艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 前回邂逅した深海棲艦との対談が始まります。



 深海棲艦のキャラ立ち等につきましてはほぼ筆者のイメージで書いております。ご了承下さい。


第3話 SCOUT 「という名目のナンパですか?」「違ウワヨ!失礼ネ!!」

「へっくしゅん!」

 

 全身ずぶ濡れになったアンドロメダのくしゃみが小さく響き渡る。

 

 今彼女は自身の艤装の縁で水上用内火艇を模した水上移動用靴の用意をしていた。

 

 その周りでは機関科応急班*1の妖精達がアンドロメダに付着している海水の塩分を洗い落とすため、艤装に接続されたホースを引き寄せながら待機していた。

 

 

「ホントゴメンナサイ…」

 

 

 過失とはいえ、海に落としてしまった原因となった女性が、妖精達の邪魔にならない様に離れた場所から心底申し訳なさそうに頭を下げたが、アンドロメダは「いえ、此方の不注意もありましたから」と慌てて止める。

 

 

 簡単に言えばレーダーの設定ミス。

 

 

 レーダーはその性質上、照射し跳ね返ってきた反射波全てに反応するが、その際に本来ならば不要な反射波*2まで捉えて表示してしまう。

 

 それら不要な反射波情報(クラッター)を事前に不要な情報として処理する様に設定するのだが、その設定を行ったのが艦娘や深海棲艦という存在を認識する前であったため、人間サイズの反射波はクラッターとして処理されていた。

 

 

 その為彼女、深海棲艦ハイエンドモデルの1人である『戦艦棲姫』を探知出来なかった。

 余談だが彼女達深海棲艦が扱う生体艤装はレーダー波が反射し難く、早期探知が難しい為に人類は緒戦に於いて何度も苦杯を嘗めさせられた。

 

 

 もし戦艦棲姫にその気があったなら、指ではなく砲弾だっただろう。

 

 至近距離からなら流石のアンドロメダとはいえ無事ではすまない可能性があった。

 

 それに、仮令(たとえ)致命傷にならない掠り傷程度だったとしても、今のアンドロメダにはそれすら致命傷になりかねない。

 

 何故ならアンドロメダには補給や修理のあてが全く無いのだから。

 

 交換部品のストックは有るが、それが尽きたらもうお仕舞い。

 

 特にレーダー等の各種センサーは精密機械の塊であるために繊細で故障のリスクが高く、また被弾対策として装甲で覆うと機能を著しく阻害する処か機能しなくなるから下手に装甲で覆う訳にはいかず、被弾に弱い。

 

 更に言えば主砲の砲身だが、被弾して曲がるとまでいかなくとも凹むだけでも膅発(とうはつ)*3リスクや命中点にズレが生じる可能性がある。そうなると砲身その物を交換する必要が有るが、そもそも交換用砲身はアンドロメダに積み込まれていない。

 

 生体艤装の膂力がどれ程のモノかは不明だが、もし砲身を掴まれていたらもう万事休すだったのだ。

 

 艤装への損傷が今のアンドロメダには破傷風と同じと考えていい。

 

 そういった意味ではアンドロメダは運が良かったと云える。海には落ちたが…。

 

 

 だがそれも自身の落ち度と考えたら恨む気にはならなかった。

 

 

「すみませんが着替えますので少しお待ちください。その間お飲み物等の嗜好品を御用意します。アナライザー、他の皆さんにもお出しして」

 

「ハイ。ワカリマシタ」

 

 そう言うとアンドロメダは海水で濡れた服を脱いで主計科の妖精に渡すと水上移動用靴を履いて海面へと恐る恐る降りていった。

 

 

 

 別にそこまで気を遣わなくても、と戦艦棲姫は思いながらも好意を無下にするのは良くないわねと思い直す。それに、と周りの海面を見渡す。

 

 そこには海に落ちた彼女を海中から引き揚げた功労者である潜水装具に似た艤装を身に付けた潜水艦の娘達*4が此方を「良イノ?」と見上げていた。

 

 この娘達を労う為にも丁度良いかもという気持ちもあって頷いて返す。

 

 因みにだが同胞(はらから)に毒物、化学兵器の類いが有効で無いことは既に人類との今までの戦闘で立証されている。

 

 それもあって了承した。

 

 

 それを見た潜水艦の娘達は顔に付けたレギュレータ越しにも分かるくらいに喜色を浮かべはしゃぎ出した。

 

 他の艦種の娘達と比べ、長期間の作戦行動が多い潜水艦部隊は総じて娯楽に飢えやすい。

 

 だからこそ予想外の嗜好品にありつけるという思わぬ幸運に喜んでいるのだ。

 

 

 それを横目に見ながら、戦艦棲姫は変わった飛行艇*5に乗った赤いロボットの様な妖精──確かアナライザーと呼ばれていたかしら?──から差し出されたメニュー表を受け取ると、驚愕した。

 

 給糧艦と名乗っても疑い無く信じ込めると言えるほどのレパートリーの豊富さに驚きを隠せなかった。

 

 それは潜水艦の娘達も同様な様で、先ほどまでのはしゃぎ様が嘘みたいに目を白黒させて驚いていた。

 

 

 この娘、本当に何者なのかしら?という疑問が戦艦棲姫の中で湧いてくる。

 

 

 

 事の始まりは突然の電波障害でレーダーと通信に支障が出て哨戒に出ている娘達が混乱しているとの報告があった。

 

 すわ艦娘達の襲撃かと色めきたち、直ちに迎撃態勢を整えるべく動き出そうとした矢先、潜水艦の娘から『電波障害の発生源とおぼしき海域で敵か味方かわからないモノが浮いている』との報告が伝令としてリレーしてきた駆逐艦の娘が伝えてきた。

 

 

 それを聞いて、何があってもそれなりに対応出来る自信があったため先行して接触する事とした。

 好奇心がなかったと言えば嘘になるが…。

 

 

 そしてそこにいたのが、今まで見たこともない巨大な艤装に乗る、遠目からでも分かるかなりの長身な娘。

 

 見たところ私達の艤装とはまるで違う。どちらかと言えば艦娘達の艤装の方が近い為、新手の艦娘かとも思ったが、あまりにも異質だ。

 

 

 そしてあまりにも無用心だった。

 

 

 そこで後ろからそっと近付いてちょっと脅かしてやろうかといういたずら心が湧いた。

 

 

 真後ろに来ても、会話に夢中で此方に一向に気付かない様子に思わず口元がつり上がる。

 

 艤装の腕をゆっくりと伸ばしていると、思わぬ言葉が耳に入ってきた。

 

 

「そうね、その時は貴方が言った星座棲姫を名乗って深海棲艦さん達と交渉してみようかしら?」

 

 

 正直驚いた。同胞(はらから)と艦娘、双方相容れない間柄と言い切れる訳ではないが、それでも艦娘かもしれない存在が、冗談交じりかもしれないが自ら同胞(はらから)と名乗って、しかも話し合いを持ちかけようと言ったのだ。

 

 俄然興味が強くなり、思わず口を衝いて出たのが「アラ?ソレナライッソノ事ソノママ私達ノ同胞(ハラカラ)ニナラナイ?歓迎スルワヨ?」である。

 

 

 

 その後の顛末はご存知の通りの有り様。

 

 

 

 

 今日ほど潜水艦の娘達がいて良かったと思った日はない。

 

 何せ海中での行動が得意な潜水艦の娘達ですら、彼女を海面まで引き揚げるのに3人がかりで漸くだったのだから。

 

 

 

 とそこへアナライザーが頼んだ飲み物を運んで来たので一端思考を切り上げ、礼を言って受け取る。

 

 

 それは奇しくもアンドロメダと同じ紅茶だった。

 

 

 一口飲んでほうっと息つく。

 

 戦艦棲姫自身もそこまで詳しい訳ではないが、それでも悪くないと感じた。

 

 

 潜水艦の娘達もそれぞれの品を受け取り歓声を上げていた。

 

 

 本当に給糧艦なんじゃないかしら?という考えに至りそうになるが、目の前にある物騒なシロモノがその考えを否定する。

 

 艤装に備え付けられた──かなり変わった形ではあるが──3連装の大型砲塔を見る限り、恐らく自身と同じ戦艦クラスだろう。

 

 

 それに艤装の外観を見ただけでも、明らかに水上艦だとは到底思えない。

 

 

 戦艦棲姫の心中に、よくわからないモノに対する言い知れぬ恐怖が鎌首をもたげ出すが────

 

 

「ヒャア!!セメテオユニシテクダサイ!!」

 

 …何とも情けないアンドロメダの悲鳴が聞こえてきて毒気が抜けた。どうやら妖精達が間違って冷水をアンドロメダに浴びせてしまった様だ。

 

 

 はたと、アンドロメダに付いた海水を洗い落とすなら間違いなく真水だろう。だがそれだけの大量の真水をどの様にして用意しているのかという疑問が頭を過ったが────

 

 

 ちゃっかりドーナツを頼んでいた自身の相方である艤装が、その豪腕に似つかわしくない器用な手捌きでドーナツを1つづつ自身の口に運んでいるのを見て、何だか真剣に考えている自分が馬鹿なんじゃないだろうかと思えてしまい、もうこうなったら直接聞きましょうと開き直って紅茶を楽しむことにした。

 

      ─────────

 

「すみません。お待たせしました」

 

 

 新しい服を着込んだアンドロメダが、改めて戦艦棲姫と対峙する。ただし手にはアナライザーから「御体ガ冷エテハイケマセンカラ」と渡された生姜湯を熱そうに持ちながら。

 

 

 その何とも言えない立ち振舞いに、どう切り出したものかしらと思っていると「私はアンドロメダと言います。貴女の事は何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」と先手を取られた。

 

「ゴメンナサイ。私達ニハ固有ノ名称トイウモノガ無イノ。ダカラ人類ガ私達ニ付ケタ名称デイイワ」と答える。実際それで特に不便と感じて来なかった。

 

「ソレニシテモ、あんどろめだ…。確カぎりしゃ神話、えちおぴあ王けぺうすト王妃かしおぺあノ娘、主神ぜうすノ子英雄ぺるせうすノ妻トナリ、後二戦イノ女神あてね二星座トシテ天二召シ上ゲラレタ女性ノ名ヨネ?ダカラ星座棲姫…。中々小洒落(コジャレ)テテ可愛ラシイ貴女ニぴったりナねーみんぐネ」と言うとアンドロメダは気恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

 それを見て()()ねぇと思わず頬が緩むが、このままだと話が進まないと思い、一つ咳払いをすると単刀直入にここに来た理由をアンドロメダに語った。

 

 

 突然の電波障害、その原因と思われる同胞(はらから)とも艦娘かもわからないモノの存在。その確認の為に来たとアンドロメダに語った。

 

 

 その説明を聞いて、アンドロメダは少し青ざめた。

 

 電波障害。タイミング的にもそれは明らかに自身の放っているレーダーによるものだろう。

 

 うっかりしていた。自身は未来の、しかも宇宙の海を行く航宙艦。それに搭載されているレーダーの出力はかなり強力である。

 

 そんな高出力な電波が照射されたら、電波障害が起きてもおかしくない。

 

 

 だが問題はそこではない。

 

 

 現状、『アンドロメダと深海棲艦は明確な敵対関係では無い』のだ。

 

 

 だが今回の電波障害によるレーダーと通信への支障は、見方を変えればアンドロメダによる『レーダー及び通信の阻害を目的とした明確な軍事行動』と捉える事も出来なくはない。

 

 

 つまり『アンドロメダが先に手を出した』と主張されても強く反論出来ないのだ。

 

 

 

 嘗て地球はガミラスとのファーストコンタクトの際に、明確な警告や布告無しにガミラス艦に発砲*6して反撃の口実を与えてしまい、以後8年間に渡って絶望的な戦争状態へと突入。青く美しかった地球は海が干上がり、醜く爛れた真っ赤な惑星へと変貌。人類は総人口の7割を失うという悲惨な事態となった。

 

 

 嘗ての過ちを自身が繰り返してしまったのではないかという恐怖に手が震え、慌ててアナライザーにレーダーのスイッチを切るように命令し、戦艦棲姫に対して率直に謝罪した。

 

 

 その慌てぶりに訳ありであると察した戦艦棲姫は、謝罪を受け入れる条件としてアンドロメダの素性を話すように要求した。

 

 

 戦艦棲姫の要求に、アンドロメダは悩む。

 

 

 率直に全て話したところで与太噺として信じて貰えない可能性の方が高い。

 

 

 とはいえ何か言い逃れが出来る妙案があるわけではなく、最低限の要点だけをかいつまんで話す事とした。

 

 

 曰く、自身が未来の地球で造られた星の海を行く船であったこと。

 

 曰く、その後に起きた戦争で自身は戦没し、気付いたらここにいたと。

 

 

 という趣旨の内容で話し、アンドロメダは戦艦棲姫の顔を見ると「宇宙ニ行ッテモ、人間ハ(タタカ)イヲ()メナカッタノネ」と呆れた声で呟いたのが聞こえた。

 

 その呟きに対して、アンドロメダは何も言わなかったし言えなかった。

 

 

 恐らく戦艦棲姫は地球人類同士での戦いを想像したのだろう。確かに間違ってはいない。

 

 ガミラス戦役以前に人類は2度、火星に移住した同胞達との戦争*7を経験しているのだから…。

 

 

 だがそんなことよりもアンドロメダは戦艦棲姫が自身の話を信じた事に驚いた。

 

 

「あの、ええと…戦艦棲姫さん、こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、私が嘘を言っているとは思わないのですか?」

 

 

「正直半信半疑ダケド、嘘ニシテハ突飛過ギルワヨ」

 

 本気で騙す気なら、もっとマシな嘘をつくでしょ?とも付け加えた。

 それに未来の艦ならば、今まで見た装備等についての疑問が未来の技術なのだとして一応の説明が付くとも考えたのもある。

 

 

 それと同時にアンドロメダの今後に僅かばかりの不安を覚えた。

 

 

 『名は体を表す』という。アンドロメダとは先に語ったギリシャ神話で生け贄にされて死に瀕する目に遭う存在でもあるのだ。*8

 

 

 彼女の意思に関係なく、人間達は己の持つ世界を滅ぼしかねない程のあまりにも巨大で醜い業と欲を満たすために、彼女を生け贄にしてしまうのではないかと思えてならなかった。

 

 彼女が持つ未来の技術と知識はあまりにも魅力的なのだ。それも危険な程に。

 

 

 無論、深海棲艦でも上位クラスの存在でもある為に自陣営の利益という考えが全く無いという訳では無いが、彼女の心の内には「折角仲良くなれるかもしれない娘が、人間達の玩具にされるかもしれないというのをむざむざ見過ごすのは嫌だ」という気持ちの方が強かった。

 

 だからこそ戦艦棲姫は真剣な表情でアンドロメダに告げた。

 

 

「ネェ、あんどろめだサン?最初ニモ言ッタト思ウケド、改メテ聞クワ。貴女、私達ノ同胞(ハラカラ)ノ1人トシテ私達ノ所二来ナイ?」

 

 

 その問いにアンドロメダは呆気に取られる。まさかこうも突然、単刀直入に御誘いを受けることになるとは思っていなかった為に固まってしまい、言葉が出なかった。

 

 そんなアンドロメダに、戦艦棲姫は畳み掛ける様に言葉を紡いで行く。それが謂わばお節介の類いであることは重々承知しながら───

 

「貴女モ薄々気付イテイルノデハナイカシラ?」

 

「貴女ノ持ツソノ『力』ト『技術』ヲ、人間達ガドウ(トラ)エルカ…」

 

 

 戦艦棲姫の言いたいことは、アンドロメダとしても良く理解出来る。実際アンドロメダ自身、その辺の事は危惧している。そして戦艦棲姫がアンドロメダの事を真剣に案じてくれている事も察した。だが。

 

 

 

 

「丁重にお断り致します」

 

 

 

 

 戦艦棲姫の心遣いに感謝しつつも、一度決めた事を覆す気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

*1
所謂ダメコンチーム

*2
地面や海面、雲に鳥など

*3
砲身内で起きる暴発等の自爆による砲身破裂等の事故腔発(こうはつ)の帝国海軍、海上自衛隊での呼び方(筒内表記でも可)。

*4
人類コード、潜水カ級

*5
コスモシーガル

*6
ただし、ガミラス艦も地球艦による全ての呼び掛けを無視し、また地球艦に対して呼び掛けを行っていない状態で侵犯行動に及んでいるが。

*7
内惑星戦争

*8
そして後に夫となるペルセウスに助けられる




 色々と書いていたら、思いの外長くなりましたので今回はここで切ります。

 それにしてもこじつけが酷いかなと思う今日この頃…。そして話が全然進まねぇ!

 それはそうと、本話書き上げたタイミングでのUA数が2199…。びっくり致しました。ですがそれ以上に初投稿から大体1ヶ月でお気に入り登録数が気付けば44…。マジですか…。感謝の気持ちで一杯です。まさに感謝の極み。
 私としましては、思い付いた文章をただつらつらと書いているだけですが、これからも肩に力が入りすぎないようにしながら執筆を頑張って参ります。


毎度お馴染み補足説明。

水上移動用靴
 
 何らかの理由で水面上で作業を行う際に使用する内火艇的役割を持った装備品。


 

 それでは今回はこの辺で失礼致します。

 励みや参考になりますので御意見、御感想を御気軽に御願い致します。

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