水の都とことり   作:雹衣

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第47話

「……」

 火星(アクア)の寒い乾いた風が吹く冬の日。私は空を見ながらテラスに座っていました。

 すっかりネオ・ヴェネツィアは冬真っ盛り。そんな寒空の中私はマフラーなどをせずにただ座っている。

 ……ただ、私の大切な友達を待つために。

 

 

 

 私の友達。ことりちゃんは突然私達の前からいなくなった。誰にもお別れを言わず、まるで吹き抜ける風の様に、最初からいなかったかのように……。

 ことりちゃんの姿がいなくなった日。私とアリシアさん。それに皆と一緒にネオ・ヴェネツィア中を探し回った。

 けれどもことりちゃんは何処にもいなかった。

「灯里―!」

 ふと、誰かに呼ばれ、テラスから下を見る。そこには藍華ちゃんとアリスちゃんの2人の姿がありました。

「何やってるのよ!」

「藍華先輩。あまり強く言うのは……」

 藍華ちゃんは窘めているアリスちゃんの言葉を無視して上を向いて不機嫌そうに口をへの字にしています。

「分かってるわよ。ことりがいなくなって落ち込む気持ちもよく分かる……けど、流石にずっと落ち込みすぎ!」

 藍華ちゃんが不満を露わにそう声を出した。

 藍華ちゃんの態度の理由は分かっている。ことりちゃんがいなくなってからもう2週間。私はその間ことりちゃんの事であまり練習に身が入らなかったから。ことりちゃんを探す事にずっと注力していた。

 ……藍華ちゃんもアリスちゃんもそんな私に暫くは付き添ってくれたが、流石にずっと練習してないことに藍華ちゃんは不満が溜まっているみたいだ。

「藍華ちゃん、ごめんね。ちょっと、あまりやる気が出なくて」

「それは分かってるって……ただ、いつまでも落ち込んでいたってしょうがないでしょう。元々どうやって来たのか分からなかったんだし、いきなり帰るってこともあるわよ……ことりだって帰れる時間が自分で分かっていたなら挨拶してくれたでしょうしね」

 そう藍華ちゃんは悲しそうに呟く。彼女も私と同じようにことりちゃんがいなくなったことを気に病んでいる。でも、彼女はその気分を私よりも早く持ち直した……いや、私も藍華ちゃんの言っている事はよく分かっているのに、向き直れないだけ。

「それは……分かってるんだけど」

「……ごめん、灯里。ちょっと言い過ぎたかも。でもちゃんと練習には出てきなさいよ」

 そう言うと藍華ちゃんはくるりと身をひるがえします。アリスちゃんは藍華ちゃんと私を交互に見た後、私に困ったような眉をしながら向きます。

「灯里先輩、藍華先輩も別に怒っている訳ではないんです」

「うん、アリスちゃん大丈夫。藍華ちゃんが私を心配して言っているのは分かってるから」

 藍華ちゃんはことりちゃんを探すとき、とても真剣に探していたのはよく知っている。藍華ちゃんもことりちゃんがいなくなってとても傷ついていた。

 それでも彼女は頑張って前を向いた。

 私は小さく白い息を漏らしながら机に置いたノートパソコンに触れる。

 けれども、私はまだ向き直れずにいる。

「ことりちゃん、どこいっちゃったんだろう……」

 ノートパソコンを触りながら呟く。

 本当に、どこへ行ってしまったのだろう。

 私はそんなことを考えながらパソコンを触る。

「……そういえば」

 ふと、昔ことりちゃんから聞いた言葉を思い出した。ことりちゃんと世間話をしている時に聞いた単語に過ぎない。けれどもふとその単語をパソコンの検索エンジンに入力する。

「『スクールアイドル』」

 その言葉を調べるとぶわっと情報が溢れる。それを見て驚いた……確か、前にことりちゃんの言っている事を調べた時はそんなにヒットしなかったはず。

「スクールアイドルとは、2000年代前半に日本を中心として流行した女子高校生によるアイドル……」

 サイトを眺めて概要を見る。大体ことりちゃんから聞かされたとおりの内容が書かれていてたくさんの写真が一緒に貼られています。女の子たちが色とりどりの衣装を着て笑顔で踊る女の子。その楽し気な様子に私も思わず笑みを浮かべちゃいます。

そしてサイトを眺めているとある一か所に目が留まりました。

「μ’s」

 それはスクールアイドルの1つ。9人の女の子で構成されているグループ。その1人に私は見覚えがありました。

「ことりちゃん……」

 9人の中で笑顔を浮かべて踊る女の子。ついこの前まで一緒にいた……間違えるはずがない女の子……ことりちゃんが写真の中にいました。

 

「……『μ’sはラブライブ!に優勝後、アメリカニューヨークでライブを行いスクールアイドルの知名度向上に貢献』」

 私はずっとスクールアイドルに……μ’sについて調べ続けていた。タイムズスクエアで和風な感じの衣装を着て踊ることりちゃん。日本の大きな街の中で踊ることりちゃん。

 調べれば調べる程、たくさんの知らないことりちゃんが出てきた。

 そして最後に

「『その後、μ’sのメンバーの1人南ことりはヨーロッパへと留学。その後イタリアを拠点にデザイナーとして活躍。デザイナー以外の活躍としてはヴェネツィアなどの文化財保全活動に参加』」

 その1文と共に私に会った頃よりも大人になったことりちゃんが笑っていた。

「ことりちゃん」

 その姿を見た途端、私は思わず涙ぐんでしまった。

 ……ことりちゃんは過去に戻っていた。そして彼女は笑って過ごしていた。

「……よかった」

 目から涙が溢れる。本当に良かった。そう心から思えた。

 

 

 

「藍華ちゃん! アリスちゃん!」

「うわっ! びっくりした!」

 サン・マルコ広場の桟橋で休憩している2人の元に私は声を掛けながら近づく。

「どうしたんですか、灯里先輩」

「その、午後から練習、付き合ってくれないかな?」

 ちょっと急いで来たせいで息絶え絶えで呟くと、2人はお互いに顔を向けます。

「いきなり、どうしたのよ。灯里」

「そうですよ別に急がなくても……」

「でも……私練習したいの」

 そう呟くと2人はもう1度顔を合わせる。そして笑顔を浮かべた。

「よし、後輩ちゃん、今日時間あるよね」

「はい、今日は特に予定は入っていません」

「じゃあ、午後練やりましょうか! 灯里、久々だからって手は抜かないでビシバシいくから。覚悟しときなさいよ!」

「はひ、もちろん!」

 そう言うと3人でゴンドラに乗り込む。私はオールを手に取ると後ろに立つ。

「水無灯里、行きます!」

 そう言うとオールを動かしゴンドラで漕ぎ始める。白い息を吐きながらも真っ直ぐに前を見て青い火星(アクア)の海へと進みだす。

「灯里先輩、元気になったみたいですね」

「本当ね、さっきはあんなに落ち込んでいたのに」

「はひ……だってちゃんと私達にメッセージを残していたんです。ことりちゃんはそれがここまで届いてくれるって信じて、昔の地球(マンホーム)からお手紙を出していたんです」

「……灯里、言っている意味がよく分からないんだけど」

「だから、私達も頑張って夢をかなえて、ことりちゃんに伝えるんです。『私達も夢をかなえたんだよ』って」

「いや、だから色々詳しく……まあいいや、最後の言葉には同意するわ。灯里、夢をかなえる為に頑張るわよ!」

「はひ!」

「でっかい同意です」

 私は一際強くオールを握り、力を込めてゴンドラを漕ぎ進める。

 多分もう会えない。とっても大切な友達に感謝をしながら。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
『水の都とことり』はこれでいったん完結とさせていただきます。

この後は番外編として数話程「もしも」のお話を投稿する予定です。

完結までお付き合いいただきありがとうございました。
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