艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 叛乱


 漸く書けた…。アメリカ内部のゴタゴタが書けたらと思って書いたら、まぁいつも通りに…。


第89話 Mutiny charges.

 

 艦隊旗艦、艦娘母艦『かが』の公室での今後の行動についての話合いの最中に、オブザーバー兼警護に就いている春雨(ハルサメ)のもとに一つの通信が入って来た。

 

 

「はい…。……はい。分かりました。直ぐに伝えます。

 

 土方司令」

 

 

 春雨(ハルサメ)は通信相手からの言葉を土方に耳打ちする。

 

 

「…分かった。

 

 すまないが、少し席を外す」

 

 

 そう告げて席を立つ土方の顔は緊張に包まれていた。

 

 突然の出来事に何事が起きたのかとの視線を背中に向けられながらも、土方は護衛の春雨(ハルサメ)と共に足早に長官公室に入ると、春雨(ハルサメ)に外で待機し通信が終わるまで誰も入室させない様にと告げ、執務机に通信タブレットを置くと、急な連絡を寄越してきた相手であるサイパン島の霧島(キリシマ)との通信を繋いだ。

 

 

「«叔父貴、ちょいとマズい事になったかもしれないよ。

 

 米軍内部で叛乱が起きたかもしれん»」

 

 

 映像に映る霧島(キリシマ)の表情からは、告げられた内容の深刻さとは裏腹に、面白くなってきたと言わんばかりに口元を歪ませていた。

 

 その後ろではアンドロメダとアポロノーム、そして2人の姉とする駆逐棲姫とお手伝いである深海棲艦達が忙しなく各方面からの情報伝達と分析に追われている姿が映っていた。

 

 おそらく緊急性の高い情報と判断し、ある程度の情報が纏まった段階で急いで一報を入れてきたのだろう。

 

 

「…矢張りか」

 

 

 既に予想していたかの様に、土方は取り乱すことなくゆったりと執務机の椅子に腰掛けながら神妙な面持ちで呟く。

 

 

「«気付いてたのかい?»」

 

 

「確信は無かったが、米軍の動きに違和感があった。

 

 とは言え殆ど虫の知らせみたいなものだ。兎も角そちらが掴んだ詳しい情報を聞こう」

 

 

 その答えに霧島(キリシマ)はより笑みを深める。自身の伴侶とも言える人間、沖田十三艦長もそうだった様に、歴戦の軍人といった玄人の類いの人間が感じる虫の知らせや直感は莫迦に出来ないと霧島(キリシマ)は考えている。

 

 

「«詳しいって言われても、半分くらいは情況証拠と推測も含んじゃいるがね。

 

 そっちに米海軍第3艦隊の潜水艦が向かったってのは知ってるね?»」

 

 

「ああ。1時間ほど前に、同行している新ロシア連邦(NRF)艦が1隻探知した。

 

 丁度その事について関係者を集めての会議の最中だった」

 

 

「«そいつは都合が良いねぇ。話が早くて有り難いが、()()()()()()()()()()…まぁ今はいい。

 

 実はハワイに陣取ってる深海棲艦(連中)からハワイ近海の2ヶ所で複数の漂流物を見付けたとの情報が発端だ。

 

 そいつは水兵と思しき土左衛門とその遺留品もあったんだが、その土左衛門の遺留品を調べたら英文が書かれていたこと、水上艦船の活動を全てのパトロールが見逃したとは考え難いことからも、偵察の米潜水艦が何かの事故で沈没したものと判断した訳なんだが…、2ヶ所でほぼ同時にってのがちょいと気になってね、色々と調べてみた»」

 

 

 そう言った直後に土方のタブレットに着信音が鳴り、霧島(キリシマ)からのメールが届いた。

 

 

「«こっちで収集し分析した情報を纏めたモンだ。この後も新しい情報が纏まったら随時更新していくよ»」

 

 

 土方はメールを開いてざっと中身を確認する。それはアメリカの国防総省(ペンタゴン)の通信記録や命令書の内容についての、所謂軍事機密に抵触する様な情報の数々が記載されていた。

 

 その中には現在新ロシア連邦(NRF)艦に捕捉されている『Virginia(ヴァージニア)』級攻撃型原潜SSN-809『Long Island(ロングアイランド)』の艦名の他に、ハワイ沖での作戦行動を共にしている同型艦2隻の艦名、SSN-811『Miami(マイアミ)』とSSN-814『Potomac(ポトマック)』の記載もあった。あったのだが…。

 

 

()()()()()()、だと…?」

 

 

「«ああそうさね。

 

 そいつにも書いてある通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対し、ペンタゴンから任務を中断して叔父貴の艦隊を追っかけろとの通達があったのを確認した。

 

 その後3隻との定時連絡が途絶えて消息不明。沈没か、なんらかの事故か、電離層の異常かなんかで通信不能となっている可能性があるとするペンタゴンでの情報の遣り取りを掴んだが、先の漂流物の事を考えると、どうも引っ掛かるんでねぇ»」

 

 

「«先生、これを。ご要望のハワイに展開する同胞(はらから)の潜水艦さん達からの聞き取り情報です»」

 

 

 通信画面にアンドロメダが映り込み、紙の束が纏められたフリップボードを霧島(キリシマ)に手渡した。

 

 霧島(キリシマ)やアンドロメダは個人装備品としてタブレットなどのデバイスを個人所有しているが、深海棲艦自身が独自の通信能力によって意思疎通や命令伝達の遣り取りが可能ということでデバイスなどの電子機器は殆ど普及しておらず、記録は紙媒体での遣り取りに依存している。

 

 本来ならばアンドロメダ達は受け取った書面を確認し、タブレットに読み込ませて霧島(キリシマ)やアポロノームへと一斉送信するのだが、今回は時間を惜しんで受け取った書面のまま持って来て直接手渡した。

 

 

「«おう。ありがとさん。

 

 …思った通りさね»」

 

 

 手渡された書面の紙束を速読しながら数枚を捲り、どうやらお目当ての必要としていた情報を見付けた様で、口角が吊り上がっている。

 

 

「«この情報によると水中爆発音を探知していたそうだ。それも同じ日に、それほど時を置かずに()()()

 

 オマケに何人かが短い時間だが、かなりハッキリとした潜水艦の物と思われる推進機音を探知し、耳の良い奴は魚雷特有の高速推進機音を聴き取った直後に爆発音がしたとの証言もあるよ。

 

 だが水深が深すぎて海底まで潜れないって言うから、現場と思われる海域で見付かったのはさっき言った漂流物だけで、爆発した物体の正確な正体を調査する事は出来なかったみたいだ»」

 

 

 ハワイ諸島周辺の水深は平均数千メートル。最も深い所で約9,000メートルに達する。最新鋭の攻撃型原潜でもそこまで深く潜れる艦は存在しない。ましてや人類の平均的な潜水艦よりも潜れる深度が浅い深海棲艦の潜水艦の娘達は無論、より高性能な姫級であっても水圧に耐えきれない。艦娘も同様だ。潜れるのは人類が持つほんの僅かな深海探査艇か、何処ぞの工場長の住まいである巨大工厰と彼女が作り出した深海作業機械くらいなものである。

 

 元々ハワイ諸島は火山の隆起で出来た諸島である。浅瀬が無い訳ではないが、ハワイ諸島と近過ぎて深海棲艦の潜水艦隊に取り囲まれるリスクから、そんな近場には潜水艦は展開していない。これはアメリカ軍に在籍していたIowa(アイオワ)にも確認を取り、裏が取れている。

 

 

「«よしんば潜れるとしましても、原子炉の閉鎖が上手く出来ているか分かりませんから、その…»」

 

 

「«…ああ。わかっているよ»」

 

 

 アンドロメダは周りを気にして声を潜めながら、少し言葉を濁す。

 

 原子炉の閉鎖。つまり沈んだ原潜の動力源である原子炉が緊急停止による稼働停止状態で、核分裂連鎖反応が抑制されて炉心融解が起きずに安全な状態で密閉が保たれているか?という疑問と沈没の原因だと思われる爆発によって原子炉が破損し、放射能漏れが起きていないかを暗に危惧しているのだ。

 

 この危惧は現地を統括する立場にある中枢棲姫も考えており、念の為に該当海域での活動制限と調査の打ち切り判断を下していた。

 

 また飛行場姫を通じてアンドロメダへと相談が持ち掛けられ、アンドロメダは時間断層工厰の工場長に事情を説明して最優先で調査用と回収用潜水艇の派遣を要請。

 

 狂愛するアンドロメダからの要請ということもあって、二つ返事で快諾した工場長は直ちに海底での資源採掘などの作業に使用している無人作業潜水艇を搭載した無人潜水輸送母艦を派遣した。

 

 因みにこの無人潜水輸送母艦とは、時間断層工厰が一度投錨状態となると暫くは身動きがとれず、またその膨大な質量から小回りの効かない事から、無人作業潜水艇を効率的に広域へと展開し、採掘した資源を集積するための無人の潜水輸送艦で、作業艇の母艦機能と輸送機能にのみ特化して製造した支援母艦ということもあり、工場長曰く誰かを乗せる為の居住性や安全性はまったく考慮しておらず、そのままアンドロメダとアポロノームを収容する任務には使えないとのこと。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 自分達を種族の垣根を越えて同族である同胞(はらから)として温かく受け入れてくれた彼女達深海棲艦にとって、放射能という単語はタブーに近いトラウマ要素だった。

 

 

 嘗て人類の繰り出した大規模な水上艦隊との一大決戦、『大海戦』の終盤で受けた核攻撃による放射線被曝で自己修復能力が機能不全を起こし、傷は塞がっても欠損した部位は修復せず、未だ多くの深海棲艦がPTSDや幻肢痛などで苦しめられている。

 

 ここに居る駆逐棲姫もその1人であり、PTSDを患っている。

 

 彼女の足が無いのも核攻撃の余波で切断されて失った事が原因であり、核という言葉に異常なまでの恐怖心から錯乱してしまうこともしばしばあった。

 

 そのため直接的な言葉での言及は控えた。

 

 

「«問題なのは、消息を絶った艦は3隻。爆発は2回。じゃあ残りの1隻はどうした?ってことになるが、その行方不明な艦がそっちに現れたんだろう?どう思うね?»」

 

 

 答えは分かりきっているが、それでも敢えて土方へと問い掛けた。その時の霧島(キリシマ)の顔は今までで一番、心底楽しそうに笑っていた。

 

 しかし土方はある違和感を覚えた。

 

 

「…待て。

 

 その証言の中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との記載はあるか?」

 

 

 

「«いんや、無いね»」

 

 

 あっけらかんと即答した。霧島(キリシマ)は気が付いていた。しかしアンドロメダは頭に大きな「(ハテナ)」を浮かべているかの様な顔になる。

 

 

「君はこちらを追跡中の艦が何らかの理由で味方の艦2隻を撃沈したのでは?と考えた様だね」

 

 

「«はい。情況証拠からその可能性が高いと判断しましたが…»」

 

 

 違うのですか?と小首を傾げるアンドロメダ。その顔はもしかして怒られる?とでも思っているのか、少し不安そうになっていた。

 

 

 生粋の航宙艦としてその生涯の大半をほぼ宇宙でのみ過ごしていたアンドロメダではあるが、彼女が就役する以前の地球艦と同様に惑星重力圏内での航行及び戦闘についても想定されており、それは水上と水中も含まれていた。

 

 そのため水中戦に関する知識も一通り持ち合わせているが、水中戦で敗北した艦の、正確には艦内部の悲惨な末路までは知り得ていなかった。

 

 浸水した海水の重みで二度と浮上出来ずに沈降し続け、船殻や隔壁が水圧に耐えられる深度を越えて更に艦が沈降し、流入した海水による溺死が先か、低温の海水に晒されて凍死するのが先か。水圧に耐えきれなくなった隔壁に押し潰されて圧死するか。水圧を耐えて浸水が止まったとしても、流入した海水によって高まった気圧の上昇による体調への影響、そして艦内の酸素が無くなっての窒息死か。原潜ならば原子炉破損の放射能漏れによる致死量の被曝も有り得る。

 

 

 兎も角潜水艦の沈没はとても悲惨なのである。

 

 

 だがどの様な形であれ、潜航限界を超えた深度へと沈降したならば、船殻が水圧で押し潰される鋼材の軋みや破折や破断。内部から漏れ出す空気の気泡の噴出などからなる圧壊音が聴こえるハズである。潜水艦乗りにとっては敵艦のものであったとしても聴きたくない嫌な音とされるものだ。

 

 

 それを聴いたとする証言が無いのは些か不自然だと土方は、そして霧島(キリシマ)も考えた。しかしアンドロメダはその知識が無かった為に不自然だと気付くことが出来なかった。

 

 

 故にこれは撃沈の偽装工作である可能性が高いとアンドロメダに説いた。

 

 Decoy(デコイ)と呼ばれる搭載している艦の推進機音と似た音波を発する囮魚雷が存在する。目標とされた艦が敵の音響誘導魚雷や敵艦のソナーを欺く際に使用する水中防御兵器である。

 

 深海棲艦の潜水艦が聴いた潜水艦の物と思われる推進機音は恐らくこのデコイである可能性が高い。そしてそのデコイに音響誘導魚雷が命中して爆発が発生した。

 

 囮魚雷であるから、その大きさは潜水艦よりも圧倒的に小さく、魚雷が直撃したらほぼ木端微塵になる。これならば圧壊音が聴こえなかった事への説明も出来る。

 

 

 しかし問題は「何故その様な行動を?」という疑問が出てくる。

 

 

「«それについて関連がありそうな、前から噂程度に出ていたアメリカで起きた事件、知ってるね?それに関してのちょいと興味深い話があってね。

 

 若いの、頼めるかい?例のSan Diego(サンディエゴ)のやつだ»」

 

 

「«承りました»」

 

 

 ここで霧島(キリシマ)からアンドロメダへとバトンタッチとなった。

 

 

「«私達が多用しておりますハッキングによるSIGINT(シギント)だけの情報収集では比較によります検証や分析に限界を感じ、諜報員によりますHUMINT(ヒューミント)による情報が必要と考え、Слава(スラヴァ)さんと交渉してアメリカ国内で活動中の諜報員から齎された情報を幾つか教えて貰ったのですが、以前より噂のありましたアメリカ西海岸のサンディエゴ軍港で潜水艦艦娘を中心にした大規模な暴動があったのは間違いないそうです»」

 

 

 この暴動に関しては土方も認識していた。ただ現地の徹底した報道管制や情報統制の影響と太平洋を挟んだ地理的な問題から、僅かに漏れ伝わってくる情報を得るのが限界で詳細までは掴めていない状態だった。

 

 また山風(ヤマカゼ)が独自に趣味のハッキングで調べてみても、未だ情報が錯綜し過ぎて納得の出来る答えが出ていないとのこと。

 

 

「«この事態に軍は即座に鎮圧部隊を投入。なりふり構わない強硬手段により双方多数の死傷者を出しながらも鎮圧され、海軍犯罪捜査局(NCIS)が中心となって捜査が開始されましたが、結局首謀者は特定されず、証言などから艦娘同士によるなんらかの乱痴気騒ぎが発端となって次第に拡大し、暴徒化して暴動へと発展したとして捜査は打ち切られました。

 

 というのが軍内部に於けます一応の公式見解とされています»」

 

 

 一般的には徹底した報道管制と乱雑な偽情報の流布により揉み消されてはいる事件ではあるが、軍内部で発生した大規模な事件という事もあって最低限の関係各所には情報が回されていた。

 

 

「«ですが現地の諜報員が入手しました紙媒体を中心とする捜査資料などの情報によりますと、Scamp(スキャンプ)さんというUX-02(ベオ)さんとよく似た外観をしたベテランの艦娘さんを首謀者とする、任務で酷使され続ける艦娘さん達を代表して待遇の改善を求めた軍への陳情と組織的な大規模サボタージュに対し、軍は要求への回答として武力鎮圧を強行した事で衝突に発展したのが原因であることが判明していたそうですが、書類上では鎮圧の際に使用された非致死性兵器の硬質ゴム弾が頭に直撃し、怯んだ所を鎮圧部隊に取り囲まれて執拗に殴打された事が原因で死亡したことになっています»」

 

 

「だがその死亡したScamp(スキャンプ)は騒動の発端となった首謀者のScamp(スキャンプ)本人ではなかったのだな」

 

 

 腕を組み、静かに聞き入っていた土方がアンドロメダへと口を開いた。

 

 

「«ご推察の通りです。

 

 捜査当局は鎮圧を強行した事による混乱で首謀者であるScamp(スキャンプ)さんの拘束に失敗し、サンディエゴ基地に所属する同名個体のScamp(スキャンプ)さん全員を容疑者として拘束しようとしましたが、暴動が再燃する事を恐れて既に死亡していました同名個体のScamp(スキャンプ)さんを一応の犯人とし、また事の真相が一般へと明るみに出る事で生じる社会の混乱を恐れて厳重な報道管制と箝口令を出し、適当に調書や報告書をでっち上げたみたいです»」

 

 

「そして当のScamp(スキャンプ)本人は一連のほとぼりが冷めるまで大人しく潜伏していたが、今回の追跡命令を好機と見て艦を乗っ取り脱走を企てたのではないか?そこから脱走の邪魔になりかねない僚艦を沈めたと、そう結論づけたわけだね?」

 

 

「«…仰る通りです»」

 

 

 ここまでの遣り取りを見ていた霧島(キリシマ)は土方とアンドロメダによる情報の遣り取りというよりも、個別講習を観ている様に思えてきていた。

 

 元々地球軍で教官をしていた経歴がある土方は、たまにマンツーマンで学習指導を行なうような事があった。

 

 それは今後に活躍が見込めると判断した者への、土方からの期待の大きさの表われでもあった。

 

 

「確かにScamp(スキャンプ)という艦娘は総じて口が悪く、粗野で乱暴な性格である事からも、問題行動が目立つ傾向にある。それは私も否定しない。

 

 だが気さくで面倒見の良さにも定評がある。待遇改善を求めての抗議活動の発起人となったのはまだ理解出来るが、自らの保身の為に原潜を奪い、味方の艦を沈めるという刹那主義的な短絡的衝動で動く様な艦娘ではないと私は考えている」

 

 

 アンドロメダはScamp(スキャンプ)という艦娘の書類上で見受けられる()()()()評価から得られた情報を基にして推測を組み立てたが、土方はそれ自体は大きな間違いではないが()()()()()()()()()を忘れてはならないと説いていた。

 

 

Scamp(スキャンプ)は一時期軍事支援の一環として私の所にも来ていた事がある。態度の悪さは目に余ったが、少なくとも浅慮で短絡的な印象は受けなかった。

 

 彼女の同僚達も、態度の悪さに対する苦言こそ口にはしていたが性格に関しては概ね悪印象を受けるものは無かった」

 

 

 直接会った事が有るか無いかでその人物に対する評価や印象が大きく変わる事が多々ある。

 

 会ったことが無くとも、会ったことがある者達から所感を聞くことによって、間接的ではあるがその人物の為人をある程度は知る事が出来る。

 

 誰かに対する評価は複数方向からのアプローチが重要なのだ。

 

 

「それに、その様な浅慮な者ならベテランになる前にとっくに海の底に躯を横たえている」

 

 

 冷徹な物言いだが、人類史上初となる宇宙戦争である内惑星戦争、そして2度に渡る星間戦争を戦い、その戦いの場と相手は変わっても今も尚戦い続けている歴戦の将が語る、豊富な経験に裏打ちされた言葉は独特な重みと説得力があった。

 

 

 これにはアンドロメダも言葉に詰まる。

 

 

 なんだかんだ言ってまだまだ未熟な所が垣間見えていた。

 

 

「«ま、その辺にしといてやりな叔父貴»」

 

 

 切りの良さそうなタイミングで霧島(キリシマ)が割って入った。

 

 

「«Scamp(スキャンプ)が乗り込んでいるのは有り得ると思うね。抗議活動を主導するだけの手腕があるんだ。3隻全艦をグルにしていたとしても可怪しくないと私は思うね»」

 

 

「だろうな。それにScamp(スキャンプ)ならばこの偽装撃沈を考えたのも納得出来る」

 

 

 それは何故ですか?とアンドロメダはより疑問を深める。

 

 ただ脱走するだけならばそのまま逃げ出せば良い。何故わざわざそんな事を?

 

 

「«()()()()()()()()()()()()()()ってことさ。若いの。そいつは深海棲艦への偵察任務じゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()»」

 

 

 土方も同じ考えであり、特にこれといった反応は示さなかったが、アンドロメダは「まさかそんな!?」という驚きを隠せないでいた。

 

 そんなアンドロメダ(教え子)を横目に霧島(キリシマ)は頭を掻き回しながら続きを語る。

 

 

「«確証は無いがね、規模のデカい抗議活動が起きた事とヨーロッパでの艦娘蜂起からアメリカ軍の上の連中は艦娘に対して疑心暗鬼に陥っていたとしても不思議じゃない。

 

 んで、出撃艦を影で監視している艦がコッソリ息を潜めながら付け回して目を光らす。いや、潜水艦だから聞き耳を立てているになるか»」

 

 

 水中は音頼りだからね。と、どうでもいい事で軽くおどけてみせるが、アンドロメダは眉毛を寄せていた。

 

 

「«それではまるで秘密警察や政治将校の類いではないですか…。まぁあの国でしたら、色々と屁理屈捏ね繰り回してやりかねないとは思いますが…。

 

 ですが、その様な艦の活動についての情報は見受けられませんでしたよ…?»」

 

 

 先程アンドロメダが驚きを隠せなかった理由の一つにこれがある。

 

 軍艦1隻の動向に関する情報を完璧に隠し切る事は難しい。潜水艦ならば正確な所在を特定する事は難しく出来るが、それでも母港や寄港地から動いたかどうかの痕跡は残る。可能な限りの隠匿に努めたとしても人や物の流れなどから何処かに痕跡が残るし、意図せず漏れることだってあったりするのだ。

 

 また従来のSIGINT(シギント)のみの情報だけでなく、新ロシア連邦(NRF)経由で現状はアメリカのみを対象としたものに限られるが、現地に潜伏する諜報員が入手する情報も手に入る様になった事で、多角的な情報による比較対象が可能となり、情報の精度も上がった。

 

 

 しかしそれらの情報を照らし合わせても、監視艦と思われる潜水艦の動きは確認出来なかった。

 

 

「実際は存在しなかったのだろう。そもそも米軍艦艇の稼働率や稼働数の低下は年々悪化の一途を辿っている。だが当人達は楽観的にはなれなかった。

 

 自分達は軍から常に監視されているかもしれないとの疑念を払拭出来ずにいた」

 

 

「«だから一芝居打って様子を見たってのが可能性として有り得そうだねぇ。

 

 そんで同士討ちを演じてみせ、慌てて動いた所を3隻で返り討ちにするつもりだったのかもね»」

 

 

「しかし結局は杞憂だった訳だが、恐らくこの一連の動きによって潜り込んでいた事実上の秘密警察の内通者を炙り出す事となり、始末して魚雷発射管に詰め込み艦外へと撃ち出して放り出した。それが例の水死体だろう」

 

 

「«軍も、艦娘も、お互いが信用出来なくなってお互いに対して疑心暗鬼になっちまってる。良くない傾向だ»」

 

 

 深い溜め息を吐き、そう語る霧島(キリシマ)に土方もアンドロメダも暗鬱な気分となりながらも同意した。

 

 

「ところで、本土から在日米軍の長距離偵察機が上がったのだが、Гангут(ガングート)は艦隊に対する攻撃支援のためではないのかと強く疑い、第7艦隊から派遣されているHeywood L.Edwards(ヘイウッド・L・エドワーズ)と軽く対立状態にある」

 

 

「«あぁ〜…、よりによってHeywood(ヘイウッド)の嬢ちゃんかい…?

 

 たまに毒を吐くけど根は真面目で誠実だから所属国に思うところはあっても任務には忠実だし、Гангут(ガングート)のヤツはその立場から“祖国”を背負ってるって自負と責任感がかなり強いからねぇ…、同じ旗を仰ぎ見る立場同士なら相性は良いんだが、そうじゃないと変に拗れて相性が悪くなる…。それでいて他の姉妹や同僚達は叔父貴にも好意を寄せてるってモンだから、叔父貴に対して()()()フラットなHeywood(ヘイウッド)の嬢ちゃんが来たのか…»」

 

 

 また面倒な事になったと顔を顰め頭を掻き上げる霧島(キリシマ)。それに対してアンドロメダは「土方さんは多くの艦娘さん達から好意を寄せられるほど信頼と人気があるのですね。流石は土方さんです」と変にズレた感心をしていた。…現実はそれはそれで色々と面倒なのだとの事実をアンドロメダはまだ知らない。

 

 

「«…取り敢えず2人の事は置いとこう。今は偵察機の件だ。

 

 私が思うに、真志妻の嬢ちゃんの発表と潜水艦が消息不明になった事で慌てた米軍が、叔父貴の動きを牽制する目的で押っ取り刀で動いたんじゃないのかねぇ?»」

 

 

「«少なくとも、アメリカはかなり混乱してるみたいスよ?»」

 

 

 ここで情報を纏める作業をしていたアポロノームが追加の情報を持って現れ、アンドロメダにクリップボードを手渡した。

 

 

「«いくらなんでも3隻同時に消えたって事に疑念を抱く者が少なからずいたみたいッス。と言っても叛乱とか事故云々に関する原因の究明以前に、如何に責任追及から逃れるかの保身に狂奔してるみたいですがね。

 

 そこに追い打ちをかける様にして真志妻総提督とКуту́зов(クトゥーゾフ)大統領のダブル会見が叩き付けられたもんで、連中、かなり右往左往してるみたいッスよ»」

 

 

 アポロノームはヤレヤレといった風体で愚痴るかの様に語る。その横ではアンドロメダが渡されたクリップボードに目を通していたが、段々と顰めっ面となり、最後はすこぶる不機嫌な顔で霧島(キリシマ)にクリップボードを手渡した。

 

 

「«…なんともまぁ。よくもまぁこんな無責任で現場泣かせな命令出せるねぇ?

 

 叔父貴、偵察機の目的は行方不明の潜水艦の捜索だ。米本土からもハワイ沖に飛ばしてるよ。ったく、航続距離()が長けりゃなんでも良いって考えが丸わかりだねこりゃぁ…。

 

 こっちは沈没してた場合の浮遊物の捜索。そっちのは無事だった場合のコンタクト目的って感じだが、ホント無茶させるねぇ。下手するとガス欠で海ポチャだよ?»」

 

 

 これは目的地上空へと到達し、そのまま旋回して基地へと帰ってくるだけでなく、指定された空域に留まっての捜索活動を実施する必要から、消費する燃料の増加による航続距離の問題と同時に、米空軍保有機の稼働率の低下から訓練不足によって練度も低下しており、空中給油の失敗や事故率が上昇したことによる損失が増えている現状を知っているが故の苦言であった。またつい先日にハワイへの渡洋爆撃(定期便)に出撃した爆撃機の1機が航法ミスで予定飛行経路を大きく逸脱し、燃料切れで爆弾を投棄して引き返していた。

 

 

「…Alaska(アラスカ)の動きはどうだ?」

 

 

 ここで土方は先程の公室での話合いで話題に挙げた、アラスカ州Anchorage(アンカレッジ)Elmendorf(エルメンドルフ)空軍基地に関する情報がないかと問い掛けた。

 

 

「«11AF(第11空軍)かい?ちょいと待ちな…»」

 

 

「«11AFならアラスカの防空識別圏近辺を飛行する新ロシア連邦(NRF)機への対応に手一杯みたいッスよ。Комсомо́льск-на-Аму́ре(コムソモリスク・ナ・アムーレ)を始めとした東部軍管区の新ロシア連邦(NRF)空軍基地の動きが活発になってるってのもあるみたいッスけど»」

 

 

 霧島(キリシマ)が情報を漁って答えるよりも、アポロノームが先んじてスラスラと答えた。

 

 

「«まぁこの世界のロシアの科学技術はСлава(スラヴァ)の姐さんが情報開示と指導でそれなりに上がってるみたいッスからね。今のアメリカ軍のステルス機程度じゃ、新ロシア連邦(NRF)のレーダーにバッチリ映りそうッスよ»」

 

 

 元々航空戦艦だった事もあって、暇な時にこの世界の航空技術関連を趣味的な興味本位で調べていたアポロノームの意見である。

 

 

 事実アポロノームが述べた通り、Слава(スラヴァ)はミサイル技術だけでなく様々な兵器開発及び改良、そしてコストダウンに必要な技術分野に対して可能な限りのアドバイスを施しており、その結果の一つとして新ロシア連邦(NRF)のレーダー技術が向上。アメリカ軍の持つあらゆるステルス技術は完全に時代遅れな代物となってしまっていた。

 

 同時に新ロシア連邦(NRF)軍が運用しているステルス技術も向上しており、西側諸国が保有する既存の早期警戒レーダーや防空システムでは太刀打ち不能である可能性が指摘されていた。

 

 

 そしてその事実を非公式ではあるがアメリカ軍も認めているフシがあった。

 

 

 アポロノームも土方が懸念する所を先んじて予測し、その答えとなる情報を頭の中で既に整理していた。

 

 アポロノームの私見として、アラスカ方面は新ロシア連邦(NRF)によるプレッシャーによって下手に身動きが取れる状態に無い。との結論だった。

 

 仮令無理に動いたとしても、艦隊の防空網に引っ掛かる確率が高く、貴重な長距離爆撃機をこのタイミングで失う様な愚を犯すとは到底考えられないと述べた。

 

 

「そうか…」

 

 

 懸念の一つがある程度は払拭されたと、安堵そうに呟くが、万が一があるとして対空警戒は引き続き緩めずこのままを維持しようと考えていた。

 

 だが取り敢えずこの件に関してはこれで終わりとした。

 

 

 矢張り喫緊の課題は艦隊を追尾する原潜をどうするか?だ。

 

 

 

「«ま、真相を確かめるんなら、直接本人達に聞きゃあいいさね»」

 

 

「おい、まさかとは思うが…」

 

 

「«そうさ。取っ捕まえた方が手っ取り早いさね。そっちにも潜水艦、居るんだろう?»」

 

 

「…日本艦隊からは整備不良で出ていないが、Гангут(ガングート)の奴は間違いなく秘密裏に何隻か連れて来ているだろう」

 

 

「«なら話は早い。連中ならспецназ(スペツナズ)の潜水艦艦娘も連れて来てるだろうからね。

 

 それに脱走が亡命目的って可能性もある。案外スンナリ行くかもしんないよ?»」

 

 

 土方は深い溜め息を吐く。

 

 

「やるだけやってみるか。

 

 Гангут(ガングート)は撃沈する気でいるが、なんとか納得させるとしよう」

 

 

 これで方向性は決まった。後はそれをどう伝えるか…。

 

 

「«それにしても、厄介事ばかり増えていくねぇ»」

 

 

 思考を巡らせかけたタイミングで、ぼやく様に呟かれた霧島(キリシマ)の言葉が耳に入った。

 

 

「…予想外や想定外な事が常に起きる。それが戦争というものだ」

 

 

「«分かっているよ。

 

 だからこそ、終わらせられるなら終わらせなきゃならん。そうだろう?»」

 

 

 霧島(キリシマ)からの自嘲気味な言葉に土方は何も答えず通信を切った。

 

 

 椅子の背もたれに背を預けながら、深い溜め息を吐き、目を瞑った。

 

 

 結局、自分は()()戦争を終わらせる事は出来なかった。

 

 

 終わらせたのは、沖田(親友)とその子供達だ。

 

 

 奇跡としか言いようが無かった。仮令『ヤマト』がイスカンダルとの大航海から無事に帰還を果たし、赤く焼け爛れた地球が再び青い美しい姿を取り戻したとしても、それだけなのだ。

 

 

 ガミラスとの敵対関係はそのままであり、戦争は続いたままだ。およそ9年に渡るガミラスとの戦乱で失われたありとあらゆるもの。なにより大きいのは7割に及ぶ地球人類が永遠に失われたという事実だ。その損失が齎す影響は計り知れないし、残りの3割すらマトモに養えるだけの余力は、あの当時の地球には残されていなかったのだ。

 

 あのままガミラスとの戦争が続いていれば、地球はほんの少しだけ寿命が延びた程度で終わっていたのだ。芹沢の奴はそれが分かっていた。だからこそ、『ヤマト計画』に対して最後まで懐疑的だった。奴が支持していた『イズモ計画』も、ガミラスからの脅威から逃れるという意味ではある種の最適解だったのだ。

 

 再びガミラスが地球への本格的な侵攻に乗り出したら、元の木阿弥だったのだから。しかしその肝心の『イズモ計画』も支持派内部での深刻な対立から内紛が勃発したことにより、奴も内心では『イズモ計画』を諦めて見切りをつけていた。

 

 

 だが『ヤマト』は、沖田とその子供達は、本当に奇跡を起こした。

 

 

 ガミラスとの停戦。そして和睦。

 

 

 これは地球が本来の青い星へと戻った以上の奇跡と言えるのだ。

 

 しかも戦後賠償という名目の、地球からしたら目が飛び出るほどの復興支援と技術支援といったとんでもないオマケ付きで。

 

 

 今回もまた、この終わりの見えなかった戦いを沖田とヤマト(あの2人)の子供と言える者が終わらせる道筋を開いてくれた。

 

 地球軍艦隊総軍を率いる地球軍最強格の戦艦であり、そのポテンシャルを十二分に引き出せるだけの才能が有りながら、その心根は誰よりも争いごとに向いていないという二面性を持って生まれた温厚な性格の持ち主。

 

 これは何かの皮肉なのだろうか…?力を追い求め、力に頼り縋ろうとした地球の方針と有り様に対しての、人々の心の底で感じていた疑問と抵抗の意志、そして良心の呵責という痛みが集約して生まれた強烈な皮肉を体現したのが彼女なのだろうか…?

 

 

 …それにしても、自分が死んでこちらの世界に来た後の、元いた世界の地球はどうなったのだろうか?

 

 

 時間断層とそこにあった大規模工廠を放棄したことまでは、知っている。…当の本人から聞いたのだから。

 

 その事について特に言うべき事は無いと思っている。あれはガミラスの様な大国でもなければ、あの生産・開発能力による供給能力は地球からしたらいずれ確実に持て余すシロモノだった。

 

 民需に於いては需要と供給のバランスが供給過多で完全に崩壊していた。それを軍需でなんとか補ってはいたが、いずれそれにも限界が訪れる。一応の顧客だったガミラスだって自国産業に対する保護の観点から、いずれは需要の縮小なり関税などによる締め出しが有り得た。

 

 それにガミラス戦役以前の保有艦艇すら遥かに上回る軍艦やら軍事施設を作っても、その後の維持に掛かる手間と費用だって莫迦にならない。

 

 

 そうして訪れるのは確実な地球の破産だった。そういう観点で言えば上手いタイミングで時間断層工厰を放棄出来たと言えなくもない。

 

 しかしそれは同時に地球がより一層ガミラスに依存する事に…、いや、それは今更か…。そもそも戦後賠償という名目の復興支援だって、なにも善意によるものではなかった。

 

 ガミラスは強かに社会インフラ、物流などに対して影響力を浸透させていた。

 

 下手にガミラスとの関係が拗れると、地球は嘗てのローマ帝国崩壊後のヨーロッパ文明の深刻な後退と停滞の様な事態へと陥る。

 

 なにもなければいいのだが…。

 

 

「失礼します。土方司令、大丈夫ですか?」

 

 

 思考に耽っていると、通信の間ずっと外で控えていた春雨(ハルサメ)が軽くノックをした直後に返答を待たずに部屋へと入って来た。

 

 部屋は可能な限り防音対策を施しているが、先程の通信を彼女は傍受して聞いていたのだろう。だが通信が終わったのに部屋から出て来ない土方を心配して様子を見に入って来たのだろう。

 

 

「いや、すまない。少し考え事をしてしまっていた。心配ない。大丈夫だ」

 

 

 目を開け、椅子に座り直しながら春雨(ハルサメ)に心配ないと応えた。

 

 

 つい色々と考え込んでしまう事が増えた。だが戦争を終わらせるとは終わった後のことも同時に考えなければならないのだ。

 

 最近は何かと忙し過ぎてなかなか考える時間が出来ず、ちょっとでも気を抜くと思考の深みに嵌るようになっていた。

 

 

「お疲れの所、申し訳ございません」

 

 

 土方の疲労が蓄積している事を労わるように、そしてその疲労が自分達の為に身を粉にしての激務の結果である事を知っているが故に、申し訳なさそうな顔をしながら恭しく一礼する春雨(ハルサメ)

 

 その所作はまるで一流のメイドの様な優雅な一礼であり、相思相愛の仲である妹の海風(ウミカゼ)がこの場に居たならばその所作に頬を赤らめ暫しウットリと眺めていたかもしれないが、土方は僅かに苦笑するだけだった。

 

 

 部下に要らぬ気遣いや心配をかけさせるようでは、一軍を預かる指揮官として失格だなとの自嘲混じりの苦笑だった。

 

 

「しかし、如何(いか)がなさいますか?」

 

 

 春雨(ハルサメ)は土方を労りながらも今後の方針について問い掛けた。

 

 

 今が深海棲艦との戦争を終わらせる為の一番大事な時なのである。ここに来ての不確定要素はあまり好ましいものではなかった。

 

 今現在問題となっているアメリカの原潜は完全な不確定要素であり、春雨(ハルサメ)としてはあらゆる対応策を私案として検討していた。

 

 通信傍受で聞き耳を立て、この作戦行動に参加している妹達にもリアルタイムで共有していた訳だが、それは方針次第によっては自分達が直接動く可能性があると判断してのものであった。

 

 

 そして検討していた私案の中には最悪、自分達が動いて誰にも悟られずひっそりと闇に葬る事も考えており、許可が下りれば即座に動く手筈を頭の中で既に構築済みだった。

 

 

「…やるしかあるまい。アメリカの今現在の内情を知るチャンスでもある。

 

 だが対応はГангут(ガングート)に任せる」

 

 

 少し考える素振りをしてから土方は春雨(ハルサメ)に答えた。

 

 春雨(ハルサメ)はその返答に表情を変えることなく静かな所作で「承知致しました」と頷く。

 

 

 そして土方は席を立つと、みなが待っている公室へと戻るために椅子を立ち、歩き出した。

 

 その道中、幾つかの指示を春雨(ハルサメ)に出しながら。

 






 ある日の一幕。


APLNM「ちょっと相談なんだけどよ?艤装艦載機の零式空間52型(コスモゼロ)提供するからよ、おたくの所の退役したSu-33を譲ってくれないか?プライベート機にしたいんだ」

SRV「えっ!?あの(現役当時)最新鋭機の!?ホントに良いの!?それでしたら退役した中古機でなくても、新規製造したSu-57とか他にも色々とサービスしますよ!!」

APLNM「良いのか!?それじゃお言葉に甘えてそのSu-57にしてくれ!それとYak-130練習機と4人乗りのYak-135を頼む!」

HKJK「あ、じゃあアタシTu-160爆撃機と輸送機のIl-76かIl-106が欲しい」

SRV「まいどあり!!」

APL&HK「「よっしゃーッ!!」」

KRSM「待たんか!このスットコドッコイの飛行機オタクとコーヒーオタクにミサイルフェチ!!」

ANDRMD「まぁまぁ。私はお姉ちゃんと一緒に乗れるSu-30SM2をお願い致します」

KRSM「あんたもかい!マザシスコン!」



 多分特に意味はない。でも折角飛行場があるのだから(物騒な)プライベートジェットの1機や2機くらい…。

───────


補足説明

非致死性兵器

 相手を死傷させる事なく無力化することを目的とした兵器である。ただし死傷事例もあることから低致死性兵器とされる場合もある。

 主に催涙スプレーや催涙ガス弾、テイザー銃などのスタンガン、放水砲、ゴム弾などが挙げられる。

 暴徒鎮圧に用いられる事もあり、作中では待遇改善を求めてサボタージュを起こした艦娘に対して米軍が使用。基本的に耐久力が人間よりも高い艦娘を怯ませる目的で使用されており、大量の放水砲が投入され、テイザー銃やゴム弾に関しては対人用よりも威力が強められている。基本的に屋外などの広い空間では放水砲が使用され、ゴム弾を装填したショットガンを持った兵士が距離を詰めながら複数人で相手の艦娘に対して撃ち掛け、テイザー銃で動けなくしてから拘束する。

 ただし相手の艦娘が艤装などの武装を所持していない場合にのみ限られる。万が一武装が確認された場合は通常兵器が投入される。アメリカ軍の規定では艦娘に対する鎮圧作戦に艦娘を投入する事は鎮圧行動へのサボタージュの危険性から参加させない事を原則としている。

 なお艦娘に対しては催涙スプレーやガス弾は効果が極めて薄く、効果が発揮する濃度だと使用した人間側に危険が及んだり周辺環境や施設への汚染リスクが問題視されており、使用されない。


零式空間52型

 言わずもがななコスモゼロ。正式名称は零式52型空間艦上戦闘機。今回アポロノームが交換目的でСлава(スラヴァ)に渡そうとしたのはその艦娘としての艤装サイズバージョン。


 ガミラス戦役終盤に正式量産型がごく少数だけ完成した事もあってСлава(スラヴァ)にとっては幻の最新鋭全領域制宙戦闘機。

 艦載機運用能力が無かったСлава(スラヴァ)は当時主力迎撃機として配備されていた99式空間戦闘攻撃機、通称コスモファルコンすら作れず、当初目論んだ自軍の基地航空隊の切り札として配備する計画が流れた事からも、コスモゼロの現物が手に入ればそれを基にして自軍の妖精さんによって大量生産が可能になると考えた。そのためならば最新鋭戦闘機や主力戦略爆撃機に大型輸送機くらい、安いものだと思っていた。

 なお、本当に大量生産しようものなら1機の製造にかかる消費資源のコストはほぼSu-57の製造コストに匹敵していたもよう。


Su-33

 Су-33。
 当初はSu-27Kとされていたが、1998年9月8日に現在のSu-33に改称された。

 公共株式会社スホーイ・カンパニー(ПАО «Компания “Сухой”»)、Сухого(スホイ)設計局がSu-27を原型機として開発・製造した単座艦上戦闘機。重航空巡洋艦『Адмирал(アドミラル) Кузнецов(クズネツォフ)』の艦載機。機体の外観的特徴としてカナード翼を装備している。NATOコードは『Flanker(フランカー) D』。

 既に生産は終了しているが、既存機は近代化改修が施され運用が継続されている。本作では後述の後継機の配備に伴い順次退役が進んでいる。

 アポロノームは艦載機として興味があった。


Su-57

 Су-57。

 ロシアВоздушно-Космические Силы(航空宇宙軍)が運用する第5世代戦闘機のステルス戦闘機。NATOコードは『Felon(フェロン)(咎人)』

 本作ではSu-35S(NATOコード『Flanker(フランカー) M』)と共にВоздушно-Космические Силы(航空宇宙軍)の第一線主力機として配備が進んでいるが、最新鋭空母『Сибиряков(シビリャコフ)』級の建造に伴いВоенно-морской флот(海軍)仕様である艦載機型のSu-57Kの生産が優先されており、空軍仕様の製造がやや遅れている。

 なおСлава(スラヴァ)による技術支援によってSu-35Sその他共々性能が向上していたりする。

 そしてСлава(スラヴァ)からしたらコスモゼロが手に入るならばめっちゃお得な出費だと考えていた。


Yak-130

 Як-130

 公開株式会社「A・S・ヤコヴレフ記念試作設計局」(ОАО «Опытно-конструкторское бюро имени А.С. Яковлева»)、Яковлева(ヤコヴレフ)設計局が開発・製造を行なっている複座高等ジェット練習機及び軽攻撃機(COIN機)。NATOコードは『Mitten(ミットン)』。

 当初はイタリアのAermacchi(アエルマッキ)社(現在のAlenia Aermacchi(アレーニア・アエルマッキ)社)と共同開発していたが、最終設計仕様の合意に至らず、両社は別々に完成させる事となった。(アエルマッキ社はM-346として完成)

 ВКС(航空宇宙軍)ВМФ(海軍)の両方で運用しており、第4.5世代戦闘機の飛行特性を再現出来ることから、短い時間で飛行方法が習得可能とされている。

 派生機として軽攻撃機のCOIN機や4人乗りのYak-135がある。アポロノームはこのYak-135で姉妹達と遊覧飛行したい。


Tu-160

 Ту-160

 公共株式会社ツポレフ(ПАО «Туполев»)が開発・製造している白鳥(Белый лебедь(ビェールィイ・リェービェチ))との非公式愛称があるロシアの可変翼超音速戦略爆撃機。NATOコードは『Blackjack(ブラックジャック)』。

 現在後継機ПАК ДА(PAK DA)(перспективный авиационный комплекс дальней авиации──perspektivnyi aviatsionnyi kompleks dal'ney aviatsii──長距離飛行のための将来航空複合体の意)の開発が進んでいる。

 飛行場姫はその場のノリと勢いで指名。本命は輸送機。


Il-76

 Ил-76

 公共株式会社S・V・イリユーシン記念航空複合体(Публичное акционерное общество «Авиационный комплекс имени С. В. Ильюшина»)、Ильюшин(イリューシン)設計局が開発・製造している大型の輸送機。尾部に23ミリ連装機銃が装備されている。

 本機をベースとしたСамолёт ДРЛО(早期警戒管制機)のA-50とその後継機のA-100の他、самолёт-заправщик(空中給油機)のIl-78などが存在し、民間用の機体も存在する。

 飛行場姫はこれと下記の輸送機を使って領内の飛行場がある島での航空輸送便を考えていた。


Il-106

 Ил-106

 イリューシン設計局がАнтонова(アントノフ)製An-124とAn-22の後継機として開発中の大型輸送機。


Su-30SM2

 Су-30СМ2

 本来輸出仕様だったSu-30MKI/MKMをベースとするロシア本国軍仕様にした機体の改良型。複座多用途戦闘機。NATOコードは『Flanker(フランカー) H』。

 Su-35Sとのコンポーネントの共通化、アビオニクスの統合によって生産、運用コストの削減と整備性の改善を図っている。

 アンドロメダは駆逐棲姫と一緒に飛びたい。


───────


 新年早々からまた騒がしいことこの上ない。私の風邪はどうでもいいとして、こうも年始が騒がしいとおちおち落ち着いて寝てもいられないですわい。

 まぁ色々とあり過ぎて何を取り上げようかと迷う。その中で昨今複雑化している問題がある。

 
 結局のところ、日本人は力になる現状変更を認めないのか?認めるのか?外国勢力による介入を肯定するのか?否定するのか?

 これまで通りアメリカやEUといった西側のやる事は全肯定で同調し、中露は全否定の駄目というダブスタで行くのか?

 国益を損ない民を顧みない国際協調拘泥を是とするか?国民の為の国益に即した我が道を行くのを是とするか?無論、国民の利益になる範囲でならある程度の国際協調も必要だとは思う。しかし物事には限度というものがある。バランスというものがある。
 

 報道もネットも、正直どっちもどっちな所がある。両方ともに節操の無さはどんぐりの背比べ。


 今だけ金だけ自分だけの奴原も居るだろうけど、ネットに関しては目まぐるしい情報の嵐に振り回されていると言えなくもないが、さてさてどうしたものか。


───────



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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