水の都とことり   作:雹衣

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第35話

「それで、何かお悩みなんですか?」

 ホットチョコレートを二人でゆっくりと楽しんだ後、私はほっと暖かい息を出してまったりしているアテナさん。そこに私は先程までの話を切り出します。

 その言葉を聞いてアテナさんは「うーん」と軽くと悩ましそうに腕を組みます。

 ……なんだか私に言って良いのか悩んでいるご様子です。

「すっごく言いづらい事なんですか?」

「ううん、そうなの。いや、ことりちゃんに相談したくない訳じゃなくてね……」

 そう言って言葉を濁すアテナさん。その表情からすっごく悩んでいるのは伝わって来ちゃいました。ただ、何か色々言えない事情がありそうな予感。……となったら

「アリスちゃんって普段はあまり顔には出さないけど、意外とお節介焼きすよね。以前、ちょっとゴンドラの紐の結び方に困っていたらアリスちゃんにすっごく丁寧に教えてもらっちゃいました。」

「え? うん、そうだね。私もいつも助けられてるよ。夕食のときとか、私がソース探してるとすぐ持って来てくれるからね」

「それにアリスちゃんって、素っ気なく思えるけど、とっても感情豊かな子なんですよね。ちょっと前に私がパリーナ造ってるときにですね――」

「……うん、私もそう思う。アリスちゃんはね――」

 私がアリスちゃんの良い所を褒めていくとアテナさんもそれに釣られてアリスちゃんの可愛い所を次々と上げていきます。その表情はまるで自分の子供を自慢するお母さんみたいにも見えてきちゃいます。

 

「アリスちゃんが成長するのが怖いんですか?」

 そして、私はアテナさんが何について悩んでいるのかついて気付いてしまいました。アテナさんはその言葉を聞いてピクッと動きが止まりました。

「え……なんで」

 アテナさんは私の言葉を聞いて、驚いた様な表情をして……どうやら図星みたいです。

「アテナさんのアリスちゃんに対する反応で分かっちゃいました。アリスちゃんをすっごく大事にしてるの」

「なんだかそう口にされると恥ずかしいかも……でも、そうね。アリスちゃんはとっても大切」

 アリスちゃんの話している表情から、本当にその通りなのがよく分かります。そしてそれと同時に

「でも、アリスちゃんのゴンドラの操縦技術はもう」

「うん、そう……」

 それは私でもよく分かりました。アリスちゃんのゴンドラに何回か乗って、自分でゴンドラを運転すれば私でも察することが出来ます。

 アリスちゃんのゴンドラ技術はすっごく上手。まだ両手袋だけれども、あの三人の中でも一番かもしれません。

「でも、アリスちゃんにはもっとゆっくりと成長して欲しいの」

 そう言うアテナさんの表情は何とも複雑なものでした。アリスちゃんの成長を良く知るからこその嬉しさ。でも……早すぎるという気持ち。

「成程……」

「そうなのよ、う~ん」

 私が真剣に頷くと、アテナさんから可愛い唸り声が返ってきました。

「そういうのってアリシアさんとか、晃さんに相談しないんですか?」

「二人にも相談したいんだけどね」

 そう言うと寂しそうに呟きます……何やら訳あり?

「もしかして、私余り聞いちゃダメな感じですか?」

「……でも、これはことりちゃんに言い当てられちゃったからね」

 そう言うとアテナさんは可愛らしく舌を出して来ます。それで良いのかなぁ? でも、いろいろとお世話になりっぱなしのアテナさんのお悩み。何とか私も役に立ちたいけれど……。

 思わず私は唸りながら手を前で組みます。ゆっくり成長してほしい……なんだか、大人なお悩みです。

私は、そんな事考えたことも無かった。ミューズで活動していた時は廃校をなんとかするために皆で練習と、衣装つくり……他にも色々、ラブライブのために沢山頑張ってた。練習して、成長すればするほど嬉しい。

 でも、それは大人達から見たらどこか危なっかしく見えるのだろう。私達も目的の為に無茶を少ししているのはよく分かっているから大切な「何か」を見落としてしまうかもしれない。アテナさんはそれを不安がっていました。

でも

「アリスちゃんは大丈夫だと思いますよ」

 私は思わずそう言い切っちゃいました……正直、自分でもびっくりするくらいのハッキリした声。その言葉にアテナさんも思わず目を見開いていました。

「そう?」

「はい、だってアリスちゃん。練習してるときもすっごく楽しそうですから」

 アリスちゃんとは時々会って会話することも、時々一緒に練習することも多い。その時、いつもアリスちゃんは楽しそうですから。

「……うん、それは私も知ってる。あの三人は凄く仲が良いよね」

「だから、例えちょっと駆け足で成長しても、大切な物を見落としたりはしませんよ。例え落としそうになっても灯里ちゃんが拾ってくれます」

 そう確信をもって呟きました。アテナさんはそんな私を見て黙った後、軽く微笑みました。

 

 

 

 

「……ことりちゃん、ごめんね?」

 カフェを出た後、私達はゴンドラが置かれているサンマルコ広場に向かって歩きます。その途中、アテナさんがぽつりと呟きます。

「いや、全然大丈夫ですよ。私の経験には無い相談だったから戸惑っちゃいましたけど……」

「うん、そうだよね。変な相談しちゃったよね」

 そう言ってちょっと肩を落とすアテナさん。私より大人なのにその仕草は子供っぽくてちょっと可愛らしいです。

「いやいや……でも、アテナさんがアリスちゃんの事よく考えているのが分かって、なんだか私も勉強になった気分です」

「そうなの? 勉強?」

「はい」

 実際アテナさんの話は今までの私とは違う視点の話でなんだか新発見って感じでした。

 穂乃果ちゃんの事をよく心配することがあった私ではあるけれど、アテナさん程考えてはいない気がします。

「でも、私も昔はこんな悩みなんて考えたこと無かったよ。皆とずっと三人で練習して、一人前を目指してた」

「そうですよね。私もそんな感じだし」

「? ことりちゃんも、何か目指してるの?」

「あ、いや、何でもないです」

 私の事情を余り知らないアテナさんは不思議そうに首を傾げます。

 その様子を見て私は何気なく空を見上げました。サン・マルコ広場の鐘楼が夕暮れの赤光に染まってとても良く映えています。

 それを見ていると思わずアテナさんの相談を思い返してしまいます。

 駆け足で成長していくことの不安……実際今まで私はそんなこと考えたこと無かった。

 

 私は? 駆け足で大切なものを見失っていない?

 

 ふと、そんな声が私の頭に響きます。海外留学か、μ'sのことか……それにずっと悩んでいた自分はどうだったんだろうか。大切な物を見落としていたのだろうか……。なんてついつい考えてしまうのだった。

 

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