艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 死中に活あり

 後編の下になります。

 今回かなり視点が移動します。



 しかしまさかここまで長くなるとは…。


第9話 Find a way out of a fatal situation 後編下

 一体どうなっているのよ!?

 

 

 南方棲戦姫は心の中で悪態を吐いた。

 

 

 アンドロメダ(あの娘)が奇襲に打って出てきた。それはいい。

 可能性を考えなかったのかと問われたら、否だ。

 

 だが正直、読み違えていた。いや、それもあるがこの大艦隊に対してばか正直に突っ込んで来たとしても、数の有利から如何様にでも出来ると思い込んでいた。

 

 考えられるか?

 

 戦闘が始まって10分にも満たない短時間の間で艦隊の主力空母がほぼ戦力を損失し、ろくな反撃すら出来ずに圧倒され続けているというワンサイドゲームが!!

 

 

 

 今まで繋がるのが普通だと思っていた通信が、完全に遮断されただけで戦闘にここまで支障が出ると言うのも予想外だった!

 

 無論、先日の電波障害を教訓に足の速い駆逐艦を伝令役として多数配していたが、予想を遥かに超える目まぐるしい状況変化のスピードに対応仕切れず、逆に情報が錯綜してより一層混乱に拍車をかけてしまった。

 

 その混乱の隙をものの見事に突かれた!

 

 陣形が乱れて出来た隙間から一気にアンドロメダ(あの娘)の物と思われる艦載機群が輪形陣内に侵入。脇目も振らず一直線に空母へと向かったかと思うと、瞬く間に空母と直援の娘達を攻撃して飛び去っていった。

 

 幸いな事に今のところ沈んだ娘はいないみたいだし、攻撃されたのは半数だ。

 

 どれ程の被害を受けたかはまだ分からないが、攻撃を受けたのが半数と言うことは、最低でも半数の戦力は確実に無傷ということ。

 

 これならばまだどうにかなる。無傷な娘達で再編し直して反撃だと空母棲姫(くう)と話した矢先に、アンドロメダ(あの娘)は来た!

 

 

 空から滑空して陣形内の深部にまで一気に踏み込まれた!貴女エンジンが壊れてたんじゃないのっ!?

 

 

 その後は水面ギリギリを派手に水しぶきを上げながら縦横無尽に飛び回りだした。

 

 この水飛沫が厄介だ。

 

 前からならまだしも左右からだと飛沫が邪魔して視認し辛く、狙いを付けにくいし、万が一反対側に味方がいたら同士打ちになるからと引き金を引くのを躊躇ってしまう。

 

 それ以前に速すぎて狙いが定まらないのだけどね!

 

 などと言っている内に砲撃が始まった。

 

 予想はしてたけどさ、光線砲って反則でしょうっ!?*1人間達も持ってるって聞いてるけど、それは陸の砲台陣地。しかも基地とか重要ポイントに一門か多くて二門程度で、図体のわりに軽巡洋艦級をどうにか中破させるのが関の山。発射間隔も長い代物だと聞いている。

 それでも射程が長く、着弾までのタイミングが短いために、これが実戦配備されてからは不用意に陸地に近付きにくくなった。すでに偵察艦隊に少ないながらも犠牲が出ている。

 

 とはいえ、未だ人間達が使う戦闘艦でこのタイプを積んだ(ふね)が出たとは聞かないし、ましてや艦娘達が使ったなんてことも聞いていない。

 

 それをアンドロメダ(あの娘)は十二門も装備し、縦横無尽に使いこなしている。

 

 こればかしは流石は未来の科学技術の驚異であると言わざるを得ない。

 

 

 だがしかし!

 

 

 何よっ!?あの出鱈目な速射性能!それにあれだけ激しく動き回って全弾命中って!ふざけてんのっ!?

 

 未来技術、驚異にも程があるわーーーっ!!

 

 などと内心で突っ込んでいる合間に空母の娘達が次々と狙い撃ちされていく。

 

 

 この時点でこの戦いは敗けだと認めざるを得ない。

 

 

 だけどここであることに気付いた。

 

「…艤装しか狙っていない?」

 

 明らかに人体部分は避けて撃っていた。不殺(沈めず)で手加減しているつもりか?と怒りを覚えたが「確実にこちらの航空戦力を素早く潰しつつ、敢えて沈めないことで救助か戦闘かの選択で悩ませ、より混乱させようという魂胆でしょう」と空母棲姫(くう)に言われ、少し落ち着いた。当の空母棲姫(くう)は苦虫を噛み潰したかの様な顔で悔しさを滲ませていたが。

 

 

「してやられました。頭に来ますが、私達の敗けです。ですが撤退しようにもこの混乱では…」

 

「…何とかこっちに意識を向けさせて、その隙に伝令を走らせましょう」

 

「それしかありませんね…」

 

「私と戦艦隊が前に出て派手に動くから、貴女はその隙に艦載機を。少しでも手数を増やしたいからジャンジャン飛ばして」

 

「分かりました。それと不本意ですが、狙撃してくる可能性がありますから、私の直援の娘達で彼女の射線を遮る様に配置します」

 

 確実とは言えないけど、弾道が直線の光線砲ならば射線を遮る事さえ出来れば、一機でも多く飛ばせる時間が稼げるかもしれない。

 

 

 

 すぐさま行動に移す。こうしている間にもアンドロメダ(あの娘)は暴れまわっているのだから。

 

 

 だが、少し遅かった。 

 

 

 陣形を組み直し終わった時には、既に空母は全滅したのだろう。アンドロメダ(あの娘)の砲撃が止まり、こちらの意図に気付いたのか急接近していた。

 それに対応すべく、こちらも全速で突撃を開始する。陣形はどこまで通用するか分からないけど、火力投射に優れた横隊を指示。*2ただし回避運動も考慮してやや間隔を広げさせていた。私はその隊列の中央で指示を出す。

 だがその直後に、アンドロメダ(あの娘)の艦首部分に相当する艤装から何かが発射されたのが見えた。

 

「ロケット…?」

 

 艦娘達もロケット弾を装備している娘がいるとは聞いている。だがそれは弾道が不規則なために命中率が極めて悪く、もっぱら面制圧が必要な地上攻撃でしか使われていないはず…。

 

 だがこの小型ロケット群は発射後にまるで意志があるかの如く自ら進路を修正しながら飛んでいるではないか!?

 

 

「まさかミサイル!?」

 

 

 考えずとも当たり前の事だ。未来の戦闘艦なのだから対艦攻撃可能なミサイルくらい積んでいてもなんら不思議ではない。それに事前情報にそれらしきモノがあったのに、光線砲の出鱈目っぷりに圧倒されてつい失念してしまっていた。

 

 だがその数がおかしい。明らかに数十発は撃ってきている。人間達の(ふね)でも一隻でこんな数は撃ってきたりはしなかった!何?未来でのミサイル攻撃は「一隻ででも飽和攻撃出来ちゃいます(・ωく)」が基本なんですか!?

 

 もう笑うしかない。いや笑っている場合じゃない!このミサイル群は私達の頭上を飛び越えて、明らかに空母棲姫(くう)に向かっている!

 

 あわてて対空砲を撃ち上げるが、追い撃ちとなってしまい、それでも何器かは落としたが、それが限界。ほとんどすり抜けられた。

 

 空母棲姫(くう)達も対空砲を撃ち上げている様だが、目前にアンドロメダ(あの娘)が迫っているからいつまでも空母棲姫(くう)を見ている訳にはいかない。

 

 直援に対空能力が高い娘がいたが、おそらく落としきれない。

 

 数が多すぎるし速い。何より小型というのが厄介だ。小さいから狙いが付けにくい。

 

 

「被弾!炎上されております!」

 

 指揮下の娘からの悲鳴染みた報告に、わかっていた事とはいえども、つい舌打ちしてしまう。

 悔しいけど、まだこちらの主砲はギリギリ届かない。

 

 

「次はこっちにくるわよ!射程距離に入るまで各自回避に───!?」

 

 

 指示は最後まで言えなかった。何故ならアンドロメダ(あの娘)の主砲砲身の砲口と私の目があってしまったから。

 

 

 直ぐさま回避運動を始めるが、主砲は相変わらず私をしっかりと捉えたまま。

 

 

 撃たれる!

 

 

 直感がそう告げてきて、私は思わず防御姿勢をとってしまう。

 

 

 直後に光の矢が私に目掛けて翔んでくる!

 

 

 が、

 

 

 な、何よこれっ!?

 

 

 直撃する直前、突然私の周りが薄く光り、幕の様な物が現れたかと思うと光の矢を霧散させてしまった!

 

 

 な、何よ今の!今の何なのよ一体!?

 

 

 こんな防御手段があるだなんて、私知らない!

 

 

 何が何だか分からず、軽くパニック状態になってしまう。周りの娘達も何が起きたのかと右往左往している。

 

 アンドロメダ(あの娘)も何が起きたのか分からないという顔をし、行き足もやや落ちて呆然としている。だが。

 

 

 次の瞬間、アンドロメダ(あの娘)の雰囲気が変わった。

 

 冷静に、機械的とすらいえる程のある種、冷徹ともとれる冷静さで戦闘を押し進め、感情の揺れを今まで感じさせなかったが、ここに来て大きく揺れた。

 

 

 そして戦場の空気も一瞬にして変わった。

 

 

 それは途轍もない殺気。

 

 

 この戦場を覆い尽くすかのような、今までに経験したことの無い、私ですら一瞬震えるくらいの濃密な殺意の塊だ。

 

 それに当てられた娘達が完全にすくんでしまっている。

 

 

 何の前触れ無く突然砲撃が再開され、途轍もない密度の光の矢を私に叩きつけてきた。

 

「ちょ!何よ急に!?」

 

 それはまさに光による嵐としか言い表す事が出来ない程の苛烈きわまりない弾幕の嵐だった。

 

 その全てがこのよく分からない幕?防壁?で防がれているが、これどれだけ持つの!?て言うかまぶしいったらありゃしないわ!!

 

 

「ああもう、目がチカチカするっ!兎も角私が攻撃を引き付けるから、あんた達は私の後ろから撃ちまくりなさい!!」

 

 何とか射程距離に入って来たため、攻撃指示を出したが、それによって万が一、周りの娘達に狙いを変えられたら一瞬にしてズタズタにされてしまう。けど私は防御で手一杯。

 

 

 ならば私が盾になるしかない!

 

 

 私の指示を受け、隊形を即座に私を先頭にした単縦陣に変えて、16inch砲弾が次々と撃ち込まれる。

 

 諸元や修正値は私が口頭で伝える。とはいえこの光り越しだから多少アバウトなんだけどね!

 

 それでも数撃ちゃ当たる。外れを示す水柱以外に命中を示す爆煙が上がったのが見えた。

 

 

 が、こちらの砲弾も見えざるナニかに防がれていた。

 

 

「ホントに何なのよこの戦いっ!?インチキやビックリも大概にしてっ!!」

 

 訳の分からない事があまりにも起きすぎて、思わずそう叫んでしまう。もう泣きたいくらいだわ!

 

 

 そして忽然と嵐が止んだ。

 

 

 視界がクリアーになり、再びアンドロメダ(あの娘)の顔を見た時────

 

 私は背筋が凍った。

 

 ヒトの姿をした『死』。或いは『滅び』。それしか言い表す事が出来ない様な表情。

 

 滅ぼすまで止まらない。それを躊躇わない。

 

 殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロシテヤル!!

 

 そんな意志がひしひしと伝わって来る。

 

 

 駆逐棲姫(あの娘)は「とても優しいお姉さんだよ」と言っていた。多分それがアンドロメダ(あの娘)の本質なのだろう。

 

 だがその心に途轍もないバケモノが潜んでいた。

 

 『鬼神』もしくは『悪鬼羅刹』

 

 

 

「あ、悪魔だ…」

 

 

 私の後ろで誰かが振るえた声でそう呟いた。私自身、アンドロメダ(あの娘)は『破壊の権化』の象徴なんじゃないの?という考えが頭をよぎったその時────

 

 

 更に殺気が膨れ上がった。

 

 

 全身が粟立った。

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

 

 ここにいたら、()()()()()

 

 何か分からないけど、私の本能が悲鳴の様に警鐘をならしている!!「兎に角逃げろ!逃げるんだよォ!!」と。

 

 でも身体が金縛りにあったかのように動かない!!

 

 恐怖。

 

 怖い!怖い!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

 

 もうやだ…。もう死んでしまったほうが────

 

 

 恐怖に呑まれ、諦めたその時────

 

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 

 海域中に響き渡る様な男の怒声が聞こえてきた。

 

 

 同時に潮が引くかのように、殺気が消えていく。何人かが緊張の糸が切れたのか、気絶して倒れたのが背中越しに音で分かった。私も思わずその場にへたり込んでしまうが────

 

 だがそれよりもアンドロメダ(あの娘)が一転して放心状態になったのが目に入った事の方が大事だった。

 

「い、今よ!あの娘を取り押さえるわ!!」

 

 やや上擦った声で後ろにいる全員に突撃を命じながら、未だに震える自身の足に喝を入れて、遮二無二突撃を開始した。

 

 砲撃するよりも、直接取り押さえてしまったほうが確実に無力化出来ると私は判断していた。

 

 

 だが、この時の私は気付かなかった。私以外、一緒にいた娘は全員気絶して倒れていた事に。

 

 それに気付けない程に、私は気持ちに余裕がなかった。

 

 

 もう早く終わりにしたい。

 

 

 それしか今の私の頭にはなかった。

 

 

      ──────────

 

 

 アナライザーは自身の浅慮に後悔していた。

 

 

 アンドロメダがガトランティスに抱いている怒りと憎しみの大きさを、甘く見ていた。

 

 彼は知る由もない事だが、アポロノーム沈没(亡き)後のアンドロメダ姉妹の内、最も豹変したのがアンドロメダだった。

 アンドロメダのことが好きで好きでたまらないアルデバランをして、この時のアンドロメダは見ていられない程に荒んでいたという。

 

 

 さらに続く『ヤマト行方不明』の凶報がそれに追い打ちをかけた。

 

 

「姉上のお顔を直視出来ない…」そうアルデバランが涙ながらに語る程、酷い有り様だった。

 

 恐ろしいまでの、能面を張り付けた様な微笑み。

 

 あんな顔は見たことがない。愛する姉に対して初めて恐怖してしまった。それが途轍も無く悲しかった。

 

 そしてそれが負のスパイラルを生んだ。

 

 姉は大切な妹を怯えさせ、悲しませてしまったことで更に怒りの炎が燃え上がり、妹は愛する姉をそうさせてしまったことに更に悲しみ、怒りへと繋がった。

 

 それらが全て、元凶たるガトランティスへの憎悪として蓄積されていった。

 

 だがその事実をアナライザーは知らない。

 

 知らないから推し量れなかった。

 

 アナライザーが知っているのは()()()()()()()()()()()()とこの世界でのアンドロメダだけだ。

 

 ガトランティスに思うところがあるのはアナライザーも同じだが、アンドロメダの“それ”は遥かに桁が違った。

 

 

 暴走するとは思いもしなかった。

 

 

 今のアンドロメダには作戦とか頭に無いのは明白だ。目の前の南方棲戦姫(目標)沈める(消し去る)事以外、眼中に無い様な状態だ。

 出力は兎も角、連射サイクルは最大、そこに来て敵弾による波動防壁の使用。不安を抱えるエンジンへの負荷が高まり、機関科の妖精達が必死に安定させようと奮闘していた。

 幾度に渡るアナライザーによる呼び掛けも耳に入っていない。

 

 

 暴走を止めるにはどうすれば良いか?

 

 

 それに対して一つの『()()』に辿り着いていたが、その手段に躊躇いがあった。

 

 

 それは()()()()()()にならないか?

 

 

 本来ロボットのアナライザーであるが、ヤマトでの旅で彼の思考アルゴリズムには本来なら備わってなかった人間的な考えを持つようになり、それがこの世界に来てより顕著に成りつつあった。

 

 だがこのままだとアンドロメダは最悪の決断を下して自滅しかねない。

 

 

 そしてそれは現実となった。

 

 

「波動砲、発射用意!!」

 

 

 ショックカノンによる効果が無いことに痺れを切らしたアンドロメダが、遂に破滅へと繋がりかねない命令を出してしまった。

 

 ただでさえエンジンに負荷が掛かっているこの状態での波動砲使用はエンジンの暴走を引き起こしかねない。

 

 波動砲緊急停止コマンドを入力すれば、一応発射を強制的に止める事は出来るが、それだけだとアンドロメダが更に怒りを募らせてより暴走に拍車が掛かるだけとなりかねない。

 

 

 ここに至り、アナライザーは決断した。

 

 

()()()()、スミマセン)

 

 スピーカーのスイッチを入れ、自身の記録ログに遺していた()()()()()()()()()の音声データを再生。同時に波動砲の緊急停止コマンドを入力した。

 

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 

 この時アナライザーはスピーカーの音量をうっかり最大にまで設定してしまっていた為、海域中に響いてしまった。

 

 

     ───────────

 

 

「あ、ああ…」

 

 

 アンドロメダは、未だ戦場のど真ん中であるのも忘れて、今にも泣きそうな顔になっていた。

 

 自身の心の内にあるガトランティスへの激しい憎しみから来る心の『魔』に呑み込まれ、途轍もない破壊衝動に思考が完全支配されていたが、自身が父と慕う英雄、沖田十三艦長の一喝によりアンドロメダは冷静さを取り戻すどころか慚愧の念にかられて震えていた。

 

 

 沖田艦長はガミラス戦役中に「悪魔め」という言葉を何度か呟いていたという。

 

 それは地球を滅茶苦茶にした敵であるガミラスに対して言っているモノだと思われていたが、真意は違っていた。

 

 「悪魔め」という言葉が、敵という『人』ではなく、その『魔』の部分を憎み、また同じように自分の中にもいる『魔』を抑え抗うためのおまじないのような魔除けとしての言葉であると、イスカンダルへの航海の時に語られていたという。

 

 だが自身はその『魔』に抗うどころか呑み込まれ、ただ自身が気に入らないモノに対する激しい破壊衝動に身を委ねてただただ破壊するだけの最低な人形に成り下がってしまっていた。

 

 

 沖田艦長(お父様)に合わせる顔がない。

 

 

 ヤマトさん(お母様)に顔向け出来ない。

 

 

 妹達を失望させてしまう。

 

 

 

 アンドロメダの心は先程までの激情に対する揺れ戻しか、そんな感情で冷々とした心が折れた様な状態となってしまい、戦意を喪失してしまっていた。

 

 

 虚ろな瞳に、南方棲戦姫がこちらに向かって来る姿が写ってはいたが────

 

 

 …もうどうでもいい。私の様なこの世界にとってはイレギュラーな存在はこのまま沈められていなくなった方が─────

 

 

 

「貴女ガイナクナレバ、駆逐棲姫サンガ(カナ)シマレマス」

 

 

 こうなる可能性を危惧していたアナライザーが静かに語りかける。

 

 

 アナライザー自身、これは半分賭けだった。

 

 

 確かに駆逐棲姫はあの時、「どんな結果になっても悲しまない」とは言っていたが、それが本心とは言い切れないとアナライザーは見ていた。

 

 駆逐棲姫がアンドロメダを『優しいお姉さん』と称した様に、アナライザーも駆逐棲姫の事を『気遣いの出来る優しい娘』だと称していた。そこからこれはアンドロメダを気遣っての強がりだったのではないかと思っていた。

 

 何故なら戦いは何が起こるか終わるまで分からないのが世の常だ。この戦いでアンドロメダが戦死する可能性だって無いとは言い切れないのだ。

 

 駆逐棲姫がその事に気付いてないとは思えない。 

 

 別れた際に駆逐棲姫が小さく祈る様な仕草をしていたのを、アンドロメダが気付いたかは分からないが、アナライザーはモニター越しにしっかりと見ていた。

 

 そしてアナライザー自身もアンドロメダ同様に駆逐棲姫に情が湧いていた。

 

「駆逐棲姫サントノ()ッテ(モド)ルトイウ約束ヲ(タガ)エルオツモリデスカ?」

 

 

 このセリフは卑怯だと自覚している。

 

 

『約束』

 

 

 波動エネルギーを兵器として使わないというイスカンダルとの約束を反古にした地球の波動砲艦隊計画。

 

 現実と理想の狭間で葛藤したヤマトの乗組員、特に沖田艦長の薫陶を色濃く受け、またこの約束の当事者の一人でもある古代進の苦悩。

 

 そしてヤマト自身も影で苦悩していたという事実をアンドロメダから聞いている。 

 

 アンドロメダは約束を反古にせざるをえなかったあまりにも厳しい地球の現実も理解していたし、何よりも反古への批判は自身の存在に対する否定でもあるため、割り切っていたつもりだ。

 

 

 だがそれでも、地球の恩人との約束を反古とした事に対して少なからず忸怩たる思いはあった。

 

 その思いから、『約束』という言葉はアンドロメダの中でもかなり重要な位置を占めていた。

 

 

 

 アナライザーの言葉に、アンドロメダの心に火が灯る。アナライザーは賭けに勝ったのだ。

 

 

 虚ろだったアンドロメダの瞳にも意志の籠った強い光が戻る。

 

 

「状況報告!」

 

 

「艦首方向、方位0-0-0(マルマルマル)ヨリ超弩級戦艦(ヒト)、急速接近中!!」

 

 

 その後に続けてより詳細な情報がアナライザー経由でバイザーに表示されて、僅かに顔をしかめた。

 

 戦意喪失状態だった自分自身の過失とはいえ、かなり至近まで踏み込まれてしまった。

 

 即座に対応すべく、頭を巡らせる。

 

 

 主砲は波動砲用意の影響でエネルギーの供給がカットされており、今からチャージしても、即応用の低出力だとまた弾き返されるし、出力を上げても効果が未知数の為に使用不可。

 

 ミサイルは装備箇所が主に舷側方向のため、近すぎて発射しても初期加速の影響で弾道軌道が大回りし、その間に安全マージンに割り込まれてしまい、安全装置が作動して途中で自爆してしまう。

 

 本来なら艦橋に設けられている、空間衝撃波によって実弾防御に使用される司令塔防護ショックフィールド砲の出番だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから装備されていない。

 

 パルスレーザーは非力過ぎて論外。

 

 

 ならば────!!

 

 

「主砲1番、2番!三式弾装填!モード対艦!」

 

 やや距離が近いが、今ならばまだギリギリ一斉射だけなら撃てる。全門斉射しないのは近すぎて砲弾同士が干渉し合う可能性が高いからだ

 

撃て(ってぇ)!!」

 

 砲煙が上がり、6発の砲弾が南方棲戦姫へと撃ち出される。

 

 砲煙を見た南方棲戦姫は咄嗟に両腕の艤装を前に出して防御体勢をとるが、スピードは緩めない。

 

 着弾の爆煙が立ち昇り、発生した衝撃波がアンドロメダに襲い掛かって帽子が飛ばされ、纏めていた髪が吹き曝される。

 

 バイザーだけは何とか飛ばされずに済み、それに映し出される情報表示を見て、次の一手を打つ。

 

「短魚雷、信管カット!発射雷数(らいすう)(フタ)!発射!!」

 

 バルジ部の舷側短魚雷発射管の内、前方に発射可能な4基の内2基から信管が切られた魚雷2本が射出される。

 

 

 直後、南方棲戦姫が爆煙の中から飛び出してくる。両腕の艤装は砲撃の影響で完全に破壊されていたが、それによって隠されていた中の腕が顕となった。

 

 指先が鋭い鉤爪となったガントレットとそれに備え付けられた中口径クラスの砲身。

 

 砲身自体は被弾の影響からか曲がっており使え無さそうだが、それ以外は問題なさそうなために、これに組付かれたらどうなるか分からない。

 

 しかもかなり切れ味が良さそうだ。魚雷2本が鷲掴みされたかと思うとそのまま輪切りにされた。

 それも炸薬部分は綺麗に避けて。

 

 それによって南方棲戦姫は「どうだ!」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。

 

 アンドロメダはその芸当に驚くよりも、その笑みに思わず見惚れそうになった。

 好戦的で獰猛な笑みではあるのだが───

 

 

「…綺麗」

 

 

 思わずそう呟くほどに、美しく思える笑みだった。

 

 その笑みを見て、アンドロメダも自身の口角が自然とつり上がるのを自覚した。

 

 南方棲戦姫もアンドロメダの笑みが見えたのか、より笑みを深め、片手の鉤爪をアンドロメダへと真っ直ぐに向けながら啖呵を切って来た。

 

「大人しく私達に捕まりなさい!!」

 

 その啖呵にアンドロメダも啖呵を切って返す。

 

「丁重に御断り致します!!」

 

 

 言い切った直後に残していた2本の魚雷を発射した。さらに─────

 

「アナライザー!両舷ロケットアンカー射出!彼女の土手っ腹に痛いのをぶっ食らわせてやって下さい!!」

 

「了解!」

 

 

 艦首に備え付けられたロケットアンカーが勢い良く噴射炎を引きながら打ち出され、それぞれの軌道を描きつつ南方棲戦姫へと向かう。

 

 コントロールはアナライザーに一任する。

 

 思わぬアンドロメダの行動に南方棲戦姫は驚いた顔をするが、先ずは差し迫った魚雷を先程と同じやり方で対処する。

 

 

 だがそれはアンドロメダの狙いだった。魚雷を対処するときは動きが制約される。

 

 元々精密に狙って当てられるような代物では無いロケットアンカーを命中させるためには足を止める必要があった。

 

 そして魚雷は破壊されたが、狙い通り動きを止めることに成功。動きが鈍った南方棲戦姫の左右からロケットアンカーの錨が迫る。

 

 

 魚雷と同じように迫り来るロケットアンカーの錨か鎖かを掴んで止めようとするが、直前で錨に取り付けられたスラスターの噴射角度が変わり、それによって進路も少しだけだが変わって、掴もうとしたガントレットの手甲に掠る様に当たっただけに終わるが、それでもその衝撃は凄まじく、金属同士が擦り合う時に奏でる鋭い音と共に、当たった箇所では激しい火花が散り、反動で南方棲戦姫の体勢を大きく崩した。

 

 体勢を崩されて隙を晒してしまった南方棲戦姫に向けて、もうひとつのロケットアンカーが迫る。

 

 だが伊達に姫級の名を冠するハイエンドモデルなだけはある。

 ロケットアンカーが直撃する寸前に体勢を立て直すと、今度は見事錨を掴む事に成功した。が、少し体勢に無理があったのか、勢いを殺しきれずに転倒。その際にガントレットに鎖が絡み付いてしまう。

 

 南方棲戦姫はあわてて鎖をほどこうとするが、自身のガントレットの一部に食い込んでしまっている様で上手くいかず、下手に切断しようとすると間違えて自身の腕まで傷付けかねない。それ以前に錨も鎖もかなり頑丈な代物であるため、生半可な事では切れないのだが。

 

 

 それを見たアンドロメダは即座にロケットアンカーで南方棲戦姫をぶん殴る作戦の変更を決断。

 

「慣性制御システム、出力上げ!艦底部、全スラスター起動!!艦体垂直上昇!!」

 

 南方棲戦姫を吊り下げる形で上昇を開始する。当の南方棲戦姫は、最初はアンドロメダの意図を掴み損ねていたが、アンドロメダの艤装が上昇しだしたのを見て意図を察し、あわててアンカーの鎖を握り締めた。

 

 

 そのまましばらく上昇を続け、深海棲艦の艦載機が上がって来られない高度で停止する。

 

「アナライザー、航空隊に帰艦指示を」

 

「ワカリマシタ」

 

 作戦を滅茶苦茶にして予定よりも長く飛ばしてしまう事となったため、後で飛行科の子達からたくさん不平や不満、苦情が来るだろうなぁ…。機関科の子達にも迷惑を掛けてしまったなぁ…。などと思いながらも、先に片付けなければならない案件の事についての思考へと切り替える。

 

「さて、と…」

 

 座席から立ち上がると、うっかり落ちないように慎重に艦首艤装まで髪を風で靡かせながら歩いていく。

 

 丁度ロケットアンカーの格納基部真上で足を止め、下を覗き込む。

 

 

 

「ちょっと!どうする気よ!?」

 

 

 南方棲戦姫が吹き付けられる風に煽られ振り子の様に揺られながら、叫ぶように問い掛けてくる。が、やはりと言うべきか、吹き荒ぶ風の影響で少し聞き辛い。

 

 

 アンドロメダは上着のポケットから以前使用したタブレットとは違う、より小型な携帯用のタブレットを取り出した。

 それを使って錨の巻き上げの指示を出し、空の上でもお互いの声が聞こえる距離まで引き上げた。

 

 

「これ以上の戦闘の継続は双方共に益無き物と判断し、停戦交渉の場を設けることを提案致します」

 

 

*1
光線砲、つまりショックカノンの事。駆逐棲姫が説明に苦慮して光線砲と伝えた。

*2
艦娘、深海棲艦の双方に言えるが、ヒトの形であるために火力投射は前方方向が一番高い。




 もし断ったら?

 (鎖をカットして)放してやった。



 やっと(戦闘が)終わったー!!

 ロケットアンカーを使うことは初期プロットから考えてましたが、そこまで持って行くのに無い知恵搾りまくった結果が、アンドロメダの暴走とその揺れ戻しというハチャメチャな展開!!正直やっちまった感はあります。何故なら止める手段、実は最初全く考えてませんでした。最初は駆逐棲姫お姉ちゃんというのも真剣に検討しましたが、戦場に最初から連れ込むと単なる人質にしか見えませんし、途中から異変を察知して全速力で駆け付けるにも距離がありすぎて無理があると判断。実は第5話で駆逐棲姫さんがアンドロメダに借りたゴーグルには通信機能があり、演習後も借りパクしてそれを使って今回の戦闘の様子を盗み聞きして異変を察知する予定だったりしました。
 その後も色々と知恵を搾りましたが、良い案が出ずに苦肉の策て父親に音声のみですが、ご足労をお願い致しました。沖田艦長、ホントすみません。
 因みに初期案ではロケットアンカーで南方棲戦姫さんをノックアウトさせる予定でした。

 今回南方棲戦姫さんが使った本人ですら知らなかった未知の防壁は後々明かしていく予定ですが、ひょっとしたら勘の良い読者様ならば薄々勘づかれたかも?
 というか南方棲戦姫さん、今回ツッコミキャラになってしまってたなぁ…。
 南方棲戦姫さんが最後に使ったガントレットは南方棲鬼さんの腕の艤装をイメージして下さい。




補足解説


魚雷とミサイル

 ヤマト世界の魚雷とミサイルですが、実は対空対艦両用の兵装として扱われております。魚雷でも対空攻撃したりしますし。ですので今後少し混乱させてしまうかもしれません。

 一応リメイク版ヤマト世界の定義では───

『艦に対して水平に設置されている物が魚雷、垂直に設置されてる物がミサイル』

───とされています。ただしそれはヤマト世界の定義の為、それを知らない艦これ世界の住人は全てミサイルと呼称致します。


光線砲

 陸上配備型のレーザー砲台。

 本土防衛用に各地へと配備が進んでいるが、作動には大電力が必要で、技術的課題からシステムがかなり大きくてコストも非常に高い。
 現状、近海を遊弋する通常モデルの深海棲艦偵察艦隊に使用されたのみで、ハイエンドモデルである姫級に使用された前例は今のところ無い。



波動砲緊急停止コマンド

 事故や何らかの理由で波動砲発射シーケンスを中断しなければならなくなった時に使用するシステム。

 もとネタはヤマト2205で土門竜介が押したボタン。


約束

 2199にてイスカンダルからコスモリバースシステムを受領する時に、波動エネルギーの兵器転用(波動砲)をしないようにと結ばれた『地球イスカンダル和親条約』等に関する話。
 色々と賛否両論があり、かなり難しい問題であると認識しています。理想と現実の厳しさ、ヒトとして、信用信頼とは、と様々な解釈が出来るひとつの課題の様にも思えます。
 


 今回はここまでです。次は交渉等の話し合いメインですね。今回マトモに活躍させることが出来なかった空母棲姫さんにも活躍の場があれば…。それに早く駆逐棲姫お姉ちゃんを出してあげたい…。と言うか気付いたらアルデバランさんがひょっこり出てた…。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

アメリカ大統領選挙のイメージは?

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