艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 自己紹介のための挨拶回り。


第97話 I'll be making the rounds to introduce myself.

 

 

 一方その頃───。

 

 

 

 

「まったく、ちとやり過ぎだよ若いの」

 

 

「ご、ごめんなさいぃ…」

 

 

 タップリ30分間正座でコッテリと絞られに絞られて、涙目でシュンと小さくなっているアンドロメダ。その周りには大切な妹分に御慈悲をと懇願しながらオロオロとしている駆逐棲姫。下手に口を挟んで飛び火することを恐れ、嵐が過ぎ去るのをジッと耐え凌ぐ様にして待つ艦娘天龍の姿をしたアポロノームや、海軍の軍服に身を包んだ春雨(ハルサメ)姉妹が控えていた。

 

 

 その春雨(ハルサメ)と海風(ウミカゼ)であるが、港湾管理人として入港作業に関する監督作業を一段落させたArena(アリーナ) Rimskaya(リムスカヤ)こと、港湾夏姫と何やら話し合っていた。

 

 

「まぁいいさ。時(・)間(・)は(・)稼(・)げ(・)た(・)。本題に入ろう。作業は予定通り進められそうかい?」

 

 

 入港した艦隊の注目は土方達に向いている。こちらへの耳目は向けられていない。

 

 

「そちらからの贈り物の入ったコンテナの荷下ろしは間もなく始めるわ。初めての事だから安全第一で慎重にやらせて貰うけど、まぁそこまでの遅れは出ないと思うわ」

 

 

 霧島(キリシマ)の問に港湾夏姫が答える。

 

 

 護衛艦『かが』、そして新ロシア連邦(NRF)艦隊の補助艦艇が港に接岸し、現地民への贈り物という名目で医薬品や生活物資、特に最近各種書類仕事が増大した事により不足している紙や筆記具などの物資を提供する事となっている。

 

 それらはコンテナに詰められ、港湾夏姫の艤装の一部として稼働している港湾設備のガントリークレーンや補給艦のクレーンなどを使って荷下ろし作業となる。

 

 本格的な荷下ろし作業はこれが始めてであり、この結果で得た教訓や問題、その解決策などを他の港湾型の同胞(はらから)達にも広める事への熱意と責任感によるプレッシャーからか、少しばかり緊張している。

 

 

「運搬用のトラックも下ろされ、旧サイパン国際空港の指定された場所へと随時搬入作業開始となります。

 

 その後、荷下ろしの終わった6個のコンテナを指定されたハンガーまで移動させます」

 

 

 春雨(ハルサメ)が通信タブレットを片手に報告を上げた。

 

 

 アンドロメダ姉妹の艤装は旧ソ連が開発・製造していたジェット戦闘機MiG-21に匹敵するサイズという、他に類を見ない巨大な艤装である。

 

 そのまま運び出すとなると人目についてしまう。そのため艦隊から住民への慰問という名目で放出するために降ろした物資の入ったコンテナに、返礼品として生成食糧を詰めて戻す事になったのだが、そのコンテナに紛れ込ませる算段を立てていた。

 

 しかし、ここまで巨大だとコンテナの中が青い狸…もとい、青い猫型ロボットのポケットみたいに四次元空間でもなければ、物理的に入らない。

 

 

 この問題は最初から分かっていた事もあり、解決策も考えている。

 

 

「予定通り、艤装の艦首武装ユニットを左右両方とも取り外す準備は出来ております」

 

 

 彼女達の艤装は3つの主要ユニットで構成された実質三胴船状態で、それらはより細かい区画のブロック構造で構成されていた。

 

 二連装次元波動爆縮放射器、40.6センチ三連装収束圧縮型衝撃波三連装砲塔、各種ミサイルと魚雷の発射管といった武装の殆どが、左右に分かれた艦首を模した“艦首武装ユニット”に集中しており、その艦首武装ユニットに挟まれる様にして嘗ての艦橋と言える、アンドロメダが搭乗し操作する操縦区画や睡眠などの休息時に使用するタンクベッドなどのキャビン設備がある指揮中枢区画、その真後ろに波動エンジンが収まった機関区画と艦載機運用区画が存在する“中央ユニット”の3つで構成されている。

 

 アポロノームだとこれに“航空艤装ユニット”が追加され、4つ構成となる。

 

 

 これらの各区画はそれぞれブロック構造であり、必要に応じて取り換えが可能となっているが、基本的に区画に関して言えば専用設備がなければ取り外しが出来ない構造となっていた。

 

 但し、例外として主要の3つの各ユニット、アポロノームの場合は4つは、その連結する接合部を任意で解除する事が可能となっている事が判明していた。

 

 事実、アポロノームがサイパン島へと墜落したあの日、火災により誘爆の危険性のあった航空艤装ユニットを緊急用の爆発ボルトによって接合部を強制的に切り離した事で、爆発四散する事態を免れていた。

 

 

 とは言え爆発ボルトは緊急用の最終手段である。接合部の連結を安全に切り離すシステムが備わっており、後方に送らずとも予備のユニット、若しくは戦闘続行不可能となった同型艦の無事なユニット部分が有れば、前線での二個一修理の様に迅速な取り換えによる戦線復帰が可能となっていた。

 

 まぁそのためには取り外しと取り付けを手伝える工作艦などの支援体制が必要となるが…。

 

 また問題点として───。

 

 

「問題は俺の艤装だ。墜落して大破した影響で接合部が変に歪んじまってる。アナライザーにも確認してもらったがシステムも完全にオシャカになってるし、爆発ボルトを使ったら逆に他への余計なダメージが出そうだから、もう切断するしかねぇって事になった」

 

 

 接合部が無事である事とシステムが正常に作動する事が前提であり、余りにも損傷が酷いと後方に送るしかなくなる。

 

 だが今回ばかりはなんとしても切り離す必要があるため、多少強引にだが春雨(ハルサメ)達の協力を得て、夜半に接合部を溶断する手筈である。

 

 

 具体的には4inch(インチ)連装主砲、若しくはパルスレーザーの連続照射によって焼き切る算段であるが、それで駄目なら波動防壁を波動噴霧砲を備えた艦首部分を模した小銃型艤装の先端に集中展開し、擬似的な銃剣として切断する事も考えている。

 

 

 これらの作業にはかなりの集中力と緻密さが要求されるため、春雨(ハルサメ)と海風(ウミカゼ)の両名が執り行なう事になるのだが、こと波動防壁の銃剣利用に関しては夕立(ユウダチ)が姉妹の中で最も卓越した技量を誇っており、意外なほど繊細な器用さを持っているため、期待されている。江風(カワカゼ)もそれなりの技量を有しているものの、少しばかり力技に頼りがちな傾向にあって心許ないため、3人のサポートに徹する事となっている。

 

 

 

「よし。やる事の確認が済んだんなら、さっさと仕事に取り掛かるよ!」

 

 

 パンパンと手を叩き、各々の仕事に向かわせた。

 

 

 とは言ったものの、本格的な作業は夜からであるため、アンドロメダは取り敢えずそれまでの間は書類仕事…と思ったのだが、霧島(キリシマ)に「それはラ級の嬢ちゃん達に任せな」と言われ、海軍少尉安藤明衣としてアポロノームと駆逐棲姫と共に挨拶回りをすることとなった。

 

 春雨(ハルサメ)と海風(ウミカゼ)は港湾棲姫と艤装ユニットの夜間の運搬や積み込み作業に関して、詳しく打ち合わせを行なうために別行動となった。

 

 

「おう、田沼の坊や!アンタは留守番かい?」

 

 

 アンドロメダは軽く頭痛を覚えた。

 

 

 霧島(キリシマ)が最初に声を掛けたのは、島の司令部拠点であるサイパン国際空港へと移動した土方司令と飛行場姫達とは違い、南方棲戦姫と空母棲姫と共に港に残っていた田沼徹少将だった。

 

 

 日本艦隊を含む派遣艦隊全体の最高責任者は土方司令だが、その日本艦隊を取り纏めているのが田沼少将だ。そして派遣艦隊を構成する新ロシア連邦(NRF)艦隊はオブザーバー的な立ち位置であるため、田沼少将は派遣艦隊の実質的なNo.2と言える。

 

 それ以前に、霧島(キリシマ)は一応日本海軍での扱いは霧野島子特務大佐という一佐官に過ぎず、将官であり日本海軍で最大の艦娘戦力を収容・運用可能な母艦『かが』を旗艦とする主力艦隊、第4水上艦隊の司令である田沼少将とは格が違うのだ。

 

 

「あぁ、霧野さん。お久しぶりです。はい。土方司令から艦隊で待機する様に命ぜられました。

 

 …そちらのお嬢さんが例の?」

 

 

「ああそうだよ。折角だから今のうちに顔合わせくらいしとこうと思ってね」

 

 

 それなりに良好な関係であったとしても、“親しき仲にも礼儀あり”というものがあるのでは…?特にこういった公然の前では…。そう思うアンドロメダだったが、当の田沼少将は全く気にした素振りを見せる事なく、寧ろ同格者に近い態度で接していた。

 

 お付きの艦娘も特にこれといった反応を示さなかったため、どうやらコレが普通の、いつも通りなのだと納得する事にした。

 

 …ただ、そのお付きの艦娘、駆逐艦清霜はこちらを一目見るなり少しばかり目を見開き、こちらを観察するかの様な注意深い目つきへと変わった。

 

 清霜の態度に対し、駆逐棲姫がムッとした表情を浮かべて清霜に牽制を掛けたが、当の清霜はそれに気付いていない様だった。

 

 

「はじめまして安藤少尉。海軍第4水上艦隊司令兼艦隊旗艦『かが』艦長の田沼徹少将だ。君の事は土方司令から聞いているよ」

 

 

 清霜の目が少々気になるが、田沼少将が手を差し伸べながら自己紹介を述べたので、清霜の事は一旦脇に置いて思考を切り替える。

 

 

「はじめまして田沼少将閣下。

 

 閣下の御活躍はこの地でも有名でしたので、お会い出来て光栄です」

 

 

 にこやかな微笑みを浮かべながら差し伸べられた手をしっかりと握って握手をするが、田沼少将の顔は少しばかり苦笑いを浮かべていた。

 

 

「…ハハハ。私1人で成し遂げた活躍じゃないから、些かこそばゆい気分だ。

 

 土方さんや真志妻さんが率いた艦娘達の献身的な奮戦。そして『やはぎ』の仲間達が居てくれたから成し遂げられただけだよ」

 

 

 思ったよりも謙遜な答えに、アンドロメダは少し意外な気分となった。

 

 

「ですが、閣下が成し遂げられました長距離精密砲撃の功績は、閣下御自身の類い稀なる砲術の技量による比類無き腕前に依る所が大きいのも事実です。それは胸を張って誇るべきです」

 

 

 基本的に個人の技量と経験、勘に完全依存している艦娘や深海棲艦の砲術と違い、艦(ふね)自体のレーダーによる精密な索敵情報に加え、穴だらけだが衛星や高々度に展開する偵察ドローンの観測をリアルタイムで共有可能なデータリンク・システム、それらを含めた分析結果を逐一反映させる事が可能な火器管制システムによる補正という、科学技術のアドバンテージがあったとはいえ、人間サイズの標的を艦載砲で正確に何度も直撃させるには、現在の科学技術のアドバンテージ程度では足りない。不可能だ。というのがアンドロメダ達がメインサーバーも使って何度もシミュレートを繰り返して出した結論だった。

 

 

 その足りない部分を個人の技量で補い、不可能を可能にした非凡の才能に依る所が大きい。だからこそその自身の技量に対して確固たる、人一倍の自信を確立している自信家だと思っていた。

 

 

 自分達の歴史ではこの時期は大きな戦乱が無く、恐らく平穏な歴史の中に埋もれたであろう乱世の逸材。戦乱の時期だからこそ歴史の表舞台へと出てくる事が出来た、乱世にこそ輝く人物。

 

 

 それが田沼徹という男だとアンドロメダは評価していた。

 

 

「無論だ。砲術に関しては誰にも負けん!」

 

 

 砲術への惜しみない賞賛の言葉に、当然とばかりに胸を張って自信に満ちた声量で答えた。矢張り砲術に関しては人一倍自信家であるのは間違いなさそうだ。

 

 それでもある程度の線引きは出来ている。でなければ先の「1人で成し遂げた訳では無い」との言葉は出て来ない。

 

 

「ちょっと話しただけでも分かった事だけど、過信じゃないわ。相当な実力に裏打ちされた確かなものよ。正直、前衛を艦娘で固められ、後方から正確無比の砲撃支援に徹せられたら、私じゃ被害覚悟の物量で押し切る以外に勝ち筋は見えなかったわね」

 

 

 そう言ったのは南方棲戦姫である。

 

 

 勝ち気で好戦的とすら言える彼女が実質「マトモにやったら勝てない」と断言した事に、軽巡艦娘天龍に偽装したアポロノームが小さく「だろうな…」と漏らしたのが聞こえた。

 

 アポロノームは彼女、南方棲戦姫とは親友と言える仲でもあるが、同時に彼女の実力を高く評価していた。

 

 しかしアポロノームも冷静に田沼の実力を評価していた。

 

 

 その砲撃精度は最低でも完全編制の艦娘一個打撃艦隊──高練度の主力級戦艦艦娘及び空母艦娘を中核とし、編制人数と必要な武器弾薬等の各種装備が充足している重打撃部隊──の戦力価値に匹敵する。

 

 

 それがアンドロメダとアポロノームの2人が出した田沼徹少将に対する戦力評価の結論だった。

 

 

「今でも艦載砲装備の艦(ふね)に乗りたいとのお気持ちがあるのですか?」

 

 

 この問いに田沼は一瞬ではあったが、少し渋い顔になる。痛いところを突かれたという顔だった。

 

 

「…本音を言わせて貰えば、な。だがそれはそれで嫌な顔をする連中がいるからなぁ。

 

 下手すると飼い殺しにされていたかもしれなかったから、正直真志妻さんに引っ張り出されて助かったと思っているよ」

 

 

 言葉を濁している。しかしその濁した部分が答えだ。

 

 

 彼の成し遂げた功績。嘗ての首都東京を急襲した深海棲艦に対する送り狼で、その指揮を執っていたであろう姫級に砲撃で一泡吹かせただけでなく、痛撃を与えたのだ。

 

 首都を焼かれたという戦略的敗北の事実は消せなくても、その衝撃の大きさを和らげて国民の目を逸らすには充分過ぎる“英雄”として祭り上げるのに適した、プロパガンダの材料として使えるネタだ。

 

 

 自身が父と慕う沖田十三艦長が『第二次火星沖海戦』で“英雄”として祭り上げられた時の様に…。

 

 

 そして利用価値が薄まったり、持て余しだしたら、“英雄”は権力者達から手の平返しされて煙たがられる。

 

 

「陸(おか)の上よりも海の上がマシ。と?」

 

 

「まぁ、そんな所だ。オフィスに籠もってのデスクワークは苦手だからな。それなら艦(ふね)に乗ってるのが気が楽で良い」

 

 

 肩を竦めながら答えるその姿は、哀愁と共に悔しさが滲み出ていた。

 

 

「ですけど、閣下の今のお立場もデスクワークが必要となるお仕事ですよね?」

 

 

 艦隊を預かる者ともなれば、ただ指揮官席でふんぞり返って指揮するだけでなく、艦隊の作戦行動能力を維持するために必要な各種書類や司令部に宛てた報告書の作成。艦隊各艦からの陳情や報告書の決済と協議を参謀や担当将校と共に捌き、必要な判断を下さなければならない。

 

 さらに陸(おか)の司令部からの命令書や報告に目を通し、またもや参謀や担当将校達と協議したりと、かなり忙しい。

 

 

 山南艦長と艦隊参謀や地球司令部の参謀達が連日連夜会議や書類仕事に追われていた姿を、手伝う事も出来ずただ間近で見ていることしか出来なかったから、とても歯痒い気分でいた。

 

 しかしそのお陰で今の書類仕事に大いに役立っているのは、なんとなく複雑な気分である。

 

 

「穏やかでほんわかと優しそうな顔して、ホント痛いこと言うなぁ君は…。

 

 形だけの仕事をさせられるより、現場に関われるデスクワークならまだやる気が出る」

 

 

 これは土方から聞いた話なのだが、当初田沼少将は首都東京壊滅と同時に崩壊した軍の中枢の立て直しという名目で、現在の首都広島へと移設された司令部勤務となる話が出ていた。

 

 実際、リアルな現場を知る前線指揮官を海軍の中枢に送り込めば、軍の立て直しと共に前線と後方に存在する認識の相違や誤認。特に後方が最も認識し辛い現場の現実を突き付ける上でこの上ないチャンスと言えた。

 

 

 しかし実態は、折角祭り上げた“英雄”を失う事で起きる責任問題の回避と、国内向けに喧伝している華々しい戦況プロパガンダを否定する厳しい戦況の実態を広めさせない“口封じ”を目的とした、安全圏での抱え込みが狙いだった。

 

 適当な名称の部署を新たに設け、そこの責任者に据える。上が求める適当な仕事をしていれば戦場の最前線から離れた安全な場所で、それなりの高給取りでいられる。

 

 

 それを真志妻大将が人事部に乗り込んで「実戦経験のある優秀な士官を後方で遊ばせる余裕など、今の現場には無い!」と言って移動の取り消しを求め、激論と袖の下の末に折衷案として首都広島防衛の砦、自身のお膝元となる呉鎮守府に隣接する呉基地配備の、現存する艦艇の中で最も最大の艦娘運用能力を有する『かが』の艦長、そして第4水上艦隊の司令官に捩じ込んだという経緯があった。

 

 

 事実、AL/MI作戦の失敗は日本の海軍戦力に致命的な損耗を齎しており、本土の防衛ラインが大きく後退。水上艦隊は残存する艦隊戦力の再分配からほぼ再編成する事態となっていた。

 

 

 だがなにより人員が足りないのだ。特に艦(ふね)を指揮する艦長や艦隊司令官クラスの人材が不足していた。

 

 これは艦娘の運用が始まった当初に、兎も角艦娘運用に必要な人員、所謂提督とされる部隊指揮官を確保するために高級将校を中心に手当たり次第引き抜きを行なった。

 

 その提督の中には前線に展開する艦艇に乗艦し、指揮下の艦娘を直接指揮する者も少からず居たが、戦闘で死傷したり沈みゆく艦と運命を共にした者も少なくはなかった。

 

 

 お陰で高級将校が足りなくなった。速成教育の即席将校は使い物にならなかった。

 

 それがAL/MI作戦の失敗でより拍車を掛けた。

 

 そのため兼任業務が常態化した。田沼少将が第4水上艦隊司令と旗艦『かが』の艦長とを兼任状態となっているのもそのためだ。

 

 

 そんな中で名ばかりの役職に押し込め飼い殺しにさせるなど、到底承服出来る事は出来なかった。というのが真志妻大将の言い分であったが、同時に土方からの提言で水上艦隊との繋がりを維持するためにも、自分達と深く繋がりのある田沼を何がなんでも現場に、可能ならば近くに留め置く必要があると判断したというのもある。

 

 

 田沼としても現場を離れる事に抵抗感があったため、真志妻大将の考えに乗った。

 

 

 最終的には沖縄方面での深海棲艦の動きが活発化した事もあり、田沼の移動論争は有耶無耶となっていつの間にか立ち消えとなった。

 

 

 現在水上艦隊は横須賀の第2水上艦隊が東京を襲撃した深海棲艦による在日米軍を含む横須賀基地への徹底的な攻撃で、艦隊の母港としての基地機能を損失。予定は未定だが基地が再建されるまでは名称だけを残しての事実上の解隊状態。所属艦艇の残存艦は佐世保の第1水上艦隊と呉の第4水上艦隊に振り分けられた。舞鶴の第3水上艦隊の主力は哨戒艦が担っているが、損失と消耗によりどこもカツカツの運用が続いている。大湊に関しては民間徴用船が主力艦だったりする。

 

 

 ただ長引く戦争で老朽化や損傷によって使えなくなった艦艇が増えた事で、今度は人員が余りだして艦艇の方が足りなくなった。

 

 

 皮肉な事に艦艇が足りなくて人員に余裕が出た事で、新ロシア連邦(NRF)のウラジオストクに派遣され、現地で建造された新ロシア連邦(NRF)製の新造艦で訓練を受けられる様になった。

 

 

 その中には『やはぎ』の乗組員も居る事が分かっている。本当なら自身も参加したかっただろう…。

 

 

「ご苦労もあったことでしょう…」

 

 

 それ以外の言葉が出なかった。

 

 この一連の騒動から田沼は真志妻大将の派閥として見られる様になったが、彼からしたら些細な事であった。

 

 

「国に仕えるとはそういうものだ。軍人であるなら、そこは割り切らなくては。と、頭では理解しているンだがなぁ…。ままならんモンだよ」

 

 

 少しばかり重苦しい空気となったが、そこへ杖をついた1人の艦娘がやって来た。

 

 

 

「おお!貴様がヒジカタ閣下の秘蔵っ子のアンドー少尉か!?」

 

 

 Софи(ソフィー)少佐こと、Гангут(ガングート)である。

 

 杖をついているため足取りは少々悪いが、それでもその歩みは力強く感じる。

 

 

「新ロシア連邦(NRF)ВМФ(海軍)連絡将校のСофи(ソフィー)少佐だ。よろしく」

 

 

「はい少佐どの。ですが、秘蔵っ子というのは…」

 

 

 それはそれで悪い気はしないが、なんだか気恥ずかしい気分だった。

 

 

「ハハハ!細かい事は気にするな!ところでだ。近くに空調の効いた場所とかはないのか?」

 

 

 軽く笑い飛ばすГангут(ガングート)だが、南国特有の熱帯の気候は艦娘とはいえ、北国生まれの彼女には少々堪える様で、おなじ艦娘である清霜に比べて汗の量に違いが出ていた。

 

 …その割には凄く元気に見えるが。

 

 

「はぁ、一応ありますが…」

 

 

 後々のために港湾に関する管理記録、船舶の出入港記録や積荷関係、補給用燃料に水食糧の在庫管理などの記録、安全対策などを作成し保管するため、港湾設備の再生と並行して放棄され散らかっていた事務所の建物の片付けと整理も出来ていた。

 

 流石にパソコンなどの機材は深海棲艦達の習熟が必要なため、今は放置されているが、紙媒体の資料を保管するために空調設備を稼働させる準備は出来ていた。

 

 初の入港作業となる艦隊の受け入れのため、港湾夏姫が連れて来ていた配下の深海棲艦達や島に駐留する深海棲艦の一部が事務員として詰めていた。

 

 因みに先程別行動となった春雨(ハルサメ)達が今居るのもこの事務所である。

 

 

「よし!すぐに行こう!案内を頼む!ここは暑くてかなわんのだ!」

 

 

 “善は急げ”と言わんばかりにГангут(ガングート)に催促され、アンドロメダは最寄りの港湾事務所に詰めている深海棲艦に電話による連絡を入れ、応接室と冷えた飲料の準備などを伝えた。

 

 

 パソコンは兎も角、事務所に残されていた固定電話を一応使える様にしておいて正解だったと、アンドロメダは思った。

 

 因みに飛行場とも繋げた事で、電話だけでなくFAXによる書面のやり取りが可能となったのが、電子メールが使えない状況では非常に有り難いと、アンドロメダはつくづく痛感した。

 

 なにせ一言二言の様な簡単な内容なら兎も角、複数や複雑な内容を口頭だけのやり取りだけで伝えるには、必要な情報をキチンと伝えたか?相手にちゃんと伝わったのか?という点に不安が残る。伝言ゲームみたいに内容が変質したり、抜けたりするリスクがある。FAXだと何を伝え、伝えられたのかが紙媒体による現物としての記録が双方に残る。

 

 何より書類を持たせて飛脚や伝令の如く、一々あっちこっちへと走らせて行き来させる時間と手間が省ける。

 

 

 アンドロメダには夢がある。深海棲艦の統治する領域内全域に、FAXによる通信網を普及させたいとの夢が。無論、いずれは電子メールでのやり取りが出来る様になるのが最善ではあるが。

 

 

 閑話休題(それはさておき)。

 

 

 田沼少将も誘うが、誘われた田沼は軽く考える素振りをしてから首を横に振った。

 

 

「すまないが、そろそろ報告やら連絡やらが貯まっているだろうから、一旦艦(ふね)に戻らせてもらうよ。何かあったらお互いに連絡を取り合おう」

 

 

「分かりました。ではまた後ほど」

 

 

 乗艦へと戻る田沼と清霜を見送るが、清霜は最後までアンドロメダ達に対してずっと観察している態度だった。

 

 

 

「…姉貴」

 

 

 その背を見送りながら、アポロノームは小声で話し掛ける。

 

 

「…ええ。私が人間ではないと気付かれましたね。流石は海軍の英雄のお付きとなっています艦娘は違いますね」

 

 

 元々観察力のある艦娘であるとは聞いていた。そのため見破られる可能性は想定していた。

 

 これに対して、ずっと清霜を見ていた駆逐棲姫は少し違う見解を口にした。

 

 

「そうかもしれないけど、あの清霜って艦娘、2人の事を怖がってた感じだよ」

 

 

 アンドロメダ1人ではなく、アポロノームを含めた2人という指摘に、アポロノームは軽く肩を竦める。

 

 

「おいおい。やっぱ無理があったか?」

 

 

 そう言って自分が着ている艦娘天龍の服を摘(つま)み上げる。純正品とは違い、主計科妖精さんがOMCSも使って作った物だ。細部のデザインも可能な限り似せているが、どうしても材質の違いによる違和感が出る。そのため可能な限り使い古した感が出る様に少し草臥れた様にはしたのだが…。

 

 

「今考えても仕方ないですよ。先ずは早く涼しい場所に行きたそうにしているあのヒトの事が先ですよ」

 

 

 駆逐棲姫からの言葉と動かした視線の先に、2人は揃って「「あっ」」という言葉を漏らしながら視線を駆逐棲姫が向けた先に合わせる。

 

 Гангут(ガングート)がまだか?と言わんばかりの視線を送っていた。

 

 

 

 

「ところで、お前さん、土方さん達と一緒に行くハズだったろ?まさか置いてけぼりでも食らったのかい?」

 

 

 待ちぼうけを食らっているГангут(ガングート)に、霧島(キリシマ)がふと訪ねる。

 

 当初の予定では土方と同行する秘書艦の金剛と共に、飛行場姫の本拠地であるサイパン国際空港での会談に同席すべく移動する事となっていたハズだった。

 

 

「車が足りんのだ。私は戻って来た車輌隊に乗ってということになった」

 

 

 サイパン島には使える車輌は殆ど残っていなかった。戦乱で破壊されたのと、マトモに整備が出来ずに故障して放棄されていた。一応、まだ動く車輌はあるにはあるため、燃料などの消耗品は定期便で輸送しているが、出来る限り長持ちさせるために元々の島民である人間達が原則として使用する事とし、深海棲艦達は徒歩での移動が基本だった。

 

 

 そのため艦隊の輸送艦に車輌を載せて来てはいるが、そこまで多くの台数は載せていなかった。

 

 というのも今回の作戦は日露両国共に、その作戦の目的の一つである“深海棲艦との平和的な接触”は、ギリギリまで事情を知っているほんの一握りの関係者にしか知らされていなかった。

 

 途中で寄港する事が始めから決まっていた日本での使用を想定していると思わせる程度の、必要最小限の台数を積み込んでいただけだった。

 

 

 それでも無いよりかはマシだ。

 

 

 ここタナパグ港からサイパン国際空港まで片道徒歩で大凡4時間くらいは掛かる。車輌だと大体30分くらいで到着する。

 

 ただ舗装された道路が長年メンテナンスされていなかった影響でガタガタに荒れており、時間通りには到着しなさそうではあるが。因みにこの道路状況の悪化も飛行場姫の悩みのタネの一つだった。深海棲艦にはインフラストラクチャーを整備維持管理するために必要なノウハウも無ければ、機材や資材も無かった。

 

 陸上型深海棲艦が持つ艤装侵蝕を使った建築物の艤装化による再生能力の付与は確かに強力ではあるが、その影響範囲は起点となる箇所からほぼ円形に広がるものであり、ピンポイントで範囲を絞る事が出来ない。

 

 飛行場姫は空港敷地内を起点とした僅かな範囲までが限界であり、港湾夏姫も港湾施設の範囲までが限界だった。

 

 

 生産拠点であるインドネシアはその重要度から多数の陸上型深海棲艦が常駐し、責任者の港湾棲姫が中心となって人海戦術の力技でカバーしているため、なんとかなっているが、それ以外の領域だとマレー半島がまだ比較的マシなレベルで、基本的にサイパン島と似たり寄ったりだった。

 

 

 いずれ道路に関しては、これからの重要課題となりそうだ。

 

 

 

 その頃、『かが』の艦長室にて──。

 

 

「…それで、お前は安藤少尉に何を感じたんだ?」

 

 

 田沼は部屋の鍵を閉めた事を確認すると、開口一番に清霜へと問い掛ける。

 

 机の上には少からず決済待ちの書類が置かれているが、そんな物は後回しだ。

 

 

 相棒としての付き合いの長さから、清霜の異変は空気感から気付いていた。

 

 

 安藤少尉と会った時から、清霜はなんだか様子が可怪しかった。観察、そして警戒に似た雰囲気を醸し出していた。

 

 ま(・)る(・)で(・)新(・)種(・)の(・)姫(・)級(・)深(・)海(・)棲(・)艦(・)と(・)遭(・)遇(・)で(・)も(・)し(・)た(・)か(・)の(・)様(・)な(・)。

 

 だがあの場に居た姫級は既知の個体しか居なかった。安藤少尉と一緒に居た姫級も、この戦争の一番最初に確認された駆逐艦の姫級、駆逐棲姫だ。

 

 そうなると安藤少尉に対して何かしら引っ掛かる物があったとしか思えない。

 

 

「…安藤少尉は人間じゃない。艦娘だよ」

 

 

 少し躊躇いがちにだが、清霜は自身の感じた物を喋り出す。

 

 

「そうなのか?」

 

 

 安藤明衣少尉こと、アンドロメダが艦娘である事実は田沼にはまだ伝えられていなかった。

 

 

 一応、田沼は真志妻派閥と言えるが、アンドロメダ関連の情報は余りにもデリケートかつ流出した際のリスクに問題であるとして、安藤明衣としてのカバーストーリー以外伝えられていなかった。

 

 

「間違いないよ。あのヒトからは同族の気配や匂いの感じがするんだ。

 

 でも、清(・)霜(・)達(・)と(・)は(・)ど(・)こ(・)か(・)違(・)う(・)。それは土方司令の周りの艦娘達、霧野を名乗っている霧島(キリシマ)さんや白露(シラツユ)型のみんなから感じる気配とよく似てる!

 

 それにあの矢鱈長身の天龍だって名乗ってるヒト、安藤少尉とどことなくおんなじ気配がする!あの2人は、間違いなく戦艦級、それも大和さんやIowa(アイオワ)さん達とは全く異次元の、何から何まで違う戦艦だけど戦艦じゃない!訳がわからないんだ!あの2人は戦艦だって直感的に思ったけど、本当に戦艦として見ていいのか分からないんだ!!」

 

 

「待て、清霜!少し落ち着け…。大丈夫だ」

 

 

 話が段々と可怪しな方向へ、支離滅裂になり出し、目や声が震え出して錯乱しつつあると判断した田沼は清霜の手を握る。

 

 その時になって、清霜の手が震えている事に気が付く。

 

 

 様子が可怪しいと思っていたが、清霜は上手く言葉に表せない言いしれぬ恐怖に怯えていたのだ。

 

 

「初めてだよ…。戦艦が…、怖いって感じたの…」

 

 

 …戦艦をこよなく愛するが故の、自身のアイデンティティを否定しかねない感情の揺らぎに戸惑っているのか。

 

 そう田沼は感じた。

 

 

 土方さん、あまり隠し事が過ぎますと、とんでもない爆弾を抱え込む事になりかねませんよ…。

 

 

 田沼は土方自身の過去や経歴について謎が多く、なんらかの秘密を抱えているとは理解している。

 

 だが、そんな事は正直どうでもいい事だと捉えている。今までの軍での実績や日々の言動からそこまで目くじらを立てて問題視するものでは無いと確信している。何より今にも倒れかねない日本の厳しい現状を鑑みれば、土方司令の様な優秀な人物が必要なのだ。

 

 多少の事は目を瞑るべきだ。だがそれも度を越せば不信と不安から要らぬ軋轢を生み出す原因に成り得る。

 

 

 現在の日本と艦娘の関係は、真志妻大将個人に対する艦娘の信頼と信用という接着剤によってなんとか保たれている。

 

 そしてその真志妻大将が全面的に信頼して重用し、様々な決定に一定以上の影響を与えているのが土方司令である。

 

 艦娘達も土方司令を、普段の訓練や規律に関して厳しい所はあるものの、軍を率いる指揮統率能力や後方での各方面との折衝や根回しといった、参謀や軍政家としての手腕を高く評価していた。

 

 土方司令が居るからこそ、し(・)が(・)ら(・)み(・)やら何やらといった束縛で雁字搦めにさせられる軍の内部で、ある程度は自由に好き勝手に動ける。

 

 

 だがその土方司令に対し、艦娘達が不信の目を向ける事態が起きてしまったら?

 

 

 真志妻大将に対しての信頼が揺らぐ“蟻の一穴”となるかもしれない。

 

 

 田沼はそれを恐れていた。

 

 

「清霜。いいか?この事はまだ誰にも喋るな。俺が土方さんに直接問い質してみる。

 

 それまでは軽挙妄動に出る様な真似だけはしないでくれ。頼む」

 

 

 素直に話してもらえるとは思えないが、今はこう言うしかなかった。

 

 

 

 一方で、事務所へと向かったアンドロメダ一行はと言うと。

 

 

「ふぅ。いやぁ~、キンキンに冷えたВода(ヴァダー)がここまで美味いとはな」

 

 

 事務所の応接室に通されたГангут(ガングート)は、よく効いた冷房の涼しさを堪能しながら椅子に座り、灰皿の置かれた机に人数分用意されていたよく冷えたВода(ヴァダー)──普通の冷えた水──の入ったコップを一つ手に取り一気に飲み干してそう漏らし、自分で水差しを手に取りおかわりの水をコップに波々と注いでいた。

 

 

「本当は“命の水”が御用意出来たらとは思いましたが」

 

 

 命の水、詰まりВодка(ウォッカ)の事である。

 

 Водка(ウォッカ)とはロシア語で“水”を意味する“Вода(ヴァダー)”に“小さい、可愛い”を意味する、“ка(カ)”が付いた、直訳すると“小さい水”となるのだが、その大元の語源は中世ヨーロッパで蒸留酒が“命の水”と呼ばれていたものがロシアにも伝わり、“水”の“Вода(ヴァダー)”から変化した愛称との説がある。

 

 

「ハハハ。そこまでは求めんさ。それに私はВодка(ヴォートカ)も好きなのだが、どちらかと言えばЧёрный чай(チョールヌィー・チャイ)の方が好みでね」

 

 

 Чёрный чай(チョールヌィー・チャイ)とは、直訳すると“黒いお茶”。紅茶の事である。

 

 それ故に紅茶を嗜むアンドロメダの関心を引いた。

 

 

「それでしたら、先日良いジャムが手に入りましたので、この後にお時間がありましたらティータイムをご一緒しませんか?」

 

 

 ジャムと共に紅茶を飲む。ロシアの文化圏を中心とした紅茶の嗜み方で、所謂ロシアンティーである。

 

 紅茶は濃い目に、別の器に入れたジャムをスプーンで掬って口に含んだ状態で紅茶と共に飲む。ジャムはベリー系が主流とされているが大体は個人の好みであり、複数のジャムを用意して飲み比べ、風味の違いを楽しんだり体を温めるために少量のウォッカをジャムに混ぜたりと、多種多様な飲み方がある。

 

 

「ほう。この地にはジャムもあるのか?」

 

 

「はい。物資輸送の定期便には領内で作られました特産品などが送られたり致します。その中にジャムがありました」

 

 

「では茶葉の栽培も?」

 

 

「はい。私が普段愛飲していますのは、飛行場姫さんのお姉様が栽培され、時折送られてくる茶葉です。

 

 ただ飛行場姫さんはコーヒーが好みなので、どうしても使い切れずに余ってしまうからと、譲り受けました」

 

 

「ほほう」

 

 

 中々に興味深い話が聞けたと、Гангут(ガングート)は思う。しかし姫級が自ら茶葉の栽培を手掛けているのには、内心で大いに驚かされた。しかも話題に挙がった飛行場姫も趣味でコーヒー豆を栽培していると聞いた時は、なんだか思ったよりも悠々自適で羨ましいぞ…。と本気で思いながら、制服のポケットから今日の予定を記載した手帳を取り出した。

 

 

「ふむ…。私の予定はなんとかなるだろう…。折角だから、お誘いに応じるとしようか」

 

 

「はい。是非ご期待ください」

 

 

 満面の笑みを浮かべるアンドロメダに、Гангут(ガングート)もつられて微笑む。

 

 

「楽しみにしているよ」

 

 

 上機嫌にそう言いながら水を波々に注いだコップを再び呷って飲み干すと、真剣な顔付きに変わって話題を切り替えた。

 

 

「…話は変わるが、貴官の事はМинистр(国防相)閣下から色々と伺っている。閣下は貴官に対して最大限の便宜を図るとの事だ。

 

 そのことに関して、今後日(・)本(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)か(・)ら(・)何かあれば我が国の大使館付き駐在武艦、Ташкент(タシュケント)を頼ってくれとのことだ。これが奴との連絡先だ」

 

 

 先程の手帳から事前に用意していたのだろう、折り畳まれた紙片を取り出してアンドロメダに手渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 礼を述べ受け取ったアンドロメダは、紙片の内容に目を通しながら先程Гангут(ガングート)が口にした事に考えを巡らせる。

 

 Мирослава(ミロスラヴァ)国防相ことСлава(スラヴァ)から色々と聞いているそうだが、日(・)本(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)か(・)ら(・)と話た事から自分が日本に在籍する者では無い事は伝えられている様だと認識した。

 

 

「確かТашкент(タシュケント)さんは連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の大尉だと記憶しております」

 

 

「ああそうだ。少しクセの強い所はあるが任務には忠実だし、必要なら独自に部隊を動かせるだけの権限がある」

 

 

 少しカマをかけてみたが、特に反応を示すこと無く即答だった。

 

 Ташкент(タシュケント)がGRUの所属である事を示す情報は、大使館経由で日本に開示されている公式文書では確認する事が出来なかった。精々、現場レベルでの噂話程度のものが確認出来たくらいだった。

 

 だがあっさりとGRUの要員だと首肯されてしまった。別に知られた所で然程問題が無いとの考えなのか、或いは、「独自に部隊を動かせる」と言った事から、遠回しに牽制としての意味合いも含ませていると受け取れなくもないという、なんとも言えない曖昧さがある。

 

 少なくとも不要な諍いは本意ではない。

 

 

 

「…出来れば、そういった事態が起きない事を願っています」

 

 

 そう言いながら受け取った紙片を再び折り畳み、Гангут(ガングート)へと返還した。連絡先として書かれていたのは本来ならば他国の人間、それも軍関係者とされる者に教えて大丈夫なものではなかった。無論、自国の人間であったとしても関係者でなければ例外ではない。

 

 

 それはGRUで現在使用されている通信手段に繋がるハイレベルの軍事機密に属するものだった。

 

 

 恐らくこれを渡すために、敢えて屋内に移動する様に仕向けた意図もあったのだろう。外だと日本艦艇から目撃される可能性もあったが、事務所だと目撃者が限られるし万が一の際に流出源の絞り込みがしやすい。

 

 

 内容の真贋は既にクラッキングで知り得ている事から、本物である事に間違いない。

 

 

 一応だがМирослава(ミロスラヴァ)国防相ことСлава(スラヴァ)には新ロシア連邦(NRF)の各種軍事機密等の情報を抜き取った事実は伝えている。

 

 青筋を立てていたが、これといった苦言などは言われずにただただ深い溜め息を吐かれた後に「そうですか…」と言われたくらいだ。

 

 

 その上でこれを教えて来たのは、公式な窓口としてはこちらを使ってくれというメッセージなのだろう。

 

 

「あぁ、それと…。閣下から貴官にコレを渡してくれと頼まれていた」

 

 

 懐から手紙が入るサイズの封筒が一通出て来た。

 

 

「我が国で行なわれる式典への招待状だ」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 封を切って確認すると、新ロシア連邦(NRF)にとって最も重要な記念日である『Великая Отечественная война(大祖国戦争) а также(及び) Народно-освободительная война(解放戦争) День Победы(戦勝記念日)』に合わせて首都モスクワで開催される大規模軍事パレード、『Парад Победы в Москве(モスクワ戦勝記念日パレード)』への招待状が入っていた。

 

 

 その式典に非公式の特別ゲストとして招きたい旨が書かれていた。

 

 人数制限の指定は無かったが、招待を受ける場合は同行すると決定した人数を指定した期日までに、先にГангут(ガングート)から伝えられたТашкент(タシュケント)を経由して伝えて欲しい旨と、式典の後に可能ならば余人を交えず直接会って話をしたいとも書かれていた。

 

 

 

「…少し唐突で悪いが、貴官に一つ聞きたい」

 

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 

 特に断る理由もないし、お受けしようかなと考えているとГангут(ガングート)が細巻きに火を灯しながら問い掛けて来た。

 

 

「いやなに。貴官は正規の将校であるとされているが、同時に本来ならば敵対している深海棲艦と共に過ごし、親密な関係を築いている。

 

 ああ、勘違いしないでくれ。別に非難している訳では無い」

 

 

 そう言ってアンドロメダ──安藤少尉──を見遣るが、その傍にずっと居て、「私の大切なヒトです!」と主張するかの様に、ギュッと抱き締めて仲の良さを見せ付ける駆逐棲姫の姿も目に入る。

 

 

 駆逐棲姫だけではない。この応接室に通されるまでに会った姫級のみならず、一般の深海棲艦達も皆が彼女、アンドロメダ(安藤少尉)に対してまるで本当の身内の様な親密さを見せていた。

 

 それらの振る舞いは、とても演技によるものとは見えなかった。

 

 

 絆された。と言えなくもない。

 

 

 閣下はそんな彼女に何かを見出している。だからこそ聞いてみたくなった。

 

 

 

「貴官にとって“Мир(ミール)”とはどういったものなのかを、聞いてみたくなってね」

 

 

 

「“Мир(平和)”…、ですか…?」

 

 

 

 紫煙を吐きながら紡がれたГангут(ガングート)の言葉に、アンドロメダは小首を傾げた。

 

 





 ちょっと長くなったので分割。次回、平和とは?を予定。まぁ筆者個人の平和についての考え方や価値観が色濃く出た内容になりそうですけど。


 清霜からしたら戦艦は戦艦でも遥かに発達した未来の宇宙戦艦の艦娘を見たら、訳が分からなさ過ぎて艦娘の姿をしたバケモノに見えてそう。


 因みに近年ロシアではчай(チャイ)──お茶──よりもкофе(コーフェ)──コーヒー──の消費量が上回った模様。


───────


 日本は欧米の真似事を周回遅れで、しかもその悉くが“失敗”、“上手くいっていない”事ばかり真似ているが、なんというか、現政権はバイデン政権のコピペ感が凄まじい。特に移民政策。

 言葉遊びでやってますよ感は出しているけど、根本的原因に関してはほぼノータッチ。ゼロベースって何だったんだ?日本人をゼロにするってことだったのか?

 外交・国家安全保障にしても、ちゃんとした考えがあるのか?独り相撲している様に思えてならないし、カタログを見て武器をどれだけ増やした所でそれを扱う人数は足りているのか?弾薬の備蓄や兵站能力は?

 何より製造能力にも不安がある。

 まさかそういった所にも高度人材とか言って放り込むのではないか?

 これらも欧米で大失敗した事の猿真似だ。

 フランス・パリ、いやヨーロッパ各国ではまたえらいことになっているが、それは数年後の日本の姿だろう。


 先の選挙で現与党に票を投じ、今も支持している方々はそういう日本になっても構わない。日本なんて滅茶苦茶になっても気にしない。子や孫がどれほど苦しみ恨まれようが知ったこっちゃないのでしょ?


───────



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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