水の都とことり   作:雹衣

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第26話

 晃さんと出会った日から数日後、ARIAカンパニーの窓から涼しい風が入って来るようになってきました。アリシアさん曰くもう夏も終わり、ネオ・ヴェネツィアに秋の季節がやってきているみたいです。

 私の方はあまり生活に変化はありません。アリシアさんのお手伝いをしつつ、ゴンドラの練習。そしてネオ・ヴェネツィア観光を少々。いまでは観光客に道を教える事が出来る位には詳しくなりました。

 とはいってもいまだ過去に戻る方法は見つからず……。まだまだ分からないことだらけです。

 

 布団の擦れる音。それと床が軋む音で私は静かに目が覚めました。音はベッドの隣。眠気覚ましで隣を見ます。隣では灯里ちゃんが眠そうに目を少し擦りながら、起き上がっていました。

「……」

 私は無言で窓を見ます。窓の外はまだまだ空が暗く。お日様の姿は見えません。

 いつもの灯里ちゃんより、早い起床です。

「灯里ちゃん?」

「あ、起こしちゃいましたか?」

 そう言うと灯里ちゃんは困ったように笑います。

「どうしたの?」

「いえ、大したことはないんですけど、何か早く目が覚めちゃいました……衣替えだからかな?」

 なんて言いながら灯里ちゃん今までとは違う服に袖を通していました。

 その服は白を基調としたゆったりとした感じの長袖のドレス。そこに青い模様が入っていて、なんだか雪を思わせる感じです。始めて見る服。でもその模様には覚えがありました。

 灯里ちゃんや、アリシアさん、それに今は私も着ているARIAカンパニーの制服。それにそっくり。ただ今までのはセーラー服みたいなさわやかな感じだったけど、こっちはなんだかお嬢様みたい。

「冬服?」

「はい。今日からなんです」

 そういうと嬉しそうに着た服で見せて来る灯里ちゃん。その姿に私も思わず気分がウキウキしだしちゃいます。

「じゃあ、私も今から起きちゃいます」

「え、ことりちゃんはまだ寝てても良いよ?」

「気遣いありがとう。でも私も目が覚めちゃった。何か新しい始まりってワクワクよね」

「はひ、ワクワクドキドキです……そうだ! そんな特別な日に一緒に舟でお散歩しませんか?」

 そう言って灯里ちゃんは楽しそうに笑顔を浮かべます。その余りにも嬉しそうな表情にこっちも笑顔を浮かべてしまうのでした。

 

 

 

 まだまだ暗い空と海。静かなネオ・ヴェネツィアの街を灯里ちゃんが漕ぐゴンドラがゆらゆらと進んでいきます。

 ゴンドラの上には私とアリア社長。二人と一匹のネオ・ヴェネツィア散歩です。

「夜の散歩に付き合って貰っちゃってすみません」

「いいよいいよ。ね、アリア社長」

「ぷいにゅ……」

 アリア社長は私の膝の上で眠たそうに座っています。でも一緒に私達が部屋から降りるのに付いてきたから私達の内緒の散歩を一緒にしたかったみたいです。

「……」

 私は無言で辺りを眺めます。夜の海は全然波が立っておらず、静かにゆらゆら揺れているだけ。そこに街灯の灯りが仄かに反射しています。

「本当、夜は涼しくなったね」

 夜の風を感じながら私は思わず呟きます。もう衣替えの季節。まだまだ日中は暖かいけど、夜は少し肌寒さを感じます。

「はひ、もう秋です……ことりちゃんがARIAカンパニーに来てからもうそんなに経ったんですね……」

「そうだねぇ」

 もうそんなに経っていることに少し驚きです。……でも、全然そんな風には思えなかった。

「時間が経つのって早いね」

 思わず呟いちゃいます。音ノ木坂の皆はどうしてるかな? もし、こっちと時間の流れが一緒ならラブライブは終わっちゃってる……でも、そもそも未来に来た時点で時間の流れとか気にしてもしょうがないのかなぁ。

 ゴンドラは静かに進み、大きな通りの横を通過していきます。普段は観光客で賑わっているこの辺りも人気は一切ありません。

 灯里ちゃんはそんな静かな水路の交差点を通って、海に飛び出します。

 そこは沢山の杭が海から飛び出しています。これはパリーナといって舟を繋ぐための杭だそうです。

 この辺りはパリーナが沢山あるから昼は舟の通りが沢山あるのが分かります。それでも今は幾つかのパリーナに舟が繋がれているだけで静寂に満ちています。

「行きますよ。ことりちゃん。アリア社長」

「にゅ」

「せーの」

 灯里ちゃんは手近のパリーナの一つに手を付けるとそれを勢いよく押します。

「りゃー!」

 灯里ちゃんに押され、ゴンドラはパリーナの間をスーッと流れていきます。手を広げ、楽しそうに微笑む灯里ちゃんの姿に私も思わず笑みが零れちゃいます。

 そんな時、私の背後から光が差し込み始めます。思わず前を向いてみると思わず声が漏れちゃいました。

「あ、灯里ちゃん、アリア社長!」

「うわぁ」

「にゅー!」

 海面から徐々に日が差し始めています。さっきまで暗かった周囲が照らされ、火星(アクア)の海に光が反射し始めます。……それがすっごい綺麗。

「ことりちゃん、アリア社長! 私達今、ネオ・ヴェネツィアを独り占めしてますね!」

「……そうだね。なんだかすっごい得した気分!」

 灯里ちゃんの言葉に私は素直に同意します。新しい季節の始まり。その日の新しい朝。

「新しいことだらけだね」

「はひ、まだ一日は始まったばかりなのに素敵な事ばかりです!」

「ぶいにゅ!」

 ゴンドラの上、私達は皆で楽しく笑いあいます。なんだかそれは秋の空みたいにさっぱりとした、爽やか気持ちでした。

 

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