艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 地獄の極み


 艦娘だけが戦場に立って戦っているわけでは無い。


 唐突に思い付いた話。本編との整合性とか、時系列とかその他諸々を考えずに、思い付いた内容で書き上げました。


短編 Best in Hell
Best in Hell


 

 日本国某所。日本陸軍沿岸防衛砲兵陣地。

 

 

 122ミリ牽引式榴弾砲。D-30。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)から供与されたパラシュート投下可能な軽量の榴弾砲。

 

 海路が寸断されたこの地では重装備の類いは補充され難い。しかしD-30はその特性により弾薬共々なんとか補給が継続され、貴重な砲熕兵器として重宝されている。

 

 

「«撃て»」

 

 

 

「撃てッ!」

 

 

 指揮所からの命令により、沖合に遊弋する敵重巡洋艦級を旗艦とする深海棲艦の1個戦隊に対して3門の砲から砲撃が開始される。

 

 

 こことは別の陣地からも砲撃が行われているだろう。

 

 

 撃破は始めから諦めている。目標が小さいだけでなくその移動速度から命中は期待出来ない。仮令直撃してもこの砲だと敵艦、深海棲艦の重巡洋艦には一時的に怯ませる事が関の山だ。駆逐艦級ならまだしも、本土に配備されている152ミリクラスの砲でタコ殴りにでもしなくては、どうにもならない。

 

 

 それでも足止めくらいは出来る。射程距離はコチラが有利だ。

 

 足止めしている隙に迎撃に出た艦娘達か、基地航空隊が叩いて追っ払ってくれる。

 

 

Огонь(アゴーイ)!」

 

 

 隣で兵員不足から新ロシア連邦(NRF)民間軍事会社(PMC)から派遣されたという傭兵達、比較的老兵の割合が多いが、彼等の操作する砲からも、砲弾が放たれた。

 

 流石に使い慣れている。コチラが一発撃った時には二発目の装填がもう終わっている。先の世界大戦を戦い抜いたベテランのツワモノで構成されているとのウワサは、どうやら本当の様だ。

 

 

「おい新米一等兵!ボサッとしてねぇでさっさと薬莢をどかせ!!」

 

 

「僕の名前は新米(あらこめ)ですよぉ…」

 

 

 傭兵達の動きに見惚れると、古参の装填兵がどやしつけてきた。足元には砲尾から排出された薬莢が転がっている。次々と撃ち続けるものだから、薬莢も次々と溜まっていく。そのまま放置していると砲操作の邪魔になるし、誤って踏んづけでもしたら事故の原因になる。それを砲操作の邪魔にならない場所まで持っていくのが新兵の仕事だ。撃ち終えてすぐの熱々の薬莢だ。手で持てば危ないから棒を薬莢の空洞部に突き刺して一つずつ運ぶ。

 

 

 

伏せろぉーッ!!

 

 

「…え?」

 

 

 突然の仲間の怒号に困惑し、思わず棒立ちしてしまう。

 

 

「ばかやろう!!」

 

 

 景色が暗転する。

 

 

 最後に見えたのはトラックなどの車輌に備え付けられた機関銃が大慌てで空に向けられ、押っ取り刀で撃ち上げられる曳光弾の火線。直後に大地が爆ぜた音と振動が伝わって来た。

 

 

 

 爆撃だ。

 

 

 

「畜生がぁ!防空隊は何してやがる!?」

 

「アァァ!!脚が…!」

 

 

 阿鼻叫喚。巻き上げられた土砂と色々なものが焼ける匂い、そして微かではあるが、ツンと鼻を突く鉄錆の匂いと共に、あちこちで苦悶の悲鳴をあげている声が聞こえる。

 

 …鼓膜は無事の様だが、目の前は真っ暗だ。目をやられたか?体も思う様に動いてくれない。

 

 

 藻掻いていると手に何かヌルっとした感触が伝わる。

 

 

У тебя все в порядке(ウ テビャ フショー ヴィ ヴァリャーダク)!?」

 

 

 ロシア語が聞こえたと思うと景色がハッキリとし、動かしにくかった体が動くようになった。

 

 何かが体に覆い被さっていたのを、ロシア人の傭兵がどけてくれたみたいだ。

 

 

「す、す、すぱ、すぱしーば」

 

 

 拙いロシア語で助けてくれたロシア人の、髭面をした傭兵に礼を言い、ズレた眼鏡を直そうとして、思わず固まった。

 

 

 手に赤い液体が付いていた。

 

 

 その時になって、覆い被さっていたモノに気付いた。

 

 

 いつも新米新米と呼んでいた、さっきどやしつけてきた装填兵が、全身に破片を浴びて、血だらけで息絶えていた。

 

 咄嗟に飛び付いて押し倒し、そのまま覆い被さってくれていたから、至近弾に…。

 

 

Вы ранены, молодой человек(ヴィー ラーニヌイ,マラドーイ チラヴェーク)?」

 

 

 呆然としていると、助けてくれた傭兵が声を掛けてきた。

 

 

 ロシア語は分からないが、表情と仕草から心配してくれてるのは分かった。

 

 拙い発音で「Да(だー)」と返していると───

 

 

 

「予備陣地に移動だ!急げ!!」

 

 

 

───隊長からの指示が飛ぶ。牽引のトラックが慌ただしく動き出した。元々あった幌は、とっくの昔に破けて申し訳程度の残滓が残っているだけだ。

 

 

 敵の爆撃はさっきのだけで終わったみたいだ。気付けば近くの基地航空隊から上がってきたのだろうスクランブル機が数機、上空を旋回していた。

 

 …敵の空母との消耗戦で基地航空隊の補充が追い付かず、それでも苦しい中でなんとか航空優勢を維持しているらしいが、時々突破して来た敵機が辻斬りの様に爆弾を一撃離脱で投下して去っていく。

 

 

 

「何してる新米(あらこめ)一等兵!?急げ!!」

 

 

 慌てて遺体からドッグタグを回収してポーチに押し込み急いで仲間と共にトラックに乗せようとすると、ヒゲの傭兵が肩を叩いてポケットに何か箱を捩じ込んで、自分達の部隊へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 トラックの荷台で上の空となりながら揺られながら、ふと、さっき何を入れられたんだろうと気になってポケットを弄ると、それは煙草の入った箱だった。

 

 

 ちょうど手持ちを切らせていたから、ありがたく紫煙を燻らせてもらった。

 

 

 …昔は健康に悪いからと、煙草は嫌いだった。でも戦場(ここ)ではコレすら貴重な娯楽だ。気が付いたら他の仲間と共に煙草を吸う自分がいた。

 

 

 

 …割り振らていた砲は、爆撃の余波で使い物にならなくなっていたらしく、あの場で放棄された。余裕があればそのうち回収されるのだろう。

 

 

 煙を吐く。

 

 

 その煙をボンヤリと目で追い、外の景色が目に映った。

 

 

 

 車外には放棄された兵器の残骸が転がっている。

 

 

 朽ち果てて、それが元々が何だったのか、分からない物もある。

 

 

 戦車なんて目立つ物は、原型をとどめていない。完全に破壊され尽くしている。

 

 

 車内、荷台の中を見渡す。疲れ切った仲間が俯いていたり、煙草を吸いながら虚ろな目をしている。

 

 

 

 …操作要員も何人も死んだ。荷台の足元にはその遺体が転がっている。

 

 

 煤けた顔に、手をやる。触っただけで痩けた実感が伝わってくる。

 

 

 

 

「ここは…、地獄だよ…」

 

 

 






翻訳

У тебя все в порядке(ウ テビャ フショー ヴィ ヴァリャーダク)!?

訳)大丈夫か!?


Вы ранены, молодой человек(ヴィー ラーニヌイ,マラドーイ チラヴェーク)

訳)若いの、怪我はないか?


───────




新米(あらこめ)一等兵

 徴兵促成教育終了直後に送られた新兵。最低限の教練を受けたのみでヒョロい。メガネ。


Михаи́л(ミハイル)

 新ロシア連邦(NRF)民間軍事会社(PMC)に所属する傭兵。世界大戦の東欧紛争、その中でも激戦区の一つとされるキエフ戦線経験者。髭面の壮年。


───────



 ホントな~んも考えずに書き上げました。続ける予定。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
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