「ただいま戻りましたー……ん?」
大晦日だったりと色々なことがあり、冬がゆっくりと終わりに近づいて、春が近づいている頃……私が練習から戻るとアリシアさんがテーブルに座っていました。テーブルの上に紅茶が置かれているけれど湯気がたっていないので暫く飲んでないみたいです。
アリシアさんはテーブルの上に紙を置いています。そこに何か書かれているみたい。
「……
「あらあら? ことりちゃん、戻っていたのね」
私が思わず紙に書かれている言葉を読み上げるとアリシアさんが驚きながら私に向き直ります。
「これは……何ですか?」
その紙よく見ていくとさっきみたいな単語が色々書かれています。
「うふふ、これはね。二つ名よ」
「二つ名?」
「ええ、灯里ちゃんのね」
そう言うとアリシアさんは微笑みます。
灯里ちゃんの二つ名。そういえば以前一人前の水先案内人にはそう言うのを付けられるって聞いた気がする。アリシアさんにも「
……ん? 「一人前の水先案内人」に?
「じゃあ、灯里ちゃんそろそろ
「ことりちゃん、ちょっと静かに」
私が思わずあげた大声にアリシアさんが珍しくちょっと慌てて、親指を唇に付けて「しーっ」とジェスチャーを行います。
「ん」
「まだ少し先だけどね」
「それで二つ名を決めてたんですか?」
「ええ、灯里ちゃんにどんなのが似合うのか……考えてると決まらなくてね」
アリシアさんはそう言うと困ったように微笑みます。これもまた普段のアリシアさんには見られない珍しい表情。
「アリシアさんも悩むことあるんですね」
「あらあら、もちろんあるわよ。私も初めての事ばかりだもの……そうだ、ことりちゃんも考えるの手伝ってくれるかしら?」
そう言うとアリシアさんは紙を1枚、テーブルに置きます。
「え!? 良いんですか? 私なんかが」
「あらあら、もちろんいいわよ、ことりちゃんはもうARIAカンパニーの一員だもの」
「ARIAカンパニーの一員……」
「ええ」
アリシアさんの言葉を聞き、私は思わずその言葉を反芻します。
アリシアさんの何気ない言葉、でもそれを聞いて胸が少し熱くなる。私がちゃんとここの居場所に居て良いと言ってくれた様で……それがとても嬉しかった。
「じゃ、じゃあ、私も考えようかなぁ」
「ふふ、一緒に素敵なのを考えましょうね……そうだ、紅茶を淹れなおすわね」
私の言葉を聞くとアリシアさんは嬉しそうに立ち上がって鼻歌を混じりにキッチンへ向かいます。
……けどそっか灯里ちゃんももうそろそろ一人前になるんだ。別に離れ離れになるわけじゃないんだけど、そう言葉として聞くとなんだか寂しくもなります。
アリシアさんももしかしたら今そんな気持ちなのかな?
「うーん、二つ名かぁ」
私はアリシアさんと顔を合わせてペンを持って考えます。とはいえすぐにアイディアは思いつかずアリシアさんが用意したお茶菓子を口に含みつつ思案し続けます。
アリシアさんもあまり顔に出してはないけれども手はあまり進んでいないみたいです。
「ニコニコ太陽……これはちょっと違うか、
「ふふ」
私が頭を悩ませつつ紙に書いていると不意にアリシアさんから笑みが零れました。
「な、なんですか」
「ことりちゃんの書いている言葉を見てるとことりちゃんから見た灯里ちゃんが分かって、それがなんだかおかしくてね」
「う」
そう言われると私はなんだか気恥ずかしくなって紙を隠します。……確かに、灯里ちゃんを見て思い浮かべる単語が色々書いているのだから、それを見れば私からの印象は丸わかりです。
「ことりちゃんからすれば灯里ちゃんは太陽みたいなものなのね」
「……えへへ」
恥ずかしそうに頭を掻くとアリシアさんも嬉しそうに笑います。
「でも分かるわ。彼女がいるだけで皆が明るくなる……本当、まるで太陽みたいね」
「うんうん……あれ? でもアリシアさんの書いている文字は……」
何気なくアリシアさんの方を見てみると彼女の書いている文字は私とは違います。どっちかというと「青」とかそんな感じの文字が多めです。私はいつも落ち着いている海未ちゃんとかのイメージがするけれど、アリシアさんにとっての灯里ちゃんのイメージはそっちの色合いが強いみたいです。
「ふふ、1人の人間の事なのにこうやって見てみると案外思っている印象は違うものね」
そう言うアリシアさんは楽しそうです。いつもは大人っぽいのにその表情はどこか子供みたいです。
「本当、灯里ちゃんは不思議な子ね」
「ふふ、私もそう思います」
そう言うと私達は顔を見合わせて2人で笑い合います。灯里ちゃんの明るい表情、楽しそうに歩く姿……それを思い出すとなんだかこっちまで楽しくなってきちゃいます。
「ただいま戻りましたー、あれ?」
丁度、灯里ちゃん外から戻ってきました。そして2人して笑っているのを見て不思議そうに私達を見ます。
「な、何かいいことあったんですか?」
「ふふ」
不思議そうに尋ねる灯里ちゃんにアリシアさんは人差し指を唇に当てて片目を瞑ります。そして私にウインクを1つ。どうやら灯里ちゃんにはまだ秘密にするみたいです。
「はい」
私もそれに笑みを浮かべながら同意します。
「えぇ、2人共、何の話してたんですか」
「ふふ」
「それは後のお楽しみよ」
「えぇ~」
不思議そうに首を傾げる灯里ちゃんに私達はまた笑い合うのでした。