艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 隕石、或いは流星、流れ星。


 皆様朝晩の冷え込みによる体調の急変にお気をつけ下さいませ。私は先月末より体調を崩して休日は寝込んでおります。


 …徳川機関長の御歳のこと、すっかり忘れてました。計算したら本作中71歳。いくらなんでも老体にむち打ちすぎた。
 ですので、急遽助手となる艦娘を登場させます。

 それと3〜5話分くらいを1話に圧縮して詰め込んだ為、タイトルとの齟齬が発生しております。


第63話 Falling star

 

 なんやかんやあって全権大使みたいな役割を任せられました、アンドロメダです。

 

 

 …はい、ちゃんとご説明致しますと、土方司令が駆逐棲姫(お姉ちゃん)達深海棲艦との停戦交渉についてと、ファーストコンタクトからの一連の流れについてを、日本の真志妻大将と新ロシア連邦(NRF)のミロスラヴァ国防相こと同郷のスラヴァさんに打ち明けても良いか?と尋ねられた際なのですが、飛行場姫さんが今この場所に居る自分達深海棲艦は、謂わば前線基地の守護を担っている者達であり、外部の人間、文字通り自分達の領域外の世界の人間とは話し合った経験が無く、マトモなノウハウが無いために適切な話し合いが出来るとは言い難いため、この後の話し合いに関しては私に一任したいと仰ってまいりました。

 

 流石にそれはどうか思いましたが、貴女はもう殆ど同胞(はらから)も同然だし、今更裏切るマネが出来るほど器用な性格じゃないでしょ?と少し反応に困る言葉が帰ってきました…。

 

 一応、飽く迄も一時的な緊急措置であり、フォローもちゃんとするからと説得されましたが、昨日今日やって来た新人の様な存在の私に任せて良いようなお仕事ではない気も…、って言いましても今更ですよね…。

 

 兎も角、任せられたからには精一杯の事をするまでです。

 ここで頑張ったらお姉ちゃんに頭を撫でて褒めて貰えるかもしれませんし。

 

 

───────

 

 

 飛行場姫としては先に述べた、外部の人間との話し合った事が無い云々という言葉に嘘偽りはない。

 

 より正確に言えばマリアナ諸島は日本による南進への備えを念頭に置いた軍事拠点であり、大陸と近くて食糧生産と交易の一大拠点であるインドネシアと違い、物理的にも外部の人間と接触する機会が無かったのである。

 

 

 だが一番の理由は“繋ぎ”だった。

 

 

 確かにアンドロメダを新たな同胞(はらから)として受け入れる事は、上位種たる姫達の会合、“円卓”によって決定された事柄ではあるものの、それは“客人”、特に“賓客”レベルとして扱うとの意味合いが強いものだった。

 

 飛行場姫もそれに賛同的な考えであったが、当の本人であるアンドロメダと妹のアポロノームは、2人揃って仕事を求める願い出をしてきた。

 

 この願いに飛行場姫は別に居候でもいいじゃないと思ったが、どうも2人はそれを良しとせず、何かしていないと落ち着かない性分の様であった。

 

 これには正直飛行場姫も頭を抱えた。

 

 とは言うものの、仕事を割り振るのも簡単にはいかない。

 

 一応、後方担当業務のアドバイザーをお願いする事で話は付いているが、関係部署との打ち合わせやらなにやらを済ませなくてはならないため、今直ぐにどうこうできる問題ではなかった。

 

 そのためそれらの事務手続きが終わるまでの間の“繋ぎ”として、早急に必要だけどちょうどいい人材が居なかった、外部の人間との折衝を行なう役割を任せてみようと思い付いた訳である。

 

 …賓客扱いである者に対してそれはどうなのか?とのツッコミがあるかもしれないが、正直なところ先にも述べた通り、他に人が居ないという背に腹は代えられないという世知辛い事情があり、また彼女が現われた事で急激に動き出した今の状況から外との話し合い、特に公の立場の者達との交流がこれから増えることを鑑みるに、あまり悠長に出来無い事情もあった。

 

 事実、今回の話し合いが始まってからというもの、話についていけずに殆ど蚊帳の外状態であり、この事に飛行場姫は軽く危機感を覚えていた。

 

 いずれ専属の役職として設ける必要もあるだろうが、一朝一夕でどうにかなるものでも無いため、暫くは暫定という形で彼女に頑張ってもらうしか無く、その間に彼女の下で学ばせるというのも悪く無い。

 

 それに彼女との誼で友好的な繋がりが構築出来たのならば、それを活かしての人材交流により経験を積ませる機会が生まれる事にも繋がる。

 

 

 今はまだ“捕らぬ狸の皮算用”の様な考えかもしれないが、将来を見据えたら確実に現実化しなければならなかった。 

 

 

───────

 

 

 飛行場姫の考えは取り敢えず置いておくとして、多少の混乱はあったものの話し合いは一気に進んで行った。

 

 

 一番問題となったのは、矢張というべきかパンデミック関係の事である。

 

 情報の一部にガミラス由来の物があったことにミロスラヴァ(スラヴァ)は一瞬不快感が表情を見せたが、内容の深刻さに個人的な感情を押し殺し、ガミラスに苦杯をなめさせられ続けた巡洋艦スラヴァとしてではなく、新ロシア連邦(NRF)の未来を考える軍政家、国防相ミロスラヴァとしての思考へと完全に切り替えた。

 

 

 ミロスラヴァは当時何が起きていたのかまでは、この世界に存在していなかったのだからよく知らないが、連邦保健省関係者から簡単なレクチャーは受けていた。

 

 幸いと言ったら不謹慎かもしれないが、このパンデミック騒動に当初から不信感を抱いていた当時の大統領プーチナと政府は独自路線を貫いており、(くだん)の新型薬物は国内では流通しておらず、当時海外に渡航していて、その渡航先でやむを得ず投与された者達以外には使用されていない。*1

 

 但しそれは旧連邦圏に限った話であり、現在の新連邦圏西部国境地帯、つまり先の大戦後にロシアへと編入された旧東欧東側地区は別であり、この地域を中心に説明にあった免疫疾患による疾病や死亡、染色体と遺伝子の異常が急増しているとの報告を聞いていた。

 

 最初は大戦中に使用された劣化ウラン弾や流出した化学物質の類いが原因ではないのか?との推測がなされていたが、軍事的同盟関係にあるインドやトルコ、友好国ブラジルなどの南米各国や南アフリカなどあちこちの国と地域でも類似した事態が報告されており、更に西側でも彼らの政府は否定してはいるが同様な事態が起きている事が確認されたため、兵器武器弾薬や化学物質の残留物による汚染が原因とする説は否定され、これらの地域で共通することを絞り込んだ結果、またこっそり裏ルートで入手した新型薬物のサンプルを使った実験や分析、そして諜報活動によって得た情報を整合した事により、この新型薬物による薬物汚染が原因であるとの結論を出した。

 

 

 だが、そのことを公表したとしても、状況が改善されるような解決策までは今現在でも目処が立っておらず、その様な状態で下手に公表したら旧東欧東側地区の新たな社会不安の火種になるとして、公表に踏み切れないでいた。

 

 

 工場長はこの事を掴んでおり、染色体と遺伝子の異常に関しては一時棚上げとするが、免疫疾患をある程度改善可能な体質改善を目的とした薬剤の開発が可能であり、供給することが出来ると明言した。

 

 これは先にインストールしていたデスラー親衛隊旗艦キルメナイムから提供されたデータを、自身のメインフレームで解析し、シミュレートした結果出て来た答えであった。

 

 これに対してミロスラヴァは直ぐ様飛び付く事はせず、安全性の担保は大丈夫か?との疑問を呈し、工場長は親衛隊による実験データや、自身が行なったシミュレートによる計算では問題は無いと答えた。

 

 しかしミロスラヴァからしたら、事の発端が薬物汚染が問題の根本原因である以上、また提示されたデータが純粋な地球人を対象とした物ではなく、地球人と酷似した異星人を対象にしたデータであることに少なからず不安を覚え、本当に大丈夫な代物だとの確信が持てず、慎重にならざるを得なかった。

 

 とは言うものの彼女自身の専門は飽くまでも軍事分野が基本であり、医療分野に関する専門知識はそれ程高くはないため、結論は持ち越された。

 

 

 一番揉めると思っていた深海棲艦との休戦、和睦に向けた話は、逆にかなりスムーズに受け入れられた。

 

 日本サイド、真志妻は最初からそのつもりだった事もあるが、昨日今日という短期間の内に深海棲艦とのコンタクトに成功し、しかもとんとん拍子に上手く話が進んでいた事に驚きを隠せないでいたが、それでもこの事に手を叩いて喜びを露わにした。

 

 新ロシア連邦(NRF)サイドも、以前からロシアン・マフィアを介して交易が行なわれていた実態があったがために、深海棲艦に対する政府としての忌避感はあまり無いこと、それに深海棲艦による直接的な被害が無かった訳では無いが、経済そのものが西側からの経済制裁を受け続けていた影響もあって、殆ど自己完結型の経済となっていたこともあって、経済面における被害が限定的に抑えられており、国民感情も深海棲艦は西側を掻き乱してくれる“敵の敵”と言える存在との認識が強く、然程悪感情を抱いていなかった。

 

 そもそも新ロシア連邦(NRF)の周辺海域では深海棲艦の活動が活発では無かったことも大きい。

 

 これは『ダーダネルス海峡攻防戦』での痛手から、狭い海峡を通過する際のリスクを恐れてバルト海や黒海への侵入を試みることに対して深海棲艦が消極的となったこと。*2

 

 北極海方面は拠点となり得る目ぼしい場所も無く、なによりも寒過ぎる。

 

 アラスカのダッチハーバーは日米の連絡線を分断するという明確な戦略的メリットの理由があったが、その維持だってかなり苦労している。

 

 しかし北極海にはその様なメリットが無い。

 

 一時期太平洋方面のカムチャツカ半島周辺に対して偵察部隊を派遣し、太平洋艦隊の動向を探るべく同地のペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の新ロシア連邦(NRF)軍と小競り合いをしていたこともあったが、最近は警戒線の外側に潜水艦部隊で編成された、小規模な偵察部隊を派遣しているくらいである。

 

 時折それとは違う深海棲艦と新ロシア連邦(NRF)軍が遭遇することもあるにはあるが、それは深海棲艦の中で“はぐれ”と呼ばれる、本隊から離脱して独自に活動している少数グループの者達が殆どであり、それ程脅威とはなっていなかった。

 

 “はぐれ”の存在に関しては、飛行場姫から説明がなされ、彼女達は自分達上位種による統制下から離れてしまっており、その行動については殆ど関知出来ず、迷惑を掛けているのであれば処遇は任せると明言。

 

 無責任に聞こえるかもしれないが、自分達の領域外までカバーするというのは出来ない相談であるし、最悪侵攻と捉えられての武力衝突事態による無計画な戦線拡大へと発展するリスクは、只でさえ現状の戦線の維持すら手に余りつつあるのに、これ以上の負担増を招く事は犯せなかった。

 

 今後正式な休戦となれば、基本的に日露の領域内での軍事活動を行なう必然性が低下し、もしも領域内を通過するならば事前に連絡を取り合うなどの取り決めを決めて、“はぐれ”との見分けを可能な限り容易なものとし、発見次第()()してもらっても構わないとした。

 

 ただこれは深海棲艦の無害通航に関する権利をどうするか?との問題が出てくるかもしれないとして、後々の課題として今後煮詰めていくこととなった。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)としても深海棲艦との休戦はメリットがあった。

 

 いずれ再開する予定である北極海航路において発生するリスクが低減するならば、またアジアへの貿易活動が再開できる見込みが立つ。

 

 確かにアジアは国家の崩壊や無政府状態が長らく続いてはいるが、人の営みが無くなった訳ではなく、幾つもの共同体が形成されており、それらが離散集合を繰り返しているものの徐々に安定する兆しが見え始めていた。 

 

 現地の生産能力を鑑みたら、充分に食い込める余地があると見ていた。

 

 問題はベーリング海、アラスカのアメリカ軍だが、アリューシャンが深海棲艦の手中にあるという、ナイフを喉元に突きつけられた状態でちょっかいを出してくるとは考え難かった。

 

 

 そしてその深海棲艦と貿易相手として堂々と交易出来るようになれば、かなり美味しい取り引きが期待できるし、事実その試算が以前からなされていた。

 

 寒冷化により低下していた食糧生産も現在では持ち直しており、輸出するだけの余力も回復しつつあった。

 

 そのため黒海方面から船舶を使って食糧を輸出することも出来るし、表向きは食糧不足に喘ぐアフリカ圏への輸出であり、直接的な取り引きはやっていないとの方便も可能だ。

 

 西側は反発するだろうが、彼らは彼らで()()()()()()()()()()()()()()()()、まぁそれ程心配する必要もないだろう。

 

 なにせこれから西()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 その事を聞かされて驚きを隠せない日本と深海棲艦に、ミロスラヴァは意地の悪い笑みを浮かべながら、詳しいことは後日お話しますと約束し、今は、そう、これから行なう世紀の“大芝居”をどうするかが先決であるとして、話を切り替えた。

 

 

 曰く、()()()()()()()()()()()()()()()が切っ掛けとなって発覚した深海棲艦による艦娘と()()との奇跡の共存、そこから出来た“縁の繋がり”という大芝居の演出するためについて。

 

 

 

───────

 

 

「な、なんとか終わりました~…」

 

 

 アンドロメダは突っ伏す様に脱力した。

 

 

 一応の大枠が纏まり、ミロスラヴァは今回のことを大統領に上げて裁可を得る必要があるとし、ものがものなだけに連邦安全保障会議の発議にかける事になるかもしれないから、正式な返答に数日、遅くとも一週間は待ってほしいとした。

 

 ただ何が何でも賛同を得るために尽力する事と、工場長に提示された薬剤のデータを回して欲しいと告げ、工場長はこれを承諾。

 

 しかしあまりにも膨大なデータに彼女が持つタブレット、ガミラス戦役時代の古いタブレットでは処理能力が不足するとしてこの後UX-02(ベオ)が新しいタブレットを持って次元潜航にてお邪魔することとなった。

 

 また最初彼女が土方達を引き渡してほしいと真志妻へと要求したことは、一旦取り下げるとも告げられた。

 

 

 それに安堵の色を見せた真志妻は、基本的には今後も土方達に任せる姿勢ではあるものの、情報のやり取りをより綿密にするためにも、今回Ташкент(タシュケント)経由で貸してもらったタブレットの継続貸与を願い出て、ミロスラヴァも了承仕掛けたが、これに工場長はもしかしたらそちらにも何らかのデータを回すことになるかもしれないからと、こちらにもUX-02(ベオ)が後ほどお邪魔することとなった。

 

 

 ここで今回の話し合いは終了となり、通信画面は閉じられた。

 

 

 そしてそのタイミングでアンドロメダは気が抜けたのである。

 

 

「お疲れ様です。お姉さん」

 

 

 早速と言わんばかりに駆逐棲姫がアンドロメダを労い、突っ伏した事で乱れた髪を梳く様にして優しく撫でてあげ、それを気持ち良さそうに目を細めて受けるアンドロメダ。

 

 

 皆一様に疲れた顔となっており、思い思いに緊張感を解いていた。

 

 気が付けば時間は昼過ぎに差し掛かりつつあった。

 

 昼食のことすらすっかり忘れてしまっており、今更ながら思い出したかのように体が空腹感を訴え出した。

 

 飛行場姫は昼食の仕込みをすっぽかしてしまった事に慌てるが、腰が抜けたかのように体が動かず、諦めて大の字となって地面へと寝っ転がった。

 

 呼び出しが無かったことから、他のみんなが気を利かせてくれたのだろう。

 

 そう思っているとサンドイッチを乗せたカートを押してくる泊地棲姫とアポロノームの姿が目に入った。

 

 途中、何人かの同胞(はらから)達が様子を窺いながら置いて行ったそうだ。

 

 少し申し訳ない気持ちになりながらも、せっかくの好位を無下には出来ないとして、早速頬張った。

 

 

「しっかしとんでもない“大芝居”をうつことになりそうねぇ…」

 

 

 先ほどの話し合いの内容を思い出しながら、よくこんな悪知恵が思い浮かぶものだと呆れた口調で呟いた。

 

 

「ですが、上手く行けば堂々と大手を振って世間を闊歩出来る様になるかもしれませんよ?」

 

 

 お茶を一口飲んで喉を潤していたアンドロメダがそう返すも、飛行場姫としたら溜息しか出ない。

 

 バレたりしたら余計にややこしくなるリスクを孕んでいるのだから。

 

 

「なら上手く行きますようにと、今から流れ星さんにお願いしますか?」

 

 

 口いっぱいにサンドイッチを詰めていた駆逐棲姫が、ゴクンと飲み込んでそう言ったかと思うと、ニコニコとしながらアポロノームを拝みだした。

 

 それをよしてくれと言いたげに渋い顔となるアポロノーム。

 

 ミロスラヴァはアポロノームのことをметеор(ミチオール)、隕石と言い表した。

 

 確かにアポロノームが墜落してきたことから、今回のことは始まったと言える。

 

 そしてその落下のさまは隕石のようだったと言えなくもない。

 

 因みにметеор(ミチオール)には流星、流れ星を表わす言葉でもある。

 

 隕石とは大気で燃え尽きなかった星のカケラであり、流れ星は燃え尽きた星のカケラである。

 

 アポロノームから言わせてみたら「流れ星だと俺燃え尽きなきゃならねぇじゃねぇか!」と、些か縁起が悪く思えたのだ。

 

 別に駆逐棲姫に悪気がある訳では無いことくらい、アポロノームは理解しているし、流れ星に願い事をする風習があることくらい知っている。

 

 まぁその風習が深海棲艦にあることには驚いたが。

 

 

 だが本当に願いたいのはアポロノーム自身だった。

 

 

 何故ならこれから始まる“大芝居”のキーパーソンは、何を隠そうこのアポロノームなのだから。

 

 

 

 そしてこの日より三日後、スラヴァ(ミロスラヴァ)から連絡が入ってきた。

 

 

 薬物汚染に対する体質改善薬剤に関しては、安全保障会議でかなり紛糾しており、調整に今暫く時間を要する事になりそうだが、それでも最終的な決定権は国家元首であるАлександр(アレクサンドル) Куту́зов(クトゥーゾフ)大統領にあり、ミロスラヴァの見立てでは、この一件を下手に放置したり長引かせた際の国益に対するリスクを真剣に憂慮しており、また他に有効な打開策が無いことからも供給を受け入れる方向で考えているとのことが伝えられた。

 

 

 そしてここからが本題である。

 

 

 『新ロシア連邦(NRF)政府は非公式ながら日本海軍真志妻亜麻美大将を首班とする深海棲艦との休戦及び和睦に向けた活動を支持し、水面下で共同歩調をとる』との趣旨が書かれКуту́зов(クトゥーゾフ)大統領本人の直筆サイン入りの文章を読み上げた。

 

 

 ここに真志妻大将の日本海軍、新ロシア連邦(NRF)、深海棲艦の三者は密かに戦争集結に向けて共同歩調をとるの密約を交わすこととなった。

 

 

 

 そして更に数日後───。

 

 

「それじゃぁオジキ、ちょっくら出掛けてくるよ」

 

 

 まるで「ちょっとコンビニにでも出掛けてくるよ」と言わんばかりの軽い感じで出発の挨拶をする霧島(キリシマ)に、土方は軽く頷いて返す。

 

 

「今ならばUX-02の陽動撹乱の甲斐もあって、警戒は手薄となっているが、気を付けてな」

 

 

 当初の予定と違い、UX-02(ベオ)本人が陽動作戦を行なうと立候補し、今現在も警戒網を引っ掻き回すために大暴れしていた。

 

 

 恐ろしいことに、今の所日本艦隊に戦死者が出たとの報告は一切来ていないのだ。

 

 これには報告を受けた関係者全員が舌を巻いた。

 

 作戦前、「死人を出すようなヘマはしねぇよ」と語ったその言葉は、決して大言壮語などでは無かった。

 

 

 それに、これはまだ一般公開されていないが、新ロシア連邦(NRF)の艦隊が宗谷海峡を通って太平洋ルートで小松島まで来航する情報が海軍内で伝達されたことで、若干ながら警戒部隊に混乱が生じたことも少なからず影響していた。

 

 ルートとして比較的安全な日本海から下関海峡を通る航路が予定されていたが、日本政府が何かと理由をつけて渋ったためにこのルートとなったと、関係各所には説明されている。

 

 

 まぁ、半分嘘なのだが。

 

 

 初めから太平洋ルートで航行することによって、警戒網の混乱を助長する腹づもりだった。

 

 しかしそれだと何故安全なルートを通らないのか?と疑問に思われて、そこから勘付かれる可能性があったために、わざわざ駐日ロシア大使Ники́та(ニキータ) Бори́сович(ボリソヴィチ) Ивано́в(イワノフ)を通じて日本政府に通告を出し、それに驚いた日本政府は新ロシア連邦(NRF)艦隊による万が一を恐れてしどろもどろな態度を見せたことで、すかさずИвано́в(イワノフ)大使がそれならばと太平洋ルートを提示した。ということになっている。

 

 

 兎も角、混乱しているこの隙を突いて、霧島(キリシマ)はいよいよマリアナ諸島へと向けて出発する。

 

 ただこの混乱によってどこもかしこも()()()()()()の大忙しとなり、また下手をすると目立つ可能性があるからと、この場には土方以外に霧島(キリシマ)を見送る者はいなかった。

 

 

 

 そして翌未明、霧島(キリシマ)は普段の制服とは違い、国連宇宙海軍のエンブレムの入った、一見すると宇宙服の様な、と言うか宇宙服でもある船外作業服に身を包み、ヘルメットを膝の上にのせて1人車椅子に乗って埠頭へとやって来ると、誰かがその場にいた。

 

 

「徳川さん?それに朝日さんも」

 

 

 そこに居たのは沖田の頼みでこの世界に土方や斉藤と共にこの世界へとやって来た1人、元『ヤマト』機関長にして、『キリシマ』の機関長でもあった徳川彦左衛門と、彼の右腕でもあり弟子でもある工作艦の艦娘、朝日であった。

 

 2人は夕方に出張先の佐世保から戻って来たばかりであり、今は部屋で休んでいるものだとばかり思っていた。

 

 

「なに、年寄りは早起きでな。朝の散歩じゃよ」

 

 

 いや、いくらなんでも早すぎるでしょ…。とツッコミを入れそうになったが、徳川の隣に立つ朝日が「なら私も年寄り扱いですか。そうですか」と口を尖らせ拗ねた態度を見せたため、徳川は「ああ、すまん…、そんなつもりは…」としどろもどろになったものの、「冗談ですよ」と朝日はクスリと微笑みながら返すと霧島(キリシマ)へと向き直った。

 

 

「お話は土方さんから聞き及んでおります。出立なされる前に、貴女の艤装を軽く見ておこうかと思いまして」

 

 

 そう言うと持っていた鞄を地面に置き、中から工具を取り出して霧島(キリシマ)の乗る車椅子を徳川と共に弄りだした。

 

 車輪が外されたかと思うと、中から『金剛』型宇宙戦艦などの旧世代型地球艦の特徴の一つでもある、丸みを帯びた特徴的な無砲身の砲塔、高圧増幅光線砲が出て来た。

 

 

 そう、この車椅子こそ、霧島(キリシマ)の艤装だったのである。

 

 彼女は普段から万が一の時は土方を守る盾となれる様にと、艦長席を模した椅子型の艤装であることを活かして車椅子に偽装していたのである。

 

 本当ならば出発前に一度見てもらいたかったのだが、出張から帰ってきたばかりで疲れているだろうからと、遠慮したのである。

 

 

 テキパキと艤装を弄る朝日だが、彼女は徳川の指導によって本来のスペックを上回る能力を発揮し、今や霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)姉妹の使用する艤装の整備が出来るまでになっていた。

 

 

 彼女は元々少々訳ありの艦娘であった。

 

 彼女は同一個体である他の朝日達と比べ、本来備わっているはずの能力値を下回っており、扱いに困って各地を盥回しにされていたのである。

 

 そんな折に徳川が彼女を引き取り、紆余曲折を経て、自身の年齢からくる体の衰えから万が一の為に備えて、自身の持つ知識と技術の全てを伝授することになったのである。

 

 その甲斐があってか、彼女は技術者としての才能が開花したのである。

 

 

 ただ「落ちこぼれを一人前に育て上げた」と軍内で噂となり、是非徳川から指導を受けたいとする申し出が殺到。

 

 そこから徳川の下で学ぼうとする者達が小松島へとやって来たり、徳川自身が日本各地へと行脚する始まりとなった。

 

 先の佐世保への出張もその一環であった。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「うん。こっちは特に問題なしです」

 

 

 メンテナンスハッチを閉じ、自身の工具を片付ける朝日。

 

 最早手慣れたもので、最近は殆ど朝日が艤装の整備を引き受けていた。

 

 体が衰えつつある徳川には、艦娘が使用する艤装を整備するのが年々難しくなっており、今では教育者としての活動に重きを置いている。

 

 だがそれでも一つだけ、エンジンだけはまだ不安があるとして徳川に最後のチェックを頼んでいる。

 

 

「うむ。こちらも大丈夫じゃな。ネジの絞め忘れもない」

 

 

 チェックを終えた徳川が、どっこらせと腰を上げる。

 

 

「大丈夫だとは思うが、忘れ物は無いか?あまり無理はするんじゃないぞ」

 

 

「ハハ、徳川さんにとっては私もまだまだコムスメみたいなモノですか?」

 

 

「長年苦楽を共にしてきた仲じゃからな」

 

 

 お互い笑い合うと、霧島(キリシマ)はヘルメットを装着し、すかさず朝日が気密のチェックを行なう。

 

 

「大丈夫ですね。

 

 それにしても、春雨(ハルサメ)さん達と違って一々気密服を着なくてはいけないのはホント不便ですよねぇ」

 

 

 朝日の言う通り、春雨(ハルサメ)達は普段の制服のままでも問題無いのだが、霧島(キリシマ)はこの船外作業服を着なければならないのである。

 

 これは世代差としか言い様がなく、春雨(ハルサメ)達ならば波動エンジンが生み出す有り余るエネルギーを利用し、波動防壁に似た膜を体や艤装の周囲に展開しているのだが、核融合エンジン艦であった霧島(キリシマ)にはそんな便利な装備は無かった。

 

 その事に苦笑しながらも、これ以上長居したら流石にそろそろマズイとして、出発する事とした。

 

 

 

 

「それじゃ、BBS-555キリシマ、抜錨するよ」

 

 

 

 そう言ってゆるゆるとした速度で埠頭を進み出すと、埠頭の先端部分からストンと落下したが、着水する直前に慣性制御によりゆっくりと、水飛沫を立てないように着水し、そのまま潜航して外洋へと向けて進み出した。

 

 

 

「さてさて。このまま予定通りに行けば万々歳何だけどねぇ…」

 

 

 暗い海の中を進みながら、霧島(キリシマ)はふとそう呟いた。

 

 

 出発する前日に、教え子であるアンドロメダが漏らしていた言葉が、霧島(キリシマ)の中で妙に引っ掛かっていた。

 

 

 

「私達は、パンドラの箱なのかもしれません…」

 

 

 

 その言葉の意味する所は何なのか?その時ははぐらかされてしまったが、耳に残って離れないのだ。

 

 

 まぁ時間はあることだし、焦ってもしょうがないさね。

 

 

 そう自分に言い聞かせながら、一路目的地に向けての航路へとその舳先を向けた。

 

 

 

*1
数年前に勃発した隣国との軍事衝突を理由に経済制裁を仕掛けておきながら、この新型薬物だけは特例だとして矢鱈と執拗に寄越そうとしていた事から、何かウラがあると警戒して慎重になっていたという背景がある。

*2
パナマやスエズの時は現地の政情不安からマトモに対抗出来るだけの軍事力が欠如していたことと、電撃的な侵攻による速攻によって早期に陥落し、増援が間に合わなかったことが大きく影響していた。





 …キング・クリムゾンし過ぎた感がある。次もキング・クリムゾンが起きますが。


 アポロノームがキーパーソンたる理由、『第8話 Find a way out of a fatal situation 後編上』の後書きがヒント。

 深海棲艦と和平結んだとしたら、海洋に関する各種の条約とか見直さければならなくなりそう…。いや、艦娘が軍に採用された時点で相当大変なことになってそうな…。

 考え出したらドツボにはまる…。


 霧島(キリシマ)先生の艤装はエゲレス戦艦艦娘ウォースパイトの艤装みたいな感じです。…まぁ車椅子に偽装はかなり無茶があると思いますが。


補足説明

無害通航

 外国船舶が沿岸国の安全などを害さないことを条件として事前通告することなく領海を通航すること。

 沿岸国の平和、秩序、安全を害さないことを条件として、沿岸国に対して事前通告をすることなく沿岸国の領海を外国船舶が通航することを指す。
 またこのような通航を保護するための当然の権利として、国際海洋法においては、内陸国を含め全ての国の船舶は、他国の領海において無害通航権を有するものとされる。

一方で領海の沿岸国は、自国の領海内において国家主権に基づき、領海使用の条件を定めたり航行を規制することができるが、他国の無害通航を妨害する結果とならないように、一定の国際義務が課される。

wikipediaより抜粋



北極海航路

 北極海を通り、ヨーロッパとアジアを結ぶ最短航路のうちの一つ。

 但しこの航路の大部分を占める北極海は海氷や流氷に覆われる季節が長く、航路として安定的に使い辛かったが、近年の気候変動により航行可能となる期間が年々長くなっている。

 この航路は、ソマリア沖やマラッカ沖の海賊や、アデン湾やマラッカ海峡経由の航路より短い上に治安も悪くなく、大型船舶でなければ、ロシア北方の資源をアジアやヨーロッパに運ぶのに適しているため、物流や地政学の面で注目されている。

wikipediaより抜粋





 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
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