艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり 作:稲村 リィンFC会員・No.931506
落とし所が難しい!
突如説明も無いまま退室した土方の帰りを待つ公室は、静まり返っていた。
一体何事が起きたのか?
なんら情報が無いまま只管待つしか出来ず、ただ机の上に置かれた灰皿に煙草の吸殻が増え、カップに注がれたコーヒーや紅茶、緑茶は何度か飲み干されるか、完全に冷めてしまっていた。
…一応、部屋には煙草嫌いの
そこへ漸く土方が
「待たせてすまない。
私の個人的な信頼出来る情報筋からの緊急連絡だ。
…おそらく、
この土方が齎した情報がその場の空気をより一層張り詰めさせた。
特に米軍から遣わされた
土方は開示する情報の内容を敢えて改竄していた。
「…“同志”、まさかと思うが」
火をつけたばかりの細巻き煙草を灰皿に押し付けながら、
それなりに付き合いのある彼女は土方が何か企んでいる事を察した様だ。
「“
この返しに
開示された情報には裏がある。それも厄介事の類いだと彼女は推測した。
「しかし、こりゃまた厄介ですな…。現在我が艦隊を追尾中の米原潜がその事になんら無関係とは考え難いですし、一番疑わしい容疑者と言えるでしょう。
もしも当該艦が叛乱による脱走艦となりますと、その目的次第では最悪テロリストとして扱う事も視野に入れなければならなくなりますが…」
『かが』の艦長を務める
戦争の長期化による消耗とアメリカとの連絡線である航路が深海棲艦の電撃的侵攻によって遮断された影響もあり、深刻な装備品の不足に陥った日本軍は、
しかし日本の製造業の衰退。同盟国アメリカも自国の戦力維持で手一杯な状態と先の連絡線の遮断から殆どの弾薬が窮乏し、精々機銃や砲が撃てる以外では艦娘の為の戦場タクシーと化している今の日本艦隊には、潜水艦に対処可能な弾薬にも事欠いていた。
何かあったら同行する
脱走の目的がもしも突発的な叛乱によるものでなく、亡命を目的としてのものであった場合、撃沈はアメリカの不祥事の処理を自分達が代行したという事になり、それは結果としてアメリカを利することに繋がる。
どうせならば多少なりともアメリカが渋面を作って嫌がりそうな事をやってやった方が面白い。
「ま、待って下さい!!叛乱と判断するのは、幾らなんでも早計ではありませんか!?」
話がどんどん進んでいく中で、
「実は、そう判断する理由が無い訳では無いのだ
土方からの問いに
「…情報の錯綜により詳しい事は不明ですが、本国の
「…武力弾圧による鎮圧か。反乱法を適応した合法的なものかもしれんが、最近はその法解釈の拡大解釈による濫用が著しい上に対応の過激化が度を越していると
新しい煙草に火をつけながら
因みに反乱法──
現在の極左リベラル政権は国家の秩序維持を名目に、自分達に反発する保守党支持者による抗議のデモ活動に対しその都度この反乱法を発動して流血を伴う弾圧を繰り返しているが、それに対して自分達の岩盤支持層でもある極左が関わる暴力や放火を伴う破壊活動は明らかに暴動を通り越した内乱、叛乱行為に等しいのだが、政権は
それどころか治安回復を図ろうとした保守党系州知事、州政府に対し連邦政府に対する武装叛乱を企てているとして反乱法を発動。州軍の指揮権を剥奪。連邦軍を投入して州政府を制圧するなどの常軌を逸した行動に出ていた。
これら一連のアメリカ国内に関する話題はメディアが封殺しているが、それでも完全に隠し切る事は不可能であり、一部の情報が断片的に漏れ伝わって来ている。
「しっつれーす…しますっぽい!ハル
ノックも無く突然公室の扉が勢いよく蹴り開けられ、
公室へと戻る道すがら、
とは言えまさか姉妹の中で自由奔放を絵に描いた様な問題児、
ハル
ただ、もしもここに
とは言え立場柄、土方だけは叱責による注意だけはしておいた。
…結局は暖簾に腕押しに終わり、
兎も角、受け取った
「はは…。自国民だけでなく、遂に味方の艦娘にも本格的な弾圧の手を伸ばしましたか…。アメリカもいよいよな様ですなぁ…」
「笑い事ではないぞ田沼少将。最悪これが切っ掛けとなって事態がエスカレーションし、本格的な内戦となったらその影響はヨーロッパの比にならんぞ」
同盟国の形振り構わない国内情勢に思わずと言った感じで乾いた笑い声を出してしまった田沼に土方は叱責する。
そんな中で
配布された書類にはストライキを決行し賛同した艦娘を「
だがストライキを決行した艦娘は武装などしていなかった。その事実が確認され、政府へと報告されていた事実も記されていた。
それにも関わらず政権内はこの報告を握り潰し、その直後の閣僚会議の場に於いて「戦車も投入してやろう」との閣僚からの提案が出ており、その閣僚というのがよりによってSecretary of Defense──国防長官──によるもので、その提案に則って複数のM1戦車が集結。鎮圧作戦の支援として加わる予定だったが、投入される前に鎮圧の目処が立ったことにより直前で中止となった。
投入されていたらバリケードの粉砕や立て籠もる建物ごと吹き飛ばす為に実弾が使用される手筈だった。
狂っている。
顔から血の気が引いて青褪めさせながら、そう思わずにはいられなかった。
対して
もしかしたら間接的に目新しい情報を送って来ているかもしれないと、素知らぬ顔でページを捲っていたが、とあるページを目にした所で手を止め、少しだけ黙考すると、何事も無かったかのようにまた直ぐにページを捲り始めた。
そんな2人を横目に───。
「はい。土方司令。いいえ、私は既に手遅れかと考えます」
田沼少将は土方の見解に否定的だった。
因みに妙な言い回しの受け答えの様だが、軍隊では基本的に公の場に於いて上官の言葉に対して部下や下位の階級にある者が真っ向から否定の言葉を述べる事は出来ないため、この様な言い回しの受け答えになるのである。
「状況から鑑みまして、この事件から現在のアメリカに対し見切りをつけた者は決して少なくはないでしょう。
現在我が艦隊を追跡中の米原潜の乗員達も、それに該当する可能性が極めて高いと小官は考えます。艦の指揮権を乗っ取っても乗員達の多くが反発してしまえば艦を動かす事は出来ません。
おそらくですが、母港を出撃した頃から既に脱走の計画は進行しており、機を見て逃亡を謀る手筈が、そこへ運良くと言って良いのかは分かりませんが、偶然にも我が艦隊への追跡命令が出た事で渡りに船と言わんばかりに便乗したのでしょう。
その際に逃亡の邪魔になりかねない僚艦を撃沈したのではないかと小官は考えます」
一息つく為に一旦区切り、程良く冷めた緑茶で喉を潤す。土方も退席したことで冷めてしまったコーヒーの代わりとして
「些か短絡的であるかもしれませんが、小官と致しましては事の成り行きからこうなっても仕方がない状況だったと考えます。
彼女らからしたら、
「ふむ…。疑心暗鬼に陥っている…。というわけか」
土方はチラリと
おそらくアメリカ本国の現状に関する情報が、彼女ら在日米軍所属の艦娘達にはマトモに伝わっていなかったのだろう。…もしかすると在日米軍自体が情報遮断、いや情報統制を受けているのだろう。
嘗てはインド太平洋戦略の要衝であり、アジアに於けるアメリカ軍の軍事的影響力行使の最重要な拠点とされ、アメリカ軍将兵から海外での任地として最も魅力で人気のある地とされた日本であるが、当の日本の急速な衰退による魅力の損失と太平洋の制海権が分断されて以降、本国からのマトモな補給が機能しておらず、その戦力の維持すら覚束無い事から、一部では現政権にとって目障りな軍関係者を合法的に国外へと追い遣る事の出来る政治的流刑地になったなどと囁かれるほど、現在の在日米軍はその扱いが悪化していた。
だが皮肉なことに、
…これ以上続けるのは彼女への精神的ストレスが大き過ぎるか?
憔悴しきった
「兎も角、もう間もなく深海棲艦の領域へと突入する。
「…
「よろしい。万が一という事もある。田沼少将、艦隊各艦に対空、対潜、対水上警戒を強化する様に通達せよ」
「了解」
ここで切り上げて解散となった。
各々席を立ち、公室から退室していくが、精神的な消耗が激しい
「おっと」
そんな中で
「手伝います」
それを見た
「…コレは間違いないのだな?」
その文面には一連の米原潜の行動は亡命を企図している可能性が高く、撃沈されたと思われる艦も亡命のために撃沈を偽装しており、現在確認済みの1隻だけでなく、その後方に距離を置いて2隻が追随した合計3隻で行動している可能性が高い事が記されていた。
現在米本土では音信不通となった2隻の捜索のために偵察機が飛び立ち、そして日本本土から飛び立って艦隊へと接近が予想されている米偵察機は、単独行動中とされる1隻とのコンタクトを図ろうとしている可能性が高い。
またアメリカ国内に関する情報の提供は
それらの情報を総合的に判断した結果として、当該艦が亡命目的の脱走である可能性が高いとし、
無論、この文章は
情報提供に関して前者は予想した通りだったが、後者は些か予想外ではあった。
しかし先の真志妻大将による会見の内容から鑑みるに、独自に深海棲艦との連絡が可能なパイプが構築出来ていると考えれば、特に不自然なことでは無いと判断した。…間接的という表現は引っ掛かるが。
「はい。土方司令と
「…矢張りか」
その文章の内容、なにより土方の態度からその意図と目的がなんとなく読み取れてはいた。
そして先程土方が退室した際の通信相手であり、信頼する情報提供者と土方が称した者の正体が
とは言え撃沈前提の拿捕と違い、拿捕のみとなると不確定要素が多く、その分実行部隊のリスクも増える。それに亡命ともなると政治的な問題も絡んでいるため、幾ら
「…やってみよう。
我が友
リスクはあるが作戦次第で制圧も可能だ。上手くいけば
それに、我が友は我が軍ならば造作も無いと信頼してくれているのだ。その信頼に応えねばな。
問題があるとすれば、
「お手数をお掛けして申し訳ありませんが、土方司令に成り代わりまして、よろしくお願い致します」
それに対して
結果として、
作戦は日没後しばらくして開始された。
3隻は目標艦である『
艦娘の活動安全深度に達すると1人の艦娘が出て来て包囲する
その後に残り2隻の米原潜、SSN-811『
そして───。
「よぉ…、オジキ。久しぶりだな。
深夜、人目を避けて再び『かが』へと乗艦し、迎え入れた
まさかとは思っていたが先の通信の折にアンドロメダに語った、一時期自身の指揮下にいた顔見知りの
だが見慣れた不敵な精悍さは鳴りを潜め、笑ってはいてもその淀んで生気を感じさせない冷たい瞳の目は笑っておらず、瞼には隈が溜まり、疲れ切っていることが一目でわかるものの、その目の奥だけはギラつき飢えた猛犬めいた不穏な雰囲気を醸し出していた。
後方には彼女らを迎え入れ、今は警護として
何かあれば素手で瞬時にその命を確実に刈り取れる者として、斉藤からも太鼓判を押されるほどの
そんな2人が背後に居るにも関わらず、不穏な雰囲気を隠そうともしていない。
因みに普段は土方の警護に就いている
「まったく…。貴艦はいつから勇気と無謀を履き違える様になったのだ…」
「あぁ。まったくだよ…。すまないが、一本いいかい?」
勝ち気な態度で知られる彼女らしくないほどのしおらしい言葉を口にしながら、クシャクシャになった煙草の入った箱を取り出した。
取り出された煙草は一目で粗悪な安物だとわかるシロモノだった。
「おい、そんな粗悪品じゃなくコッチを吸え」
あまりにも粗悪な煙草に見かねた
「…おぉ、コイツはすっげぇ上物だ。今まで吸ってたシケモクのニセモノなんか目じゃねぇぜ」
紫煙を燻らせ、その芳醇さに感動した
これにより土方と
その一方で
隠れて細巻きを嗜む事のある
だが幾らお調子者な彼女でも、この空気の中で気安く「1本お恵みを」とは流石に言えなかったため、隠し持っている自前の細巻きを取り出そうとしたが、寸前でやめた。
嗅覚が敏感な
なおその事で後に土方と
「…あたいも、らしくねぇ事をしたと思ってるよ。けどよ、ヨーロッパの連中みたいに、あたいらももう限界だったんだ」
煙草を咥えたまま静かにポツリポツリと話出し、力無く笑う。その笑いは明らかに自嘲の混じったものだった。
「コッチにはアンタやマシツマみたいに表立って堂々と、あたいらの味方になってくれる奇特なヤツなんざ、上のヤツらには居ねぇし、現場は現場で上のヤツらに睨まれるのが怖くて縮こまっている連中が殆どだ…。
語り続ける彼女の顔に苦悩と悔恨の色が浮かんでいた。
「…それがこのザマさ。何人逝っちまったかも分からねぇ。あたいの考えが浅はか過ぎたんだ。仲間を、あたいが殺しちまった様なモンだ」
誰も一言も発することなく、ただ彼女が語る話を静かに聞いている。
下手な慰めや同情は、今の彼女には却って逆効果だ。今は邪魔せずただ彼女の胸のうちにあるモノを吐き出させるために、聞きに徹するのみだ。
「今更後悔しても、どうにもならねぇってのは分かってる。こんな湿っぽい話をしても意味がねえってのもな…。
それで、何が聞きたいんだ?そのためにわざと人目を避けてあたいを連れてこさせたんだろ?」
多少は胸のうちに抱えたモノを吐き出したためか、未だ淀んではいるが目に多少なりとも生気が戻っていた。
出来れば次で終らせてWelcome Saipanと行きたい…。
補足説明
反乱法
Insurrection Act of 1807──1807年内乱法──正式にはAn Act authorizing the employment of the land and naval forces of the United States, in cases of insurrections──内乱の場合において合衆国の陸上および海上戦力を利用する権限を与える法律──は1807年にアメリカ合衆国第9議会で制定、3月3日に第3代合衆国大統領
合衆国法典第10編第254条は、反乱法を発動した後かつそれに基づいて付与された権限を行使する前に、騒擾または武装反乱を犯している者たちの解散を大統領が正式に命令する大統領布告の発布を要求する必要がある。
私は2020年のblmによる過激な破壊活動の教訓から、ミネソタ州での騒動に反乱法の適用もやむ無しと考えています。構図が当時と酷似していますし、より悪質化しています。ICE職員を標的とした過激な妨害活動、疑わしい者をICE職員だとして魔女狩り染みた暴行、SNSへの顔写真個人情報の投稿、脅迫、犯罪者逃亡幇助などなど、やりたい放題。殆ど共産主義の暴力革命や文革の造反有理の思考です。
そもそも不法行為によって入って来た犯罪者を擁護したり庇う行為を正当化していたら、法は犯罪者を裁けず、法の効力が有耶無耶になり、法の庇護すら否定する事になります。
ICE職員は毎日命の危険に晒されながら職務に当たっており、いつ襲撃を受けるかの極度の緊張状態に置かれていますが、州政府は非協力的で州知事は造反有理思想に凝り固まった人物、というか先の大統領選での副大統領候補だった人物です。
大統領選での個人的な私怨があるのではと疑うのは穿ち過ぎだろうか?
本編では連邦政府が法解釈の拡大解釈で反対勢力狩りで濫用中。
9x21mm
ロシア連邦軍が使用する対ボディーアーマー用拳銃弾。
SP-10は6.7gの弾丸を初速410m/s、銃口エネルギー635Jで打ち出し、50mの距離で1.2mmのチタン板を貫通した上で30層のケブラーも貫通とされ、この拳銃弾を使用するSR-1(СР-1)では50mの距離でクラスⅢ(NIJレベルⅢ、7.62㎜NATO弾FMJに対応)のボディーアーマーを貫通可能で、
予想よりも早く衆議院解散したなぁ。その狙いに色々な予想が出来るけど、なんにせよ与党の単独過半数獲得は避けたいというのが私の偽らざる本音。
現総裁への不信感もあるけど、過半数獲得となれば間を置かずに党内の前任2人の様な左派及びリベラル派、グローバリズム勢力による“背後の一撃”で総裁の交代劇をやる可能性もある。頭の挿げ替えはいつもの手だし。その後は過半数あるから国民の信任を得ているとして一気に左に再加速を狙っている可能性も無くもない。なにより今連立組んでいる連中がちょっとねぇ。
理想は与党は過半数割れで現在の野党第一党も議席減で野党第一党が交代。反グローバリズムの政党が躍進し、与党に睨みを利かせる状態がマシだと考える。
また私個人としては巨大政党よりも少数政党がマシだとも考えている。人数が多ければ多いほど、その分党内で考え方が一致しない者達も出てくる。所謂派閥だが、党の中に小さな党が乱立している様なものだ。しかし看板となっている党名と党の代表の顔によって民衆にはよっっっっぽど政治に興味があって調べて分析している者でもなければ分かり辛い。…まぁかと言う私もそこまで深く調べて分析しているわけでは無いですが。
それと日本の外では急激な動きを見せている。
人によっては評価が大きく分かれるでしょうが、現在のアメリカをどう捉えるか?これは非常に難しい。ただ、単純な善悪論だけで評価するのは外交に於いては絶対にやってはいけないタブー中のタブーだ。
「“敵”を嫌うあまり思考に霞がかかり、冷静でマトモな思考が出来ずに正当な評価をしなくなる。一致しない考えを非常に嫌悪し、異常なまでの拒絶を示して攻撃的になる」
これはとある海外の小銃解説動画にあったコメントの和訳を元に、個人的な解釈を付け足してます。これは色々な物に対しても当て嵌まると私は考えています。
今ある情報から様々な可能性を考え、真の狙いはもしかして別にあるかも?と考えるのも必要だ。
100%完璧な人間などいない。そして100点満点の評価が出来る人間も。それは国家も同じ。
状況次第では妥協の道も探らなければならない時もある。
それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。