水の都とことり   作:雹衣

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今回は大きく遅れて申し訳ありません
もうしばらくこれ位の不定期気味になりそうです……


第16話

 

「……」

 私が目覚めるともうアリシアさんは起きていました。下から聞こえる料理の音を聞きながら起き上がります。ベッドを見ると灯里ちゃんはまだすやすやと寝息をたてています。灯里ちゃんより先に起きるのってもしかして初めてかな?

「んっ」

 心機一転のためにも体を伸ばし、灯里ちゃんを起こさないようにそっと立ち上がって着替えを済ませます。ARIAカンパニーの外では海鳥達が悠々と空を飛ぶ姿が確認できます。灯里ちゃんの近くでは、アリア社長が大きくお腹を出して寝ています。

 灯里ちゃんの穏やかな寝顔をちょっと見た後、こっそりと一階に降りていくと、アリシアさんがキッチンに立っていました。

「あら、ことりちゃん。良い朝ね」

「アリシアさん。おはようございます」

 私が頭を下げるといつもの様に微笑みを浮かべます。

「アリシアさん、何か手伝います」

「そうね。じゃあ、そっちのスープを運んでくれるかしら?」

「はい」

 朝食の良い匂いに満たされながら私はお手伝いをします。静かな波音を聞きながら、私の新しい一日が始まりました。

 

「すすすすみません、アリシアさん。寝坊しましたー!」

「ぶぶぶぶいにゅー!」

 朝食を並べ終えた頃。二階から慌てて灯里ちゃんとアリア社長が降りてきました。髪留めもまだしていないあわてっぷりです。中々見ない灯里ちゃんの姿に思わず笑みが零れてしまいます。

「あ、灯里ちゃん。おはよう」

「は、はひ、ことりちゃん。おはようございます」

 慌ててる灯里ちゃんに声をかけると、体を硬直させながら挨拶を返してくれました……なんだか心なしか顔が赤いみたい。

「灯里ちゃん、風邪? 昨日の夜風のせい?」

「だ、大丈夫です! それよりもことりちゃんの方こそ……」

「私?」

 灯里ちゃんの質問に首を傾げる。すると灯里ちゃんも「はひ?」と首を傾げる。二人で首を傾け合って、木に止まってる小鳥たちみたいになっちゃってます。

「あらあら。とりあえず朝食を食べましょ。折角のスープが冷めてしまうわ」

 そんな私達のことを微笑みながら眺めていたアリシアさんが優しく声を掛けました。

 

「灯里ちゃん、じゃあゴンドラ協会に行くから、買い物お願いね」

 朝食を食べてから暫くするとアリシアさんがそう言って白いゴンドラに乗っていってしまいました。なんでもゴンドラ協会っていう所で会合があるとか、

「行ってらっしゃーい」

 私がアリシアさんの姿がヴェネツィアの建物で見えなくなるまで手を振る。その手を降ろした時、隣の灯里ちゃんが「はひ」と声を出す。

「じゃあ、ことりちゃん。私はアリシアさんに頼まれたものを買いに行こうかと」

「あ、それ私も行って良いかな?」

 私が何気なく同行を提案してみる。するとそれを聞いた灯里ちゃんは私に少し顔を赤くしてしまいます。

「こ、ことりちゃんはARIAカンパニーで待っていて下さい」

「えぇ、でもちょっと暇だし……」

 私が拗ねるように言うと、灯里ちゃんは困ったように慌てる灯里ちゃん。

「じゃ、じゃあ一緒に来ましょうか」

「うん、よろしくね」

 私が明るく答えると、灯里ちゃんは少し戸惑ったような笑みを浮かべました。

 

 お買い物の内容は野菜などの食材や日用品。それにアリア社長のご飯等……灯里ちゃんの持っているメモには記されていました。

「……何処で買うの?」

「はひ、まずはアリア社長のご飯からですね。それはいつものお店に買いに行って、あとは市場を見てみます」

「はーい」

 灯里ちゃんの後を追って、レンガで出来たネオ・ヴェネツィアの街を歩く。まだ午前ということもあってか、観光客らしき人よりは地元の人らしき姿が多い気がします。

 水路に目を向けると、ゴンドラに乗った帽子を被った人が長い棒を使ってポストに袋をいれています。……あれが、郵便配達なのかな?

「ことりちゃん?」

 私が郵便配達の人のお仕事を眺めていると、灯里ちゃんが不思議そうに声を掛けてきます。

「あ、ごめんなさい。あそこの人が珍しくて」

「え、ああ郵便配達のお仕事ですね。はい、ゴンドラでああやってポストの中の袋取り出すっていうのはネオ・ヴェネツィアでしか見られない光景ですね」

「うん、私の所じゃ見た事なかったよ」

「……ことりちゃん」

 灯里ちゃんに呼ばれ振り向く。すると灯里ちゃんはなんというか「ポカン」という音が似合いそうな驚きの表情を浮かべていました。

「え、な、何? 灯里ちゃん」

「なんか……とっても変わりましたね。明るくなったような……あ、別に今まで暗かったとかじゃ」

「あはは、そうだね。こっちに来てからずっと落ち込みっぱなしだったし」

 そう考えるとこっちに来てからは自分の事でずっと精一杯で気を掛けられてばかりだった気がする。

「でもそれじゃ、駄目だってアテナさんに言われてね」

「アテナさんに……あ、だから昨日」

「うん、そう……だから、精一杯今を頑張る事にしました」

 そう言って私は微笑みました。灯里ちゃんはそれを見て一瞬止まります。そして

「うん、ことりちゃん! 頑張ろう!」

 そういって大きな笑顔を見せてくれました。

 

 

 

「そういえば灯里ちゃん。なんで今日の朝、顔が赤かったの?」

 マーケットで野菜を品定めする灯里ちゃんに不意に疑問に思ったことを口にしちゃいました。すると灯里ちゃんのトマトを掴もうとしていた手が止まります。

「……灯里ちゃん?」

 返事をしない灯里ちゃんに近寄ると、灯里は「はひ!」と大きく返事をして慌てた様子で私に向き直ります。けど、苦笑いの様な表情を浮かべて「あははぁ」なんてバツの悪そうな顔をしています。

「その、昨日の夜のことをちょっと……」

「昨日の事……?」

 昨日の灯里ちゃん……? 何かあったっけ?と思い、振り返ります。印象に残ってるのは夜に待っていた灯里ちゃんと、泣き疲れて途中で寝ちゃった灯里ちゃんの姿。

「そういえば、昨日、アリシアさんを待っている途中で寝ちゃったんだっけ?」

「あ、あははその事を余り思い出さないでほしいなー……」

「別に気にしなくてもいいと思うな。私の事をずっと心配してくれて、緊張が解けちゃったんだよ。それにずっと一緒の部屋で寝てるんだしね。今更だよ」

「それとこれとは話が違います!」

 私の指摘に灯里ちゃんは顔を真っ赤にして反論します。

「しょうがないよ。昨日は。うん」

「あぁ! ことりちゃん。笑い事じゃないですよ!」

 恥ずかしがる灯里ちゃんの姿に思わず笑みが零れる。何だか懐かしいものに溢れてる感じがして、心の底から笑みが溢れました。

「あれ、灯里、ことりもどうしたの? こんな所で」

「あ、灯里先輩、ことりさんもこんにちは……灯里先輩、どうしたんですか?」

 私たちの元にたまたま通った藍華ちゃんとアリスちゃんが見かけて寄ってきます。

「あ、二人共、ねえねえ聞いて」

 心の底から溢れる嬉しさに二人へ笑顔で話しかけます。

 

 それは、普通の友達の様に当たり前の事で

 でも、ようやく私は友達になれた気がしました

 

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