艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 カウンターパート、同格対応相手。

 さぁ、霧島(キリシマ)の派遣に向けて無い知恵を絞るぞーっ!!

 今回少し書面的なものを試みました。


 後最後に新キャラが出ます。


第47話 Counterpart

 

 泊地棲姫は会合の結末を土方達に語った。

 

 

 提案された休戦について、そしてその切っ掛けを図らずも作ってくれた恩人であり、掛け替えのない同胞(はらから)と言ってもいい、アンドロメダ姉妹の恩義に報いるためにも、私達は受け入れる方針であると告げた。

 

 

 拍子抜けするとはこの事であると言える程の、トントン拍子に話が進むものだから、土方達も若干戸惑うこととなった。

 

 しかし日本の内情を教えてもらった見返りとして、何よりも互いをフェアな立場にしたいという泊地棲姫によって語られた、深海棲艦の内情。

 

 俯瞰的に見たら優勢であると言えた深海棲艦であっても、その内情は苦しいものであった事が、この時初めて人類側が認識した瞬間である。

 

 こちらが苦しい時は相手も苦しいとはよく言ったものである。

 

 

 とはいえ、それらを加味したとしてもなんの慰みにもならない。

 

 

 この戦争、どちらが先に倒れるかというチキンレースの様相を呈しているが、率直に言って政治的自滅を繰り返している今の人類側が不利なのは覆しようが無いし、何よりも身内である人類同士で戦前からの対立を引き摺り、足の引っ張り合いに興じている時点で、お話にならない。

 

 寧ろ今までよく倒れずに持ったほうだと言えるが、その分蓄積されたダメージも大きく、どこかが崩れた時点で連鎖的にドミノ倒しの如く次から次へと倒れていくことになるだろう。

 

 深海棲艦が理性的な存在であったことが、幸いであったと言える。

 

 もし深海棲艦がただ人類を脅かし、攻め滅ぼすだけの存在だったとしたら、良くて共倒れの未来しか無かった。

 

 さらに何らかの理由でアンドロメダの理性の箍が外れ、精神が壊れて深海棲艦以外は眼中に無い存在となっていたとしたら、なんの迷いも無く波動砲の砲口をこちらに向け、躊躇無く引き金を引いて来ていただろう。

 

 

 そんな最悪な未来の可能性と比べたら、現状はまだ幸運であった。

 

 

 そうこうしていると、飛行場姫がこの場にやって来た。

 

 

 その姿を確認した土方達の間で緊張が走る。

 

 

 陸上型深海棲艦の嚆矢とされる存在、飛行場姫。

 

 

 その姿を人類側が初めて正式に認識したのは、南方作戦の頃であると言われている。

 

 

 厳密にはかつて人類連合艦隊が大敗した、所謂“ソロモン海の悲劇”の際にその存在が示唆されていた。

 

 連合艦隊が既に展開が確認されていた、深海棲艦の空母艦隊からとは明らかに違う航空攻撃を受けたこと、また衛星が島から多数の航空戦力が出現する所を捉えていたことにより、陸上で活動可能な深海棲艦が存在する事を示唆していたが、その時は姿そのものを確認することは叶わなかった。

 

 

 そして人類側が艦娘を伴って再び南方海域へと進出した時に、とある島でその姿が艦娘達によって目撃され、撮影に成功したことによって人類もその姿を認識することとなった。

 

 

「美しい…」

 

 

 この言葉は初めて飛行場姫と対峙した、当時世界最強と呼ばれた日本海軍空母艦娘部隊の誰かが思わず漏らした言葉とされている。

 

 当時の常識では有り得ないとされた規模の航空戦力をたった1人で完璧に操り、日米両軍が投入した空母艦娘部隊の艦載機群を質と量の両方で圧倒し、最後まで航空優勢を譲らなかった。

 

 その余りにも完璧な指揮ぶりから、まるで音楽演奏の指揮者の様だったとされ、またその飛ばし方を見た艦娘はそれだけで自分達との力量差を痛感させられ、思わず先の言葉を呟いたと言う。

 

 

「ヤツにはこの装備では勝てない…っ!」

 

 

 当時連戦続きでその損耗の補填に比重が置かれ、また戦力増強の為の建造が優先されていたここともあって、そちらへと資材が集中的に回され、新装備の開発と更新が疎かになっていたことも劣勢の要因であった。

 

 それでも一部の艦娘は装備の更新が成されていたものの、それは全体から見たらほんの極一部であり、殆どの艦娘は更新が成されていたかった。

 

 また最初期の反攻から戦い続けていた古参組(ベテラン)を中心に、使い慣れた現行装備を変えたくないと考える者も少なくなかったということもあり、初期装備と大差が無いままだった。

 

 

 今まではそれでなんとかなっていた。

 

 

 それはまさしく“慢心”としか言い様がなく、その代償を飛行場姫は見事に払わせることとなった。

 

 

 結果として航空優勢の損失から、戦況は一気に深海棲艦側へと傾き、後方に控えていた水上艦艇からミサイルによる飽和攻撃を実施したものの、その殆どが射線上に展開していた深海棲艦の艦隊による猛烈な対空砲火の弾幕や、雲霞の如く湧き出る艦載機群によって途中で撃墜されたり、そもそも飛行場姫が島を自由に動き回れるから、漠然と島に撃ち込むだけの目眩撃ち同然だった。*1

 

 

 だがそのミサイル攻撃は深海棲艦の注意を引き付けるための陽動であり、本命は艦娘による夜間殴り込みの直接砲撃作戦だった。*2

 

 

 しかし当時は現在の様な陸上攻撃装備が存在せず、唯一有効であるとされた三式弾も、その殆どが昼間の対空戦闘で射耗しており、なんとか掻き集めた三式弾を殴り込み部隊に持たせたものの、飛行場姫はその部隊からの猛射を耐え抜き、撃破には至らず、手傷を負わせて一矢報いた程度に終わった。

 

 

 南方作戦はたった1人の姫級、飛行場姫の存在によって事実上、暗礁に乗り上げる事となった。

 

 

 またこの時ハワイ諸島失陥の凶報が届いたこともあり、南方作戦は中止となった。

 

 

 しかし、ハワイ諸島の失陥が無くとも、現状の装備では飛行場姫の撃破は困難であるとの結論から、再起を図るために遅かれ早かれ作戦中止の決断が下されていたのは間違いなく、また艦娘達は自分達が如何に今まで慢心していたかを噛み締める切っ掛けともなり、それらを踏まえて「飛行場姫恐るべし」との言葉と共に、飛行場姫は艦娘達にとってある種の特別な意味を持つ存在となった。

 

 

 この当時を知らない、作戦後に建造ないしドロップで顕現した艦娘達も、当時を知る古参の先輩や資料などからその存在を知ることとなり、艦娘の中では最も有名かつ、伝説的な姫級深海棲艦とも言える。

 

 

 そんな飛行場姫が今、モニター越しとはいえ目の前に居るのだ。

 

 

 

 しかし、そんな伝説的存在は、フランクだった。

 

 

 金剛やIowa(アイオワ)程ではないにせよ、なんとも軽い調子で挨拶を交わし、掴みどころが無かった。

 

 これには流石の土方や霧島(キリシマ)も面食らう事となり、調子が狂わされた。

 

 同時に、上手いこと主導権を持っていかれたとも思った。

 

 

「ま、アタシ達としてもこのまま戦いを続けることに疲れて来てたから、あんた達の提案は渡りに船だったってわけよ」

 

 

 先に泊地棲姫も語っていたことではあるが、改めて飛行場姫の口から語られた深海棲艦主流派の総意。

 

 

「でもこちらも全員が全員、それに納得するとは断言出来無いし、賛同してくれた者だって人間達への蟠りが全く無いわけじゃ無いから、その辺りは履き違えないでね?」

 

 

 分かりきったことではあるかもしれないが、一応釘を差す飛行場姫。

 

 ちゃんとした数字は分からないが、数百万を超える同胞(はらから)達の中にはいずれこの決定に反発する者も出てくるだろうし、これを機に離反を決意する者だって出てきても可怪しくはない。

 

 既に少数ながら独自路線を選び、主流派から袂を分かつ形でそれに賛同する者達が集まってグループを作り、離脱して行った一派もいるのだ。

 

 中には過激派だっているが、感情任せの無謀な戦いに身を投じて大概は淘汰されているが、それも今後どうなるかは分からない。

 

 

 だがそれよりも気掛かりなのは、“円卓”の最中に欧州担当の者が「今はまだ言えない」と言っていた事の内容だ。

 

 いずれは語ってくれるかもしれないが、その内容によっては、もしかしたら今の方針が覆るかもしれない。

 

 だがそれはあくまで()()()()()()の話であり、そのことを彼らに語るのはまだ早いと判断し、今は胸の内に納めておくこととした。

 

 

「それで、そちらはこの後はどうするつもりなのかしら?

 

 この通信での口約束を交わして、で終わりじゃないとは理解しているけど」

 

 

 この飛行場姫からの問いに対して、土方は今決定している事を答える。

 

 

「«私と真志妻大将からの新任が厚く、当小松島鎮守府のナンバースリーをそちらへと派遣し、交渉に当たる事となっていました»」

 

 

 そう言いながらその者に纏わる肩書と役職、それに階級を纏めた()()のデータを()()送信し、その内の1つが画面へと映し出されたのだが、送られてきたその文章を見た飛行場姫は僅かに眉を顰めた。

 

 

───────

 

身元照会

 

 氏名、霧野島子(きりのしまこ)

 

 年齢、37歳相当

 

 階級、特務大佐(大佐相当官)

 

 所属、外洋防衛総隊小松島鎮守府

 

 役職、参謀

 

 

備考

 

 金剛型高速戦艦艦娘、霧島のエラー個体。

 

 建造時の何らかのエラーにより足腰に障害があるため、車椅子での活動が必須であり、戦闘への投入は不可能である。

 

 上記の理由から、他の霧島との差別化を図るために霧野島子との個別名を付与し、後方での勤務に当てるものとする。

 

 

 

 以下、軍重要機密と抵触するため、閲覧には海軍艦娘部隊総司令兼呉鎮守府司令、真志妻亜麻美大将外洋防衛総隊司令兼小松島鎮守府司令、土方竜中将、そのどちらかによる承認が必要であり、違反者は軍法に基づき処断されます。

 

 

 

«1»

 

───────

 

 

───────

 

軍機

 

 BBS-555霧島(キリシマ)

 

 金剛(コンゴウ)型宇宙戦艦5番艦

 

 国連宇宙海軍極東管区空間戦闘群連合宇宙艦隊第1艦隊旗艦

 

 南部重工大公社南部造船

 

 西暦2171年進宙、2203年除籍

 

 

補足

 

 西暦2170年代から2201年までの地球軍標準型宇宙戦艦の日本国使用。

 

 姉妹艦BBS-551金剛(コンゴウ)、BBS-552榛名(ハルナ)、BBS-553吉野(ヨシノ)、BBS-554妙高(ミョウコウ)、BBS-556比叡(ヒエイ)、BBS-557日向(ヒュウガ)、その全艦が西暦2191年から2200年に生起した異星人との全面戦争により戦没。

 また各国が所有していた本艦と同系列艦もほぼ全艦がこの戦争により損失したとのこと。

 

 

兵装

 

 光学兵器

 

 各種誘導弾発射システム

 

 

備考

 

 小松島鎮守府司令土方中将他数名と同鎮守府に所属する春雨(ハルサメ)型宇宙護衛駆逐艦艦娘の10名と同郷である。

 

 上記の春雨(ハルサメ)型と同様、顕現が出来た原因は不明。

 

 その特殊性から春雨(ハルサメ)姉妹と同様に真志妻大将の判断により、前項の身元照会とする。

 

 またその見返りとして沿岸防衛装備、光線砲砲台システムの開発に協力を要請。その技術支援により多大な貢献を果たした。

 

  

 

«2»

 

───────

 

 

「…あれ、アンタが関わっていたのね?」

 

 

 胡乱な目付きで霧島(キリシマ)こと霧野島子を見遣る飛行場姫。

 

 

 最初に名前の欄を見た際に、誰のことかと首を傾げたが、続く文面によりそれが今眼の前で飛行場姫の反応を見ながら口元に笑みを湛えている霧島(キリシマ)のことであり、彼女も彼女で苦労してるのね…。と思っていたのだが、文面の最後を見て少々呆れた声となってしまった。

 

 人類側が投入してきた兵器の中で、唯一マトモに同胞(はらから)と渡り合える兵器として警戒されている代物が、まさか未来からの技術支援によって完成した物であったとは、想像の埒外だった。

 

 

 だがそんな飛行場姫の言葉に霧島(キリシマ)は肩を竦める。

 

 

「«わたしゃ天才肌の真田と違って科学者じゃぁ、無いんでねぇ、()()()()()()()()()()()()()しか出来なかったよ»」

 

 

 一瞬、サナダって誰よ?とツッコミかけたが、それよりも一撃で同胞(はらから)を撃破出来る砲の開発に携わっておきながらなにをと思うが、霧島(キリシマ)は苦笑を浮かべ、「«技術レベルの問題から妥協しなきゃならない箇所が山程あってね、それでシステムがやたら複雑になった挙げ句、排熱システムがちょいと能力不足で稼働中に下手するとオーバーフローしてドカンッ!と自爆しかねないんだよ»」と、どこか遠くを見つめながら語った。

 

 

「«まぁ、元からマトモな代物を完成させる気は無かったから、あれはあれで成功っちゃ成功だねぇ»」

 

 

 頭を掻きながらそう言っているが、その真意を掴みかねている飛行場姫はより首を捻る。

 

 

「«…使い勝手を悪くして、争い(war)にあまり利用させないためね?»」

 

 

 ここでIowa(アイオワ)がそう口を挟み、霧島(キリシマ)はその通りだと首肯する。

 

 真志妻からの頼みでもあるのだが、最初から防衛戦以外では使い物にならない物しか渡す気がなかった。

 

 

 信用のならない人間達に誰が好き好んで強力な武器を渡すものか!

 

 

 霧島(キリシマ)自身、その長年の経験から直感的に、この世界の人類を信じ切るのは危険だと判断し、ある程度の基礎研究が成されていたが、開発が行き詰まっていた兵器の2つ、電磁投射砲(レールガン)と光学兵器に目を付け、馴染みがあって細工が施しやすい光学兵器を選んだ。

 

 当時光学兵器は主に軍艦の対空迎撃用として幾つかの国で実戦配備が進んでいたが、深海棲艦相手に使用するには出力が低く、大気による減衰問題から射程距離も短かった為、効果的な装備とは言い難かった。

 

 その為、高出力化と射程延伸が望まれたのだが、システムの巨大化が避けられず、更には高出力化の代償として増大化する、運用に必要なエネルギーの供給をどうするか、それを如何に解決するかという問題にぶち当たって暗礁に乗り上げていた。

 

 

 それの解決のヒントになる情報を、彼女は提供した。

 

 

 しかしそれは自分が知る技術を、この世界の現行の科学技術でもある程度の再現が可能なようにした、妥協の産物の様な代物であり、かなり複雑で信頼性は低く、製造に求められる工作精度も非常に高いものだった。

 

 また先に人類が開発した物よりも小型化しているとはいえ、エネルギー問題は解決しておらず、別口でパワーソースを用意しなければ(ふね)の運行に支障が出てしまうことが分かり、艦載砲として使うには厳しいとの結論が出され、陸上での運用しか不可能だった。

 

 それでもそのカタログスペックは捨て難く、暫くは運用データの収集も兼ねて地上配備とし、また運用には多数の電源車を用意することとなった。

 

 

 とはいえ、現行の科学技術ではこれ以上はどうしようもなく、発展も改良も無理だと霧島(キリシマ)は見ているし、そもそも製造だけでなく、維持管理も煩雑さや各種コストの高さからいずれ音を上げることになって配備数も減少すると予想していた。

 

 

 だが、霧島(キリシマ)のこの予想は外されることとなった。

 

 

 精々、固定砲台にしか使えないと思っていたのだが、まさか大型トレーラーに載せて移動できる移動式砲台にするとは、思いもしなかった。

 

 そして確かにコストは高いが、深海棲艦に対して有効な兵器であるからと、製造が続けられて配備が徐々にだが進んでいた。

 

 しかも普段は空襲に備えて運用部隊ごとバンカーや遮蔽陣地などで隠蔽されており、余程のことがない限りは破壊されることもあまり無かった。

 

 

 とは言え、その整備の難しさや稼働時に消費するエネルギーが大であるとの問題から、前線──日本で言えば沖縄──への配備も難しく、もっぱら本土の防衛でしか使えていないが。

 

 

 しかし霧島(キリシマ)としたら、少しばかり人類を甘く見ていたと思い、同時にかつて地球が独力で波動砲の開発に成功したことに、イスカンダルの王族が驚いたという時の心境とはまさにこんな感じだったのかねぇ?という思いがした。

 

 

 これ以降、霧島(キリシマ)は技術提供を行なわなくなり、真志妻も咎めることは無かった。

 

 

 と言っても、霧島(キリシマ)の知識ではこれが限界だったため、例え求められたとしても逆立ちしたって無理だが。

 

 それでも何十年かしたら、地球軍が陽電子衝撃砲(ショックカノン)をものにしたように、この世界の人間達も自分達の力で完全な物を完成させちまうのだろうなと思った。

 

 

「«兎も角、まだガラクタで四苦八苦しながらも満足し、その成果で私は真志妻からも多大な信頼が寄せられ、それなりに安定した地位に居るって表向きはなってるから、人選としては問題無いと思うよ?»」

 

 

 そういうものなの?と飛行場姫は首を捻りながらアンドロメダを見遣るが、当のアンドロメダは苦笑するしかなかった。

 

 ここで深海棲艦が政治的な一般常識に対して迂遠であるとアンドロメダは認識した。

 

 

 外交などの交渉事において“Counterpart(カウンターパート)”と言う概念がある。

 

 直訳すると『対応相手』と言う言葉になる。

 

  意味の説明は“交渉や共同作業を進める際の、互いに対等な地位にある相手”というものである。

 

  特に“同格であることを明示したい場合は『同格対応相手』『同格者』と言い換えることもできる”ともある。

 

 例えば首相に対しては大統領、外務大臣ならば国務長官、防衛大臣であれば国防長官といった具合である。

 

 

 …飛行場姫さんを深海棲艦の一方面軍の司令を司る存在であると捉えるならば、そのカウンターパートは外洋防衛総隊の司令を拝命されていると仰っしゃられました土方さんとなるのでしょうが、先生ならば、これが実は結構微妙な気が致します。

 

 先生の地位、立場が先の資料によりますと“参謀”とあるだけで、少しばかり弱く、せめて“参謀長”、或いは“総提督”と言うお立場の真志妻亜麻美大将なるお方の参謀としてであれば、おそらく泊地棲姫さんとなるのですが…。

 

 それが功績だけで補えるかと問われたら、正直よく分かりませんが、おそらく無理でしょう。

 

 ですがそれは()()()()()()()()、彼女達深海棲艦がそれに合わせる必然性があるとは言い切れません。

 

 それを最終的に決めるのは彼女達の“意思”でありますから、私は下手に口出し…、いえ、でも、私は同胞(はらから)となっても構わないと言いましたから…、そのことが泊地棲姫さんから飛行場姫さんに伝わっていましたのなら…。そう言えばさっき泊地棲姫さんは私のことを「掛け替えのない同胞(はらから)と言ってもいい」と仰いましたし…。う、う~ん?こ、困りましたね…。

 

 

 アンドロメダは内心で少し慌てた。

 

 

 先の泊地棲姫の言葉から、深海棲艦は明らかに自分を受け入れることに前向きであることは間違い無いだろう。

 

 そのことには率直に“嬉しい”といった感情がある。

 

 アンドロメダが大好きな駆逐棲姫(お姉ちゃん)の仲間から受け入れられたことに、彼女は飛び跳ねて喜びたいほどのとても嬉しい気持ちが湧き上がっているが、それはそれ。

 

 こうなると自身の所属は深海棲艦とすべきなのか?

 

 となると深海棲艦にとって利益となる様に振る舞うべきなのか?

 

 

 今まで自身の帰属について半ば宙ぶらりんにしていたこともあり、またそのことで結論を出すにはこの世界について知らない事がまだまだ沢山あり、まだ早いと先延ばしにせざるを得なかった。

 

 しかしこうなってくると、流石にそろそろ決断しなければならなくなったと、アンドロメダは困った顔をしながら考えた。

 

 

「別に今はそれを考える必要は無いんじゃ無いか?」

 

 

 ここでアポロノームが割って入った。

 

 

「確かに交渉事には同格同士で進めるってのが常識だけどよ、今はそれに拘る必然性は無いんじゃねぇか?」

 

 

 どういうことかと皆の視線がアポロノームに集中するが、アポロノームは肩を竦めながら話を続ける。

 

 

「常識は人間社会でのトラブル回避のために、人間が今まで積み重ねた経験の成果なのは理解しているぜ。

 

 けどよ、今回のケースに当て嵌めちまって大丈夫なのか?」

 

 

 アポロノームが話ていることの真意が掴めず、アンドロメダを含めて一様に首を傾げる。

 

 …いや、土方だけはなんとなくだが察したような雰囲気となっていた。

 

 

「その常識は人間同士でなら分かるけどよ、俺や姉貴、そして姉貴が好きな駆逐棲姫(姉さん)やその同胞(はらから)達だって、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 無理に人間が定めた常識と言う名の枠組みに合わせる必要は無いのではないか?とアポロノームは言っているのだ。

 

 確かに間違ってはいないのだが…、些か乱暴に過ぎる気がしなくもない。

 

 

「そもそも政府をガン無視して勝手にやるって、普通の軍ならあり得ねぇ非常識なことヤラカシてんだからよ?」

 

 

 これは反論の余地が無い事実だ。

 

 一応、軍隊では交戦中に軍使を出して戦場に放置された互いの負傷者の収容、戦死者の回収といった戦場掃除、逃げ遅れた民間人や非戦闘員を戦闘地域から離脱させる為に一時的な戦闘の中断、休戦の交渉を現場指揮者の判断で行なう事が可能ではあるが、今回の事はそんな現場レベルでどうこう出来る範囲を逸脱した、謂わば互いの政府がやるべき国家間での休戦交渉に類する内容だ。

 

 しかし、今回の事に政府は完全に蚊帳の外に放り出され、軍が、それも軍全体の総意ではなく真志妻大将による完全な独断。言い方は悪いが、軍内部の単なる一派閥の暴走、事実上の叛逆行為だと見られても不思議ではない事をヤラカシているのだ。

 

 

「ま、しかし、今そんことを問い詰めても仕方ねぇし、俺もそんなつもりはねぇ」

 

 

 そう言うとアポロノームはアンドロメダの顔を見遣る。

 

 

「それに姉貴よ、ガミラスの奴らとだって初めは互いの常識や風習の違いでギクシャクしてたんだぜ?

 

 先ずは互いのコミュニケーションの醸成から始めるべきじゃないのか?」

 

 

 みんな急ぎ過ぎなんだよと言いながら、ヤレヤレといった雰囲気で首を振った。

 

 

 確かにアンドロメダは初めてガミラス艦の娘達と会った時、お互いの常識、特に風習の違いで驚き色々とあった。

 

 地球艦は先代や自身の設計に大きな影響を与えた(ふね)を母親として慕う風習があるが、ガミラス艦にはそういった風習は無く、ガミラス人と同様にイスカンダルを信仰していた。

 

 余談だが、新生地球艦隊を構成する新世代地球艦の設計にはガミラス艦の設計が取り入れられており、その影響か主力艦艇を中心にイスカンダルを信仰する者が少なく無く、アンドロメダもその1人である。

 

 閑話休題。

 

 

 アポロノームが指摘したことは最もだとアンドロメダは思った。

 

 それに考えが些か前のめりになり過ぎていたことは反省しなければならない事だ。

 

 物事には段階を踏まなければならない時があるし、それは一足飛びに、一朝一夕にどうにかなるものではない。

 

 

 今必要なのはお互いをよく知ることだ。

 

 

 そうしなければ話し合いの最中でお互いの認識や常識、考え方やらの相違から齟齬が生じていらぬ軋轢を作る原因と成りかねない。

 

 それだけは避けなければならない。

 

 そんなことで喧嘩別れにでもなったら目も当てられない。

 

 

「それにしても───「«それにしてもアンタは考え無しのようで案外ちゃんと考えてるンだねぇ、アポロノーム»」…ブフッ」

 

 

「ちょっ!?霧島(キリシマ)の姐御!そんな言い方は、って姉貴もなに吹き出してンだよっ!?ヒデェじゃねぇかっ!?」

 

 

 アンドロメダの言葉に重ねるようにして霧島(キリシマ)が喋ったが、その余りにもあんまりな言い草に噛み付くアポロノームだが、姉のアンドロメダが思わず吹き出した姿を見て吠える。

 

 先に霧島(キリシマ)が喋ったが、アンドロメダが喋ろうとしたことも、まぁ似たようなものだった。

 

 

「ふふっ、ごめんなさいアポロノーム。

 

 でも私は貴女のそういった一見雑そうですけど、大切なことをスパッと言ってくれる所が私は好きですよ?」

 

 

「…それ褒めてるのか姉貴?」

 

 

 朗らかに語る(アンドロメダ)に、アポロノームは訝しんだ目を向けるが、妙にニコニコしたままでなにも喋らない。

 

 

「そんなことよりも!」

 

 

 そこへ突然、喜色満面の顔をし、瞳をキラキラと光らせた駆逐棲姫が、アポロノームに詰め寄る様にしてその手を握りながら怒涛の勢いで喋り出す。

 

 

「私のことをお姉ちゃんと認めてくれたんですね!姉さんって、勿論私のことですよねっ!?お姉さんの事は姉貴っていつも呼んでましたから!ちゃんと聞こえてましたよ!姉さんは嬉しいです!はいっ!とってもとっても嬉しいです!!もっと私のことを姉さんって呼んでください!これからはお姉さんと一緒に貴女のことも可愛い私の大切な妹として、もっともっと愛してうんと癒やしてあげますね!貴方も家族です!!」

 

 

「ちょ!、落ち着いてくれっ!?」

 

 

 駆逐棲姫のその凄まじいまでの勢いに、思わずタジタジになるアポロノーム。

 

 ついウッカリ、駆逐棲姫の事を姉さんって口走ってしまったのだが、それを聞いた駆逐棲姫は嬉しさのあまり感極まって暴走してしまった。

 

 アンドロメダもそんな駆逐棲姫の嬉しそうな姿を見て、微笑ましいものを見てますといった雰囲気で、ニコニコと笑みを浮かべながら2人を眺めるだけだった。

 

 アンドロメダも先のアポロノームによる駆逐棲姫を姉さんと呼んだことを、聞き逃していなかった。

 

 仮令それがウッカリの類いだったとしても、思ってもいない事の言葉を口に出すなんて有り得るだろうか?

 

 なんだかんだ言いながらも、アポロノームも内心では駆逐棲姫の事を姉と呼んでみてもいいかに思う様になっていたのだと、そうアンドロメダは見ていた。

 

 もしそうならば、アンドロメダとしても悪い気はしない。

 

 それだけアポロノームも心を開き出した証左であると言えるのだから。

 

 とはいえそれはアンドロメダの解釈であり、アポロノーム自身による真偽の程は定かではないが、今は姉さんと呼んでくれたことが嬉しくて嬉しくてたまらないと、感極まって全身を使って喜びを表わしている大好きな駆逐棲姫に水を差すマネは無粋であるとして、このまま暫し眺めることとした。

 

 

「«…若いって素晴らしいねぇ»」

 

 

 そんなワチャワチャとしだした3人を眺めながら、ふと霧島(キリシマ)が呟いた。

 

 

「«どうも歳を取っちまうと、せっかちになっちまっていけないねぇ…»」

 

 

 そう染み染みと語る霧島(キリシマ)だが、単純に年齢だけで見ると金剛や霧島の2人の方が僅かに年長なのだが。*3

 

 しかし、皮肉屋で達観した普段の態度、何よりも草臥れ疲れ切ったかの様に痩けた頬、そしてあらゆるものに絶望し、諦めたかの様に、隈が溜まり濁った双眸が、普通とは違う雰囲気を醸し出しており、それが2人よりも年長であるかの様に見え、初対面の者に驚かれることがしばしばあったりする。

 

 ただまぁ、所属する小松島鎮守府でも年長の部類には入るのだが、普段の態度やあまり身嗜みを気にしないが故に損をしていると、金剛や春雨(ハルサメ)姉妹の幾人から言われたりもしている。

 

 閑話休題。

 

 

「«“コミュニケーションは質よりも量が物を言う。中身は何でもいい、雑談でけっこう!ワイワイやるんだ!伝えたいことは話しの質だけでなく、伝えたいという気持ちで通じるものだ。”»」

 

 

 それは?と飛行場姫が目で霧島(キリシマ)に尋ねる。

 

 

「«真志妻の恩師の葛木って名の教官だったか、恩人であり養父の橘茂樹って人の教えさね»」

 

 

 ここで土方から葛木教官は橘元大佐のかつての部下であり、その薫陶を受けた人物の1人であると補足した。

 

 つまりこの教えの大元は橘の教えであり、親の教えが子に受け継がれていることである。

 

 

「«私達も先ずはそこから、交流から始めようじゃないかね?

 

 “急がば回れ”とも言うしね»」

 

 

「…確かにその通りね。急か急かしても、良くない結果に終わるだけだわ。

 

 作物だって土からじっくり丹念に育ててこそ、美味しい物が出来るからね」

 

 

 飛行場姫のその一言により、笑いに包まれた。

 

 

 これにより、休戦の交渉は一旦棚上げとし、先ずは双方の交流によるコミュニケーションの醸成から始めることと相成った。

 

 あとの問題は、如何にしてその人員を送り込むかである。

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 そこはモニターに囲まれた薄暗い一室。

 

 

 そのモニターには今まさに進行中のアンドロメダ達による通信の様子が映し出されていた。

 

 

「ふ~ん、面白くなってきたわねぇ」

 

 

 部屋の真ん中、数多の機材が乱雑に置かれた中で、空中投影型のコンソールやパネルに囲まれた丸いレンズの眼鏡を掛け、ボサボサ頭に白衣のような服を着た、不健康そうな少女がニチャァ…、と陰湿そうな笑みを浮かべながら、それでもとても楽しそうに呟いたのだが、直後に電子音が鳴り響き、一転して途轍もなく不機嫌な顔へと様変わりし、乱暴にコンソールを叩いた。

 

 

 すると、空中に新たなパネルが展開され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が映し出された。

 

 

「«やいっ!いい加減アタイを自由にしやがれっ!!()()()()()()()()()()()()!!»」

 

 

 画面から飛び出さんばかりの勢いで吠え立てるが、ボサボサ頭の少女を睨み付けるその目は疲れ切っており、疲労が溜まっているのが見て取れた。

 

 ボサボサ頭の少女はあからさまに舌打ちし、睨み返す。

 

 

「ふんっ!相変わらず口が汚いヒトですね!()()()()()()()()()()()()()()()()()貴女を助けたのは誰だったかしらぁ?

 

 命の恩人に対して無体を働くのが、()()()()の流儀なのかしらぁ?」

 

 

「«そ、それは…»」

 

 

「それに貴女の修理はとぉっても大変だったのよぉ!」

 

 

「«だ、だからその代価としてアタイの機密データ渡しただろっ!?»」

 

 

「それに関しては感謝してるし、私としてもいい勉強にはなったわぁ。

 

 けどねぇ、()()()のために貯めておいた貴重な部品ストックを結構消費したんだからぁ、それなりに働いて貰わないと採算が合わないのよぉっ!!」

 

 

「«だ、だからって、いくら不足してるからって、その取り立てでアタイをこき使い過ぎじゃねえかって言ってんだ!!»」

 

 

 その後お互い睨み合い、暫く口汚く罵り合い、2人の仲の悪さが見て取れるのだが───

 

「«()()()()便()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()»」

 

───疲労が目立つ少女は、そう吐き捨てると乱雑に通信を切った。

 

 

 何も映さなくなったパネルを掻き消し、苛立ちを隠さず髪を掻き上げると徐ろにコンソールを操作し、モニターに映る映像を全てアンドロメダの物へと切り替え、その目線をモニターに移した。

 

 

 モニターに映るアンドロメダは、丁度彼女がこの世界で姉と呼んでいる深海棲艦の姫である駆逐棲姫と、実妹であるアポロノームへと向けて微笑みを浮かべていた所だった。

 

 

 そんなアンドロメダの顔を、うっとりとした表情で見詰める少女。

 

 

「ああぁ、愛しい私のアンドロメダ…。

 

 早く貴女に会いたいわぁ…。

 

 何故なら貴女は私の────」

 

 

 

 少女はうっとりとした表情にねっとりとした暗い笑みを湛えながら、モニターの前に移動すると画面に映し出されているアンドロメダの顔を撫でた。

 

 

 

 

貴女は私の最高傑作(    )なのだからぁ…

 

 

 

 

 そう言うと、狂ったかのような笑い声が部屋の中を木霊した。

 

 

 

 

*1
この時の深海棲艦は、先のマリアナ諸島サイパンで起きた出来事が半ばトラウマとなっており、防空、特にミサイル迎撃に形振り構わなくなっていた。

*2
既にこの頃になると、深海棲艦も上記の様に巡航ミサイルなどによるミサイル攻撃に対して、ある程度対処してきており、また防空に特化した個体も確認されだした時期でもあり、地上目標へのミサイル命中率が低下の一途を辿っていた。

*3
進水から戦没まで、そして艦娘として活動を開始した年数を合算したら霧島(キリシマ)よりも年長となる。





 おそらく本作に置きましてトップクラスの狂人が登場。

 そして初のガミラス系の者が登場。


 本当はもう少し先、次の話からでも良かった気が致しますが…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

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