水の都とことり   作:雹衣

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第29話

「うわぁ……こうして見ると」

「すっごく大きいです」

 ペンキを運んだ私達はARIAカンパニーに到着した途端、思わずそんな言葉が漏れてしまいました。

 私達の視線の先……ARIAカンパニーのベランダには木の杭が置かれています。

 幅は私達がすっぽりと入りそうな太さで私達よりもずっと大きい。そしてその前には灯里ちゃんが興味深そうにその杭を見ていました。

「あ、ことりちゃん、おかえりなさい。ペンキの方は無事貰って来ましたか? ……ってアリスちゃん?」

「ただいまぁ。ちょっと道に迷っちゃって……その時にアリスちゃんに助けてもらっちゃった」

「灯里先輩。こんにちは。それはパリーナですか?」

「はひ、その通りです。丁度さっきウッディさんが届けてくれました」

「へえ、じゃあこれでパリーナ造りが出来るね!」

 そう言って私がゴンドラに置かれたペンキをババーンと手を広げて見せます。

「はひ! これで完璧です!」

 ペンキと杭……これでひとまず、パリーナ造りの為の道具は全部揃いました。後は……。

「パリーナのデザインだけですね。灯里先輩、ことりさん」

「うん、それが一番大変なんだよね……」

 

 

 

「これが昨日、三人で頑張って考えてたアイディア紙だよ」

「……うわぁ、ほんとにぎっしり書いてありますね」

 テーブルの上に置かれた一枚の紙。そこには私、灯里ちゃん、藍華ちゃんの三人でたくさん書いたARIAカンパニーらしさがありました。

「うん、いっぱい考えてアイディア出したんだ。アリスちゃんも何か書く?」

「うーん、とはいってもこれ以上のものは流石に出てこないです。あっ、私の名前も入ってる」

 興味深そうに私達が書いた紙を眺めていたアリスちゃんの視線が一点に留まりました。そこには私が書いたアリスちゃんの名前。

「うん、それ私が書いたの。やっぱり皆あってこそだよね」

「ことりさん、別にわたしはARIAカンパニーの一員という訳ではないので」

「でも大切な人だよ」

「……そ、それはとても嬉しいですけど。流石にパリーナには関係ないと思います」

 そうアリスちゃんは顔を赤らめながら言われちゃいます。照れちゃってなんだかリンゴみたいって表現がぴったり。

「ただ、灯里先輩、ことりさん。流石にこんなに沢山の要素を一つのパリーナに書くのは流石に厳しいと思います」

「だよねぇ。この中から一つとか、二つ選ばないといけないかなぁ」

 アリスちゃんのアドバイスを聞いて私は紙をもう一度眺めます。うーん、全部素敵だから入れたいのに……。

「灯里ちゃん、どうしよう?」

「うーん、あ、ならこれかな」

 灯里ちゃんが私の言葉を聞いて、悩みながら指さしたのは私が描いたARIAカンパニーの制服。

「ああ、確かに、ARIAカンパニーらしさって言ったらこれだよね」

「はひ、私もこの制服着たらARIAカンパニーの一員になったって感じがありましたし、これは欠かせません」

 そう言うと灯里ちゃんは可愛らしくはにかみました。

 その瞬間の彼女の顔を見ていると、なんだか心の中が温かいものに満ちてきちゃいます。まだまだパリーナ造りはこれから。全然進んでないのに、何か全部うまくいきそう。そんな安心感みたいな感覚。灯里ちゃんは私より年下なのにそんな頼もしさを何だか感じちゃいます。

「うん、じゃあ、制服を基に考えちゃおう!」

「はひ! じゃあ、どうしよっかデザインも皆で考える?」

「うーん、そうだね。皆で一人一人デザイン考えて暫くしてから発表しあうってのはどうかな」

「そうですね。それが良いかもしれません」

 灯里ちゃんと意見が一致した後、私は直ぐ室内に入って紙を三枚持ってきます。そして、紙を灯里ちゃんとアリスちゃんに一枚づつ手渡します。

「あの、ことりさん。私もですか?」

「うん、やっぱりこういう時はデザインの数が多い方が良いものが生まれるからね」

「そ、そうですか。私もでっかい頑張りたいと思います」

 私の言葉に少し戸惑いつつ首を縦に振るアリスちゃん。少々恥ずかしそうです。まあ、自分の描いたものを他の人に見せるのって少し恥ずかしいよね。

「よし、じゃあ、皆でレッツお絵かき!」

「はひ!」

「その言い方は少し子供っぽいです」

 

 

 

「うーん、こんな感じかな?」

「はひ、私も完成です」

「はい、私も出来ました」

 デザインを考え始めてから約1時間。三人で雑談をしながら書いていた時、とうとう三人の絵が完成しました。

「どんなのかなぁ」

 二人の考えたパリーナ……それを想像して思わずニヤニヤしちゃいます。二人と色々話しながら描いていたから大雑把な方向性は分かっているけど、あえて絵は見ないようにしていました。完成したのを見てビックリしたいからね。

 二人とも他の人の絵は見ていないので考える事は一緒みたいです。

「じゃあ、私から良いですか?」

 まず、アリスちゃんがおずおずと手を挙げました。そして、絵を私たちに見せてきます。

「おぉ」

「はひ、すっごい可愛いです」

 そこに描かれていたのは円柱部分は青と白の縞々模様。それだけなら今までのパリーナと一緒ですが、一つ違うのは柱の天辺……柱頭の部分が白くてARIAカンパニーのマークが入っている事。

「な、何か普通過ぎましたかね?」

「ううん、全然! すっごい可愛い!」

「はひ、柱の天辺の所とかすっごく可愛いです。まるで帽子みたい」

「はい、ARIAカンパニーらしさを頑張って考えて、帽子をイメージしました」

「うん、うん。すっごく分かる! じゃあ、次私の発表するね」

 そう言って私は自分の紙を皆に見せます。すると、二人は大きく目を見開きました。

「うわぁ」

「すごい……」

 白を基調に青い線を制服と同じように加え更にヒラヒラした柄とかを加え、海の波とかイメージしてみました。柱頭には制服の胸元の青いリボンのような柄を付けてみます。個人的なイメージとしてはゴンドラを漕いでいるアリシアさんや、灯里ちゃん。ついつい気合を入れて書いちゃいました。

「なんというかすっごくARIAカンパニーみたい」

「制服と海のイメージが上手くマッチしていてでっかい綺麗です」

「うん、だよね。私もその辺りすっごく頑張って考えたんだ」

「でも、これ、パリーナに上手く書けるかな……?」

 ギクッとその言葉を聞いた瞬間、私の笑顔が凍り付きました。そのおかしな挙動に二人が私の方を振り向きます。

「ことりさん?」

「あー、うん。私、服のデザインしか考えたことなかったからパリーナで再現できるか考えないで描いちゃった……」

 最初はパリーナのデザイン考えてたんだけど、デザインが大まかに形になってきた所で「あー、こんな服可愛い服どうかな?」って気持ちが湧いてついついパリーナに書き込んでいっちゃいました。その結果。

「やっぱこのヒラヒラは難しいかぁ」

「うーん、ちょっと私達じゃ、厳しいんじゃないかな?」

「そこまで細かく塗るのはでっかい厳しいと思います」

「そっかぁ」

 パリーナに塗るという事を完全無視したものになっちゃいました……。

「で、でも私はすっごく綺麗で可愛いです。こんな服が有ったらまるで水の妖精みたいで素敵です」

「私もそう思います」

「う、うん。二人ともありがとう……」

 二人のフォローが心に染みちゃいます。やっぱり私はまだまだデザイナーとしては半人前です。もっとデザイン以外の色々を考慮しないといけないね……。

「じゃ、じゃあ。次は私の奴を見せますね」

 そんな私の落ち込みを感じたのか、灯里ちゃんが慌てて紙を見せます。

 そこには私と同じように白を基調として青い線が制服と同じように入っていて、柱頭には青い線と白でARIAカンパニーの帽子をデザインしたものでした。

 一見してARIAカンパニーの制服を基にデザインしたのが分かるし、なによりすっごく可愛い!

「灯里ちゃん、凄い!」

「えぇ、そうかな? ことりちゃんの方が凄いです」

「ううん、でもすっごくARIAカンパニーらしいよね。ね、アリスちゃん」

「はい、これならペンキで描けると思いますし、それに可愛いと思います」

 アリスちゃんもそのデザインを見て感心交じりの声を上げています。

 それに流石の灯里ちゃんも恥ずかしそうに笑いながら手をパタパタ振ります。

「二人して褒め過ぎですよ。皆とっても可愛いし素敵なデザインです」

「いえ、私ではちょっと思いつかなかったです」

「私はちょっとパリーナって所から暴走しすぎちゃっただけだから、それにARIAカンパニーらしさは凄く感じます」

「そ、そう?」

「うん!」

 灯里ちゃんの恥ずかしそうな質問の声に私は自信満々に返答します。

「パリーナ完成の目途が経ってきたね!」

 私がそう声を掛けると灯里ちゃんも恥ずかし気な表情から気色一面にすぐ切り替わります。

「うん!」

 

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