水の都とことり   作:雹衣

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第27話

「……あ」

 朝のお散歩の帰り。ゴンドラをパリーナに固定している灯里ちゃんが小さく声を漏らしました。

「どうしたの?」

「うん、ことりちゃん、これ見て」

 灯里ちゃんはかがみながらパリーナの下の方をちょいちょいと指さしていました。それに釣られて私も屈んで手袋で覆われた灯里ちゃんの指の先を追います。

「あぁ」

 その先を見て、私も思わず声を出してしまいました。

 灯里ちゃんが縄でゴンドラを固定しようとしていたそのパリーナは白と青の二色の縞模様が色鮮やかなものです。色合い的にもARIAカンパニーのパリーナなのでしょう。

 そのパリーナの下の方……海面に接している部分が腐食してしまっています。

「おはよう灯里ちゃん、ことりちゃん。どうしたの?」

 二人でパリーナを見下ろしていると、何時の間にか来ていたアリシアさんから声を掛けられました。

「あ、アリシアさん。見てください」

「え? ……あらあら、大分朽ちてきてるわね。ここは動植物の住みかにもなるから」

 灯里ちゃんに促され、アリシアさんもパリーナの状態に気付いたみたいです。困ったような、それでいて考えるように口に手を当てています。

 私がそんなアリシアさんを見守っていると彼女は何か思いついたようで嬉しそうに笑顔を浮かべました。

「そうね……ねぇ、灯里ちゃん、ことりちゃん。古い彩色パリーナを補修がてら新しいのも作ってみない?」

「……ん?」

「……?」

 アリシアさんの提案をよく理解できず、私と灯里ちゃんで思わず顔を見合わせてしまいます。

「彩色パリーナを?」

「私達で?」

「えぇ」

 ……私達の疑問の声にアリシアさんはいつものようなニコニコ笑顔で首を縦に振りました。

 

「わ、私がそんな大役を⁉」

 アリシアさんの肯定に一拍間を置いて灯里ちゃんが大きな驚きの声を上げました。……まぁ、それも無理はありません。私も顔はとってもびっくりしてしまっています。

「あの、灯里ちゃんが作るのは良いんですけど、私も一緒に作って大丈夫ですか? 私、ARIAカンパニーの正式な社員って訳じゃないし……変な感じになっちゃいませんか?」

 ふと懸念したことを伝えます。私はパリーナなんて作ったことないし……そこもすっごく不安ですが、ARIAカンパニーに来てからまだ1年もいない私が、そんな大事な事に関わって良いのか。思わず聞いてしまいました。

 それに対してアリシアさんは穏やかに笑顔を浮かべます。

「あらあら、大丈夫よ。ことりちゃんだって、今は立派なARIAカンパニーの一員として頑張ってるじゃない……二人が感じるままに、自由にARIAカンパニー表現すればとっても素敵なものが出来上がるわ」

 

 

 

 という訳で、私と灯里ちゃんでパリーナ造りをすることとなりました。

「うーん……」

「ARIAカンパニーらしさかぁ」

 私と灯里ちゃん、二人で一緒に悩み始めます。そんな私達の前には一枚の紙が置かれています。パリーナのデザインを考える為に用意したのですが、一向に真っ白の状態から進みません。

 パリーナというものを知ったのは私がネオ・ヴェネツィアに来てから。それにこれは言ってしまえばARIAカンパニーにとっての看板にも等しいものみたい。どうしてもどういうデザインにしようか悩んじゃいます。

 それにμ’sの衣装は私が担当してるから、デザインを描くのはまだ何とかなるかもしれないけど、パリーナに上手く色を塗ることが出来るかどうか……色々考えちゃって中々進められません。

「悩んでいても何も解決しないよ! まずは、一歩踏み出さなくちゃ!」

 ふと、私の友達の言葉が浮かんできました。いつだって挑戦をしてきた私の大親友。いつでもとんでもない事を凄い事を提案してきて、成し遂げてきた。

 そんな事に比べれば小さな一歩。でも、頑張らないとね。

「灯里ちゃん。とりあえず、色々書きだしてみようか」

「書き出す?」

「うん、パリーナのデザインってだけじゃなくて、文字だけでも絵でも……とりあえずARIAカンパニーらしいものを一杯考えてみよう? そうすればきっと良いものが出てくるはずだよ」

「はひ! そうだね。ことりちゃん、色々考えてみよう」

 私の言葉に灯里ちゃんは嬉しそうに頷くと、ペンを握ります。

「じゃあ、まずは……コレとか?」

「……うーん、コレとか?」

「あぁ! 成程。じゃあ……」

 

 

 

「……、何してんの? 二人で」

「あれ、藍華ちゃん、どうしたの?」

 そして数分後、私達がひたすらアイディアを出していると、いつの間にか藍華ちゃんが来ていました。藍華ちゃんは私達が何をしているのかよく分かっていないらしく、紙に色々書きながら、楽しそうに騒いでいる私達を見て怪訝そうな顔を浮かべていました。

「あ、藍華ちゃん。今ね、新しいパリーナのこと考えているの」

「パリーナ? ……どういうこと? 私には二人がテーブルいっぱいに紙を敷いて絵や文字を描いているようにしか見えないんだけど」

「あはは、えっとね。今……」

 私達を不思議そうに眺めている藍華ちゃんに私達は経緯を説明します。すると、「はへー」と納得したような感心したような声を藍華ちゃんは上げていました。

「ことりと灯里がパリーナ造りねぇ……それで、今アイディアだし……と」

 そう言って藍華ちゃんが紙の上を眺めます。

「この白いのは?」

「はひ、アリア社長です。やっぱりARIAカンパニーには欠かせませんから」

「これは、制服ね……ことりが描いたのよね?」

「うん、よく分かったね」

「そりゃあ、灯里の絵が特別下手な訳じゃないけど、明らかに制服の絵だけ凄い本気で描かれてるからね……そういえば、服とか作ってたんだっけ?」

「うん、スクールアイドルの頃にね。その時にデザインを考える時によく絵は描いてるから」

「にゃるほどねぇ」

 そんな感じで、藍華ちゃんは私達の描いたものを暫く眺めてきます。そして笑みを零しました。

「確かに、これ見てるとARIAカンパニーらしいわね。もうそのままこれパリーナに書いても良いんじゃない?」

「流石にそれだと雑多すぎるようなぁ。そうだ、藍華ちゃんもどう?」

「私も? うーん、そうねぇ。ARIAカンパニーといえばやっぱまずはこれよね」

 私が藍華ちゃんにペンを渡すと、少し考えた後にさらさらと文字を書いていきます。そしてその文字を見ます。

「……スノーホワイト?」

「そ、やっぱりARIAカンパニーといえば「白き妖精(スノーホワイト)」アリシアさんよねぇ。これは外せないわ」

「あはは、そうだね。確かに」

「じゃあ、灯里ちゃんも必要だね」

 そう言うと私は紙に「灯里ちゃん」の文字を書き加えます。

「じゃあ、ことりちゃんも」

 そう言って灯里ちゃんはさらさらっと「ことりちゃん」の文字を書きます。

「にゃにおう、なんか羨ましいから私の名前も入れなさい」

 なんて言って藍華ちゃんが自分で「藍華」の文字を書いてきます。

「じゃあ、アリスちゃんも入れよっか」

「アテナさんに晃さんも!」

 紙の上には灯里ちゃんと一緒に書いたアリア社長や、海、制服の絵達の中に皆の名前が書き加わっていきます。

「いや、なんか自分で書き加えておいてなんだけど、良いの? ARIAカンパニーじゃない人の名前書いちゃったけど」

「はひ、だって藍華ちゃんや、皆だってARIAカンパニーにとっては欠かせない存在です。ね、ことりちゃん」

「うん、私もそう思う。私達だけじゃなくて皆がいたらARIAカンパニーらしいと思うな」

 私達だけじゃなくて、皆がいてこそARIAカンパニー。そんな灯里ちゃんの表現に思わず納得してしまいます。上手く言葉で表現できないけれど、皆がいたほうがなんかすっごくそれっぽい!

 けれどもそんな私達の言葉に藍華ちゃんは少し顔を赤くして大きな声を上げました。

「……二人共、恥ずかしいセリフ禁止!」

 

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