艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 秘密

 
 今回色々と明かしますが、色々な可能性を計算してシミュレートしたら、頭が吹き飛びそうになった…。世界は繋がっているけど、蝶が羽ばたくと遠くで嵐が起きるというバタフライ・エフェクトの様に、ありとあらゆる可能性が浮かんでは消えるの繰り返しで頭の処理が追いつかん…。

 …もし次を作るならば、もっとこぢんまりした話にしなきゃ、能力的に厳しい事を改めて痛感。ただ単に難しく考えすぎなだけなのかもしれないけど。


第70話 SECRECY

 

 

「…つまりその専門家というのも、ヒジカタの同郷であると?」

 

 

 眉間を押さえながら、Warspite(ウォースパイト)が土方に問う。

 

 

「はい。私達が本来いました世界でもトップレベルの優秀な()()でありました。

 

 …その者はこちらに来てからずっと深海棲艦についての研究を続けており、おそらくこの世界の誰よりも、もしかしたら当の深海棲艦達よりも肉体の構造に詳しいのではないか?と思われます」

 

 

 土方のその言葉はあながち間違ってはいない。

 

 何故ならば、アンドロメダとの定時連絡という名の世間話的なやり取りから分かった事なのだが、彼女達深海棲艦は自身の体について知りたいと思う気持ちが希薄であり、そんなことよりも今を生きる事に必死なのだ。

 

 まぁ柔らかく言ってしまえば、より美味しい作物を作り、美味しいご飯を作ってみんなと和気藹々と楽しく過ごすことの方が大切だと考えているからである。

 

 そのため、良くも悪くもそのことに無関心であり無知だった。

 

 アンドロメダもそんな彼女達との生活を満喫しており、彼女なりにのんびりまったりと今を楽しむ事に比重をおいている為、そのことにあまり興味を示していなかった。

 

 

 そしてそのアンドロメダの事だが、既に国防相(上司)からおおよその説明を受けているГангут(ガングート)は別として、Warspite(ウォースパイト)Colorado(コロラド)の2人にはまだ話していない。

 

 流石にアンドロメダの事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、パワーワード満載で情報量過多な問題があったため、今すぐ説明することを控えた。

 

 

「…欺瞞としては突拍子も無いし、信じざるを得ないでしょ?」

 

 

 Colorado(コロラド)が疲れ切った顔でWarspite(ウォースパイト)にそう告げる。

 

 そもそも真偽の裏取りをする事も出来ないし、例え嘘だとしてもそんな嘘をついて何か益があるのか?と考えても納得のいく答えが想像できない。

 

 ならば詮索するだけ時間の無駄だと割り切り、今は信じるしかないと判断せざるを得なかった。

 

 

「…それに、()()を実際に見せられたら、尚更ね」

 

 

 そう言って視線を応接机へと落とす。

 

 

 そこに置いてあるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、『南部97式拳銃』と『89式機関短銃』、それに『AK-01レーザー自動突撃銃』の3種類である。

 

 

 南部97式拳銃──正式名称『南部97式防衛軍正式拳銃』──は一般的にコスモニューナンブの愛称で知られ、ガミラス戦役下の2197年に正式採用されて以来、2203年当時の地球軍に於いて最もポピュラーな個人携行小火器として、全軍に広く配備されていた。

 

 大本は一世代前に当たる、2114年に採用されたものの、その大振りなサイズと重量故に携行性や取り回しに難は有るが、性能そのものは手堅く堅牢であると評された14年式の小型軽量化モデルであり、その内部メカニズムは多少の改良は施されているものの、基本的には14年式と大差無い技術によって作られている。

 

 しかしそれは土方や春雨(ハルサメ)達の居た2203年時点での地球の話であり、この世界では数十年以上は未来の科学技術の結晶と言える代物である。

 

 そして89式機関短銃とは艦内などの閉所空間で使用される、所謂短機関銃(サブマシンガン)若しくは個人防衛火器(PDW)として運用される火器であり、AK-01レーザー自動突撃銃とはその名が示すとおり、自動小銃(アサルトライフル)である。

 

 

 これらは全て地球軍で正式採用されている銃火器であるが、重要なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その様な武器を開発し、全軍へと量産配備出来るだけの技術力は、メリット・デメリットの観点から必然性が薄いと言う側面もあるが、この世界には無い。

 

 現状、最も軍事技術が突出している新ロシア連邦(NRF)もだ。

 

 そんな銃火器達、南部97式の2丁を除いて客人の人数に合わせて4丁ずつ、机の上に並べられている。

 

 これらの内の89式とAK-01は時雨(シグレ)を自室へと軟禁…もとい、自室へと送り届けていた海風(ウミカゼ)春雨(ハルサメ)が通信で、執務室への戻り際に隣の控室に立ち寄って江風(カワカゼ)と共に部屋に設えてある私物ロッカー兼ガンロッカーに、()()()()()()()()()()保管してあったのを持って来るように伝え、持ち込んだのである。

 

 南部97式は各自が個人携行していることもあり、今置かれている2丁は春雨(ハルサメ)の物とここに居ない時雨(シグレ)の物である。

 

 そしてそれらの真贋を確かめる為に、連れ添っていた妖精さん達が早速と言わんばかりにこの銃器類に群がって検分を始めたわけだが、新しいおもちゃを見付けた子供の様に興奮冷めやらぬ顔で本物であるとの結果を伝えて来た。

 

 さらには“コレ”が艤装と似た代物であるのは間違い無いとも付け加えられた。

 

 Warspite(ウォースパイト)の妖精さんが初見で艤装の一部ではないか?と見抜いたのは間違いでは無かった。

 

 

 これをもって、少なくとも未来の存在である証拠であると示した。

 

 

 最初は()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()、波動エンジンがちょうど整備のために春雨(ハルサメ)の艤装から取り外されていたので、整備を請け負う徳川機関長と工作艦艦娘の朝日に頼んで見学させてもらうことも考えたが、春雨(ハルサメ)達の艤装並びに()()()()は真志妻と土方、それに霧野(キリシマ)らによる取り決めによって最高レベルの機密扱いとし、関係者であってもおいそれと開示しないという、ある種のセキュリティクリアランスの問題から開示する訳にはいかなかった。

 

 

 では何故艤装の一部とされたこれら3つの銃火器は良いのか?と疑問に思われるかもしれないが、それはこの3つが先に述べた様に、全て光学兵器だからである。

 

 光学兵器であるから、撃ち出される発射体はエネルギーの塊であり、従来の火薬式銃火器で言う所の実体弾が装填されているマガジン部分に封入されているのはエネルギーが充填されたカートリッジ、簡単に言えば充電式乾電池みたいな物であるわけなのだが、その乾電池、もといカートリッジに充填されているエネルギーを撃ち切ったら、空っぽのマガジンに弾丸を詰め直すと同様に再びカートリッジにエネルギーを再充填する必要があるのだが、それは一応、既存の電力インフラをかなり弄くり回して更に専用のコンバーターを作って出力をどうにかすれば出来なくもないという、些か力技に頼る必要性が高く、安全面と安定性、確実性の課題から今の所は艤装のエネルギーバイパスと接続するしか方法が無く、これは例えるならば同じ電力とはいえ、現代のスマホを明治大正年間の時代の電力インフラ技術では規格や安定性などの問題から充電する事が出来ないみたいなものであり、奪われたとしても奪った側は充填されているエネルギーが尽きたらそこでお仕舞になり、解析して複製しようにも工業技術の差による工作精度や品質の差はどうにもならず、更には運用に向けた兵站を始めとしたインフラ整備などのコスト面や、そもそも既存の火薬式銃火器と置き換えるだけの運用上のメリットが無いのだ。

 

 一応、火薬式銃火器と比較してのメリットと成り得るのは、レーザー故の弾道の直進性と弾速や反動の優位性による命中精度が()()()()()()()()()()優越している事。実体弾と違って射撃による消耗での重量バランスの変化が無い事。排莢の必要が無い事による発射速度の高速化と左右両利き(アンビデクストラス)への対応が可能である事。排莢口(エジェクションポート)などの開口部や可動部分が少なく、異物混入による故障や動作不良リスクが低い事。対象に応じて出力の調整による威力の増減と言った加減の調整が可能である事。内部メカニズムの小型化と軽量化に問題が無ければ、生体工学に基づいたより自由度の高い設計が容易となる事。等が挙げられる。

 

 但しこれらのメリットを打ち消すデメリットも幾つか存在する。

 

 先ずは命中精度だが、これはレーザーの収束機構が正常に作動している事と共に、周辺環境の影響によって拡散して減衰するリスクが実体弾よりも高い上に、威力にも影響を与えるため、有効射程距離が不安定になりやすい。また内部機構が火薬式銃火器と比較して殆ど精密機械部品という、複雑なメカニズムで構築されているため、故障時に現地で修理が成功する確率が低い事。

 

 何よりも問題なのが、先にも述べたエネルギー補充に関連した諸問題であり、それを解決するための運用インフラの整備と構築には莫大な費用が必要となるし、既存の火薬式銃火器との互換性がほぼ無いという事もあって、製造インフラも全て一から構築しなければならない。

 

 それらの苦労を掛けてまで、配備を推し進めるだけの必然性が無かった。

 

 もしあるのならば同じ物を所持しているであろう新ロシア連邦(NRF)スラヴァ(ミロスラヴァ)が初めから新ロシア連邦(NRF)軍への配備に向けて動いていたとしても可怪しくないのに、その様な動きは一切見られていなかった。

 

 

 つまり、確かに技術的には凄くとも、既存の技術に取って代わるだけの、そこまでの利益となるだけの価値のある代物でもないため、銃火器に関しては比較的緩いセキュリティクリアランスとしてまだ見せても構わない代物として扱っているのだ。

 

 ついでと言ってはなんだが、では何故地球軍では採用されたのか?というと、技術的に可能とするだけの下地とインフラがこの時期には既に整っていたのもあったが、簡単に言えば想定される戦域が地球上から外に、厳密に言えば惑星重力圏下の大気圏内から真空かつ無重力空間である宇宙空間へと広がった事が、最大の理由として挙げられる。

 

 無重力状態での発砲に際しての反動制御の問題は勿論のこと、何よりも問題視されたのが発射された飛翔体の運動エネルギーを阻害する要素が殆ど無く、尚且船内などの閉所空間での跳弾や命中時に発生する破砕片が予測不能な二次被害三次被害を引き起こす危険性が無視できなかったのだ。

 

 何を大げさな。と思われるかもしれないがに、真空の宇宙空間に囲まれた閉所空間の、それも開発配備が始まったのは、初期の小型宇宙船艇の時代である。

 

 2199年の『ヤマト』進宙まで、地球艦には艦内人工重力を発生させるだけの性能を発揮できる慣性装置が開発されていなかった。

 

 不用意に発砲した銃弾による破砕片や、銃弾そのものが跳弾を繰り返し、その際に飛び散るであろう諸々の破砕片が更に跳弾を繰り返し、その過程で乗員を殺傷したり、船の運航に支障が出るようなダメージを与えたとしたら?隔壁に穴が空いたら?

 

 そういった宇宙空間ならではの特殊環境という事情により、必要に駆られて開発されたのが、南部97式の先代に当たる先述の南部14年式、通称コスモガンである。

 

 実体弾による運動エネルギーによって発生する物理的な破壊と違い、熱エネルギーが主体による溶解に近いため、破砕片リスクはかなり低減出来るし、出力調整さえ間違えなければ隔壁や備品に対して深刻なダメージを与えるリスクも低減出来る。

 

 では地球軍で実体弾を使用する銃火器が廃れたかと言うと、そうでは無い。

 

 地球軍の陸上戦力である陸軍を中心に、空間海兵隊やその隷下の特殊作戦任務部隊空間騎兵隊の作戦内容によっては引き続き運用が継続されていたのだが、これは矢張り地球上では実体弾の方が運用上のメリットが大きかった事と、軍需産業や政治団体等によるロビー活動や圧力などと言った横槍の事実も確認されている。

 

 これにより、地球外の各種部隊ではレーザー系、地球上の陸軍などでは実体弾系というある種の棲み分け状態が暫く続くこととなった。

 

 しかしそれも2191年から始まったガミラス戦役の影響による資源払底の煽りを受け、実体弾という資源ロスが発生する各種の銃火器は、一部の暴徒鎮圧用の特殊銃を除いてその殆どか資源回収に回されて貴重な資源として鋳潰され、陸軍でもレーザー系の配備が進められて実体弾系銃火器は弾薬と共に急速に姿を消すこととなり、再び姿を現すのは戦後に配備が開始される事になる99式突撃銃と97式自動拳銃を待つこととなる。

 

 

 閑話休題。

 

 

 たかが銃火器。されどその銃火器には技術や歴史などの、今までに積み重ねられて来た様々なバックボーンが存在し、そこから読み解ける情報もあれば、実際に手を持って分かる事もある。

 

 今目の前に置かれているこの3種類の銃火器を各々が手に取り確かめたが、なる程、これらが艤装の一部であり、紛い物では無いと言うのが()()()()()()()()()()()

 

 艦娘であればそれが艤装由来の物であるならば、なんとなく感覚として分かるのだ。それらが持つ“力”と内包された“技術”が如何なるものかも。

 

 

 間違い無くこれらは今の時代の代物ではないと確信した。

 

 銃社会の国、アメリカ出身であり自身も銃器収集家(ガンコレクター)でもあるColorado(コロラド)は試し撃ちをしたそうにしていたが、流石に周りの目が厳しくて諦めていた。…未練たらたらな視線はずっと送っているが。

 

 

 …兎も角として、多少の半信半疑な所はあるものの、一応は未来の存在である事は信じる事とした。

 

 

 

 そしてここからが本題となるのだが、機密故に書面に落とす事が出来ず、真志妻サイドの情報は口頭で、土方サイドの情報は元々時間断層工廠工場長(情報提供者)が電子データで提供していたため、プロジェクターで映すこととなった。

 

 その前に情報提供者が研究者であると同時にウィザード級のハッカー、つまり最高レベルのハッカー、但しホワイトではなくブラックであるため、クラッカーと言える存在でもある事が補足事項として説明された。

 

 

 事実、()()のお陰で真志妻の情報だけだと不足していた箇所がほぼ全て埋まる事となった。

 

 真志妻の情報は彼女が人工艦娘となった時期までの、“人間を如何にして艦娘に、或いは艦娘に近い存在へと()()()()()()”に主眼が置かれた研究に関する情報であったため、それ以外の研究に関してはおおよその概要程度だったり計画段階だったりと、些か古い情報だった。

 

 それでも次に何をしでかそうとしていたのか?その方向性を掴む事は出来るだけの内容だったが為に、真志妻にとってはもっと早く気付くべきだったと悔しさを滲ませていた。

 

 

 人間の艦娘化は日本での結果から事実上断念された様だが、その代替案として“()()()()()()()”へとシフトした様だった。

 

 簡単に言えば深海棲艦との如何ともし難い物量差による戦力的劣勢を、()()()で覆そうという試みなのだが、聞こえは良くともその方法がとてもマトモな人間の考えから出る所業とは思えないものだった。

 

 いや、そもそも連中が真志妻に対して施した処置と言うのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、常軌を逸した悍ましい行いだったのだが、それを艦娘にも当て嵌めたのだが、連中は先の材料だけでなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()のである。

 

 これはヨーロッパでの戦いが比較的沿岸部周辺で、尚且地中海という内海も戦闘海域であったが故に、沿岸部周辺に流れ着いているケースが太平洋よりも多かった事が理由として挙げられ、更にこの当時はヨーロッパでも屈指の激戦とされるジブラルタル攻防戦やイタリア南方のイオニア海での防衛戦があったことも、材料の調達を容易にしてしまっていた。

 

 

 但し、人間の臓器移植に於ける拒絶反応が有るのと同様に、艦娘にも拒絶反応が存在した。

 

 そもそも人間の艦娘化が失敗した最大の原因は、その拒絶反応によるものだったのだが、それを克服出来た成功例は、僅か2人のみ。つまり真志妻とその義姉でもあるマニジューリヤだけであり、しかも旧式も旧式な軍艦の艦娘だったことで、完全な失敗と見做された様である。

 

 だが今度は頑丈な艦娘だから大丈夫だろう。とでも考えたのかもしれないが、余りにも浅はかな考えだった。

 

 寧ろ人間の時以上の、拒絶反応と言い表わして良いのか分からない程の激しい反応が出ていたと言う。

 

 

 それは筆舌し難い悲惨で凄惨な有様だった。

 

 

 拒絶反応が出た被検体の艦娘は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そしてその被検体の艦娘達は、全員が行方不明或いは死亡扱い、若しくはイギリスでのクーデター騒ぎの原因ともなった様な()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 その事実に、全員が言葉を失う事となった。

 

 

 普段にこやかな顔でいることの多い春雨(ハルサメ)も、この時ばかりはその顔から表情を消したものとなっていた。

 

 これは春雨(ハルサメ)が本気で怒っている時に見られる顔であり、先の時雨(シグレ)のイタズラに際して見せた笑っていても怖いという矛盾した笑顔とは訳が違った。

 

 

 だがそれ以上に、これらの情報からある種の衝撃を受けた者がここには居た。

 

 

 真志妻とWarspite(ウォースパイト)である。

 

 既に怒り心頭でその姿が艦娘松島へと変貌していたが、怒りと同時に困惑もしていた。

 

 

 真志妻は自身の体のことは自身が一番良く知っている。そのつもりでいた。

 

 自身の体に埋め込まれたものが艦娘由来の何かである事は、あの日研究施設から脱出した際に押収した資料から知っていた。

 

 だが艦娘だけでなく深海棲艦由来のものまで埋め込みていた事は、今始めて知ったのだ。

 

 これは押収した資料があの日の混乱によって少なからず歯抜けになっていたからであり、その抜けていたピースが情報提供者からの情報によって、埋め合わされた。

 

 

 その事で衝撃は受けたものの、同時に納得もした。

 

 

 あの日、艦娘松島として覚醒したあの時、身体中を無数の弾丸で貫かれた際に出た血の色は、()()()や人間と艦娘共通の赤ではなく、深海棲艦の特徴とも言える()()()だった。

 

 そして肌の色も多くの人型深海棲艦と同じ青白い色をしていた。

 

 今でこそ普段は一般的な肌の色で赤い血ではあるのだが、感情が昂るとその瞳に燐光が灯り、時には肌の色も色素が失われて青白くなる。

 

 かつてマリアナ諸島サイパン島で友軍の陸上部隊の蛮行に激昂した時は、それが顕著に現われて研究施設から脱出する際に大暴れした時の様な感情の昂りだったのを今でも覚えている。

 

 それらは自身の中にある深海棲艦としての要素が、自身の感情に反応して表れているのかもしれない。

 

 

 ふと自身の手に視線を落とすが、若干だが色素が抜けている気がしなくもない。

 

 

 しかし、そうなると自分は人工艦娘であり人工深海棲艦でもある事になるのだが、はてさてこれはこれで反応に困ってしまう。

 

 

 真志妻が今まで知らなかった自身の体の事で、少しばかり困惑しているその横で、Warspite(ウォースパイト)は崩れ落ちそうになる自身の体を支えるのに必死だった。

 

 

 何故真志妻が深海棲艦への敵愾心が希薄か、それは真志妻本人が人間であり艦娘であると同時に、実は深海棲艦としての一面があった事で、無意識レベルで同族意識みたいな物が芽生えていたからではないか?と考え、有り得なくもないか…?と半ば納得していたが、そのことで真志妻が深海棲艦でもあることに関しては、正直どうでもいい。それよりも──

 

 

 身命を賭して戦ってきた。数多の僚艦(戦友)や同胞が傷付き斃れた。その結果が、この仕打ちか!

 

 

  Cavour(カブール)が受けた仕打ちは、本人があまり語りたくなかったというのもあるだろうし、その情報がこちらへと伝わるまでに少しオブラートに包まれた内容となっていた。

 

 その為ここまで酷いとは思っても見なかった。

 

 

 常に姉妹達と共に最前線に身を置き、激戦区を渡り歩いていた自分達は、一体今まで何の為に戦ってきたのか…?成り行きで事実上のクーデターをしてしまったが、それでも深海棲艦に対しての防壁という、最初に人間達と交わした約定を守り続けていた…。

 

 それなのに…、守っていたハズの人間達から後ろ弾の様なマネを繰り返され、今まで守り続けていた諸々の、その根底が足元から崩れ去ったかの様な錯覚に囚われ、人間達に裏切られていたとの気持ちとなり、激しい失望感に襲われていた。

 

 

 だが何よりもWarspite(ウォースパイト)を失望させたのが、この一連の事件に関わっている者達のリストだ。

 

 そのリストにはヨーロッパだけでなく、西側陣営の中枢に関わりのある官民の様々な分野に於ける、現役の名だたる者達の名が列挙されていたのだが、その中にはイギリス政財界にて現役で活動している者達も少なからず含まれていた。

 

 失望の闇に沈むつつある思考の中で、それでも自身の立場とその責任感から、思考を止めないようにと必死に頭を巡らせる。

 

 

 …この事を、陛下(姉さま)達に包み隠さず全て伝えるべきかどうか?

 

 荒れる。間違い無く荒れる。それもイギリス本国だけでは無い。ヨーロッパ全土が荒れに荒れる。いや、もう既に終焉を迎えつつある欧米に対するトドメの一撃。その切っ掛けに成り得る。

 

 少なくとも西側に在籍する艦娘は、確実に離反する。いやもう既に離反は始まっている。始まっているからこそ、 Cavour(カブール)の呼び掛けに応じて武装蜂起に乗り気になった者達がわんさかと集まった。集まってしまったものだから、陛下(姉さま)は慌てた。慌てたからこそ、和戦両用の構えで動いた。

 

 そして事態を重く見たからこそ新ロシア連邦(NRF)は非公式とはいえ、前大統領と現役国防相などという特大のカードを切ってきたのだ。

 

 

 なんだかんだ言って、英露両者の考えは共通していた。火消しが目的だったのだ。

 

 

 陛下(姉さま)Cavour(カブール)を宥めるためだったが、それだけで引き下がれるほど事態は軽く無いと新ロシア連邦(NRF)は見ていた。

 

 既に拳は振り上げられているのだ。

 

  Cavour(カブール)という火種から出た火事の飛び火は、既に各地で延焼を引き起こしつつあった。

 

 彼女に同調した各国の艦娘や彼女達と志を共にすることを決めた、決めてしまった決意ガンギマリな軍人連中という名の、途轍もない特大な拳だ。

 

 その拳が振り下ろされる事によって引き起こされる、ヨーロッパ全土を燃やしかねない大火の混乱を最小限にすべく、EUの中枢という明確な“敵”を指し示す事で、矛先を誘導して被害を最小限に食い止めようとした。

 

 EU中枢が今回の事に関わっているのは、ほぼ確実であると見て間違い無い為、全くの冤罪では無い。

 

 これによって振り上げられた巨大な拳は振り下ろす場所を見付けてスッキリするし、新ロシア連邦(NRF)としたら何かと因縁を付けて来てウザったいこと極まりなかったEU中枢を始末出来てスッキリする。両者Win-Winだ。

 

 

 そのハズだった。

 

 

 だが、そこにこのヨーロッパのトップはほぼマックロクロスケだったという、特大の爆弾足り得る情報を送ったら…、沈静化しつつある火種がまた一挙に炎が燃え上がって、一挙に覆る危険性が高い。

 

 EU中枢を潰そうと持ち掛けた新ロシア連邦(NRF)も、中枢のみを狙うという事実上の斬首作戦ならば、まだ混乱が最小限度に抑えられるとの見積もりから、陛下(姉さま)もそれならばまだなんとかなるか…、と渋々ながらも承諾したのだ。

 

 

 その根底が崩れ去る。

 

 

 そうなったら間違い無く今も現場にいるであろう前大統領はブチギレる。このままだと西側の自殺に我が国も巻き込まれ、共倒れになる!と。

 

 

 もしも今、ヨーロッパが完全に動乱状態に陥って無政府状態となったら、その際に発生する難民はどこへ向かうか?

 

 今難民を受け入れるだけの余裕なんて、どこも無い。比較的余裕があるとされている新ロシア連邦(NRF)やその友好国さえ、自国の事で手一杯なのだ。

 

 それもこれも元を正せば西側が無為無策な刹那主義的な自滅路線を突き進んだ結果、そのどデカい負債を周りにも押し付けようと迷惑を掛けまくった影響が関わっている。

 

 

 ヨーロッパは近い内に崩壊する。それは誰しもが頭の片隅で思っていた事だが、今すぐ崩壊されては、非常に困る。

 

 崩壊するにしても、せめて嘗てのソビエトの崩壊の様にある程度は計画的に崩壊して貰わなくては、人心の混乱は予測困難でコントロール不能な津波となって各地に押し寄せる。

 

 新ロシア連邦(NRF)が西部国境地帯に軍を集結させているらしいが、本来の国境警備隊である連邦保安庁(FSB)傘下の国境軍の部隊を足してもとても足りない。喩え中央軍管区や東部軍管区から、更には予備役すらも根こそぎ動員を掛けたとしても、人の波というのは完璧には防ぐことが難しい。

 

 Гангут(ガングート)もその事に気付いたのだろう。難しい顔をしながら考え込んでいる。

 

 

 …正直、頭が痛い。

 

 

 このままこの情報を握り潰すことも考えたが、それはそれでリスクがある。

 

 何故ならば今回開示された情報には無かったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、もしかしたら今の所は研究施設は無いからこそ、情報に含まれて無いだけかもしれないが、物事は最悪を想定しなければ後々に足元を掬われる事になる。

 

 今現在は無くとも、将来的にどこかで再建される可能性だってあるのだ。

 

 それは斬首作戦(頭を潰した)だけで防ぎ切れる問題ではない。

 

 

 …やるしか無い。

 

 

 どうするかは、陛下(姉さま)と前大統領に任せよう。

 

 

 人それを丸投げ、他人任せと言う。しかし強制留学の一件(先の事)もあり、ちょっとばかり仕返ししても、バチは当たらないだろうと、開き直ることとした。

 

 それにである。ハッキリ言って、問題が大き過ぎて手に負えないのだ。

 

 

 

 結論を先に述べると、Гангут(ガングート)と、事情の説明を聞いた真志妻と土方との共同で現地に居ると聞いている国防相スラヴァ(ミロスラヴァ)へと連絡を入れた。

 

 

 詳細は割愛させていただくが、まぁ一悶着が起きたものの、そこまで荒れることは起きなかった。*1

 

 

 この後すぐに協議に入るとして、暫く待つようにと申し渡されることとなった。

 

 

 その待ち時間を利用して、Warspite(ウォースパイト)はある質問を土方へと投げ掛けた。

 

 

 

 曰く、貴方達が未来の存在なのは理解した。でも何故ハルサメ達を使っての軍事的な優位性の確保を行わなかったのか?せめてもう少し前面に押し出していれば、日本の消耗も抑えられたのではないのか?と。

 

 

 ハルサメ達が、通常のシラツユ型の艦娘の艤装を使用して活動しているのは知っている。

 

 それでも見るものが見たらその差異が分かるし、よく訓練されているが、その動きに窮屈さを感じる時がある。

 

 

 出過ぎた真似であり不躾な質問だとは重々承知している。 

 

 だが力を持つのであれば、その行使を躊躇う理由をちゃんと知りたかったし、いずれこの事は公開しなければならなくなる時が来るかもしれないのだ。

 

 

 その時みなが納得するとは限らない。防げた犠牲、出なくて良かったかもしれない犠牲を防がなかった。その努力を意図的に怠ったと、糾弾されて大きな軋轢を生み、将来の火種となるか孤立化して村八分な扱いを受けるリスクだって充分に考えられる。

 

 

 その覚悟はあるのか?

 

 

 彼女はそれが知りたかった。

 

 

 

 

*1
せいぜい合気道を嗜んでいたという前大統領が、顔色一つ変えることは無く調度品の机に拳を叩き付けて凹ませたくらいである。逆にそのお陰でそれ以上荒れることはなかった。





 …なんか書いてたらコスモガン系統の捏ぞ…独自解釈話の文量が思いの外多かったな。


 補足しておきますと、真志妻大将は本編で語りました通り、人間であり艦娘であり、また深海棲艦としての一面があります。体の仕組みは、まぁカオスとしか言い様がありません。比率の割合で言えば、その時々で変動はしますが、艦娘6の人間3の深海棲艦1くらいですかね。
 その辺に関しては、またいずれ本編で。

 以前本編にて姫様達による会合、通称“円卓”にて「アンドロメダを同胞(はらから)に出来ないか?」との疑問に対してヨーロッパ大西洋方面担当の欧州棲姫が「出来なくは無いが、語れない」と言った趣旨の発言をしたのは、この Cavour(カブール)の事によるものでした。
 現状、深海棲艦化は余りにも不安定でハイリスクな賭けになります。下手するとアンドロメダでもその肉体が弾け飛びますし、何より問題なのは確実に深海棲艦の誰かが犠牲になります。そんなことを、アンドロメダは望みません。


補足説明

99式突撃銃と97式自動拳銃

 99式突撃銃はヤマト2202本編にて、斉藤始率いる空間騎兵隊が第十一番惑星での戦闘で使用。

 97式自動拳銃はキービジュアル画像で斉藤始が構えている姿でのみ登場し、本編未登場。


国境軍(Пограничные войска;略称:ПВ)

 正式にはロシア連邦保安庁国境警備局(Пограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации)。

 ロシア連邦の国境警備隊、沿岸警備隊。

 ソ連時代はソ連国家保安委員会(KGB)に所属し、ロシア連邦時代に連邦国境庁(FPS)として独立したが、2003年3月、連邦保安庁(FSB)所属に移管された。

 日本ではロシア国境警備隊と呼ばれることが多い。

 5月28日が『国境警備隊の日』とされている。

Wikipediaより抜粋


 



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
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