艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり 作:稲村 リィンFC会員・No.931506
我ながら、相変わらず脱線話が多いな…。なのに書いてて楽しいというジレンマ。
今回は『ヤマトという時代』を見た当初から考えていた見解を下地とした考察という名の妄想をつらつらと書き綴っています。
第二次大戦後デカいドンパチが無かった?そりゃ下手に起こせないような“ナニカ”しらのファクターがあっただけでしょうよ。それこそ一歩間違うと即ハルマゲドンに繋がるような“ナニカ”が。
それがブレーキとしての役割を果たしていたのではないか?
まぁ飽く迄も筆者の勝手な推察ですので、確固たる証拠がある訳ではありませんが。
アンドロメダは時間断層工廠を嫌っている。
正確には今目の前で自分が時間断層工廠であると自称し、工場長と名乗った少女のことではなく、時間断層工廠その物、そしてそれがあった場所を含めた空間を嫌っているのだ。
過ぎた力はヒトを惑わす。
それがアンドロメダの考えだった。
既に地球人類は波動砲という、自らをも滅ぼしかねない諸刃の剣を手にしていた。
しかもコレは恩人であるイスカンダル星の女王スターシャ猊下が、かつての自分達の誤ち、波動砲を使って破壊の限りを尽くし、大小マゼラン銀河を血に染めて大帝国を築いたとする歴史を語り、その血塗れの歴史のことを今は大いに悔いており、波動エネルギーの兵器転用を禁忌の力として扱い、一度は救いの手を差し伸べた相手に対してでさえ、突き放す様な態度に出る程のシロモノだ。
人類がまだ宇宙へと進出する遥か昔、「手にした“力”を試してみたくなる。使ってみたくなるのが人間の
この言葉に賛否両論はあるだろうが、アンドロメダ自身は否定出来ないとの見解である。
あらゆる人間を命令出来る“権力”、圧倒的な暴力で他人を黙らせ従わせることが出来る“武力”、チラつかせるだけでヒトの心を掌握し、大抵のモノを揃えることが出来る“財力”。
そのあらゆる“力”を手にした時、ヒトはその“力”を使ってみたいという誘惑、いや、“欲”に耐えられるだろうか?
先の軍人の言葉には続きがある。
「その
正しく至言であり、“力”を扱うモノに対する警鐘であると、アンドロメダは見ていた。
だが同時に、そんな聖人染みた人間など、全体から見たらほんの一握りに過ぎず、またヒトの持つ善性に期待し過ぎるのも考えものだとの思いもある。
何故ならばそれは歴史が証明してしまっている。
“欲”に負け、己の我欲に“力”を濫用する者が居なかった時代など、あるだろうか?
自身の居た世界において、人類は最悪の事態だけはなんとか回避出来ていたが、それは振り返ってみると綱渡りの結果でしか無かった。
内惑星戦争勃発まで、人類は大きな戦争が起きなかったとされているが、それはただ単に宇宙開発競争で欧米各国が中露に大きく水を開けられた結果、その差を縮めようと躍起になり、開発競争の激化によって戦争に割けるだけの余裕が無くなっただけだったのだ。
当時、内部でのゴタゴタを繰り返す欧米を尻目に、中露両国が相次いで月面着陸に成功しただけでなく、本格的な月面基地を建設した事によって、制宙権は事実上中露の二ヶ国が掌握する事態となった。
宇宙条約などの取り決めにより、ある程度は宇宙の軍事利用を抑制していたとはいえ、宇宙開発競争の激化に伴う技術躍進によって、制度が現状に対して対応仕切れない問題が浮上し、改定に向けての動きが見られた。
この改定宇宙条約の締結後、後に一般的となった純然たる宇宙戦闘艦の様な代物が即座に建造される事態
だが、それでも各国では『航路を阻害し、船体を傷付けかねない危険なデブリなどの障害物の排除を目的とした装備』を名目に何かしらの武装を施す宇宙船が次々と建造され、後年にはかつての世界大戦などで使用された特設艦船の様な、必要とあらばさらなる武装の増設が可能な宇宙船が建造される事となった。
また宇宙への本格的な進出に伴い、今まではSFなどにおける架空世界の存在とされていた、宇宙海賊の様な宇宙における犯罪者が出現し、それに対応する名目で各国は宇宙における海上警察とも言える、宇宙警備隊が組織されたのだが、先述の特設艦船の中でも特に重装備な物が選ばれ、通称パトロール艇として活動することとなるのだが、それらは軽装備が関の山の宇宙海賊を相手取るには明らかな過剰な武装が施されており、その仮想敵が宇宙海賊などではなく、各国の宇宙警備隊で配備が進むパトロール艇であることは疑いようがなく、半ば公然の秘密となっていた。
各国は競う様にしてパトロール艇、然程時を置かずしてその名称をかつての海防艦を捩って防衛艦となるのだが、その配備を推し進め、かつての世界大戦前夜の列強諸国による建艦競争の如き様相を呈していた。
この宇宙警備隊が後の各国の宇宙海軍へと繋がるのだが、それはさておき、問題はこの当時配備された防衛艦は元々のベースが輸送船だったこともあってかカーゴ区画が存在しており、そのペイロード、つまり積載量は物にもよるが、船体規模に比してかなり余裕のあるものが多かった。
そしてこの積載量の余裕が、先の改定宇宙条約を完全に死文化させてしまったと、後の世の歴史家は口を揃えて語っている。
当初は航路パトロールなどの長期航海任務に必要な消耗物資の保管スペースを確保するためと説明されていた。
しかし明らかに過大であると指摘されると、今度は難破船の救助などの、緊急用放出物資を備蓄するため、救助した他船の乗組員や臨検隊などの接舷乗り込みを行う要員が乗り込むスペース、航路阻害の要因となり得る故障、或いは放棄されて宇宙を漂う人工衛星の修理や必要ならば回収し収容するための保管用スペースなどなどと、追加で説明がなされていた。
だがそれにしてはこの該当区画に関する資料の機密レベルが矢鱈と高く、用途不明の
当時は陰謀論扱いであったが、それは
無論、全ての防衛艦に装備されていた訳では無く、比較的大型の防衛艦や、所属する国によってまちまちだった。
しかし、欧米や中露といった大国ほど、この手の防衛艦の配備数が異様なまでに多かったのは事実である。
そしてこの防衛艦の存在こそが、この当時大国同士の表立った衝突が起きなくなっていた最大の要因である。
先にも述べた通り、表向きは航路パトロールといった治安維持活動や人命救助、そして航路清掃を行なっている事となっていたため、
これは人類の宇宙進出以来、長年放置されてきた膨大な量のデブリの存在が密接に関わっており、また近年の加速した宇宙開発競争がそれに拍車をかけ、デブリが原因とする事故が年々と増加傾向にあり、自国の権益を維持するためにも対策が急務であった。
そこに漬け込む形で、大国は密かに核搭載艦を送り出し、衛星軌道上に配備したのだ。
これは宇宙への核兵器配備を禁じていた改定以前からの宇宙条約を完全に違反しているのだが、大国は素知らぬ顔であった。
そもそも武装を施した船舶が配備されている時点で、既に宇宙の軍事利用は着実に進んでいるも同然であり、何よりもそれは大国による試金石でもあったのだ。
彼らが宇宙船に武装を施した最大の理由は、かつての冷戦期に米国で提唱され、スターウォーズ計画とも揶揄された、SDI構想*1の実現化による次世代の核戦略を構築することによる戦略的優位性を確保するためのものだった。
そしてそれと並行して従来の大陸間弾道ミサイルに代わる、新たな核攻撃の投射手段としての役割も持たせる事で、攻防一体の核戦略構想となる目論見だった。
地上からの迎撃ミサイルは持ち前の自衛火力で撃退し、迎撃に向かってくる相手国の防衛艦は、実際の所あまり障害にはならなかった。
何故ならば下手に破壊して爆発させてしまうと、その飛び散る破片は衛星の比ではなく、大規模なケスラーシンドロームを呼び起こす原因にもなり、防衛艦も後年の航宙艦ほど頑丈では無かった。
更には搭載されていた核爆弾に誘爆した際に発生する電磁パルスによる被害も無視出来ず、最悪の事態は航行能力を損失し、地球の重力に捕まってしまい、墜落した際に発生する被害も到底無視したり許容出来る範囲を逸脱していた。
そしてもしその墜落現場が、万が一人口密集地域や耕作地帯だったとしたら…?
とはいえ、各国がほぼ同時期に同種の装備を揃えたことにより、MAD*2による膠着状態に陥ることとなった。
宇宙への進出が本格化したとはいえ、拡がった領域は地球圏を中心としたほんの僅かな宙域に過ぎず、またそこに張り巡らされた航路もか細く、非常に脆弱なものであり、それにも関わらずそこに掛かる各国の既得権益層による利権構造の大きさは膨大な物だった。
下手にドンパチをやらかそうものなら、当事国を世界が袋叩きにするか、世界大戦レベルの戦争へと発展しかねなかった。
だが何よりも問題だったのは、僅かとは言ったものの今までと比較したら急激な宇宙進出と領域の拡大は、それに比例して各国に伸し掛かる経済的、財政的負担も増大する一途であり、その疲弊からその拡大速度と意欲も徐々にだが鈍化傾向にあり、火星への植民が開始された段階で停滞期へと突入し、火星開拓によって得られる利益によって疲弊しきった国力と経済力の回復に注力に努める様になった。
当然だが、軍備に費やす予算的余裕など無く、世論も自国の経済事情を鑑みて軍縮ムードが広がっていた事もって、装備の更新も殆ど行なうことが出来ないまま、ましてや新規設計の新造艦を建造することなどが出来ない状態が続くこととなる。
そういった政治的、経済的な障壁の発生から情勢は暫く膠着状態となったまま、世界は一応の安定を果たしていた。
状況が変化したのは火星独立運動に端を発する、内惑星戦争の勃発である。
火星自治政府は地球軍の物量以上に、
火星の居住エリアや重要インフラは地球のそれと比較して限定的であり、か細く脆弱だったがために、喩え一隻だったとしても火星の軌道上へと到達させる訳にはいかなかった。
また地球側と違って先に述べた様な様々な“制約”があるわけでなく、また地球と火星を結ぶ航路上ならば撃破しても、火星が受ける直接的、短期的な損失はほぼ皆無だったこともあり、戦後の政治的パワーバランスなどの駆け引きに縛られる必要性が薄かったし、物量差と何よりも核攻撃艦を確実に効率よく撃破するためには、長距離からの高火力で叩く必要性があった。
火星に不時着した異星人の難破船を解析した事による、圧倒的な技術的アドバンテージがあった事も、重要なファクターではあるが、地球艦の様な技術の停滞や政治的、予算的な制約などの外的要因でずっと輸送船ベースのままの似非戦闘艦と違って、設計の自由度が高かったことによる純然たる高性能な戦闘艦を造れた事が大きい。
例えるならばおなじ巡洋艦でも、仮装巡洋艦に対して重巡洋艦や戦闘巡洋艦*3くらいの落差があった。
無論、地球側はこの事を早期に掴んでいたが、物量差と国力差、何よりも艦隊運用における蓄積されたノウハウの差から、なんとかなるだろうと楽観視されていた。
そこからの顛末は、おおよそ歴史の通りである。
火星へと向かった地球の多国籍連合艦隊による大艦隊は、指揮系統の複雑さ、煩雑さといった多国籍ならではの寄せ集めの雑軍状態だったことも祟り、後に『第一次ダイモス沖海戦』と呼ばれる火星の衛星ダイモスの沖合い宙域で生起した艦隊決戦にて、火星の艦隊に徹底的に打ち負かされ、ダイモスの公転軌道の内側へと到達することさえ叶わず、逆に地球圏近海へと踏み込まれる直前まで追い詰められた。
しかし、地球側が予測した通り、火星軍は艦隊運用ノウハウが致命的な迄に不足しており、火星圏近海ならばまだしも、遠く地球圏へと遠征を成功させるにはまだまだ実力も練度も不足していた。
何よりも後方支援体制も不充分なか細い兵站の実態が徐々に露呈してしまい、その強大な艦隊戦力と緒戦の勢いで半ば隠されていたが、火星軍艦隊の本質は所謂地域海軍の域からの脱却が出来ていなかった事実が明らかとなってしまった。
故に、長期間に及ぶ外洋*4での作戦行動能力に欠けており、地球圏近海での頑強な抵抗によって、そのか細い兵站能力は早々に限界を迎えて崩壊することとなった。
地球側はその“弱点”を的確に突きながら、地球における最初の純然たる戦闘艦とも言える、後の『磯風型宇宙突撃駆逐艦』へと繋がる宙雷艇を来航する火星軍艦隊に対するインターセプターとして大量投入し、出血を強要した。
火星軍艦隊は従来の地球艦の撃破を意識するあまり、この手の小型で高機動な艦艇への対応策が不充分だった。
これは純然たる国力差によるリソースの問題から、一隻でも多く対艦火力のある戦闘艦を揃えることに注力した結果生じた取捨選択からくる、やむを得ない措置だったのだが、それが裏目に出てしまった。
そこからは戦争は泥沼の消耗戦となり、こうなると国力が劣る火星側は消耗に対する戦力の補填や、何よりもその人的資源の差から、その多くを軍に集中させていたことによる経済への悪影響がジワジワと真綿で首を絞めるかの如く、火星の継戦能力と士気を削いで行き、戦局は劣勢に追い遣られる様になった。
状況を打開しようとして行なった隕石落としは、戦況を一変させるファクターとは成りえず、なんとか休戦を引き出すことは出来たものの、寧ろ第二次を引き起こす要因の一つとなってしまった。
第一次内惑星戦争は、地球と火星双方にて大小様々な“過失”と“過信”の連続であったとの指摘がなされている。
特に“過信”は、お互いの“力”に対する過度な過信があったと分析し、論じられることもある。
国力差に関する分析は、双方それなりに正確であったが、地球は今まで培ってきた艦隊運用に関するノウハウや用兵といった技能面を過信し、兵器の性能差を過小に見積もっていた事、火星はその逆に、兵器の性能差を過信し、艦隊運用に関するノウハウや用兵といった技能面を過小に見積もっていた。
火星は技術的優位性に酔い痴れてしまい、戦争を終わらせる具体的な決定打や政治的解決案を欠いたまま戦端を開いてしまった。
当初は短期決戦でどうにかしなければならないと考えていたが、そうしなければならない事情もあった。
火星の経済は地球との貿易によって成り立っていた。
しかし先に述べた様に、地球各国は宇宙進出で費やしたコストの回収と疲弊した自国経済の回復が急務であるとの考えであり、そのため火星側にとってはかなり不利な為替レートを強要していた。
この負担に火星の民衆は耐えかねていた。
火星側が戦端を開いた背景には、こういった経済的な不平等を是正したいという思惑があったのだが、自らの“力”を過信するあまり、要らぬ“欲”を出してしまった。
貿易における不平等の是正ならば、地球艦隊撃滅の時点、先に述べた『第一次ダイモス沖海戦』での地球多国籍艦隊殲滅という、戦史上稀に見るワンサイドゲームを成し遂げた直後に交渉のテーブルへと移っていたならば或いは、とする指摘がある。
しかし火星側の指導部自身、ここまで一方的な大勝になるとは予想しておらず、この結果を見た指導部内の急進派を筆頭に「もしかしたら…?」という誘惑に駆られてしまい、その“欲”に負けて自ら泥沼の消耗戦へと突き進む決断を下してしまうこととなってしまった。
更には膠着状態打開の一手として行なった隕石落としが、逆に地球側の厭戦気分まで吹き飛ばし、敵愾心を煽ってしまったが為に、厳しい消耗戦の末に折角引き出せた休戦も、次の戦争に向けた時間稼ぎ程度にしかならなかったと知れ渡った事で、火星内部で深刻な内部分裂を引き起こし、多数の軍人や技術者に科学者が離反する事態を招き、今まで火星の有利を支えていた技術的アドバンテージが覆される結果を生んでしまった。
この事態に火星の指導部は焦りを隠せず、形振り構わぬ大軍拡へとひた走ることとなったのだが、最早火星にはそんな余力は残っていなかった。
そして第二次の時点で、火星の経済は無理な軍拡が祟って財政破綻を引き起こし、火星市民の生活は困窮の一途を辿っていた。
だが地球はその事を承知で、新設された国連宇宙海軍の号令一下、地球各国で新造された、今まで温め続けていた自らの技術と火星の技術を最大限に取り入れて融合させた最新鋭の大艦隊を差し向けた。
先の第一次での仕返し以上に、自らの新たな“力”を試したくて。
だがこの“力”を試してみたいという“欲”が、この後に地球を地獄へと突き落とすことにもなった。
内惑星戦争によって軍部や政府首脳陣を中心に明るみとなり、大きな問題提起となった、異星人による太陽系内への侵出の可能性が、最早絵空事では無くなった事実。
問題は、今の自分達の“力”が、どこまで異星人達に対して通用するのかが分からないことだった。
推測は出来ても、実際の所は分からない。
今まではそれなりに正確な予想が可能な相手であった。
宇宙開発競争から始まる事実上の軍拡競争はあったものの、実際に戦端を開くことによるデメリットから、なんとか自制心が働いていた。
だが異星人となると前例がないために予想の立てようがなかった。
だからこそガミラス戦役初頭の先制砲撃は、異星人の出鼻を挫く意図も確かにあったのだろうが、自分達の力が異星人に対して何処まで通用するかを試したかった一面もあるだろう。
その代償として人類は滅亡一歩手前まで追い詰められる事態となってしまったが、それにも関わらずこの頃から地球の“欲”は留まるところを知らず、半ば暴走状態に陥っていた。
無限のエネルギーたる波動エネルギー、の存在は正直そこまで大きなファクターでは無かった。
いや、全くの無関係とは言い切れないが、ガミラス戦役によって荒廃した地球では、逼迫するエネルギー事情を劇的に改善する救世主と捉えながらも、それを自在に操る為に必要な技術力の高さ、何よりも資源の払底や生産設備の稼働率からくる工作精度の問題などによって、半ば持て余していた。
しかし、時間断層の存在が明らかとなったことで、その状況が一気に覆ってしまった。
最終的に時間断層工廠では、生き物やコスモリバースシステムの様な一部の例外的な超オーパーツなシロモノは別として、作れない物は無いと言われるほどになっていた。
その事が地球の暴走に拍車をかけた。
さらなる自制心の欠如が倫理観の希薄化を招き、脅威への備えを大義名分として恩人たるイスカンダルとの約束だけでなく、その誤ちからくる戒めからも目を逸らす免罪符としていた。
今の地球は何でも出来ると思い込んでしまっていた。
時間断層工廠は地球のあらゆる要望に応え続けた。
そこから地球の上層部は同盟国となったガミラスに追い付け追い越せという“欲”へと肥大化していった。
だがその足元はガミラス戦役の傷跡が色濃く残る、ボロボロな痛々しい物だった。
だが地球の上層部は自らの“欲”を満たすことを優先して、足元へと視線を落とすことはしなかった。
都合良く、と言ったら不謹慎かもしれないが、ガトランティスの存在と本格的な侵攻が隠れ蓑となっていた。
もしガトランティスがいなければ、民衆は「未だ荒廃した大地が数多く残る地球の完全復興を優先しろっ!」との抗議の声を各地で上げていたことだろう。
実際に抗議の声は復興が後回しやおざなりとなっていた地域を中心として上がっており、波動砲艦隊整備の本格化が正式に連邦議会で可決された事を皮切りに、その抗議は一層加熱し、一部では我慢の限界を超えたと大規模暴動による都市部の焼き討ちが起こってしまっていた。
こういった地域では未だガミラス戦役終結直後と大差無い生活を強いられており、復興など名ばかりだとの批判が相次いでいた。
更には艦隊整備に必要な財源確保で連邦市民への負担も無視出来るレベルを超えつつあった。
それらは全てガトランティスの脅威打破を大義名分として、徹底的に封殺されていた。
だが実際問題として、地球の経済事情や財政収支などを加味すると、そもそも波動砲艦隊構想を始めとした一連の軍備増強計画は経済的に無理があり、破綻するとの指摘が出ていた。
それをどうにかする手段だった時間断層工廠は、軍事部門は別として民生部門は需要に対して供給過多も過多な有り様であり、軍事部門だって今は兎も角としてそう遠くない内に急激に拡大した軍備を維持するための予算のために、財政破綻を来すとの警告が出ていた。
地球連邦はかつて自分達が滅ぼした火星自治政府と似たような末路を辿りつつあった。
時間断層工廠の能力に目が眩み、現実を見る目が曇っていた。
確かにガトランティス戦役において時間断層工廠は重要な役割を果たしていたし、それを否定する声は少ないのも事実だ。
だが同時に扱いが非常に難しい劇薬の類いでもあったとの評価もある。
過剰な薬物の接種は人体に害悪を齎す。
しかし上層部の“欲”はそんな事に見向きもしなくなっていた。
それほどまでに時間断層工廠の持つ魅力、いや敢えて言わせてもらうならば、その中毒性は大きかったのだ。
アンドロメダは時間断層工廠の“力”という名の麻薬に似た中毒性がヒトを惑わしたと考えていた。
そこに波動砲という諸刃の剣の存在。
もしかしたらイスカンダルを超える誤ちを、地球は犯すことになるのではないか?
そんな恐怖が常にアンドロメダの心の中にあった。
アンドロメダは一瞬、逆探知でこの時間断層工廠を自称した少女の居場所を突き止め、有無を言わさず完全破壊すべきではないか?との思考になった。
万が一、この世界のニンゲン達の手に落ちたら、あまりにも危険過ぎる。
かと言って深海棲艦が秘密裏に制圧したとしても、何処まで隠し通せるか分からない。
いずれ発覚し、血みどろの泥沼化した攻防戦になるかもしれない。
そもそも時間断層の特性である時間の流れが十倍となる特異空間が、今の自分や深海棲艦、それに艦娘の肉体に与える影響すら未知数だ。
もしかしたらどの陣営、どの勢力にも制圧することは不可能なのかもしれないが、このいかがわしい目付きで自分を見ている工場長なる少女が気まぐれを起こし、どちらかの陣営に肩入れすると言い出すかもしれない。
そうなったら目も当てられない。
それ以前に、アンドロメダの中ではふつふつと怒りが湧いてきていた。
なにが私のアンドロメダかっ!?巫山戯ないでッ!!私をもしその様に呼ぶのならば、それに相応しいのは
まるで貴女は私の所有物ですと言っているかのような少女、工場長の物言いに、アンドロメダは不快な気持ちにさせられた。
そんな激情に揺れるアンドロメダであるが、同時に今のこの状況を打開できる可能性についても冷静に導き出していた。
かの遊星爆弾症候群の特効薬が短期間の間で製造出来たのも、時間断層工廠に依るところが大きかった。
今手元にある資料では不充分な薬品しか出来ないが、時間断層工廠の特性を活かしたら、もしかしたら完璧な物が早期に完成するのでは?という期待が持てる。
この世界のニンゲン達に対して不信感と嫌悪感を抱いてはいるが、力の無い弱者、特に子供達にはなんの罪もない。
子供達は大人達の暴走に巻き込まれた、謂わば犠牲者なのだから。
いつの時代だって、子供は悪い大人に食い物にされ、無責任で考えなしの大人達の巻き添えにされてきた。
せめて子供達が苦しみ、未来がこれ以上奪われることが無い様に、何よりも今目の前で滂沱の涙を流して訴えて来ている泊地棲姫の姿を見たら、彼女に悲しい未来を見させたくない。
彼女には笑顔で子供達と楽しく過してもらいたい。
それに、時間断層工廠ならばアポロノームの大破した艤装を完璧に修理することも不可能ではないだろう。
懸念はある。それも有り過ぎるくらいに。
だがただでさえ後方支援体制が全く無いに等しい今の自分達には、この時間断層工廠の存在は喉から手が出るほど欲しい。
無論、消耗する資材面こ補充という点においての不安もあるが、そこは今考えても仕方が無い。
自身の感情と損得勘定を天秤に掛けて揺れ動き、なにが最善かとの考えを巡らせる。
「«ああ、ちょっといいか?»」
そこへ、青い肌をした少女がアンドロメダに対して口を出してきた。
「«アタイ、おっと…。
ジブンはガミラス国防軍亜空間戦闘団、次元潜航艦隊所属、UX-02でぇあります。テロン艦隊総旗艦ドノ»」
先のキルメナイムと比べたら、締まりの無い敬礼をしながら、慣れてないのか舌を噛みそうなカタコトな敬語で自身の官姓名を名乗る少女、いやUX-02に対して、その内容にかつての地球軍出身者は一様に驚きの表情となった。
先の工場長との口論から、ガミラスの次元潜航艦であることは認識していたが、まさか正規軍部隊に属する亜空間戦闘団所属だとは思いもしなかった。
ガミラス国防軍の亜空間戦闘団といえば、彼らの中でも最高ランクに属する機密レベルの塊と言っても過言ではない集団だ。
そしてその部隊に属するUX-01は地球、正確には『ヤマト』と少なからぬ因縁のある相手だった。
かのイスカンダルの航海において、何度も『ヤマト』を翻弄した手強い相手として地球軍の中では知らない者はいない存在として知られている。
しかし亜空間へとその艦体を没し、再び浮上させるだけでなく、亜空間を自在に航行する為に必要となる技術開発は、地球よりも遥かに優れたガミラスの科学技術力を持ってしても難航したらしく、多くの試作艦が亜空間へと沈んだまま再び浮上することはなく、幾多の犠牲者を生み出す
そのため地球軍の中でも『ヤマト』以外でマトモに邂逅したモノは非常に限られており、そもそもガトランティス戦役の最終局面というタイミングで投入されたのが初だったため、アンドロメダ自身も生前(?)実際に会うことは無かった。
ただアンドロメダの場合、その立場柄地球へと派遣されて来ていたガミラス艦との交流の機会があり、その際に次元潜航艦と面識のあったモノもいたため、話として次元潜航艦は運用する乗組員達も含めて、荒くれ者の集団ということだけは聞き及んでいた。
とはいえ、ガミラスの中でも精鋭の部類に属し、その指揮官たるヴォルフ・フラーケン中佐の優秀さも聞き及んでおり、早々損失する事態は起きないだろうと思っていたため、先にも述べた行方不明となった試験艦なのだろうか?と思い込んでしまっていた。
そんなかつての地球軍組を他所に、UX-02は話しを始めた。
「«コイツはアンタが何時かこの世界に来てくれると信じて、
この言葉にアンドロメダの心に動揺が走った。
待っていた?何故?いや、そもそも私がこの世界にくると知っていた?
様々な疑問が沸き起こり、頭の処理が追い付かなくなるが、UX-02はお構い無く話を続ける。
「«コイツのヤバさはコイツ自身が一番理解している。だから外との接触を完全に
ずっと一人だったからか、誰とも会う機会もなかった影響でコミュ障のシャイで人見知りだ»」
確かに、今もなんだかモジモジと恥ずかしそうな雰囲気を醸し出している。
「«
今はまだマシにはなったが、それでもさっきご覧になった通りさ。
だがな、それでもコイツは困っているアンタを見て、力になりたいからと、頑張って通信を繋いだわけなんだ»」
その言葉に時間断層工廠こと、工場長は顔を赤くしてUX-02をポカポカと殴り付けるが、全くと言っていいほどダメージは無さそうである。
アンドロメダとしても、心が揺らぐ。
ずっと待っていたというその理由まではまだ分からないが、自身の危険性を理解し、それでも誰かのために力になりたいと思っている者を突き放す様な真似は、アンドロメダとしても抵抗がある。
だが待って欲しい。
困っている私を見て?それはつまり───。
「«まぁコイツは世間知らずだし、頭はイカれてて、アンタがこの世界に来たと知った途端、色んな方法を駆使してアンタのことを覗き見してニヨニヨしてた変態だが、アンタのことを裏切るマネはしないと思うぜ»」
「ブッコロス!!」
台無しである。
まさかと思っていたが、どうやら何かしらの方法を駆使して、この工場長とやらは盗撮紛いのことをしでかしていた様である。
かつての立場柄、見られることにはなれているが、それはそれ、これはこれだ。
何よりも!
私を見ていたということは、いつも一緒にいてくれたお姉ちゃんも見ていたということだ。
寧ろそっちの方が許せない!
画面の奥で、工場長の顔がサッと青褪めるのを視界に捉え、それが真実であるとの確信を得た。
泣き出しつつあるものの、もはやお構いなしである。
アンドロメダは激怒した。
必ずやこのド変態クソメガネに裁きの鉄槌を下す事を決意し、イスカンダル猊下にも心の内で誓った。
工場長はそんなアンドロメダの鬼の様な形相に怯えて泣き出してしまった。
人間は新たな玩具を手にすると、それを使いたくなるのが性です。我々軍人も同じです。ですから、それを手にする者の人間性、強い抑制の心構えが問われるのだと思っております。
工場長が殆ど喋らなかったのは、頭テンパってたからです。
よくあるでしょ?人前に出ると途端に喋れなくなったり、呂律がおかしくなるの。
それが好きなヒトとかなら尚更。そんな感じでした。
因みにUX-02には若干愉快犯の気質があります。
補足説明
宇宙条約
正確には『月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約』
通称は宇宙条約だが、『宇宙憲章』と呼ばれることもある。
1966年12月19日に採択された第21会期国連総会決議2222号で、1967年10月10日に発効した。
ザックリとご説明申し上げますと、宇宙の探査・利用の自由、平和利用、領有の禁止、国家への責任集中、といった趣旨の条約。
この内平和利用の項目に、宇宙への核兵器を始めとした大量破壊兵器の配備や、月などの天体の軍事利用が禁じられている。
しかし、宇宙空間の法的地位、平和利用原則の不備、天体の軍事利用原則の不備、天体の領有禁止の問題、打ち上げ国責任の問題、宇宙空間の物体に対する攻撃、といった問題点が指摘されている。
SDI 戦略防衛構想 Strategic Defense Initiative,
衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配置し、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国から発射された大陸間弾道ミサイルを迎撃、撃墜する事を目的とした計画。
1983年3月23日、時のアメリカ大統領ロナルド・レーガンによる『SDI演説』によってその構想が発表され、翌3月24日に開発が命じられた。
数々の技術的問題や先述の宇宙条約、ソ連側の外交による攻勢などから、予定通りの完成には至らなかったが、MAD、相互確証破壊による核の均衡に一石を投じ、現在の弾道ミサイル防衛技術の開発に繋がった。
MAD 相互確証破壊 Mutually Assured Destruction,
核戦略に関する概念、理念、戦略。
核兵器を保有して対立する二つの国のどちらかが、先制核攻撃を行なった場合、もう一方の国は破壊を免れた核兵器によって確実に報復攻撃を行うことで、先制核攻撃を行なった国も甚大な被害を被ることとなる為、相互破壊が成立し、この二つの国の間では全面的軍事衝突は理論上は発生しないという概念。
所で、某所にて投稿したとあるコメントに対して、「現実を見ろ。現ロシアの政治は共産党一党独裁体制だぞ」と、ドヤ顔みたいな矢鱈と自信たっぷりなコメントが返信として書かれたんだけど…。
いや、ロシアの現在の与党ってメドベージェフが党首の統一ロシアだし、共産党はジュガーノフのロシア連邦共産党ほか色々とあるけど、全部野党だぞ…。
野党としての機能を果たしているのか?と疑問に思うかもしれないが、日本の野党だって野党としての機能果たしていると言い切れないし…。
それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。