静寂の日曜日   作:ふりーと

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白昼

「全然ダメだ!6F80秒切らないとイージーゴアとは勝負にならないぞ!」

 

プリークネスステークスとベルモントステークスは中2週しかない。その間に12ハロン走り切るための体力をつけようと言うのだ。レースの終わった次の日には移動、その次の日から厳しいトレーニングを行っている。レースの疲れと移動疲れでもうフラフラだ。

 

「次は並走だ!2バ身先着するよう死ぬ気で走れよ!」

 

並走相手は地元ニューヨークで2勝しているウマ娘だった。なんだかんだで地力はある上にこちらは遠征とレース疲れ、さらには斤量も60近く積んでいるため2バ身先着となると至難の業だ。

 

「2バ身つけれなかったら違う並走相手に勝てるまでやるからな」

 

頭差で負けた。次の相手は地元で3勝しているウマ娘だ。当然負けるが流石に頭差で踏ん張る。 

 

「次の相手はおまえの友達だ」

 

3本目にやってきたのはホークスターだった。

 

「サンデー、今日の並走は絶対負けないよ」

 

気合満タンだ。トレーナーを恨む。歯を食いしばりなんとか着いていく。残り1ハロン。ギアを上げたホークスターに着いていくことができず3バ身惨敗だ。

 

「いつもと全然違うじゃないか。どこか痛めたの?、」

 

「追い切り何十本もやった後に並走トレーニングだぞ。死んでないのが奇跡だわ」

 

そう言うと少しバツの悪そうな顔でホークスターは去ってしまった。

 

いつもは厳しいヘイローサブトレーナーですら今回のトレーニングでは憐れみの言葉をかけてくれる。これがイージーゴアに勝つために必要なのだと言われればそうなのだろう。初のクラシックディスタンス。はっきり言って今の俺では体力不足だ。勝つためとはいえトレーニングがあと2週間続くと思うと逃げ出したくなった。宿舎に帰ろうとすると記者がいた。激しい質問攻めにあい碌に眠れなかった。次の日起きると宿舎からトレーニング場まで目張りが立てられていた。

 

地獄のようなトレーニングに専念できるようになったある日久しぶりにイージーゴアと会った。大レースの前は互いにエキサイトしやすいため特に人気のウマ娘同士は会わないように調整してある。しかし何かの手違いか時間があってしまったようだ。

 

「久しぶりだなイージーゴア」

 

「ああ」

 

「今から6Fを70秒台で走るトレーニングをするんだ。本番前だし並走はやらないよ」

 

「……」

 

「着いてきたいなら勝手にきなよ」

 

助走を終えて計測に入ったところで後ろからの緊張感に気づく。イージーゴアは本番のように走ってきているのだろうか。俺も本気で走っているがピッタリ着いてきているのが分かる。しかし3Fを超えたところで叫び声が聞こえた。

 

「おい!イージーゴア!何をしてるんだ!」

 

マクゴーヒートレーナーが怒って出てきた、イージーゴアは特に何かを言うことなく走るのをやめトレーナーに着いていった。

 

イージーゴアはその日トレーニング場に姿を現さなかった。風の便りでこの並走でかなり興奮してしまいトレーニングどころではなくなってしまったと聞いた。こんなにも勝利への執着心が高いやつだったかな、やはり2回クラシックを逃しているのが応えているというのが分かった。並走している顔は苦しそうだった。私が夢でよく見る顔だった。そういえば頑張って話しかけたのに一度も返してくれなかったなぁ。、

 


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