静寂の日曜日   作:ふりーと

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朝間

「スタートしました」

 

サンデーには強いウマ娘の放つオーラというのをあまり出すことがない。スタートを失敗すればマークする事は困難となってしまう。

 

「まずはカラバライジングがリード。ヒューストン、ダンジル、サンデーサイレンスも来た」

 

ここでサンデーを見つけ少し後ろに付く。

 

「サンデーサイレンス4番手イージーゴア5番手。前頭ヒューストンからホークスターまでおよそ15バ身の感覚。ペースはまずまずの速さ。ヒューストンが3バ身差のリード。ケンタッキーダービーウマ娘サンデーサイレンス2番手に上がる」

 

外から捲ろう、並んだ一瞬、つん裂くような緊張感が走る。

 

「本命のイージーゴアが先頭に立つ。サンデーサイレンスは差のない3番手。ダンジル、ノーザンウルフが続く」

 

後ろから嫌な緊張感を出して来るのはサンデーサイレンスだと分かる。彼女は放つプレッシャーを制御できるのか、接地する瞬間強烈なプレッシャーに襲われる。しかし滞空中のプレッシャーはそこまでではないように感じる。

 

「第3コーナーに差し掛かった。ダンジル先頭に立つが外からサンデーサイレンスが来た!」

 

外からくるサンデーに釣られて自分もスパートをかけ始めてしまった。

 

「直線に入って外サンデーサイレンス!内イージーゴア!横一線で譲らない!!内イージーゴア僅かにリード」

 

すぐ隣のサンデーサイレンスが放つプレッシャーは一歩ごとに増大する。脚が重く感じる。今サンデーを見たら負ける。頭では分かっていた。しかし見てしまった。彼女の横顔は鬼の如く。恐ろしかった。サンデーの声が聞こえた。

 

「残念だがお前の負けだ」

 

ふっと緊張感が無くなった。レース中に彼女が言ったとは考えられない。しかし確かにそれは聞こえた。

 

「内イージーゴア!外サンデーサイレンス!そのまま並んでゴールイン!!際どい写真反対だ!!サンデーサイレンス勝ったというように右手を上げた!1分53秒8!なんとも劇的なフィニッシュ!」

 

結果を見なくても分かった。負けた。

 

大歓声を小さな身体一杯に受ける親友を見たくなかった。良いレースにできなかった。あのときなぜサンデーを見たのか。あの時のサンデーに圧倒され私は負けてしまった。プレッシャーに耐えられなかった自分が情けなかった。

 

気づけば自分の控え室にいた。そしてトレーナーがいた。

 

「イージーゴア。すまない。私の指導ミスだ。フィップス家の御当主と話し合って担当を降りることにするよ」

 

「トレーナー。本当にそう思ってるの?ならばフィップス家の叔父様の所へ行きましょう」

 

私は本当は今日だけは行きたくなかった。しかし、トレーナーが勝手に責任を被ろうとしている姿勢が気に食わなかった。それに叔父様ならトレーナーの指導力不足などあり得ないということを知っているはずだ。

 

「ダービーもプリークネスステークスも私の指導力不足、経験不足で負けてしまいました。申し訳ございません」

 

「マクゴーヒートレーナー。落ち着きたまえ。負けた後というのは判断を鈍らせる。コーヒーでも飲んだらどうかね」

 

「は、はい。いただきます」

 

「それで、君はどうした。イージゴアの担当を降りると言い出して。セクレタリアトの再来かと思ったらサンデーサイレンスにさっぱりで嫌になったのかね?」

 

「違います。セクレタリアトに匹敵する才能を持っている彼女がここまでサンデーサイレンスに負け続けています。これは私の指導ミスです。今回は脚の状態が悪いままレースに参加せざるを得ませんでした」

 

「しかしだね。中一週のレース。万全の状態に戻すのは難しい。特に不良バ場のダービーからだ。それに君は指導力不足というが君より指導力が高い人は私から言わせてもらうとアメリカにはいない。並ぶとしてサンデーサイレンスのトレーナーのウィッティンガムだ」

 

「お褒めに預かり光栄です。しかし…。分かりました。本当のことを言います。イージーゴアは確かに強いウマ娘です。ベルモントレース場でならセクレタリアトと並ぶほど強いでしょう。しかし脚技はサンデーサイレンスさんの足元にも及びませんし脚が長い上私の言うことは聞いてくれない、そんな状態で負ければ私の責任だ。流石に厳しいものがあります」

 

「そこまで言うのなら分かった。ベルモントステークスで負けたら君たちのコンビは解散だ。これで良いだろう。確かにマクゴーヒー君の経歴にこれ以上傷はつけられない」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「あゝ。それと一つ。イージーゴアとセクレタリアトを比べるのはやめておけ。奴は別格だからな」

 

話を聞いていて私はショックだった。トレーナーは想像以上に私のトレーナーを辞めたがっていた。確かにトレーナーに私は素っ気ない態度をとっていた。負けた時のメディアの叩き方は凄まじかった。辞めたくなって当然だった。

 

「トレーナーさん。本当は貴方のことを慕っていました。明日から態度を改めます。ベルモントステークスも勝ちます。もう絶対に負けません。だからトレーナーさん、担当を降りるだなんて言わないで」

 

皆が帰った控え室で1人、私は泣きながら呟いた。


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