艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。
鉄血宰相Otto(オットー) von(フォン) Bismarck(ビスマルク)



 思っていたよりも長引いた…。


第85話 Nur ein Idiot glaubt, aus den eigenen Erfahrungen zu lernen.

 

 

 

「留学生?」

 

 

 訝しむ顔で飛行場姫は霧島(キリシマ)の顔を見遣る。 

 

 

「あんたも知ってるとは思うが、私ゃぁСлава(スラヴァ)新ロシア連邦(NRF)の国防と軍事を総括する立場の役職にあるМирослава(ミロスラヴァ)国防相とは個人的な繋がりがある。で、その国防相はかの国で最も権威のある学び舎で学長…、まぁ学び舎で一番偉い立場を務めている人物と思ってくれていい。その人物とかなり懇意な間柄だ。

 

 そんでその学長は政治と経済、外交政策に国家安全保障といったものを専門としている。確か法律関係にも詳しいと聞く。

 

 あんたらの中で素質がありそうな奴、最初は希望者を募ってもいいと思う。そいつらをそこに留学出来る様、奴に話をつけてみようと考えている」

 

 

 霧島(キリシマ)が言う学び舎とは新ロシア連邦(NRF)の中でもかなり権威のある国立研究大学とされるВы́сшая шко́ла эконо́мики(モスクワ高等経済学院)のことであるが、そういった知識に疎いと思われる飛行場姫に配慮して“学び舎”というかなり噛み砕いた言葉を使った、

 

 実際飛行場姫は学び舎──学校──という物がどういう場所なのかは知識としては知っているし、同胞(はらから)の考えとして学ぶ事の大切さを──程度の差はあるが──理解しているからこそ、領域内では寺子屋的な教育の場を設けている。

 

 しかしそれはザックリと言えば初等教育に於ける“読み書き算盤”が出来ればそれで良しという、かなり割り切った教育方針であるのだが、これは上位種である姫級を含めた深海棲艦達が教えられるだけの知識がこれ以外だと、今まで培って来た農作業などの一次産業の技術や最低限の調理技術に衛生概念、万が一に際してのサバイバル技術といった、生存の為に必要となる知識と技術。それに人間には使い道の無い、深海棲艦としての戦闘技術くらいの知識しか持ち合わせていなかったのと、別にそれで今まで不自由を感じた事が無かったからという事情があったりする。

 

 

 そのため中等教育は勿論のこと、より高度で専門的な知識を学ぶ所謂高等教育とされる大学や専門学校といった存在に関しては、人類の領域内で活動している同胞(はらから)以外だと馴染みがなさ過ぎて、話題にすら上がらず殆どの同胞(はらから)が知らないし聞いたとしても話半分で聞き流していた。

 

 飛行場姫もそういった一人であり、詳しく聞かされても理解が追い付かなかっただろうが、少なくとも自分達がやっている教育よりも高度で、紹介に上がった学長とやらがとても偉い、それも一国家の軍隊を束ねる者、自分達で言うところの方面海域基幹部隊を束ねる責任者たる姫級(上位種)統率個体の方面軍総司令官(方面総代)に匹敵する者と懇意であるということは、相当な影響力を持つ人物である事と察した。

 

 因みにその読みは的を得ており、その学長とは新ロシア連邦(NRF)の前大統領Путина(プーチナ)氏の事であるが、霧島(キリシマ)は敢えてその事は黙っておいた。

 

 

「伝手ってのはぁこんな時に便利なもんさ。奴に貸しを作っちまうが、まぁこの際だ」

 

 

「でもねぇ、貴女の好意は嬉しいけど、本当に必要なの?」

 

 

 先にも述べたが、深海棲艦は“学び”というものに肯定的である。それに自分達だって知らない事は沢山ある。

 

 だがそれは日々の生活に密着した、生存に不可欠な知識と比べるとそこまで重要なことなのか?という点で応えに詰まってしまう。

 

 

 飛行場姫の本心としては、これからの自分達の未来を考えると高度な知識は必要であるとは考えている。

 

 

 なんだかんだ言って、今この島はアンドロメダを介してだが、西太平洋方面に於ける人類との事実上の外交の最前線みたいな地となっている。

 

 

 しかしその実態は殆どアンドロメダにおんぶにだっこな有り様だった。

 

 端的に言って、知識の差があり過ぎて話に付いて行けていないのが実情であり、立場上同席しても殆ど蚊帳の外で半ばお飾りの置物同然となってしまっているのだ。

 

 

 この現状に飛行場姫は軽い危機感をいだいているのだが、自身も出席権を有する方面部隊を束ねる最高責任者の姫級(上位種)統率個体とそのオブザーバーの姫級(上位種)達による最高意思決定会議である“円卓”に席を連ねる他の姫級(上位種)統率個体達の反応は、芳しくなかった。

 

 先日、アンドロメダを介して少しずつでも人材交流を試みるべきではないか?との考えを議題として挙げたのだが、一定の理解は得られたものの、先に霧島(キリシマ)に述べた言葉の様に「本当に必要なの?」という疑問と生活での必然性との出席者からの問いに、飛行場姫は言葉に詰まってしまったのだ。

 

 

 …いや、この言葉は“建前”だと飛行場姫が察したからこそ、言葉に詰まってしまったというのが正しい。

 

 

 疑問を投げ掛けた彼女達の本心はここ最近拡大の一途を辿っている人類の内紛、何よりも人類にとって味方であるはずの艦娘を平気で裏切る真似をしていたという衝撃的な事実が世界に拡散され、この事実に激怒した艦娘が人類に愛想を尽かして所属していた国家の軍隊から離反し、武装蜂起──長年の交戦相手とはいえ、この事には艦娘に対して非常に同情しているし、こうなったのも仕方無いとの思いが強い──にまで至った。更に一部の人間達すらも蜂起した艦娘達に同調して合流し、対立状態は激化の一途を辿ってしまっている現状を鑑みるに、下手に巻き込まれる事態を恐れて人類との接触はより慎重を期すべきではないか?という考えが優勢を占めてきていることと無関係ではないだろう。

 

 

 なによりそんな人類から学べることなんて本当にあるのか?という疑念の空気感があった。こうなっては飛行場姫としても閉口するしかなかった。

 

 

 この飛行場姫からの問いに、霧島(キリシマ)は意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

 

 ぶっちゃけると霧島(キリシマ)もその考えに一定の理解を示している。深海棲艦の領域内だと高度な学問を修めても、せいぜい農耕作業で使用する機械類の修理やメンテナンス知識くらいにしか役に立たないだろうが、なんだかんだ言って地頭の良い深海棲艦達は独力でどうにかしてしまっているし、深海棲艦の人類に対する疑念と疑心は最もな考えだ。

 

 

「学歴なんてモンは正直何の役にも立たんさ。学歴云々でどうにかなるなら、この世界はもっとマシだった筈さね。

 

 当然さ。目先の事しか見えてない莫迦共のせいで、コネやカネさえ積めばなんとでもなっちまう様になったから、箔付けのファッションやアクセサリー程度の感覚で扱われ、(ガワ)の見てくれは綺羅びやかだけど、その実態は中身の無い見掛け倒しだけの価値になっちまった。それも今や塵紙も同然、いや、それ以下の価値しかない。

 

 …西側では特にね」

 

 

 イギリスの現国家元首、そして日本に派遣されている東洋艦隊旗艦艦娘Warspite(ウォースパイト)の姉である女王のQueen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)は、そのWarspite(ウォースパイト)を自国や従来の友好国──西側諸国──の有名大学を軒並み無視し、敢えて従来は敵国として扱われてきた新ロシア連邦(NRF)へと留学させる事を──本人の意志まで無視されたらしいが──決定したと聞く。

 

 これは詰まり自国を含めた西側諸国の大学が如何に“使()()()()()()()()”かを、直接的な文言こそ使っていないが如実に物語っていた。

 

 

 何処もかしこもグローバリズムを絶対視する極左リベラル思想に染まり切った教員を自称する左翼活動家の集会場で、リベラルのリベラルによるリベラルの自己肯定感、自己満足を満たすためのカルト的思想教化を施す場と化したゴミ溜めであると話には聞いていた。それでも学歴至上主義社会にしがみつく西側諸国では、そんな実態を知ろうともせずにそのゴミ溜めを未だに有難がっているのだ。実に不健康極まり無い。

 

 

 お陰で国は内部からぐっちゃぐちゃになった。政治も経済もなんもかんもが深刻な動脈硬化と自浄作用の欠如から、多臓器不全を自発的に患って勝手に機能不全に陥った。

 

 

 こんな度し難い有り様ならば、無理を押してでも()()されていないマトモな教育機関に留学させた方がマシだと考えたとしても、何ら不思議なことではない。

 

 

 それで選ばれたのが、新ロシア連邦(NRF)なのだ。

 

 

 それにこれは外交の世界に於いては両国の接近をアピールする狙いもあるだろう。

 

 故に、王位継承権序列筆頭たる自身の妹Warspite(ウォースパイト)を、対日軍事支援を名目とした東洋艦隊の旗艦に勅命によって任命。日本へと派遣し、軍務の陰でより重要度の高い任務として時が来たら日本海軍の艦娘部隊の総司令官、“総提督”真志妻大将への秘密特使としての役目も与え、その時が来ていざ動き出した矢先にも関わらず、特に後任とかの言及は無いまま、太平洋での日露深海棲艦会談(ビッグイベント)の動向を見届けたらその足でモスクワへと向かえとの勅命を出した程だと聞く。

 

 正式な命令系統による下知があった訳ではないらしい。だが“国王”という名の最高権力者が統治する国家では、その最高権力者──独裁者──たる王の言葉であるとされるモノは、それが如何なるモノであれ、そのまま国家の意思・決定事項として、勅命という絶対的な強制力と拘束力を持った不可侵の命令として機能する。

 

 

 この一連の話を聞いた時から、今回の事を考え出していた。

 

 

 Q.Eは既存の硬直化した西側諸国のグローバリズム至上主義に対して中指を立て、真っ向から喧嘩を売るかの様に強い拒否反応を示している。それは西側諸国で蔓延するグローバリズムへの警戒と反意を掲げる新ロシア連邦(NRF)の方針とも合致していた。

 

 

 グローバリズムは最終的に国家の自立性と独立性を否定し、国境を曖昧にして既存の伝統と文化、価値観を内部から破壊する事でその国が築き上げてきたあらゆる物を崩壊させ、形だけ残して内部を事実上消滅させたも同然の状態へと陥らせる。

 

 これは旧ソ連で人民に共産革命の理念と社会主義を浸透させる目的で実行された手法と酷似している。グローバリズムを共産主義(コミュニズム)に置き換えれば、両者はそこまで大きな差は無いのだ。

 

 

 さて、艦娘とはその多くが第一次と第二次大戦期の列強国で建造された艦艇、徴用船舶がモデルとなっている。この当時共産主義という思想に対してあまり肯定的とは言えない風潮であり、その思想の拡大と侵蝕に強い不快感をいだかれる事もあった。

 

 

 そういった時代の世相が影響してか、艦娘の多くは共産主義思想を否定する立場であり、また旧ソ連系艦娘はコミュニスト的発言こそするものの、共産革命後の混乱やбольшевики́(ボリシェヴィキ)などの党指導部の方針が海軍戦略を巡って半ば迷走していた影響により、艦艇の維持管理にも少なからず支障を受けたという、実質冷遇されていたとも言える時期の艦艇達の艦娘であることから、更にはその後のソ連崩壊に至るまでの歴史的事実の記録を閲覧した事により、内心では共産主義思想を最も冷笑し、否定どころか拒絶している艦娘達であった。

 

 

 詰まり、艦娘は共産主義思想とは相容れず、共産主義と酷似した思想を持つグローバリズムに対しても強い反発心と忌避感をいだいているのだ。

 

 

 Q.Eが国家の全権に対する裁量権を持つ独裁者の女王として君臨するという、グローバリズムに反意を持つ艦娘が国家の主導権を掌握した今のイギリスと、グローバリズムを掲げる西側諸国と対立する新ロシア連邦(NRF)との協調路線は、ある意味で自然な流れとも言えた。

 

 

 霧島(キリシマ)のQ.Eに対する個人的な見解だが、直接言葉を交わし合ったWarspite(ウォースパイト)の証言や自身の権限で閲覧可能なQ.Eに関する報告書や記録に記された発言などから、やや直情型な言動は見られるものの、それでも細かく見ていくと客観性に基づく現実から逸脱しない冷徹な思考と、そして時折覗かせる冷酷な一面も併せ持っていると分析していた。

 

 でなければ、国家運営に関わる重要な役職の立場にある人間を何人も粛清染みた永久解雇など行なわないだろうし、人間には頼むに及ばないと言わんばかりに、自身の名代とも言える艦娘を国政に携わらせようとしないだろう。

 

 事実外交を取り仕切っているのは、第一次と第二次世界大戦の戦間期に締結された軍縮条約で廃艦された経緯のある艦艇の艦娘達で編制された、謂わば人間達から二線級戦力の集まりとの烙印を押されていた予備役艦隊に所属する準弩級戦艦艦娘のミニNelson(ネルソン)こと“外務卿”のLoad(ロード) Nelson(ネルソン)であるし、三軍の軍権はQ.Eが掌握しているが、内政に注力すべく自身の最も影響力のある海軍に関しては本国艦隊の中核戦力近衛艦隊旗艦を拝命していた“海軍卿”の巡洋戦艦艦娘Hood(フッド)に任せている。

 

 

 Q.Eは人間をあまり信用せず、内政や諜報分野で代替が効かない場合を除いて国権で人間を重用することを避け、重要ポストや案件からは徐々に人間を遠ざけている。信じるのは苦楽を共にした妹達や仲間の艦娘達のみ。

 

 必要ならば不要と判断した閣僚や官吏は尽く見せしめの対象として処断。良くて中枢から有無を言わせず放り出して「今まで放ったらかしにしてきたツケの後始末をやって来い!」と言わんばかりに地方へと左遷(蹴り飛ば)しているらしい。

 

 特にグローバリズムに傾倒する者は容赦無く“消して”いる。

 

 

 だがそれでも()()()()控えめだった。一気にやり過ぎると内政の混乱による停滞が酷くなるから。でもそれが最近遠慮が無くなりつつある。そうWarspite(ウォースパイト)は言っていた。

 

 「Draft solution plan(解決計画案)」。そう彼女は呼んでいたが、今まで“保留”とされていた者達の“処理”をいつどの様にするかとの具体的な内容が急速に決定事項として決済されているとのこと。

 

 

 国の内情を他国の軍関係者に喋ってもいいのか?と思われるかもしれないが、ハッキングが趣味の山風(ヤマカゼ)が、まぁ、()()何でもないかの様に「…これはなに?」と“見つけ出した”のである。Warspite(ウォースパイト)は泡を吹いた。可能な限り外部に漏れ出さない様に、基本は直接口頭や紙媒体で尚且つ事前に決められた隠語(スラング)による暗号化を使ってやり取りされるが、距離の問題と迅速性の観点から電子的にやり取りされるケースもあるのだが、それを山風(ヤマカゼ)にキャッチされて解読されてしまった。まぁ些細なことである。

 

 閑話休題。

 

 

 この急激な動きはWarspite(ウォースパイト)新ロシア連邦(NRF)への留学が決まった時期と連動している。

 

 今までは代わりが居ないとされてお目溢しされていた人間達を、もう要らないと出来る目処が立ったのだ。

 

 

 詰まり、Q.EはWarspite(ウォースパイト)を筆頭にして、多数の艦娘を一挙に留学させるつもりなのだ。

 

 

 それも新ロシア連邦(NRF)の元大統領が学長を務める国立研究大学だ。それは新ロシア連邦(NRF)政府の意向を色濃く受ける可能性が高い事を承知の上で、自身の大切な妹を預ける決断を下した。

 

 Q.Eは新ロシア連邦(NRF)を信用に足る相手と判断したのだ。

 

 

 霧島(キリシマ)はQ.Eの大胆な決断に便乗する形で、今回の留学話を飛行場姫に持ち掛けた。

 

 …元々はアンドロメダ(教え子)にもっと色々と経験を積ませてやりたいとの想いからだったが。

 

 

 

「…価値があるのは、そこで得られた知識じゃァ無いさね。得られたその知識をどう“活かす”かによって、本当の価値が決まる」

 

 

 そこで言葉を切り、まるで内緒話でもするかの様に霧島(キリシマ)は飛行場姫に向けてズイッと身を乗り出す。

 

 

「アンタらに学んで欲しいのは、“人類の()()()()()()”」

 

 

「はぁ?」

 

 

 予想外の霧島(キリシマ)の言葉に、飛行場姫は面食らった顔で素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

 

「“Nur ein Idiot glaubt, aus den eigenen Erfahrungen zu lernen(愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。).”

 

 大昔の政治家が遺した言葉らしいんだけどね、簡単に言やぁ、過去に誰かが痛い目を見る失敗の経験をし、その詳しい記録もちゃんと残ってんのに、それを無視してわざわざ二の舞を演じて痛い目ぇ見る経験をしないと分からん連中より、先人達の記録を探し出して学び、痛い目を見なくて済む方策を立てる努力が出来る奴の方が賢いって言ってんのさ」

 

 

 成る程。一理あるな。と飛行場姫は考えた。思えば今まで試行錯誤してきたものの中には、既に人類が経験して試行錯誤を既に終えているものもあるだろう。

 

 失敗とは経験。成功もまた経験。それら無数の試行錯誤の経験が積み重なって出来た結果の記録の厚さが、歴史というものになる。その積み重ねた歴史の厚さの差は詰まる所、自分達と人類との間に広がる蓄積された経験の差となるである。

 

 それを知れば、今後の方針決定に於いて何をしたら良いか?何をしたら駄目なのか?の判断基準にもなる。

 

 損な話では無い。寧ろ値千金の価値ある話だ。人類と似た過ちを行わないため、今後の行動方針策定に際してその予防策を立てる指標として人類が犯した過去の過ちの歴史を調べ上げる。これならば“円卓”での同意も得られるかもしれないと飛行場姫は考えた。

 

 

 ここでふと、飛行場姫はあることを思った。

 

 

「貴女も出来るんじゃないの?貴女も結構物知りだし、アタシもこうして色々と教えてもらってるけどさ、請われたらいろんなこと教えてくれる人相は悪くてぶっきらぼうだけど、とても優しくて良いヒトだって皆から人気よ。貴女」

 

 

 この飛行場姫からの素朴な疑問に霧島(キリシマ)は顎を擦りながら少し考える素振りをしながら答えた。

 

 

「あ~、まぁ、人相とかそこら辺は…、まぁどうでもいいか。

 

 取り敢えず、出来なくもないっちゃないけどねぇ…。この世界のヤラカシの歴史じゃァこの世界の(モン)に聞いた方がいい。

 

 私じゃどうしても元々いた世界での歴史と価値観に引っ張られる。当事者としてではなく、第三者の目線になっちまうからさ」

 

 

 霧島(キリシマ)が本来居た世界だと、丁度今頃は東西両陣営による米ソ冷戦期を上回るペースでの宇宙開発競争真っ盛りで、確か最初期の月面開発からの有人宇宙探査並びに新規宇宙航路開拓による、対立陣営との有事に際しての制宙権確保を目的とした第一期宇宙建艦競争時代に差し掛かる時期だったが、この世界では国力と技術力がある新ロシア連邦(NRF)を以ってしても、未だ月面開発すら覚束ない状態にある。

 

 無論、ヤラカシが無かった訳ではないのだが、その方向性と程度が全然違う。自分が居た世界も中々に酷かったと思うが、この世界と比べたらまだマシに思えてしまう。

 

 思うに、米ソ冷戦構造終結以降、人類が“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”、その選択肢の違いが大きな分水嶺になったのだと霧島(キリシマ)は見ている。

 

 

「そうかもしれないけど、ならその視点や価値観から言える事もあるんじゃない?」

 

 

 霧島(キリシマ)は一瞬呆気に取られた様な顔を浮かべた。今言われたことは全く考えて無かった。

 

 

「…確かに。そういう考えもアリだねぇ。

 

 だがこれはちょっと考えさせて欲しいから、一端棚上げにさせてもらうよ」

 

 

「そう…。まぁ出来れば前向きに考えて欲しいわね。貴女の経験から得られた知見だって、この世界では貴重なものよ」

 

 

 霧島(キリシマ)は特に反応を返す事はしなかったが、内心で「参ったねぇ…」と思っていた。

 

 詰まる所、飛行場姫は自分に本格的な講師になったらどうか?と提案して来たのだ。

 

 もしかしたらそこまで深い意味は無かった、半ばその場の思い付きで言ってみただけなのかもしれなかったが、現状が一段落したらアンドロメダ達の傍で、ロッキングチェアに揺られながらの気儘な楽隠居でもとの漠然とした考えでいた。なんなら戯れに自叙伝みたいな本の一冊でも執筆してみるかとも。

 

 …自分だってこの先いつまで生きていられるか分からないのだ。ならせめて、可愛いアンドロメダ(教え子)のために何かしらの形のある物を遺してやっても良いかもと、そう考えていた。

 

 

 だが飛行場姫の提案に、一瞬だが心が揺れた思いがした。悠々自適な老後を過ごすよりもそっちのほうが、なんだか楽しそうかもしれないと心動かされたのだ。

 

 

 とは言え、それは話の本筋から外れてしまうため、今は一端心の内にとどめる事にした。

 

 今は留学に関する事をどうするか?だ。

 

 仕切り直しと言わんばかりに霧島(キリシマ)はグラスに残った氷が溶け出して薄くなったスコッチを一気に呷り、小さくなった氷だけが残るグラスをテーブルに置いた。

 

 

「留学が上手く行きゃぁ、後々役に立つ人脈というパイプが出来るし、そこから友好の架け橋に発展させる事だって不可能じゃなくなる」

 

 

「…そこまで人間達と馴れ合う気は無いわよ」

 

 

 (カラ)になったグラスに追加の氷を入れ、スコッチを注いで霧島(キリシマ)に渡しながら、飛行場姫がそう漏らした。

 

 

「それでも構わんさね。だが今の戦争は遠からず人類の内部分裂と崩壊による自滅敗けで終わる。そん時、お前さんらは人類の上に立って支配したいって考えは、あるかい?」

 

 

「無いわよそんなの。そもそもアタシ達はアタシ達の事で精一杯なのに、余所の世話にまで積極的に首を突っ込む気なんてサラサラ無いわよ。面倒臭いし」

 

 

 支配領域が拡がり、遂には陸上で国境を接する様になって痛感した。本当に追い詰められた人間は何にだって縋ろうとする。だが中には臆面もなく平然と頼ろうとしてくる人間だってかなり居る。

 

 まだ縋ってくるだけなら良い。ちゃんと立場を弁えてこちらの言うことを聞いてルールを守り一生懸命、我武者羅になって働いてくれるからだ。そうなると無碍には出来ないという気持ちから、ちゃんとした対価を払ってあげている。必要ならば保護もしている。但し、問題を起こしたら問答無用という信賞必罰の姿勢は見せている。が、起きている問題の大半は我武者羅に働き過ぎての過労によるものであり、流石にそれは罰せないと頭を抱え、待遇改善やら働き方改革やらなにやらで大変な思いをしている。

 

 が、臆面もない連中は問題だらけである。言うことをマトモに聞かないし変に我が強く反抗的だ。働きは微妙だけど権利は矢鱈と声高に主張する。そいつらには心置き無く問答無用である。

 

 本当ならば領域内に入ってくる前に即お帰り願いたいが、最初の内は見分けがつかないし、何よりそんな連中に限って──その場限りだが──紛れ込むのが上手かったりするから、余計に手を焼いて大変迷惑している。

 

 

 現状でコレなのだから、支配領域が拡大すればもっと大変な事になる。今までは人間の殆ど居ない見捨てられた海洋の元島国を支配下に治めていたから、海洋という天然の防壁が篩となってくれていた。海は、気紛れに少し荒れただけで容易に人間の命を奪う。本当に追い詰められた人間はそこを超えようと必死になるし、それでいて縋ろうとする相手は自分達の様な人間ではない。人間など虫けら同然に簡単に殺す事が出来る所謂化け物の集団なのだから、それに縋ろうとしている時点で決意ガンギマリ、いや、頭が可怪しくなっている様なモノだ。その方が逆に扱いやすかった。

 

 

 だがその海洋という天然の防壁が無くなれば、篩のハードルが下がる。その分、扱い難いワガママな人間が増えるのだ。考えただけで頭が痛くなってくる。

 

 

「ハハッ。確かにな。私だってそんな連中は願い下げさね。

 

 だが、人類との関係を断ち切るにゃぁ、色々と不都合がある。完全に自分達の勢力圏内だけの力で自給自足が出来ていない以上は、持ちつ持たれつの関係にならざるを得ないのが現実だ」

 

 

 霧島(キリシマ)のその指摘は事実だ。

 

 農作業で使用されている化学肥料や機械類。機械を動かすのに必要な精製された石油燃料の調達には人類に依存しているのが現状だ。

 

 これには飛行場姫も率直に頷いて返した。意地を張ってもどうにもならない事があるくらい弁えているし、無理なことは無理だという分別は出来る。

 

 

 だが兎も角、今はまずは少しずつでも学ぶべき事を広げるための、その切っ掛け作りが大切だ。キリシマ(彼女)の助言のお陰でなんとかなりそうだ。

 

 

 そう飛行場姫は考え、すっかり冷めてしまったアイリッシュコーヒーを一口啜った。 

 

 

 この時霧島(キリシマ)はそれとなく周りを軽く見渡し、声を潜める様にして飛行場姫にある秘密を打ち明けた。

 

 

 

「私がこの話をアンタに持ち掛けたのは、土方の叔父貴が…、そう長くないからだ…」 

 

 

「なっ!?どういうことっ!?」

 

 

 思わぬ霧島(キリシマ)の言葉に、飛行場姫は軽く取り乱してしまう。

 

 

「私もそう詳しくは知らん。だがこの世界へとやって来た時に、どういう事情があったのか、艦娘の艦載機に誤って撃たれて瀕死の重傷を負ったのは確かだ。

 

 幸い手当ては上手くいったらしいが、弾片が全て摘出された訳ではないらしい。なにより、叔父貴も年齢からして本来ならば軍務から退いていても可怪しくないのに、無理に無理を重ねた事で身体はかなりボロボロだ。

 

 …本人は隠しているつもりだろうけどね、見る者が見たら分かっちまうもんさ」

 

 

 そう語る霧島(キリシマ)の目は、飛行場姫の顔を見ているようで、何処かここではない、嘗て無力な宇宙戦艦として戦った凄惨な戦い(別の場所の筆舌し難い風景)の記憶を幻視しているかの様に虚ろで、その瞳を見ていると何だか意識が引き込まれそうになる錯覚を覚え、飛行場姫は恐怖から背筋に冷たい物が流れた気がした。

 

 

「…叔父貴は、本当ならアンドロメダ(あの娘)を匿ってやりたかった。そのために真志妻の嬢ちゃんに頼んで人間としての偽の戸籍まで用意してもらっていた。その事に嬢ちゃんも乗り気だ。

 

 カネさえあれば戸籍や過去の経歴なんてどうとでもなる。それに、真志妻の嬢ちゃんのお陰もあるが、伊達にガミラスとの戦いを生き延びた叔父貴の経験。それに裏打ちされた叔父貴の能力は伊達じゃないさ。そんな叔父貴に比べたらケツの青いヒヨッコ共しか居ない軍での影響力はかなりのモンだ。だからアンドロメダ(あの娘)を軍人にして自分の子飼いの参謀として庇護下に置き、適当な時期に予備役編入させる事を最初は考えていた。

 

 だけどアンドロメダ(あの娘)は中々こっちには来なかった。お陰で当初の予定はほぼご破産になった」

 

 

 ここで一端区切り、喉を潤す様に飛行場姫が注いでくれたスコッチを一口飲むと、続きを話し出す。

 

 

「このままだといずれ年齢からの限界も近い。その代わりとしてアンドロメダ(あの娘)を託せる者を探す様になった。

 

 私がここに来た本当の理由は、叔父貴の代わりにこの目で、この耳で、この言葉で直接確かめたかった。アンドロメダ(あの娘)を託すのに、アンタ達が信頼に値するかどうかの確信を得たかった。

 

 そして、今後アンドロメダ(あの娘)が無理を背負い込む事が無いように、アンドロメダ(あの娘)を支えられるだけの人材が居るか、アンドロメダ(あの娘)の無理な苦労をせず分かち合える下地作りのためだ」

 

 

 しばし沈黙が流れる。霧島(キリシマ)の葉巻から立ち昇る紫煙が、二人の間に流れる。

 

 

 短い時間だが、飛行場姫も土方と画面越しではあっても何度か顔を合わせ、言葉を交わし合った。

 

 厳格な風貌で些か頑固そうな感じであったし、何より日本海軍の防衛戦略の(かなめ)とされる人物であり、『鬼竜』の渾名が有るとの噂も聞いていたため、最初こそ緊張はしたものの、実際に話してみた限りではとても話の分かる素敵なオジサマであるというのが、飛行場姫の土方に対する印象であった。

 

 何よりアンドロメダとアポロノーム、そして目の前にいる霧島(キリシマ)が多大な信頼を寄せている御仁なのだ。悪い人間だとは最初から考えてなかったし、話している内に段々と土方という人間に対して興味を惹かれていった。

 

 その土方ともう後数日したら直接会える事に、内心ではとても楽しみにしていた。自分のブレンドしたオリジナルコーヒーを手ずからに振る舞いたいと思っていた。贈り物として自身のお気に入りの秘蔵のコーヒー豆をプレゼントしてみたいと思っていた。

 

 

 だが、その土方は先が短い事に飛行場姫はショックを隠し切れなかった。

 

 

 しかしその土方から自身に何かあった時は自身の代わりとして、アンドロメダ達の事を託したいとの期待を寄せられているというのなら、その期待に応えるべく奮起するしかない。

 

 飛行場姫は何があってもアンドロメダとアポロノームの2人、そして彼女達に忠を尽くす為に付き従うと決めている娘達の事を、自分が居る限りは必ず護り抜くとの新たな決意をその胸にいだいた。

 

 

 

 

 余談だが、後年モスクワ高等経済学院は深海棲艦と各国或いは分離独立勢力や独自勢力に属する艦娘達の留学を積極的に受け入れ、自国民を含めた共に学び合う学友としてだけでなく、深海棲艦と艦娘の各勢力が何かしらの取り決めや約束事を交わす国際会議場の様な役割を果たすこととなる。

 

 また何処の学会にも属さない無名の、車椅子に乗った人相の悪いぶっきらぼうだがなんだかんだ言って面倒見の良い非常勤講師が学長たっての願いもあって雇われ、不定期ではあるものの開催される講義は艦娘と深海棲艦、それに人間を問わずそれなりに人気を博す様になったとか。その中にちゃっかり、某国防相閣下が仕事をサボって…もとい、視察という名目で何度もお忍びで紛れ込んでは学長に見付かって拳骨を食らうという、笑って良いのかよく分からない一幕が見られる様になったとかならなかったとか。

 

 

 しかしそれはまだ暫くは未来の話である。

 

 

 

 

 

 

「さて、夜もだいぶ耽ってきた。今日のところは、この辺でお開きとしようじゃないか」

 

 

 残りのスコッチを飲み干し、いつの間に置いていたのか、灰皿に置いて火の消えていた葉巻を手に取ると、灰皿に軽くトントンと叩いて灰を落としてからケースに入れて懐に仕舞い、霧島(キリシマ)は席を立った。

 

 

「ええ、そうね。明日も早い事だし。今日もありがとね」

 

 

 飛行場姫は軽く礼を述べ、少しだけ残っていたアイリッシュコーヒーを胃に流し込むと、霧島(キリシマ)に続いて席を立とうとしたが、その霧島(キリシマ)がふと何かを思い出したかの様に口を開いた。

 

 

「ああ、そうそう。言い忘れていたけど、アンドロメダ(あの娘)が言ってた新ロシア連邦(NRF)Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)から派遣されるって例の測量目的の先遣艦隊だけどね、どんなに早くても出航は2ヶ月以上は先だよ」

 

 

 この言葉に飛行場姫は怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「…そう言える根拠を聞いても?」

 

 

「測量任務に向けて、護衛艦も含めて今ドッグ入りしているらしいが、艦船の整備ってのはそう直ぐに出来るモンじゃない。しかもその護衛艦隊の旗艦はあの巨艦『Адмирал(アドミラル) Нахимов(ナヒーモフ)』って言うじゃないか?図体がデカけりゃぁ、その分の整備に時間が掛かる。

 

 それにВосток(ボストーク)…、ああ、新ロシア連邦(NRF)が定期的に各方面軍で大規模な軍事演習をやってるんだけどね、ТОФ(太平洋艦隊)の所属する方面軍で開催されるのがロシア語で方角の東を意味するВосток(ボストーク)って呼称なんだがね、それの開催時期とСеверный флот(北方艦隊)のインド派遣艦隊が太平洋へと到着するタイミングが重なりそうなんだ」

 

 

 席に座らず、行儀は悪いがテーブルへと腰掛け肩越しに飛行場姫を見遣りながら持論を述べる。

 

 

「派遣艦隊だって一気にインドまで無寄港で向かうわけじゃないだろう。母港のムルマンスクを出て東進。ベーリング海峡を抜けて一度ТОФ(太平洋艦隊)各基地で補給と整備、それに乗員の休養だって必要さね。

 

 なにせ虎の子の最新鋭空母や新鋭駆逐艦を中核とした大艦隊での、それも十年近くぶりの遠洋航海さね。万が一があったらいけないからねぇ。

 

 で、間違い無く派遣艦隊もСФ(北方艦隊)代表としてこの大演習に参加すると私ゃ見ている。ТОФ(太平洋艦隊)の新鋭艦も含めてあの国の有力艦隊に所属する新鋭艦の多くが揃い踏みするんだから、絶好の宣伝材料にもなるし、何より新造艦の割合が多い派遣艦隊の練度向上に繋がる上に、今後の遠征作戦に向けての課題や問題点を洗い出して見付け出し、改善の為の方策を模索する事が出来る。これだけでまさに一石二鳥さね」

 

 

 霧島(キリシマ)は指折り数えながら、そう説明する。

 

 

「そんでセレモニーとか諸々が終わって、本格的な補給と一休みしてから再出発するとして、そこまで急いで測量するとは考えにくいのさね。昔と違って定期的な測量も水路の維持だって出来ないんだ。可能な限り時間差の無い最新の海図を作成したいだろうからねぇ。

 

 そっから計算すると、大体2ヶ月くらいは時間の猶予があると見ているよ」

 

 

「…成る程ね。船を動かすのはそれなりに大変なことだってことね。そしてその時間的猶予を利用して、先遣の艦隊が領域内を無事に通過、測量作業が終わり本命の派遣艦隊が何事もなく通過するための安全対策を練れ。そう言いたいのね?」

 

 

 正解!とやや大袈裟に振る舞いながら、言いたい事がキチンと伝わった事にニヤリと笑う。

 

 

「でも、それならなんであの娘はあんなに焦っていたの?

 

 アタシ達に危機感を持たせたいにしても、ちょっと不自然すぎやしない?」

 

 

「最初に言ったろ?アンドロメダ(あの娘)は不器用だって。

 

 そして何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…えっ?」

 

 

「元々アンドロメダ(あの娘)は地球軍が保有する戦闘艦の中でも最大クラスの巨艦だった。それは知ってるね?

 

 アンドロメダ(あの娘)は時間断層工廠で建造され(生まれ)、時間断層工廠で整備と修理を受けていた。

 

 あそこは時間の流れが通常の十倍だ。だがそのことは今はそこまで重要じゃない。問題なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それに対してこの時代では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。基本的に技術者や工員によるマンパワーだ。いやそもそもこっちでも完全自動化まで漕ぎ着けたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 分かるかい?アンドロメダ(あの娘)にとっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 厳密に言えばガミロイドと呼ばれるガミラス製機械人形(アンドロイド)の工員が作業に従事しているが、人間と違ってプログラミングに従う特性上、自動化とも言えなくもないし、何より人間特有の所謂サボタージュなどによる意図的若しくは偶発的なヒューマンエラーのリスクも無い。あるとすれば何らかのシステムエラーや老朽化などによる故障が原因として考えられる場合である。

 

 アンドロメダにとってはこの完全自動化され、超効率化された作業だけを経験していた事が、無意識的にそれが当たり前な事であると思い込んでしまっていたのだ。

 

 

「付け加えると、大演習の事は知っていたかもしれないけど、それにインドへ向かうっていう、重要な任務を帯びた派遣艦隊がわざわざ演習に飛び入りに近い形で参加するって可能性にまで頭が回らなかったんだろうね。

 

 コレはまだ明確な命令や指示の類いが出ていないってのもあるだろうし、政治的意図や示威行為にしてもインド遠征と比べるとインパクトが格段に落ちる。

 

 だがこの大演習にСФ(北方艦隊)が参加するだけで、日米に対しては政治的・軍事的にも大きなインパクトを与える事になる。万が一の有事に際して、ただでさえ今の日米の艦隊戦力を始めとした西太平洋方面に展開可能な核戦力を除いた通常戦力の軍事力だけじゃぁ、ТОФ(太平洋艦隊)だけでも手に負えるとは言い難いのに、より強力な戦力を有するСФ(北方艦隊)の動向にまで警戒しなきゃならなくなるが、だからといって対抗する手段が無いから、どうすることも出来ない。

 

 これで名実共に西太平洋は事実上、深海棲艦(あんた達)新ロシア連邦(NRF)の海になったも同然さね」

 

 

 無論、あんた達と新ロシア連邦(NRF)がぶつかるみたいな事にならなかったらだがね。そう言ってから飛行場姫の反応を見る。

 

 

 飛行場姫としては広大な国土を持つ強大な陸軍国であり、殆ど国内だけで自給自足が可能な新ロシア連邦(NRF)との衝突は自衛以外では得策で無いと考えている。

 

 海上は兎も角、陸上での戦闘には装備が適しておらず、そもそも陸戦に不慣れであること。なによりも沿岸部を脅かそうにも、嘗てのダーダネルス海峡の戦いで新ロシア連邦(NRF)Сухопутные войска(陸軍)が誇る猛烈で苛烈な火力投射の洗礼を受けて大敗したという、かなり痛い目を見ているのだ。

 

 時折、新ロシア連邦(NRF)の近海で強行偵察紛いにちょっかいをかけた偵察部隊が、誘い込まれて陸上からの猛射で酷い返り討ちに遭って泣きながら逃げ帰っていると聞く。

 

 上手い具合に持ちつ持たれつの関係でお互い必要な時に利用し合うのが長期的なメリットに繋がるとの考えだ。

 

 

 だが()()()()()()()

 

 

「言いたい事は分からなくもないけど、些かあの娘に手厳し過ぎるんじゃないの?あんなに可愛がってる貴女の大切な教え子なんでしょ?」

 

 

 そう苦言を呈しながら、厳しい目付きを霧島(キリシマ)に向けた。今の霧島(キリシマ)の物言いはそれ以前の発言からして、アンドロメダのことを愚者と断じたという様に解釈も出来る。それが飛行場姫には聞き捨てならず、霧島(キリシマ)に対して些か腹が立ったのだ。

 

 その飛行場姫からの非難と目線に対し、些かバツが悪そうに顔を背け、頭を掻く霧島(キリシマ)

 

 

「…アンドロメダ(あの娘)は私なんかには勿体無いくらい、とても良い娘だよ。それは認めてるさね。

 

 でもね、良くも悪くも心根が優し過ぎて真面目過ぎるし、若いのに頭が固い時があるから、一度思い込んじまうと視野が狭まって思考の柔軟性が途端に足りなくなる。

 

 だから変に空回りしちまう。

 

 こう言うの、“若さ故の過ち”って言うのかねぇ?」

 

 

「知らないわよ」

 

 

 軽く戯けてみせたが、呆れた口調でバッサリと斬り捨てられ、肩を竦める霧島(キリシマ)に、飛行場姫は溜め息を吐く。

 

 

「…貴女も貴女で不器用よね。それに言ってる事はキツめだけど、それは本当はあの娘の事を本心から気遣ってるからであって、思い遣りのある面倒見の良さという、とても優しい心の裏返し。

 

 あの娘()、貴女に似たんじゃないの?」

 

 

 飛行場姫があの娘()と言ったのは、アンドロメダだけでなく、アポロノームの事も含まれている。

 

 面倒見の良い教育者としてのアンドロメダ。人付き合いの良い姐御肌のアポロノーム。

 

 そのルーツは霧島(キリシマ)にあるのではないか?飛行場姫はそう考えたのだ。

 

 

「…どうだろうねぇ?

 

 ま、兎も角今の所は新ロシア連邦(NRF)の動きにそこまで神経質にならなくても大丈夫さね。けど、だからといって無為にノンビリし過ぎるのも駄目だ」

 

 

 なんだかはぐらかされた気分だが、飛行場姫は追求しても仕方無いとして軽く肩を竦めた。

 

 

「…ええそうね。それに関してはアタシ達の方でも最優先の課題として協議と調整を進めるわ。

 

 もうこれ以上、戦禍を拡げるのはアタシ達の為にもならない事だしね」

 

 

 最後の言葉は飛行場姫の本心から出た言葉だった。

 

 

「そうだろうねぇ…。

 

 そんじゃ、おやすみ。良い夢を」

 

 

「ありがと。貴女もね。おやすみ」

 

 

 

 これで今度こそお開きとして、2人は席を離れた。

 

 

 明日は明日でまた忙しくなる。それに、明日は大事な日になる。

 

 日本で真志妻大将が正午頃に全国放送を使って日露合同艦隊の派遣に関しての会見が執り行われる事となっているのだから。

 

 

 その際に起きる反応や反発、混乱次第では今後の方針にも関わってくる。





 な、長かった…。アポロノームと南方棲戦姫の2人から始まった夜更けの世間話的なグダグダ話を書くだけのつもりが、こんな事に…。次から漸く長い夜が明けます…。

 …アンドロメダ姉妹と駆逐棲姫、それに駆逐ラ級姉妹達による夜の自由なひと時とかの日常を書いてみたいと思った時期もありましたが、あまりにも落差が激しすぎるので断念。


 因みに作中でもありました様に、葉巻の火を消す際は細巻き煙草の様に揉み消すのではなく、吸わずに灰皿にそっと置いておくと燃焼促進剤が含まれていない物ですと3分ほどで勝手に消えるそうです。そうして消火したら残った灰の部分を落として持ち運べますし、残っている部分の落ち切らなかった灰の部分をカットして火を灯すことで続きが吸えるようになります。揉み消すと不快な臭いが出たり、不満や怒りなどのネガティブな表現と見做される場合があるため良くないそうです。

 ただ、私は非喫煙者で聞き齧った程度の知識であるため、もしかしたら細かい所は間違っているかもしれません。

───────


 少々思う所がありまして、最新作のヤマト3199は見ない事としております。が、Ⅲでのボラー連邦衛星国バース星の艦隊司令官ラム艦長が最新作で出て来た事に喜びの気持ちがあります。しかもバース星の大公にして猛将という武人。それでいて良き統治者でもあるという。しかし自分達が属する連合体と大国の思惑や都合一つで簡単に振り回されてしまうという小国故の悲しき性。それでも必死に国の為に尽くそうとする真の愛国者。口先だけで自らの地位と懐に隠す金の事しか頭に無い愛国者を自称するコメディアンとは格が違う。

 出来ればラム艦長…いえ、ラム・ラ=ジェンドラ大公閣下には最後まで生き残って欲しいというのが率直な思いです。何より、アベルト・デスラー総統閣下自身も大公閣下の事を高く評価されているとのことからも、総統閣下と大公閣下が後に盟友と成られる未来が来ないかとの期待の気持ちがございます。

 更に願望を述べさせていただけるなら、ガルマン・ガミラスとボラー連邦がデザリアムを共通の敵として一時的でも共闘しないか?との淡い期待があります。その時、デスラー総統閣下の座乗艦とラム大公閣下の座乗艦が艦列を並べ、両閣下が率いる艦隊が息のあった連携で共にデザリアム軍を討ち破るという胸熱展開が起きないだろうかと。

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 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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