静寂の日曜日   作:ふりーと

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サンデーサイレンスの帰還


黎明

日本でのトレーナー生活は順風と言ったら少し嘘になるだろう。トレーナーデビュー2年目、ジュニアとクラシックしかメンバーのいないチームでベストトレーナー賞を獲った。それから私が引退する2007まで一度も落とす事がなかった。教え子には三冠馬もトリプルティアラもいる。アイドルウマ娘もいる。日本のトレーナーとして獲れる栄誉はすべて獲った。自分が引退する時にはニュースになった程だった。私のトレーナー人生は自分で言うのもなんだが栄光に満ちていた。今では娘と夫3人で暮らしている。娘はウマ娘、シニア級2年目になった。スーパースターほどでは無いが重賞を何勝かしている優秀な子だ。このままトレーナーとして細々とやっていくのだろうと思っていたとき。驚く事を言われた。

 

「ラヴズちゃんにね。ブリーダーズカップに出ないかって言われたの。お母さんの母国だし一緒に行こうよ!」

 


 

Marche Lorraine(マルシュロレーヌが)
 

trying to go for A GIANT UPSET!(大番狂わせを狙っている)

 


 

何十年かぶりに帰ったアメリカは昔と大きく変わっていたが競馬場の雰囲気は何年たっても変わらないままだった。デルマーには行ったことがないから本当にそうかは分からないが。

 

「サンデーじゃないか久しぶり。私のことなんて覚えてないよね」

 

「忘れ分けないじゃないホークスター。大体日本で一緒にトレーナーやってたでしょ。」

 

 

「今日は合わせたい人がいるの、こっちに来て!」

 

連れられてきたのはスタンド上部、いかにもといった所だ。私が座る予定の席の隣に車椅子の女性がいた。

 

「久しぶりだねサンデーサイレンス。私のこと覚えてる?」

 

「え?だれ?ごめん分かんない」

 

 

「はは。病気でだいぶやつれたから解んないよね。久しぶりイージーゴアです」

 

「え?だいぶやつれたね。学生の時は筋骨隆々だったのに」

 

「がんでだいぶやられたよ。今日は君の娘が出るんでしょ。応援してるね」

 

と言って握られたチケットにはレトルースカの文字が書かれていた。

 


 

「さっきラヴズちゃんが勝ったんだ。自分も頑張らないと。」

 

 

「ゲードが開いて、ロンジン、ブリーダーズカップディスタフが始まります!レトルースカ、プライベートミッションが先頭に並びかける。最初の2ハロンはホットペース21秒8、2コーナーを抜けてプライベートミッションが逃げて行く。4ハロンは45秒!プライベートミッション狂ったようなペースだ!」

 

脚があがる、息が切れそうになる、それをなんとか耐えながら走る。

 

「3コーナーに差し掛かって注目のレトルースカは2番手外目、マルシュロレーヌとロイヤルフラッグが並んで上がってくる!レトルースカは下がっていく!今日はレトルースカの日ではなかった!さあ直線!」

 

視界がちらつく。しかしそれは誰もが同じだ。ここから先は根性勝負、お母さんみたいに根性で走り切る!

 

「マルシュロレーヌ、ロイヤルフラッグ、クリエレールが外!

マルシュロレーヌが大番狂わせを狙っている!

ぽっかりあいた内からダンバーロード、2頭の並んでゴールイン!さあどっちだ!」

 

息を呑みながら誰もが掲示板を見つめる

 

「マルシュロレーヌに決まりだ!」

 

35年ぶりにアメリカに、ブリーダーズカップにサンデーサイレンスが帰ってきた瞬間だった。

 

 




サンデーサイレンス、その血は日本競馬に永遠に残り続けるだろう。
サンデーサイレンス、永遠に続く偉大な旅は未だ始まったばかりである。
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