水の都とことり   作:雹衣

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第21話

 私がネオ・ヴェネツィアに来てからそろそろ二週間が経とうとしていました。時間の流れはゆっくりながらも刻々と過ぎています。アリシアさん曰くそろそろネオ・ヴェネツィアに本格的な夏が来るそうです。

「ふぅ」

 時計の針が真ん中になった頃、アリシアさんのゴンドラがゆっくりと進んでいくのを確認した後、椅子に座ってため息を一つ零しちゃいました。私は普段、ARIAカンパニーでお手伝いをしています。お客様に飲み物を出したり、簡単な雑談をしたり……そういったやりとりでアリシアさんの準備が整うまでお客様を退屈させないようにするのが私のお仕事。

 色々迷惑を掛けちゃったあの日もお手伝いをしていたこともあって最初はアリシアさん達も無茶はしないようにと心配していましたが、今の私の様子を見てある程度任せてもらえるようになりました。

 とはいえ、まだまだ慣れないことがいっぱい。ネオ・ヴェネツィアについてはある程度答えられるようになったけれど、私自身についての質問には言葉を濁すしか無くて色々苦労しています。

「お疲れ様、ことりちゃん」

「ぷいぷいにゅ~」

 椅子に座って冷たいコーヒーを飲んでいると、一隻のゴンドラがやってきます。そのゴンドラには嬉しそうに笑う灯里ちゃんとゴンドラの先端に座るアリア社長の姿が見えました。

「灯里ちゃん。練習は終わりなの?」

「はひ、今日は藍華ちゃんが姫屋で用事があるみたいで。今日はいつもより早く解散したの」

「そうなんだ。灯里ちゃん、アリア社長もお疲れ様」

「ぷいにゅ」

 ゴンドラに近づいてきて、降りてきたアリア社長のおっきな体を抱き上げます。アリア社長はアリシアさん曰く「火星猫」という地球の猫とは少し違うみたいです。とっても頭が良いんだとか。そして水先案内人(ウンディーネ)の会社では航海の安全の祈願のために青い目の猫を社長にするんだとか。だからアリア社長は「社長」って皆から呼ばれていたみたい。

最初は色々ビックリして意識が向かなかったけど、今見たらアリア社長のむちむちぽんぽんな体でとっても可愛いです。アリア社長の方も私がよく撫でるからかすっかり懐いてくれました。

「ことりちゃんの方はどうですか?」

「今日のお客様はさっき行きましたよ。あとは帰ってきたら終わり。灯里ちゃんも何か飲む?」

「あ、じゃあ、私はオレンジジュース」

「ぷいぷいにゅ」

「はーい、アリア社長も一緒ですか?」

「ぷいにゅ」

 灯里ちゃんとアリア社長の返事を聞いて私は席を立ちます。こうやって灯里ちゃん達とのんびり過ごす時間。そんな大したことないものが何処か楽しくて笑みが零れちゃいました。

 

「夜光鈴?」

「はひ、さっき帰って来る時に夜光鈴市を見かけたの。これから見に行かない?」

 灯里ちゃんとティータイムをしながらアリシアさんの帰りを待っているとふと、そんなことを提案されちゃいました。

 夜光鈴……どうやらそれはネオ・ヴェネツィアでは有名なもののようです。ただ、私には余りその言葉に馴染みがありませんでした。

「何それ?」

「夜光鈴は風に揺られて音が綺麗な音が鳴るんだよ。中に火星(アクア)の特別な石が入っていて夜に綺麗に光るの」

「へぇ」

 灯里ちゃんの言葉に興味が湧いてきちゃいます。聞いたこともない物だけど、どんな感じなのかな?

 その時、ARIAカンパニーの方に向かって来るゴンドラの姿が見えました。そして編み込まれた綺麗な長い金髪……アリシアさんが帰って来るのが見えました。

「あ、アリシアさん」

「え、ホントだ。お迎えしないと」

 私たち二人はその姿を見て、コーヒーのカップを置いて椅子から立ち上がります。そして、涼しい屋内から日差しの下へ出ます。まだ初夏ですが、日差しはすっかり夏本番になっていました。

 

「夜光鈴? もうそんな時期なのね」

 帰ってきたアリシアさんに夜光鈴の話を灯里ちゃんがしました。それを聞いたアリシアさんは冷たいお茶を飲みながら微笑みます。

「はひ、夜光鈴がたくさん並んでてとっても綺麗でした」

「夜光鈴かぁ、どんな物なんだろ」

「そうね。ことりちゃん、風鈴は知ってる?」

「え、風鈴?」

 アリシアさんからそう尋ねられました。頭の中に思い浮かんだのはガラスで出来たちょっとお椀みたいなものから短冊を吊るした、ちょっと海月みたいなものでした。

「風鈴って窓とかに吊るすあれですか?」

「えぇ、ことりちゃんの頃はまだその風習残っていたのね」

「……?」

火星(アクア)で作られたちょっと特別な風鈴が夜光鈴なの。火星(アクア)では夏の風物詩になっているのよ」

「あぁ、成程」

 灯里ちゃんからさっき聞いた話と合わせてやっと形が見えてきました。

 火星(アクア)で作られたちょっと特別な風鈴……ネオ・ヴェネツィアで風鈴が風物詩になってるって聞くとなんだか不思議な気もするけど、とっても気になります。

 そんな私の様子を見てアリシアさんも気持ちを察したみたいで朗らかに笑って提案しました。

「ことりちゃん、午後はお客さんの予約も少ないし、夜光鈴市に行ってみる? 夜光鈴市は三日間しかやらないし、可愛いのは早い物勝ちだから急がないといけないわね」

 

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