといって焼失や倒産を免れた店舗が存在しないわけでもなく、観光向けという程ではないが住民がショッピングを楽しめる程度には華やかな街並みが広がっている。

 

 

「アルトリア、どこか行きたい……じゃなくておすすめの場所とか、あるかな?」

「え、えぇと…………ええと、えっと……」

 

 唐突に問い掛けられたアルトリアが、慌てて周囲に視線を巡らせる。もしも彼女の仕事が最初から僕の観光案内であったのなら、真面目な彼女は資料をしっかり用意して事前に完璧な観光プランを仕上げてきただろうが…………この状況でそれは無理だ。

 そんな彼女が唐突に話題を振られれば、彼女の視線が無意識に向かうのは、町の一角…………ふむ。

 

「なるほど。アルトリアのおススメはあそこ、と」

「ちょっ、待ってくださいアリスさん! あの店はちょっと、その……観光向けとかそういうものではなくて、ですね!」

 

 

 と、いうわけで僕は、アルトリアの手を引っ張ってそちらに向かう事にした。

 

 

 店に入った瞬間、極彩色のLED光と電子音の洪水が出迎えた。明るい色調の内装でコーディネイトされた店内を埋め尽くすようにして所狭しと立ち並ぶ様々な筐体から響いてくるのはリズミカルな電子音楽、その合間を縫うようにして店内を歩いていく。

 カラフルでポップな店内は、まるで不思議の国にでも迷い込んだかのようだ。

 

「わ、私はこんな場所、入った事はないのですが……!」

「うん、僕もあんまりないかな。お互いに珍しい体験ができたよね」

「そ、そんな他人事みたいに…………」

 

 おっかなびっくり店内を見回しながら通路を歩くアルトリアの後について彼女の様子を観察する。困惑の色が強い彼女の視線は周囲に立ち並んだ筐体へと向かう。その中で、彼女の視線が置かれていた時間がわずかに、それこそコンマ秒だけ長かった筐体は…………あれか。

 

「じゃ、あれプレイしてみよっか」

「あっ、ちょっと待ってください! それは…………仕方ないですね、少しだけですよ!」

 

 いくつもの筐体が並んでいる中から無人の筐体を選び、二人並んでそこに座る。

 

 『ガンバライディング』────仮面ライダーをテーマにしたガイアゲームズ製3D対戦格闘ゲームだ。

 

 前作までの『ガンバライド』『ガンバライジング』ではカードダスだったものが、現行のガンバライディングではアプリになっており、リンクしたアプリを利用しての対戦やカードの管理ができるようになっている一方で、ゲーセンの筐体ではスマホやCOMPからでは不可能な大画面による迫力満点のゲームプレイができるようになっている。

 開発を担当したホビー部によると“ビルドファイターズからビルドダイバーズへの進化”などという話だそうな。

 

 カードをスキャンさせてガイアポイントから支払いを済ませると、COMPにて起動したアプリからデータ読込が始まり、早速ゲーム画面が映し出される。まずはキャラクター選択…………僕が選ぶなら、狐をモチーフとする『仮面ライダーギーツ・マグナムフォーム』だな。

 さらにこのゲームでは、ソシャゲらしくガチャで獲得した追加の武器や装備を3つまで選択して持っていけるので、ひとまず手持ちの中で一番バランスのいい組み合わせで出撃するとしよう。

 

 一方、アルトリアが選んだのは剣士とドラゴンをモチーフとする『仮面ライダーセイバー』…………なるほど、アルトリアらしい選択だ。

 

 

「じゃ、準備はいい?」

「任せてください! これでも、このゲームはそれなりにやり込んでいるんです! ……ゲームセンターは、初めてですけど」

 

 

 ゲーム画面にカウントダウンが表示され、それがゼロになると共にセイバーとギーツ、2体の仮面ライダーが前に進み出る。ステージは一般的な市街地────画面の遠景に描写されたビル群の中に、外周に円型のリングを巡らせた特徴的な建物『ユグドラシルタワー』が見える事から、どうやら今回は『仮面ライダー鎧武』の舞台となった『沢芽市』であるらしい。

 

「後ろから援護していくから、アルトリアはガンガン攻めていって」

「分かりました。背中は任せましたよ!」

 

 その宣言通り、アルトリアのセイバーが『火炎剣烈火』を手に進み出る。さて、楽しんでもらえればいいのだが……と、その背中を見ながら考えた僕が隣の筐体をちらりと横目で伺えば、アルトリアは真剣な表情で画面を見つめている。

 

 うん、悪くない感じだ。

 

 操作用のスティックを握り締めた僕は、仮面ライダーギーツを操作してその手に銃を抜き放つと、それを迎え撃つように迫る生白い甲殻に覆われた蟲のようなモンスター────初級インベスの大群へと突撃するセイバーに向けて、ひたすら背中越しへと支援を始めたのだった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 そして。

 

「やったぁ!! 勝ちましたよアリスさん! ゲームクリアです!!」

 

 輝くような満面の笑顔で、筐体から飛び出してくるアルトリア。

 

 ステージボスなんぞよりも、途中で乱入してきたペアの方が大変だった。さすがはゲーセン、魔境である。

 乱入ペアは仮面ライダーシーカーと仮面ライダーフォーゼ・マグネットステイツの組み合わせだったが、ビルドバックルの力で戦場に大量の建造物を建ててくる仮面ライダーシーカーと、攻撃が掠めただけで体が磁化されるマグネットステイツのコンボが非常に厄介で、周囲に大量に張り巡らされた鋼鉄の足場が回避不能の質量攻撃&拘束具に変化するとかいう物騒な基礎戦術を攻略するのが、これまた大変だった。

 重量のあるマグネットモジュールは鈍重かと思えば、立体的な足場の上をホッピングモジュールで三次元的に飛び回る機動力に翻弄されたし、何ならシーカーがウォーターバックルのウォーターガンをビルドバックルで作った消火栓に繋げて大量の水を放射し、フォーゼがフリーズモジュールでまとめて凍らせるなどという連携技もあり、と実に練られたコンビプレイが非常に厄介だった。

 

 そんなわけで二人揃って苦戦していたので、喜びも一入だ。

 

 その笑顔に視界内のカメラフレームを合わせてこっそり撮影……指一本動かさずに写真を撮れるのは、このCOMPの良いところだ。……なお情報漏洩とかバカッター行為みたいな愚行にも使えると思われるので、多分その内に規制されると思う。

 DDS越しにその写真をモルガンネキへと送信すると秒で既読が付いた挙句に『状況説明を』『他の写真はないのですか?』と数秒おきに返信が入るので、アルトリアにバレないように既に撮っておいたものを数枚撮影し、送りつけておく。

 

 

 そうして、僕とアルトリアは二人してゲーセンを満喫した。

 

 ワニワニパニックのワニがメシアンと天使になってる脳缶ニキプロデュースの筐体を最高速度で連打したり、ダンスゲームの筐体で最高得点を更新してみたり、異能者用パンチングマシーンでアルトリアのパワーが想像以上だったりと、異能者としての運動能力を全開にして暴れ回ってみた。

 そして最後にクレーンゲームでゲットしたライオンのぬいぐるみをアルトリアに押し付けると、僕達はゲーセンを後にした。

 

 

 そうして一旦、道端に止まったキッチンカーでロンドン名物フィッシュアンドチップスを購入し、ひとまずの軽食を。

 

「うーん、想像していたよりも美味しいな」

「それ、一体、どういう味を想像していたんですか?」

「マズ飯の代名詞」

「……確かにそういう評判があるのは、否定はしませんが」

「それもそれで風物詩だから、不味いのが必ずしもマイナスとは限らないけど、やっぱり美味しいご飯を食べたいよね」

 

 白身魚のフライにフライドポテトを添えたフィッシュアンドチップスは、イギリスを代表する料理の一つだ。店主さんの好意でオマケしてもらえた事もあって、紙製の器に山盛りになったその量は結構多い。大食いが基本のデビルシフターにとってはありがたい話だ。

 

「デビルシフターは非常にたくさん食べる方が多いそうですが、アリスさんはどうなんでしょうか?」

「爆食出禁勢でもなければ普段からそこまで食べるわけじゃないけど、【食没】と合わせると、食べようと思えばいくらでも食べられる感じかな。自発的に食欲をオフにするまで止まらないというか。それ抜きだと……まあ普通にその気になれば30人前くらいは当たり前に食べちゃうよ」

 

 常人と比べて異能者全般が総じてエネルギー消費量が多く、大食いになりやすい傾向にあるのは間違いないが、肉体を悪魔のそれへと変化させるデビルシフターは、その能力の性質上感覚面に悪魔の影響を受けやすく、その影響は味覚にもまた強く反映される。

 霊的味覚の補強もそうだが、それ以上に物理・概念的な単純な胃袋の容量が大きくなるというのが大きい。それに加えて食べたものをマグネタイト変換する【食没】まで加わってしまえば、どこかでブレーキを掛けない限り永遠に食事が止まらない爆食モンスターが誕生するという仕組みだ。

 

 とりわけ僕の場合は変身先が妖獣チェフェイ────酒池肉林の白面九尾であるからして、食欲それ自体も比較的強い部類だ。幸い、その気になれば権能でマグネタイトから食品を生成できるのは事実だが、それはそれで 料理 → マグネタイト → 料理 という無限回転コンボが完成して永遠に止まらない狂気の沙汰になってしまうわけで…………その辺にストップをかけるのもシトナイの仕事なんだよな……まあ、今は色々なシステム調整で不在なのだが。

 

「それは……少し食べ過ぎでは? せいぜい5人前くらいが限度でしょう」

「いや、普段から毎日30人前食べてるわけじゃないからね。むしろシフターじゃないのに5人前食べてる方が珍しいと、僕は思うけど」

「うぐっ…………ええ、それは、まあ……私の事はいいんです、今は!」

 

 まあ実際、異能者の体質なんて基本的には何もかも個人差だからして、シフターよりもたくさん食べる通常の異能者やその逆も、決していないわけじゃない。ちょうど目の前にいるアルトリアも、そのタイプなんだろう。

 

「日本にも、こういう食べ物はあるのですか?」

「フィッシュアンドチップス自体は珍しいけど、それ以外ならそれなりにね。ファーストフードっていうならハンバーガーとかは割とその辺にあるし、屋台飯で代表的なのは……タコ焼きとか、タイ焼き? クレープとか売ってるところもあるよね」

 

 そういえば友人の一人が連れているシキガミがキッチンカーだった、と思い出すが……彼女は別に普段から食品を売り歩いている類の黒札ではないので、微妙に焦点がズレた気がするな。

 

「なるほど……この辺りでフィッシュアンドチップスを売っている屋台も、大本はガイア系列の日本企業だと聞きました。それで日本の企業に買収された時に、味についても随分と熱心な指導が入ったのだとか」

「それって絶対モルガンネキのとこの系列の会社だよね。多分、終末を見据えた食料供給のためのコネ作りとかその辺かな……うーん、女王様らしい仕事だね」

「そう、ですね……」

 

 雑談の最中、楽しく話していたはずのアルトリアの声音に少し陰が落ちる。それは何事もなければ聞き逃してしまう程度のものでしかなかったが、そんな些細な陰であっても僕の裡に宿るチェフェイの権能は、そこに宿る微かな葛藤を詳らかに読み取ってしまう。

 王を堕落させる獣と、王の資格を持つ未熟な少女────そういう意味で、相性が良過ぎるのだ。

 

 どうしたものかな。

 

 僕が彼女の心を読み取れるのはそれこそ悪質なインチキのようなものだが、かといって放置しておくと王国崩壊のネタになりかねないぞ、と囁く僕の内なる妖狐に、少しばかりおせっかいの虫が騒いだ。

 

 

「────不安? ちゃんと王様になれるかどうか」

「それは……不安、というわけではないのですが…………しかし、疑問に思っています。本当に、今のままでいいのかと」

 

 初対面の相手に、普通ならそんな事まで話さない。彼女の口がここまで軽くなっているのは、こっそり精神誘導を掛けているから、ではある。【マリンカリン】なんかのスキルを使う域にまではいかないが、それに等しい微弱な精神作用だ。

 本気でやりたくないと思っている事をやらせるのは難しい反面、心のどこかで誰かに話したいと思っている事であれば口に出させる程度は容易くて。

 

 だから、ここで話を聞くなら僕が適任だ。

 

「私はいずれ王にならなくてはならない。そこには決して異論はありませんが、だからこそ私は、今のまま周りの人達に愛されて、平和を享受しながら生きていく事が許されるのか、などと。王とは……孤高でなければならないのに」

「なるほどなー……君、何か勘違いしてない?」

「…………え?」

 

 まあ、この程度ならいいだろう、という話。

 

「孤高と孤独は別の話だ、イコールじゃない。人から唯一無二の存在として慕われるのと、ボッチこじらせて自分の正気度削るのは全然違うと、まずは理解しようか。そもそも王様の仕事ってあくまでも政治であって、拷問受ける事じゃないからね」

「……言い方!」

 

 

 そんな彼女の為に何ができるだろうか、という事。

 

 僕にできる事なんて、限られているのだから。

 

 

 だから、まあ。

 

 

「そうだね。まずは『王には人の心が分からない(ポロローン』とか言われないようにしてみようかね」

「どういう意味ですか、それは! というかポロローンって何ですかポロローンって!」

「ついうっかりその場のノリで人に言っちゃいけない事を自分の王様に面と向かって言っちゃったせいで、死んだ後まで引っ込み付かなくなって死ぬほど後悔した弓使いの騎士の話かな」

「トリスタン卿が聞いたら殴り倒していそうな発言ですね」

 

 まあ、それ言ったのトリスタンの元ネタの方だけどね。モルガンネキの英傑シキガミであるトリスタンが、元ネタのキャラとどれくらい差異が出てきているのか、なんて事はちょっと僕には分らないけれど。

 

「そもそもの話、さ……必ずしもアルトリアが王様にならなきゃならない、なんて事もないと思うんよ。結局アルトリアに王座が押し付けられる理由なんて、ちょっと聖剣持っててアーサー王の再来だってだけでしょ。だからどうしたって話だし」

「ですが、聖剣は実際にここに……っ!」

「そんなの、どうだっていいじゃん。たかだかちょっとお高いだんびら持ってる程度で王様にならなきゃいけないなんて理由、ないでしょ。実際に聖剣に選ばれていて王様になる資格もある、それは事実だからとして、だからどうしたって話だよ。そもそも見た目以外ほぼほぼ日本で暮らしてた日本人の、たまたま日本から観光に来ただけのアルトリアに王様の仕事と責任を押し付けていい理由って何? 民衆だろうが神様だろうが、自分の国くらい現地のイギリス人が自分で守るべきじゃない?」

「それは……っ」

 

 あー、泣きそうになってる。

 

 ……別に、厳しい事言いたいわけじゃないんだけどな。

 

 しゃーなし、切り替えますか。

 

 ぱん、と手を叩いて、その音でアルトリアの意識を誘導する。

 必要なのは思考の切り替え、別に難しく考えて煮詰まって欲しいわけじゃないのだ。

 

「ねえアルトリア。別に難しく考えなくていい。イエスかノーで、単純に。アルトリアは王様の仕事、やりたい?」

「私、は…………、でも、私がやらなければ、ならない事、ですし」

 

 考えた事もない、と言わんばかりに目を見開いたアルトリア。まあ性格そのものは素直で善良かつ単純だからね、その辺は仕方ないが。

 

「別に、どっちかの答えに誘導したいわけじゃない。どっちつかずの答えを出してもいいし、何なら回答を保留してくれてもいい。だけどね────」

 

 実はアルトリアの王様ルートって、そこまで強制的なものじゃないのだ。

 

 だって逃げてしまえば誰にも止められないから。アルトリアの手に聖剣エクスカリバーが渡ったのは妖精郷やケルトの神々あたりの思惑が絡んでいるとかいう話だが、そいつらが何を言おうと反対を押し切って日本に帰国して山梨に引き篭もってしまえば、普通に誰も何もできない。

 妖精だろうが神々だろうが修羅勢が群れ集うショタオジの御膝元で勝手な真似ができるかどうか…………断言しよう。無理だ。

 

 イギリスにアルトリアがいてもいなくても関係ない、アルトリアが全く関係ないところで、勝手にイギリスが滅ぶだけだ。

 同じイギリス国内にはトムニキが率いるホグワーツなんてのもあるからイギリスが巻き込まれるような事態はそちらが対処するだろうし。

 

 何なら、たとえ運命力どうこうでアルトリアが対処しなければイギリスが滅びるなんて話があったとしても、そこにアルトリアの責任なんて何一つ存在しない。

 

「そもそも聖剣が邪魔だって言うなら折っちゃえばいいんだし。エクスカリバーなんてFateでもアーサー王伝説でもポッキンポッキン折れてるし、ハイスクールD×Dなんかじゃ最初から原型留めてないし、どうせ乖離剣エアとかその辺と撃ち合ったら勝手にポッキリ逝くでしょ、どうせ」

「言い方ァ!! というか曲がりなりにも聖剣をポッキーみたいに雑に扱わないでください!」

「だってモルガンネキが作った剣の方が多分強いよ」

「あー…………………………地味に否定しづらい!」

 

 既に、そういう世界になりつつある。

 本格的な終末が迫り、半終末期もそろそろ終わりに近付きつつある今日この頃、オルハリコンや神珍鉄といった上位幻想金属を好き放題に扱えて、武器として本物のエクスカリバーを越える性能を持つ武器を作れる職人は、ガイア連合の上澄みを漁れば割とゴロゴロいるわけで。

 

 そんな状況で聖剣の価値とは? と聞かれると、もうそれこそ政治的・象徴的なものでしかない。そして政治的な話をするなら、ガイア連合以上の発言力を持つ組織なんて他に存在するものか。

 

「だからさ。使命だの責任だの、本気を出せば割とどうでもいいんだ。大事なのはアルトリアが王様をやりたいかどうか、だよ。その気になればモルガンネキが王様代行シキガミとか割と簡単に作ってくれそうだし」

「…………まあ、否定はしませんけど」

 

 肺腑に溜まった大量の頭痛を残らず吐き出すかのように深々と溜息を吐き出したアルトリアは、紙箱のパッケージに残ったフライドポテトを一気に食い尽くす勢いで口の中へと詰め込んでいく。そして全部食べ終わったら、後は箱を潰して道端に設置されたゴミ箱へと放り込んで終わり。

 

「そしてもしも本格的に王様になるとしても、そこまで気負う必要はないんよ」

「そうでしょうか?」

「だってどうせよっぽど馬鹿な事やらかさない限り、メシア教会や多神連合に統治を任せるよりも酷い事にはならないでしょ。ガイア連合の支援があるんだから。ならアルトリアがどういう統治をするにしても、それがブリテンの住民にとっては最良の結果だって事になるからね。適当でも雑でもいいから無理しないで、ゆっくりやっていけばいいさ」

「…………何だか、そう言われると気が楽になってきました。もう何だか、本気で悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなってきましたね」

 

 メシアン穏健派? 方法論が違うだけで目指す場所は過激派と一緒な連中の、何をどう信用しろと?

 多神連合? ガイア連合の圧力もなしにあいつらが人間の為の統治をやる訳がない。

 

 だから、ガイア連合とのパイプを持つアルトリアが統治するのは最適解なんですね!

 

 フィッシュアンドチップスの箱の中に残っていたフライドポテトの最後の一本をアルトリアの口に放り込むと、僕は立ち上がった。

 

「さて、それじゃあ」

「ええ、せっかくですからもう一食行きましょう! 今はそういう気分なので!」

 

 

 ……まあ、それもいいか。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 そして。

 

 丸一日二人で遊び回って、時刻はそろそろ夕陽が地平線の近くに傾いてくる頃合い。さて王城というかガイア連合英国支部へ戻ろうか、という段になって。

 

 その辺の静かな公園で一休みしていた僕達の眼前に、英国軍の所属である事を表すエンブレムが刻まれた装甲車が停車する。そこから出てきたのは、3人の兵士だった。

 

 

「アルトリア様、モルガン様がお呼びです」

「む、もう時間ですか。……アリスさん、名残惜しいですが、その…………」

「うん、分かってるよ。行っといで」

 

 

 などと言いつつ、名残惜しそうにするアルトリアの肩越しに兵士達に視線を送る。

 

 その中の一人が手にしたアサルトライフルの銃口は確かに地面に向けられているが、その一方でその両手は銃身とグリップをしっかりとホールドしており、同時に体の重心が踵ではなく爪先に掛かっていて、今すぐにでも踏み込んで銃撃を飛ばせる態勢になっている。

 同時に残り二人はその手を懐やポケットに忍ばせているが、コートの膨らみ具合からしてその中身は拳銃ではなくスタンガンと手錠、それから何かしら投げつけるタイプの攻撃アイテムの類……多分状態異常系かな?

 

「今日はありがとうございました。観光に付き合うなどと言っておきながら、私の方が遊んでもらって……」

 

 車に乗ろうとする直前、アルトリアはこちらに振り向いてぺこりと頭を下げた。

 

「あ、気付いてたんだ。まあでも別にいいでしょ、気にする必要とかナイナイ。友達と遊ぶのに貸し借りなんて気にしてもしゃーなし、違う?」

「友達…………私は……いえ、そうですね。はい、……でも、本当にありがとうございました」

「そう思ってくれるなら何よりだ」

 

 

 

 そうして僕とアルトリアは笑い合って、笑顔で別れて、その日はそこで終わり────その、はずだった。

 

 

 

 アサルトライフル持ちの兵士が、無言のまま銃をこちらに向けてトリガーを絞る。無駄のない3点バーストで連射されたアサルトライフルの銃口が火を噴き、どさりと鈍い音を立てて、銃弾を受けた身体が傷口から鮮血を噴き出して倒れ伏した。その身体の下から真っ赤な血溜まりが、広場の石畳の上にゆっくりと広がっていく。

 

「アリスさん!? なっ……お前達、一体何を…………っ!?」

 

 振り向いたアルトリアが誰何の声を放つには既に遅過ぎ、その鳩尾には兵士の突き出したスタンガンが突き刺さり、無慈悲な放電を放つ。対異能者用のスタンガンによる感電でその動きが止まったところに、もう一人の兵士が撃ち込んだドルミナーストーンによって気を失い、そのまま担ぎ上げられて装甲車に乗せられる。

 

 

 そうして“二人”の兵士は装甲車にアルトリアを乗せ、そのまま公園の外へと走り出し────。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「────などという事がありまして」

 

 と、僕の身代わりになって銃弾を受けた“三人目の兵士”の死体を爪先で突っつきながら、僕はガイア連合イギリス支部に通信を繋いでいた。

 

『っ!? アルトリアは無事なのですか!? そもそもアルトリアが連れ去られる時、貴方は何を…………いえ、そんな事を聞いても意味はありませんね。それより、すぐにアルトリアを救出しなければなりません。協力してもらえますね、アリスニキ』

 

 通信越しに一瞬取り乱しかけたモルガンネキは、しかし大きく深呼吸してその動揺を普段と変わらぬ氷のごとき無表情の下に封じ込める。その辺は流石の精神力だ。

 

 もっとも。

 

 

「じゃ、救助しますね」

『えっ、早!?』

 

 

 ぴっと軽く指を払えば、その動きに合わせ僕の足元で装甲車が綺麗に真っ二つに切断され、エンジン部やガソリンタンクを避けた事で爆発もせずにアスファルトの上をスライドしていく。さらにその中から生首二つと頸椎を切断された兵士二人が弾き出されてきてその死体がアスファルトの路面に転がり、同時にその後を追い掛けるように割れた車体の中から手錠で拘束されたアルトリアが飛び出してきて僕の腕の中に収まった。

 マグネタイト操作と属性付与によりゴムの弾力と伸縮性、ガムの粘着性と膨張性を自在に付与できて、かつ意志一つでステルスと霊体化ができ切断力も付与できる生体マグネタイトの糸────スキルとして確立させた【伸縮自在の愛】と【念糸縫合】二つを合わせた【辺獄舎の絞殺縄】だ。あらかじめ糸を引っ付けておいて、それを今実体化させて切断と牽引に使用した、というだけの話。

 

「はい、お帰りアルトリア」

「えっ!? アリスさん、生きて…………いえ、それより今の状況は……!?」

 

 指先から悪魔変身モードの鉤爪を伸ばしてアルトリアの拘束を解除していく背景で、真っ二つになった装甲車の残骸が引火して燃え上がっている。

 

「その辺はモルガンネキに確認してね。通信回すから、そっちで話して」

『……雑に丸投げはやめて欲しいのですが。いえ、今はそんな事はどうでもいいですね。アルトリア、無事ですね? 今、そちらに救助のための部隊を向かわせましたので、早急に合流してください。いいですね』

「分かりました! それと、状況の説明をお願いします!」

 

 アルトリアとモルガンネキが現状確認をしている中、ロンドンを取り巻くガイア連合製結界の一部が斬り裂かれ、その裂け目を基点に転移してきた装甲車含む数台の車両が公園の広場を中心に停車、その中から兵士達が整然とした動きで次々と降車して、こちらに銃を向けてくる。統率の取れた動きは、ロシアでよく見かけるメシアンの精鋭にも引けを取らない程。

 

 援軍との合流よりも、目の前の敵を片付けるのが先決みたいだ。

 

「……アリスさん、彼らは?」

「どう見ても敵だね。装備がガイア製だったから味方側の警護かとも思ったし、僕に対して敵意を向けていたのは気が付いてたけど、政治的な手段じゃなくてここでこうして仕掛けてくるかどうかはね、割と微妙だったよ。雰囲気からして、多分割と行き当たりばったりにその場の流れで犯行を決めたんじゃないかなー、とか思ってる」

「気付いてたんですね。それならそうと、先に言って欲しかったのですが」

「どっちかというと後でこっそりモルガンネキに報告するのが最善な案件かなって思ってたらこの様だよ。その辺は僕の判断ミスかな」

 

 肩をすくめながら周囲を見回しつつ、余裕を保ちながら敵を観察する……見れば見るほど、妙な敵だ。

 

 統一されたカーキ色の兵服はガイア連合のでも、メシアンのでもない……COMPで画像検索したら、終末前のイギリス陸軍の軍服だった。

 しかし装備の大半はガイア連合製の現地民向け量産品と思われる霊装の数々で、中にはデモニカや少数ながらナイトメアフレームや多脚戦車まで混ざっているが、それらは手入れや補給が行き届いており、どう見ても横流しされた中古品には見えない。

 それでいて、そのガイア連合製COMPから召喚されてくる悪魔は半分くらいがメシア教会由来と思われる天使であり、かといって変装したメシアンと呼ぶには、残り半数の悪魔は魔獣ブラックドッグや妖精フェアリーといったメシアン関係ない普通の悪魔だ。

 

「つまり、物資と教育を受けた人手とそれを養う金とインフラがなきゃ維持できない兵器を抱えていられるだけの“後方”を持っていて、ガイア連合とメシア教会の双方から武器の供給を受けてるけど、そのどっちでもない……メシアンなら過激派穏健派の別なく使役悪魔は天使一色になるだろうし」

 

 ……うーん分らん!

 

 そもそもこの半終末な御時世の海外に、軍隊といえる規模……頭数の戦力を抱えている勢力なんて、そうそうあるものか。

 

「うーん……それじゃ、当人たちに訊いてみますかね。ってなわけで、喰らえ【万色悠滞】」

 

 【マリンカリン】などの魅了系精神魔法から派生した精神系特殊スキル。対単体の精神属性魔法で、魅了・幸福・麻痺付与にプラスして相手の記憶や心理を読み取る事ができる【アナライズ】効果があって、さらに【アナライズ】の進行率に比例した割合で対象のバステ耐性を貫通する事ができるとかいう便利なスキル────今はまだ、その程度だ。

 

 だが、今はそれで十分。

 

 上空に浮かぶ装甲ヘリが一台、一瞬ぐらりと揺れたかと思えば、中のパイロットごと概念的に魅了されたヘリから情報を引きずり出していく。

 

「はー、ふーん、ほー……」

 

 相手の脳内に残っていた情報を流し読みしつつ周辺に意識を巡らせていると、こちらを取り囲む軍隊連中の中心に座している多脚戦車から声が響いた。

 

 

『────英国陸軍グラストンベリー基地司令、ジョージ・ガーゲット中佐である! 貴様等には現在、英国を脅かすテロリストとしての嫌疑が掛かっている! 捕縛に抵抗するのであらば実力行使で貴様等を確保する用意はできている。速やかに抵抗をやめ、縛に就く事を勧告する!』

「だそうです。で、アルトリアとしてはどうしたい?」

 

 

 聞けば、アルトリアはこちらを包囲する軍の兵士達に向かって驚く程に鋭い目を向ける。その先鋒となって飛来するのはデモニカ装備の一体────蒸気機関車を思わせるずんぐりとした黒の装甲は、騎航空戦能力と分厚い装甲による防御性能を併せ持つ変形型“劔冑”の中でも、とりわけ空中からの地上制圧戦闘を主眼に入れて開発された量産型『GR-03ガルム』。

 敵の頭上を抑えて制空権を確保し、そこから相手に抵抗を許さず徹底的に手数で圧殺する堅実そのものの戦術は、自衛隊のそれにも共通する軍隊らしい戦い方だ。

 

 しかし。

 

「どうもこうもありません! いきなり誘拐を仕掛けてきた挙句、反撃したらテロリスト扱いなどと、そんな理不尽な真似を仕掛けられて黙っている道理はありません」

「ま、当然だよね。じゃ、どうする?」

「敵中を突破して、指揮官を捕縛します! 周辺地域の避難は?」

「精神誘導の広域展開、話してる内にやっておいたよ。半径500m以内の住民は基本的に避難済み! でもって────聖母の慈悲は無限なり、大気を上位に、悪魔を下位に!」

 

 敵がCOMPを使って召喚し待機させていた大量の仲魔、天使もそうでない悪魔も問わずそれら全てが、自然界に存在する空気それ自体を動かす事も通り抜ける事もできなくなり、空気それ自体が無敵の拘束具となって敵の動きを完全に停止させる。

 超人でも聖人でもない単なる一兵士の持つただの槍が救世主を刺殺したという聖書の故事に基づき、物事の上下序列を操作する一神教系術式【光の処刑】。曲がりなりにも四文字の権能の一端を拝借するそれは本来なら霊的な属性が極端な秩序・善かつ一神教系に偏っていなければ使えない代物だが、今の僕は好き放題に使い倒せる。

 そこに向かって【マハザン】による大気の鉄槌を叩きつける事で、抵抗不能の巨大なプレス機と化した空気そのものに圧搾され、大量に展開していた天使や妖精その他諸々敵の仲魔は全滅、後に残るのは人間の兵士だけ。

 

 その中でも特に面倒なのは、滞空しつつ機銃を構えてこちらを狙う数打劔冑の兵士だが。

 

「続き! 大気を上位に、劔冑を下位に!」

 

 “上下関係を入れ替える術式”で敵機の動きを封じ込め、同じく【マハザン】で中の人体もろともデモニカの装甲を微塵に砕き、中身である兵士達は重傷を負ったまま落下して石畳へと転がった。

 

 同時に僕の手首に展開するのは、それ自体はさほど目立たない細身の黄金色の腕環。魔晶術やオーバーソウルと呼ばれるそれは、自身の裡に宿すペルソナや悪魔変身先を武装として展開するというもの、加護のデメリットによる縛りでチェフェイ以外の悪魔変身、シュブ=ニグラス以外のペルソナを使えない僕にとっては必修といえるもの。

 ペルソナ【魔術師・ブリジット】による鍛冶の権能によって石畳を錬成し、無数の石槍が生み出され、兵士達を百舌鳥の早贄のように串刺しにしていく。

 

「お見事です!」

「そりゃどうも」

 

 残虐だと言われるかとも思ったが、アルトリアからの言葉は思いの外淡白なもの────この世界の現状を理解している以上、まあ当然か。治癒魔法や蘇生アイテムが当たり前のように横行しているこの世界では、単純な骨折や死亡程度では数秒程度でもあっさりと戦線復帰を許してしまう。

 それを防ぐためにも、確実にトドメを刺した上でさらに死体損壊しておくのは戦闘における基本中の基本。それでも相手の技量や出力次第ではどうにでもされてしまうのだが。

 

「ではどんどん行きましょう! 被害が出る前に最速で片付けます!」

「オーケー、いい覚悟だ!」

 

 気勢を上げるアルトリアに比して、モルガンネキは冷静な女王の顔を保ち切れずその表情に焦りを滲ませた。

 

『っ、アルトリア! それよりもまずはこちらの送った部隊と合流を……!』

「や、これだけ全力でこっちを捕まえに来ている以上、逃げても追ってくるのは目に見えてます。それに、もう完全に包囲されてますからね。その上で援軍の到着が約束されているなら、斬首戦術で指揮官を潰しつつ多脚戦車を乗っ取って立てこもった方が生存率も多分高いですから」

『…………分かりました。夫とシキガミ達を急がせます。ですのでアルトリア…………必ず、戻ってきなさい』

「はい、お母さん!」

 

 まあ、そういう事なので。

 

「私が前に出ます! アリスさんは援護をお願いできますか!?」

「もちろん! 連携の練習はさっきゲーセンで散々やったから問題ないよね!」

「ゲームと現実は違いますが?」

「その辺のズレは現場で適宜修正してく方向性で!」

 

 背中に負った鞘から引き抜かれたアルトリアの愛剣が、その刀身に青白いマグネタイト光を帯びて緩やかな風を纏う。

 聖剣エクスカリバー────選ばれし者にブリテンを束ねる王の資格を与えるとかいう、本当なら普通に幸せに生きていけるはずだった個人の人生設計を木っ端微塵に破壊するクッソみたいな厄ネタだが、それを自覚的に背負っているのが、目の前のこの子なんだよなぁ……。

 

 ……ま、仕方ないので、ほんのちょっとの時間だけでもその重さを一緒に支えてやるとしよう。

 

 視界の内側に表示されたCOMP画面から電脳異界化された壷中天ストレージの管理アプリをタップすれば、腕部に移植されたシキガミパーツを目印に内部フォルダに格納された大型拳銃が転送され、掌に出現するグリップを握り込めば、ケルテックP50をベースに製造された拳銃型霊装『アトモスイーター』が自身の霊基と接続された感覚。

 

 

 銃身上部に装弾数50発という規格外の弾倉を有する怪物拳銃、そんな巨大な銃身とは裏腹に小さなグリップは僕の掌のサイズに合わせてカスタマイズされ、側面には邪神ハスターを象徴する“黄の印”のメダリオンを象嵌し、僕のペルソナ『塔・シュブ=ニグラス』との同調機能を組み込んだもの。

 アダマントス合金と翠木鋼をベースに、邪神ハスターの触手フォルマを合成したフレームは衝撃・疾風属性による弾頭の加速と、呪殺・精神属性による弾道誘導と状態異常付与の増幅効果を併せ持つ。

 銃口周りには挽肉器のようなギザギザのスライドプレートを配し、ゼロ距離での接射時のスライド後退による射撃不能のリスクを排除。

 アンダーバレルに備えられた銃剣のルーンが刻まれた刀身は思念感応金属であるアステリコン合金を鍛造したものであり、使用者の意志一つで折り畳まれたブレードを展開する事が可能。

 

 

 銃のグリップを握ると、COMPに搭載されたスマートリンクアプリが銃口下に固定されたセンサーと連動し、僕の視界内に照準と弾道予測線を描き出す。

 暴風を鎧として全身に纏い突撃するアルトリアに狙いを付ける兵士達を一瞥し、その内実を順番に把握。兵士達の頭部や胴体に表示されるアイコンに照準マークを重ね合わせたら、後はトリガーを引き絞るだけでいい。あの風の鎧は並大抵のアサルトライフルまでなら普通に弾けるから、それを抜ける攻撃力の敵を順番に狙っていく。

 対物ライフルを構えたスナイパー、対戦車ロケットを担いだ砲手、そしてあの隊長格は手持ちアサルトライフルだが他より頭一つ抜けて高レベルな上に銃自体も付喪神化済みだから、多分風の鎧も貫通できる。そんな敵一人一人の脳天に5.7×28㎜の殺意を順番に送り届けてやる。

 

 僕の銃口から放たれた銃弾はスナイパーの頭部を撃ち抜き、砲手の担いでいた対戦車ロケットの砲弾を射抜いて爆散させて、隊長格は銃身を犠牲に回避されたものの、その時にはその直上、爆速で突っ込んだアルトリアのエクスカリバーが頭上に振り上げられており、腰椎を軸に柔らかく回転させた全身運動から放たれる【回転斬り】が絶死のギロチンと化して振り落とされる。

 

 その速度を支えているのは全身に纏う暴風の鎧と、そしてそれを一点収束させて放つ両足の“A.T(エア・トレック)”────『轟の玉璽』。ジェットエンジンを象ったようなデザインのローラースケート型霊装は、確か宮城の幼女ネキ……本人ではないがその仲間の一人が所持しているものの複製品、おそらくは以前邂逅する機会があったという幼女ネキ当人からの贈り物か。

 魔力放出によって発生させた暴風を吸気して圧縮、後方へと噴射する事により莫大な推進力を得る、双脚に搭載されたラムジェットエンジン。本来は相応の初期加速がなければ発動できない弱点を持つ轟の玉璽だが、彼女の場合は魔力放出により能動的に向かい風を生み出して瞬間的に最高速を得る事が可能。

 

 曇りのない白銀の燐光を帯びた聖剣の一振りは余波だけで石畳を深々と引き裂いて、その軌道上にいた敵兵をも両断する。付喪神化アサルトライフルを盾にその一撃を防いだ隊長格は深々と斬撃痕を刻まれてもう使えない銃を捨て、コンバットナイフを引き抜いて応戦の構えを見せるが。

 

「アリスさん!」

「はいな!」

 

 壷中天から射出される六角形の金属片が展開し、武装錬金『モーターギア』を形成する。真鍮色に陽光を反射する歯車型の円輪刃は一対の殺意となって滞空し、前方へと振り出された僕の爪先と衝突して弾かれるように音速域へと一瞬で加速。

 ふらりとわずかに重心をずらしたアルトリアの耳元を掠めるようにして射出されるモーターギアが、敵手の首筋を狙う凶爪と化す。それを相手は咄嗟に引き抜いた拳銃の銃身を立てて防ぎ止めた。実銃同好会関連の提供と思われる付喪神化ベレッタ92FSのバレルが高速回転する歯車型のエッジとせめぎ合って悲鳴のような軋りに合わせて火花を散らし、そこにP50の銃弾を討ち当てた瞬間、半ばまで切れ込みが入りながらもそこで耐えていたハンドガンの銃身がそこから折れ飛び、モーターギアは隊長の頬に一筋の傷を入れながらも後方へと飛んでいく。

 

「で、そこで終わりと思ったか?」

 

 そしてエッジの端に貼り付けておいた念糸がゴムの性質で収縮し、それに曳かれて戻ってきたモーターギアのエッジが、隊長の首を斬り裂いた。始めは浅く、しかしすぐに勢いよく赤々と鮮血が噴き出し、それとは対照的に隊長格は力なくその場に倒れ伏す。

 だが、そんなものに関わっている余裕はこちらにもない。ハンドガンと念糸とモーターギアを操ってアルトリアを狙う敵兵を背後から狙い撃ちながら、少し風が出て大気が荒れ始めた公園の石畳の上を走り抜けていく。こちらの行く手を遮るように銃弾と魔法が着弾するが、こちらの速度に追いつけるものじゃない。

 爆炎と爆光を背後に置き捨てるように駆け抜けて敵陣の中枢に飛び込んだアルトリアが、ジョージ・ガーゲットと名乗った敵将に向けてエクスカリバーの一閃を振り下ろした。それを相手は銀白色の大剣を振り上げ受け止めて、二本の刃が激しく噛み合い、白熱する火花を散らす。

 蒼銀の聖剣と銀白の大剣が複雑な軌道を描き出し、絡み合うように衝突する。互いに相当なレベルの異能者だが膂力ではガーゲットの方がわずかに上回り、逆袈裟に振り上げられた巨剣がエクスカリバーを正面から弾き返して、振り下ろされようとする追撃の大剣。

 そこに割り込むように飛ばしたモーターギアの回転刃がその柄へと直撃し、それを振り払った事で剣戟の流れが停滞、互いの殺し間から間合いを外して、アルトリアとガーゲットの視線がぶつかり合った。

 

「見覚えのある顔ですね、閲兵式で見掛けた記憶があります。……正規の軍人である貴方が、何故このような真似を?」

「正規の軍人なればこそだ。猿の血を引く王族など不要なのだよ……!」

「っ、それこそ正規の軍人が、そのような事を……っ!」

 

 刹那の激情からかアルトリアの動きがわずかに停滞し、次の瞬間両脚の“轟の玉璽”が爆発的な推力を生み出し加速。

 だが考えなしの突撃ほど受け流しやすいものはなく、激昂したアルトリアが体重を乗せた全身の加速に踏み込みを合わせて一直線に横薙ぎの一撃を繰り出すが、正面に立てた刀身で受け止めたガーゲットはそれを柔らかく受け流し、その大剣が十字を描いて振るわれる。

 

 銀白色の刀身が描く軌跡が十字架を描いて輝いた、その刹那。

 

 

「────神聖にして侵すべからず(Sacrosanct.)!」

 

 

 短く、簡潔な口訣により、大剣が本来の姿を取り戻す。その巨大な刀身と黄金色の鞘が無数の破片と化して飛び散り、ガーゲットの肉体を芯としてその全身を覆い尽くすように再結合。無数の鋼が複雑に噛み合う金属音が重なり合って完成するのは、鈍い黄金色の全身装甲で全身を覆い、額には螺旋を描く一本角を有する甲冑。

 

「っ、まさか真打劔冑……そんなものまで!?」

 

 

 真打劔冑────『アスカロンVII』。

 

 

 ガイア連合宮城支部において製造された、航空機能を有する空陸両用型の変形型デモニカの一領であり、その特性は分厚い装甲による高い防御力と共に両立された航空機能。

 穢れなき美しさすら感じられるその姿を目にして、アルトリアが息を呑んだ。思わず動きを止めたアルトリアに向かって、豪奢な黄金色に塗装された白木鋼の装甲で全身を覆ったガーゲットが、螺旋を描く異形の刃を持つ細身の大剣を振り下ろす。

 

「あーもう! そこで取り乱すな!」

 

 まず左右一対のモーターギアを射出し、それでも足りない手数を補うために、壷中天からもう二基の核金を放出。それぞれを新たなモーターギアに変形させた事で六枚に増えた円型刃を投射する。

 

 膝裏。

 肘関節。

 脇腹。

 首筋。

 

 関節部など全身を覆う装甲の継ぎ目を狙って弧を描く軌道で襲い来るモーターギアを煩わしげに振り払った事で、ガーゲットの追撃は失敗。

 同時に壷中天から放出するのはもう一挺のP50カスタム、それを掴み取って二挺拳銃の形で連続発射した銃弾が未だガーゲットの周囲を滞空するモーターギアの側面に跳弾し、その真鍮色の全身装甲を乱打する。

 霊力と高い親和性を持ち術式の効力を大幅に増幅する白木鋼の装甲強度を支えているのは装甲護符などに利用されているそれとも共通する強化術式、それはつまり言い替えるなら防御のためには必ず霊力を消費するという事であり、大した威力のないカス当たりであれ繰り返し攻撃を受ければ必ず消耗するという事であり。

 

 それを嫌ってガーゲットが後退した隙を突いて両脚に霊装を展開────『風の玉璽』。アルトリアが持つ嵐の玉璽レプリカと同種のA.Tだが、その最大の特徴は翼のように展開する“狂風神のしずく(Moon struck drop)”────邪神ハスターのフォルマを最大限に活用した権能拡張霊装だ。

 鞭を絞り上げるように捻った全身の発条を最大限に活かし、風を司る邪神の翼を戦靴として装着した両脚をコンパクトに前方に蹴り出せば、それに伴って発生した暴風が足元の石畳や砂利、瓦礫などを巻き込み、疾風・衝撃属性の無数の魔弾に換えて射出する。

 

 降り注ぐ魔弾の雨から敵が退避するのに合わせ、僕はアルトリアの背中に貼り付けておいた念糸を収縮させてその身体を引き戻し、ついでに悪魔変身で生えている尻尾の一本を展開。白い霜が降りた凍える氷雪の尾の先端から、最低出力の【ブフ】をアルトリアの顔面に放射。

 

「ひゃっ……な、何を!?」

「落ち着いた?」

「……ええ、どうにか。すみません、取り乱しました。もう大丈夫です」

 

 ならば、良し。

 

 ただまあ王様になるためには、この子はちょっと真面目過ぎるよね。人間的には美点であれ、傾城傾国の狐の視点から見ればそういう視点は付け入る隙にしかならないし……ま、この子の周りにはちゃんとした人がそれなりにいるし、軽く注意しとくだけでも十分かな。

 

「あー……アルトリア、多分分かってると思うけど、アレをまともに理解しようなんて考えない方がいいよ。最初から相互理解を放棄してこちらを殺しに掛かってくる相手だ、こっちの話とか全然聞いてくれないから会話なんて成り立たないし、そういうヤツもいるって事実だけ脳内の隅っこに留めておくくらいがちょうどいい」

「ええ、分かって……分かっては、います。それに今は、単なる敵ですから」

 

 うん、分かってるなら問題なし。どうせメシアンの相手で慣れてるだろうしね。

 

 アイツが正規の軍人であるというなら、これは多分アレだ────ガイア連合内部の命令系統に属していた裏切り者。マン島を束ねていた過激派メシアンの大司教は半終末前の元王族だという話だから、多分そいつにでも義理立てして内通でもしていたのだろう。

 

 あくまで敵を視界から外さず、しかし互いに向けた視線だけで苦笑を交わして、僕とアルトリアは敵へと向き直った。

 悪魔変身で得た九本の尾を展開し、それぞれの尾に埋め込んで【情報接続】した女神の霊基達へと霊力を回す。まだまだ扱い慣れていない武装だが、その慣らしを済ませるにはちょうどいい敵だ。

 

「……猿が、小賢しい真似を」

「その猿が作った武器がなきゃ悪魔相手にイキる事もできない人間様が何か言ってるねえ」

「有用ならどういった資料、資源であれ活用する。我が大英帝国はそうやって版図を拡げてきたのだ。そうして次は貴様等を活用する順番が来ただけの事、我々のやるべき事に何一つ変わりはない」

 

 こちらの煽りにも動じずに剣を構えるガーゲット中佐、そしてその全身装甲アスカロンVII。手にした得物────刀身長に比して細身の刃は明らかに切断には不向きな形状だが、頑強なエレクトラム合金を芯にして螺旋を描いた刀身が刺突に使われた際の破壊力は、生半可な装甲であれば一撃で貫通するだろう。

 そして真打劔冑の数打との最大の相違点として、搭載された特殊技能“陰義”────【螺旋丸】の原理を応用し、螺旋状の大剣に渦巻くマグネタイトを収束させ、高速回転する巨大なドリルを形成するが。

 

「おやおや、中佐殿は猿の言葉の意味がお分かりで。司令閣下はよほど自分の知能レベルを猿に近づけるのにご執心だと見える」

「……貴様」

「アリスさん、あまり煽らないでください」

 

 こちらも動じずに低レベルの煽りを続けてやれば、さすがに苛立ちが表に出るようだ。もっとも、それで視線も剣先もブレさせないのは流石というべきか、真鍮色の騎士は渦巻く大剣を油断なく構え、こちらに向ける。

 同じように聖剣を手に、アルトリアがわずかに一歩を踏み込み、寝かした刀身を地摺りの下段へと構えた。

 

 一触即発────殺す準備も段取りも、既に出来ている。味方が一人いれば、それで十分だ。

 

 既に周囲の敵も集まってきたところだ。さっきまでのように二対一で一人の敵を叩くなんていう楽な真似は許されないだろうが……ちょうどいい、全滅させてやる。

 

 

 こちらが最初の一手のトリガーを引こうとした、その刹那。

 

 

 

「────お待ちなさい、皆様」

 

 

 

 幼くも蠱惑的なその声が、戦場に渦巻く殺気を鎮めていた。

 女王の威厳とでもいうべきだろうか、モルガンネキの持つそれとは質を異にする覇気に、戦場の誰もが戦闘の手を止めていた。

 

 一般兵もデモニカ兵士も、戦車やナイトメアフレームの操縦者ですら同様に動きを止めており、あるいは劔冑を纏ったままのガーゲットさえも螺旋型の大剣の切っ先を地面に突き立てて不動の構えを取っている。

 

 その人垣が割れ、歩み出てくるのはほんの12、3歳にしか見えない幼い少女だ。

 一見すれば金髪のクラシックドールのような美貌を持つ少女だが、そこには本来であれば少女が持つはずの幼さというものはなく、蛇のような蠱惑が、老婆のような老成した狡猾さと同居しているその気配だけで、それが真っ当な人間ではないという事が一目で理解できる。

 

 ガーゲットじゃない。

 この少女が、敵のトップだ。

 

 

「っ……何者、ですか!?」

「お初に御目に掛かります、陛下。王となられる御身を出迎えるのにこのような無作法を働いた事、まずはお許しください────そして我が名は“グィネヴィア”。ブリテンを治める王の妃である者」

 

 

 その言葉に、嘘はない────少なくとも【アナライズ】にはその名乗りの通り『邪龍グィネヴィア』という解析結果が表示されていた。

 

 人間ではない、悪魔だ。

 

 

 

 




 アルトリアを立てて何気に手加減中のアリス。
 実はこの二人、何気に非常に相性が良い……。



~割とどうでもいい設定集~



・新型COMP
 呉製のロボに搭載されている視覚介入型ディスプレイと、デモニカ系の思考操作技術を合わせる事で、視界に直接ウィンドウを表示して思考のみで操作する新世代型COMP。
 飛行石やブルーウォーターの系列の光量子コンピューター技術を取り込んでいるため、容量もペタとかテラとかの領域。
 百太郎やギボ・アイズのような鉄板COMPアプリの他、内蔵式トリガーホルダーや電脳異界化壷中天などの管理、また穢教滅閃用弾道管制アプリのようなシステムも搭載可能で、拡張性が非常に高い。
 またカメラなど通常のスマホで使えそうな機能は全て組み込まれているため、普通にスマホ代わりに通信やネット接続なども可能で、スマホゲーなども普通にプレイできたりする。
 一方で、カメラ撮影やゲームなどの操作が外から見ても分からないという点は社会的な部分で非常に問題が多く、近々ガイア連合側で規制が設けられる可能性も高い代物。

 アリスの場合はスキルとして取り込んだヘイロー(不可視モード搭載型)に直接組み込んでしまっているため、物質としての実体そのものが存在しない。

・聖獣パディントン
 くまのパディントン。
 英国土着の悪魔であり、半終末到来時のメシア教会による攻撃に抵抗して人々を守り戦う側に立った側。
 同じロンドン在住の高位悪魔である名探偵とその配下のベイカー街遊撃隊などと連携を取ってロンドン市民を守るために戦い、生き残った。
 現在はガイア連合イギリス支部の傘下で、パディントン駅周辺の地区とその住民を守護している。
 知名度とご当地補正により下手な小神よりもレベルが高く、基本的な戦術はレベル由来のステータスに任せた物理によるゴリ押し。この辺、戦闘に関する逸話なんて皆無なので仕方なし。
 見た目モフモフかつ言葉も通じるし、悪魔の癖に野生のものとは比べ物にならないレベルで大人しい熊であり、観光客に人気。声を掛ければ写真も撮らせてくれる。

・アルトリア・エヴァンズ
 謎の食通様『終末が来たりし世に英傑の旗を掲げよ』より。
 ガイア連合イギリス支部における最重要人物の一人。
 見た目がまんまFateのアルトリアな、モルガンネキ&プーサーニキ夫婦の娘さんであり、聖剣エクスカリバーを持つアーサー王の再来(ガチ)。
 今回はお忍びという事もあって謎のヒロインXっぽいジャージ姿で登場しているが、誘拐事件に巻き込まれた。

 結構マジメに勉強しているが、実はゲーセンとか行きたかったし、ガンバライジングやってみたかった。

・ガンバライディング
 ガイア系列のゲーム企業からリリースされているゲームタイトル。『ガンバライド』『ガンバライジング』の続編タイトル。
 スマホゲーとアーケードで連動しており、スマホアプリをインストールした端末とアーケード筐体を連動させる事によって、アプリ側で育成したユニットデータを使ってアーケード版をプレイできる。
 アルトリアもプレイしていた模様で、周囲に人がいない休憩時間などにこっそり周回したりしていた。

・メシ天パニック
 ワニワニパニックのバリエーション。
 脳缶ニキプロデュースなゲーム筐体。ワニワニパニックのワニが天使とメシアンに置き換わっているが、実はこの中に悲鳴を上げる機能を残した本物のメシアンと天使の霊基が格納されており、痛覚が3000倍になって伝わる仕様。
 やたらと真に迫った悲鳴がウケて黒札・現地民問わずアンチメシアン復讐勢などが嬉々としてプレイしているが、時折力が入り過ぎて筐体を破壊し、賠償金を絞り取られている。

・【辺獄舎の絞殺縄】
 名前の元ネタは『Dies irae』。
 【伸縮自在の愛】【念糸縫合】複合スキル。
 体内マグネタイトを糸状に変形させた上で、ゴムの弾力と伸縮性、ガムの粘着性と膨張性を属性付与し、意志一つでステルスと霊体化が可能で切断力を付与できる、という非常に面倒臭いスキル。
 機転と発想次第でいくらでも応用が利くため、使い勝手が非常に良い。

・【万色悠帯】
 元ネタは『Fate』シリーズ。
 対単体の精神属性魅了スキル。敵単体に超高確率で魅了・幸福・麻痺付与+【アナライズ】。かつ【アナライズ】の進行率に比例した割合で対象のバステ・精神耐性を貫通可能。
 【マリンカリン】などの系統から派生したスキル。現状はまだまだ対単体程度に留まっている。
 このスキルに付随するアナライズ効果は対象の記憶や心理を読み取るもので、本人が意識していない記憶や深層心理まで読み取る事ができる上に、読み取りには濃縮ヘロインですらまだマシなレベルの快楽が伴うため、色々な意味合いで非常に危険。

・ジョージ・ガーゲット中佐
 元ネタは『装甲悪鬼村正』。この手の人種差別主義者キャラとしては非常に珍しく、無能でも狂人でもない冷静で冷徹な軍人であり、むしろ有能かつ部下からも慕われる人格者で、同時に家族を大切にする一面すら描かれている。
 英国陸軍グラストンベリー基地司令。
 元ネタ通りの人種差別主義者(ガチ)。
 変形型デモニカである真打劔冑『アスカロンVII』を装甲する仕手であり、異能者としての剣術も相当なもの。

・アスカロンVII
 元ネタは『装甲悪鬼村正』。
 タマヤ与太郎様『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』より、カジオーネキの手によって鍛造された変形型デモニカ“真打劔冑”の一領。
 ジョージ・ガーゲット中佐が装甲する。
 原作においては未登場のまま終わった陰義に関しては【螺旋衝角】が組み込まれている。その実態は【螺旋丸】の原理を元に、螺旋状の大剣を軸に円錐型に形成したマグネタイトを高速回転させ、超高出力のドリルとして振り回すというもので、剣の間合いが届く近距離にあっては絶大な破壊力を誇る。さらに奥の手として、ユニコーンを模した二重螺旋状の額の角を基点に【螺旋衝角】を発動する事も可能。陰義を発動するための素材としては聖獣ユニコーンのフォルマが使用されている。
 武装は大剣だが、刀身長の割に細身であり、またドリルのような螺旋状の刀身のため切断には向いていない刺突武器であるが、陰義により非常に高い破壊力を持ち、また陰義を発動させた状態であれば側面に触れた物体をグラインダーのように削って破壊する事も可能。
 装甲素材としては術式との相性が高い白木鋼を使用しており、これに防御力強化の術式を加える事で硬度と強度を兼ね備えた頑強な甲鉄を備え、加えて避弾経始に優れた装甲形状によってきわめて高い防御力を実現している。これは裏を返せば、どのような攻撃であれ被弾すれば一定値のマグネタイトを消費してしまうという弱点にもなっており、このためフルオート射撃のような攻撃回数の多い攻撃への対処は苦手とする。
 独立形態は大剣型で、武器としても使う事が可能。

・GR-03ガルム
 元ネタは『装甲悪鬼村正』。
 タマヤ与太郎様『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』にて、カジオーネキによって開発された変形型デモニカ“劔冑”の内、英国向けに開発された量産型の一つ。
 空中からの地上制圧戦闘を主眼に入れて開発された、空挺部隊向けの騎体。
 数打のため陰義は持たないが、既存のデモニカ用各種兵装やコアにセットされたスキルなどを扱えるため、あまり困る事はない。

・【光の処刑】
 元ネタは『とある魔術の禁書目録』シリーズ。
 単なる一兵士に過ぎないロンギヌスの持つ普通の槍が唯一神の分霊であり現身である救世主を刺殺した聖書の故事に由来し、物事の概念的な上下序列を操作する術式。
 「敵の攻撃」を「自身」より下位に設定すればどんな攻撃でも完全防御できるし、逆に「自分の攻撃」を「標的」より上位に設定すればどんなものでも破壊できる。
 同時に複数の序列を操作設定する事はできないが、設定変更そのものは一瞬で、危険度が高い割に応用の利く技。
 曲がりなりにも四文字の権能を引き出す関係上、天使やメシアンが受けた場合は絶対に抵抗できない一方で、極端に秩序・善かつ唯一神に偏った霊質がないと扱えない……はずなのだが、アリスは平然と使いこなしている。
 副次的な効果として“神の肉”である小麦粉の操作も可能だが、アリスの場合は他に山程攻撃手段や防御手段があるので、そちらを使う事は滅多にない。

・【オーバーソウル】
 タマヤ与太郎様『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』より。
 術者の精神や肉体に宿るペルソナや悪魔変身先の力を武装として展開する技術。
 なおマカーブル様『【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~』に登場する【魔晶化】や【魔装術】との区別は比較的曖昧。

 アリスの場合、チェフェイ・シュブ=ニグラスの加護により妖獣チェフェイや塔・シュブ=ニグラス以外の悪魔変身・ペルソナが使えなくなっているため、ほぼ習得必須の技術。

・アトモスイーター
 ケルテックP-50をベースとして製造された拳銃型霊装。
 フレームはアダマントス合金と翠木鋼をベースに、邪神ハスターのフォルマを合成して鍛造され、極めて高い強度に加えて衝撃・疾風属性の弾頭加速と、呪殺・精神属性による弾道操作と状態異常増幅効果を併せ持つ。当然、それぞれの効果に対するパッシブスキルによる強化も乗る。
 グリップは形状・サイズをアリスの手のサイズに合わせて調整・小型化され、邪神ハスターを象徴する黄の印のメダリオンを象嵌してアリスのペルソナ『塔・シュブ=ニグラス』との同調機能が組み込まれている。
 アンダーバレルには意志一つで展開可能なアステリコン合金製の折り畳み銃剣を装着、銃口周りにはゼロ距離接射を前提としたスライドプレートを増設、他にもグリップ下端の格闘用スパイクなど、全体的にストライクガンやマルイ・ストライクウォーリアに似た近接戦向けのカスタマイズが施されている。
 弾倉はベース銃の機構をそのままに弾数50発というハンドガン離れした装弾数を持つ弾倉をフォルマ弾倉化した上で、COMP内電脳異界化壷中天に格納したフォルマ弾倉化済み専用フォルダから転送給弾するという形式を取っており、このため弾切れを考えずに途切れなく連射する事が可能。
 トリガーホルダーとの連動により特殊弾も発射可能。

 ベース銃がケルテックP-50なのは、グリップ内部ではなく銃身上部に弾倉を搭載するという特異な構造によりグリップを“削る”事が可能であり、掌が小さいアリスの手でも問題なく片手で保持する事ができるため。
 このため、普通の成人男性が撃とうとした場合は逆にグリップが小さ過ぎて正常に保持する事ができない。
 なおハンドガンとしては結構な大型ではあるのだが、異能者としての膂力で保持する事が前提になっているため、重量や反動は考慮されていない。

 なお、アリスの場合は同じ銃を複数挺用意している。

・A.T
 エア・トレック。
 タマヤ与太郎様『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』より。
 『エア・ギア』の装備を再現したホビー部製の霊装。
 パーツ式でカスタマイズ可能なローラースケート型霊装……らしきもの。基本的にはインラインスケートなのだが、原作にはローラースケートの範疇に収まらない義肢型や巨大ロボ型のようなトンチキな代物も登場しており、多分どこかで黒札の誰かがやらかすと思われる。
 上手く扱えれば非常に高い機動力を発揮できる便利兵装だが、攻撃に転用するには相応の技量か専用のカスタマイズが要求されそう。
 難を言うなら、カスタマイズしたパーツの固定が甘かったり、靴のサイズが合っていなかったりした場合、容赦なく事故りそうな代物。原作でも自動車並みのスピードとそれ以上のジャンプ力が出せる割に防御力が一切上がらない都合上、衝突事故で大惨事を連発しそうなものだがその辺大丈夫だったんだろうか?

・轟の玉璽
 タマヤ与太郎様『【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策』より。
 ホビー部製A.Tの専用オーダーメイドタイプ。
 アルトリアが使っているものはレプリカであり、以前イギリスを訪れた幼女ネキから贈られたもの。オリジナルは幼女ネキの長女であるイズナが使用している。なおレプリカといっても違いといえば靴部分のサイズとロット数くらいのもので、性能差はほぼほぼ存在していない。
 向かい風を吸気して圧縮、後方に噴射する事で莫大な推力を得るラムジェットエンジンに近い機構が搭載されており、向かい風が強ければ強い程に加速する性質を持つものの、それだけに発動には非常に高い脚力が要求される。
 アルトリアは能動的に【魔力放出】の暴風を叩き込む事で初速から最大速度での噴射を可能としており、これ以上ないほど相性が良い。

・モーターギア
 宮城製武装錬金の一つ。黒札用の高級仕様。
 アリスの意志を受けて自在に飛翔するチャクラム型の武器であり、実質的なファンネルとして使われている。
 エッジで斬り裂くと見せかけて銃弾を弾いて跳弾させたり、【辺獄舎の絞殺縄】の糸を絡めて伸ばす為に使用したりと、発想と組み合わせ次第で使い方の幅がとんでもなく広くなる。
 アリスの場合、何気に核金を三枚も隠し持っており、同時六枚のモーターギアを使用可能。

・風の玉璽
 アリスの使用するA.T。
 アトモスイーターと同様、邪神ハスターの高位フォルマを組み込まれており、翼のように展開する“狂風神のしずく”を利用する大気操作の権能拡張霊装。
 大気操作の権能を最大限に使う事を前提とした魔法系のカスタマイズが施されており、大気を道として超高速で駆け抜けるだけでなく、アリスが得意とする衝撃属性による大気操作を活かして攻撃手段としても活用する。
 “風を操る”というシンプルな機能を突き詰めた結果、大気操作の領分に入るのであれば大抵の事はできるようになっており、その自由度は数あるA.Tの中でもトップクラスの域に入る。
 またホイール部分はモーターギアとの接続が可能であり、それを利用して出力を引き上げる事も可能。

 多分、いずれ原作通り他の玉璽のデータを元に改修されて嵐の玉璽に進化すると思われる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。