艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

35 / 115
 円卓


 新年初投稿。気合を入れて行こう。


 今回深海棲艦の姫様達の視点から見たアンドロメダについての話がメインとなりますので、少し「ん?」と思う所があると思います

 それと後半と後書きにとあるワインに関して書きましたが、にわか知識ですので間違っているかもしれません。



第33話 Round Table

 

 

「一旦そのことは棚上げにしましょう」

 

 

 飛行場姫の妹である北方棲姫が齎してくれた情報は、興味深いがどうもその(くだん)の“教授”とやらは凍傷などの影響で消耗が酷く、まだマトモに会話を行なう事が出来無いらしい。

 

 今は北方棲姫が懐いている居候の“リュージー”なる者と麾下にいる手の者たちが面倒を見ているらしいから、詳しいことはその“教授”が回復してからだろう。

 

 

「取り敢えず、その教授って人間の面相をアタシに“()()”して」

 

 

「わかった!」

 

 

 姉からの頼みに北方棲姫は快諾して目を閉じると、時を移さず飛行場姫の頭の中に映像が流れて来る。

 

 教授という肩書きから想像していた通り、学者らしい細身の体躯に細長い顔をしており、それ以外に(ふち)の太い眼鏡、天然パーマのかかった焦げ茶色の髪をしている中年男性の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 恐らく本人確認書類か何かに添付されている写真を見た“記憶”を送って来たのだろう。

 

 

 これはこの“空間”においてのみ可能となる、彼女達が“伝達”や“記憶の共有”と呼んでいる技術である。

 

 一度見た、聞いた様々な“事象”をこの空間の中にいる他の者達と“共有”することが出来る。

 

 その際に必要なのは、その“事象”を“伝えたい”という“気持ち”と、受け取る側がそれを了承するかどうかというだけである。

 

 最大の利点は例えばそれが紙媒体に換算して数千ページ、いや数万ページに及ぶ情報だったとしても、一瞬で、どれ程の人数であったとしても伝え切る事が出来る事と、それに附随する映像や画像に音声といった物がどれ程膨大な情報量であろうとも、“伝えたい”と願えば上限無く同時に伝え切ることが可能な事である。

 

 欠点は、伝えたいとの“思い”が()()()()場合は伝わらないし、伝えようとした情報の一部を()()()()()()()()()ら、その一部だけが伝わらないという事態が起きる。という物である。

 

 それを証明するかのように、今回北方棲姫が飛行場姫に送った教授のデータに氏名などは添付されていなかった。

 

 飛行場姫が求めた物が“面相”であったため、その辺りは北方棲姫が「まぁいいか」と判断して“伝え”なかった。

 

 まあそもそも深海棲艦という種族には多少の個体差はあるが、各々の固有名詞への(こだわ)りという概念が希薄であり、やや無頓着な一面があるため、特に気にしてはいなかった。

 

 

 更には同一個体に2人以上から同時に送られたら所謂混線状態となり、受け取りに失敗する。

 

 また情報を送っている最中は受け取りが出来無い状態になる。

 

 とはいえ、殆ど一瞬でのやり取りの為、重なることは極々稀なケースであり、そこまで気にされていない。

 

 

 

 取り敢えず“教授”の話はこれで終わりとなり、本題のアンドロメダに関しての議題へと移り変わる。

 

 

「先ずは今アタシ達が持っている“あの娘”に関する情報の共有を行なうわ」

 

 

 今この場には飛行場姫が特に指名して、アンドロメダとの接点がある、ファーストコンタクトの戦艦棲姫、実際に戦った南方棲戦姫と空母棲姫、そしてアンドロメダから姉と慕われ懐かれている駆逐棲姫が集っている。

 

 本来ならばここに泊地棲姫も出たがっていたが、流石にマリアナのトップ2人が一時的とはいえ同時に不在となるわけにはいかず、飛行場姫が言伝を預かって来ていた。

 

 

 それらを次々と開示していくが、矢張りと言うべきか最初に注目されたのは、その圧倒的という言葉だけでは言い表わし切れない程に隔絶された、戦争の形態そのものの違いがまざまざと見せ付けられるほどの、技術力と軍事力の差から来る戦闘能力の違いだった。

 

 

 マトモな抵抗すら出来ずに一方的に蹂躙される同胞(はらから)達。

 

 

 それを見ているだけしか出来ず、また直接砲火を交えた際に感じた、ありのままの恐怖と焦りの感情も伝わって来る。

 

 

 勝負にすらならない。

 

 

 それが今初めてアンドロメダの()()()()情報に接した彼女達の率直な感想だった。

 

 

「バケモノ…」

 

 

 誰かがそう漏らしたが、誰もそのことを責めれない、と思った途端、途轍も無い怒気と殺気がこの空間を満たした。

 

 

 普段はにこやかで、怒ることなど滅多にしない温厚な駆逐棲姫が、同胞(はらから)だろうと関係無いと言わんばかりに、今にも殴り掛からん程の激情を露わにしていた。

 

 

 この中の誰よりもアンドロメダとの付き合いが最も長く、その心に触れ、尚且つ自身の事をお姉ちゃんと呼んで心を開いてくれた事が嬉しくて堪らなかった彼女にとって、今の言葉は例え仲間である同胞(はらから)であったとしても聞き捨てならなかった。

 

 だからこそ、彼女は大切な妹分たるアンドロメダの名誉と尊厳を守る為に、普段のアンドロメダ(妹分)のナチュラルな姿を彼女達にこれでもかと“伝え”た。

 

 

 それは先の力でねじ伏せるかの如き、情け容赦の無い戦い方からは到底想像出来無い、控え目で温厚な大人しさと、「お姉ちゃん」と呼びながら同胞(はらから)である駆逐棲姫と楽しそうにじゃれ合う姿だった。

 

 

 そのあまりの落差の激しさに、当初は困惑を隠せなかったが、「あんた達、艦娘連中と戦ってる時どうよ?」との飛行場姫からの呆れ混じりのツッコミを受けた事で、羞恥から顔を赤らめた。

 

 特に普段は読書に浸り込んだりと物静かなのに、戦闘となると途端に喧しく叫び出す重巡洋艦クラスの姫がそっぽを向いた。

 

 余談だが、普段の姿しか知らない者が重巡の姫と共に戦場に出ると、艦娘からの攻撃で負傷しなくとも、そのあまりにも喧しい大音声によって100%の確率で耳の鼓膜が大破するというジンクスが存在する。

 

 

 まあ兎も角、強大な“力”に目を奪われて恐怖し、そのヒトとなりを一切考えなかったと反省し、戒める事とし、不快な思いをさせてしまった同胞(はらから)である駆逐棲姫に謝罪した。

 

 

 その謝罪を受けて駆逐棲姫は怒りの矛を収めたが、アンドロメダ(妹分)同胞(はらから)達から受け入れられるかどうかは、お姉ちゃんである自分の双肩に、頑張りに掛かっているとして気合を入れ直した。

 

 

 とはいえ今までに前例が無い存在に、どう判断すべきであるのか決め倦ねているのが大きい。

 

 特に別の世界からの異邦人、しかも星の海を()き、星々を渡る(ふね)という、彼女達の理解の範疇から逸脱し過ぎていて頭が付いて行けていなかった。

 

 だがそれを抜きにした、アンドロメダという名の少女の“個”としての存在に関しては別である。

 

 駆逐棲姫だけでなく、飛行場姫もアンドロメダの事を信用に足る存在であるとし、南方棲戦姫や空母棲姫にも蟠りが無いこと、何よりもアンドロメダが元気そうにしていることに安堵している戦艦棲姫や南方棲戦姫を見たら、下手に警戒し過ぎるのも考えものという気持ちに落ち着く。

 

 ただ問題は、当の彼女、アンドロメダが今後どうしたいか?という所へと集約されていく。

 

 

 ファーストコンタクトを成し、初めて言葉を交わした戦艦棲姫から、アンドロメダが人類の領域である日本へと向かう意志を示していた事、その理由が自身の生存の為にやむを得ない判断であった事を告げられ、飛行場姫は口を噤む。

 

 飛行場姫としてもアンドロメダは面白い娘であると思っているが、同時に彼女のこれからを思うとかなり複雑である。

 

 

 何故ならば彼女だけならば何とかなるかもしれないが、今は彼女の妹であるアポロノームがいる。

 

 

 問題はそのアポロノームの艤装だ。

 

 

 彼女の艤装は一部の機能はまだ生きているとはいえ、艤装としてはほぼ大破し、動くこともままならない。

 

 艤装は自身の半身であるという認識は、深海棲艦と艦娘共に共通の認識であり、艤装の損傷は怪我と同じであるとの認識も一致している。

 

 つまり彼女の艤装を壊れたままにしておくというのは、怪我をそのまま放置しているのと同義であり、見ていて痛ましくて仕方ないのだ。

 

 

 しかし自分達の技術の総力を持ってしても、修理が出来ないのは自明の理である。

 

 

 もしこの世界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうにかなるかもしれないが、そんな物までこっちの世界に来ているなんて上手い話は無いのはわかり切っている。

 

 

 取り敢えず、それらの事を伝えた上で、今後どうするかは決めかねている事を飛行場姫は正直に話した。

 

 

 事前にアポロノームの存在を知っていた者は別として、その事を今知った者達は頭を抱えた。

 

 

 そしてさらなる問題として、駆逐棲姫は2人と同じ世界から来ている可能性がある土方なる人間の存在を話したことで、事態はよりややこしくなった。

 

 

「待って、その土方ってお方は、もしかして“()()()()”という殿方なのではなくて?」

 

 

「姉様もそう思いますか?」

 

 

 2人で1つの個体という、めずらしい姫級姉妹の海峡夜棲姫が口を開いた。

 

 彼女達は現在フィリピン方面に展開し、日本近海での作戦行動を行なっている部隊の総代であり、ある程度は日本側の情報に通じていた。

 

 

 土方、そしてそのバックにいる真志妻という名の女性の軍人は、彼女達にとって無視出来ない存在だった。

 

 この2人が表舞台に出て来てからというもの、今まで部隊間の連携もへったくれもない、雑多な軍勢でしかなかった日本の艦娘は、れっきとした軍隊として機能するようになり、一気に手強くなった。

 

 

 元々は艦娘達の通信を傍受した際に、ツンケンとした声の駆逐艦とおぼしき娘による「あの鬼!私達にも容赦無いんだから!」という、恐らくは悪口(?)を聞いたのが最初であるが、その後の通信傍受でも次第に「鬼」と「土方」という単語が増えた事で、同一人物であると判断して「鬼の土方」と呼ぶようになったのだが、その鬼はこちら側にとっても十分“鬼”だった。

 

 

 ここぞというタイミングで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を投入して来ては、こちらの部隊の中核をなす戦艦や空母だけでなく、姫級やその下位互換である鬼級、果ては最上位の水鬼級であろうと関係無く、その悉くを蹴散らして行くのだ。

 

 だが、何よりも恐ろしいのが、その部隊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それがその部隊の交戦規定(方針)なのか、此方を舐めているのか、或いは全くの偶然か、少なくとも最後のは有り得ないだろうが、その真意が掴め無いがために、不気味だった。

 

 

 だが幸いなことに、その姿を確認したのはもっぱら日本本土近海周辺だけであり、日本から離れた遠洋での作戦行動部隊では姿を見せて来ていない。

 

 何度か沖縄戦線でカマかけをして、その部隊が出張って来ないかを確かめたが、一度もその姿は確認されなかった。

 

 

 そのため日本本土近海での積極的な行動は控えさせて、消耗を強いる作戦に切り替えたのだが、最近は長引く戦いに同胞(はらから)達の間で次第に嫌気が指してきていて、厭戦気分が徐々にだが広がって来ていた。

 

 海峡夜棲姫やその副艦である姫もなんとか立て直しを図ってはいるが、当の本人達でさえ互いの相方と静かに仲睦まじく過ごしたいとの願望が日増しに強くなってきており、少しずつ士気が崩壊しつつあった。

 

 

 しかし日本という国はこの戦争において、明らかに身の丈に合わない軍事行動を矢鱈と強行していたという事例から、何を仕出かすか分からないといった恐怖があったため、同胞(はらから)にとって生存のために不可欠な食料供給の最重要地域である、インドネシアへと踏み込ませない様にとの、日本を抑える絶対防衛ラインの(かなめ)たるフィリピンだけは、絶対に放棄出来なかった。

 

 その為に、西太平洋に展開する同胞(はらから)にある程度のルーティンで配置転換を行なって、休養期間を設けたりとの対策を打ったりしている。

 

 

 何を隠そう、空母棲姫と南方棲戦姫が率いて来ていたマリアナへの増援部隊は到着後に同地の駐留戦力の一部として、そしてマリアナの駐留戦力の一部がフィリピンに展開する部隊の交代戦力となるはずだった。

 

 

 だがそれも、アンドロメダとの戦闘によって、ルーティンに少なくない影響が出ていた。

 

 

 増援部隊の主力艦たる空母や戦艦は完全損失こそ皆無ではあるが、戦力としては損失状態であり、マリアナに到着後暫しの修理期間が必要である。

 

 その間はマリアナから出発する予定だったフィリピンへの増援部隊も下手に動かせない。

 

 

 つまりその間、フィリピンは消耗し、士気の低下している現有戦力で遣り繰りするしかないのである。

 

 

 万が一、その間にアンドロメダがその土方と合流し、人類側の尖兵となってしまった場合、本土近海は“盾”となる駆逐艦部隊が守り、遠洋作戦の“矛”としてのアンドロメダが攻撃の嚆矢となって攻勢に出られたとしたならば、戦線を食い破られるどころか、こちらが手出し出来ない遥か上空から文字通り一足飛びに飛び越して、戦線を無視して一気に中核本隊を消し去りに来る可能性が大いに有り得るのではないか?という懸念を海峡夜棲姫は示した。

 

 

 確かにその懸念は否定し切れないし、十分に有り得るだけの説得力があった。

 

 というか、たとえ戦力が十分に揃っていたとしても、結果は変わらないだろうが…、とはいえ残存戦力を結集して、後から来る艦娘の制圧部隊への抵抗ならばなんとかなる可能性はあるだろう。

 

 

 ただ同時にアンドロメダと直接言葉を交わした者達にはその懸念に、アンドロメダが人類の手先となる可能性については、やや懐疑的な見解だった。

 

 

 アンドロメダはこの世界の人類の事を独自に調べていたようで、その一環でこちらが長年知りたかったマリアナでの事件に関する謎の答え、まだ一部は不明のままではあるものの、予想外の収穫とも言える情報まで齎してくれた。

 

 その際、アンドロメダはそれまでの温厚で落ち着いた優しい雰囲気からは想像出来ない程の、とても冷たくて侮蔑しているとも取れる様な態度と声音で、淡々と語っただけで無く、この世界の人間のことを声を荒げて「野蛮人」と罵り、自らの拳を机に叩き付けながら断じた。

 

 そのある種の暴言とも取れる物言いに、その場に居合わせた者達は少なからず衝撃を受けた。

 

 

 そのことに関して、泊地棲姫が興味深い事を話していた。

 

 

「彼女は、少し子供の様な一面が見られます」

 

「私の子供達も、時折そういった態度をとる時があるのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時があります」

 

「彼女にとって、この世界の人間はあまり好ましく無い存在と捉えているのではないでしょうか?」

 

 

 子供の様な、という泊地棲姫の見解に関しては、飛行場姫もなんとなくだったが感じていた事だった。

 

 

 駆逐棲姫とじゃれ合う姿が、なんとなく泊地棲姫に甘えている時の子供達の姿と重なって見えたのだ。

 

 これはあくまで飛行場姫の推測だが、アンドロメダはその見た目に反して心の内面に、幼い部分があるのだろうと見ている。

 

 だからふとした瞬間に、その心の内面が出てしまうのだろう。

 

 

 割り切っている様で、実は割り切れていない。

 

 

 案外好き嫌いが激しくハッキリしている。

 

 

 それらは恐らく、彼女の出自や生前(?)の経験などが深く関わっているのだろう。

 

 

 ひょっとして、この世界の人間は彼女にとって許容出来ない程の許し難い“地雷”を踏んでしまっていたのではないのだろうか?

 

 そう考えると案外なんとかなるのではないだろうか?と楽観的な考えも浮かんでくるのだ。

 

 

 無論それはこちら側にとって都合のよい解釈でしかないが、可能性はゼロではない。

 

 

 とはいえ、今の所はアンドロメダとの敵対関係化だけは避けたいという意見が優勢であるように飛行場姫は思えた。

 

 

 以前に占領したアメリカのハワイオワフ島の基地への回航案が出たが、残念ながら基地施設はアメリカ軍が放棄した際に完全破壊された影響と、定期的にアメリカ本土から長駆飛来する大型爆撃機による定期便によって、侵蝕による施設の修復も遅々として進んでいない状態であると、現地を担当する中枢棲姫から報告されて断念。

 

 

 中にはいっそ何処かの基地なり拠点を襲撃して占領しないか?という些か過激ではあるが、ある種の的を得た意見も出て来たが、最寄りにあるマトモな設備は日本本土にしか無い。

 

 日本本土には例の駆逐艦の部隊が手ぐすねを引いて待ち受けているため現実的ではない。

 

 

 些か距離は遠いが、ヨーロッパ方面はどうか?との意見も出たが、()の悪いことに太平洋とヨーロッパの間にあるインド洋は現在サイクロンのシーズンであり、自走航行能力を損失しているアポロノームが曳航中に転覆、沈没してしまう危険性が高かった。

 

 

 正直、八方塞がりであった。

 

 

 ここでふと、南方棲戦姫がある“噂話”を思い出した。

 

 

「そういえば、前々から噂があった艦娘の艤装を私達と同じに出来るかもってヤツ、あれどうなったの?」

 

 

 その南方棲戦姫からの問い掛けに、皆が顔を見合わせる。

 

 確かにそういった“噂”があったことは、聞き及んでいる。

 

 だが誰もその詳細は知らないままだった。

 

 

「そのことなのだが…」

 

 

 欧州棲姫がおずおずとだが、何か意を決したかのように、口を開いた。

 

 

「その噂は、ほぼ事実だ」

 

 

 この欧州棲姫のカミングアウトに場は騒然となるが、同時に何故そのことを知っているのか?との疑問の視線が欧州棲姫に集中する。

 

 

「今ここには来ていない地中海担当総代が、以前に私のもとへイタリア海軍所属の艦娘だったとされる者を紹介してくれた事が切っ掛けだ」

 

 

 もしかしたら突破口になり得るかもしれない思わぬ情報に、にわかに期待に満ちた歓喜の声が上がるが、欧州棲姫は心底申し訳ないといった苦しい表情を浮かべていた。

 

 

「皆の期待を裏切る様で、本当にすまないが、詳しいことは私の口からは、言えない。彼女に、口止めされている」

 

 

 落胆の空気が広がるのを肌で感じながらも、欧州棲姫は苦汁に満ちた表情で語り続ける。

 

 

「だがこれだけは言わせてくれ」

 

「知れば、後悔するだけでは済まない程の…、反吐が出る様な胸くその悪い、話なんだ…」

 

 

 そう語る欧州棲姫の顔は、抑えきれない憤怒でその美しい容貌が醜く歪んでいた。

 

 

 一体何があったのだ?との疑問が湧き上がるが、必死に自身の怒りを抑えようとしている欧州棲姫の姿を見たら、その気持ちも急激に薄れていった。

 

 

 なんとも言えない重い空気が流れる中、この空間に新たな参加者が現われた。

 

 

「まだ続いているかっ!?」

 

 

 現れたのは、フロリダでバカンス中の戦艦新棲姫だった。

 

 その表情はなにやら慌てているような感じであったが、場の空気がとてつもなく重い事に困惑した表情となった。

 

 

「誰かと会っていたと聞いてたけど、何かあったの?」

 

 

 今回の会合の発起人でもあり、司会の立場にある飛行場姫が尋ねると、戦艦新棲姫がそうだったと漏らしながら飛行場姫に“ある事”を確認した。

 

 

「今回の議題の対象になってるヤツ!確かアンドロメダとか言う名前だったよなっ!?」

 

 

 その質問に、飛行場姫は首肯して間違いないことを示した。

 

 

「今会っているヤツのお付きなんだがよ、ソイツがアンドロメダってヤツの事を知ってたんだ!!」

 

 

 

 円卓は、今迄に無いくらいの混沌とした状況へと陥って行く。

 

 

 

 

───────

 

 

 地中海シチリア島。

 

 

 海が一望できるとあるカフェテラスに、そのグループはいた。

 

 

「本当に良かったのか?別にわしのことは気を使わなくてよかったんだぞ?」

 

 

 頭に羊や山羊のツノのような物を生やした小柄な深海棲艦、“地中海弩級水鬼”が、周りにいる姫級達に語り掛ける。

 

 

「何言ってるの?貴女の仲間と久しぶりに会うのでしょう?私達も会っておく事に損は無いわ」

 

 

「ここシチリア島は一応()()()()()であるとの()()()()があるとはいえ、万が一がありますから」

 

 

 地中海弩級水鬼は「そうか」とだけ返すと、ウェイトレスがやって来て、テーブルに注文していたワインが注がれたショットグラスを置いていった。

 

 

 スイートベルモット。

 

 

 数十種類のハーブや香辛料を絶妙なバランスで配合したイタリアのフレーバードワインである。

 

 主にカクテルとして使用されるが、彼女はこれをロックで嗜むのが好みであった。

 

 このワインは元々、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()思い出のあるワインであり、その時からの大のお気に入りだった。

 

 

 だが()()()()姿()()()()()()()は、なかなか飲むことが出来ずにいた。

 

 

 今はもう戻れない、思い出の場所の風景を頭に思い描きながら、その風味を楽しもうとしたのだが、口に含んだ際に何かが違うとの違和感を覚え、わずかに眉根を寄せた。

 

 

「そのお姿になられましても、デュゴミエ閣下との思い出は大切になされているようで、安心致しました」

 

 

 先程のウェイトレスがいつの間にか戻って来てそう声を掛けてきた。

 

 地中海弩級水鬼が顔を上げて、そのウェイトレスの顔を見ると、癖のある焦げ茶色のパッツンボブカットに、()()()()()()()()()()()()()()ていても分かるくらいに()()()()()()()()()()()ウェイトレス姿の女性がワインボトルを携えながら佇んでいた。

 

 

 その目はサングラスによって見えないが、まるで威圧するかのように眉根を寄せているその形相に、周りに控えている姫達はやや気圧されそうになりながらも、地中海弩級水鬼を庇う様に動こうとしたが、当の地中海弩級水鬼に手で制され、後ろに下がった。

 

 

「…あのお方へのわしの“思い”は、今も変わらないさ」

 

 

 まだ自分が()()()()()()()にその心に抱いていた“暖かな思い出”は、今でもその心に息づいている。

 

 

「貴女と閣下との仲は…、我がイタリアにとって明るい未来の…、希望の象徴でした…」

 

 

 次第にウェイトレスのその声が震え出して来ているのが聞き取れた。

 

 

「だが最近のイタリアは、いやヨーロッパは、このワインの質の様に、落ちるばかりだな…」

 

 一口飲んで、気付いた。あの時、デュゴミエ様と初めて飲んだ時に比べて、風味も香りも確実に落ちていた。

 

「それが、わしは悲しい…。何故ニンゲン共は、先祖が積み重ねて来た“伝統”と“文化”に“風習”、そして“歴史”を大切にしないのか…」

 

 

 嘆くかの様に言葉を紡ぐが、その心の底にはかつてニンゲン達が()()()()()()()()()()()()()()()()()が、だが何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が激しく渦巻いていた。

 

 

 ウェイトレス姿の女性がサングラスを取り、顔が露わとなったが、その瞳には、今にも流れ落ちそうな程の涙を湛えていた。

 

 

 その顔を見た地中海弩級水鬼は懐かしさに目を細め、微笑みを浮かべた。

 

 

「久しぶりだな、ローマ」

 

 

 かつての仲間、イタリア海軍所属の戦艦艦娘の名を呼ぶと、ウェイトレスに扮していたローマの涙腺は決壊した。

 

 

「お元気そうで、何よりです…。“賢人(サージュ)”…、()()()()()()()()()()()…!」

 

 

 

 後に西ヨーロッパを混乱の坩堝へと落とした、“地中海事件”と呼ばれるEU委員会とEU軍が必死になって揉み消しを謀ろうとした一大事件が起きる、数ヶ月前の出来事であった。

 






 闇の扶桑型こと海峡夜棲姫の2人にはとある寂しい考察がありますが、私としましては仲睦まじく2人で慎ましくも幸せな戦後を過ごして貰いたいとの思いから、れっきとした二人一組の深海棲艦としました。因みに海峡夜棲姫の副艦は迷子、もとい防空埋護姫ですが、ちゃっかり防空埋護冬姫もいます。(その意味がわかりますな?)


 コンテ・ディ・カブールは過去に起きたとある事件が原因で深海棲艦地中海弩級水鬼と化してしまい、イタリアから出奔しました。そのことが凝りとなり、今でも愛している1人の人間(故人)を除いて、ニンゲンに対して強い負の感情を抱いてしまっています。

 それ以前の彼女はイタリア海軍艦娘部隊におけるエースでした。


 一応本作では艦娘轟沈→深海棲艦化やその逆といった現象は起きない設定を採用しておりますが、人為的な方法によって深海棲艦化が起きる事態は起き得る設定です。
 詳しいことはまたいずれ。


 因みに何故か私の中で艦娘ローマの絵柄が長谷川哲也氏の漫画、ナポレオンに出てくるキャラ(特にロベスピエールとグラサンナポレオン)風に脳内自動変換されてしまう不思議現象が発生しており、本編でのサングラス+眉間に縦皺という感じに…。

 


捕捉解説


 スイートベルモット

 ベルモットと呼ばれる白ワインをベースにニガヨモギやコリアンダーなどの数十種類のハーブや香辛料をブレンドして作られるフレーバードワインである。

 香草の香りが食欲増進になるとして、食前酒としても親しまれる。

 特徴として、ハーブや香辛料の風味が強い“ロッソ”とハーブや香辛料の風味が抑えめで甘口の白ワイン感覚で味わえる“ビアンコ”の2種類がある。
 ロッソは赤みがかっている。

 カクテルとの相性も良く、『カクテルの王様』と呼ばれる“マティーニ”はもともとスイートベルモットを使っていた。

 またスイートベルモットはフレーバードワインであるため、そのままストレートで飲む事もオススメであるし、ロックや、ソーダ割りも悪くない。

 また料理に利用することも出来る。


デュゴミエ(故人)

 イタリア海軍にてコンテ・ディ・カブール(以後カブール)やローマなどのイタリア艦娘部隊を指揮していたフランス系イタリア人の老将。最終階級は少将(生前は准将)。

 元々はそこそこ高齢の予備役だったが、他に適当な人手がいないからと現役に復帰。

 やや短気な性格だったが艦娘との仲は良好で、アドリア海を中心に活躍し、国内だけでなくEU内でも人気のある人物だったが、本人がEU懐疑派だったということもあり、EU上層部からは疎まれていた。

 カブールにスイートベルモットを勧めた張本人であり、自身もベルモットを愛飲していた。

 地中海弩級水鬼ことカブールは今も彼のことを愛し続けているが、カブールがイタリア軍に在籍していた最後の年に()()が原因で死亡している。


新年一発目の愚痴コーナー!

 おい共和党下院議員!お前ら漸く好き放題好き勝手アメリカや世界を滅茶苦茶にしてきた民主党に殴り返せれる絶好のチャンスなのに、何下院議長決めるのにゴタゴタしてんだよ!?
 漸く民主党の暴走に歯止めがかかると期待してたんだぞ!
 確かに今の共和党下院リーダーの腰抜けケビン・マッカーシーは頼りないし、民主党にいいように弄ばれていたという前科はあるのは事実だけどよ、共和党が割れて喜ぶのは民主党だろうが!



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 次回は再びフロリダへ。

アメリカ大統領選挙のイメージは?

  • 直接選挙
  • 間接選挙
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。