暑い暑い夏本番のネオ・ヴェネツィア。空に浮かぶ大きな大きな入道雲。清々しく青くて綺麗な広い空。
そんな下ですっかり慣れた3人の練習風景。
「今日も暑くなりそうだねー」
「んー」
灯里ちゃんは笑顔を浮かべ広い広い青空を見上げながらオールを握っていつもの様に楽しく笑う。逆に藍華ちゃんはどこか呆けたような表情で水面を見ていた。
……なんというか心ここにあらずといった感じ。
「今日も皆で練習頑張りましょう!」
「うん、今日も頑張ろうね」
「……」
私達の声を聞いて藍華ちゃんは少し体をびくっと震わせて黙ってしまいます。その並々ならぬ反応に私と灯里ちゃんは目を見合わせます。
「あ、あの……」
「どうしたの? 藍華ちゃん」
「私、明日から練習には出られないの……」
藍華ちゃんのその言葉に私と灯里ちゃんは目を合わせます。思い至ったのは晃さんから聞いた話でした。
晃さんは藍華ちゃんに昇格試験を受けさせようとしていた。ということは。
「……ごめん」
私達が黙っていると藍華ちゃんは膝を掴んで席に座り、そう呟きました。……瞳には涙を溜め、今にも泣きだしそうな表情で。
「なんで謝るの? 藍華ちゃんはこの日を夢見てに頑張ってきたんじゃないっ!」
そう言うと藍華ちゃんの腕を灯里ちゃんは掴み、心の底から嬉しそうに笑みを浮かべます。
「
「……ありがとう、灯里ならそう言うと思っていたわ」
藍華ちゃんはそうやって喜ぶ灯里ちゃんを見て微笑み返しました。
「それともう一つ言っておかないといけない事があるの」
「……ん?」
「あら、そうなの。藍華ちゃんが
「はいっ!」
その日の夜、夕食の席でアリシアさんと今日の藍華ちゃんの話題になりました。アリシアさんはその言葉を聞いて少し驚いた様に目を丸くした後、嬉しそうに笑います。
「あらあら、それはとっても嬉しい大ニュースね」
「はいっ」
「じゃあなんて通り名になったのかしら」
「
「へー、それに決めたのね、晃ちゃん」
うふふと穏やかに笑いながら灯里ちゃんの話を楽しそうに聞くアリシアさん。ずっと新人の頃から見てきた藍華ちゃんの成長がとても嬉しいことが見て分かります。
「晃ちゃん、ずっとどんな通り名にするか悩んでたから」
「へぇ、そうだったんですね」
アリシアさんの言葉に嬉しそうに相槌を打つ。
……そう言えば少し前にアリシアさんも灯里ちゃんの通り名について悩んでいたことを思い出します。
「――今度、姫屋の支店が――」
灯里ちゃんが藍華ちゃんの話をしているの笑顔で聞きながら一瞬私に目を向けました。そして灯里ちゃんの言葉は
「すごいですよね、あの若さでお店を任されちゃうなんて、流石藍華ちゃん……でも何でだろう、すごくうれしい事なのに――」
そう言うと灯里ちゃんは嬉しそうにしながらも顔を伏せます。
今まで切磋琢磨していた2人が
……けれどその結果皆と一緒にいられる時間は大きく減ってしまう。皆と練習をしていた輝かしい楽しい時間をずっと夢見ていたくなる。
「灯里ちゃん」
そんな灯里ちゃんの心を知るかのようにアリシアさんは一度目を閉じます。短いけれど、深い憂慮の時間。そして目を開けるとアリシアさんは呟くように、けれどもハッキリと聞こえる声で呟きました。
「明日、
「……はいっ」
それに対して灯里ちゃんは力強く返事をしました。