艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 とんだ茶番劇。


 ボラー連邦出したい…!アブロ・ランティル(偉大なる勝利の砲)の一斉射撃やりたい!

???「枯れ木も山の賑わい!なんでも撃てぇーーッ!!」


 それはそうとAIによる翻訳が便利だった…。


第92話 What a farce.

 

 時は僅かに遡る。

 

 

 外洋防衛総隊司令部小松島鎮守府から艦隊護衛のために派遣されていた第七駆逐隊の曙は、規定の任務である艦隊の航路安全確認を目的とした夜間警戒任務の最中にも関わらずキレ散らかしていた。

 

 

 普段から上官相手にも物怖じせずツンケンし、当たりのキツい事で有名な艦娘であり、直属の司令官である土方にも突っ掛かる事もしばしばであったが、それ以上にこの戦争に心底ウンザリしていた。

 

 彼女は元々真志妻が“総提督”となる以前の、土方と共に小松島鎮守府──当時警備府──に赴任していた時期に配属された艦娘であり、現在の七駆を構成する他の3人のメンバーもほぼ同時期に配属され、欠員を起こした事が無いという、部隊ともども経験豊かなベテランの領域へと充分に達している歴戦の艦娘である。

 

 

 そして“あの”地獄の沖縄戦線、しかも最も戦闘の激しかった最悪の時期を4人揃って生き延びて本土へと帰ってきた生還組(帰還組)でもあった。

 

 

 ただその経験が決め手となり、彼女はこの戦争が既に巻き返し困難な状態にあることを悟るまでに至っていた。

 

 そのため深海棲艦との休戦交渉を告げる真志妻の会見、それに続く土方による事実上の敗北宣言に対し、多少なりとも衝撃は受けたものの、このクソみたいな戦争が終わるのであれば、どんな形であっても構わないと、彼女なりに不器用ながらも割り切って胸をなで下ろしていた。

 

 

 しかし周りの同胞の艦娘(戦友)達は、一応自分達が支持する最高司令官たる“総提督”真志妻大将の意向に従う事としているが、「これからどうなるのか?」という漠然とした未来への不安から、時間の経過とともに混乱が広がっていた。

 

 その気持ちは彼女も理解していた。深海棲艦との戦争が終われば人間達は現在の艦娘戦力をどれだけ維持するかは不透明だ。そしてその不安は七駆のメンバー達も抱えていた。

 

 

 とは言えである。

 

 

 今は休戦交渉が始まったばかりで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 交渉段階であるからには不測の事態が起きる可能性だってゼロではない。だからこそ今は戦後という未来の心配よりも、今現在やらなければならない目の前の職務に集中してほしかった。

 

 しかし、少なくない艦娘の士気が落ち込み、腑抜けて弛緩した空気感を出してしまっている。おかげで職務の遂行が不能状態となる艦娘が続出し、哨戒活動のローテーションにも支障が出ていた。

 

 また日本本土でも各地の鎮守府や警備府、哨戒活動中の外周艦隊で艦娘の活動や業務に影響が出て混乱が発生していた。

 

 

 これは土方、そして真志妻も当初よりこの事態は憂慮すべき懸念事項としていた。

 

 休戦交渉の事実を開示した結果、各地の部隊が機能不全に陥ったり、指揮系統の混乱から不測の事態の発生。特に恐れたのは最も最前線の接触線である沖縄戦線に於いて、守備軍の一部部隊が自暴自棄に陥って独断専行による暴走行為に及び、制御不能な戦端が開かれ、最悪休戦交渉そのものが流れる事態を恐れた。

 

 しかし、だからといって隠し通す事など出来ない事は分かりきっていた。何処かの時点で開示しなければならなかった。

 

 最終的に派遣艦隊が深海棲艦の実効支配状態にある海域に接近、突入するタイミングに合わせて記者会見という形で休戦交渉の事実を大々的に開示しようと決めた。

 

 同時に、アンドロメダを介して深海棲艦を統率する上位種である姫級、アンドロメダと妹のアポロノームも深海棲艦の中での立場は姫級に相当する扱いとされているが、それでも序列では本人達の希望もあって最下位に属するため、序列上位で2人の上司的立場にある飛行場姫へ、予想される不測の事態への予防措置という名目で、沖縄戦線に展開する深海棲艦の包囲部隊を一時的に双方の攻撃圏外へと下げてほしいとの“要望”を出した。

 

 

 本来ならば「こうしてほしい」という希望を伝える“要望”ではなく、より強く願い出る“要請”としたかったのだが、現在の日本と深海棲艦のパワーバランスの差から鑑みると日本が交渉に於いて圧倒的に不利な立場であることから、希望を伝える“要望”という形で打診することとなった。

 

 

 飛行場姫からしたら、日本を強制的に消耗戦へと引き摺り込んで時間を掛けて国力を浪費させ、継戦能力を意志ごと削ぎ落とし、徐々に自滅へと追い込む事を目的とした戦略を達成させるための一環である沖縄の包囲作戦が、現在の休戦交渉へと移行しつつある情勢を鑑みるに、ほぼ達成出来たと言えるまでの成果を収める事に成功したと判断していた。

 

 ただそれと同時に、フィリピンを拠点として包囲作戦を担当する部隊の責任者である海峡夜棲姫と、その周りを固める幕僚たる立場にある姫級達が、長期戦への疲労から徐々に戦意と士気が低下し、また動員している部隊もローテーションを実施しているとはいえ徐々に厭戦気分が蔓延しつつあるとの問題が出ていた。

 

 更には食糧の安定供給と生産拡大に向け、現在の動員状態を緩和して生産と流通の拡充に回してもらいたいとの港湾棲姫と集積地棲姫を中心とした後方担当の姫級達の進言も次第に強くなっていた。これは後方担当に携わる様になったアンドロメダも強く支持する意見であった。

 

 

 以上のことから飛行場姫は他の姫級達とも協議の末、真志妻の要望を全面的に聞き入れる事を決定し、その結果を真志妻へと伝えた。

 

 ただその内容は要望にあった沖縄戦線だけでなく、日本本土領海に展開する部隊も含め、最低限の監視を目的とした部隊以外の全部隊を引き上げるというもので、その監視部隊も領海の外で巡航するとのことで、形だけの監視態勢に過ぎず、真志妻からしたら望外な内容となったが、同時に内心では渋面を作っていた。

 

 

 真志妻は深海棲艦がこれ以上の戦いの継続を望んでいない事は認識していたが、その内情をつぶさに把握している訳では無かった。

 

 彼女は艦娘を狂愛する変人であるし、元々今の地位に就けたのも、当時の上層部から「青二才の若造だから御し易い」と侮られていたからではあるが、それでも一応は正規の──促成ではあるが、比較的マシとされる時期に──軍事教育を受け、防護巡洋艦艦娘松島としての知識の融合、さらには土方の薫陶を受けた一廉(ひとかど)の軍人である。

 

 その軍人としての常識から、まさか正式な停戦が公に成立した訳では無いこのタイミングで、一斉に前線展開部隊を引き上げるとの決定の返答は余りにも予想外に過ぎた。もしかすると引き上げている途中の背後からこちらが襲い掛かる騙し討ちを仕掛ける危険性があるかもしれないというのに。

 

 

 それだけ深海棲艦はこちらを、いや、私を信頼しているのか?

 

 そうだとしたら、個人的には嬉しいが、それは些か過大評価というものだ…。

 

 

 個人的な信頼関係は兎も角、国家や国軍という組織レベルでの信頼関係の構築・醸成にまでは至っていない。真志妻は飽く迄も海軍の一部局である艦娘部隊の総司令官に過ぎない。組織の規模や権限から一般的には事実上の4番目の軍種と思われがちだが、一応、本来の扱いは海軍部内の一組織の長に過ぎないのだ。

 

 ただ法整備の不備から法的にかなり曖昧な所が多く、そこを突く形で真志妻は好き勝手やっているに過ぎない。まぁ元々政府や関係省庁の官吏達が新たな公金を使った利権の確保を目当てに、意図して法の内容を曖昧にしたり、抜け穴を作っていたのが原因だったりするのだが。

 

 とは言え、その権限に関しては他の軍種に対して直接的に大きな影響を及ぼせるものではなく、個人的な繋がりがある部隊に限られる。例外はおなじ海軍であり共同作戦の頻度から水上艦隊に対してはそれなりの影響を及ぼすことは可能であるが、それが限界である。

 

 

 それにも関わらず総撤退とも言える引き上げの決定に、何かしら裏があるのでは?と真志妻は勘繰った。

 

 なにせ現地には知恵者の霧島(キリシマ)が居る。所属は一応日本海軍のままであり、特使という立場ではあるのだが、彼女はこちらの抱える問題も熟知している。ただそれが故に甥っ子同然のアンドロメダ可愛さのあまり、深海棲艦に対して何かしらの情報提供という名目の入れ知恵をしたのではないかとすら疑った。

 

 例えば──日本政府は一旦置いといて──、海軍を始めとした各軍は戦争終結に対してどれだけ賛同しているかを見極めるためとか…。

 

 

 実際は真志妻の考え過ぎなのだが、悲しきかな、その立場故にあらゆる可能性を考え、疑う事も仕事の内なのだ。

 

 

 まぁ兎も角現在、深海棲艦は粛々と部隊の引き上げを実施している。サイパンに向けて航行中の派遣艦隊にも、最低限の監視を担う潜水艦が索敵圏のギリギリ外側で下手に刺激しない様にそっと様子を覗う以外、既にサイパンへと引き上げの途上にあるわけだが、現場は裏方の事情など知る由もないし、真志妻は各方面の哨戒部隊から実際に深海棲艦が領海から姿を消したとの情報が上がってくるのを待ってから、深海棲艦が領海から引き上げを開始した事実を通達する事とした。

 

 そのため各鎮守府及び警備府、哨戒活動中の外周艦隊では休戦交渉の衝撃から立ち直った、或いはそこまでの衝撃を受けずに活動可能な部隊を選抜して周辺警戒の任務に就かせていた。

 

 

 七駆もそんな部隊の一つであったが、旗艦『かが』を中心に置いた輪形陣の前衛艦を務める護衛艦『ゆうぎり』を母艦とする艦娘部隊の凡そ半数が活動不能と判断され、ローテーションの問題から一度に展開可能な部隊が減少し、一つの部隊が担当しなければならない警戒範囲が大幅に広がり、交代までの時間も延びに延びて負担の増大を招いていた。

 

 

 そして担当範囲が拡大した影響で、通常の隊列間隔よりも広く散開した、最早隊列とは言えない分散状態で展開しており、一応暗視装置や骨伝導タイプの無線通信機、赤外線(IR)ストロボが支給されてはいるため、仲間が何処に居るかの把握や母艦を含めた周囲の味方部隊との緊密な情報の共有は可能ではあるが、索敵自体は各自の技量に依存している。

 

 どうしても警戒の死角となる箇所が出来てしまっており、少しでもその死角を減らすべく、燃料消費に留意して可能な限りの節約に努めながらも普段以上に動き周り、それにも増して高い緊張感と集中力を持続させねばならず、それが余計に体力と気力の消耗を加速させ、疲労を蓄積させていた。

 

 

 曙がキレ散らかしているのも、動けない部隊に対する不満というよりも、蓄積した疲労によるストレスと抗い難い睡魔の影響が大きかった。

 

 それでも職務を疎かにしないのは、彼女なりのプロ意識の発露と言えるだろう。

 

 

 沖縄の海はもっと地獄だったじゃないッ!

 

 

 自身にそう言い聞かせ、出撃時に『ゆうぎり』の給養員から水筒に淹れて渡してくれた、まだ充分に温かいコーヒーを胃に流し込みながら、気を引き締める。

 

 元々あまりコーヒーは得意ではなかったのだが、沖縄では補給の不安定さという問題による嗜好品の慢性的な不足から、安物の不味いインスタント飲料といえど保存が効く貴重な嗜好品であり、煙草よりかは不味いインスタントコーヒーの方がマシだとして、いつの間にか多少不味くても普通に飲める様になっていた。

 

 ただ当時は保温容器も不足しており、燃料の節約から温めなおすことも難しく、艤装を動かしていれば機関から出る排熱を利用する事も出来るが、今度は容器が熱で変形してしまい、備品の不用意な破損として大目玉を食らうか、ウッカリ温め過ぎて熱々になった容器や中身で火傷するかという事もあったため、基本的に冷めてただ苦いだけとなったカフェイン入りのコーヒーっぽい飲み物と化したものを機械的に胃に流し込んでいた様なものだが。

 

 

 そう思えば、こうして温かいコーヒーが飲める今の方が遥かに贅沢と言えた。

 

 

 そうして気を落ち着かせると、再び警戒に意識を集中する。

 

 特に警戒すべきは水中に潜む深海棲艦の潜水艦なのだ。

 

 

 深海棲艦の水上部隊や航空戦力に関しては、戦争初期は別として、現在は水上艦艇や早期警戒管制機などからの対水上・対空レーダーによる索敵によって、艦娘達よりも早くて遠くに居る内から発見する事が可能であり、深海棲艦の射程外から艦載砲による先制奇襲攻撃で出鼻を挫く事も出来るのだが、潜水艦に関しては現在でもかなり厄介な存在とされている。

 

 何故なら現在各国海軍が保有しているどの潜水艦より、水中での最大速力と潜航限界深度は別として、水中での静粛性が極めて優れており、現行のソーナーなどの水中探知システムでは探知が極めて困難なのが実情であった。

 

 気付いた時には既に魚雷が放たれており、その魚雷が発する推進機の音を聞いて初めてその存在に気付くということもザラだった。

 

 

 各国では深海棲艦の潜水艦も探知可能な新型ソーナーの開発に努めているものの難航しており、現状では深海棲艦の潜水艦を探知するのは、もっぱら艦娘の役割となっていた。

 

 

 この時の曙は普段にも増してキレ散らかしながらも、敵潜の音を聞き逃すまいと、聴音用のヘッドホンを装着し直し耳を澄ませていた。

 

 

 そして、水中を高速で突き進む音を捉えた。

 

 

 速い!?潜水艦じゃない!これは…、魚雷!?

 

 

 だが、その音に違和感を覚える。

 

 

 聴き慣れた深海棲艦の魚雷が発する推進機音とは全く違う音をしており、その速度がきわめて速く、あっという間に自身の横を通り過ぎた。

 

 一瞬、過日の本土近海で対潜警戒網を引っ掻き回した謎の深海棲艦の新型潜水艦──UX-02(ベオ)のことだが、軍の公的判断では深海棲艦の新型姫級潜水艦とされている──の存在が頭を過ぎる。

 

 

 兎も角、緊急事態を知らせる信号弾を打ち上げ、艤装の機関出力を上げ増速しながら無線機を操作して緊急連絡用の単方向通信に接続。周囲の全部隊と母艦『ゆうぎり』に警報を発する。

 

 

「外01-D-071(デルタゼロナナヒト)より緊急。魚雷探知。艦隊左舷前方、11時から10時方向。きわめて高速。雷数不明。哨戒線を突破し本隊へと航走中。警戒せよ。外01-D-07(デルタゼロナナ)はこれより敵潜を捜索す」

 

 

 D-071(デルタゼロナナヒト)とは、英語で駆逐艦を意味するDestroyerの頭文字であるDと、七駆の7に自身の七駆における通し番号の1を掛け合わせた通信符号である。

 

 

 周辺部隊への単方向通信を終えると、今度は部隊用の短距離通信にて七駆のメンバーに繋ぎ、自身に追随しているかを確認。集結はせずそのまま前進して敵潜を捕捉次第攻撃せよと通達。

 

 自身の胸の奥でざわめく違和感と謎の敵新型潜への恐怖を押し殺しながら、通過した謎の高速魚雷の対処は本隊に任せ、魚雷を放った敵潜を七駆の総力を挙げて必ず見つけ出し、徹底的に追い回して撃沈してやるのだと、自身を奮い立たせた。

 

 

 この動きを潜望鏡でジッと見つめ、通信を傍受し内容の報告を受けた者が静かに呟く。

 

 

She is an excellent Fleet Girl(彼女は優秀な艦娘だな)

 

 

 通過した魚雷の存在を割り切り、こちらを見付け出して叩く事を優先して即座に動き出した。しかもほぼ正確にこちらへと向かって来ている。

 

 なんとしても2射目は射たせないとする強い意志が潜望鏡のレンズ越しにでもひしひしと伝わってくる。

 

 

Dive.(潜航。) Maintain the planned course.(予定通りの針路をとれ)

 

 

 その言葉の後、潜望鏡は静かに海中に没した。

 

 

 七駆の後方に位置する艦隊前衛艦『ゆうぎり』の水測員も接近する魚雷を探知。その本数が2本である事が判明した。

 

 そして報告にあった通り、深海棲艦の魚雷にしては妙に速く、今までのデータでは大体40ノット前後の速力を発揮するとされているのに対して、この魚雷は約50ノットとの計測結果が出た。

 

 しかもその推進機音は今までに何度も聴いた事のある深海棲艦の魚雷の物とは明らかに違う、全く聴いたことの無い音である事にも首を傾げるが、自艦から外れるコースである事が判明し、一瞬安堵するが、計算ではこのままのコースだと後方に位置する旗艦『かが』へと向かう事が判明し、急いで『かが』へと回避を促す連絡を入れた。

 

 同時に敵潜の発見と撃破のために先行する七駆を支援すべく増速し、アクティブソナーをいつでも発振出来るように準備する。

 

 

 本来ならば水中を伝播する超音波による探信音を発振し、その反射波によって水中に存在する物体や海底などの障害物を探知するという、レーダーと同様な仕組なのだが、残念ながら金属の船殻で覆われた人類の潜水艦と違ってハッキリと音波が反射せず、確実な探知が出来ずにいる。

 

 ただ潜水艦艦娘達によると、艦艇の発するアクティブソナーによる探信音の連続発振は「黒板を爪で引っ掻いた時の音の様な嫌な感じがするでち!」と言い表すくらい不快な音であるらしく、近くに居る時は使わないで欲しい。との苦情に似た報告をしており、どうも深海棲艦の潜水艦達も探信音を嫌がる素振りを見せているらしく、動きが普段より鈍る傾向にあるとの潜水艦狩りを行なう駆逐隊からの報告から、付近に艦娘の潜水艦達が居ない場合はアクティブソナーの連続発振による積極的な嫌がらせの牽制攻撃を仕掛ける様になった。

 

 

 しかし、このタイミングで『ゆうぎり』のコンピューターが水測員にとって信じられない分析データを表示した。

 

 

 それは長きに渡る深海棲艦との戦いで、各艦のソーナーに詰める水測員が代替わりが進み、比較的若い世代が増えた事で、戦前からのベテラン世代と違い深海棲艦との戦いしか知らないが故に生じた、不可抗力的な経験不足によるギャップであったが、艦のコンピューターのデータは消去されない限り、一度記録したデータは仮令古い記録だったとしても決して忘れてはいなかった。

 

 

 米海軍原潜が使用する誘導魚雷、Mk48、ADCAPが発する推進機の音であると。

 

 

 この事実に驚愕した水測員は慌てて魚雷の正体が米軍のMk48であることを艦橋に報告。この報告が来た時とおなじくして艦橋へと上がって来た『ゆうぎり』艦長の佐竹中佐はこの報告に衝撃を受けるも、直ちに『かが』に通報する様に指示を出したが、何をするにしても遅すぎた。

 

 

 既に『かが』は回避のために回頭しているが、その回避運動は直進する深海棲艦の魚雷に対しての教本通りの対処運動であり、誘導魚雷のMk48魚雷はその針路を修整して『かが』へと突き進む。

 

 この動きからこのMk48魚雷は自ら探信音を発して敵艦を追尾するアクティブソナーによる誘導ではなく、目標艦の推進機音を追尾するパッシブソナーによる誘導なのは確実だ。こちらの誘導方式の方がより正確に標的とした目標艦を狙える。

 

 

 こうなると最早どうする事も出来ない。『かが』に装備されていた対魚雷防御用のFAJ(投射型静止式ジャマー)MOD(自走式デコイ)は、深海棲艦との戦いでは役に立たない事と装備の耐用年数が過ぎた上に、生産ラインが経済の崩壊によって失われた事で、疾うの昔に撤去されてしまっていた。

 

 

 僚艦が慌てて動き出したが、手遅れだ。遠過ぎる。

 

 

 この時、混乱する日本艦隊を尻目に、並走する新ロシア連邦(NRF)艦隊から『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級警備艦(コルベット)Грозный(グロズヌイ)』が速度を上げて先行しつつあったのだが、日本艦隊でこの事に気が付いた者は殆ど居なかった。

 

 

 『かが』直掩の水雷戦隊──ただし通常の常備編成の戦隊ではなく、動ける者を集めて臨時編成した即興の水雷戦隊──がMk48魚雷の前方に躍り出てありったけの爆雷を投下し、なんとかして破壊を試みるものの、時間的余裕が無さ過ぎたため焦りが出たのか、爆雷の起爆深度の設定を間違え、予定よりも早く起爆してしまったり、起爆しない爆雷が続出し、効果的な防御スクリーンの展開に失敗してしまった。

 

 そもそも水中速力50ノット以上という速度は彼女達の手に負えるものではなく、Mk48魚雷は艦娘達の必死の抵抗を嘲笑うかの様に、自身の位置する深度へと爆雷が沈降して到達する頃には既にその速力を以って悠々と通過し、爆雷はMk48魚雷の後方で虚しく炸裂するのみだった。

 

 何人かの艦娘は突破したMk48魚雷に向けて主砲や機銃を撃ちかけたが、到底命中させられるものではなかった。

 

 

 対潜ヘリを上げていたら、まだ何とかなったかもしれないが、現在各艦に搭載されているKa-27は対潜任務よりも航行不能となった艦娘の救助任務や輸送機として運用されており、即座に飛ばせられる機には武装が搭載されていなかった。そもそもヘリの対潜装備では深海棲艦の潜水艦を探知出来ないため、初めから対潜任務に投入することは想定されておらず、投入するにしても艦娘が指定したおおよそのポイントに目掛けて適当に対潜爆弾を投下するのが関の山で、ロシア艦の12連装対潜迫撃砲РБУ-6000 (RBU-6000)«Смерч-2(スメルチ2)»の一斉投射みたいな面制圧が可能ならばまだしも、艦娘が直接対潜攻撃を行なうことに比べ、戦果も効率もイマイチだった。

 

 寧ろ艦娘の爆雷よりも炸薬量が遥かに多い対潜爆弾の爆発は水中を無闇に激しく掻き回し、艦娘の装備するソーナーの効果を著しく低下させてしまい、捕捉していた敵潜を見失って逃げられたり、探知出来無い隙に回り込まれて手痛い反撃を食らった事もあって、艦娘からは煙たがられる事もあった。

 

 いっそ消耗した爆雷などの消耗品を一々帰艦せずとも補充出来る様に、補給コンテナに浮き輪でも付けて投下してくれと言われる始末。ただ、それを聞いた真志妻が興味を持ち、ものは試しと私財込みで多額の予算をつけて開発させてみたら、なんか開発に成功して空中投下式緊急補給用物資積載筏という名称で現在も改修が施されながら運用されている。

 

 

 ならば少しでも身軽にして動きやすく、そして少しでも多くの補給物資が積載出来る様にするため、重く嵩張る上に被弾した際に誘爆する危険性もある武装は初めから装備しない様になっていた。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 最期の頼みの綱だった水雷戦隊による阻止行動が失敗し、完全に打つ手がなくなった。

 

 Mk48魚雷は2本共『かが』の両舷艦首付近へと()()したが、魚雷が着弾した際に見られる巨大な水柱は発生しなかった。

 

 

 

───────

 

 

 

「«回避不能!衝撃に備えて下さい!!»」

 

 

 そのスピーカーからの警告の直後にMk48魚雷が命中。

 

 20,000トンを優に超える艦体が2度揺さぶられるが、確実に水上艦を破壊し撃沈へと至らせるために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、艦の竜骨を爆圧で圧し折りつつ艦底部に深刻な破壊を齎し、その激しい衝撃の伝播がくると予想していたにも関わらず、拍子抜けする様な衝撃で、そもそも爆発の音も聞こえてこない。

 

 

「ふ、不発…か…?」

 

 

 対ショック姿勢をとっていたScamp(スキャンプ)が恐る恐るといった様子で呟く。対してГангут(ガングート)はヤレヤレといった風体で立ち上がり、手に持ったままの無線機の奥で安否を心配しているであろう通話相手に、自身の無事を伝えると無線機を懐に仕舞い、悠々と煙草を吹かし出した。

 

 

 

「«土方司令、田沼であります»」

 

 

 ここで内線のスピーカーから、おそらく自室の艦長室で休んでいたが、警報により艦橋へと急いで上がったのであろう田沼艦長の声が流れた。

 

 土方はMk48魚雷が命中した瞬間、軽い衝撃とはいえ足を縺れさせてしまったが、警護に就いていた江風(カワカゼ)が助けに入ったことで転倒せずに済んだ。ただ何故か夕立(ユウダチ)はすっ転んで壁に頭をぶつけて目を回していたため、土方が大丈夫なことを確認した江風(カワカゼ)が助け起こしに行った。

 

 

「ご苦労。早速だが報告を頼む」

 

 

「«はい。正確な被害状況は現在確認中ですが、ダメージコントロールからの報告によりますと、本艦左右両舷艦首部分で浸水が発生しております。おそらく魚雷が突き刺さり、破孔が生じたものと思われます。

 

 可能ならば一旦艦を止め、突き刺さった魚雷の除去と浸水防止の応急処置に掛かりたく存じます。何かの弾みでこの後に爆発でもしましたら、洒落になりませんので»」

 

 

 命中したMk48魚雷は航走設定深度を間違えたのか、艦の真下ではなく艦体に激突し、しかも信管にも何らかの不備があったのか、起爆にも至らなかった様である。

 

 だが爆発物であることに変わりはない。不測の事態を避けるためにもここで一旦『かが』を停船させ、突き刺さった魚雷を引っこ抜き、破孔を塞ぐ事は出来ずとも最低限の浸水で食い止めたいと田沼艦長は土方に意見具申した。

 

 何なら乗艦している潜水艦艦娘を動員すれば、ダイバーよりも水中での細かい作業に適している。

 

 しかしこの『かが』を停船させるということは、艦隊そのものも一時この海域で停止させなければならない。艦隊の運航に関する指揮決定権は土方にある。

 

 

「分かった。だが魚雷を射って来た相手はどうする?」

 

 

 土方としても田沼の意見に異論は無かったが、付近にはMk48魚雷を射って来た“犯人”が潜んでいるのだ。

 

 今も虎視眈々と次の雷撃のチャンスを窺っているかもしれない。そんな状況下で艦隊を停止させるのは危険過ぎる。

 

 

 何より、Mk48魚雷ということは確実に人類の、それもほぼ間違いなく米軍の攻撃型原潜で間違いないだろう。だがそうなると今の日本艦隊にとっては非常にマズい状況だ。

 

 

 現在艦隊を構成するどの護衛艦にも、深海棲艦相手の戦闘には使い道が無いとして、尚且つ被弾による誘爆を防ぐため対空ミサイル及び対潜水艦攻撃用の装備が搭載されていないのだ。

 

 また艦娘の対潜装備では水中を高速で動き回り、爆雷や潜水艦艦娘の限界到達深度よりもさらに深く潜れる人類の潜水艦相手には打つ手がない。ただ潜水艦側も艦娘に対して有効な攻撃手段が無かったりするので、千日手になってしまう。これは嘗ての演習で実証済みである。

 

 まぁその演習によって得られた結果から、深海棲艦の支配領域内深くへと侵入しての偵察が可能となったという副産物的な成果もあったりするのだが…。

 

 

 それはさておき、土方としては共同作戦中の新ロシア連邦(NRF)艦隊に対して無用な危険に晒す事を懸念していた。

 

 

「«はい。…お待ちください。たった今、前衛艦『ゆうぎり』の佐竹艦長より通信が入りました。

 

 魚雷発射予想ポイント付近にて潜水艦らしき反応を探知。音紋解析から米海軍『Virginia(ヴァージニア)』級攻撃型原潜『Long(ロング) Island(アイランド)』と判明しました»」

 

 

 この報告にScamp(スキャンプ)は顔面蒼白となった。

 

 『Long Island(ロングアイランド)』は彼女とその仲間達と共に脱走を決意し、ここまで来た艦だ。

 

 

 やっとここまでやって来たのに、何故この様な凶行を!?

 

 艦長(Captain)は!?Bates(ベイツ)大佐はどうした!?仲間は!?ほかの2艦はどうしている!?

 

 

 …いや待て、そもそも艦隊はロシアの連中が!?

 

 

 この時、Scamp(スキャンプ)は混乱の極みにありながらも違和感を覚えた。

 

 艦隊は全艦新ロシア連邦(NRF)艦隊の監視下にあるのに、こんな行動に出られるはずがない。

 

 明らかに不自然、何か可怪しい。まさか…!?と違和感の正体に勘付いてГангут(ガングート)へと顔を向けたが───。

 

 

「…()()黙っていろ」

 

 

 一瞬早くГангут(ガングート)Scamp(スキャンプ)の口を鷲掴みにし、鋭い眼光と静かながらも威圧感のある声で強引に黙らせると、そのまま椅子に座らせ、これでも吸って少し落ち着けと言わんばかりに細巻きを咥えさせた。

 

 

 そんな2人に関係なく、田沼からの報告は続いているのだが、こちらでも問題が発生していた。

 

 

「«現在、新ロシア連邦(NRF)フリゲート艦『Грозный(グロズヌイ)』が支援のため現場に急行、到着し攻撃態勢に入ったとのことですが…、あの……、佐竹艦長が言うには、その際に外01第七駆逐隊隊長の曙が『Грозный(グロズヌイ)』艦長Андропов(アンドロポフ)中佐とトラブルが起きておりまして…»」

 

 

───────

 

 

 時は『かが』に魚雷が突き刺さった瞬間にまで遡る。

 

 

「«か、『かが』が被雷した!!»」

 

 

 錯綜する無線のやり取りの中で、誰が発したかは分からないが、『かが』被雷の情報に曙は思わず奥歯を噛み締めてしまう。

 

 

 まさか先程通過した魚雷が人類の代物で、しかもよりにもよって同盟国の潜水艦による襲撃だとは思いもしなかった。

 

 

 最初は信じたくなかったが、自身の装備する聴音用のヘッドホンが明らかに深海棲艦のものでは無い水中航行雑音を捉えていた。後続する『ゆうぎり』がより正確な分析を行なった結果、それは米海軍の『Virginia(ヴァージニア)』級攻撃型原潜『Long(ロング) Island(アイランド)』の音紋と一致したとの解析結果を伝えて来た事により、嫌でも信じざるを得なくなった。

 

 

 目標艦は現在自分達七駆の真下に居る。

 

 

 ただ問題は、こちらの装備では手出し出来無い。深度が深過ぎる。現在アクティブソナーの探信音発振を使ったモールス信号にて必死に呼び掛けを行なっているが、なんら反応を示して来ない。

 

 

 そんな中である。

 

 

「«Здесь сторожевой корабль ВМФ НРФ(こちら新ロシア連邦海軍警備艦) 『Грозный』.(『グロズヌイ』。)Я — (私は)командир корабля, (艦長のユーリ)капитан 2-го ранга Юрий Андропов.(アンドロポフ中佐だ。)

 

 Открываю огонь(これより目標に向け) противолодочной(対潜ミサイルによる) ракетой по цели.(攻撃を開始する。) Срочно очистить зону!(至急その場から退避せよ!)»」

 

 

 先程新ロシア連邦(NRF)艦隊から速度を上げて先行した『Грозный(グロズヌイ)』が白波を立てながら急接近して来て、第七駆逐隊に対して()()()()()一方的かつ事務的な通信を送って来た。

 

 

Не валяй дурака, придурок!(巫山戯るな!このクソ野郎!)

 

 

 これに対し曙がロシア語で突っ掛かる。

 

 

 沖縄に配属されていた頃、新ロシア連邦(NRF)から沖縄に派遣されていた民間軍事会社(PMC)の傭兵達と頻繁に交流する機会があり、彼らと接する内に気が付いたら彼らの話すロシア語を覚え、自然と話せる様になっていた。…ただ兵隊としての彼らが使うスラング混じりの、まぁ汚い言葉遣いで覚えてしまったので、口が悪い言葉が混じってしまうのは御愛嬌。

 

 

 とは言えこの曙の対応に七駆のメンバーは面食らい、あたふたと慌て出した。

 

 相手は中佐と名乗った。それに対して曙は駆逐隊隊長ではあるものの、その階級は中尉でしかないのだ。因みに駆逐隊隊長は少尉からとされており、水雷戦隊隊長は大尉からとなっている。なお、遊撃隊隊長の春雨(ハルサメ)は少佐で、妹達全員が大尉若しくは中尉である。

 

 

Это дело моего ВМ Японии!(これは我が日本海軍の問題だ!) ВМФ Россия, не лезь!!(ロシア海軍が出しゃばるな!!)

 

 

 曙は完全に頭に血が上っていた。という訳では無い。攻撃を受けたのは日本艦隊であり、攻撃を受けていない新ロシア連邦(NRF)艦隊が下手に介入したら、後々米露との外交問題に発展しかねない。

 

 ただでさえ両国の関係がきな臭くなっているのに、戦争の火種になったら…。

 

 その恐怖が曙の心の内にあった。

 

 口も態度も悪い艦娘として有名な曙ではあるが、その心根はちょっと素直とは言えないが、ほかの艦娘と同様に、優しい心を持った艦娘なのだ。犠牲のみが増える無闇な戦争拡大には大反対だ。

 

 

 何より日本は米露両国に挟まれた板挟み状態となってしまう。

 

 

「«Любые действия, (共同作戦を)препятствующие(妨害する) совместной операции,(如何なる行為も、) будут рассматриваться как акт(我が艦隊への攻撃行為と) нападения на наш флот.(見做さざるを得ない)»」

 

 

 しかしАндропов(アンドロポフ)中佐は曙の非礼を気にする素振りを一切見せず、平坦な口調で曙を諭す様に語り掛ける。

 

 

「«В ответ() на() непосредственную(差し迫った脅威) угрозу,(に対し、) наш флот применяет право(我が艦隊は自衛権を) на самооборону.(適用する)»」

 

 

 これには曙も言葉に詰まる。最悪の場合、このままだと作戦中止で日本へと引き返す羽目になるかもしれない。

 

 そうなったら折角この戦争が終わるかもしれない千載一遇のチャンスが失われ、もう二度とこんなチャンスは来ないまま、ズルズルと勝ち目のない戦争が長引くという、最悪の事態になりかねない。

 

 

 ここで『ゆうぎり』からも通信が入る。

 

 

 目標艦『Long Island(ロングアイランド)』にて魚雷発射管への注水と思しき注水音を捉えた。魚雷発射の準備と判断する!七駆は直ちに退避せよ!と。この注水音はオロオロと成り行きを見守りながらも、聴音を続けていた七駆のメンバーの1人である朧も聴き取っており、曙の肩を掴んで「ここは素直に退避しよう!」と叫ぶ。

 

 

 この魚雷発射の準備が『Грозный(グロズヌイ)』を攻撃するためでないとの保証もない。

 

 このまま下手に意地を張り続けたら、今度は新ロシア連邦(NRF)艦隊に無用な被害が出ないとも限らない。そうなったら日本側にも責任問題が振りかかる。

 

 ひいてはそれが自分達の最大の味方である真志妻大将と、上官である土方司令への責任を追及する事態へと発展するかもしれない。

 

 真志妻大将は言わずもがなだが、土方に対して突っ掛かることはあるものの、曙自身は土方を上官として余人に代え難い軍人としてかなり慕っており、自身の引き起こした問題で更迭されてしまうなど、耐えられない事だ。

 

 

 曙は項垂れて力無く「全員、退避するよ…」とだけ告げ、両艦にも退避を通達し無線のスイッチを切ろうとした。

 

 

「«Тем не менее.(されど)»」

 

 

 だが無線を切ろうとした直前に、少しだけ声音が和らいだАндропов(アンドロポフ)中佐の声がして、スイッチを押す手を止めた。

 

 

「«Выражаю глубокую(貴艦の) благодарность вашему(配慮に対して、) кораблю за проявленную заботу.(深く感謝の意を表する)»」

 

 

 

 この言葉を曙はどう判断したかは分からない。彼女ら第七駆逐隊は一言も発することなく、ただ黙って全速で安全圏へと退避を開始した。

 

 そして『Грозный(グロズヌイ)』のミサイル垂直発射装置(VLS)3С-14(3S14) «УКСК»(UKSK)から対潜攻撃用の«Калибр(カリブル)»が発射された。

 

 

 

 

 同時刻、新ロシア連邦(NRF)艦隊では対空戦闘用意の警報が鳴り響いていた。

 

 

 防空レーダーが高々度を単機で飛行する物体を捉えたのだ。

 

 

 それは日本本土から遠路はるばる飛来した、米軍の高々度長距離偵察機、U-2の機影だった。

 

 




 ちょっと長くなりすぎましたので、いつも通り分割…。

 
 因みに沖縄配属時のぼのたんこと曙は、現地に派遣されていた民間軍事会社(PMC)のロシア人傭兵達から反抗期の娘の様に思われ、何かと可愛がられていました。

 流石に手を出す不埒者は、いたとしたら周りの傭兵達にボコられました。そもそも駆逐艦とはいえ腕力は艦娘が有利ですし、仕返しされたら傭兵と言えど敵いませんので。

 また沖縄帰りの艦娘は曙と同様に大体ロシア語を喋れる様になるケースが多く、『Грозный(グロズヌイ)』艦長のЮ́рий(ユーリ) Андро́пов(アンドロポフ)中佐は曙と彼女の第七駆逐隊が沖縄帰りだと知っていたため、ロシア語で通信を送りました。


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補足解説

単方向通信

 送信側から受信側へと一方通行でデータを送信する通信方式です。

 例えるならばラジオやテレビ、各種のリモコンがこれに該当します。

 電話の様な双方が受け答えする物の場合は双方向通信となります。


 相手の受信側がデータを受け取れたかの確認が出来無いデメリットがあり、本来ならば曙は復唱による確認が可能な双方向通信とすべきですが、周囲の艦艇と全部隊へと一斉送信したため、復唱が重なる事による通信の錯綜を避ける目的で単方向通信を選択しました。


───────



 今までの後書きでも何度か書いていたことで、ご存知かと思われますが、私はトランプ大統領を支持する立場であります。それに関して恥ずかしいと思った事はありません。


 ですが、支持する=全肯定や崇拝による盲信というわけでは無い事だけは理解して頂きたい。


 支持するからこそ、間違っていると思った事は間違いだと指摘しますし、苦言を呈します。何でもかんでも「彼のやっていることは素晴らしい!」「彼は正義だ!」とするのは逆にその人を貶めている行為に他ならないと私は考えます。

 人間である以上、自身の考えと100%一致する事などあり得ません。

 私はトランプ大統領の第一次政権の実績や、前政権による無法化した移民流入問題。行き過ぎた過激なエルジーベーテー政策やエスデージーズ政策への反対。国内産業の空洞化に対する問題提起など、グローバリズムへの疑問や問題点を国民に投げ掛けるという姿勢に共感していました。

 また外交安全保障分野では私自身が日米安保における集団的自衛権行使に関しての確実性、特に核の傘への強い不信感から、対米依存への疑問という一石を投じる切っ掛けにもなるとの期待もありました。何より、私はウクライナ戦争の原因の一つにNATOによる無制限の東方拡大が密接に関わっているとの考えから、NATOそのものの在り方にも疑問がありました。

 アメリカの軍事力は、今現在も世界最強と言えるでしょう。しかしその兵力や継戦能力には近年疑問符がありました。米ソ冷戦構造終結が一つのターニングポイントになったのは間違いないでしょうが、そこから米軍の迷走が始まったと考えています。

 同時にNATOそのものが組織や加盟国の拡大と反比例して、内部の空洞化と形骸化が始まったと。

 これらの米ソ冷戦構造終結後の構造的な欠陥や問題が一気に噴出したのが、ウクライナ戦争だと考えています。


 まぁその辺りの事に付きましては、散々書いてきましたので省きますが、兎も角、今まで見て見ぬふりして来た問題への「いい加減どうにかしろや!」として議論が活発化するものと期待していましたし、まだ可能性としてみています。


 ですが、今現在問題となっています中東戦争に関しましては、なんてことをしでかしたんだ!?とならざるを得ませんでした。


 交渉中の奇襲攻撃。しかも国の最高指導者にして宗教指導者ハメネイ師(アーヤトッラー・セイイェド・アリー・ホセイニー・ハーメネイー(ペルシア語: علی حسینی خامنه‌ای, ラテン文字転写: Āyatollāh Seyyed `Alī Ḥoseynī Khāmene'ī, )を標的にした斬首作戦という名の暗殺作戦。思わず大統領は◯ったのか!?と叫んで天を仰いでしまいました。

 イランという複雑な国家を…いや、そもそも中東という地域に関して何処まで認識して理解しているか?多くの日本人は現在の文明のありとあらゆる物を支えるために必要不可欠な石油や天然ガスの出る砂漠地帯で、日本の原油供給元の殆どを占めているけど、テロが多い不安定な地域程度としか思ってないと思われます。

 しかし現在の中東を語るには最低でも第一次世界大戦まで遡る必要があります。特に石油という燃える黒い水が戦略的価値が付くようになった辺りから。

 イランに関して言えば、現在の複雑な統治体制が出来るまでの、英米のオイルメジャーによる石油利権も絡んだ内政干渉、特に民主的に選ばれた民族独立方針や石油利権搾取阻止を掲げるモハンマド・モサッデク(モサデク。ペルシア語:محمد مصدق,ラテン文字転写: Moḥammad-e Moṣaddeq) 首相を、共産主義者や反米新ソの共産主義者との濡れ衣を着せ、クーデター(米中央情報局による“TPAJAXプロジェクト”、所謂アジャックス作戦)によって追放。アメリカが後ろ盾となるパフラヴィー王朝の権威主義への傾倒よる弾圧問題、オイルショックによる原油価格の不安定化が経済の不安定化を齎し国内の経済格差に対する民衆の不満など、様々な要素を知る必要があります。

 現在のイラン政府および革命防衛隊による民主化運動の弾圧が問題視されていますが、そもそもアメリカ及びイギリスは自国の利益に反するからと、イランの民主主義を潰した側でした。これは2000年代になり、アメリカ政府も公式に関与を認めています。

 ただアメリカが後ろ盾となったパフラヴィー王朝にも手出しできなかったのが、当時のホメイニ師(アーヤトッラー・セイイェド・ルーホッラー・ムーサヴィー・ホメイニー(ペルシア語: آیت‌الله سید روح‌الله موسوی خمینی, ラテン文字転写: Āyatollāh Seyyed Rūḥollāh Mūsavī Khomeynī Fa-ir-khomeini)を指導者とするイスラム教宗教勢力でした。パフラヴィー王朝の晩年は経済格差の問題などによる民衆の不満から、自身の体制維持のために民衆への弾圧を強めていました。結果として、纏った勢力として知識階級を維持出来ていたのが、王朝勢力とホメイニ師の宗教勢力でした。

 こうなりますと、イラン革命によって王朝勢力が居なくなったイランを纏められる勢力は宗教勢力のみとなってしまいました。

 これが現在まで続くイランの統治体制となりました。また国外でのイランの反体制も、遡れば国外へと逃れた王朝勢力の関係者に行き着きます。無論、現体制に嫌気が差した者も居るでしょう。そしてそれはイラン国内が北部のクルド人勢力を始めとした複数の民族や宗派等によります地域勢力が存在している事も無関係ではありません。


 しかし、ある程度は宗教指導者ハメネイ師によって纏っていたのも事実です。しかも比較的穏健派とされ、核兵器開発にもどちらかと言えば消極的姿勢で、政府と軍、それに革命防衛隊の強硬派を抑える事にも成功しており、引き際の手打ちを弁え、先のイスラエルとの12日間戦争が12日間で終了することが出来た理由の一つともされていました。

 その人物を騙し討ちで殺害した…!これではハメネイ師によって抑えられていた強硬派、特に革命防衛隊の手綱を締める人が居なくなってしまった!そしてその後継者は革命防衛隊とも親密な強硬派の人物であるとされるモジタバ・ハーメネイー師(モジュタバー・ハーメネイー。ペルシア語: مجتبی خامنه‌ای, ラテン文字転写: Mojtabā Ḵāmeneʾī )…。


 どうすんのさこれ!?しかも交渉中に暗殺したのだから、イラン側だってアメリカとの交渉に対して疑念持つよ!てか大統領言ってる事が日によってコロコロ変わっちゃってるし!大丈夫なのか!?


 …ただ、このあまりにも泥縄な現状を見ていると、イスラエル・ロビー、特にシオニズムの強硬派辺り、もっと言えばネタニヤフとの繋がりのある連中が今年の中間選挙に関連した協力に関して何らかの干渉を行なった可能性もありそうだ。

 無論、例のエプ◯タインもあるだろうけど、あれは共和党民主党の両方にダメージが出る要素があるし、泥仕合になる。と言うかだ。なぜ2020年に上院下院も抑えていた民主党政権時代に追及しなかった?という疑問がある。あの当時は偽証すら平気で行われていた、やりたい放題の時期だったにも関わらず、だ。そこが引っ掛かって選挙のためにエプ問題を有耶無耶にするのが目的というのには疑問が付く。

 それよりも可能性として高いのが、ネタニヤフの汚職問題だ。ガザでの戦闘が始まる直前まで、失脚寸前だったのを戦争による非常事態を理由に回避している。だが戦争が終われば再び汚職問題がフォーカスされ、窮地に立たされるからと泥沼の戦線拡大で必死に延命を図っている。

 今回もその類いではないのか?と疑っている。それにイスラエル・ロビーだと、共和党民主党の両方に献金を行なっているし、ロビー活動も活発だ。

 これなら、どちらの政党が政権を取っても影響力を行使しやすい。

 イスラエルのロビー活動にやられたか?という見方も出来なくもないけど…。


 ただ同時に、我が国日本にとって看過できない問題がある。


 日本とイスラエル、両方が窮地に立たされたら、アメリカはどちら側優先するのか?
 

 現在のアメリカの動きからして、イスラエルを最優先にするだろうというのが、私の答えだ。


 その時、日本はどうなる?石油だけではない。今回の問題は日本の安全保障にも関わる重大な問題を孕んでいると言っても過言では無い。

───────


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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