静寂の日曜日   作:ふりーと

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礼拝の日
夜明け前


俺には思い出したくない、そして、今も夢に出てくる思い出がある。あれは小学校1年の頃だったはずだ。乗っていたスクールバスがいきなり横転、私以外全員死んだ。さっきまで話していた隣に座っていた友人も、後ろで耳を引っ張ってきた友人も、明日並走の約束をしていた友人も死んだ。いつもバスを運転していたおじさんも死んだ。それから俺は友人を作るのが怖くなった。ヒトはいとも簡単に死ぬ、と子供ながらに思ったのだろうか、友人を作る気も無くなった。親に敬意が湧かなくなった。ヒトはどこまで行っても孤独なものだ、そう考えるようになった。

 

なぜ今それを思い出したのだろうか。明日はケンタッキーダービーを占う重要な一戦、サンタアニタダービーだ。明日は始めてのG1レースだと言うのに、こんな事を思うようではまだまだだと思いながら寝床に入る。今日は昔の友人たちと会いませんようにと願いながら目を閉じた。

 

 

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目が覚める。最近はいい目覚めの日が多かったが今日は一段と目覚めがいい。コンディションは最高だ。

 

「さあ始まりますサンタアニタダービー。1番人気は前走の6バ身差圧勝のヒューストン。2番人気は連勝中のサンデーサイレンス。3番人気はミュージックメルシー。未だに掲示板外はありません。どの娘の状態が良いですか」

 

「サンデーサイレンスはよく仕上がっていると思いますね。2番人気なのが嘘みたいですね。あとはホークスターも歩様がよくていい仕上がりですね。力関係的に最有力はサンデーサイレンスではないでしょうか」

 

「各ウマ娘がゲートに収まっていきます。勝つのは単勝支持率1.9倍ヒューストンかサンデーサイレンスか。さあ各ウマ娘ゲートに収まって」

 

ゲートに入った瞬間確信した。今日は貰った。

 

「スタートしました!」

 

少し出遅れた。しかし想定の範囲内だ。先団につけるべく軽く加速する。

 

「ヒューストンがハナをとってクラブハウスコーナーを回っていきます。先頭はヒューストン、2番手ミュージックメルシー、サンデーサイレンスは狙い通りか3番手につける、後は2馬身切れて人気薄マスターボルグ、外からホークスター上がって4番手に上がる、マスターボルグ5番手後退、殿はフライングコンチネンタルで半マイルを45.6秒バックストレッチを駆け抜けます、先頭ヒューストン内からミュージックメルシー競りかける!」

 

今だ!

 

「3コーナー中間で外からサンデーサイレンスついに来た!他のウマ娘を制圧する!先頭躍り出た!ヒューストン後退3番手!

 

これで終わりだ!

 

ウィッティンガムトレーナーのサンダーサイレンス勝ったも同然!ミュージックメルシー2番手!ヒューストンこれはもう伸びない!ずるずる下がっていく!フライングコンチネンタル3番手にあがる!最後の直線サンデーサイレンスちぎるちぎる!まさに弾むように、西海岸遠征最後のゴールへ!サンデーサイレンスぶっちぎり!11バ身差圧勝ゴールイン!サンタアニタダービーを制しました!ケンタッキーに向けて視界良し!」

 

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「勝ちました。サンデーサイレンス選手とウィッティンガムトレーナーです。サンデーサイレンスさん。今の気持ちをお聞かせください」

 

「まあそれなりで」

 

「そ、そうですか。次はケンタッキーダービーに出るそうですね。そこではイージーゴア選手も出るそうですが何か対策などは練ってるんですか?」

 

「戦術のことは分からないのでトレーナーに聞いてください。私はこれで、さようなら」

 

「あ、ちょっと!トレーナーさんとしては何か考えなどは」

 

「1着を取れるように稽古を付けていきたいですね」

 

「今日のイージーゴア選手も圧倒的なレースを見せていましたね。やはり意識はしますか。」

 

「イージーゴアさんもいい娘だと思いますよ」

「イージーゴア選手はセクレタリアトの再来とも言われています。名トレーナーであるウィッティンガムさんは名馬の雰囲気を感じますか」

 

「さあ?私はサンデーサイレンスのトレーナーであってイージーゴアのトレーナーではないので。サンデーサイレンスについての質問がない様なのでこれで終わりでいいですか?さようなら」

 

「あ、ありがとうございました。サンタアニタダービーに勝利しましたサンデーサイレンス選手とウィッティンガムトレーナーでした」

 

「それと一つ。痩せこけた十代の若者が大きくて逞しいスポーツ選手になることがあるように、少し成熟が遅れる娘もいますよ。それでは皆さんケンタッキーで」

 

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「お!サンデーまだ控え室にいたのか。もうタクシーで帰ったのかと思ったぞ。しかしさっさと戻ったお前は賢いな、あの後イージーゴア、イージーゴアってそんな質問ばっかりだったよ。このレースに勝ったのはお前なのにな」

 

「つまらん奴ばっかだな。せっかく今年の三冠バが会見してやってるのに俺にまでイージーゴアの話しを振ってくるとは…。思わず怒って帰ってしまった。次のケンタッキーダービーの後奴らどんな顔をするのか楽しみだ」

 

「掌を返して賞賛し出すかもな。さぁケンタッキーダービーに向けて明日から稽古も再開だ!」

 

「えぇ!勝ったんだし明日はサボりでいいじゃないか!」

 

「ダメだ!そんなんだと栗毛の奴に負けるぞ!」

 

「なんだと!1日くらいサボってもあん奴に勝ってやる!」

 

「そんなこと言って3走前…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「あれがサンデーサイレンスか。やはり素晴らしいウマ娘だな。もしもし、あぁURA理事長に繋いでくれ。『こんな朝にどうした。善照』ケンタッキーダービー見に来ませんか?『いきなりどうした。しかも後1ヶ月しかないしスケジュールも合わせられないぞ』そこを何とか。実は以前から目をつけてたウマ娘がいたじゃないですか。『いつも言ってるサンデーサイレンスか?』そうです。電話が終わったらレース動画を見てください。そしたら理事も来ることになりますので。それでは。

絶対に日本に連れて行く。あいつは最高の指導者になるぞ!」




出てきた競走馬
1 サンデーサイレンス 14戦9勝 主な勝鞍 米国2冠 BCクラシック
2 フライングコンチネンタル 51戦12勝
3 ミュージックメルシー 35戦12勝
4 ホークスター 23戦6勝 12F World Record 2:22.8 (1989.10〜11)
5 ヒューストン 11戦5勝
6 ミスターボルグ 19戦5勝

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