水の都とことり   作:雹衣

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第10話

「……」

不思議な感じがする。私が今見ているのは間違いなくアイドル研究部の部室。けれどいつもとは違う。私の視点はまるで監視カメラのように上から眺めている。

「一番だにゃ~」

「ま、待ってよ凛ちゃ~ん……」

私が部室をぼんやりと眺めていると、元気よく中に入ってきた女の子が一人。そしてその子を追いかけて息を切らして入ってくる子がもう一人。

私の後輩で一緒にスクールアイドルをやっている元気いっぱいで可愛い女の子の星空凛ちゃん。そしていつも優しくて可愛い小泉花陽ちゃん。彼女たちは部室に入ると元気に部活の準備を始めました。

「……あら、まだ二人だけ?」

「そうみたいやね」

「あ!絵里ちゃん!希ちゃん!」

そこにやってきたのは三年生で生徒会長の絢瀬絵里ちゃんに、副会長の東篠希ちゃん。そして後から作曲担当の西木野真姫ちゃんに、部長の矢澤にこちゃん……「μ's」のみんながどんどんやってきます。私が最初見ていた時よりも明るく、騒がしくなった部室。みんな楽しそうに色々な話をしていて……

「ごめーん!遅くなっちゃった!」

「私達が最後みたいですね……」

最後にやってきたのは私の大切な友達。海未ちゃんに穂乃果ちゃん。私の大好きがみんな部室にやってきて楽しそうに笑いあっています……けれどもそこに私はいない。

「よし、八人みんな揃ったね!ラブライブへ向けて練習しよ!」

穂乃果ちゃんがそう言ったのを筆頭にみんなが次々に部屋から出ていきます。

「ごめーん!遅れちゃった!」

なんて言って入ってくる私の姿は無く、最後に出た真姫ちゃんが扉を閉めました。

 

 

 

 

 

「……また夢」

目を覚ました時の感情はなんとも言えないものでした。さっきまで見ていたのが夢だったのを安心する気持ちと、自分がネオ・ヴェネツィアにいてみんなと離れ離れになっているという軽い失望感。そんな複雑な気持ちのまま、私はベッドから出ました。

「あれ?」

その時、私の視界がボヤけていることに気が付きました。何気なく目の周りを擦ってみると手に小さな水滴が付いてきました。

「あ、ことりさん。起きまし……はひ!?」

それが涙だと私が気づいた時、たまたま入ってきた灯里ちゃんが私の姿を驚きの声を上げました。

「ど、どうしたんですか!?」

「あ……なんでもないよ。なんでも」

「で、でも……」

「ほんと、なんでもないから」

灯里ちゃんは私を心配そうに見ながら口を噤みました。

「その、みんなどうしてるかな……って思ったら、自然にね」

「穂乃果ちゃんって人ですか?」

「うん、それに色んな友達の事とかね……そうだ、灯里ちゃん。私を呼びに来たみたいだけど何かな?」

私の言葉を聞いて、灯里ちゃんは「あ、そうだ!」といつもよりわざとらしく明るい声を返してきました。

「アリシアさんが朝食が出来たから呼んでって」

「あ、うん分かった。直ぐに着替えて行くね」

私の返答を聞いた後、灯里ちゃんはいつも通りの笑顔で外へ出ていきました。……気を使わせちゃったなぁ。ネオ・ヴェネツィアに来てからずっと世話になりっぱなし。こっちに来てから二日も経つし泊まっている分二人に迷惑を掛けないように何かしないと……

「……でも私にできることってあるかな」

 

 

 

 

「ことりちゃんに手伝えること?」

「はい」

朝食を食べている途中、アリシアさんに私が先ほど考えたことを話してみました。アリシアさんは私の言葉を聞いた後「う~ん……」と顎に手を置き、考える仕草をしだします。

「そ、そんな、ことりちゃん無理しちゃ駄目ですよ」

灯里ちゃんは若干あたふたしながら私に言葉を掛けてきます。さっきの涙を見られたせいかな?私が無理をしているように思われたみたい。

アリシアさんはそんな私と灯里ちゃんをチラッと見た後、いつものほんわかした笑顔に変わります。

「そうねぇ……じゃあ今日はARIAカンパニーのお手伝いをしてもらおうかしら?」

「え、アリシアさん!?」

私の体調を心配しているからか、アリシアさんの言葉に灯里ちゃんが驚きの声を上げます。

「別にそこまで大変なお仕事を頼むわけじゃないわ。お客様に飲み物を運んだりするのを手伝ってくれたりするだけ」

「あ、それなら出来ます。ちょっと喫茶店……みたいな所でバイトしていたので」

私は「μ's」……というよりは穂乃果ちゃんがスクールアイドルを始めようという時に喫茶店(とは言ってもメイド喫茶だけど)でバイトを始めて、何故か「伝説のメイド」なんて二つ名を貰ったりしてました。

「そうなの?それなら大丈夫ね」

私の言葉を聞いてアリシアさんはまた優しい笑みを向けてきます。

「……ほえ~」

アリシアさんって本当に綺麗で笑顔が似合う人だな……。後ろで編まれている長いブロンドの髪、青い瞳に白い肌一つ一つの綺麗なパーツが見事に調和しててなんていうか……ポーズを決めて立っていたら芸術品と見間違っちゃうかも。

「ことりちゃん?大丈夫ですか!?」

「は!?う、うん大丈夫だよ!?大丈夫!」

アリシアさんの笑顔に思わず固まってしまった私を、灯里ちゃんが心配そうに揺らします。

「その、本当に大丈夫ですか?あんまり無理はしないほうが……」

「う、うん大丈夫大丈夫」

灯里ちゃんには朝の時のでとっても心配させちゃっているみたい。でも流石にアリシアさんに見惚れてたとは言えないよね……。

 

 

 

 

「じゃあ、ことりちゃん。お留守番まかせるわね」

「はい、お客様、アリシアさん。いってらっしゃいませ」

ARIAカンパニーにある小さな船着き場。そこにある船の後ろに立つアリシアさんと。座るカップルのお客様に私は頭を下げた後、右手を小さく振ります。

今回のアリシアさんの客は無口で頑固そうな男性とニコニコ笑顔を絶やさない明るい女性。女性の話によると子供がみんな独り立ちしたのでその記念にアクアへ来たみたい。

アリシアさんの船を予約してきたお客様は大体予約の時間より早くやってきます。私のお仕事はそのお客様の為に紅茶を淹れて、話し相手になること。ウンディーネやネオ・ヴェネツィアの事はあまり詳しくは無い私ですが、基本は話しかけてくる人はネオ・ヴェネツィアにどうして来たのか?といった話が多いので聞く側に徹して、観光名所などを聞いてきた時はアリシアさんに応援を求めたりして、お仕事をなんとか頑張っています。

そして先ほどのお客様は出発したので、私は海が見えるカウンターに座り、暫く休憩することにします。

灯里ちゃんは藍華ちゃんとの練習に行ったのでここには私一人です。

「……」

そういえばこっちに来てから一人になるのは灯里ちゃんが見つけてくれた時以来かな?私はふと思いました。

あの時灯里ちゃんが来てくれなければ、私はどうなっていたのかな?ずっと暗闇の中で地面に座って泣いていたかもしれない。もしかしたら、何かに連れ去られていたかも……人かもしれないし、もしかしたらもっと怖いものに

「……それは無いかな。うん、ないない」

私は自分が想像したことを笑って打ち消します。流石に非現実的。そういったものは小学生の頃に卒業しちゃいました。サンタクロースとかと一緒。もう高校生だし、そんなことを信じている子なんて音乃木坂にもいないよ。

そう思った時、私の後ろで床がきしむ音が聞こえました。それに反応して私の体がビクンと跳ね上がるかと思っちゃいました。

灯里ちゃんが帰ってきた?……それだったら私に挨拶はするよね?

そんなことを考えているうちに足音はどんどん私に近づいてきます。何が何だか良く分からないけどとりあえず足音の正体は見ないと……!私はゆっくりと後ろに振り向きました、そこにいたのは

 

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