水の都とことり   作:雹衣

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第22話

 チリンチリンとガラスのぶつかる涼しげな音達が私の耳に入って来るようになりました。

 灯里ちゃん、アリア社長と一緒にネオ・ヴェネツィアの街を歩いていく。そして角を一つ曲がった時、木で組まれた出店達が広がっていました。そして出店一つ一つに沢山の風鈴が吊るされています。風鈴たちはネオ・ヴェネツィアの風に揺れて涼しげな音を発して透明な協奏曲を奏でていました。

「うわぁ」

「ここが夜光鈴市だよ」

 そんな綺麗な音に感動していると、灯里ちゃんが説明してくれます。私達の周りには私達と同じように夜光鈴を見てきたのであろう人達が夜光鈴を選んでいるのが見えました。

「凄い! こんなに沢山の風鈴始めて見た」

「はひ、アリシアさんが言っていた通り夜光鈴は一年で三日間しか売られませんから。その分沢山の夜光鈴がここで売られるんです。さあ、ことりちゃん行きましょう」

「うん!」

 灯里ちゃんは今にもスキップしそうな雰囲気で歩いていきます。彼女もとても夜光鈴市が楽しみなのが直ぐ分かっちゃいました。そんな彼女の姿がなんだか嬉しくて、私も足がリズムを刻んで付いてしまうのでした。

 

 

 

「うわぁ、ほぁ」

「ぶいにゅ、ぶい」

 アリア社長を抱えながら私は夜光鈴を見て回ります。夜光鈴達は無色透明なものから、模様が入っている物まで千差万別。それだけじゃなくて青、緑……カラフルなものまで色とりどり。多種多様なものが並んでいます。

どれも素敵なものばかり。思わず目移りしちゃって何を買うか悩んじゃいます。

「アリア社長。綺麗な物ばかりですね」

「ぶいぶい」

「あ、猫みたいな形。すごーい」

 アリア社長はユラユラと揺れる短冊に目を奪われながら一つの風鈴を指さしました。それは丸い風鈴にぴょっこりと二つの耳が飛び出した形をしていました。

「ことりちゃん、どうしたの? わぁ、凄い可愛い!」

 私とアリア社長が可愛い猫型風鈴を見ていると後ろから灯里ちゃんが覗きこんできて黄色い歓声をあげます。

「うん、凄い可愛いよね!」

「はひ! ことりちゃん、これにしますか?」

「うぅん……とってもかわいいけど、他の物を見てから……」

「お嬢ちゃん、それも良いが、これは一点物だぜ」

 私がついつい悩んじゃってそう答えると横から声が入って来ました。横を見ると大きながお腹ともじゃもじゃのお髭が特徴的なおじさんが煙草をふかしながら椅子に座っていました。どうやらお店の人みたいです。

「この夜光鈴は全部職人さんが丹精込めて作ったもんよ。だから同じ物はここに二つとねえ。探しに行って帰ってきたら売れちまってるかもよ?」

「一点物……あ、そうだった!」

 おじさんの言葉でアリシアさんの言っていたことを思い出しました。可愛いものは早いもの勝ち。そっか一点物だからそういうことを言ってたんだ。

「まぁ、お嬢ちゃんが好きにすればいいさ。ただ、見てない隙に売れてしまうかもなぁ」

 そう言うとおじさんは意地悪そうに笑います。

「むむむ……」

 私は思わず悩んで声が出てしまいます。この猫ちゃん風鈴がとても気になってしょうがありません……でも他にも見てみたらもっと可愛いのあるかも……。

「おじさん、これください」

 私が悩んでいると灯里ちゃんがそう言いました。

「え?」

「はいよ、毎度ありぃ!」

 灯里ちゃんは私が迷っている間におじさんにお金を渡しました。おじさんは笑って受け取ると、猫耳付きの風鈴を木の棒に括り付けて灯里ちゃんに手渡します。

「はひ、ありがとうございます。はい、ことりちゃん」

「え、え?」

 灯里ちゃんはそれを受け取ると直ぐ私に手渡して来ちゃいました。私は何で灯里ちゃんが買ったのか、そして私に渡してくるのか分からず思わず戸惑いの声をあげちゃいました。

「灯里ちゃん?」

「はひ、ことりちゃん。この風鈴、私も気にいっちゃったので、買っちゃいました」

 灯里ちゃんはそう言うと私に楽しそうに微笑みます。うん、この風鈴とってもかわいいからその気持ちもよく分かります。でも、その風鈴を何で私に?

「だから、もしもことりちゃんが他にお気に入りの風鈴見つけたら私が貰います」

「つまり、私が他に可愛いの見つけたら灯里ちゃんそのままその子を貰うって事?」

「はひ、それならことりちゃんも焦って見て回らなくても済みますよね!」

 灯里ちゃん、私がゆっくり見て回れるようにすぐこんな気遣いをしてくれた優しさと行動力に何だか温かい気持ちが湧いてきちゃいます。

 灯里ちゃん、凄いなぁ。なんて思わず感嘆してしまいます。彼女は困っている時に直ぐ行動して助けくれました。そういう人を助けるために行動できる所、まるで穂乃果ちゃんみたい……穂乃果ちゃんは灯里ちゃんに比べると凄い元気だけどね。

「うん、じゃあ、遠慮なく貰っちゃうね。ありがとう。灯里ちゃん」

「はひ! どうぞ」

 灯里ちゃんが差し出した風鈴を私は受け取ります。

 灯里ちゃんから受け取った風鈴は日の光をキラキラと反射しながら私たち二人の顔を映しているのでした。

 

 

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