艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 通信傍受


 お待たせ致しました。


 霧島(キリシマ)が通信に割り込んで「久し振りだね(CV伊武雅刀)」するまでのあれこれ。

 …実は最初期のプロットでの没案にてアンドロメダが通信に割り込むという物がありました。大本のネタは2199でのバラン星観艦式でのデスラー総統による「なにか言い残すことはないかね?ゼーーーーリック君?」辺りのシーンだったのですが、それをやってみたかったというものでした。



第39話 Communication interception

 

 

「«先生…、先生…っ!»」

 

 

「泣くんじゃ無いよ…、若いの…」

 

 

 画面の向こうで泣きじゃくるアンドロメダ(教え子)を慰めながら、霧島(キリシマ)もその瞳には少しばかりの光るものが滲んでいた。

 

 通信に割り込みながら、格好をつける様にして登場したものの、彼女自身アンドロメダの姿を見たことで、安堵の気持ちから泣いて喜びたかったが、それを寸での所で堪えた。

 

 

「(…窶れたねぇ)」

 

 

 それがアンドロメダを()()()()に見た霧島(キリシマ)の率直な感想だった。

 

 

 最後にその姿を見たのは、アポロノームが自身を庇って沈んで(逝って)しまってからの、心が壊れて霊鬼の様になってしまっていた時だったが、その時の様な血色が悪くてやや青褪めた様な肌の色や、暗い感情からくる濁りきった瞳では無いものの、明らかにその時よりも頬が痩けていた。

 

 それに、ヒト前でここまで感情を露わにすることも無かったハズだ。

 

 私やヤマトと一緒な時はそれなりに感情豊かであったが、他の誰かがいる時は微笑みを浮かべながらもどこか泰然とした雰囲気を纏い、感情の起伏が殆ど無かったはずだ。

 

 

「(やっぱり、無理してたんだね…)」

 

 

 何があっても動揺を見せないように、何が起きても冷静に構えている姿を見せることで皆の不安を振り払い安心させるために、“泰然自若”と言う名の“仮面”をヒト前では常に着けていたのだろうけど、本当は自身の感情を無理に押し殺して着けていた“仮面”を固定していた“心の糸”が、アポロノームの死が引き金となって心が壊れたことで“心の糸”も切れてしまい、着けていた“仮面”が落ちた結果、今まで押し殺してきた感情が溢れ出し、外へと出やすくなったのだろう。

 

 とはいえその切っ掛けが心の壊れであるという事に、霧島(キリシマ)の内心はかなり複雑な気分にならざるを得なかった…。

 

 

「«お姉さん、大丈夫ですか!?»」

 

 

「«姉貴!»」

 

 

 思考の海に浸っていると、画面に新たな2人が映り込む。

 

 1人は霧島(キリシマ)もよく知る者であり、そこにいることは知っていたが、思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「元気そうだねぇ、アポロノーム」

 

 

 この言葉にアポロノームは肩を跳ねさせ、勢いよく画面へと振り向くと、そこに映っているものに信じられないとばかりに、思わず震えながら指を指してしまう。

 

 

「«きっ、きき、キリシマの姐御っ!?ど、どうしてここに!?»」

 

 

「ハッハッハッ!相変わらずあんたは騒がしいねぇ」

 

 

 笑いながら相手の反応を楽しむ"霧島(キリシマ)だが、その目はアンドロメダを介抱する、アンドロメダのことをお姉さんと呼んだ者へと向けられていた。

 

 こちらを気にしてはいるが、それでもその意識はアンドロメダへと向けられており、泣き続ける彼女を必死に宥めていた。

 

 

 

 良い娘じゃないか。

 

 

 

 それが彼女、駆逐棲姫に対する霧島(キリシマ)が抱いた率直な気持ちだった。

 

 

 彼女のことを「掛け替えのない大好きなお姉ちゃん」と屈託のない笑顔で語り、そう言われた駆逐棲姫が嬉しそうにはにかんだ所を見たときは、()()()()()()()が驚いた。

 

 

 まさか既にここまでお互いが心を寄せ、懐いているとは思いもしていなかった。

 

 

 

 霧島(キリシマ)は彼女こそが、かつて高次元世界で沖田から聞いた、アンドロメダが心を寄せている娘であると確信した。

 

 

 そしてアンドロメダの心の内側に秘めていた“ある思い”の可能性に思い至る。

 

 

 ああ、本当はもっと誰かに甘えたかったんだねぇ…、若いの…。

 

 

 いつも気丈に振る舞っていた心の反動が、今のアンドロメダから溢れ出しているんだ。

 

 

 途中まで盗み見していることに、多少の申し訳無さがあるとはいえ、それが知れたことは大きな収穫だった。

 

 

───────

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

「間違い無いのかい?時雨(シグレ)?」

 

 

 鎮守府の廊下を車椅子で突き進みながら、後ろから付き従っている者に問い掛ける霧島(キリシマ)

 

 

「うん。山風(ヤマカゼ)がアンドロメダさんの通信を傍受したよ」

 

 

 春雨(ハルサメ)型直掩護衛駆逐艦の4番艦である時雨(シグレ)が、いつもと変わらぬ落ち着いた声で報告を告げているが、その内心はかなり舞い上がっていた。

 

 かつて自身の護衛隊が付き従っていた艦隊の、いわば親しい知人とも言えるヒトに繋がる情報なだけに、気分が高揚していた。

 

 

「よしっ!念の為にと張らせていた甲斐があったね」

 

 

 霧島(キリシマ)としては「もしかしたら?」という程度の感覚ではあったのだが、土方や春雨(ハルサメ)達と相談してマリアナ方面の通信傍受をより強化することとし、春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)が交代で警戒態勢に就いていた。

 

 この2人は姉妹の中で最も電子作戦能力が強力であり、こういったことにはうってつけだった。

 

 

「師匠の読みが当たりましたね。流石は師匠です」

 

 

 つい先ほどまで作戦室で如何にマリアナまで行くかの作戦を共に煮詰めていた土方の副艦、霧島が感嘆の言葉を漏らす。

 

 高速戦艦艦娘の霧島は、艦隊の頭脳を自称する艦娘であるが、霧島(キリシマ)の智謀の前では自分はまだまだ未熟であるとの思いが強く、常に憧憬の念を抱いていた。

 

 

 当の霧島(キリシマ)からしたら、沖田さん達ならきっとこうするだろうなという感じでしかないため、過大評価だと思っているが。

 

 

春雨(ハルサメ)姉さんも合流して共に解析しているし、海風(ウミカゼ)姉さんや村雨(ムラサメ)も2人の補助に付いているから、もうすぐ解析が終わるころかも」

 

 

 霧島(キリシマ)としても予想外だったのが、まさか機密通信を使うとは思っていなかった。

 

 アポロノームと合流したことで、もしかしたらこの世界にまだ他にも誰かいるかもしれないと、防衛軍の周波数帯で何かしらの呼び掛けを行なうのではないか?と考えていた。

 

 それがいきなりの機密通信である。

 

 これには傍受に成功した山風(ヤマカゼ)と補助に付いていた5番艦の村雨(ムラサメ)も些か慌ててしまい、交代で海風(ウミカゼ)と一緒に休んでいた春雨(ハルサメ)に急遽応援を求めた。

 

 だがこれで防衛軍との関わりがある“誰か”がこの世界に来ていることが確実であり、その“誰か”とアンドロメダがコンタクトを取っていることでもある。

 

 何故ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 

 この時点で長姉春雨(ハルサメ)からの招集を受けた他の姉妹達が関係者への伝令として走り、時雨(シグレ)霧島(キリシマ)達の所へと出向いた。

 

 

「後は、“あれ”がどれ程のものかという問題か…」

 

 

 霧島(キリシマ)がそう呟いた。

 

 

 彼女にはある1つの不安要素があった。

 

 

 それは“記憶障害”である。

 

 

 原理は今もって不明だが、春雨(ハルサメ)達がこの世界に顕現した際に、それが発生していた。

 

 

 初めは春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)で起きたことだが、2人の後に顕現した7番艦五月雨(サミダレ)と9番艦江風(カワカゼ)、10番艦涼風(スズカゼ)の証言によると、高次元世界において2人が一緒に沖田、ヤマトの2人と直接会っている所を見ているのだが、その際の記憶が両名共に全く無いというのだ。

 

 6番艦夕立(ユウダチ)は自身が撃沈された辺りの記憶が朧気にしか分からないという。

 

 他にも3番艦白露(シラツユ)は、自身が春雨(ハルサメ)型の3女であるという記憶が確かにあるというのに、何故か自身が長姉であるような錯覚を覚える時があったのだ。

 

 

 そして残りの6人も、つまり顕現した春雨(ハルサメ)型10人全員に何らかの記憶障害が起きており、暫く混乱する事態となった。

 

 

 だがそれは霧島(キリシマ)には一切起きていない現象だった。

 

 

 霧島(キリシマ)はこのことに、ある仮説を立てた。

 

 自身と春雨(ハルサメ)達との明確な違い、()()()()()()()()()()()()()()()が影響しているのではないかとの仮説を立てていた。

 

 自身は良くも悪くもいわば天寿を全うしたようなものだった。

 

 しかし彼女達は全員が戦没という、いわば非業の最期を遂げたものであった。

 

 それが関係しているのではないか?

 

 

 もしこの仮説が正しければ、アンドロメダもその最期が戦没であった以上、何らかの記憶障害を持って顕現している可能性があったし、その症状はヒトそれぞれのため予測が難しかった。

 

 

 もしかしたら記憶がすっぽり抜け落ち、自身を深海棲艦、或いはその亜種と思い込んでしまっている可能性すらあるかもしれない。

 

 

 想定される1番の最悪な事態は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを懸念して、こちらから通信を試みる事を躊躇った。

 

 

 恐らく艤装のデータベースに記録があるだろうが、もし万が一、そのデータベースが破損してしまっていたとしたら、どうすることも出来なくなる。

 

 下手をすると誰だか分からない者からの通信として警戒され、本来ならば望まぬ衝突に発展しないとも限らない。

 

 

 だからこそ通信を行なわなかった。出来なかった。

 

 

 

「…まぁ、それもこれでどうにかなるか」

 

 

 

 そう言いながら到着したのは『関係者以外立ち入り禁止』との注意書きが貼られ、『待機室』とのプレートが掲げられた一室である。

 

 その扉には『会議中』とのプレートが下げられており、その前には日本軍正式採用自動小銃であるAK-74Mのバリエーション、AK-100シリーズの5.56ミリNATO弾使用であるAK-108を装備した斉藤が歩哨として立っていた。

 

 

「ご苦労さん」

 

 

 労いと挨拶も兼ねてそう声を掛けると、斉藤は軽く手を振りながら応える。

 

 

「おう。みんな集まってるぜ」

 

 

 そう言うと扉をノックして中に居る者達に霧島(キリシマ)達の到着を告げ、扉を開いた。

 

 

 因みにだが、この部屋の隣は土方の居る執務室である。

 

 

 ここは土方直属の精鋭部隊が控える部屋であり、その部隊は外洋防衛における切り札とされている()()()()()()()()の10人で編成され、その運用責任者は先述した通り土方となっているのだが、実際の運用については参謀であるキリシマ(霧野特務大佐)に任されている。

 

 

 元々は足に障害を抱えているキリシマ(霧野特務大佐)の為に土方の執務室の隣に彼女の執務室を設えたのをそのまま流用し、尚且つ円滑な情報やコミュニケーションのやり取りを行なうためとされている。

 

 まぁ、本当は霧島(キリシマ)が実質的な旗艦であることに対するカバーストーリーというのと、()()()()()との共同運用が難しい春雨(ハルサメ)達を分ける為、そして()()()()()()が発生した際にそのまま土方を()()するための戦力として春雨(ハルサメ)達が常駐させることが可能とすることを目的としている。*1

 

 彼女達全員は常に拳銃用ホルスターを身に着けており、表向きは精鋭としての証であるとされているが、これも万が一の()()()()()()()()()()が発生した際の()()()使()()()()()()()()を目的とした、飾りではない完全な実用装備である。

 

 

 閑話休題。

 

 

 斉藤に促されて待機室へと入ると、そこには今集まれる春雨(ハルサメ)の姉妹達が集い、春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)の作業を覗いていた。

 

 また既に土方も秘書艦の金剛を伴ってその様子を見守っていたが、霧島(キリシマ)達が入室したため、視線だけ向けてこっちにくる様にと促してきたため、率直にそれに従って土方の横へと移動する。

 

 

「出来たっ!」

 

 

 そのタイミングで解析が完了した山風(ヤマカゼ)が声を上げた。

 

 そして部屋に集う全員に見えるように画面を展開すると、少しノイズが走った後に画像が安定し、聞き慣れた、あの懐かしい声も聞こえて来た。

 

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

 

 そう呟きながらも、霧島(キリシマ)の頬は心なしか綻んでいた。

 

 

 

───────

 

 

 

 得られた情報(モノ)は、非常に大きなものばかりだった。

 

 

 懐かしきアンドロメダ(教え子)が喋る姿に一先ずは安堵するも、まさか通信相手が更なる別世界の地球からやって来たArizona(アリゾナ)という名の(ふね)だとは思いもしなかった。

 

 そしてその傍らに自分達もよく知るIowa(アイオワ)がいることに、驚きの声をあげたが、同時に世間は思ったよりも狭いものだと思ったりもした。

 

 

 しかしそれらよりも、この通信の切っ掛けの1つが深海棲艦による仲介があったことを示す内容や、アメリカ国内での何らかの活動を匂わせる内容があったことで、謎多き深海棲艦による人類領域への静かなる進出の実態と、思わぬ一面が知れたことによる衝撃の方が大きかった。

 

 更に山風(ヤマカゼ)が先に語っていた「アンドロメダが人類を疑っている」という言葉の裏付けも取れてしまった。

 

 

 アンドロメダ(彼女)は、深海棲艦の姫の1人である駆逐棲姫のことを「お姉ちゃん」と呼んで、とても懐いていた。

 

 しかもお姉ちゃんと呼ばれた当の駆逐棲姫も、そのことにとても嬉しそうにしていた。

 

 それを見ただけでもアンドロメダが深海棲艦に心を寄せていることが窺えるが、直後の駆逐棲姫の脚を奪った者達を絶対に許さないという言葉と、画面越しにもひしひしと伝わって来た怒りの感情に、背筋が凍る思いがして震え上がった。

 

 

 そしてその後に語られた、山風(ヤマカゼ)が以前語ったことでもある、この戦争劈頭に起きた人類の闇の部分。*2

 

 

 更に彼女達深海棲艦がこの戦争を始めたその“理由”、“深刻な飢餓”が原因であったことも、この時に初めて知ることができた。

 

 

 

「…我々は、本当に深海棲艦というものを、知らなさ過ぎた」

 

 

 険しい顔つきで、絞り出すかのような掠れた声で土方がそう呟いた。

 

 

 それは今この場にいる全員が共通した気持ちでもあったが、土方としてはかつてのガミラス戦役を思い出さずにはいられなかった。

 

 あの時は『ヤマト』の活躍があるまで、ガミラスという名の異星人の実態を掴むことが出来なかった。

 

 そして今回、そのヤマトの子供であるというアンドロメダの活躍によって、間接的ではあるが深海棲艦の実態を、ほんの一部だけかもしれないが知ることが出来た。

 

 そのことに、ある種の運命と言うか宿命の様な物を感じずにはいられなかった。

 

 

 ふと、霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)に何か相談しているのが目に入った。

 

 

「割り込み、出来るかい?」

 

 

「可能ですけど…、山風(ヤマカゼ)?」

 

 

 霧島(キリシマ)からの問いに、一応の肯定を示すが、念の為にと春雨(ハルサメ)は自身よりも腕の良い妹の山風(ヤマカゼ)にも確認をとる。

 

 

「…うん。春雨(ハルサメ)(ねぇ)、出来るよ」

 

 

霧島(キリシマ)さん、よろしいのですか?」

 

 

 怪訝な表情をした海風(ウミカゼ)霧島(キリシマ)に問い掛けるが、「まあ見てな」とだけ返して微笑みを浮かべる。

 

 そのやり取りを見ていた時雨(シグレ)が土方に「いいの?」と視線で問うが、少し考えた後に頷いて「構わない」と返す。

 

 霧島(キリシマ)が今まで考え無しで動くことは無かったし、動くべきと判断して動いた時に悪い結果となった(ためし)もなかった。

 

 ちゃんとした考えと確固たる勝算があるからこそ、彼女は動く。

 

 霧島(キリシマ)とはそういうヒトなのだ。

 

 

 

「…いつでもいいよ」

 

 

 準備が出来たと山風(ヤマカゼ)が告げるが、まだ霧島(キリシマ)は動かない。

 

 タイミングを、動くのにベストな“機”を静かに窺っていた。

 

 

 

 そして、Iowa(アイオワ)による深海棲艦の存在を完全に無視したアメリカ現政権による、次の世界大戦を画策している可能性があるという衝撃的なカミングアウトに騒然となる中─────

 

 

 

「«…何か私に手伝える事があれば、仰って下さい»」

 

 

 

 苦しそうな表情を浮かべながら自国の醜態を語るIowa(アイオワ)に、アンドロメダが悩みながらも告げた言葉を聞いた霧島(キリシマ)が、動いた。

 

 

「…山風(ヤマカゼ)、頼むよ」

 

 

 静かに告げられたその言葉を山風(ヤマカゼ)は聞き逃すことなく、即座に操作パネルをタップすると霧島(キリシマ)へと頷いた。

 

 

 

「よく言った若いの。流石はあの娘自慢のムスメっ娘だねぇ」

 

 

 

───────

 

 

 

 初めアンドロメダは目を見開き、頭の処理が追い付いていないのかキョトンとした可愛らしい反応を返して来た。

 

 

 しかし画面に映るヒトが自分をとても可愛がってくれていた、もう二度と会うことのできないと思っていた掛け替えのない、大切な恩師そのヒトであると分かったのか、小さく微かな声で「『う…そ…?そんな…、まさか、なん…で…?》」と呟いたのと同時に、その瞳が潤み出した。

 

 

「«せん…、せい……?»」

 

 

 震える声で恐る恐るそう尋ねるアンドロメダ(教え子)に、霧島(キリシマ)は苦笑を漏らしながら少し悪戯心が湧いた。

 

 

「久しいね若いの?また私のことを先生と言ってくれて、嬉しいよ」

 

 

 そこで一旦言葉を切り、ニヤリと口角を吊り上げてから続きの言葉を紡ぐ。

 

 

「“あの時”みたいに私のことを“おばさん”って言わないかヒヤヒヤしたよ?」

 

 

 その茶化す様な物言いにアンドロメダは、嗚呼、間違い無い!との確信を得た。

 

 

 それはかつて初めて出会った時の、自分とヤマトさん(お母様)、そしてキリシマ(先生)の3人しか知らない、自身にとっては恥ずかしくも懐かしい、あの日のエピソードだ。

 

 

 そこまで思い至った段階でアンドロメダは、堰を切ったように泣き出した。

 

 

 そして霧島(キリシマ)はこの時点で、取り敢えずアンドロメダの記憶障害が深刻なものでは無さそうであるとの、一応の確信を得ることとなった。

 

 

 

───────

 

 

 

 時間軸は、冒頭へと戻る。

 

 

 ヒト目も憚らず泣くアンドロメダだが、このタイミングでIowa(アイオワ)も闖入者の正体が日本に赴任していた時に親交があった親友、キリシマ(キリノ)であることに気付いてわちゃわちゃとなったり、駆逐棲姫だけでなく騒ぎを気にした潜水新棲姫や南方戦艦新棲姫も出て来たりして色々とカオスな事となったが、まあそれも時間とともに落ち着くこととなる。

 

 

 

「«す、すみません…。その、取り乱してしまいまして…»」

 

 

 羞恥から耳まで真っ赤に染めたアンドロメダが、モジモジとしながらも謝罪の言葉を述べる。

 

 

 それに対して霧島(キリシマ)は笑いながら気にしていないと告げ、Iowa(アイオワ)も微笑みながらそれに同意した。

 

 

 何故ならばヒトの姿となって顕現し、馴染みの、親しかった者達と再会した時は皆それぞれの反応を示すことが多々あったからである。

 

 実際、今画面には映っていないが、そばに控えている春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)は再会した時に泣きながら互いを抱擁した後に謝罪合戦となったが、*3最終的には再会を喜んだ。山風(ヤマカゼ)も姉妹達へと号泣しながら飛び付いた。

 

 他の姉妹達も、皆泣いたり、喜んだりしたものであり、別段アンドロメダの反応は珍しいものではなかったのだ。

 

 

 とは言え、アンドロメダとしたら恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

 

 

 そこへさらに霧島(キリシマ)が追い打ちを掛けた。

 

 

 途中からとはいえ、彼女達の会話を盗み聞きしていたことを率直に告げて詫びた。

 

 

 最初に登場した際の言葉から、そのことに気付くことも出来たかもしれないが、その時のアンドロメダの頭はそれどころでは無い程の状態となっていた為に、気付くことが出来なかった。

 

 そのことに今更ながら気付いたアンドロメダは、私、変な事口走らなかったよね!?とワタワタしながら慌てふためいてしまう。

 

 

 そんなアンドロメダの姿に、今まで面識のなかった春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)は別として、総旗艦としての泰然として落ち着き払った雰囲気の彼女しか知らなかった海風(ウミカゼ)達は少し驚くが、寧ろ肩肘を張らない自然体の様な一面が見れたことで、“総旗艦アンドロメダ”という、いわば上司の様な立場の存在として見るのではなく、アンドロメダという着飾ることのないれっきとした一個人として見る事が出来、彼女に対して親しみが湧いてくることとなった。

 

 

 アンドロメダ(彼女)もまた、自分達と何ら変わらない存在なのだと。

 

 

 だからこそ、霧島(キリシマ)への遠慮というのもあったが、なんとなく声を出すことを躊躇っていた面々が騒ぎ出し、アンドロメダへと再会を祝っての一言をと画面の前へと集まりだしたのだが、突然ワッと騒がしくなった事でアンドロメダはより一層慌てふためいてしまう。

 

 

 流石にこれはマズいと判断した霧島(キリシマ)が静止しようとしたが。

 

 

「みな、落ち着かんか」

 

 

 さほど大きな声ではないのだが、威厳と風格に満ちた声が響く。

 

 今まで黙って見守っていた土方が、これ以上は混乱するだけだと判断し、前に出て窘めたのだ。

 

 

「すまないアンドロメダさん。騒がせてしまいました」

 

 

 そう言いながら画面に映るアンドロメダへと頭を下げる土方であるが、当のアンドロメダはぽかんといった表情を浮かべたまま固まっていた。

 

 

「«土方さんまでいるのかよッ!?»」

 

 

 堪らずといった感じで、アポロノームが思わず画面へと映り込んできたが、直後に「あ、やべっ!」といった顔になって慌てて威儀を正した。

 

 見っともない立ち振る舞いに対して、土方から叱責を食らうのではないかと恐れたからである。

 

 

 しかし土方としてはアポロノームの後ろで相変わらず目を見開いて固まったままのアンドロメダの方が気になっていた。

 

 

「«お姉さ~ん、大丈夫ですか~?»」

 

 

 駆逐棲姫が呼び掛けるが返事が無く、手を顔の前で振っても何の反応も示さない。

 

 何故なら─────

 

 

 

 アンドロメダの、しこうかいろは、パンクしていたのだから。

 

 

 

 Arizona(アリゾナ)の話から、もしかしたら自身の艦長となっていたかもしれない人に、なによりも最も尊敬して止まない沖田艦長の親友にして、最愛の母であるヤマトの艦長を務めていた人に、自身の醜態を見られていたことにより、かつて自身が率いていた仲間達にも見られていた事でいっぱいいっぱいとなっていたアンドロメダの思考は、遂にオーバーヒートを来たしてしまい、フリーズしてしまったのだ。

 

 

 

「«お姉さ~~~~ん!!»」

 

 

 

 駆逐棲姫の叫びが、虚しく木霊した。

 

 

 

*1
とはいえここで常に寝食などといった生活を行なっているわけではなく、ちゃんとしたプライベート用の個室が別に用意されているため、イメージとして空軍のスクランブル要員待機室が近い。

*2
正確にはアメリカだが。

*3
互いの最期が自身に原因があると思い込んでいたため、両者互いに相手への罪の意識が強くあった。





 遅くなりました。


 前話の後書きに書きました通り、新人教育の影響で執筆に遅れが出てしまいました。


 一応補足しますと、春雨(ハルサメ)達の旗艦的立場に霧島(キリシマ)がいますが、実際は大淀的なポジションであり、実際の前線では春雨(ハルサメ)が旗艦を務めています。
 霧島(キリシマ)は前線と陸上で指揮を執る土方との橋渡し役でもありますが、大淀以上の独自裁量権を有しており、イメージ的には第一期アニメ版における長門と大淀のポジションを足した様な感じです。



補足解説(いずれまた詳しく纏めるかも?)


AK-108

 ロシア製アサルトライフルであるAK-74Mの輸出モデルであるAK-100シリーズの5.56ミリNATO弾使用モデル。
 特徴として3点バースト機能が付与されているのと、AEK-971で用いられたリコイルの軽減機構を有しており、発射レートはAKシリーズ標準の毎分600発よりも高い毎分850~900発(ピストンの往復部のストロークが軽減機構により標準的なAKよりも短いため)であるにも関わらず、他のAK-100シリーズと比較して射撃精度が高いとされている。


 本銃が日本軍に採用された経緯は、先の大戦にて多発した最新鋭自動小銃である20式小銃がかつての“言うこと聞かん銃”を遥かに超える故障率を叩き出した為、採用が取り消されて急遽アメリカからM4A1やM16A4が供給されたり、それらの余波と風評被害、事情を知らない国民からの突き上げなどが重なり、製造元が大戦後に倒産してしまったことで日本における軍用銃の製造が出来なくなった事が影響している。

 但しこれは当時軍拡を急ぐ政府が無理な大量生産を製造元に強要したことが原因であり、その影響で品質悪化を招き、粗製濫造の劣悪品が大量に出回ってしまったことが最大の原因である。

 またアメリカも現政権による失策の影響で経済が停滞し、国内産業を衰退させてしまい、その影響が軍需産業や銃器産業にまで波及したことによって大戦によって消耗した自軍への供給で手一杯となってしまった為、兵器の対外輸出か停滞。更に深海棲艦との戦争勃発により対外輸出が事実上ストップすることとなる。

 日本では大戦中に供給された装備品でなんとか遣り繰りしていたが、南方作戦の失敗などにより重装備を含めた数多の装備を失うこととなった。

 続くAL/MI作戦における本土攻撃はなんとか撃退したものの、首都東京は壊滅。首都近辺に駐屯していた陸軍を中心に大損害が発生するも、最早日本には短期間で戦力を回復させるだけの余力は無く、太平洋が完全に寸断された事で同盟国アメリカも頼れなくなったし、今まで供与されていた装備のストックも底をついていた。

 そこに目を付けた新ロシア連邦(NRF)が装備品の供与を打診。

 再度の深海棲艦による本土攻撃を極度に恐れていた当時の日本政府はその打診に飛び付いた。(この事がIowa(アイオワ)の日本派遣を後押しすることにも繋がった。)


 そして供与された装備品の中に新ロシア連邦(NRF)全軍へのAK-12配備に伴い余剰品として払い下げとなったAK-74Mと共にAK-108があった。

 新ロシア連邦(NRF)としては装備の更新によって余剰となった古い装備を少しでも処分したかったという思惑があったため、モスボールされていたT-72B1など色々な装備を多少の改修を施した上で(一例として先述のAK-74、AK-108にはピカニティレール等の近代化改修が施されたアップグレードモデルである。)日本へと送り付けたが、後に一部は正式に輸出も行われるようになり、Su-30MKIシリーズが対日輸出バージョンとしてSu-30MKJ、通称フランカーJが14機とMig-35Jが8機輸出されたりもするようになった。


 余談だが、一部の部隊(主に空挺)では状態の良い従来の小銃や、分隊支援火器MINIMI、米軍払い下げのM240軽機関銃を使用しているため、弾薬供給において旧陸軍並の混乱が生じている。





 いつもの後書きコーナーにて色々と書きたいこと(西側で加速する違法薬物の相次ぐ事実上の合法化など)があったのですが、ある訃報からそちらを優先することと致しました。



 先日お亡くなりになられました松本零士さんに、哀悼の意を表します。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

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