水の都とことり   作:雹衣

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第36話

「うわぁ」

「うふふ、凄いわよね」

 ゴンドラを漕ぎながら、私は思わず声を上げてしまいました。ネオ・ヴェネツィア全体が様々な装飾が彩られ、何時も華やかに見える街並みは普段以上の活気に満ちています。

 水路にはいつも以上に沢山のゴンドラが浮かんでいて、橋の上などを見ていても観光客の数は目に見えて多いです。

 ネオ・ヴェネツィアにそこまで長くいた訳ではないけれど、いつもと違う光景に私も浮かれた気持ちが湧き上がってきます。その気持ちが顔に出ているのか、私の隣にいるアリシアさんも嬉しそうに微笑んでいます。

「ヴォガ・ロンガは秋の一大イベント。これ目当てに来るお客様も多いのよ」

「確かに! ゴンドラが沢山あってなんだかワクワクしてきちゃいます!」

「うふふ、そうね」

 私が思わず顔をほころばせて辺りを見ていると水路に浮かぶゴンドラの間から手を振る姿がありました。見覚えのある水先案内人(ウンディーネ)の制服を着た女の子が嬉しそうに手を上げています。

「あ、ことりちゃん。こっちこっちー!」

「お、ことり……っとアリシアさん!」

「こんにちは」

 近づいてみるとそこには灯里ちゃん、藍華ちゃん、アリスちゃん。いつもの三人です。

「あらあら、皆で揃ってるのね」

「はい、今年はアリシアさんも参加するんですか?」

 アリシアさんは藍華ちゃんの言葉に微笑みます。

「いえ、今年は見学。皆、頑張ってね」

「はい! さあ、頑張るわよ二人共!」

 藍華ちゃんはアリシアさんの返答に嬉しそうにした後、灯里ちゃん達に向き直ります。灯里ちゃんはそれに苦笑いで応えています。

「藍華ちゃん、今年もやる気いっぱいだね」

「そりゃそうよ、アリシアさんが見てくれてるんだもの。しっかり気を引き締めないとね」

 私の言葉に藍華ちゃんは腰に手を置いてちょっと胸を張って答えてくれます。すっごくやる気満々です。

 それに対して灯里ちゃんは「おぉー」なんて間延びした声を上げています。いつも見てる灯里ちゃんな感じ。お祭りであってもそんなに緊張した様子はありません。

「灯里、『おぉー』じゃないの。前回はほんとにギリギリのゴールだったんだから今回は……まあ、制限時間ギリギリよりは早くゴールするのよ」

「はひ、頑張ります」

 藍華ちゃんからビシッと指をさされ、灯里ちゃんはまるで右手を持ち上げて敬礼のポーズをしていました。

 そんなコントみたいなやりとりをアリスちゃんはいつものように眺めています。

 私はふとアリスちゃんの方に近づいて話しかけます。

「ねえ、アリスちゃん」

「はい、何でしょうか、ことりさん」

「アリスちゃんはヴォガ・ロンガに参加したことある?」

「はい、オレンジぷらねっとに入る前ですけど」

「そうなんだ。じゃあ、私だけが初めてかぁ」

 アリスちゃんにヴォガ・ロンガについて聞いてみましたが、アリスちゃんも参加したことがあるみたい。

「ことりさん。そんなに緊張しなくても問題はないですよ」

「そうなんだけどねぇ」

 アリシアさんも灯里ちゃん皆そう言ってくれるけどなんだかんだと不安はぬぐえません。

 そしてそんなお話をしているとその間に藍華ちゃんが割り込んできます。

「後輩ちゃんもよ! しっかりやりなさいよ! 水先案内人(ウンディーネ)の昇格試験も兼ねてるかもしれないんだから」

「本当にでっかい気合入ってますね……あと、それはあくまで噂ですよね。藍華先輩」

 アリスちゃんはそんな藍華ちゃんの様子を見てジト目気味に答えているのでした。

 

 

 

『さあ、今年もやってまいりました。ネオ・ヴェネツィアの晩秋を飾る一大イベント――』

 空から響いているアナウンス。空を飛ぶエアバイクから降って来る色とりどりの紙吹雪。街道では、沢山の人が旗を振っています。そして海の上には見渡す限り一杯の舟が並んでいます。

 ヴォガ・ロンガ開始まで後数分。私は灯里ちゃん、藍華ちゃん、アリスちゃんと一緒に舟を並べています。

「よし、灯里。私に付いてきなさいよ!」

「……は、はーい。頑張ります」

 藍華ちゃんはすっごく気合が入ってて、それに灯里ちゃんは苦笑いしながら返します。アリスちゃん一見するといつも通り、ただアリスちゃんも少し緊張していそうです。

 アリシアさんはヴォガ・ロンガには参加しないので、街道の群衆に混じってアリア社長を抱えながらニコニコと笑っています。

 そんな中私はオールの持ち方の確認、あと、ヴォガ・ロンガのコースを頭に思い浮かべ、確認などをしていました。

「ことりさん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫大丈夫。ただ、迷わないか心配で……」

 アリスちゃんに心配されて正直に話します。

「まあ、私達に付いてくれば迷うことは無いと思います。そこはでっかい問題ありません」

「う、ううん。そうなんだけど、皆に付いていけるかな……まだまだそんなに速くないし、もし遅れ始めたら」

「ことりさん。大丈夫です」

 私が思わず不安を呟くと。アリスちゃんは何時も通りに呟きました。

「安心して下さい」

『では皆さん、いよいよスタートです――!』

 アリスちゃんの言葉はスタートの合図で遮られてしまいました。私もその合図で顔を引き締めてオールを握りなおします。

 周りの舟たちはその合図と同時に舟を漕ぎだしました。姫屋、オレンジプラネット、知らない制服……沢山の水先案内人(ウンディーネ)さん、恐らく私より歳上のお姉さん。立派なひげを蓄えたおじさん……沢山の人達が皆楽しそうに漕ぎだします。

「さ、行くわよ。灯里! 後輩ちゃん! ことり!」

 それに負けじと藍華ちゃんは一度私達を見た後、意気揚々と漕ぎだしました。

「はひ! ようし頑張るぞー! ことりちゃんも頑張ろうね!」

 灯里ちゃんも楽しそうに笑顔を浮かべて、藍華ちゃんの後に続きます。

「……灯里先輩も藍華先輩も、ことりさんのことよく見ていますから」

 そして最後にアリスちゃんはゴンドラを漕ぎ始めます。

「さ、行きましょうことりさん。藍華先輩たちが先に言っちゃいますよ」

「……うん! よし、南ことり行きます!」

 私はアリスちゃん達を追ってオールを動かし始めます。

 私達の前には、三人の水先案内人(ウンディーネ)。明るい笑顔で漕いでいる彼女たちの姿は本当に眩しくて――なんだか羨ましい位輝いて見えました。

 

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