艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 逃亡者達1


 落とし所が難しい!


第90話 Escapees 1

 

 

 突如説明も無いまま退室した土方の帰りを待つ公室は、静まり返っていた。

 

 

 一体何事が起きたのか?

 

 

 なんら情報が無いまま只管待つしか出来ず、ただ机の上に置かれた灰皿に煙草の吸殻が増え、カップに注がれたコーヒーや紅茶、緑茶は何度か飲み干されるか、完全に冷めてしまっていた。 

 

 Софи(ソフィー)少佐ことГангут(ガングート)は普段の愛用するパイプ煙草ではなく、懐から空白部分の割合が多くなった細巻き煙草の箱を取り出すと一本を口に咥え、パイプ用に使っている軸の長いマッチで火を灯した。

 

 …一応、部屋には煙草嫌いの海風(ウミカゼ)が警護として控えており、給仕の役割もしていたが、今は僅かだが険しい顔をしている。ただしそれは煙草が原因で不機嫌なのではなく、最愛の姉である春雨(ハルサメ)から送信されて来た文面の内容を見た事が理由であった。

 

 

 そこへ漸く土方が春雨(ハルサメ)を伴って戻って来た。

 

 

「待たせてすまない。

 

 私の個人的な信頼出来る情報筋からの緊急連絡だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …おそらく、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この土方が齎した情報がその場の空気をより一層張り詰めさせた。

 

 特に米軍から遣わされたHeywood L.Edwards(ヘイウッド・L・エドワーズ)は動揺を隠すことに失敗していた。

 

 

 土方は開示する情報の内容を敢えて改竄していた。

 

 

「…“同志”、まさかと思うが」

 

 

 火をつけたばかりの細巻き煙草を灰皿に押し付けながら、Гангут(ガングート)は怪訝な目つきで土方へと問いただす。

 

 それなりに付き合いのある彼女は土方が何か企んでいる事を察した様だ。

 

 

「“Софья(ソフィーア)”少佐、貴艦のその予想は、おそらく当たっている」

 

 

 この返しにГангут(ガングート)は小さく舌打ちした。この場では現在の偽りの立場から意図して使っていなかった、仲間と認めた者に対してのみ使っている“同志”という敬称で敢えて呼ぶことでカマかけし、それに対して土方は階級はそのままに、偽名の“Софи(ソフィー)”ではなく自身の本名のファーストネームである“Софья(ソフィーア)”と呼んで返して来た。

 

 開示された情報には裏がある。それも厄介事の類いだと彼女は推測した。

 

 

「しかし、こりゃまた厄介ですな…。現在我が艦隊を追尾中の米原潜がその事になんら無関係とは考え難いですし、一番疑わしい容疑者と言えるでしょう。

 

 もしも当該艦が叛乱による脱走艦となりますと、その目的次第では最悪テロリストとして扱う事も視野に入れなければならなくなりますが…」

 

 

 『かが』の艦長を務める田沼(たぬま)(とおる)少将は眉を顰めながら、土方の言わんとしていることを察し、尚且つГангут(ガングート)に対して困った様な顔をしつつ申し訳無さそうな口調で語る。

 

 

 戦争の長期化による消耗とアメリカとの連絡線である航路が深海棲艦の電撃的侵攻によって遮断された影響もあり、深刻な装備品の不足に陥った日本軍は、新ロシア連邦(NRF)からの大規模な軍事援助を受けた事で空軍は全面的に、そして陸軍は一部を除き、従来の西側規格からロシア軍規格の兵器武器弾薬に更新・統一されたが、海軍は運用困難な損傷艦を部品取りの共食い整備に利用することで、従来艦がまだなんとか稼働可能状態にあったこと、なにより最も最前線での戦闘に駆り出される割合が多いという都合から、中々新ロシア連邦(NRF)製軍艦での再訓練を受ける時間や人員を捻出する余裕が出来ずに更新が遅れ、従来通りの西側規格の装備弾薬を使い続けていた。

 

 しかし日本の製造業の衰退。同盟国アメリカも自国の戦力維持で手一杯な状態と先の連絡線の遮断から殆どの弾薬が窮乏し、精々機銃や砲が撃てる以外では艦娘の為の戦場タクシーと化している今の日本艦隊には、潜水艦に対処可能な弾薬にも事欠いていた。

 

 何かあったら同行する新ロシア連邦(NRF)艦隊に全面的に任せるしか方法が無い有り様なのである。

 

 

 Гангут(ガングート)としても「行動如何によっては撃沈もやむなし」とする発言を既にしているため、撃沈してしまう事に対して吝かではない。だが叛乱による脱走艦だとするならば少し事情が変わってくる。

 

 脱走の目的がもしも突発的な叛乱によるものでなく、亡命を目的としてのものであった場合、撃沈はアメリカの不祥事の処理を自分達が代行したという事になり、それは結果としてアメリカを利することに繋がる。

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 どうせならば多少なりともアメリカが渋面を作って嫌がりそうな事をやってやった方が面白い。

 

 

「ま、待って下さい!!叛乱と判断するのは、幾らなんでも早計ではありませんか!?」

 

 

 話がどんどん進んでいく中で、Heywood(ヘイウッド)が慌てながらもそれに待ったをかけた。

 

 

「実は、そう判断する理由が無い訳では無いのだHeywood(ヘイウッド)。君はアメリカ本国で起きた同胞達によるトラブルをどこまで知っているかね?」

 

 

 土方からの問いにHeywood(ヘイウッド)は一端深呼吸し、コーヒーを一口飲んで喉を潤し気分を落ち着かせてから自身が認識している範囲の情報を話し出す。

 

 

「…情報の錯綜により詳しい事は不明ですが、本国のsan Diego(サンディエゴ)基地で同胞の潜水艦(サブマリン)艦娘の主導により同胞達が大規模なStrike(ストライキ)を決行しましたが、直ぐに沈静化したことまでは分かっています。…まさか!?」

 

 

「…武力弾圧による鎮圧か。反乱法を適応した合法的なものかもしれんが、最近はその法解釈の拡大解釈による濫用が著しい上に対応の過激化が度を越していると対外情報庁(СВР)の連中から聞いている。ハッ!自由の国が聞いて呆れるな」

 

 

 新しい煙草に火をつけながらГангут(ガングート)は半分嘲る様な口調で語る。この事件に関しておおよその情報をアンドロメダ達と同様に、対外情報庁(SVR)から既に伝わって来ているが、その事は伏せている。

 

 

 因みに反乱法──Insurrection Act(インセレクション アクト)──とは1807年に制定された米国内の暴動や内乱、連邦政府に対する武装叛乱または法執行妨害を鎮圧するために大統領が連邦軍や州兵を投入することを認める合衆国連邦法の事である。通常、米軍の国内治安活動は禁じられているが、この法律の発動により、大統領の指示下で軍が直接治安維持に当たれるようになる。

 

 現在の極左リベラル政権は国家の秩序維持を名目に、自分達に反発する保守党支持者による抗議のデモ活動に対しその都度この反乱法を発動して流血を伴う弾圧を繰り返しているが、それに対して自分達の岩盤支持層でもある極左が関わる暴力や放火を伴う破壊活動は明らかに暴動を通り越した内乱、叛乱行為に等しいのだが、政権は()()()()()()()との公式声明を出して一度たりとも発動した実例がない。

 

 それどころか治安回復を図ろうとした保守党系州知事、州政府に対し連邦政府に対する武装叛乱を企てているとして反乱法を発動。州軍の指揮権を剥奪。連邦軍を投入して州政府を制圧するなどの常軌を逸した行動に出ていた。

 

 

 これら一連のアメリカ国内に関する話題はメディアが封殺しているが、それでも完全に隠し切る事は不可能であり、一部の情報が断片的に漏れ伝わって来ている。

 

 

「しっつれーす…しますっぽい!ハル(ネェ)!頼まれた書類の印刷できたっぽい!」

 

 

 ノックも無く突然公室の扉が勢いよく蹴り開けられ、夕立(ユウダチ)が書類の束を抱えて入って来た。

 

 

 公室へと戻る道すがら、春雨(ハルサメ)は土方の指示でアンドロメダから送られてきていた資料から公室での会議に関わる必要な情報をピックアップし、軽く添削してから公室に入る直前にこの作戦に同行している妹達へと送信。なるべく早く書面への印刷を頼んでいた。

 

 とは言えまさか姉妹の中で自由奔放を絵に描いた様な問題児、夕立(ユウダチ)が持ってくるとは思ってなかったが…。まぁなんだかんだ言いながらも事務仕事にも真面目に取り組み、それなりに手早くミスも少なかったりする。早く終らせて遊べる自由時間を増やしたいとの思惑もある様だが…。

 

 

 ハル(ネェ)と呼ばれた春雨(ハルサメ)は無遠慮に扉を蹴り開けた自由奔放なユウダチ()に、幾ら注意しても聞かないだろうからと、軽く溜め息を吐く程度で礼を述べて書類を受け取る。狂おしいほど愛して止まないハルサメ(敬愛する姉)を困らせる者には仮令妹だろうとお構い無しな海風(ウミカゼ)ですら、頭痛を堪える様に蟀谷(こめかみ)を押さえるだけであるのだから相当である。

 

 ただ、もしもここに霧島(キリシマ)が居たならば、青筋を立てながら鉄拳制裁代わりにボディーアーマーを貫通可能な9×21mmГюрза(ギュルザ)弾を使用するУдав(ウダフ)自動拳銃を懐から取り出し、眉間への一撃を食らわせていただろう。*1

 

 

 とは言え立場柄、土方だけは叱責による注意だけはしておいた。

 

 …結局は暖簾に腕押しに終わり、夕立(ユウダチ)は特に反省した様子もなく、来た時と同様に平然として嵐のように去って行った。流石に扉はちゃんと閉めて行ったが。

 

 

 兎も角、受け取った春雨(ハルサメ)によって全員へと書類が配布され、目を通し始める。

 

 

「はは…。自国民だけでなく、遂に味方の艦娘にも本格的な弾圧の手を伸ばしましたか…。アメリカもいよいよな様ですなぁ…」

 

 

「笑い事ではないぞ田沼少将。最悪これが切っ掛けとなって事態がエスカレーションし、本格的な内戦となったらその影響はヨーロッパの比にならんぞ」

 

 

 同盟国の形振り構わない国内情勢に思わずと言った感じで乾いた笑い声を出してしまった田沼に土方は叱責する。

 

 

 そんな中でHeywood(ヘイウッド)は書類を手にただただ震えており、一言も喋れずにいた。その震えはショックによるものか、それとも怒りによるものか…。

 

 配布された書類にはストライキを決行し賛同した艦娘を「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」とし、()()()()()()()()()()も兼ねて反乱法による徹底的な武力弾圧を現政権が厳命していた事実も記載されていた。

 

 だがストライキを決行した艦娘は武装などしていなかった。その事実が確認され、政府へと報告されていた事実も記されていた。

 

 それにも関わらず政権内はこの報告を握り潰し、その直後の閣僚会議の場に於いて「戦車も投入してやろう」との閣僚からの提案が出ており、その閣僚というのがよりによってSecretary of Defense──国防長官──によるもので、その提案に則って複数のM1戦車が集結。鎮圧作戦の支援として加わる予定だったが、投入される前に鎮圧の目処が立ったことにより直前で中止となった。

 

 投入されていたらバリケードの粉砕や立て籠もる建物ごと吹き飛ばす為に実弾が使用される手筈だった。

 

 

 狂っている。

 

 

 顔から血の気が引いて青褪めさせながら、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 対してГангут(ガングート)は記載された内容の多くが既知の情報とほぼ同一だったため、この情報の出どころと提供者が誰なのか見当がついていた。

 

 もしかしたら間接的に目新しい情報を送って来ているかもしれないと、素知らぬ顔でページを捲っていたが、とあるページを目にした所で手を止め、少しだけ黙考すると、何事も無かったかのようにまた直ぐにページを捲り始めた。

 

 

 そんな2人を横目に───。

 

 

「はい。土方司令。いいえ、私は既に手遅れかと考えます」

 

 

 田沼少将は土方の見解に否定的だった。

 

 

 因みに妙な言い回しの受け答えの様だが、軍隊では基本的に公の場に於いて上官の言葉に対して部下や下位の階級にある者が真っ向から否定の言葉を述べる事は出来ないため、この様な言い回しの受け答えになるのである。

 

 

「状況から鑑みまして、この事件から現在のアメリカに対し見切りをつけた者は決して少なくはないでしょう。

 

 現在我が艦隊を追跡中の米原潜の乗員達も、それに該当する可能性が極めて高いと小官は考えます。艦の指揮権を乗っ取っても乗員達の多くが反発してしまえば艦を動かす事は出来ません。

 

 おそらくですが、母港を出撃した頃から既に脱走の計画は進行しており、機を見て逃亡を謀る手筈が、そこへ運良くと言って良いのかは分かりませんが、偶然にも我が艦隊への追跡命令が出た事で渡りに船と言わんばかりに便乗したのでしょう。

 

 その際に逃亡の邪魔になりかねない僚艦を撃沈したのではないかと小官は考えます」

 

 

 一息つく為に一旦区切り、程良く冷めた緑茶で喉を潤す。土方も退席したことで冷めてしまったコーヒーの代わりとして海風(ウミカゼ)が新たに淹れ直してくれたコーヒーを啜りながら、目線で続きを促した。

 

 

「些か短絡的であるかもしれませんが、小官と致しましては事の成り行きからこうなっても仕方がない状況だったと考えます。

 

 彼女らからしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものと考えます」

 

 

「ふむ…。疑心暗鬼に陥っている…。というわけか」

 

 

 Гангут(ガングート)が書類を机に放り投げ、興味深そうに頬杖をつきながら呟く。

 

 土方はチラリとHeywood(ヘイウッド)を見遣るが、書類を持ったまま放心している様な有り様だった。

 

 おそらくアメリカ本国の現状に関する情報が、彼女ら在日米軍所属の艦娘達にはマトモに伝わっていなかったのだろう。…もしかすると在日米軍自体が情報遮断、いや情報統制を受けているのだろう。

 

 

 嘗てはインド太平洋戦略の要衝であり、アジアに於けるアメリカ軍の軍事的影響力行使の最重要な拠点とされ、アメリカ軍将兵から海外での任地として最も魅力で人気のある地とされた日本であるが、当の日本の急速な衰退による魅力の損失と太平洋の制海権が分断されて以降、本国からのマトモな補給が機能しておらず、その戦力の維持すら覚束無い事から、一部では現政権にとって目障りな軍関係者を合法的に国外へと追い遣る事の出来る政治的流刑地になったなどと囁かれるほど、現在の在日米軍はその扱いが悪化していた。

 

 だが皮肉なことに、新ロシア連邦(NRF)による日本への援助物資の一部が日本政府による「思いやり予算の物納」という形で回してもらえている事から、現在のアメリカ全軍の中で食糧事情がかなりマトモな部類に入っていたりする。

 

 

 …これ以上続けるのは彼女への精神的ストレスが大き過ぎるか?

 

 憔悴しきったHeywood(ヘイウッド)の顔を横目でちらりと見た土方は、まだ話すべき議題は残っているものの、ここで打ち切る判断を下した。

 

 

 

「兎も角、もう間もなく深海棲艦の領域へと突入する。Софи(ソフィー)少佐、この一件は貴艦ら新ロシア連邦(NRF)軍に対処行動を要請したい。その際に発生した全責任は貴軍へと要請した私が全て請け負う」

 

 

「…Всё понятно(承知しました)

 

 

「よろしい。万が一という事もある。田沼少将、艦隊各艦に対空、対潜、対水上警戒を強化する様に通達せよ」

 

 

「了解」

 

 

 ここで切り上げて解散となった。

 

 各々席を立ち、公室から退室していくが、精神的な消耗が激しいHeywood(ヘイウッド)春雨(ハルサメ)からのアイコンタクトを受けた海風(ウミカゼ)が肩を貸す形で退室した。

 

 

 

 

「おっと」

 

 

 そんな中でГангут(ガングート)は吸っていた煙草を灰皿に捨て、提供されていた紅茶を飲み干してから席を立ったので出遅れる形となったのだが、その際に自身に配布された書類を重要参考資料として持ち帰るため、鞄に入れようとしてうっかり手を滑らせ書類の一部を机に撒き散らしてしまい、慌てた風体を装って散らばった書類を集め出す。

 

 

「手伝います」

 

 

 それを見た春雨(ハルサメ)がすかさず手伝いに入る。

 

 Гангут(ガングート)は撒き散らした書類を集めながら、()()()()()()()1枚の書類を春雨(ハルサメ)に見せ小声で話掛ける。

 

 春雨(ハルサメ)も予期していたかの様に動じる事なくГангут(ガングート)の話に耳を傾ける。

 

 

「…コレは間違いないのだな?」

 

 

 その文面には一連の米原潜の行動は亡命を企図している可能性が高く、撃沈されたと思われる艦も亡命のために撃沈を偽装しており、現在確認済みの1隻だけでなく、その後方に距離を置いて2隻が追随した合計3隻で行動している可能性が高い事が記されていた。

 

 現在米本土では音信不通となった2隻の捜索のために偵察機が飛び立ち、そして日本本土から飛び立って艦隊へと接近が予想されている米偵察機は、単独行動中とされる1隻とのコンタクトを図ろうとしている可能性が高い。

 

 またアメリカ国内に関する情報の提供はМирослава(ミロスラヴァ) Министр(国防相)の認可を受け、СВР(SVR)によるアメリカでの諜報情報が提供され、さらには米原潜撃沈に関する情報はハワイに展開する深海棲艦から()()()()齎されたとされていた。

 

 それらの情報を総合的に判断した結果として、当該艦が亡命目的の脱走である可能性が高いとし、貴国(NRF)への亡命を希望している可能性が高いと予想する。と締め括られていた。

 

 無論、この文章はHeywood(ヘイウッド)に渡された書類には一切記載されていない。さらに配布された書類はそれぞれ内容の文言のニュアンスに多少の違いがあったり、この後の行動についての指示に関する文言が混ぜ込まれていた。先の田沼少将による土方との遣り取りもその指示に基づくものだった。

 

 

 情報提供に関して前者は予想した通りだったが、後者は些か予想外ではあった。

 

 しかし先の真志妻大将による会見の内容から鑑みるに、独自に深海棲艦との連絡が可能なパイプが構築出来ていると考えれば、特に不自然なことでは無いと判断した。…間接的という表現は引っ掛かるが。

 

 

「はい。土方司令と霧島(キリシマ)さんは熟慮の末に3艦全ての拿捕をお考えです。

 

 霧島(キリシマ)さんは貴女なら潜水艦隊とспецназ(スペツナズ)隊員の艦娘部隊も連れて来てるだろうから、任せておけば大丈夫だとも仰っていました」

 

 

「…矢張りか」

 

 

 その文章の内容、なにより土方の態度からその意図と目的がなんとなく読み取れてはいた。

 

 そして先程土方が退室した際の通信相手であり、信頼する情報提供者と土方が称した者の正体が霧島(キリシマ)であると、春雨(ハルサメ)は今の発言から認めた。

 

 

 とは言え撃沈前提の拿捕と違い、拿捕のみとなると不確定要素が多く、その分実行部隊のリスクも増える。それに亡命ともなると政治的な問題も絡んでいるため、幾らМинистр(国防相)からそれなりの独自裁量権を得ているとは言え、これはその範疇を逸脱している恐れがあった。だが───。 

 

 

「…やってみよう。

 

 我が友霧島(キリノ)の読み通り、Подводный крейсер(潜水巡洋艦)隊とспецназ(スペツナズ)所属の潜水艦艦娘部隊を連れて来ている。

 

 リスクはあるが作戦次第で制圧も可能だ。上手くいけばянки(ヤンキー)共の内情も知れる。損な話ではない。

 

 それに、我が友は我が軍ならば造作も無いと信頼してくれているのだ。その信頼に応えねばな。

 

 問題があるとすれば、янки(ヤンキー)の偵察機だが、まぁ上手くやるさ」

 

 

「お手数をお掛けして申し訳ありませんが、土方司令に成り代わりまして、よろしくお願い致します」

 

 

 春雨(ハルサメ)は深々と頭を下げる。

 

 それに対してГангут(ガングート)は「任せろ」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、春雨(ハルサメ)が集めてくれた資料を礼を言って受け取ると鞄に仕舞い、脱いでいた軍帽を着用し直して公室を後にした。

 

 

 

 

 

 結果として、霧島(キリシマ)が予想した通りスンナリと事は終わった。

 

 

 作戦は日没後しばらくして開始された。

 

 

 Гангут(ガングート)が連れて来ていた3隻の885M型『Ясень(ヤーセン)』級Подводный крейсер(潜水巡洋艦)、K-571『Красноярск(クラスノヤルスク)』、K-572『Пермь(ベルミ)』、K-574『Владивосто́к(ウラジオストク)』のそれぞれに乗艦しているспецназ(スペツナズ)の潜水艦艦娘を彼女らが活動可能な安全深度で展開してから目標艦の深度まで全艦潜航。

 

 3隻は目標艦である『Virginia(ヴァージニア)』級攻撃型原潜SSN-809『Long Island(ロングアイランド)』の艦首方向を押さえる鶴翼の陣形に近い配置で展開。その頭上を艦娘部隊が押さえ、打ち合わせ通り一斉に全ての魚雷発射管を注水し、発射管扉を開口して派手に物理的な警告を発したら『Long Island(ロングアイランド)』は機関を停止。バラストタンクからの排水音が確認されて浮上を開始。

 

 艦娘の活動安全深度に達すると1人の艦娘が出て来て包囲する新ロシア連邦(NRF)軍潜水艦艦娘спецназ(スペツナズ)隊員に接触を図ってきた。

 

 その後に残り2隻の米原潜、SSN-811『Miami(マイアミ)』とSSN-814『Potomac(ポトマック)』も現われて合流。3隻共々спецназ(スペツナズ)隊員の潜水艦艦娘が乗り込み、なんらトラブルが起きること無く迅速に制圧…、いや正確には3隻の米原潜の乗員は抵抗する素振りを一切見せず、艦内に乗艦したспецназ(スペツナズ)隊員に白旗を見せ、投降を宣言した。

 

 

 そして───。

 

 

「よぉ…、オジキ。久しぶりだな。()()()()()()()

 

 

 深夜、人目を避けて再び『かが』へと乗艦し、迎え入れた春雨(ハルサメ)姉妹に伴われて長官公室を訪れたГангут(ガングート)が連れて来た艦娘に、土方は内心で軽く溜め息を吐いた。

 

 まさかとは思っていたが先の通信の折にアンドロメダに語った、一時期自身の指揮下にいた顔見知りのScamp(スキャンプ)本人だった。

 

 だが見慣れた不敵な精悍さは鳴りを潜め、笑ってはいてもその淀んで生気を感じさせない冷たい瞳の目は笑っておらず、瞼には隈が溜まり、疲れ切っていることが一目でわかるものの、その目の奥だけはギラつき飢えた猛犬めいた不穏な雰囲気を醸し出していた。

 

 後方には彼女らを迎え入れ、今は警護として夕立(ユウダチ)江風(カワカゼ)が控えている。夕立(ユウダチ)は先の破天荒な天真爛漫さの問題児であるが、その本質は長姉春雨(ハルサメ)から「控えなさい」と念押しで注意されるほど、躊躇無く平然と虐殺も厭わない殺戮に特化した狂犬(バーサーカー)であり、そんな彼女の本質を知る者から恐れられていた。江風(カワカゼ)は普段お調子者な所があるが、近接格闘術に於いては姉妹の中でトップクラスの実力を誇っており、懐に入り込みさえすれば夕立(ユウダチ)すら制圧してしまえるほどである。

 

 何かあれば素手で瞬時にその命を確実に刈り取れる者として、斉藤からも太鼓判を押されるほどの猛者(モサ)だ。

 

 

 そんな2人が背後に居るにも関わらず、不穏な雰囲気を隠そうともしていない。Scamp(スキャンプ)もこの2人のヤバさは身をもって知っているにも関わらずだ。…いや、隠すだけの精神の余裕が無いのか。

 

 因みに普段は土方の警護に就いている春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の2人は、既に勤務時間が過ぎているので()()()()()()()()

 

 

「まったく…。貴艦はいつから勇気と無謀を履き違える様になったのだ…」

 

 

「あぁ。まったくだよ…。すまないが、一本いいかい?」

 

 

 勝ち気な態度で知られる彼女らしくないほどのしおらしい言葉を口にしながら、クシャクシャになった煙草の入った箱を取り出した。

 

 取り出された煙草は一目で粗悪な安物だとわかるシロモノだった。

 

 

「おい、そんな粗悪品じゃなくコッチを吸え」

 

 

 あまりにも粗悪な煙草に見かねたГангут(ガングート)が自身の細巻き煙草を差し出し、Scamp(スキャンプ)が「すまねぇ」との礼とともに1本受け取り、それを口に咥えたのを見計らってГангут(ガングート)がわざわざ火を灯し、ついでとばかりに自身も一服しだした。

 

 

「…おぉ、コイツはすっげぇ上物だ。今まで吸ってたシケモクのニセモノなんか目じゃねぇぜ」

 

 

 紫煙を燻らせ、その芳醇さに感動したScamp(スキャンプ)は暫しその美味さを噛み締める様に堪能したことで、その雰囲気も次第に和らぐが、同時に彼女の言葉から、今現在のアメリカ本土での艦娘への待遇が一体どの様なものであるか?その現実を推し量れる材料を得ることとなった。

 

 これにより土方とГангут(ガングート)はそれぞれ思考を巡らせ、場の空気に微妙な重さが混じりだす。

 

 

 その一方で江風(カワカゼ)は2人が吸う煙草に羨ましそうな視線を送っていた。

  

 隠れて細巻きを嗜む事のある江風(カワカゼ)は、Гангут(ガングート)の持っている煙草が、その立場に相応しい高級な代物であると見抜いていた。

 

 だが幾らお調子者な彼女でも、この空気の中で気安く「1本お恵みを」とは流石に言えなかったため、隠し持っている自前の細巻きを取り出そうとしたが、寸前でやめた。

 

 

 嗅覚が敏感な夕立(ユウダチ)が、紫煙の匂いに顔を皺々にしていたからだ。

 

 

 なおその事で後に土方と春雨(ハルサメ)夕立(ユウダチ)に煙草の匂いが苦手だった事を失念していたとして謝っていた。

 

 

 

「…あたいも、らしくねぇ事をしたと思ってるよ。けどよ、ヨーロッパの連中みたいに、あたいらももう限界だったんだ」

 

 

 煙草を咥えたまま静かにポツリポツリと話出し、力無く笑う。その笑いは明らかに自嘲の混じったものだった。

 

 

「コッチにはアンタやマシツマみたいに表立って堂々と、あたいらの味方になってくれる奇特なヤツなんざ、上のヤツらには居ねぇし、現場は現場で上のヤツらに睨まれるのが怖くて縮こまっている連中が殆どだ…。

 

 Iowa(アイオワ)のヤツが頑張ってくれてんのは分かってるし、ヤツの足を引っ張るマネはしたくはなかったんだがよ、待てなかったんだ。あたいらがどうにか声を上げなきゃならなかったんだ…」

 

 

 語り続ける彼女の顔に苦悩と悔恨の色が浮かんでいた。

 

 

「…それがこのザマさ。何人逝っちまったかも分からねぇ。あたいの考えが浅はか過ぎたんだ。仲間を、あたいが殺しちまった様なモンだ」

 

 

 誰も一言も発することなく、ただ彼女が語る話を静かに聞いている。

 

 下手な慰めや同情は、今の彼女には却って逆効果だ。今は邪魔せずただ彼女の胸のうちにあるモノを吐き出させるために、聞きに徹するのみだ。

 

 

「今更後悔しても、どうにもならねぇってのは分かってる。こんな湿っぽい話をしても意味がねえってのもな…。

 

 それで、何が聞きたいんだ?そのためにわざと人目を避けてあたいを連れてこさせたんだろ?」

 

 

 多少は胸のうちに抱えたモノを吐き出したためか、未だ淀んではいるが目に多少なりとも生気が戻っていた。

 

 

 

*1
無論、幾らボディーアーマーを貫通出来る銃弾とは言え、この弾丸でも艦娘の皮膚からちょっと血が滲む程度で有効なダメージとはならない。夕立(ユウダチ)を始めとした春雨(ハルサメ)姉妹だとほんのちょっと皮膚が赤くなるのが関の山である。なお、嘗て霧島(キリシマ)がちょっとおふざけが過ぎた夕立(ユウダチ)に鉄拳制裁の拳骨を振り下ろした事があるのだが、拳骨を頭に食らった夕立(ユウダチ)よりも拳骨を食らわせた霧島(キリシマ)の拳の方がダメージが大きかった事がある。世代差とは誠に非情である。





 出来れば次で終らせてWelcome Saipanと行きたい…。


───────


補足説明

反乱法

 Insurrection Act of 1807──1807年内乱法──正式にはAn Act authorizing the employment of the land and naval forces of the United States, in cases of insurrections──内乱の場合において合衆国の陸上および海上戦力を利用する権限を与える法律──は1807年にアメリカ合衆国第9議会で制定、3月3日に第3代合衆国大統領Thomas Jefferson(トーマス・ジェファーソン)が法案に署名した連邦法。

 騒擾(そうじょう)(civil disorder)、内乱(insurrection)、または合衆国連邦政府に対する武装反乱(rebellion)の鎮圧などの特定の状況において、大統領に連邦軍を全国に展開させる権限および個別の州の州兵部隊を連邦に移管(federalize)する権限を与えている。

 合衆国法典第10編第254条は、反乱法を発動した後かつそれに基づいて付与された権限を行使する前に、騒擾または武装反乱を犯している者たちの解散を大統領が正式に命令する大統領布告の発布を要求する必要がある。

Wikipediaを参照


 私は2020年のblmによる過激な破壊活動の教訓から、ミネソタ州での騒動に反乱法の適用もやむ無しと考えています。構図が当時と酷似していますし、より悪質化しています。ICE職員を標的とした過激な妨害活動、疑わしい者をICE職員だとして魔女狩り染みた暴行、SNSへの顔写真個人情報の投稿、脅迫、犯罪者逃亡幇助などなど、やりたい放題。殆ど共産主義の暴力革命や文革の造反有理の思考です。

 そもそも不法行為によって入って来た犯罪者を擁護したり庇う行為を正当化していたら、法は犯罪者を裁けず、法の効力が有耶無耶になり、法の庇護すら否定する事になります。

 ICE職員は毎日命の危険に晒されながら職務に当たっており、いつ襲撃を受けるかの極度の緊張状態に置かれていますが、州政府は非協力的で州知事は造反有理思想に凝り固まった人物、というか先の大統領選での副大統領候補だった人物です。

 大統領選での個人的な私怨があるのではと疑うのは穿ち過ぎだろうか?



 本編では連邦政府が法解釈の拡大解釈で反対勢力狩りで濫用中。


9x21mmГюрза(ギュルザ)

 ロシア連邦軍が使用する対ボディーアーマー用拳銃弾。

 Гюрза(ギュルザ)とは正式名称ではなく、同一寸法の別弾薬と区別すべく付けられた名称であり、正式には『SP-10(露語:СП10)』(SP:特殊弾の意)、軍の登録コードであるGRAUインデックスでは『7N29(7Н29)』の名称が与えられています。

 SP-10は6.7gの弾丸を初速410m/s、銃口エネルギー635Jで打ち出し、50mの距離で1.2mmのチタン板を貫通した上で30層のケブラーも貫通とされ、この拳銃弾を使用するSR-1(СР-1)では50mの距離でクラスⅢ(NIJレベルⅢ、7.62㎜NATO弾FMJに対応)のボディーアーマーを貫通可能で、Удав(ウダフ)では75mの範囲でクラスⅡ(NIJレベルⅡ、9x19mmパラベラム弾FMJ、357マグナムJSP対応)を貫通可能と言われています。


 夕立(ユウダチ)曰く「豆鉄砲のクセに変に痛いから嫌いっぽい!!」とのこと。ただし銃としては気に入っており、普段使いとしてУдав(ウダフ)を愛用している。

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 予想よりも早く衆議院解散したなぁ。その狙いに色々な予想が出来るけど、なんにせよ与党の単独過半数獲得は避けたいというのが私の偽らざる本音。

 現総裁への不信感もあるけど、過半数獲得となれば間を置かずに党内の前任2人の様な左派及びリベラル派、グローバリズム勢力による“背後の一撃”で総裁の交代劇をやる可能性もある。頭の挿げ替えはいつもの手だし。その後は過半数あるから国民の信任を得ているとして一気に左に再加速を狙っている可能性も無くもない。なにより今連立組んでいる連中がちょっとねぇ。

 理想は与党は過半数割れで現在の野党第一党も議席減で野党第一党が交代。反グローバリズムの政党が躍進し、与党に睨みを利かせる状態がマシだと考える。

 また私個人としては巨大政党よりも少数政党がマシだとも考えている。人数が多ければ多いほど、その分党内で考え方が一致しない者達も出てくる。所謂派閥だが、党の中に小さな党が乱立している様なものだ。しかし看板となっている党名と党の代表の顔によって民衆にはよっっっっぽど政治に興味があって調べて分析している者でもなければ分かり辛い。…まぁかと言う私もそこまで深く調べて分析しているわけでは無いですが。


 それと日本の外では急激な動きを見せている。


 人によっては評価が大きく分かれるでしょうが、現在のアメリカをどう捉えるか?これは非常に難しい。ただ、単純な善悪論だけで評価するのは外交に於いては絶対にやってはいけないタブー中のタブーだ。


「“敵”を嫌うあまり思考に霞がかかり、冷静でマトモな思考が出来ずに正当な評価をしなくなる。一致しない考えを非常に嫌悪し、異常なまでの拒絶を示して攻撃的になる」


 これはとある海外の小銃解説動画にあったコメントの和訳を元に、個人的な解釈を付け足してます。これは色々な物に対しても当て嵌まると私は考えています。

 今ある情報から様々な可能性を考え、真の狙いはもしかして別にあるかも?と考えるのも必要だ。


 100%完璧な人間などいない。そして100点満点の評価が出来る人間も。それは国家も同じ。

 状況次第では妥協の道も探らなければならない時もある。


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 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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