TS銀髪美少女の異世界生活   作:赤石透

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第3話

「頂いた紹介状を拝啓いたしました。ノア様、ですね。問題はありませんでしたので、冒険者登録をこれから行いたいと思います。まずは、こちらに手を(かざ)していただけますでしょうか?」

 

 受付嬢が差し出したのは、四角い土台の窪みに設置された水晶玉のような物体だった。向こう側が透けて見える。占いとかに使われそうなそれを前にして、今更帰るのも失礼かと思い、私は手を伸ばした。

 

 手を近づけると、水晶玉がぼんやりと光を放った。

 

「うわ……」

 

 直後、何かが体を這い回るような、少し不愉快な感覚を覚えた。

 

「はい、大丈夫です」

 

 受付嬢が言うのと、私が咄嗟に手を引いたのは同時だった。

 

「登録は無事に完了しました。これで、ノア様は正式に冒険者となられました」

 

 一瞬で済むとは随分と簡単だ。これでもう、私は冒険者として扱われるらしい。

 

「手を近づけたとき、変な感じがしたのですが。私は何をされたんですか?」

 

「この水晶に手を(かざ)すと、魔法による検査が行われます。簡単に言うと、冒険者ギルドに所属する者として適正な方かどうかの確認です。検査で問題がなければ、登録が自動的に完了されます。変な感じというのは、魔法によって体を隅々まで精査した影響ですね。体に害はないのでご安心ください」

 

「そうですか」

 

 検査が通って良かったという思いと、弾いてくれないかな、という思いがあった。

 

 とはいえ、弾かれたら弾かれたで面倒がありそうだ。冒険者ギルドに相応しくない人間というのがどのような者を指すのかはわからないが、ギルドにとってあまり好ましい相手ではないはずだろうから。

 

 なってしまった。冒険者に。これからどうなる。

 

「紹介状によりますと、登録後に依頼の受注を進めてほしいとのことでした。書かれていた依頼のうち、受領可能な依頼がございましたので、このまま手続きを進めてもよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

 何かもう、なるようになればいいと思った。店主は抜けている性格だが、悪い人ではない。私を陥れるようなことはしないはずだ。たぶん。私ではろくな判断もできないから、全てを委ねてしまおう。

 

「かしこまりました。では、(ロック)(タートル)の討伐でよろしいですか?」

 

「はい」

 

 私は何も考えずに、首を縦に振り続けた。

 

 受付嬢によって手続きは進められ、冒険者としての基本的な規則や心得などについて教わった。長かったが、特に難しいことではなかったため、問題はなかった。後は実際にその場面になってから考えて対応すればいいだろう。

 

「では、行ってらっしゃいませ」

 

 流されるままに、私は受付嬢の声に背を押されて冒険者ギルドの建物を後にした。

 

「まあ、何とかなるか」

 

 店主が選んだ依頼の中で、受付嬢が見繕ってくれたのは、岩亀という名前の魔物の討伐。冒険者として登録したばかりの人間が受けられるのだから、岩亀というのは相当弱い魔物なのだろう。

 

 ちなみに魔物とは、魔に傾倒し、人間を襲う害ある生物の略称のようだ。

 

 それを討伐するのは冒険者としての基本的な仕事。

 

 だが、問題がある。

 

「亀を殴って倒せるのか……?」

 

 店主に渡された杖はどう見てもただの木製で、鈍器としての威力もなさそうだ。それに、亀を殴って倒すという行為が私にできるか心配だ。撲殺とか血生臭すぎる。

 

「おい!」

 

「ん……?」

 

 声が聞こえ、私は足を動かしながら背後へ顔を向けた。

 

 そこには見知らぬ少年。いや、さっき私の前に受付嬢と話をしていた少年だと記憶はしているが、私の知人ではない。そもそも、この街に来て店主以外に知り合いと呼べる間柄の人間はいない。

 

 正面に顔を戻して、私は街の外を目指した。

 

 岩亀というのは、街の近くにある森の湖周辺にいるらしい。遅くなると日が傾いてしまうから、少し急ごうと足を速めたときだった。

 

「む、無視するなよ!」

 

 背後にいた少年が私の前に回り込み、両手を広げて進行を阻んだ。

 

「え、私ですか?」

 

 さすがに足を止め、私は理解する。この少年が呼んでいたのは私のようだ。

 

 しかし、何の用だろう。別に何か呼び止められるようなことはしていないのに。

 

「お前、冒険者になったばかりなんだろう?」

 

 いきなりお前呼ばわり。まあ、見たところ、私よりも少し年下のようだ。身長は私よりも少しだけ低い。短く切り揃えた赤色の髪と、深い青色の瞳。気の強そうな性格を表したかのような顔立ちで、少しやんちゃな子供という印象が強い。

 

 胸や膝、肘には部分的な鎧をつけている。全身鎧のような重装備ではなく、動きやすさ重視の身軽なスタイル。腰に巻いたベルトには短剣が収められているらしい鞘が備えつけてあって、ゲームの知識が少ない私でも、この少年が前衛向きの戦闘を行うのだということがわかった。

 

「そうですが。えっと、失礼ですが、お名前は?」

 

「俺はレンドだ。お前は?」

 

「ノア、と申します。で、レンドさんは私にいったい何の用でしょうか?」

 

「お前、今から冒険に行くんだろ? 俺が付いて行ってやる!」

 

 レンドは口元をニッと吊り上げ、言い放った。

 

 血気盛ん。自信過剰。猪突猛進。何となく、そんなイメージが連想される。

 

 何か、変な子に絡まれてしまった。見たところ、下心がありそうな感じではないが。

 

「レンドさんは、冒険者になってどのくらいになるのでしょうか?」

 

「今日なったばかり。お前と同じだ!」

 

 ああ、なるほど。同じに日に冒険者になった者同士でパーティーを組みたいとか、そんな感じだろうか。冒険者ギルドにいるのは殆どが年上の大人ばかりで、私やレンドのような子は少ないのだろう。

 

 ここで会ったのも何かの縁。そう思いたいが、どうしようか。

 

 ただでさえ、冒険という未知の体験をするのだ。冒険初心者の私が向かう安全そうな場所とはいえ、命の奪い合いに発展する以上は油断ならない。そこへ冒険者を名乗るほぼ一般人が向かえば、万が一という可能性も。

 

 レンドに何かがあっても、私の手では守り切れない。

 

「よろしく!」

 

 屈託のない笑顔。そして、私を通してどこか遠い目標を見据えているような、純粋な瞳。

 

 母性をくすぐられるとは、こんな感じだろうか。何となく庇護欲を感じてしまった。

 

「よろしくお願いいたします……」

 

 相手の勢いに負け、私はレンドが差し出してきた手を握った。

 

 

 

「とりゃ!」

 

 軽快な動きで、レンドが短剣を振る。目の前に飛びかかってきた透明な粘液状の生物は剣によって斬られ、草の生えた地面に飛び散った。体が分裂しても、なおも向かってくるこの生物は、ただの生物ではない。

 

 これが、魔物。

 

『スライムだ!』

 

 と、この魔物が現れたときにレンドが言っていた。この魔物の名前なのだろう。

 

 スライムというのは私でも覚えのある名前だ。有名なゲームの看板モンスター的な扱いだった気がする。あれには顔があったが、目の前にいるのはただの動く粘液といった違いがあるが、弱い魔物に違いないだろう。

 

 何度斬られても分裂し、襲い掛かってくるスライム。物理攻撃では倒せないのでは、と途中からハラハラとしていたが、分裂する数にも限界があったようだ。細切れになったスライムは地面で力なく沈黙すると、その体が黒い粒子に変わった。

 

 風で吹き飛ぶ塵のように、跡形もなく消え去った後に残されたのは、楕円形の宝石だった。

 

 黒く濁った宝石。触ってもいいものかと思っていると、レンドがそれを拾い上げた。

 

「あ」

 

 と言う間に、レンドが自身の胸元にそれを押し当て、体内に取り込んだ。

 

「え、大丈夫なんですか? それ」

 

「ん? それって?」

 

「今、体の中に入った宝石のことです」

 

 私の言葉に、ようやくレンドは得心がいったようだ。

 

「何が駄目なんだ? ただの魔石だろ?」

 

「魔石? ああ、それが……」

 

 その単語を聞いて、私は受付嬢に聞いた話を思い出した。

 

『戦闘で倒した魔物は魔石を落としますので、それはなるべく回収してくださいね? ギルドで換金できますので。換金しなくても、個人的に魔法具作成などに使用されるということであれば、持ち帰ってもらっても構いません』

 

 との話だった。

 

 なるほど、今の宝石が魔石か。少し不気味な雰囲気がしたが、体に害はないようだ。

 

「よし、もっと奥に行くか。入っていいって言われたんだろ?」

 

「はい、大丈夫だそうです」

 

「俺は止められた気がしたんだけど、なんでだ? まあ、いっか! 進撃だ!」

 

 私を置いて、一人先行するレンド。何というか、レンドと一緒に来てよかったと思った。子供とは思えないような華麗な動きで、襲い掛かる魔物を次々に倒している。今のところスライムや弱そうな昆虫型の魔物ばかりだけど、それでもすごい。

 

 子供に引っ張ってもらって、私は何もできていない。

 

 ちゃんとしないと。

 

 私は杖を構え、周囲を警戒しながらレンドの後を追いかけた。

 

 森の中心にある湖。そこへ私たちはたどり着き、そいつと出会った。

 

「で、でかい……。でも、初心者でも倒せるんだよな……?」

 

 レンドが少し声を震わせ、短剣を構える。

 

 短剣の先端が向けられた先には、人が何人も乗れるような大きな亀がいた。岩のようなゴツゴツとした甲羅と、私の知っている亀の顔を凶悪に歪めた顔。太い四つ足を動かして草木を踏みしめ、湖を前にした私たちにゆっくりと近づいてくる。

 

 岩を背負う亀は、牙の生えた大口を開け、赤い目に敵意を滲ませ、大きく咆哮した。

 

「ひ、ぃ!? や、やるぞ……!」

 

 私を守るような立ち位置で、レンドが強く言い放つ。

 

 その背中で杖を構えた私は、冷や汗を垂らした。

 

 え、岩亀って、これ……? 違うよね……? あれ……?

 

 まずいのでは? そう思ってレンドを連れて引き返す間もなく、岩亀は私たちに襲い掛かってきた。

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