静寂の日曜日   作:ふりーと

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宵闇

Greatest once every 10 years(10年に一度の大一番)

 

First callが鳴り響けばアメリカ競馬最大の祭典、ブリーダーズカップディのメインレース、ブリーダーズカップクラシックが始まる。三冠競争とは明らかに違う雰囲気、お祭り騒ぎである。三冠競争での厳かな雰囲気が一転、少し拍子抜けしてしまう。

 

「ブリーダーズカップメインレース。いよいよ本馬場入場です」

 

今まで歌を聴きながら入場してきたが今回は違う。観客の騒めきのみが響く中での入場である。誰もが手を振りながら入場し観客はそれに応えるよう歓声をあげる、その中でイージーゴアはベルモントステークスの様な顔つきで入場して行った。

 

「勝つのはイージーゴアかサンデーサイレンスか?それとも他の伏兵か?いよいよ始まりますブリーダーズカップクラシック。1番はここまでG1を4連勝のイージーゴア。ここで勝ってエクリプス賞を、ダービー雪辱を晴らしたい1番人気です。ここで勝って勝利のプレゼントを届けたい2番プレゼントバリュー5番人気。3度目の挑戦、悲願のBCクラシック制覇に向けクリプトクリアランスは3番4番人気。勝利の女神が選ぶのは私、4番ミーセレクトは7番人気。同世代の2頭を倒すのは俺だ、別路線からの刺客ウェスタンプレイボーイは5番で3番人気となっています。ガルフストリームは得意の地、6番スルーシティースルー8番人気。今季G13勝実力派ウマ娘、7番ブラッシングジョンは6番人気。そして8番に今季の2冠馬サンデーサイレンス。イージーゴアを倒してエクリプス賞を、そしてベルモントの雪辱を晴らしたい2番人気です。

注目のイージーゴアとサンデーサイレンスの状態はどうですか?」

 

「サンデーサイレンスは歩き方、見た目の雰囲気からも絶好の仕上がりですね。一方のイージーゴアは少し疲れがみえますね。本馬場入場の時も少し気分が乗っていないように見えます」

 

「イージーゴア少し調子が悪いようです。これはピンチか。そのイージーゴアがゲートに入ります。各馬がゲートに入っていきます。さあ最後に8番、注目のサンデーサイレンスがゲートに収まりました」

 

ゲートの中、一瞬静寂が支配する。

 

「スタートしました。うちイージーゴアは内からゆっくりスタート。スルーシティースルー、ブラッシングジョンとプレゼントヴァリューの順で最初のグランドスタンド前を通過」

 

内にいるイージーゴアがズルズル下がっていくのが見えた。一目でわかる。完全に調子が狂っている。

 

「スルーシティースルーがまず先手をとって2馬身のリード。ブラッシングジョンが外側2番手、内3番手にプレゼントヴァリュー。サンデーサイレンスは4番手に控え、先頭からは6バ身」

 

イージーゴアのあの独特の威圧感が今日は全く感じられない。それが逆に不気味だった。

 

「ミセレクト7番手、さらに4バ身離してイージーゴア、先頭からは10バ身離れています。スルーシティースルーが最初のコーナーを回った。しんがりはクリプトクリアランスとウエスタンプレイボーイです。スルーシティースルーが1/4マイルを22秒4で通過。1と1/4マイルとしては早いペースです」

 

このペースならイージーゴアは脚を溜めるのは難しくなる。完全に離されているのが感じられる。ならばここでトドメを刺そう。

 

「ブラッシングジョンが2番手でバックストレッチを追走。ここでサンデーサイレンスが外側から3番手に上がった」

 

先頭を急かし、ペースを速めれば体力を消耗しているイージーゴアは沈むしかなくなる。追わなければ?最後の直線だけで追いつけなくなる。

 

「その内側にはプレゼントヴァリュー。そしてミセレクトの順に続いています。イージーゴアはまだウマ娘なりで先頭から9バ身、サンデーサイレンスからは5バ身の位置、今動き出した」

 

いつものごとく足音が聞こえてくる。作戦は成功。いつまで体力が持つか楽しみだ。

 

「半マイルを46秒2で通過。スルーシティースルーのリードが縮まった。ブラッシングジョンは終始2番手を追走」

 

俺は目を疑った。横にイージーゴアがいる。もう一段ギアを上げなければ。

 

「サンデーサイレンスが3番手に上がる。来た!イージーゴアが上がってきた!あと3ハロン!ブリーダーズクラシックで、プリークネスの直線舞台の勝負が蘇ったか!ここでブラッシングジョンが先頭に立った」

 

もう一段加速すればもう先頭まであと少しだ。イージーゴアはついてこれていない。

 

「サンデーサイレンスが外側から上がってきた!イージーゴアとは2バ身半差。直線向かってサンデーサイレンスが先頭を伺う勢い。イージーゴアはまだ来ない!残り1ハロン。サンデーサイレンスが先頭に立った」

 

いよいよレースも大詰め。もうイージーゴアは追いつけないだろうが他のウマ娘に抜かれないようにスピードを維持する。

 

「ブラッシングジョンが内側で懸命に盛り返しを図る」

 

内を振り切った瞬間後ろから今まで感じなかった緊張感、蹄鉄とダートが衝突する音ははっきりと聞こえる。

 

「お前にだけは負けない!」

 

「イージーゴアが追い込んできた!」

 

「もう遅い!」

 

俺はもう一段ギアを上げた。ベルモントパークを走り切るためのトレーニングでスタミナがついた。ここでもう一段入れられるのがその成果だ!

 

サンデーサイレンスがリードしたままゴールイン!

イージーゴア僅かに及びませんでした!サンデーサイレンスさすがに大物です!」

 

俺の1年間の長い栄光の旅が終わった瞬間だった。この日俺はアメリカで最も強いウマ娘となった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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