TS銀髪美少女の異世界生活   作:赤石透

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第2話

 外で客を集め、店に招く。それを繰り返したが、立地の悪さのせいで客足は途絶えてしまう。単純に大通りから外れているだけならまだしも、細い路地を幾つも通った先の突き当たりにあるから非常にわかりづらい。外から見た店の趣も古めかしいし、たまたま立ち寄っても廃墟か何かだと思われてしまいそうだ。

 

「宣伝をしないといけないと思うのですが」

 

 店内に客がいなくなった時を見計らい、私は工房に引き返して店主に相談した。

 

『ほう……』

 

「そもそも、店の立地が悪いと思います。せめて看板の設置などを検討したほうがいいかと」

 

『それも前々から理解はしていた。何となく』

 

 はっきりと理解してほしかったが。まだ短い付き合いだけど、店主は少し抜けている人だということがわかった。作っている魔法具の品質は高いようだが、多くの人の目に触れなければ買い手がつかないのは当然だ。

 

「今までは食べていけていたのでしょうか?」

 

『ああ。少ないが、固定客はいるからな。だいぶ怪しげだが』

 

 この店主に怪しまれる人が今後来るかと思うと恐ろしい。接客するのは私なんだけど。

 

「とにかく、売上を伸ばすには店を移動するか、宣伝するか、どちらかだと思います」

 

『う、む。まあ、別の場所に店を移転させるのは考えていないかな。結構愛着湧いてきたし。曰く付きとかいう理由で、広いのに馬鹿安い点に惹かれて購入してしまったし、ここを今更手放すというのもなあ』

 

「曰く付き? それって、死んだ人の幽霊とかが出る、とか?」

 

『詳しくは聞いていないが、その可能性もあるかもしれない』

 

 使われていない部屋とか普通に掃除しようと思っていたけど、慎重に行わなくてはならないようだ。変なお札とかが貼ってあっても、剥がさないようにしよう。幽霊とか出てこられても困るからな。

 

 って、あれ? 死んだ人の幽霊って、今の私と大差なくない? 私も一回死んでいるわけだし。私は肉体を持っているけど、幽霊は肉体を失ったままさ迷っているだけで、器の有無以外に明確な違いは存在するのだろうか。

 

 何も問題ないか。普通に掃除しよう。

 

「とりあえず、店の場所を移すことは考えていないと、と。それじゃあ、宣伝ですね」

 

『そうだな。で、私もいろいろと考えてみたのだが、大々的な宣伝は不要かなと思ってね』

 

「え、宣伝しないんですか?」

 

 それではこれまでと何も変わらないと思うのだが。店主がそれでいいというのならば、別に水を差すようなことはこれ以上言わないが。屋われている身としては、店の中で退屈に待つよりも汗水垂らして働きたい。

 

 今の私は、住み込みで働かせてもらっている身だ。怠けるなどあってはならない。

 

『大々的に、と言っただろう? 宣伝はしてもらうよ』

 

 私の疑問に対し、店主は少し楽しげな声色で言った。

 

『君が我が店の看板娘となるのだ』

 

 黒い手袋に包まれた店主の右手が、私を指し示した。

 

「うわぁ」

 

 嫌な予感がする。露出度がそれなりに多いメイド服を着せられ、私は客引きと接客を既にさせられている。そんな私が寒気を覚えた。自分のことを勘がいいほうだと思ったことはないが、何となくこの予感は当たっているように思えた。

 

『宣伝のついでに、材料も集めてきてくれ。はい、これ』

 

 げんなりしつつもあまり表情の変わらない私に向けて、店主はそれを差し出した。

 

 丸められて紐で結ばれた羊皮紙と、身の丈ほどある木の杖、それと地図だった。

 

 地図には、この街のとある建物への案内が書かれていた。そこに店主の言葉が添えられていて、どうやらこの建物に入って受付に行き、この羊皮紙を渡してくれればよいとのことだった。

 

 それを受け取った私の前で、店主は親指を立てた。

 

『頑張ってきてくれ』

 

 告げられた一言は、あまりにも説明不足だった。

 

 

 

 建物の中に入って数歩、室内をキョロキョロと見渡していると、大勢に見られた。剣や弓などの武器、鎧や盾などの防具を当然の如く身に着けている人々から向けられる視線は、店にやってくる客とは明らかに違う色が含まれていた。

 

 半分が興味本位、半分が品定めするかのように。

 

 やっぱり、この建物って。

 

 何となく察しながらも、私は入口右手にある受付と思われる場所へと移動した。

 

「次の方、どうぞ」

 

 先に並んでいた少年、私と同世代くらいに見えるまだ幼い容貌の少年が受付から離れると、ガラス窓越しに呼び掛けられた。迷っていた私はその声に引っ張られるようにして足を前に踏み出し、受付の前に立った。

 

「あら、また若い子ね。さっきの子と同じくらい? 学生さんかしら?」

 

 受付担当は、おっとりとした雰囲気の女性だった。たぶん三十代くらいだと思われる。夫や子供がいてもおかしくなさそうな、人妻な色気を感じる。仕切りとなっているガラスの向こう側に見える人たちと同じく、黒と青を主体にした制服に身を包んでいる。

 

「いえ、学生ではないのですが。えっと、これを見ていただけますか?」

 

 私は受付嬢に、店主から預かっていた羊皮紙を渡した。

 

「はい」

 

 微笑みを絶やさぬまま、それを受け取り、丸められた羊皮紙を開いた受付嬢。

 

 書かれた内容に目を走らせた瞬間、その目が大きく見開かれた。

 

「こ、れはっ……!」

 

「え……?」

 

 おっとり系女性の突然の豹変に、私は戸惑った。

 

「少々お待ちくださいね?」

 

「え……」

 

 突然席を立って部屋の一番奥の席に座っていた人の下へ駆け寄り、何かを話している。

 

「いったい何が……」

 

 羊皮紙には何が書かれていたのか。確認していない私にはわからない。羊皮紙の封を解いていれば、書かれている内容を事前に確認することもできたが、大事なもののようだから、下手に弄らないようにしていた。

 

 見ておけば良かったと、今は思う。

 

 この世界の言語は地球とは全く違うのだが、私はそれを理解できている。知らない言葉を前にすると、まるで知っていたかのように読み取れる。きっと、私にこの体を与えてこの世界に送りこんでくれた者の仕業だ。生きる上で役に立つありがたい知識だ。

 

「まだか……」

 

 まだ話し込んでいるようで、時間が掛かりそうだ。

 

 暇だし、いろいろと確認しておこう。私は改めて、部屋の中を見回した。

 

 建物の中は広く、百人ほどは同時に収容できそうだ。中には右側に受付、左側に酒場のような趣の区画がある。料理を注文し、用意されたテーブルに座ってその場で食事ができるようだ。飲み物を手にし、地図を広げたテーブルを囲む一団の姿があった。

 

 彼らは他の者たちと同様に、武具や防具を装備している。

 

 私はゲームなどに詳しくなかったのだが、それでもここがどういう建物なのかわかった。

 

 これから何らかの狩りを行う集団の寄合所、建物に入る前に確認した看板には『冒険者ギルド』という意味の文字が書かれていた。ギルド、つまりは同じ職業の者たちで結成された組合ということだ。

 

 おそらくは、部屋の中央奥にある掲示板らしき大きな看板、そこでギルドが多方面から引き受けた依頼を冒険者たちが遂行するのだろう。今も多くの冒険者たちが集い、掲示板に張り出された複数の紙を前に頭を悩ませている。

 

 そんな場所に、一応武器には見える木の杖を持った私が訪れた。

 

 答えは自ずと出てきた。

 

「戦うの……? これで……? 私に冒険者とやらをやれと……?」

 

 杖を両手で持ち上げた私は、冷や汗を掻いた。

 

 珍しいと思われるが、私はゲームなどに本当に詳しくなかった。有名なロールプレイングゲームの名前などはさすがに知っていたが、それくらいだ。親のいない私は同じ境遇の大勢の子供たちが集められた養護施設の出身で、贅沢を言わずに日々を慎ましく生きてきた。独り立ちできるようになってからすぐに働き出て、それ以来ずっと仕事漬けの人生だった。

 

 金銭的に余裕ができても、若い頃にやってこなかったゲームを今更やろうという考えは生まれず、ゲームや漫画などのサブカルチャーに触れる機会は殆どなかった。そのせいで、ファンタジーな世界の知識は元の世界の子供以下だろう。

 

 怪物、冒険者、技、魔法。なんとなく思い浮かぶ単語を並べるので精いっぱい。

 

「店主、人選ミスだよ……。これなら普通に客引きしたほうがいいんじゃないの……?」

 

 メイド服で街中を練り歩き、店に連れていく。単純に人を集めるのならば、それでいいはずだ。だというのに、こんな回りくどいことをして。この宣伝ははたして、費用対効果が大きいのだろうか。

 

「すみません、大変、お待たせいたしました!」

 

 帰ろうかなと思って踵を返した私は、ちょうどよく戻ってきた受付嬢に呼び止められてしまった。

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