艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 厭戦気分


 今更ですが、真志妻亜麻美大将は法治国家に置きましては決して善人などではありません。完全な悪人の類いです。国民あっての国家、国民の為の国家という概念は持ち合わせておりません。
 ついでと言いますか、人間を相手取る事もあってか、艦娘も気持ち悪党寄りがちらほら。
 

 


第67話 Feeling of hatred for war.

 

 

 真志妻亜麻美(アマミ・マシツマ)は“狂人”の類いと言っても差し支えないくらいに、明らかに精神に異常を抱えている。

 

 

 本国の近衛艦隊にいた頃、陛下──姉さまは秘密情報部(SIS)の報告書に目を通した後、そう漏らしていた。

 

 

 彼女の判明している経歴からしたら、精神に歪みが出てしまうのも仕方の無い事なのだろうけど、それでもそれだけでは納得し切れない事がある。

 

 

 彼女が極度の人間嫌いであり、極一部の人間を除いて心を開かず、反対に艦娘に対してはあからさまなまでに開け広げである。

 

 人間嫌いではあるが、普段は猫を被っていることもあり、致命的な問題となっていない様に見えるが、調べていくとそうとも言い切れない箇所が散見された。

 

 

 大将就任と同時に行なわれた海軍艦娘部隊改革の中で断行された大規模な粛清人事において、少なくない高級軍人がその地位や役職を追われたのだが、その内の何割かが秘密裏に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その殆どは最前線とされる沖縄送りにされ、戦死したことになっているのだが、現地で戦死と偽った処分である(実際にどうなった)かは分からなかったものの、よくよく調べてみると何人かは沖縄送りではなく、真志妻本人が自ら処分を下した実態が明らかとなった。

 

 

 彼女が直接手を下した者達には、ある共通点があった。

 

 それは、我が英国の恥である(くだん)の王族関係者と同様にその者達が艦娘に対して尊厳を踏み躙る様な、明らかに倫理に悖る不適切な行為を複数回に渡って行なっており、その事で真志妻の逆鱗に触れた様なのである。

 

 そして処分の手段なのだが、嘘か真か、どこから引っ張り出したのやら、年式も型式も不明な手回しクランク式のガトリングガンなどという骨董品、ではないけど旧式の機関銃を持ち出したらしい。

 

 この日を境に、忽然と呉鎮守府に真志妻の名義で一基のガトリングガンが──彼女曰く「この子は回転式機関砲です!」と言って譲らないらしいが──保管され、情報提供者によると時折真志妻が鼻歌交じりに1人で演習場に持ち出し、奇声を発しながら撃ちまくっている姿を目撃したらしいが、その時の表情は恍惚としながらも恐ろしいまでに歪んでいたとのことである。

 

 

 それは兎も角として、艦娘部隊内で同様な事件が起きたら間違い無く彼女が何らかの行動に出ているが、そのどれもが苛烈で容赦の無い過激な物ばかりだった。

 

 その事からも、彼女は艦娘が無闇矢鱈と傷付けられることが嫌いであり、傷付けた者を憎悪していると見る事ができる。

 

 事実、普段の言動から、またティータイムの最中にカマをかけてみたのだが、彼女は憎悪を一切隠そうとしなかった。

 

 

「貴女達を傷付ける愚物共は、決して許さない…!」

 

 

 静かに、だがはっきりとした口調でそう語る彼女の瞳の奥には、暗い憎しみの業火が燃え滾っているのが見えた。

 

 

 だがしかしである。

 

 

 彼女が愛してやまない艦娘(私達)を最も、主に物理的に傷付けている存在である深海棲艦に対してはどうか?

 

 少なくとも、深海棲艦に対して彼女が何かを語る際、これと言った負の感情が出ている素振りを、見た(ためし)がない。

 

 

 何故?

 

 

 どうして?

 

 

 彼女が総提督に就任してから、日本海軍での艦娘の戦死者数は目に見えて激減したが、ゼロになったわけではないし、つい一ヶ月ほど前に、彼女と親しかったという艦娘が哨戒行動中に発生した戦闘でKIAになった(戦死した)との報を受け、悲しみを露わにしていた。

 

 

 艦娘(私達)を傷付ける人間達に対して、あれ程までにあからさまで苛烈なまでの憎悪を見せ付けておきながら、なぜ深海棲艦に対しては怒りを露わにしない?あまつさえ和平などという考えに行き着く?

 

 

 そもそもこの戦争で日本海軍の艦娘だけでも、既に4桁近い戦死者と行方不明、Pola(ポーラ)の様な傷痍軍人相当を出しているというのに。

 

 

 分からない。

 

 

 分からないからこそ、私は、我が英国は真志妻亜麻美(アマミ・マシツマ)を恐れている。

 

 

 彼女が深海棲艦について何かしら語る時の瞳からは、僅かだが憂いに似た何かを感じた。

 

 

 もしかしたら彼女は───

 

 

 それを確かめるべく、私は姉さまの名代として彼女の誘いに乗り、今この場に来ているのだ。

 

 

 

───────

 

 

 真志妻亜麻美は艦娘達を溺愛している。

 

 

 そこに嘘偽りは無い。

 

 

 それは過去の自身と、姉といえるもう一人の生き残りと共に受けた仕打ちに対する、ニンゲンへの不信感や恨み辛みの反動が関係しているし、何より失望感の影響もあるだろう。

 

 

 彼女にとって艦娘とは、殆ど同族と言っても差し支えの無い存在である。

 

 だがその同族達は一部気の強い娘や反骨精神の強い娘もいるが、総じて純真無垢で優しい娘の割合が多数を占めていた。

 

 

 しかしそれは同じ種族であっても平気で騙し、平然と尊厳を踏み躙ることが当たり前という種族であるニンゲンにとって、騙しやすい格好の獲物にしか見えていないに違いない。

 

 事実、軍隊で出会った者達の大半は、艦娘達を道具か何かにしか見ていないようなヤカラばかりだった。

 

 

 彼女の中で人間に対する評価とは、概ねその様なものだった。

 

 

 ただ、橘茂樹という、皮肉屋で普通とはちょっと変わった感性と価値観を持った人間が彼女を匿い、養父となったからこそ、少なくとも彼が存命の間は、人間に対して抱いている怒りと憎しみの感情が激発して大惨事を引き起こす事はなかった。

 

 

 彼は軍内部でもかなり浮いた軍人であり、旧自衛隊では情報本部に所属していたらしいが、その思想と性格が災いして窓際族に追いやられていたという。

 

 別に国家転覆の様な危険思想の持ち主だったとかという訳ではなく、「国家に真の友人はいない。自分達の利益の為ならば、米国はいとも簡単に日本をボロ雑巾の様に捨てる。この国はいい加減、自分の身は自分で守る自主防衛に関して真剣に考えるべきだ」との日米同盟とそれに基づく集団的自衛権の確実性に懐疑的な見解の持ち主だったのだが、それは自衛隊においてタブー領域とされている考えであり、今後の自身の立身出世にさえ悪影響を与えかねないリスクの高い思想だった。

 

 そういった背景があって、自衛隊が正式な国軍へと改変された時に彼は情報本部から放り出され、当時人手が足りなかった海軍艦娘部隊の指揮官として僻地の基地へと放り込まれた。

 

 まぁ、その僻地の基地というのが真志妻が人工艦娘となった例の研究施設の近くだったのは完全に偶然だった訳だが。

 

 

 情報畑出身ということもあり、情報収集を重視しながら暫くは殊更慎重に、部隊運用は不慣れで四苦八苦しながらも、可もなく不可もなくな感じでボチボチと仕事をこなしていた。

 

 ボチボチと大過無く、見方によっては平凡も平凡な石橋を叩いて渡るタイプに見える様な仕事ぶりが、ある種の隠れ蓑となって、ただの慎重なだけの派手さの無い提督として書面上で埋もれる結果となり、真志妻を匿う上で有利に働いたのは皮肉としか言いようがなかった。

 

 しかしそのおかげで真志妻を外部の煩わしい事態から隔離することが出来たため、多少なりとも心を落ち着かせることが出来るだけの時間的な余裕と、彼の艦隊の艦娘達が暖かく迎え入れてとことん親身になり、人間と艦娘の半端者と悩み苦しみ荒んでいた心のケアに取り組んだ甲斐もあって、彼女にとって心許せる存在が得られた事で、当時物凄く荒んでいた彼女の心は大きく改善された。

 

 

 少なくとも、彼のおかげで真志妻の精神が完全に歪み切ることだけは避けられたし、ほんの一握りとはいえ人を頼ることを覚えた。

 

 だがその直後に橘大佐が急死したことと、軍内部で信頼出来るだけの人間と出会えなかったことで、信頼出来るのは艦娘のみと、彼女達に傾倒していった。

 

 それが彼女が艦娘至上主義となった理由であった。

 

 

 因みにもう1人の生き残りである義姉は、義妹である真志妻以上に色々あったため人間不信が払拭し切れずにおり、外部との接触は殆ど拒絶状態のため外へと出ることはせず、寧ろ義妹への執着心が強かった。

 

 

 兎も角として、信頼の出来無い者達ばかりのニンゲンよりも、半端者の様な自分を受け入れてくれた恩のある艦娘達の方が大切であり、守りたかった。

 

 優しいみんなの事が大好きだった。

 

 

 だけどニンゲン共はそんな優しいみんなとの約束を、踏み躙った。

 

 

 元々艦娘と人間とは対等であり、深海棲艦という脅威を打ち払う盾であり矛としてその武力を提供する代わりに、必要となる物資と土地などを提供する。

 

 だがニンゲンは次第にその物資を人質にして艦娘に対して好き勝手やり始めた。

 

 物資を人質にとられたら、艦娘は抵抗する事が出来なくなる。

 

 

 その様な卑劣なニンゲンが真志妻は許せなかったし、何よりも彼女自身の憎しみの源泉がニンゲンに対する物が占めている以上、容易に憎悪が増幅しやすかった。

 

 

 法による庇護は、艦娘に対応した法整備が後手後手だったのと、加害者に優しく、被害者には冷酷冷淡な悪習によってまったくと言っていいほどに、当てには出来なかった。

 

 更にいえば組織の自己保身を優先した、ナアナアな隠蔽体質も悪く作用した。

 

 公になる事を恐れて、上も下も組織ぐるみで揉み消す協力体制を構築していた。

 

 

 そんな状態に艦娘達はマトモな抵抗すら出来ず、ただ泣き寝入りするしか無かった。

 

 

 そんなこと、許せない…!許してなるものか…っ!

 

 

 恥知らず!恩知らず!

 

 

 誰のお陰で深海棲艦の脅威に晒されず生きていられるのか?誰のお陰で今の地位が保証されているのか?

 

 

 その悉くを忘却の彼方へと放り捨てたニンゲンが、途轍も無く恥ずかしくてたまらない!人間だった自分自身が苦痛でたまらない!

 

 

 ならもう私は、私はもう人間であることを、辞めてやる!!

 

 

 人間の皮を被った艦娘として、たとえこの先で私がバケモノと罵倒され蔑まれても、そんなこと、もう知ったこっちゃない!!

 

 

 私は私の大切なみんなを守る!

 

 

 みんなを守るのに、法は無力だった。ならば、法の代わりに私が裁く!

 

 

───────

 

 

 真志妻亜麻美は常人からしたら、間違い無く狂っている。

 

 

 本来ならば国軍の、しかも法的には海軍の下部組織的扱いとはいえ、その規模と保有戦力から陸海空軍に続く事実上の四軍である艦娘部隊のトップに立てる様なマトモさとは程遠い精神構造をしているのだ。

 

 

 どんな理由があろうとも、軍人としてあるべき遵法精神が皆無…、という訳では無いが、かなり希薄であり、時と場合によっては平気で法を無視する傾向にあった。

 

 特に艦娘が関わると見境も際限も躊躇いの類いも一切無くなってしまい、一時期土方が火消しに奔走して業務に差し支えが出るほどだった。

 

 

 土方の頭を悩ませたのが、そんな彼女に艦娘達が非常に協力的かつ好意的な感じで、「いいぞ!いいぞ!もっとやれ!」と彼女のやり方を支持して推してしまっているという有り様なのである。

 

 

 艦娘と比較的友好とされる日本であっても、艦娘と人間との間でどうすることも出来ない溝があった。

 

 真志妻が自分達のトップである総提督へと就任する以前の、軍部による自分達に対する扱いに関しての恨み辛みが根強く残っていた事から、真志妻による人間達に対しての苛烈で容赦の無い姿勢に好感を持ってしまう艦娘が少なくなかった。

 

 

 自分達の為に怒りを露わにし、実行に移すその行動力。

 

 

 それが艦娘による真志妻への圧倒的支持の根底にあった。

 

 とはいえ、彼女の数少ない信頼出来る人間の筆頭である土方を困らせることに申し訳無くなって、最近では()()、そう、()()控える様に努力しているが。大事なことなので2回言いました。

 

 

 

 だが、艦娘が虐げられている話題となると、瞬間湯沸かし器の如く怒りが一気に振り切れてしまい、感情の制御が出来なくなって艦娘松島の姿へと変わってしまうのだ。

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が語った英国王室の醜聞は、真志妻の怒りを買うに充分過ぎる理由だった。

 

 今すぐにでも英国に乗り込んで、下手人を処断したくてたまらないというような雰囲気を、全身から溢れさせていた。

 

 

「その王族関係者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 怒りに震える真志妻を見ながら、Warspite(ウォースパイト)はそう告げたが、その意味する所を察した全員が引いた。

 

 

 王室属領マン島とは、英国本土を隔てるイギリス海峡の中にある、英連邦や英連邦王国に属さないが英国の国王に属し、高度な自治権を持った地域で、伝統的に国王が王国外に有していた領地の一つである。

 

 他にナポレオン終焉の地である南大西洋に浮かぶ孤島、セントヘレナ島も王室属領である。

 

 それは兎も角として、マン島とは英本土の目と鼻の先、どころか殆ど英本土の庭先とも言える場所に位置する島なのだが、そんな所で王族関係者が事故で行方不明というのは不自然過ぎるし、何よりもそれが追放云々は横に置いておくとしても、行方不明になったことがニュースどころか噂として世に一切出回っていないのだ。

 

 

 つまり、裏でコッソリと(そういう事だ)…。

 

 

 恐らく、被害にあった艦娘達がこの事に関わっているのだろう。

 

 

 彼女達が自ら裁きを下した(そういう事)というならば、真志妻としても引き下がらざるを得なかった。

 

 

 更にWarspite(ウォースパイト)が言うには、Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)がバッキンガム宮殿に突撃した際に、普段のマイペースながらも王家へと敬意と忠誠心を欠かさなかった彼女がそれら一切をかなぐり捨て、銃を、しかもランボーやメイトリクス大佐の様な機関銃を肩に担いだ姿でやって来た彼女を見た当時の国王が驚き、怒りに震える彼女を宥めながらその理由を聞き出した結果、目を覆いたくなる様なあまりの身内の恥に激しいショックを受けて崩れ落ちた。

 

 駆逐艦とコルベット艦の艦娘、コルベット艦の艦娘とは日本で言うならば海防艦クラスの艦娘の事であり、艦娘の中でも一際幼い見た目の娘達なのだが、その娘達に手を出し、淫らな行為に及んでいたという事実を突きつけられ、茫然自失としてしまったのだ。

 

 その後になんとか気を持ち直すと、その場でケジメを付けると言い出して王位からの退位と、Q.Eへの異例となる禅譲を決断したという。

 

 更には下手人たる王族関係者と自らの首を差し出すとまで言い出し、出来ればそれで手落ちとして国を割る様な事だけは容赦して欲しいと懇願されたという。

 

 

 ただQ.Eとしては、この頃になると頭が冷えて来て、可愛がっていた娘達を傷物にされた事についカッとなって頭に血が上ってやってしまったと、慙愧の念に堪えない気持ちでいっぱいいっぱいとなっていたこともあって、つい二つ返事で頷いてしまったというのだ。

 

 

 だが国王の首だけは流石に拒否し、下手人の首だけで充分であるとして、追放という形に落ち着いたという。

 

 

 それが英国で起きた王朝の交代劇に関するおおよその概要である。

 

 

 なんとも言えないグダグダ感満載の概要に、全員が反応に困ってしまった。

 

 

 だが本番はここからだった。

 

 

 最初は突然の禅譲に驚き、落ち着く暇無くなんやかんやあれよあれよと言う間に新王朝の初代女王として即位することとなった、なってしまったQ.E陛下。

 

 

 とはいえマイペースながらも生来の真面目さからか、なってしまったものは仕方無いと直ぐに割り切った。

 

 だがそれからというもの、今までただの艦娘だった頃には見えなかった、見ていなかった視点から、英国(この国)の置かれていた現状を見ることとなり、早々に挫けていじけたくなった。

 

 詳細は割愛するが、ガタガタのボロボロの今にも崩れ落ちる寸前としか言えない、その場しのぎの猫騙しで遣り繰りして延命を図っている。

 

 戦争の継続、戦線の拡大なんて以ての外。

 

 そんな状態だった。

 

 

 新女王のQ.E陛下は一瞬虚無、というか鬱になりかけた。

 

 

 責任を取って禅譲というが、本当は現状に嫌気が差して体良く逃げ出すための口実にしただけではないの?と真剣に疑いたくなった。

 

 

 そこからは、まぁ、良くも悪くも、吹っ切れた。吹っ切れてしまった。

 

 Q.Eは"The British sovereign reigns, but does not rule."(“王は君臨すれども統治せず”)という英国政治の大前提、立憲君主制の大前提を真っ向から否定し、国政にどんどんと口出しする様になったのだ。

 

 

 理由は単純にして明快。

 

 

 議員や閣僚、そして官僚が全くもって使い物にならないと判断したからだ。

 

 

 いや、それは言い過ぎかもしれない。

 

 

 あまりにも酷い現状に、誰も彼もどうして良いのか分からず、途方に暮れてしまってやる気を失ってしまっていた。

 

 何をやっても上手く行かないものだから、誰も責任のある立場や地位に就くことを避ける様になり、現状認識の甘い頭の軽いボンクラ共が神輿として祭り上げられていた。

 …というよりも責任を取らなくていい立場で好き勝手やりたいから、軽い神輿の方が都合が良いという見方も出来たが。

 

 

 だがせめて「貰ってる給料分くらいはキリキリ働けクズ共!」とケツを蹴り上げてでも引っ張って行くだけのリーダーシップが必要だと判断し、それには今の内閣では当てにはならず、かと言って別の誰かに再組閣させるにしても、ハッキリ言ってどんぐりの背比べ。

 

 

 もう面倒臭くなって独裁に走った。

 

 

 流石に全ての決定に対して事細かに口出しをしているという訳ではなく、大まかな方向性を示して投げているのだが、「変なことしたら()()()何もしないかもだけど、()()()()()()()()()が何か仕出かすかもしれませんよ?」と居並ぶ閣僚や議員、官僚の代表諸氏へとにこやかに告げた。

 

 その四方八方に怪しく不気味に笑う、手に様々な道具を持った妖精さん達を侍らせながら。

 

 

 それを見た彼らは全身から滝のような汗を流し、頻りに水分を含みまくったハンカチで流れ出る汗を拭いながら恐怖に震える顔で何度も頷くと、這々の体で帰って行った。

 

 妖精さんは、居ると思えば何処にでも居るし、何処にでも潜んでいる。

 

 そもそも英国とは、そういった妖精や精霊などの神話や伝承に事欠かないお国柄だったことも上手く作用した。

 

 ついでに言えば、もう既に何人かが行方知れずとなっていた。

 

 

 以降、誰もQ.Eを逆らえなくなった。逆らったり、裏切る真似をしたら、まるで神隠しにでもあったかのように、\カーン…カーン…カーン…/という謎の不気味な音と共に忽然と姿を消してしまう。

 

 このことをQ.Eは「わたくしのやっている事はフランス革命戦争時代の政治家、ロベスピエールの恐怖政治(テルール)や革命裁判所検事のフーキエ・タンヴィルと代わりありませんわね…」と自嘲気味に漏らしていた。

 

 

 そしてその日から、英国は密かに方針の大転換が始まった。

 

 Royal(ロイヤル) Sovereign(ソブリン)ことАрхангельск(アルハンゲリスク)新ロシア連邦(NRF)への派遣から始まる英露関係の修復に向けた水面下での交渉である。

 

 

 第三次大戦以降、ヨーロッパ各国はロシア連邦、そしてその後継国家新ロシア連邦(NRF)との関係は完全に冷え切っており、英国もその例に漏れず同じだったのだが、それはもう殆ど戦争が上手くいかなかったことに対しての半ば意地で継続している様なものだった。

 

 しかしそれは余裕があった新ロシア連邦(NRF)を頼ることを自ら拒否していることであったが、もっと厄介なことに、北アフリカを除くヨーロッパ周辺国の余裕のある国家は殆ど新ロシア連邦(NRF)と関係のある国家が占めており、それらの国家を頼ることも出来ないことを意味していた。

 

 特にヨーロッパのエネルギー事情を支えていたアゼルバイジャンが新ロシア連邦(NRF)寄りとなっていたことも相俟ってバクー油田からのBTCパイプライン経由での供給が途絶えた事は致命的だった。

 

 

 だが何よりも問題だったのが、イタリアの政情不安である。

 

 

「…気になっていたのだが、暗殺されたデュゴミエ提督は実際のところ本当にスパイだったのか?」

 

 

 ここで土方が疑問に思っていたことをWarspite(ウォースパイト)に問い質した。

 

 

「…結論から言えば、Grayね。彼は私利私欲ではなく愛する Cavour(カブール)達にひもじい思いをさせたくなかった。

 

 そもそもイタリア自身が裏で新ロシア連邦(NRF)と取引していたわ」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が言うには、イタリア海軍と新ロシア連邦(NRF)地中海常設作戦部隊との間ではエーゲ海海上にて瀬取りが頻繁に行なわれていたという。

 

 その中心人物がデュゴミエ提督だった。

 

 

 またイタリアは瀬取りで仕入れた物資を他のヨーロッパ各国の闇市場へと流す事により、多少なりともヨーロッパの物資不足を補っていた。

 

 しかしイタリアの政情不安化によって、その闇市場への流通ルートが事実上崩壊。

 

 ヨーロッパの物資不足はより一層の深刻化を加速させ、巡り巡ってその事が英国の紅茶不足へと繋がった。

 

 

 ただ英国上層部としてもここまでの大混乱となるとは予想していなかった。

 

 そこからも英国の凋落が見て取れた。

 

 

 しかし、一連のこの事件には英国上層部ですら預かり知らない事態が起きていた事が、Q.Eが即位後にSISへと行なった情報公開命令(願い)によって発覚することとなったのだが、それは一旦後回しにした。

 

 

「正直ヨーロッパは何処もかしこもボロボロで火の車だったのだけど、イタリアの政情不安がトドメを刺す形になったわ。

 

 それでも新ロシア連邦(NRF)を頼らなかったのは、意地と言うよりも恐怖が大きかったからよ」

 

 

 ヨーロッパは第三次大戦以前より、当時のロシア連邦に対してある種の恐怖感があったと指摘する学術論文が、この当時より幾つか出ていた。

 

 それは単純なロシア脅威論からではなく、アメリカを中心とした西側諸国が事あるごとにロシア連邦へと課し続けた経済制裁の数々にも関わらず、ロシア連邦の経済は予想に反して崩壊すること無く、その都度より一層の強靭さを増していっていた事に、西側のロシア嫌いな一部指導者層を中心に恐怖を覚え、その恐怖が時間と共に膨れ上がってゆき、所謂“ロシア恐怖症”と呼ばれる重篤な精神の病を発症させてしまい、その発症者は重度の被害妄想に囚われるという症状が出るとされていた。

 

 

 彼らの妄想が、謂わば先のロシア東欧紛争を引き起こした大きな原因の一つであるとも言えなくもなかった。

 

 

 最悪なのは戦後も、そして深海棲艦の脅威が無視出来ない事態となってもなお一貫してロシア恐怖症を根幹とした方針の転換をしようとしなかったことである。

 

 最大の原因はNATO解散後にNATO高官や関係者達を丸々EU委員会が抱き抱えたのだが、そもそもそのNATOは当時世界最大のロシア恐怖症罹患者の集まりと化していたため、彼らを吸収合併した事で、新ロシア連邦(NRF)に関しての政策意思決定プロセスに深刻な思考の硬直化が顕著となり、先鋭化してしまった事が大きく影響していた。

 

 

 だがヨーロッパ各国海軍に所属する艦娘にとってそんな事は預かり知らぬ事だし、とんでも無くしょうもなく、どうでもいい馬鹿げたことにしか見えなかったから、心底呆れ返っていた。

 

 このままだと確実に共倒れだ。

 

 人間の都合に合わせてこっちにまで実害を及ぼされたら、たまったものではない。

 

 だからこそQ.Eは新ロシア連邦(NRF)との関係修復に乗り出す事に抵抗は無かった。

 

 

 そして可能ならば、新ロシア連邦(NRF)を仲介役として深海棲艦との接触を図りたかった。

 

 

 英国は深海棲艦が極東アジアで行なっている活動をそれなりに早い段階から掴んでおり、また新ロシア連邦(NRF)が何らかの形で関与している可能性にも薄々とながらも勘付いていた。

 

 しかしそれらの事実を公表することによって発生するであろう社会不安や混乱を勘案すれば、あまりにもメリットが少な過ぎて殆ど封印されていたのを、Q.Eは即位直後に行なった現状把握の為の各省庁などにお願いした情報公開によって得た資料を片っ端から読破した事で知り、悩んだ末に深海棲艦との交渉に踏み切る決断を下した。

 

 

 だが新ロシア連邦(NRF)との交渉は兎も角として、深海棲艦との交渉に身内である艦娘達だけでなく、妹達からも強い反発が突き付けられ、執務室へと押し掛けてきたのだが、部屋中所狭しにうずら高く積まれた資料と書類の山脈をインク塗れの手で指差し、垢と染みだらけの服を着て整髪も洗顔もせず窶れて目に隈が溜まりに溜まった疲れ切った顔をしながらも、なお鋭い眼光を湛えた瞳で集まった全員を睥睨し、こう言い放った。

 

 

「これを見てまだそんな戯言(たわごと)が言えるというのでしたら、よろしい。わたくしの首をギロチンに掛け、貴女達の誰かがわたくしの代わりに即位なさい」

 

 

 静かに、だがハッキリとした口調でそう述べると、「…寝る」とだけ言い残してそのままフラフラとした足取りで隣の仮眠室へと向かった。

 

 Q.Eのあまりの迫力に圧されて、誰も一言も喋れずにいたが、Q.Eが勢いよくドアを閉めた音で漸く再起動し、紙の山を崩さないように怖ず怖ずと手を伸ばした。

 

 

 そこにはQ.Eが決断に至る迄の、そして彼女の苦悩する姿がまざまざと目に浮かぶ様な、英国だけでなく主要交戦国が深海棲艦に対して既に“詰んでいる”実情が、これでもかと記されていた。

 

 

 深海棲艦は、東南アジアを基点として着実に地盤を固めつつあった。しかもどういった経緯があったのかまでは分からなかったが、新ロシア連邦(NRF)も一枚噛んでいるという。

 

 それだけでない。

 

 既に人類社会へと浸透を開始しており、一部では地域経済に喰い込んでいる、と思いきや、最も激烈に深海棲艦の打倒を声高に主張していたハズの、新大陸のドラ息子国家にまで進出しているというではないか。それもれっきとした連邦市民権まで有していた。

 

 

 彼女達は、膝から崩れ落ちる錯覚に囚われるほどのショックを受けた。

 

 

 今まで自分達はなんの為に戦ってきたのかと。

 

 

 ここまで来たら、自分達のテリトリーであるヨーロッパ、いやここ英国本土にも既に進出していると考えるのが妥当である。

 

 思い返せば、一時期に比べて深海棲艦の活動は明らかに落ち着いて来ていた。

 

 最早深海棲艦にとってこの戦争は終わったも同然であり、次に向けた活動へとシフトしただけなのだろう。

 

 

 だが何よりも彼女達を打ちのめし、心をへし折ったのが、次の文面だった。

 

 

───────

 

 

 様々な調査の結果を結び合わせて分析した結論として、深海棲艦の戦争目的は自らが消費する食糧の確保を目的としたものであると結論づける。

 

 

 現在確認されている深海棲艦支配領域における耕作地帯の総面積から推計した食糧生産能力は、既に自給自足が可能な規模であると推測する。

 

 衛星画像の分析から、人類が放棄した港湾設備の急速な再整備の実施も確認されており、支配領域内での流通の円滑化だけでなく、将来的には支配領域外へと大量輸送する、つまり輸出を見越した事前準備である可能性を指摘する。

 

 

補足

 

 支配領域近辺のアジア圏では、現状一部地域ながら食糧不足が徐々に解消されつつあるとの情報が多方面から寄せられており、既に輸送が開始されている可能性あり。

 

 また現状においても外貨の獲得も非常に積極的であり、各種嗜好品の生産と販売が盛んに行なわれている形跡が確認された。

 

 我が国で出回っている紅茶やアルコール飲料には極僅かながらも深海棲艦によって生産された物も含まれている可能性が高い事を、ここに補足する。

 

 

───────

 

 

 ある意味、間接的ながらも自分達は深海棲艦に養われていた。

 

 そして途轍も無い敗北感に襲われた。 

 

 

 人類に依存し、戦うことしかしてこなかった自分達艦娘とは違い。深海棲艦達は自分達の力だけでどうにか生きて行こうと努力していた。独立独歩に向けて着実に一歩一歩と歩んでいた。

 

 

 この事実を突き付けられ、平静でいられる者は、居なかった。

 

 

 そして悟った。我々は、この戦争に敗けたのだと。

 

 

 それもただ敗けたのではない。戦略的な大敗北を喫したのだ。

 

 

 この資料を信じるならば、深海棲艦は人類の経済活動にも喰い込んでいる事はほぼ確実であり、もしも今後深海棲艦を撲滅してしまったら、間違い無く経済の大混乱をきたしてしまう可能性が高いし、より深刻な食糧問題をも招き、民衆による大きな反発を生むリスクだって有り得た。

 

 何故ならば時間は深海棲艦に味方しており、時間とともに深海棲艦による経済活動の規模はより大きさを増し、それに関わる事になるであろう人間の規模だって増える。

 

 彼らにとって深海棲艦は、生活を成り立たせる上で切っても切れない重要なパートナーなのだ。

 

 それが失われたらどうなるか、想像するに容易い。

 

 下手をすると新たな火種を生み出すことに繋がりかねない。

 

 

 もっと早い段階で気が付いていたら…。

 

 

 いや、それはそれで良い結果になったとは言い難い。

 

 私達に、深海棲艦と同じ事が出来たとは、到底思えない。

 

 

 皮肉なものである。人類の敵とされていた深海棲艦の方が人類に寄り添い、彼女達のお陰で経済が回り、その結果として死を免れたかもしれない、明日を掴む事が出来たかもしれないとする人間達が、現実として存在することがほぼ証明されてしまったのだ。

 

 彼らにとって、深海棲艦の方が自分達艦娘よりも遥かに身近で、救世主の様な存在だろう…。

 

 

 

 

「あの時のみんなは、それはもう酷く憔悴してたわね。

 

 私達はなんのために今まで戦ってきたのかって…。

 

 

 でも、姉さまはもっと酷かったわ…」

 

 

 Q.Eの即位はその経緯もあって関係者を除いて極少数の者達と英海軍艦娘の間でしか知らされていなかったが、艦娘は兎も角として、関係者、特に政府機関関係からは王位を簒奪した者として当初から面従腹背を決め込み、中には非友好的な態度を取ってサボタージュに出る者も少なからずいた。

 

 その一例が、先の紙媒体による資料と種類の山である。

 

 当時のSIS長官が、電子媒体ではなくわざわざ全てを紙媒体で寄越したのだが、ハッキリ言って嫌がらせだった。

 

 仕事をしないなどのわかりやすいサボタージュこそ、脅しの効果でしなかった様だが、その代わりに嫌がらせを仕掛けて来たのだった。

 

 それに習うようにして、他の省庁からも同様な扱いを受けた。

 

 それでも公務の激務の合間や、睡眠時間その他諸々を削って読破したのだが、その時のQ.Eは自嘲気味に語ったロベスピエールの如く、一日十六時間以上を仕事に費やし、殆ど休む事の無い毎日を続けており、艦娘としての、しかもその中でも特に頑強とされる戦艦艦娘の肉体でなければ、早々に倒れるか、人間だったら疾うの昔に過労死する程の激務を続けていた。

 

 一応、Q.Eには身の回りの世話をする侍従達がおり、その侍従達とは前国王時代から良好な関係を築いていた甲斐もあって、嫌がらせの類いは一切無かったが、Q.Eは自分の今の生活スタイルに巻き込むのは申し訳無いとして、最低限度の事以外はほぼ断っていた。

 

 ただそれだと何時までも仕事を続けかねないとして、侍従長からWarspite(ウォースパイト)に助けを求めれ、臨時の侍従として姉の身の回りの世話をすることになって参内したのだが、日々窶れていくQ.E()の姿に見ていられなくなった。

 

 

 そしてWarspite(ウォースパイト)はあの時仮眠室で控えていたのだが、仮眠室に入るなり自分に向けて、まるで糸が切れた人形かの如く、倒れる様にして寄り掛かったまま眠ったQ.E()に、ただ泣くことしか出来なかった。

 

 

 こんなにボロボロとなったQ.E()の姿など、今まで見たことが無かった。

 

 皆が現実を突き付けられて心が折れていた時に、Warspite(ウォースパイト)はみんなの為に身を粉にして働くQ.E()を支え切れなかった自身の不甲斐無さに泣いた。

 

 側仕えという、最も身近に居たのにも関わらず、私を心配させまいとQ.E()は気丈に振る舞っていた。

 

 そして万が一の時は自分1人だけの責任とすべく、誰にも相談すること無く1人で抱え込んでしまっていた。

 

 

 その姿はまさに孤独な独裁者の苦悩を体現しているかのようで、Warspite(ウォースパイト)には見ていてとても辛かった。

 

 

 ただ少なくとも、Q.Eの下した決定、深海棲艦との交渉に関して身内である艦娘からの反発が無くなったことで、心労がかなり軽減される事に繋がった。

 

 更に今のQ.Eの姿を見るに見かねて、予備役艦隊にいた前弩級戦艦や準弩級戦艦の艦娘達が侍従艦兼相談役として面倒を見るようになり、多少なりとも諸々が改善された。

 

 これはWarspite(ウォースパイト)がQ.Eから、自分の名代として日本への赴任をお願いするかもしれないと聞かされた事で、誰か自分の代わりにQ.E()の世話が出来ないかと、妹達や近衛艦隊のみんなに相談を持ち掛けたという経緯があり、その話を()()()()聞いたと主張する、その背恰好と傍若無人で豪快な性格態度から(ミニ)Nelson(ネルソン)と揶揄されることもある予備役艦隊の準弩級戦艦Lord(ロード) Nelson(ネルソン)級1番艦の艦娘、Lord(ロード) Nelson(ネルソン)が「話は全て聞いた!余に任せろ!!」と言って、膳は急げと言わんばかりにQ.Eの執務室へとそのまま突撃し、直談判したのが切っ掛けであるとかないとか…。

 

 

 まぁそんな無茶苦茶な彼女だが、意外なことにQ.Eの相談役どころか知恵袋としてQ.Eを頭脳面から支えるという、重要な役割を仰せつかった。これは「予備役艦隊は戦闘に出る機会が無くて暇潰しに本を読み耽っていた」と本人が言っていることから、かなりの知識を蓄えていた事が大きかったのだろう。

 

 彼女はQ.Eの政策決定、特に外交政策の面において大きな貢献を果たすこととなり、特に水面下で開始された新ロシア連邦(NRF)との交渉において、今までの軋轢からかなり難航すると思われていたが、その予想に反してすんなりと解決させることに多大な貢献を果たすこととなった。

 

 この事は新ロシア連邦(NRF)サイド、スラヴァ(ミロスラヴァ)国防相をして「厄介なのが出てきたかも…」と舌を巻いた程であると、Гангут(ガングート)が苦虫を噛み潰したような顔で告げた。

 

 

 この功績により後にQ.Eから「武略のNelson(ネルソン)、智略の(ミニ)Nelson(ネルソン)」と称えられ、「いずれは首相か外相辺りを任せたいものね」とまで漏らす様になったが、当の本人は「勘弁してくれっ!」と()()()()()()な反応で逃げ回っている。

 

 

 それは兎も角として、ドッタンバッタンしながらもQ.E体制による新たな船出となった英国は、最初の懸案事項だった新ロシア連邦(NRF)との交渉が思いの外上手いスタートを切れたことからも、そこそこ順調な滑り出しとなった。

 

 

 ───かと思われた。

 

 

 問題というものは本当に不思議なもので、一つ問題が片付くと次の問題が何処からともなく湧いて出て来るものである。

 

 

 そしてそれは特大の大問題だった。

 

 

 これはSISも全くと言っていい程に掴めていなかった情報であり、血相を変えたSISの長官が*1*2顔面蒼白となりながらQ.Eへと慌てて報告して来た。

 

 

 曰く、デュゴミエ提督暗殺時に死亡したとされていた “賢人”の異名を持つ艦娘、Conte(コンテ) di(ディ) cavour(カブール)が深海棲艦となって生存していたことが確認され、密かにイタリア軍と接触して何かしらの密約を結んだ可能性があると。

 

 

 

「待って!艦娘が深海棲艦になるなんて、聞いたこと無いですよ!?」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が話した内容に、既に知っていただろうГангут(ガングート)を除く全員が大きく動揺した。

 

 だが誰よりも激しく動揺したのが、真志妻だった。

 

 彼女にはまさかと思う心当たりがあった。

 

 

「…恐らく、貴女が想像している通りです。

 

 日本に存在していた研究施設と同系列の研究施設が、こちらにも存在していた事が、判明しました。

 

 そこで実験台にされたのだと、彼女は語ったそうです」

 

 

 そのWarspite(ウォースパイト)からの言葉に、真志妻は信じられない気持ちと、再び怒りが湧き上がってくるのを覚え、肩を震わせていた。

 

 人間だけに飽き足らず、艦娘にまでその魔の手を伸ばしていたのか!?と。

 

 

 だがここで土方が今のWarspite(ウォースパイト)の言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

 

「イギリスは、 Cavour(カブール)と直接会うことに成功したのか?」

 

 

 そう、先のWarspite(ウォースパイト)の口振り、特に最後の「彼女は語った」と言った。

 

 それはつまり直接聞いたともとれる言い方なのだ。

 

 

 この土方の質問に、Warspite(ウォースパイト)はコクリと頷いた。

 

 

「場所は伏せますが、我が地中海艦隊が方方手を尽くして彼女と接触することに成功しました。

 

 …いえ、向こうから接触してきた。というのが正しいわね」

 

 

 この一言を聞いたことで、隣の部屋にいたPola(ポーラ)がたまらずと言った雰囲気で入って来た。

 

 

本当に、本当に“saggio(サッジョ)”が、生きてたんですか…?

 

 

 掠れた、そしてか細い声でそう尋ねるPola(ポーラ)に、Warspite(ウォースパイト)は一瞬目を伏せると、短く「…Yes」とだけ答えた。

 

 

 そして Cavour(カブール)が接触してきた際に、 自身と共に幾人もの艦娘が実験材料にされていた事。

 

 自身が深海棲艦にされた後に、隙を見て施設を徹底的に破壊して実験から辛くも生き残った他の者達───中には自身と同じく深海棲艦にされた者も少なからず居た───と共に逃走。

 

 行く宛もない逃避行の最中(さなか)に地中海に展開する深海棲艦と鉢合わせ、その後に保護された事などのおおよその経緯(いきさつ)が語られたのだが、問題はここからだった。

 

 

 Cavour(カブール)は自身の呼び掛けに応じたイタリア海軍艦娘部隊と、その他独仏の艦娘部隊が呼応して、ヨーロッパ各国に対しての一斉武装蜂起を起こすつもりであることが、判明した。

 

 

 その第一の標的が、マルタにあるイギリス地中海艦隊基地の制圧による地中海の掌握であると。

 

 

 

 

 これを受け、Q.Eは本国艦隊の精鋭、近衛艦隊及び予備役艦隊の一部を合流させた連合艦隊、大艦隊(Grand Fleet)に動員令を発令し、英海軍旗艦空母兼艦娘母艦『Prince(プリンス) of(オブ) Wales(ウェールズ)』に乗艦して地中海への出撃を決断。

 

 

 マルタ島近海に展開した同艦艦上にて行なわれた秘密会談により、Q.Eと Cavour(カブール)の2人による決闘が、アドリア海のとある無人島にて行なわれる事が決定した。

 

 

 

「それは、いつだ?」

 

 

 

 全員を代表して、土方が問い質した。

 

 

 

「姉さま、いえ、陛下は今まさに、 Cavour(カブール)との決闘に挑んでいます」

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 アドリア海、名も無き無人島にてフライパンと妖精さんによって作られたレプリカの柄付き手榴弾による即席のゴングが響き渡り、2人の少女が双方の声援を背に受けながら、ふらついた足取りで向かい合う。

 

 2人の顔は青痣だらけで、いかに激しい戦いが繰り広げられたかを物語っていた。

 

 対峙したタイミングで何かを話ていた様だが、周りの喧騒によってその内容までは聞き取れない。

 

 そして最早言葉は不要と、双方その拳をフラフラと振りかざした

 

 

 

 

 その周りでは深海棲艦が持ち込んだ豊富な色とりどりの食材を使って、イタリアとフランスの艦娘達が即席の屋台を開き、ドイツ艦娘がどうやって持ち込んだのやら、黒ビールなどのアルコール飲料を売り歩き、その横ではイタリア水兵が深海棲艦の空母を口説き落とそうとしてものの見事に轟沈し、それを独仏の水兵が慰め、更にそれをちゃっかり紛れ込んでいた新ロシア連邦(NRF)水兵がウォッカで出来上がった赤ら顔で爆笑していた。またイギリス下士官と水兵が共同で深海棲艦の売り子を相手に、今や本国では貴重となった紅茶の茶葉の値切り交渉を鬼気迫る勢いと熱量で行なっていたのを、見かねたイギリス艦娘がしばき倒し、謝罪と称してちゃっかり茶葉を買い込んでいた。

 

 

 この他にも多国籍の軍人や艦娘達が、この小さな島を中心に思い思いに過ごしていたが、何よりも人気を博しているのが2人の少女によるサシの決闘だった。

 

 

 方や英国Agincourt(エジンコート)朝初代女王陛下にして、英国海軍艦娘部隊『女王陛下の海洋騎士団』及び『大艦隊(Grand Fleet)』の総旗艦艦娘であるQueen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)陛下。

 

 方や深海棲艦の地中海方面軍総司令を意味する地中海方面総代、人類コード『地中海弩級水姫』こと、元イタリア海軍デュゴミエ艦隊所属、賢人の名を特別に冠された、“saggio(サッジョ)”、Conte(コンテ) di(ディ) cavour(カブール)

 

 

 この2人によるステゴロのどつきあい…、もとい、一騎打ちの決闘である。

 

 

 佳境に入ったこの決闘は、所属や国籍、そして種族の垣根を超えて大盛況の盛り上がりを見せていた。

 

 

 

 この状況を作り上げた、とある英国艦娘は後にこう語っている。

 

 

「みな、心に余裕が無くなっていた。これは健全な状態とは程遠い。

 

 何かを楽しむ余裕が無くなり、みなギスギスしていたのだ。

 

 だからこそ、余は娯楽が必要なのだと考えた。みなが楽しめる娯楽が」

 

 

「幸いと言ったら不敬になるやもしれぬが、2人はなんだかんだ言いながらも真面目で仲間の事が大好きな人柄だった。故に、余の忠信に乗ってくると確信していた」

 

 

 

「心というものはパンの生地と同じだ。水が足りなければパサパサしてしまう。適度に水を与えてやらねば、美味いパンは作れない。

 

 みなの心も、そして陛下の御心も、まさしくパサパサのパン生地だった。

 

 …いや、陛下は国政や戦争に疲れ果て、どうにかしなければ、なにかしなければと思い詰め過ぎて、パサパサどころかガチガチに固まってしまわれていた。

 

 …余はそれを常日頃から憂いていたのだ」

 

 

「…なに?余のことを、周りのそんな事など一切気にもしない、ガサツで不真面目な者だと思っていただと?

 

 余はいつも真面目だ!!

 

 …まぁそれはいい。いや!良くはないが、一旦置いとこう」

 

 

「正直、此度のことは神が我らに与えてくれたもうた、恵みの雨なのではないか?と小躍りしたくらいの千載一遇の好機と天啓なのだと思ったほどだ。

 

 結果は、まぁ知っての通りだ。みな、心の底から笑い合い、大いに楽しんでくれた」

 

「陛下も、 Cavour(カブール)どのも、胸の(つか)えが、いや、憑き物が落ちたかの様にスッキリとした顔となられた」

 

 

「それに、余も久々に心から楽しめた。あの時、初めて深海のPrincess達と話をしたのだが、彼女達には裏表が感じられない、出し抜こうとか貶めようとかの邪な心の様なものが終始感じられなかった。

 

 いつ以来だったか、あの時は常日頃の煩わしい駆け引き云々を忘れて、つい話し込んでしまったものだ。

 

 彼女達とは良き友、良き隣人であり続けたいものだ…」

 

 

 

 なお、この決闘の結果であるが、両者最後の力を振り絞った渾身の右ストレートによるクロスカウンターが顔面に決まり、首があらぬ方向を向いてのダブルノックダウンで海に沈んだ事と、企画した艦娘が密かに賭けの胴元もしていたが、後に同僚達から「陛下に対して不敬!」と蔑まれ、陛下からは特にお咎めは無かったが、暫く妖精さん達に対して()()()()おやつを()()()サービスしたことも、ついでにお伝えしておく。

 

*1
先の長官とは別人であり、前任者は()()体調不良等により辞任して田舎で()()()の療養生活を送っている。ということになっている。

*2
療養生活に入る前日に、自宅から\カーン、カーン…カーン…/という謎の音が微かに聞こえたという噂が出たりもしたが、気付いたら誰もその事を口にしなくなっていた。





 …次から太平洋方面へと戻すつもりだったのに、終わらなかったゾイ。3〜4話分を圧縮して1話に纏めようと頑張ったのに!!

 最後の決闘は、豚さんが飛行艇に乗る話を意識していました。



情報提供者からの証言

MSTM「ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!」

???「見ちゃいました!」

以下、NGシーン

MSTM「いたぞーー!いたぞーーーっ!!(ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!!)

???「ま、まだこちらに気づいていないよー!」(全速離脱)

 なお、情報提供者による脚色と偏向の可能性あり。


補足説明

近衛艦隊

 イギリス海軍艦娘部隊、『女王陛下の海洋騎士団』本国艦隊精鋭艦隊の通称。

 王室からの信頼が厚く、王室に対する忠誠心も高い最精鋭部隊として知られている。

 Warspite(ウォースパイト)が極東艦隊へと転属となるまで旗艦を務めていた。現在の旗艦は巡洋戦艦艦娘のHood(フッド)である。因みにWarspite(ウォースパイト)が以前所属していた地中海艦隊の旗艦はNelson(ネルソン)級戦艦のネルソン(「余!」)である。


秘密情報部(Secret Intelligence Service) SIS

 007のジェームズ・ボンドが所属していることで有名な、MI6のこと。なお、公式見解として「(007の様な)殺しのライセンスは無いし、欲しくもない」と第15代長官ジョン・サワーズ氏は語っている。


情報本部
Defense Intelligence Headquarters、略称DIH

 戦後設立された防衛庁においては、外国の軍事情報を防衛局調査第1・2課、統合幕僚会議事務局第2幕僚室、陸上・海上・航空の各幕僚監部調査部及び各自衛隊の専門部隊等で収集・分析を行っていたため、庁全体としての情報の収集・分析が非効率的であるという構造的欠陥を抱えていた。

 この問題を解決すべく、統合幕僚会議第17代議長の石井政雄を長としたプロジェクトが発足し、アメリカ国防情報局(DIA)を参考に1995年(平成7年)に策定された防衛計画大綱に基づいて、1997年(平成9年)1月20日に設置された。
 なお、防衛庁内のすべての情報機関が統合されたわけではなく、既存の組織はそれぞれ一部改編・縮小されたものの、引き続き存続した。
Wikipediaより抜粋



ロシア恐怖症

 近年のNATOを始めとした西側諸国のロシアに対する態度を揶揄して皮肉った言葉。


予備役艦隊

 基本的に前弩級戦艦や準弩級戦艦時代の旧世代艦によって編成された、本土防衛の最終防衛部隊。

 Q.Eの即位後は冗談混じりに侍従艦隊と揶揄されたりしている。


Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)

 略称、Q.E

 高速戦艦の嚆矢とも称される、『Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)』級超弩級戦艦の1番艦、Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)の艦娘にして、Warspite(ウォースパイト)の姉。そして英国はAgincourt(エジンコート)朝初代女王陛下。

 マイペースながらも真面目で苦労人気質。

 現役時代(即位後も一応は現役扱いだが)は各地を転戦していたこともあり、「Q.Eが行く所が最前線」若しくは「Q.Eの居る所が最前線」と言われる程、激戦区を渡り歩いていた経歴を持つ。

 今は執務室という最前線にて書類という敵との激戦を繰り広げる毎日だが、内心では「深海棲艦を相手に砲撃戦をしていた時の方がまだマシ…」と思ったりしている。

 なお、Agincourt(エジンコート)とは、Q.E級の幻の6番艦『Agincourt(エジンコート)』から来ており、「この世に生を受けて並び立つ事が出来なくとも、わたくしは常に貴女の名と共に居ます」という思いを表している。とのこと。

 因みに、ブランデー入り紅茶が大のお気に入りだが、最近侍従から「それだと紅茶入りブランデーです!てか飲み過ぎです!」と叱られ、それでもL.Nと2人でコッソリ飲んでいたのだが、おやつの増量を条件に買収された妖精さんの裏切りによって発覚し、正座でしこたま怒られて2人してしょんぼりしている姿が目撃された。(´・ω・`)(´・ω・`)


Load(ロード) Nelson(ネルソン)

 略称、L.N

 弩級戦艦の嚆矢として有名な、戦艦『Dreadnought(ドレッドノート)』よりも先に建造が開始されながらも、『Dreadnought(ドレッドノート)』の完成が優先されたことによって完成が遅れ、完成時点から既に旧式の烙印が押されてしまった悲しき戦艦、『Load(ロード) Nelson(ネルソン)』級準弩級戦艦の1番艦、『Load(ロード) Nelson(ネルソン)』の艦娘。


 艦娘としての姿は艦娘Nelson(ネルソン)を少し小さくした様な背恰好であり、一人称も「余」であることから、(ミニ)Nelson(ネルソン)と呼ばれたりする。

 前線よりもどちらかというと後方型。これはホレーショ・ネルソン提督の逸話の一つ、対ナポレオン戦争におけるイギリスのもう一人の英雄である初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーの回想に、ネルソンと出会った際に対ナポレオン戦略などの自説を披露され、その説く所の正しさに大いに驚かされたとあることから、軍人として戦う役はBIG7のNelson(ネルソン)に任せ、戦略家としてはL.Nにと分けて差別化。

 実は急に思いついて勢いで出してしまった娘だったりする…。
 彼女が対露交渉で何やったかは、ご想像にお任せ致します。


\カーン…カーン…カーン…/

 \カーン…カーン…カーン/

 …そして誰も居なくなった。妖精さんを怒らせてはならない。



 なんかアメリカで不法移民巡って内戦起きそうなんですけど…。テキサス州とテキサス支持の24州でキレイにパッカーンと分かれてるし、一部ではテキサスの応援と支援のために州兵の派遣決めた。
 その余波でガスの輸出止めるとかジジイが言い出して、ドイツが大ピンチ。

 テキサス州はアメリカ最大のガス田があるから、ピンポイントでテキサスに対するジジイからのハラスメントだろこれ。

 ドイツは例のノルドストリーム関連で、エネルギーはアメリカ頼みだってのに、ジジイはドイツを潰す気か?

 あのジジイ、自分の思い通りにならなかったら癇癪起こして感情的でその場の思いつきな行動に出やすいって知ってたけど、これはアカンやろ?



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
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