俺の脚は外側に曲がってる。そのため幼少期親族からは心無い言葉をかけられたことがある。こんな脚では走ることができない。奇形だ。そして"あのろくでなしにバラのレイが似合うのは、墓に入った後だけさ"。俺はその似合うことのないバラのレイを奪りに来た。アメリカで最も歴史と栄誉のあるこのケンタッキーダービーに勝ちにきた。
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喧しいFirst callが鳴り終わればいよいよアメリカで最も栄誉のあるレース。ケンタッキーダービーが始まる。白いスーツを見に纏った男性、大きなドレスハットを被り華やかな衣装を着る女性。さまざまに彩られたチャーチルダウンズ競バ場はしかし、ある種の緊張感を漂わせており普段とは異なる雰囲気に包まれる。大雨に見舞われている今日であっても多くの人が来ているのはケンタッキーダービーの魔力かイージーゴアの魔力か。係員の呼ぶ声が聞こえる。いよいよ本馬場入場だ。
「それでは各ウマ娘本バ場入場です!今年は15頭で争われます!」
「チャーチルダウンズ競馬場にお越しのすべての皆様、本日は1万人もの方にお越しいただきありがとございます!それではルイビル大学の演奏です。皆様もご唱和下さい。My Old Kentucky Home」
私は小さい頃からこの辛気臭いこの歌が嫌いだった。気分が滅入る様な暗い曲は嫌だ。
The sun shines bright in the old Kentucky home,
Tis summer, the people are gay,
The corn-top’s ripe and the meadow’s in the bloom;
While the birds make music all the day,
The young folks roll on the little cabin floor,
All merry, all happy, and bright,
By’n by hard times comes a-knocking at the door,
Then my old Kentucky home, Good-night!
Weep no more, my lady.
Oh! Weep no more today!
We will sing one song for my old Kentucky home,
For the old Kentucky home, far away.
「雨が降りしきる中入場してきます各ウマ娘の紹介です。1番クレバートレバー8番人気です。2番は前走3着のフライングコンチネンタル。12番人気です。3番ウェスタンプレイボーイは4番人気です。先団中出しが信条の4番ホークスターは10番人気、シャイトムは5番3番人気です。今日も逃げで魅せるかヒューストンは6番3番人気、7番ダンシルは5番人気です。8番フォートレストエンサインは11番人気、9番トリプルブラック9番人気です。
そして前走11バ身差圧勝劇、対イージーゴアの急先鋒は10番サンデーサイレンス2番人気です、
11番アイリッシュアクターは6番人気、12番オウインスパイアリングは同率3番人気。
そしてセクレタリアト以来のビッグレット、3冠最有力ウマ娘、13番イージーゴアは単勝支持率1倍台の1番人気です!
14番ワイドスプリッターと15番ノーザンウルフが同率7番人気です。どの娘の状態が良さそうですか?」
「やはりイージーゴアですね。今日の勝利は彼女を置いて他にいないでしょう」
「なるほどやはりイージーゴアですか。ちょっと他の娘だと厳しいですかね」
「そうですね2走前ではセクレタリアトの記録も抜いているので力は抜群ですね。他だとかなり落ちてサンデーサイレンス、人気薄ならホークスターといったあたりですかね」
「ありがとうございます。やはりイージーゴア一強の大勢は変わりがない様です。さあいよいよ各ウマ娘ゲートに入ります」
ゲートに入るとフッと歓声が収まった。屋根を打つ雨の音が聞こえる。初めての体験で少し戸惑いそうになる、観客席の微かな緊張感がゲートに流れ込んでくる。なるほどこれがダービーか。
「そしてイージーゴアもゲートに入ります」
「さあこれぞ競馬だというレース。ダービーがいよいよスタートします」
微かな緊張感が徐々に膨らんでくる。
ジリリリリリリリリリリ
「各ウマ娘一斉にスタートしました!」
「邪魔だ!うせろ!」
「サンデーサイレンスがトリプルブラックにぶつかりました!ヒューストンはハナを取りに行きます。外からダンシル内からクレバートレバー3番手、ノーザンウルフ上がってきたがまた接触か、イージゴアは絶好の位置外側5番手。最初の正面スタンドヒューストンがやや外を通って先頭で駆け抜けます。内からクレバートレバー、ノーザンウルフ3番手、
俺の真後ろにイージゴアがピッタリついてきているのが分かる。この緊張感はさっきまでのとは違う。彼女の放つ強烈なプレッシャーだ。
内ラチサンデーサイレンス4番手ちらりと後ろを見る、後ろには大本命イージーゴアが続いている。6番手ダンシル、フライングコンチネンタルは7番手ウインドスプリッター8番手アイリッシュアクター9番手、トリプルバック外10番手オウインスパイアリング11番手シャイム12番手ウェスタンプレイボーイ13番手、フォールトレストエンサイン14番手ホークスター15番手先頭からしんがりまでおよそ18バ身と縦長の展開です。最初の3ハロンはヒューストン先頭で46秒6で通過。ノーザンウルフは少し上がってきている3番手、2バ身離れてサンデーサイレンス、
さあいよいよ仕掛けどころだ、
ダンシル上がって15番手、大本命イージゴアはここ、外6番手につけています。同じクラスのオウインスパイアリングがすぐ後ろにつけてその後ろにトリプルバックとフライングコンチネンタル。まだ先頭はヒューストン外からサンデーサイレンス伸びてきて3番手にあがる!」
「「バン!」」
重馬場ではあり得ない音がチャーチルダウンズに響き渡る
「イージゴアとオウインスパイアリングも一気に来た!サンデーサイレンス先頭に立つ!ヒューストン後退!内からイージゴアも上がってきた!」
異常な音を鳴り響かせる足音が近づいてくるのは嫌でもわかる。振り返りたい衝動に駆られる、しかし振り返った瞬間捉えられるのは分かっている。緊張と泥馬場で真っ直ぐ走れない。
「バ馬の真ん中を通って先頭はサンデーサイレンスだ!ケンタッキーダービー2バ身差で勝ったのはサンデーサイレンス!イージゴアは2着!」
観客のブーイングが聞こえる。しかし今の自分にはそれに構っている余裕は無い。
「これがセクレタリアトの再来…」