「1973年、二代目BIG REDセクレタリアトはベルモントステークスを2:24.0という異次元のタイムを叩き出しました。その大記録に今年三代目BIG REDイージーゴアが挑みます。そして1875年にクラシック三冠全てのレースが設立されて100年余り、僅か10頭のみが達成した大記録。アファームド以来11年ぶりの三冠に挑むのは小さな青鹿毛のウマ娘、サンデーサイレンスです。この二頭がいよいよベルモントパークで激突します」
仕切りから一歩出ると多くの記者に囲まれた。罵声とフラッシュに驚き隣にいたトレーナーの頭を蹴り飛ばしそうになった。ヘイローサブトレーナーが咄嗟にトレーナーを押したお陰で直撃は免れた。「私の頭は硬いから直撃したら足が折れていたかもな」とその場を収めたが異様な雰囲気は拭えない。トレーナーが俺が三冠を絶対取れるということをメディアに言っているのも異様な雰囲気の一因となっているのだろうか。
三度First callが鳴り響けばいよいよ三冠競争最後のレース、ベルモントステークスが始まる。観客席からは自分に対する敵意を向けている者が多いことが肌で感じ取れる。このつん裂くような緊張感はケンタッキーダービーのものと似ているがそれの纏っている高貴な雰囲気はなく、そう負けた時の感情、それに似たものが感じ取れる。初めての感覚だった。イージーゴアに向けられる感情と全く違うことはわかった。しかしイージーゴアはその声援を無視するかのように下を向き神経を昂らせていた。
「13万人の皆さま、ニューヨーク競馬会主催 ベルモントステークスにお越しいただきありがとうございます。本馬場入場です、それでは皆さん合唱ください。New York!New York!」
「「"Start spreadin’ the news!"
"I’m leavin’ today!"
"I want to be a part of it!"
"New York, New York!"
"If I can make it there,!"
"I’ll make it anywhere!"
"It’s up to you,!"
"New York..New York!"
"New York…New York"!
"I want to wake up,!'
"in a city that never sleeps"!
"And find I’m A number one,"!
"top of the list"!
"King of the hill,"!
"A number one…."!
"It’s up to you, New York..!"
"New York New York!!!"」」
「ダービーの雪辱違うはアイリッシュアクター1番7番人気。実力派のウマ娘が三冠競争最後に堂々参戦、インバイブ2番3番人気です。3番トリプルバックは5番人気です。4番ホークスターはここまで三冠全て掲示板内、勝って雪辱を晴らしたい8番人気。5番ロックポイントもクラシック初挑戦。勝って実力をニューヨーカに見せつける4番人気。そして、11年ぶりの三冠を目指すはニ冠ウマ娘6番サンデーサイレンス堂々1番人気。さあそして我らのスターを紹介しましょう!7番!もう負けられないBIG RED!イージーゴアです」
紹介と同時に大歓声が上がった。完全アウェイ状態だ。
「8番ルヴォワジュールフランス生まれは6番人気。9番イージーゴアの同僚、ダービーで強さを見せたオウインスパイアリングはイージーゴアとのカップリングで2番人気。最後に10番炎を起こせファイアーメーカー9番人気です。
イージーゴアとサンデーサイレンスの状態はどうですか?」
「どちらも状態は良さそうですね。トモのはりも良く筋肉もしっかりついていますね」
「さあ各ウマ娘ゲートに入っていきます」
集中しろ、俺が三冠ウマ娘、サンデーサイレンスだ。
「各ウマ娘ゲートに収まりました」
「スタート!サンデーサイレンスが抜け出しを図ります」
スタートはそこそこだ。あとはいつも通り先団に付けていく、
「アイリッシュアクターも内から行っています。この二頭で先頭争いか。さらに後ろからトリプルバック、外からルヴォワジュールフランス生まれ。ルヴォワジュール、リードを確保。サンデーサイレンスが外、ファイアーメーカーが内、ロックポイントにトリプルバック。各ウマ娘1コーナーへ、先頭リード1バ身、トリプルバック内から2番手。外からクビ差でロックポイント、サンデーサイレンス、大外からイージーゴアとファイアーメーカー、その後ろにホークスターとオウインスパイアリング、さらにインバイブ。アイリッシュアクターは10番手に後退」
ハイペースの展開だ、仕掛けどころが難しい、体力も心配になってくる
「最初の2ハロンはかなり速い!23秒2。各ウマ娘2コーナーをまわります。依然ルヴォワジュールが先頭、リード1バ身半、ケンタッキーダービー、プリークネスの二冠ウマ娘サンデーサイレンス2番手、後続に1バ身差。ロックポイント3番手、クビ差外目からはイージーゴア、内ラチ沿いにはトリプルバック、およそ2バ身離れてファイアーメーカー、さらにホークスター3バ身差、そしてオウインスパイアリングで向正面へ、アイリッシュアクターは依然しんがり10番手、4ハロンは47秒フラット、ペースも多少緩んだか、ルヴォワジュールの逃げは変わらず2バ身半差」
イージーゴアの不気味で大きい足音がハッキリ聞こえた。後ろからの緊張感とかではない。この大歓声を割って耳に入ってきたのである。仕掛けてきたというのが嫌でも分かった。
「サンデーサイレンス2番手キープ。イージーゴアここで動き出した!イージーゴア外を回って半バ身差、さらにロックポイント、トリプルバック、ファイアーメーカー」
さあいよいよ並んできたな。競り勝ってやる。
「ここまで6ハロンを1分11秒2、ルヴォワジュール相変わらず先頭、楽なペースか11秒2、3コーナーにかかる、まだルヴォワジュールが先頭、1バ身差サンデーサイレンスが2番手、1馬身差イージーゴアが3番手」
さあイージーゴア、ついて来られるかな?
「サンデーサイレンスがさあ追いついた、ルヴォワジュールまで半バ身そこそこ、サンデーサイレンス並びかける。ルヴォワジュールとバ体を合わせた、この2人から1バ身差でイージーゴア。イージーゴア、ここで仕掛けた!3、4コーナー中間!サンデーサイレンスクビ差で先頭に変わる。ルヴォワジュール内で粘る」
外から栗毛のウマ娘が猛スピードで駆け抜けていった。
「外からイージーゴア!イージーゴア外から先頭に!サンデーサイレンス2番手に!さあ最後の直線に!」
この時間はどんな敗北よりも惨めだった。先頭をゆく栗毛の友人が段々と遠くなっていった。どんなに追っても追いつけなかった。
「三冠を取るんだ!もっと速く走ってくれよ!」
叫びも虚しく終わった。
「地元ニューヨークのイージーゴア優勝!」