静寂の日曜日   作:ふりーと

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朝間

「スタートしました」

 

少々出遅れたが想定内、ある程度脚を使い先団に付けていく。

 

「まずはカラバライジングがリード。ヒューストン、ダンジル、サンデーサイレンスも来た」

 

斜め後ろからはやはりイージーゴアが来ているのだろう。緊張感が久々と伝わってくる。

 

「サンデーサイレンス4番手イージーゴア5番手。前頭ヒューストンからホークスターまでおよそ15バ身の感覚。ペースはまずまずの速さ。ヒューストンが3バ身差のリード。ケンタッキーダービーウマ娘サンデーサイレンス2番手に上がる」

 

外から嫌な緊張感がやってくる。イージーゴアだ。

 

「本命のイージゴアが先頭に立つ。サンデーサイレンスは差のない3番手。ダンジル、ノーザンウルフが続く」

 

内に並ばれる。嫌な緊張感が常に張り付いている。どうにか振り切らなければ。

 

「第3コーナーに差し掛かった。ダンジル先頭に立つが外からサンデーサイレンスが来た!」

 

外からどうにか並ぶと大歓声が上がる。俺を応援してくれているのか。

「頑張れ!サンデー!負けるな!」「行け!イージゴア!突き放せ!」

「そうだ俺は西海岸総大将!サンデーサイレンスだ!」

  

「直線に入って外サンデーサイレンス!内イージーゴア!横一線で譲らない!!内イージゴア僅かにリード」

 

大歓声が聞こえる!俺は知らなかった!最後の直線がこんなにも素晴らしいものだとは!ライバルを応援する声が聞こえる!俺を応援する声が聞こえる!そして内で競っている友人と共に最高のレースができている!人生で最高の4ハロンはしかし終わりを迎える。

 

「内イージーゴア!外サンデーサイレンス!そのまま並んでゴールイン!!際どい写真判定だ!!サンデーサイレンス勝ったというように右手を上げた!1分53秒8!なんとも劇的なフィニッシュ!」

 

終わった瞬間自然と右手が上がった。勝った負けたは関係ない。このコース上にいる人と、このスタンドにいる人と、このレースを見ているすべての人と素晴らしいレースを共有したかった。

熱量が僅かに下がるピムリコ。このレースを最も語りたい相手を見つけた。

 

「おい!イージゴ、ア」

 

最も素晴らしい直線のもう一人の主役は未だ上二つの数字の描かれない掲示板を顔を真っ青にして祈るように見ていた。俺ば理解できなかった。ほぼ横並びで勝敗などわからない。だから、素晴らしいレースをしたんだ。勝ち負けなんか関係ないじゃないか。彼女にそう伝えようとした。

 

「なぁ、素晴らし、」

 

大歓声が上がった。1番上には堂々と表示された数字は7、その一つ下には2。勝ったのは自分だった。彼女は膝から崩れ落ちた。そして口をぱくぱくさせ定まらない目をしながら検量室へ入っていった。俺にはこれ以上声をかける勇気は無かった。声を掛けたところでただ勝者が奢っているだけだと思われるだろう。今まで見たことのない光景だった。黄金色に光るレース上で唯一栗毛のウマ娘唯一頭が深い闇を落としていた。

 

__________________________

 

「勝ちましたサンデーサイレンス選手とマクゴーヒートレーナーです。サンデーサイレンスさん、まずは優勝おめでとうございます。今の気分はどうですか」

 

「あ、ええ、良いレースができて良かったですね」

 

「最後の直線素晴らしい叩き合いでした」

 

「そ、そうですね。絶対に負けたくないと思いながら走りました。どうにか勝てて良かったです」

 

「これで米国2冠達成です。3冠に向けての自信の程は如何程ですか?」

 

「……あ、はい。しっかり稽古を積んで次も良いレースをしていきたいです」

 

「ありがとうございます。それではマクゴーヒートレーナー、優勝おめでとうございます。次戦ベルモントステークス、トレーナーとしては戦術をどう立てていきますか?」

 

「まぁ12ハロンは初めての距離となりますので、さらに耐えられるスタミナをつけるトレーニングを重点的に行っていきます。あとはレース当日走り切れるか祈るだけですね。キレとスピードでこの娘に勝てるのはいませんからね」

 

「トレーナーにとっても久々の三冠挑戦です。どのような思いで挑みますか?」

 

「まず三冠に挑戦させてくれたサンデーサイレンスに感謝したいです。三冠は私の夢でもあるので達成できるようサンデーと頑張りたいです」

 

「ありがとうございます。プリークネスステークスを勝ちましたサンデーサイレンス選手とマクゴーヒートレーナーでした」

 

__________________________

 

「なぁサンデー。三冠取りたいか?」

 

「何言ってんだトレーナー。ここまで来たら三冠取るしかないだろ」

 

「なぁイージーゴアに勝ちたいか?」

 

「絶対に勝ちたい」

 

「本当か?」

 

「勝ちたい。でも…友人の悲しむ顔はもう見たくないんだ」

 

「それでお前が手を抜いて走って、勝ったイージーゴアはどう思う」

 

「そんなことは分かってる。だから最初に絶対に勝ちたいって言ったんだ。勝って伝えるんだ、イージーゴアが最高の友達だって」

 

「そうか、本当に勝ちたいんだな」

 

「うん」

 

「なら明日からはメニューを変える。地獄だぞ、覚悟しておけよ」


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