艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

116 / 119
 『もがみ』型護衛艦『やはぎ』が係留地舞鶴からウラジオストクへと向かう前日譚。とその後。

 簡潔に書き上げるつもりが長くなった…。後半はほぼ蛇足。


閑話17 『やはぎ』

 

 

 舞鶴基地。

 

 

 日本海に面する日本海軍の主要基地であり、現在唯一の交易国にして日本を生き長らえさせている点滴の様な生命線、新ロシア連邦(NRF)のウラジオストクと定期航路で結ばれた港である。

 

 それと同時に、新ロシア連邦(NRF)へとスクラップとして売却が決定した海軍艦艇の廃艦が一時的に留め置かれている港でもある。

 

 

 同型艦が現存していれば、共食い整備で使用される部品取りとして活用されるが、部品を取り終えたり、その同型艦が全滅したらこの地へと回航され、ウラジオストクへと向かうまでの間、ここ舞鶴が祖国を見れる最後の地となる。

 

 

 

 その留め置かれた廃艦の1隻に、1人の高級軍人とお付きの艦娘が乗った内火艇が近付いていた。

 

 

 

「明日には航洋曳船が作業に取り掛かる。今日で見納めだ」

 

 

「いや~、久しぶりだね」

 

 

 海軍少将、第4水上艦隊司令兼旗艦艦娘母艦『かが』艦長、田沼徹とその相方である夕雲型駆逐艦艦娘の清霜だ。

 

 

 嘗て首都東京を急襲し引き上げの途上だった深海棲艦の大艦隊に対して、当時小松島警備府の司令官だった真志妻に、たまたま徳島沖を航行中だったからと無理矢理に乗り込まれて巻き込まれ、単艦で壮絶な送り狼の追撃戦を敢行し、驚異的な命中精度を誇る長距離砲撃の伝説を残したこの廃艦『やはぎ』の艦長を務めていた男だ。

 

 とは言っても、艦の指揮は真志妻に同行していた土方に任せ、自身は砲撃にのみ専念出来た事が大きいが。

 

 清霜もこの時は真志妻が艦娘松島となって自ら出撃して率いる艦娘部隊の全力出撃に加わり、最前線で激戦を繰り広げた。

 

 

 この戦いで『やはぎ』は激しい回避行動の連続を強いてしまい、機関を限界まで全力稼働させた無理が祟り、戦闘海域から安全圏へと離脱出来た直後にオーバーヒートによる故障が発生。それでも低速での航行は維持してなんとか帰港出来たものの機関のダメージは深刻で、戦闘による損傷も相俟って修理不能と判断され、部品取り用の廃艦となった。

 

 

 その役目も終わり、舞鶴に回航されて待機状態で係留されていたが、いよいよウラジオストクへと向かう事となり、その日取りが決定した。

 

 

 この決定が下った事により、田沼は嘗ての乗艦に最後の別れを告げるべく、半ばプライベートで清霜を伴って舞鶴を訪れた。

 

 事前に舞鶴の基地司令へと訪問する旨を伝えたら、快諾してくれた上に内火艇を快く借してくれて操船する人員も付けると言ってくれたが、流石に人を借りるのは気が引けたため、操船は田沼が自ら舵を取って行なっている。

 

 

 『やはぎ』の艦壁に作業員用として設けられた錆が目立つタラップに内火艇を横付けにし、タラップを上がって艦首甲板へと乗り込む。

 

 

 艦首甲板(そこ)にはVLSと伝説の立役者である5inch(インチ)主砲が鎮座しているのだが、その主砲は影も形もない。

 

 

 主砲は砲塔そのものが姉妹艦『ゆうべつ』に転用するために撤去され、砲塔があった場所の穴は鉄板による溶接で塞がれていた。

 

 その『ゆうべつ』は沖縄方面での敵包囲艦隊の捕捉撃滅を目的とした作戦に向かう途中、佐世保沖で敵潜水艦からの待ち伏せ攻撃を受け被雷。浸水の拡大を止められず転覆し沈没した。

 

 

 VLSハッチは当時のままだ。砲爆撃の直撃弾こそ無かったものの、艦載機による機銃弾の弾痕や至近弾の破片による傷がくっきりと残っており、幾つかの機銃弾はハッチを貫通していた。

 

 当時から既にミサイルは払底して空っぽか、深海棲艦相手には使い物にならないどころか被弾による誘爆で爆沈する事例が各国海軍艦艇で相次いだ事から、全て陸揚げされていたのが功を奏した。

 

 

 この戦争初期に損失した『こんごう』型イージス護衛艦『ちょうかい』は、複数の敵機の投下した爆弾がCIWSの迎撃を突破してVLSに命中。ハッチを破壊し内部にまで飛び込んだ爆弾がVLS内部のトマホーク巡航ミサイルに直撃し起爆。約340kgの炸薬が詰められた弾頭に誘爆。これに隣接する他のミサイル、主砲砲塔弾薬庫も連鎖的に誘爆を引き起こしてしまい、『ちょうかい』は艦首が消し飛び瞬く間に爆沈した。

 

 

 艦娘による効果的な対空戦闘と防空網の構築といったノウハウが確立される以前だと、特に緒戦では先にも述べた通り各国海軍でも有り触れた光景であった。

 

 当時は効果的でなくてもそれ以外に使える武器が足りていなかったという事情もあったが、艦娘とのノウハウが確立されて以降は万が一に備えて、使い道の無いミサイルは(ふね)の生存確率を上げるために陸揚げされるのが通例となっていった。

 

 それは新ロシア連邦(NRF)海軍でも類似した対応を最近まで採っていた。

 

 

 海戦は時代が逆行したかの様に、主砲による砲撃が主体となった。

 

 それ故に、彼は時代錯誤の様な活躍の場を得ることとなったのだ。

 

 

 振り返って艦橋を見上げるが、艦橋上部の特徴的なNORA-50複合空中線は基部のOAX-3固定型センサー共々無くなっているが、こちらは戦闘によって破壊された為である。

 

 但し他の使えそうな各種センサー類は他の姉妹艦に転用されており、4面を覆うフェイズドアレイレーダーのOPY-2多機能レーダーは敵機の機銃掃射で破壊された一面を除き、姉妹艦『みくま』と『あがの』の修理に使用された。

 

 その『みくま』は哨戒活動のため豊後水道から太平洋へと出た所で敵潜水艦の襲撃を受け舵が故障し、面舵の状態で舵が固定され右旋回を続けている状況で敵魚雷を回避中の僚艦『たかなみ』が運悪く激突し沈没。『たかなみ』は艦首が大破するも『みくま』の生存者を救助して何とか帰還を果たした。

 

 『あがの』は沖縄沖での戦闘で敵空母艦載機の猛攻により被弾大破し、艦隊から離れて本土へと退避途中の坊ケ崎沖で運悪く時化に遭遇して損傷箇所から浸水が発生。必死のダメージコントロールの甲斐なく機関が浸水により水没して停止。航行不能となって最後は総員退艦後にゆっくりと海面下へと没した。

 

 

 レーダーやセンサーのあった場所はハリボテで塞がれている。

 

 

 元々サッパリとしたスマートな艦ではあったが、なんだかもの淋しく感じる。

 

 前回訪れた時よりも塗料が剥がれ落ち、錆が目立っているというのもあるかもしれない。

 

 

 そのまま何も言わず、明け放たれたままとなっていた水密扉から艦内へと入って行く。この水密扉も最近錆て動きが悪くなっており、ちゃんと閉鎖出来なくなったからこのままなのだと聞いた。

 

 艦底もフジツボや牡蠣でビッシリと覆われている事だろう。

 

 

 

 艦橋に上がるが、フェイズドアレイレーダーなどの艦橋構造物への被弾によるダメージで艦橋の窓が割れ、内部の機材も幾つかが破壊されて応急修理が施された時のままだった。

 

 自分が座っていた艦長席も、破片によって生地がズタズタに破けて中身のクッション素材がはみ出ていた。

 

 

「ここで土方さんが立ったまま、艦の指揮をしていたんだったな…」

 

 

 だがこの艦長席が盾となったお陰で、その横に立って(ふね)の指揮を執っていた土方は軽傷ですみ、最後まで艦橋で指示を出す事が出来た。

 

 

「(なんとなく、艦長席に座る事に抵抗感があったと語っていたが…)」

 

 

 最初は本来の艦長であった自分に対しての遠慮がたまたま引き寄せた、一種の幸運によるものだと解釈していた。

 

 ただ、たまたまの幸運によるものとするには、何やら苦い経験でもあったかの様な口振りだった。

 

 

 艦橋を後にし、CICへと訪れる。艦の中で戦闘指揮を司る中枢ということもあり、艦橋よりも安全な場所に設置されていたため、戦闘による損傷こそ無いものの、ここもいくつものディスプレイやコンソールが外され、配線が剥き出しになっていたり、いくつか座席などの備品が無くなっていた。

 

 それらの部品や備品が移された(ふね)達も、もう殆どが沈んでしまうか、この『やはぎ』同様に戦えなくなって廃艦としてこの地に係留されているハズだ。

 

 

 田沼は一つの席の前で止まる。

 

 

 そこは主砲を操作し、引き金を引いていた火器管制装置のあった座席だ。

 

 懐かしそうにコンソールに手を触れ、座席へと腰掛ける。

 

 それらの装置も、幾つか取り外されていたが、奇跡的に引き金は残っており、徐ろにそれを手に取った。

 

 

「必要なのは…、イメージだ…」

 

 

 ポツリと口を衝いて言葉が漏れる。

 

 

「イメージ?」

 

 

 呟きを耳にした清霜が適当な椅子に座りながら、鸚鵡返しに問う。

 

 

「そうだ…。目標に命中した際のイメージだ…」

 

 

 田沼の目に、狂気を帯びた光が宿る。

 

 

「どの様なダメージを与えられるか?心理的な衝撃は?それらによって発生する戦場での影響は?

 

 この一射が、意味のある一撃であるかどうか!?

 

 敵の注目を集められるか否か!?

 

 それらをイメージするのだ!!脳裏に(えが)かれるイメージが鮮明であればあるほど、その一射は確実に目標へと吸い込まれる様にして命中するッ!!」

 

 

 瞳に宿る狂気はより強くなり、口調は熱に浮かされたかの様にして、熱弁を振るう。

 

 

 清霜にとってはいつもの事なので慣れっこである。座席のリクライニングを動かしながら半分聞き流していた。

 

 しかし別に軽く見ている訳では無い。寧ろ同意出来る部分もあるのだ。

 

 実際長距離砲撃による奇襲の心理的な効果は無視出来ない。それが初弾からいきなり命中というなら尚更だが、夾叉による至近弾でも「次は命中するかもしれない…」との相手への危機感と警戒心を刺激するプレッシャーと成り得る。

 

 

 そうは言っても、本質的に田沼は所謂天才肌と言われる部類の人間だ。

 

 

 遠距離砲戦で初弾から命中弾を与える事が出来る者など、艦娘を含めてもどれだけいるだろうか?少なくとも田沼の技量に匹敵する者を清霜は知らない。

 

 

 そんな天才肌でも、あの日は今までになく最高のパフォーマンスを発揮出来たと自負している。今までのどんな時よりも鮮明に、その情景をイメージ出来たのだ。

 

 突然の砲撃に驚愕する空母棲姫の表情。混乱する敵艦隊。乱れる指示と指揮系統。第2射の命中で混乱はさらに拡大する。予想外の事態に苛立ち、焦燥を募らせる空母棲姫と他の姫達。押っ取り刀で飛来する深海棲艦の艦載機。それを迎撃する味方の艦娘達。兵力差は歴然としているが、混乱から組織的な行動が出来ずに戦力の逐次投入状態となった。とは言うものの根本的な物量差は如何ともし難く、突破を許した敵機からの攻撃で回避行動を余儀なくされる。だがそれでも狙いは外さない。どの様な動きを取るかを予想しながら砲を操作して引き金を引いた。

 

 この時にはイメージがやや朧気になっていたが、それでも当たると確信を得るだけのイメージが出来た。

 

 

 だが、悔しいかな、流石に姫級の中でも上位とされる空母棲姫には、火力が足りなかった。決め手に欠けた。

 

 沈められる(仕留められる)とのイメージだけは、どうしても湧き上がらなかった。

 

 しかしそれでも、戦場の注目を一身に浴びる事は出来た。お陰で斬り込み部隊である真志妻率いる艦娘部隊への圧力を分散させる事には大きく貢献出来た。と思っている。

 

 

 なにより、土方司令に艦の操艦を任せたお陰で、自分の“仕事”に専念出来た。あの人の指揮には任せても大丈夫だとの安心感が半端なかった。

 

 

 あの日以来、自分は土方司令には頭が上がらない。あの人が居なければ敵機からの執拗な攻撃に耐え切れず『やはぎ』は沈没してしまい、作戦は瓦解していたと言っても過言ではないし、母艦を失った真志妻さん達は敵中に孤立して全滅していた。

 

 土方さんの過去については謎が多い。どこで、どうやってあれほど見事な操艦指示を出せる様になったのか?どうしてあれほど落ち着いて的確な指揮が出来るのか?

 

 

 あの人の貫禄は、世界中を見渡しても匹敵する人はそうそう居ないという確信がある。

 

 先ず間違いなく、かなりの実戦経験がある。それも海賊やテロリストの様な非対称戦ではなく、国家の正規軍を相手にした大規模な武力衝突に於ける()()()()に匹敵する戦いを経験している。

 

 

 だが、軍に保管されているどの記録にも該当する従軍記録は存在しないし、ましてやマトモな実戦経験と呼べるものは見付けられなかった。

 

 

 そもそも土方さんは真志妻さんがたまたまリクルートした、海外を拠点に活動実績のあるベテランの船乗りであるとされている。

 

 しかしこの数十年に渡る世界の混乱により、大手であっても船会社が潰れる事態が相次ぎ、記録がマトモに残っていない。裏取りは実質不可能としか言えない。

 

 

 元民間人があれほどの貫禄と風格を纏えるものだろうか?

 

 

 疑問は尽きないが、下手な詮索はよろしくない。恐らく真志妻さんも良くは思わないだろう。

 

 

 何より土方さんの周りも謎が多過ぎる。陸戦の猛者で知られる斉藤大尉にベテランという言葉がしっくりくる老技師の徳川さん。そして霧野特務大佐こと霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)を中心とする白露型の面々。

 

 

 そして今回の安藤明衣少尉…。深海棲艦の姫の1人に心を通わせ深海棲艦に絆された我が軍の士官とされる者。

 

 

 今は亡き親友の御息女とのことだが、それ以外の事は分からない。

 

 

 士官学校での成績は平凡であり、あまり目立たない存在とされていたが、あの日本人離れした金髪の見た目麗しい容姿と目を引く長身で目立たないというのは、些か無理があり過ぎる。それに平凡という割には地頭は悪くない感じがする上に、その実務能力はあまりにも優秀に過ぎる。その実務能力から深海棲艦からの信頼を得ていたほどだと聞く。

 

 

 だが、一応の経歴から見るに、促成によるカリキュラム短縮で教育内容が最も薄く、兎も角士官を1人でも多く出そうとして、最も使い物にならない人材ばかり粗製濫造されていた時期と該当する。

 

 あまりの酷さから損害を増やす結果となり、再教育する羽目になったが、最終的にその殆どはこの世から退場してしまっている。

 

 その中には真志妻さんが断行した改革による大粛清の大鉈でヤられた者達も少からず居たし、教育を担当していた当時の教官も「カリキュラムの短縮による弊害を見逃し、軍の損害を拡大させる事に貢献した」として、悉く前線送りにされた。

 

 

 詰まり彼女を知る者は、今のところ土方さんしか居ない。

 

 

 なにより気掛かりなのが、彼女を一目見た瞬間に清霜が怯え出した。そして艦娘だと断言した。しかもかなり強力な、戦艦だけど戦艦じゃない訳の分からない艦娘と言い切った事だ。

 

 

 …正直、この件に関してはあまり深入りや詮索しないのが身のためだと思っている。思っているが───。

 

 

 

 土方さん…。貴方は一体何者で、何を隠しているのですか…?

 

 

 この件でも深入りするのは良くないだろうが、それでも指揮官としての土方さんへの興味は尽きない。

 

 

 軍人として一つの到達点だと思っている。

 

 

 

「ところでさ艦長、これからどうするの?」

 

 

 

 思案に耽っていると、少し飽きてきたのが、座った椅子をクルクルと回して遊んでいた清霜が唐突に田沼へと問い掛ける。

 

 

 そう言えば、『やはぎ』との別れの挨拶以外は特にコレといった予定を立てていなかった事を思い出す。

 

 

「…そうだな。メシでも食いに行こうか。せっかく舞鶴まで来たんだ。今は牡蠣が美味い時期だったか?」

 

 

「舞鶴に来たなら、肉じゃがでしょ?」

 

 

 諸説あるが、肉じゃがは旧帝國海軍がルーツとされ、海軍の街でもあった舞鶴市と呉市は肉じゃが発祥の地ともされている。

 

 

 

「それも悪くないな…。まぁ好きな物を食おう。奢るぜ?」

 

 

「良いの?やった!」

 

 

 椅子から勢い良く立ち上がり、善は急げと言わんばかりにCICから駆け出す元気一杯の清霜に苦笑しながら、田沼は最後にCICの中を一通り見渡しながら敬礼を贈る。

 

 

 

 『やはぎ』、俺と共に最高の晴れ舞台で共演してくれた事に感謝している。ありがとう。そして、さようなら。

 

 

 そう心の中で礼の言葉を述べ、清霜からの催促を受けCICを後にした。

 

 

 内火艇に乗り込み『やはぎ』から離れながら、田沼はふと苦楽を共にした嘗ての仲間達、今はウラジオストクの新ロシア連邦(NRF)海軍基地で日本へと供与される艦艇の習熟訓練に明け暮れているであろう元『やはぎ』乗組員達の事が気になった。

 

 

 訓練も順調だと聞いている。ひょっとしたら『やはぎ』と入れ替わる様にして、予定よりも早く日本に帰ってくるかな?

 

 

 もしそうなったら、元艦長として労いの席でも設けてやるか。

 

 

 廃艦となって浮いた護衛艦の乗組員達は、現役艦に割り振られたり今までと勝手の違う新ロシア連邦(NRF)製艦艇を動かせる様になるため、ウラジオストクに出向して現地のТихоокеанский Флот(太平洋艦隊)からの指導の下、言語の壁に四苦八苦しながらも日々訓練に勤しんでいる。

 

 その中でも元『やはぎ』の乗組員達は習熟が早いとの評価を、ТОФ(太平洋艦隊)の教官達から得られていると聞く。

 

 

 この話を聞いて、元艦長として鼻が高い。だから日本に帰って来たらささやかでも祝いと労いくらいはしてやりたかった。

 

 

 

 翌日、航洋曳船による曳航準備が完了し、予報から天候も問題がないと判断され、『やはぎ』はウラジオストクへと向けて曳船に曳かれながら舞鶴の地を、日本を後にした。

 

 

 道中さしたるトラブルも無く、無事ウラジオストクへと入港。

 

 

 そして田沼の予想通り、同地で建造され日本へと供与される『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級フリゲート艦の輸出仕様、現地での計画艦名『Яхаги(ヤーハギ)』、入港した先代からそのまま艦名を引き継いだ日本海軍名称『やはぎ』型護衛艦の『やはぎ』が艦名の引き継ぎ式の後に、本艦と同様に訓練が完了した『Гепард(ゲパルト)』級フリゲート艦、計画艦名『Заря(ザリャー)』、日本海軍名称『あかつき』型護衛艦『あかつき』と共に日本へと出港する───。

 

 

 

 

 

 

 

 ────はずだった。

 

 

 

 

 

 

 出港直前になって『やはぎ』艦橋上部に設けられている球体状の3次元多機能レーダーシステム、‹Заслон(ザスロン)›に不具合が発覚するトラブルが発生。日本では修理する技術が無い事や、航行中の安全も考慮して修理のために出港を取り止め、『あかつき』の出港も延期となった。

 

 原因は配線の断線によるものとされ、すぐさま修理されて復旧したものの、念のため再検査を行なうとして『あかつき』共々出港予定が大幅にずれ込む事となった。

 

 

 

 そしてこのトラブルが思わぬ尾を引く事となった。

 

 

 

 このトラブルへの対応を巡って日本で政府と軍部の意見対立が起きる事になった。

 

 

 

 日本政府は当初このトラブルが新ロシア連邦(NRF)政府が関与した意図的なサボタージュの可能性を疑い、SNSなどの発信を通じて盛んに国内世論を扇動したが、この動きに対して軍部はサボタージュによって得られる新ロシア連邦(NRF)のメリットに疑問がある上に、騒いでいる割に関与を証明出来る明確な証拠が一切提示されていない事から、新ロシア連邦(NRF)との外交問題へと発展し、日本への支援を制限する動きに出て安定した物資や装備品などの調達に深刻な支障が出る懸念を示して冷静な対応を政府に強く求めた。

 

 特に海軍の水上艦隊は既存の水上艦艇の度重なる損耗と、経済と産業の停滞から新造艦の国内建造が止まった事で、本来ならば退役しているハズの老朽艦を無理してでも騙し騙し使い続けざるを得ず、それももう限界を迎えつつあるのだが、今回の事態が拗れて艦艇の供与計画そのものが白紙になってしまう可能性を真剣に恐れており、陸空軍よりも強い文言で政府には冷静な態度で対応してもらいたいとの“要求”を突き付けた。

 

 

 この軍部からの反発に政府、特に政権与党の首相高木紗栄(たかぎ さえ)が激昂してしまった。

 

 

 真志妻大将の独断による休戦交渉や軍の限界を暴露された会見によって、戦争継続派の急先鋒だった政府の面目が丸潰れとなってしまい、政権支持率が下降していた。熱烈な政権支持派であっても、終わりの見えない戦争によって本心では疲れ切っていた。

 

 この国内の空気感に敏感に反応し、危機感を募らせていた高木首相は、ここで何かしらの支持率回復を狙った起爆剤を欲していた。

 

 

 軍部としても事実上の一軍を率いる立場にあるとは言え、真志妻大将の独断専行に快く思ってはいない。

 

 しかし安定した装備品と武器弾薬の供給元である新ロシア連邦(NRF)との対立に繋がりかねない政府、そして高木首相の言動は、一大将の独断専行以上に看過できない言語道断な政治の暴走であると見做していた。

 

 

 

 この対立が波紋となり、大きな事件へと発展することとなる。

 

 

 

 

 護衛艦『やはぎ』乗組員、日本への帰国を拒否。

 

 

 同日、『あかつき』乗組員も『やはぎ』乗組員と同調。日本への帰国を拒否。

 

 

 

 また同地にて訓練途上にあった残りの『やはぎ』型及び『あかつき』型の護衛艦3隻の乗組員も、時を置かずして『やはぎ』に同調してしまった。

 

 

 後年、“護衛艦『やはぎ』の蜂起”、ウラジオストクのある新ロシア連邦(NRF)では“Мятеж(ミャテージュ) сторожевого(スタロジェヴォーゴ) корабля(カラブリャ) 『Яхаги』(『ヤーハギ』)”と呼ばれる事件である。

 

 

 原因は政府と軍部との対立が激化して精神状態が不安定となった高木首相が、攻撃の矛先を『やはぎ』乗組員に向け出し、SNSにて「事件の原因は『やはぎ』乗組員によるサボタージュ」とする趣旨の、またもや証拠も一切示さない投稿をしたことを切っ掛けに、「『やはぎ』乗組員は露探(ロシアのスパイ)」といった被害妄想の過激さが増した投稿を乱発し、国内の高木首相を妄信する支持者(狂信者)がこの投稿を迎合してしまい、ウラジオストクで訓練を受けている海軍将兵に対してまで謂れのない誹謗中傷が横行した事が発端である。

 

 

 この様な事態に『やはぎ』乗組員を中心とした現地の日本海軍将兵は政府に対して、特に高木首相を公然と名指しし、正式な訂正と謝罪があるまで日本への帰国を断固拒否する声明を出す事となった。

 

 

 だが一度振り上げた拳を下ろすことが出来ない高木首相はこの声明を無視。今度は先代『やはぎ』の艦長だった田沼少将に対して攻撃の矛先を向け出しただけでなく、事件の首謀者だと決め付け喚き散らして内乱罪での逮捕をほのめかし、即決裁判で死刑に処すつもりでいるとの政府関係者による噂話まで流れ出していた。

 

 

 この高木首相の滅茶苦茶な動きに事件の首謀者だと決め付けられた田沼少将は、困惑気味に「莫迦じゃねぇの?」と漏らしたとされている。

 

 

 そもそもこの事件に田沼少将は一切関与していないし、精々嘗ての部下である旧『やはぎ』乗組員達に対して同情的な趣旨の発言と、勝手に過熱する政府への苦言と冷静なる事態の終息を求めた程度である。

 

 

 真志妻大将は「あのヒステリックババア、頭のネジがぶっ飛びまくっててあっちこっちに見境なくケンカ売り過ぎなのよ」と漏らしつつ、首相の暴走に呆れ果てた海軍水上艦隊と共に田沼少将の保護に動き出す。

 

 

 

 なお、この一連の事件と蜂起に新ロシア連邦(NRF)政府と軍部は一切の関与を公式声明で否定し、寧ろ自国領内のВМФ(海軍)重要拠点であるВладивосток(ウラジオストク)で蜂起を起こされた事で、ВМФ(海軍)の活動に支障が出たとして、大使館を通じて日本政府に形式的な抗議が行なわれた。

 

 但し蜂起を起こした『やはぎ』や他の艦艇、現地の日本海軍将兵に対してなんらかの対応を目的とした動きに出る事はしなかった。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)政府は来たるべき“戦後”に向けて日本をどの様な形で“損切り”するかの準備を進めている。

 

 

 今回の事態を日本がどの様な形で終息させるか、それとも終わりが見えないまま混乱を助長、或いは制御不能となるかで、“損切り”の内容を決める為の重要な判断材料とすべく、可能な限り静観する腹積もりでいた。

 

 

 ただ新ロシア連邦(NRF)は日本に対して全くと言っていいほど期待していない。

 

 唯一、関心を寄せているとしたら、それは真志妻大将とその周辺の動きに関してだけであった。

 

 





 清霜はアンドロメダの正体になんとなく当たらずとも遠からずで勘付いています。流石に前衛武装宇宙艦、航宙戦艦だとは思ってもいませんが、かなり強力な艦娘だとは気付いています。


 新ロシア連邦(NRF)は一連の事態に全く無関係で、巻き込まれた側ですが只では転びません。不安定で感情的となり内心の敵愾心を隠し切れない日本か?安定して利益と話が分かるが油断のならない深海棲艦か?どちらをより“麗しき友人”として扱うに相応しいとするか?その“答え”は既に出ていて、“損切り”と確保すべきものを如何に確保するかを真剣に考える様になっています。


───────


補足説明

『やはぎ』型護衛艦

 新ロシア連邦(NRF)Военно-морской флот(海軍)の20380型汎用コルベット艦『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級の対日輸出仕様。建造計画名は武勲艦『やはぎ』から取って日露双方の合意により『Яхаги(ヤーハギ)』となった。


 本艦最大の特徴は、新ロシア連邦(NRF)本国で使用されている改良型の20385型及び同型に準じた近代化改修型と違い、1番艦『Стерегущий(ステレグシュチイ)』の新造時の姿に近いという事にある。

 当初『Стерегущий(ステレグシュチイ)』は防空の3К96(3K96)Редут(リドゥート)›、対艦の3С-14(3S-14)УКСК(UKSK)›といったVLSは装備されておらず、ミサイルは対艦用の3K24(3M24)Уран(ウラン)›の4連装発射機が2基と、艦首方向の3M87 ‹Кортик(コールチク)›複合CIWSで使用されている9М311‹Треугольник(トレウゴリニク)›だった。

 これにロシアВМФ(海軍)は不満を抱き、1番艦以降はVLSを搭載し‹Уран(ウラン)›の発射機は搭載しない様になりました。


 ただ日本は今までの深海棲艦との戦訓から、従来の長射程のミサイル兵装はあまり役に立たないとの判断したため、敢えてVLS装備を完全に切り捨て、遠距離砲戦用の主砲A-190 100mm単装砲と陸上型への攻撃用として‹Уран(ウラン)›ミサイル発射機を復活させ、対水上近接及び対空用として‹Кортик(コールチク)›の改良型である3M89 ‹Палаш(パラシ)›を装備し、本来30mm6連装ガトリング砲のAK-630が2基装備されていた箇所も‹Палаш(パラシ)›に変更され、合計3基となっている。

 本機に搭載されている9M337‹Сосна(ソスナ)›対空ミサイルはレーザー誘導方式であり、限定的ながら近距離に迫った深海棲艦を攻撃可能な様に、日本側からの要望に応じて改良が施されている。但し元々が対空ミサイルのためその効果は限定的であるとされているが、30mm6砲身ガトリング連装砲による濃密な弾幕と共にある程度の牽制効果は期待出来るとされている。但しその効果というのも一部を除くイロハ級の軽巡以下にまで限定されます。

 気休め程度だが、‹Корд(コルド)›重機関銃用の遠隔銃架が近接対空用に設置されている。これは従来の護衛艦にも手動式だが装備されており、現場からは「無いよりかはマシ」として運用されていることから、設置が決定しました。


『あかつき』型護衛艦

 新ロシア連邦(NRF)ВМФ(海軍)が運用する11661型警備艦(フリゲート艦)Гепард(ゲパルト)』型の対日輸出仕様。建造計画名は『Заря(ザリャー)』。日本語で“暁”となります。

 当初日本では日露戦役で鹵獲した帝政ロシアВМФ(海軍)駆逐艦『Сокол(ソーコル)』級『Решительный(レシーテリヌイ)』を運用した際に命名された駆逐艦『山彦』が候補に挙がっていたが、あまりにも露骨過ぎるのと護衛艦艦名の命名規則である“天象・気象、山岳、河川、地方の名”から逸脱していると判断されて却下されたが、新ロシア連邦(NRF)での建造計画名の『Заря(ザリャー)』、日本語で“暁”は駆逐艦『山彦』が一時期命名されていた艦名であったため、合意に至りました。

 なお“暁”も命名規則からは逸脱しているが、天象と非常に関わりのある言葉であるとの事から、特例として認められました。

 実は“暁”という漢字には“さとる”という読み方もあり、日本の置かれた現状に対していい加減に“悟れ”という、新ロシア連邦(NRF)側からの遠回しの皮肉が込められています。


 原型艦の『Гепард(ゲパルト)』級は1124型小型対潜艦『Альбатрос(アルバトロース)』、NATOコードネーム『Grisha(グリシャ)』型コルベットの後継艦として設計されているため、近海での対潜任務に比重を置いており、日本側の要望である艦娘とヘリの運用能力を付与するため、原型艦と比較して若干の大型化と容積確保のために個艦防空ミサイル・システムの4K33‹Оса-М(オサーM)›、533mm連装魚雷発射管、機雷の運用能力が撤去されています。

 武装は艦首方向からРБУ-6000 ‹Смерч-2›(RBU-6000 ‹スメルチ-2›)12連装対潜迫撃砲、AK-176 76mm単装速射砲、3M89‹Палаш(パラシ)›複合CIWS(原型艦はAK-630)を前部と後部の計2基、中央部分に‹Уран(ウラン)›ミサイル4連装発射機(原型艦では2番艦から‹Калибр(カリブル)›巡航ミサイルに変更された)を2基だが、近海での作戦任務という都合上、撤去して空いたスペースに‹Корд(コルド)›重機関銃用の遠隔銃架を設置する計画があります。


内乱罪

 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をする犯罪である(刑法77条)。内乱予備罪・内乱陰謀罪(刑法78条)や内乱等幇助罪(刑法79条)とともに、刑法第2編第2章に内乱に関する罪として規定されている。

Wikipediaより抜粋


 田沼少将は一連のこの事件に本当に一切関与しておらず、何も知らない田沼少将は「ガチで巫山戯んな!」状態です。



───────




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。