艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 アポロノーム墜落の際に犠牲となった妖精さん達への軍葬が執り行われます。
 とはいえ作法とか全く分からないために、かなり適当です。その辺りはどうかご容赦ください。

 少ししんみりとした話になります。多分…。


閑話7 英雄の丘

「彼らは勇敢な戦士だった」

 

 

 百を優に越える小さな柩の前で、正装に身を包んだアポロノームが弔辞の言葉を述べていた。

 

 この時ばかりは普段の様な着崩した姿ではなく、制帽もキッチリと(かぶ)っていた。

 

 

 そのアポロノームの後ろに、同じく正装姿のアンドロメダが控え、さらにはアンドロメダと生き残ったアポロノームの妖精達が整列していた。

 

 

「怖れず、怯まず、その命を賭して譲れぬもののために戦い、力尽きた」

 

 

 アポロノームの艤装に乗り込んでいた妖精達の内、凡そ二百近い妖精が犠牲となった。

 

 そのほとんどが、飛行科に属する妖精達だった。

 

 

「だがこれは終わりではない」

 

 

 艤装の中でも航空艤装はもっとも損傷が激しく、爆発や火災の炎に巻かれ、さらには水没によって破口から海に流されて行方不明となった者もおり、*1まともに遺体すら残っておらず、空っぽの柩も少なくない。だが───。

 

 

「彼らの肉体は、やがて我が肉となり、血となり、大気となって我らの命を燃やすだろう」

 

 

 この星にいる限り、命は循環し、何らかの形であれ、繋がることが出来る。

 

 

「だから今は眠れ、我らが掛け替えの無い、戦友達よ」

 

「さらばだ。また会おう」

 

 

 アポロノームによる弔辞が言い終わると、アンドロメダが敬礼の号令を発する。

 

 それを合図に弔銃の発砲が行われ、柩の埋葬が行われた。

 

 

 

 最後の柩が埋められたのを確認すると、アポロノームが自身の艤装の残骸から加工した小さな墓碑を立てた。

 

 

 その墓碑にアンドロメダは花輪を捧げると、祈りを捧げるかの様に跪いた。

 

 小さく刻まれた墓碑銘が目に映る。

 

 刻まれたその墓碑銘は、至ってシンプルだった。

 

 

 

名も無き戦士、此処に眠る

 

 

 

 この銘を刻んだのはアンドロメダである。

 

 

 自身が刻んだ墓碑銘を一瞥し、瞳を閉じて祈り捧げた。

 

 

「貴方達は、正に地球連邦が誇る精兵でした」

 

「最後まで諦めず、己の職務に忠実たらんとし、その命を散らしました」

 

 

 事実、最期の瞬間まで職務を遂行すべく、誰一人として持ち場から離れていなかったと、遺体を回収した妖精達から報告を受けていた。

 

 

「貴方達の魂に、どうか、安らぎがあらんことを…」

 

 

 しかし、アンドロメダの内心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 本当ならもっと良い墓碑銘を与えたかった。せめて地球連邦防衛軍を表すエンブレムを刻み、ここに眠る者達が何者なのかを、示したかった。

 

 

 だが、それによって墓荒しに合う可能性を出来る限り避けたかった。

 

 この世界に存在しない地球連邦という組織。そしてそれがアンドロメダとの繋がりがあると分かると、少しでも何かしらの情報がないかと徹底的にこの場を掘り返し、遺体を辱めようと企むだろう。

 

 

 無論、それは深海棲艦達ではない。この世界の人間達だ。

 

 

 今でこそ、ここサイパン島を始めとしたマリアナ諸島は深海棲艦達が完全に制圧しており、そこに暮らす数少ない人間達には理由が無いし、そんなことをして深海棲艦(親しき隣人)達の怒りを買ってしまったら、間違い無く破滅だ。

 

 既にアンドロメダとアポロノーム(麗しき新たな隣人二人)深海棲艦(親しき隣人)達にとって大事な客人であるということが島の住人達の間で知れ渡っている。

 

 

 『親しき仲にも礼儀あり』を、島の住人達は十分に弁えていたが、島の外の人間達には関係の無い話だ。

 

 

 いつかマリアナ諸島が人間達に攻め込まれ、墓が見付かると何をされるか分かったものではない。

 

 

 マリアナ諸島はこの戦争劈頭に深海棲艦に制圧されてから一度、人類が奪還したが、その際に島の住人達と人類の軍隊との間で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを知ったが故に、アンドロメダとアポロノームは墓地を可能な限り目立たない場所に、可能な限り()ぢんまりとしたものしか作れなかった。

 

 

 アンドロメダにはそれが悔しかった。悲しかった。今埋葬された妖精さん達の中にはアポロノーム(大切な妹)を自身の命と引き換えに救ってくれた恩人だっているのに、人目に付かない寂しい場所にしか埋葬することが出来無い事に。

 

 

 

 当初、埋葬ではなく宇宙葬に近い水葬を行うということも考えていたが、自身に宿る()()()()()()()()()()()()()()()()()にアンドロメダは抗えなかった。

 

 

 暗く冷たい真空の宇宙空間に骸を漂わせることなく、暖かい大地に埋葬してあげたいと願う地球艦としての心。

 

 

 未だに太陽系内にはガミラス戦役で散った地球艦隊の乗組員を始めとした軍人や軍属の遺体が万近く漂っているままだという。

 

 戦場跡ということもあり、不発弾やエンジンの炉心融解などによる事故の危険性から遅々として回収が進んでいない。

 

 出来れば、彼らを地球に連れ帰って埋葬してやりたいものだと、キリシマさん(先生)から何度もお聞きした。

 

 何よりも、愛するヤマトさん(お母様)からお聞きしたイスカンダルでのエピソード、『ユキカゼ』乗員、そして艦長古代守がイスカンダルの地で丁重に葬られていたという。

 

 その話を聞いたキリシマさん(先生)は涙を流された。

 

 土星の衛星エンケラドゥスで発見された『ユキカゼ』の残骸から乗組員の遺体が殆ど発見されなかったと言われている。

 

 そのことをずっと気に病んでいたが、遠い地とはいえ丁重に葬られていたという事に感謝と安堵の気持ちが溢れ出したという。

 

 

 そのことは、今でも忘れられない。

 

 

 だからこそ、無理を押してでも埋葬してあげたかった。

 

 

 自己満足と言われても否定出来ない。

 

 

 だがそれでも、こんな葬儀しか出来なかった。

 

 

 彼らにとって、もしかしたら迷惑だったのではないだろうか?

 

 

 

「姉貴、礼を言う。どんな形であれ、()()()ちゃんと大地のある場所で葬れたんだ。あいつらにとっても、俺にとっても、それは掛け替えの無い救いだ」

 

 

 いつの間にか横で屈んでいたアポロノーム()が小さく囁くようにしてアンドロメダ()に告げた。

 

 

 自身の最期は爆散という壮絶な最期であったが、その事には悔いはない。

 

 だが誰も脱出する事が出来ず、遺体すら残らなかった事には少なからず気にしていた。

 

 

 だからこそ、アンドロメダ()が埋葬を選んだ事に一切反対しなかったし、むしろ感謝していた。

 

 

「アポロノーム…。ありがとう…」

 

 

 アポロノーム()の優しさに礼を言うと、立ち上がって後ろを向いた。

 

 その視線は整列する妖精達の更に後ろ側、参列してくれた飛行場姫を始めとした深海棲艦の姫様達。無論その中には駆逐棲姫の姿もあり、わざわざトレードマークでもあるベレー帽を脱いで抱えていた。

 

 

 アンドロメダは自身の制帽を脱いで小脇に抱えると、姫達に軽く一礼した。アポロノームもそれに倣う。

 

 

「この度は葬儀に御参列いただき、誠にありがとうございました」

 

 

 そう言ってアポロノーム共々深々と頭を下げると、妖精達も参列してくれた深海棲艦の姫達に対して感謝の意を示し、ドクターの号令一下、一斉に敬礼を行なった。

 

 

「私達こそありがとう。お陰で貴重な体験ができたわ」

 

 

 参列していた姫達を代表して飛行場姫がそう述べた。

 

 

 彼女達が言うには、深海棲艦には葬式のような風習は無く、どのようなものなのか興味があったという。

 

 彼女達にとっていわゆる『死』とは、陸上型の特殊な個体を除いて基本的に『自分達が産まれた母なる海へと還り、再び母なる海の一部になる』という独特な考え方をしており、『死』を悼む、弔うといった考えは全く無いわけではないが、稀薄であるという。

 

 故に葬式のような風習はある意味で新鮮味があり、興味があったとのこと。

 

 無論、島で暮らす人間達も葬式を行なっているのだが、交流のあった深海棲艦の娘に声は掛けても、わざわざ上位者の姫達まで呼ぶといったことは今まで無かった。

 

 一応、呼ばれた娘達がお伺いを立てることはあったが、いくら興味があるとはいえ呼ばれていない自分達まで行くのは流石に野暮と思い、呼ばれた娘達に参列を促しても、自身は遠慮していた。

 

 

「別れを惜しむという気持ち、それは私達にもあるわ。それに対する区切り、けじめとして私達も見習えるものを感じたわ。本当にありがとう」

 

 

 そう言って飛行場姫も深々と頭を下げ、それに続く形で他の姫達も頭を下げた。

 

 

 

 それを区切りに、軍葬は終わった。

 

 

 

───────

 

 

「ねぇ、アポロノーム。気付いていますか?妖精さん達の容姿…」

 

 

 帰り道、アンドロメダは隣を歩くアポロノームにそう声を掛けた。

 

 

「…ああ。俺達に乗り込んでいた乗組員と良く似ている」

 

 

「私達と同じく、亡くなった人達がこちらへ来てしまっていたのでしょうか」

 

 

 アンドロメダの妖精達の中には他の『アンドロメダ』級の戦死した乗組員によく似ていた妖精が混じっていた。アポロノームと違い、生存者が少なからずいて、定数を満たしていないからかもしれないが…。

 

 

「だが、安田の旦那だけはいなかった」

 

 

「逆に、私の所に居ますドクター、どう見ても佐渡先生ですが、ドクターは佐渡先生ではありません」

 

 

 色々と謎が多すぎるが、多数の妖精達がかつての自身の乗組員と同じであると考えると、向こうで亡くなった者達がこちらに来ているのだろう。だが─────

 

 

「私達の魂は、何処へ()くのでしょうね…」

 

 

「姉貴…?」

 

 

「私や貴女も、向こうの世界で()んで、こちらの世界へと流されてきました」

 

「こちらの世界で()んだら、何処へ()くのでしょうね…?」

 

 

 人間は死後に、高次元世界と呼ばれる時間の流れを超越した世界へと行く事が示唆されている。

 

 

 

 だがアンドロメダとアポロノームはこちらの世界へと来てしまった。

 

 ひょっとしてこれは『』なのではないのだろうか?

 

 イスカンダル(恩人)との約束を反故にして波動砲の禁を破った『』の象徴たる私達に対する『』なのではないのだろうか?

 

 

「ずっと、その罪を背負いながら彷徨い続けることになるのでしょうか…?」

 

 

 その疑問に、アポロノームは答えることが出来なかった。

 

 

「私はそれでも構いませんが…、ですが…、貴女や妖精さん達を…、それに付き合わせてしまっているのではないかと思いますと…」

 

 

「姉貴…!」

 

 

 アンドロメダ()がまたいつもの()()──考えすぎて思考が負のスパイラルに陥る──が出てきたと思ったアポロノーム()が止めようとしたが、今アンドロメダがそんな状態になったら目敏く反応する()()が、それを黙っているはずがなかった。

 

 

「えいっ!」

 

 

「おぶっ!?」

 

 

 駆逐棲姫(お姉ちゃん)が背後から忍び寄り、タックルするかのようにして勢いよくアンドロメダに抱き付いた。

 

 

「駄目ですよお姉さん!またそんな()()()()していたら!」

 

「どんな事であれ、お姉さんと出会えて私はとても嬉しいです!」

 

「私はお姉さんが今を一生懸命生きて、幸せになって欲しいです!過去は過去!今は今です!」

 

 

 捲し立てるようにアンドロメダ()を説教する駆逐棲姫(自称、姉)を見ながら、アポロノームは小さく苦笑しながらも駆逐棲姫(自称、姉)に心から感謝した。

 

 元気一杯な駆逐棲姫がアンドロメダをただ振り回しているようにも見えなくもないが、寧ろそうすることで少しでも明るく振る舞える様に引っ張っているのだろう。

 

 

 それが出来る奴は、姉妹には居なかったな。とアポロノームは懐古すると同時に、駆逐棲姫がアンドロメダの(そば)にいてくれて本当に良かったと改めて思った。

 

 

「でも、亡くなったヒト達の分も、一生懸命生きるのも大切ですが、息抜きも大切です!」

 

「今日はこの後にお二人の歓迎会を開きますから、パーッと騒ぎましょう!」

 

 

 その駆逐棲姫のカミングアウトに思わず、えっ?と漏らしてしまう。ふと飛行場姫がウィンクしながらサムズアップするのが見えた。

 

 一体いつの間に?と疑問に思うと同時に、なんだか申し訳ない気分になる。アポロノームは「そいつはぁ、楽しみだ!」と率直に喜色を浮かべているが。

 

 

「今日到着する南方棲戦姫(戦艦のお姉さん)達の慰労会も兼ねていますから!」

 

 

 そう言われて、ああ成程と思いながらも「もう到着するのですね」と漏らす。まだ数日は掛かると思っていたのだが、どうやらかなり飛ばしての急ぎ足で進んでいるらしかった。

 

 

「それだけあんたの事を心配してくれてんのよ」

 

 

 気付けばいつの間にか飛行場姫が隣にいた。

 

 

「あれはあれで面倒見が良い奴だからね」

 

 

 なんだか気恥ずかしくなって顔を赤らめてしまうアンドロメダ。

 

 だけどどうしてそこまで気を遣うのかふと気になった。

 

 

同胞(はらから)の一人、まぁアタシの姉さんなんだけどさ、なんだか雰囲気とかがあんたとどことなく似てるのよ」

 

 

「そうなのですか?」

 

 

 だがそれだけにしては少し不自然な気がしたが、憂いと哀しみを湛えた瞳をした飛行場姫に「詳しいことは後で話すわ」と言われ、アンドロメダは引き下がった。

 

 

「ところで、お二人はお酒大丈夫ですか?」

 

 

 なんだか重くなってしまった雰囲気を変えようと駆逐棲姫が小首を傾げながらそう尋ねた。

 

 

 

 

 後に公式記録が改竄された、アンドロメダ最大の羞恥まで、あと数時間─────。

 

 

 

 

 

───────

 

 

「なぁ姉貴、ちょっとした提案なんだが」

 

 

 仕込みがあるからと言った飛行場姫と別れ、また妖精達*2に姉妹水入らずの時間も必要と、ハンガーから追い出されてポッカリと暇な時間が出来てしまったために、空港周辺をアンドロメダとアポロノーム、そして当たり前の様にいる駆逐棲姫の三人と共に散策していると、ふとアポロノームがそう言ってきた。

 

 

「あの場所、ただ墓地って言うには味気ねぇと思うんだがよ、いっそあの場所を俺達にとっての『英雄の丘』としねぇか?」

 

 

 『英雄の丘』

 

 

 それは地球連邦防衛軍に属するものならば特別な意味を持つ場所の名前である。

 

 

 イスカンダルへの航海で命を落とした『ヤマト』乗組員、そして地球を目の前にしてその生涯を閉じた沖田十三の魂の慰霊やその功績を讃えるために建立された場所の名前である。

 

 

 アポロノームとしては烏滸がましい気がしなくもないが、ちゃんとした墓を建ててあげられない事に対して気を病んでいるアンドロメダ()の気が少しでも紛れればと思いながら、そう提案した。

 

 

 アンドロメダはすぐにアポロノーム()の気遣いを察したが、少し悩んでしまう。

 

 気持ちは分かるが、やはり名前の重みが大きすぎる為に、すぐに答えが出せないでいたら───

 

 

「良いじゃないですか!」

 

 

 横で話を聞いていた駆逐棲姫が手を叩きながらにこやかに賛同の声をあげた。

 

 

「お二人にとってあの子達はまさしく『英雄』でしょう?」

 

 

 駆逐棲姫のその一言が決め手となった。

 

 

 

 暫くして深海棲艦達の間でもその名前で呼ばれる様になるのだが、理由を知らない新参の者はその名を聞いて首を傾げる事となる。

 

 何故ならばその場所は丘と呼べる様な場所ではないからだ。

 

 そのため古参の者がその理由を説明するのが恒例行事となったという。

 

 

 

*1
海に漂っていたのを深海棲艦が何体か発見、回収された。

*2
主にドクター




 ヒトの死は数ではない。それは妖精とて同じ。


 自身の『正義』に酔い痴れている人間ほど、どこまでも残忍に、誰よりも残虐となり、暴力に歯止めが効かなくなる。
 ───喩えその『正義』が空虚で偽り塗れの『正欺』であったとしても。

 …な〜んか最近、リアルでそーゆーヒトやたら増えてない?ある人の言葉を借りて、行き過ぎた社会正義を押し付ける人、社会正義マンって私は呼んでるけど。なんだかなぁ~。



 それはそうと、お、思ったよりも長くなって苦戦した…。当初の予定だと葬式だけだったはずなのに…。そしてしんみりとは言い切れない内容に…。


 ところで、アポロノームの弔辞の元ネタ分かった方いますか?


 深海棲艦達の死生観(?)は個人的な解釈です。


 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
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