ファッション無惨様のごちゃサマライフ   作:頓西南北

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小ネタなので今日は短く。

いつもの話とは時系列が違うので注意で。


小ネタ 恐怖のホワイトブロイラー計画 電脳異界S・O・S!

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 半終末が発生して少し経った頃。北米からバンバン打ち上げられてくる核ミサイルの雨を多神連合その他がバンバン撃ち落としている、核の傘ならぬ神話の傘によって日本が仮初の平和を保っている、そんな頃。僕の活動拠点にして生活拠点であるダ・ヴィンチラボにショタオジが訪ねてきたのは、だいたいそんな感じの時期だった。

 

「────電脳異界は知っているだろう?」

「今は第三異界まで完成してるとか。確か一号は妖精の森、二号も妖精の森(Ver.サバンナ)、三号は妖怪の森と、見事に森シリーズが出来上がったんでしたっけ」

 

 数年前と比べて明らかに物が増えて空間的余裕が圧迫されつつある応接スペースのソファに座り、目の前に置かれた湯飲みの緑茶を一口飲んで、僕は対面に座ったショタオジの姿を見た。こっちもこっちで相応に仕事が忙しいので顔を合わせるのはそれなりに久々だが、結構疲れが溜まっているように見える。別に痩せている訳でも、顔がやつれているように見える訳でもないが、どこか精神的に参っているような雰囲気が見えた。

 

「何というか、毎回仕事持ってきて申し訳ないとは思ってる。とはいえ報連相の行く先が他にないというのも事実なんでこちらとしてはどうしようもないんだが」

「うん、まあ。その辺は理解してるから。理解してるから………………」

 

 この、どことなく哀愁を漂わせたショタオジの萎れ具合。しなびたホウレン草のごとくしんなりしてしまっている。うん、まあ。本当にごめん。

 

「……で、電脳異界の話でしたよね」

「ああ。正直、行き詰っているというのが本音でね。4号は妖魔の森、5号は夜魔の森、6号に至っては魔王の森に成り掛けたから、さすがに消滅させた。毎度毎度この調子だと、流石にどうにもならなくてね。だからこっちに話を持ってきたのさ」

 

 話題の転換で、とりあえずショタオジが発散していた闇深オーラの発散は停止。とりあえず精彩を取り戻したショタオジの様子を見るに、成功したと言ってもいいか。で。

 

「行き詰っている、ですか。……まあ、森しか生えない時点でさもあらん、って感じですが。ふむ…………じゃ、こんな条件はどうでしょうか? もしその電脳異界とその技術が何かしらの収益を上げた場合、そこから上がってくる収益の5%を僕の懐に入れていい。そんな契約で」

 

 僕の言葉に、ショタオジはその実年齢に見合わない若々しい顔にニヤリと笑みを浮かべる。純粋に状況を楽しんでいる顔……楽しみにしている、とでも言うべきか。楽しんでくれているのなら、そのまま続けるだけだ。できるなら、彼には喜んでほしいので。

 

「なるほど、そこまで自信があるのか……面白いじゃないか。いいだろう、認めよう。電脳異界を利用した商売か、それともアミューズメントパークでも作るのかな?」

「いえいえ、そんな大した事はやりませんよ。単なる、そう……既存技術の結合と転用ですよ。名付けるなら、そう────『ホワイトブロイラー計画』』」

 

 本音を言うと、前々から興味がないわけじゃなかったのだ。電脳異界という概念を聞いた時に思い付いた、電脳異界の特性を最大限に生かす事ができる活用法、その腹案。そして、現在ガイア連合が抱えている問題の一つを完全に解決できそうな計画案。

 

「え? ……何その嫌な予感しかしない計画名!?」

 

 つまり、我に策あり、である。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 そうして、一月後。ダ・ヴィンチとメディアという二人の能力を最大限に活用して、新型電脳異界【千年牧場王国】は誕生した。

 

「計画名を聞いた時点で、嫌な予感はしていたんだよなあ…………」

 

 深々と溜息を吐き出し、ショタオジが呟いた。

 

 電脳空間に広がる純白の異界、西洋に由来する教会風の装飾が和風城郭と絶妙に融合し、純白の瓦屋根と石畳の上に輝く十字架と色鮮やかなステンドグラスに彩られた壮麗な光景は、まさしく神の都に相応しい。まあ、言うて【聖都天草】での戦闘記録から似たようなテクスチャを再現した、というだけの話だったりするのだが。

 当たり前だが実体も整っておらず、単なる風景としての機能しか持たない単なるハリボテだ。人が暮らすにはどう考えても適さない、ただ綺麗なだけの模型に過ぎない。

 

「大事なのは機能ですからね。見た目の綺麗さは心を潤してくれますが、それだけじゃお腹は膨れません。あくまでも大事なのは機能です」

「あー……うん、そうかもしれないね」

 

 と、顔を引き攣らせるショタオジの視線が頭上を見上げると、空中に光の波紋が走って空間がわずかに揺らぎ、バスケットボールほどのサイズの金色の塊が純白の石畳の上へと落下した。ごろり、と石畳の上を転がってこちらを向いた“それ”は、わけがわからないとでも言うかのように両眼を見開いてこちらを見た後に、そのままその総体を構成するマグネタイトを根こそぎ金色の硬貨の山へと変換し、崩れ去る。それがそのまま形を保っていたのは数秒。生成された硬貨の上にまるで立体映像のようにノイズが走ると、硬貨はそのまま空気に融けるかのように消滅した。

 見れば、この壮麗な神の都(ハリボテ)、その方々で同じ事が起こっていた。空中に溢れる光の中から生首や胴体、手足、翼といった各種のパーツがいくつもいくつも出現しては、マトモな形も取れずに地面にブチ撒けられて鮮血を撒き散らし、撒かれた血液ごと硬貨になって消滅する。ひたすら、その繰り返しだ。

 

「……今の、生首、かお? 今の間違いなく悪魔の気配がしたし、遊園地のお化け屋敷の延長線上みたいなアトラクションじゃないんだおね!?」

「……っていうか、たぶん天使の首だよね。首から下はどうしたの?」

 

 ショタオジに同行していたやる夫さんとハム子が、血の気の引いた顔でこちらを振り返る。それに向かって肩をすくめた僕は、はっきりと断言した。

 

「どっかその辺で転がってますよ。分からんけど。まあ、どうせもう首と一緒で分解してしまったと思いますけどね」

「その辺」

「分解」

 

 別に大した事をやったわけじゃない。前にも言った通り、これ全て、既存技術の応用と合わせ技である。

 

「……屠殺場かな?」

「まあ、大体そんな感じです。機能としてもね」

 

 虚無感の中に悟りを開いたチベットスナギツネのようなシュール顔になったショタオジが、引き攣った声を出す。日々の激務以外で常に余裕のある態度を崩さない彼がこういう表情をするのは実に珍しい。

 

「ああ、だから『ホワイトブロイラー』なのかお。……天使をブロイラー扱いで出荷するから」

「出荷元も消費先もぜんぶここですけどね。まず、この異界の元になっているのは言わずもがな僕達ガイア連合の電脳異界作成技術。そしてもう一つはメシア製の『天使召喚プログラム』です。別に天使さえ召喚できればいいので」

 

 何かと忌避されがちなメシア製『天使召喚プログラム』だが、これはこれで、こと天使を呼び出すという一点に限っていえば優秀なのだ。必要な能力を持った天使に絞って召喚する事もできるし、何なら穏健派・過激派といった天使自体の個人信条を召喚条件に付け加える事もできる。ついでにガイア製のパッチにより十戒プログラムのような制限を課す事だって可能だ。

 なので現在、この異界にオートで召喚され続ける天使は、基本的に世界のあちらこちらでいろんなところに喧嘩売りまくりの過激派天使だ。まあ、もしかしたらプログラムのバグとかのせいでたまに穏健派が混ざってる……なんて事もあるかもしれんが、召喚した途端に死ぬ仕組みだし検証する前に死ぬので問題ない。

 

「殺すシステムに関しては、召喚時の数値設定を軽く弄ってるだけです。頭と胴体、手足、翼が空間を越えて数十メートル離れた別の場所に具現化するように設定しているんですね。五体をバラバラにすれば基本死にますから」

「……コイツ、下手したら数百単位で召喚事故起こしてやがるぞ。しかも意図的に…………」

 

 いや、数えてないけどデバッグとか色々やったから、少なくとも千は越えてるはず。

 

「十戒プログラムみたいに召喚した天使にオートで制限をかますシステムも出来上がってますから、それを利用して特殊契約を掛けています。具体的には、死ぬ瞬間に霊基と構成マグネタイトを変換してマッカを生成する、って感じですね。この辺は一神教の聖書にある殉教奨励的な条項に、モルガンさんがイギリスから持ってきたブリテンマッカ鋳造技術を連動させる事で実現しました。動力はちょっと前に別の場所で研究されてた無限ループ式永久発電装置だから、稼働費もゼロ。必要なのは実質的に維持費だけ、それも異界そのものがサーバーから安定して自立するようになれば不要になりますね」

 

 と、僕は足元に転がってきた生首を蹴り飛ばすと、サッカーボールのように飛んでいった生首は無念の表情を浮かべてカッと目を見開き、そのまま無数のマッカに還元されて床に飛び散った。呆然とこちらを見やるやる夫さんとハム子に向かってぐっとサムズアップしてから、僕は話を続ける。

 

「このマッカと、ついでにフォルマは電脳異界に追加した機能で随時ストレージに回収されます。物品の取り出しは難しくても、マッカやフォルマみたいな概念的なものをデータとして収納・転送する技術は割と早期から実用化されていましたから、技術的ハードルは案外低かったですね。どうです、割と役に立つ箱ができたと思うんですが、どうでしょう?」

 

 少なくとも、ガイア連合でも結構早い時期から問題になってたマッカ不足を解消するために、この技術が役に立つのは間違いない。COMPを操作して一日間の試験稼働を通じて獲得した魔貨をショタオジのところに転送すると、その金額を確認したショタオジの顔がさらにすごい事になった。

 

「たった一日でこの金額…………だと!? 異界を使って何か商売でも始めるのかと思ってたら、造幣局作りやがったぞコイツ」

 

 契約上僕の手元に転がってくる事になっている分である5%を差っ引いても、十分過ぎる程に結構な金額だ。今のガイア連合でも、一日でこれだけのマッカを稼ぎ出せる異能者がどれだけいるだろうか。それも、一切の危険や労働を伴わず安定的に、などという話になれば。

 

「………………一日でどんだけ殺したんだコイツ?」

「ん? ハムネキは今まで食べたパンの数とか数えてるんですか?」

「昨日殺した数だよ!」

 

 ハム子が何か言ってるが知らん。

 

「……これ、メシア教会の穏健派の人に知られたらマズいんじゃないかお? ガチギレして殺しに来ない?」

「むしろ大喜びで同じの作り始めるんじゃない? アイツら、過激派天使素材の回復薬とか逆に嬉しそうに使い倒してるし」

「そういやそうだった…………アイツラそういう連中だった」

 

 それはそれで、知られたらヤバそうだけど。メシア穏健派、あれらも穏健派とはいえメシア教会である事には変わりないのだし、簡単に気を許していい相手ではないのだ。そんな連中に無制限に金がなる木を与えるなんて、危険にも程がある。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 ────結論から行くと、この電脳異界式無限造幣システム、裏でこっそり運用される事になった。どう考えても圧倒的なマッカ収入は見逃せないので。情報が漏れた時の被害が洒落にならなさそうなので無論、信頼できる人間にしか教えられない機密事項だが。

 その結果として一番割を食ったのは、ショタオジだろう。つまりどういう事かというと。

 

「…………おかしい。ガイア連合設立以来の課題になっていたマッカ不足がある程度の解消を見たのに、僕の仕事が全然減らない。むしろ増えてる。おかしい。これは絶対におかしい」

 

 そりゃそうだ。マッカ不足が解消されたら、専用式神製造の仕事がさらに増えるわけだし。無論、式神以外の霊装やら高額消費アイテムやら、それ以外にも作るべきものは色々ある。今まではマッカ不足のせいで作れなかった色々が作れるようになったのだから、仕事が増えるのも残念ながら当然、略して残当だ。

 

 ……うん、ごめんね。

 

 

 




 既に存在する技術を組み合わせるとこういう事ができるよ、という話。

 本家様の所で天使召喚プログラムというネタを最初に見て思ったのは、これ多分「上手く使えばブラック労働や奴隷扱いしても良心が痛まない無限の労働力を供給できる」という事。
 過激派天使だけを狙って召喚する事ができるから、間違って真っ当な天使を地獄に落としてしまう可能性もないわけで。

 高位悪魔との交渉に生贄を要求されても、人間の代わりに天使で代用してオッケーなら幾らでも生贄を用意できるし、他にも色々と活用法はあるだろう、多分。

 まあ一番の問題は、どれもこれもロクな使い方じゃない、って事だけど。

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