艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 とんだ茶番劇。


第93話 What a farce.2

 

 

 高々度長距離偵察機U-2、コールサイン“Dragonfly(ドラゴンフライ)”のパイロットは機体が成層圏へと達してからは、計器を眺めながら現在位置に相違がないかを確認しつつ飛行を続けていた。

 

 ランドマークとなりそうな山や河川、湖や都市などの目立つ地形を見ながら飛ぼうにも、今飛んでいるのは大海原の上空だ。頼りになるのは航法装置の計器のみ。

 

 先の世界大戦で多くの衛星が失われ、GPS衛星からの充分な航法支援が得られないものだから、下手に気を抜けない。指定された飛行経路を少しでも外れると、その分の燃料を無駄にロスしてしまう。

 

 ただでさえ操縦にクセのある気難しい機体だ。高々度を飛行中は空気密度の薄さから揚力が発生し難く、最高速度と失速速度の差は僅か19km/hしかないのだ。

 

 とはいえ機首を下げれば揚力は回復するため、失速が即墜落に繋がる訳では無い。ただし高度が低下するという事は作戦行動中であれば撃墜されるリスクも高まる。

 

 ただ今回の作戦に関して言えば撃墜の可能性はかなり低い。いや、ゼロと言っても過言では無かったため、パイロットは然程緊張していなかった。

 

 

 何故なら今向かっている空域は新ロシア連邦(NRF)領空とは違い、レーダー探知からのSukhoi(スホイ)MiG(ミグ)といった要撃機のスクランブルや、いきなり対空ミサイルが飛んでくる心配が無いのだから。

 

 

 特にこれといったトラブルも無く順調な飛行が続き、多少気持ちに余裕が出てきたのか、パイロットは空腹を覚え、目的の空域までまだ暫く余裕がある今のうちに腹ごしらえをしておくかと、ヘルメットに設けられた穴からチューブ入りの糧食を口にした。

 

 そこでふと、今回の出撃に関して考えを巡らせる。

 

 

 マリアナ諸島方面で通信の途絶えた攻撃型原潜(SSN)Long(ロング) Island(アイランド)』と接触し、連絡をとれとのお達しを受け、よく分からないままドタバタと飛び上がる事となった。

 

 その際にニホン軍とトラブルがあったみたいだが、気にしても仕方が無い。司令部が何とかするだろう。

 

 

 そう言えば、マリアナ諸島と言えば確かニホンの艦隊と、何を考えているのか知らないがNRF(イワン)の艦隊が向かっている場所だったな…。

 

 

 まぁ今回の出撃とは関係ないだろう。

 

 

 それよかヨーロッパ大陸の連中が仲間割れしてイギリスが深海棲艦(海の化け物共)と講和したかと思えば、今度はニホンの内部対立で軍の一部が勝手に休戦交渉とはな。世界はどんどん可怪しな方向へと進んでるモンだ。海の化け物共が平和を望むなんて、信じられるかよ。

 

 だが本国でも暴動騒ぎとの噂だ…。これからどうなっちまうんだろうな…。

 

 本国と言えば、今回の出撃は原潜の捜索と言っていたが、西太平洋を管轄する第7艦隊(7F)からの要請ではなく、本国からの要請らしいが、また本国の連中が何か企んでやらかしたのか…?

 

 

 そんな事を考えながら飛び続けていると、レーダーが洋上を進む2つの水上艦隊を捉えた。

 

 それはマリアナ諸島へと航行している日露の合同艦隊だと識別信号から直ぐに分かった。分かったのだが、一言で言って妙なことになっている事に訝しむ。

 

 レーダーに映る日本艦隊の光点は、やや斜め後方で並走する新ロシア連邦(NRF)の艦隊と比べ、周囲に展開する小さな光点の艦娘部隊共々、陣形が酷く乱れている様子を映していた。

 

 さらに艦隊の前方にも艦船を表わす2つの光点と艦娘の小さな4つの光点が確認出来た。

 

 

 何かトラブルがあったのか、酷く混乱している様に見える。情報を得るべく通信傍受を試みるが、それも混乱からか誰が発信しているのかが分からないほどに、かなり錯綜している。

 

 それでもなんとか艦隊が潜水艦からの魚雷攻撃を受けているとの内容までは掴むことが出来、尚且つ幾つかの突発的な熱源が発する赤外線反応を検知した。

 

 解析結果から艦娘による爆雷投射の可能性が高い。

 

 戦闘状態にあるのは間違いなさそうだが、どうも日本艦隊の輪形陣内部にまで侵入されている様だ。

 

 

 まぁ間違いなく、待ち伏せを受けたんだろうな。ッたく、それ見たことか。だ。これが現実だ。海の化け物との平和なんて夢物語なんだよ。

 

 

 そんな事を考えながらパネルを眺めていると、艦隊の先頭を航行する2つの光点の片方から、ひときわ目立つ赤外線反応が発生し、直後に直進する高速飛翔体の存在をレーダーが捉えた。

 

 

 明らかに何らかのミサイルが発射されたようだ。

 

 

 ニホン艦隊は国内産業の衰退で自力によるミサイルの生産が思う様に出来ず、弾庫がほぼカラの張り子の虎だと聞いている。となるとイワンの連中ということになるが、奴ら、遂に海の化け物共に対応する実用的なミサイルの開発に成功したのか…?

 

 

 これが事実ならば戦慄を禁じ得ないと、パイロットは冷や汗をかく。アメリカでは開発の難航が予想され、その費用と資源を艦娘建造に充てるべきとの見解から、早々に開発計画が打ち切られた。

 

 何より既存の兵器武器弾薬の製造ラインが先の第三次大戦以前から稼働しているという、古い生産設備に依存しており、戦時中に新規の製造ラインを立ち上げようとしたものの、着工はしても際限なく膨れ上がる莫大な戦費が重石となり、さらにインフレが追い打ちをかけ、終始資金繰りの問題から工事が中断と再開を繰り返し大きく遅延した。

 

 最後は工事業者と工期の見直しと建設費用の支払いに関して揉めだし、裁判沙汰にまで発展したと思ったら業者が裁判中に経営難で破産。そうこうしている内に第三次大戦の終結も重なって色々と有耶無耶となり、結局新規の生産設備は完工せずに放棄され、施工途中の建屋が今やホームレスの集合住宅となっていた。

 

 これ以降、新規の生産設備の建設計画が立ち消え、既存の生産設備の延命措置が決まった所へ深海棲艦との戦闘が始まり、既存の兵器システムでは劣勢に立たされ、その後に艦娘が登場したことで戦線を押し返す有効な手段となった事からも、早期警戒に必要不可欠となるレーダーなどの既存の索敵システム関係に発展改良を施すことは別として、新規の兵器開発関連は予算を大きく削られ艦娘関連の拡充に全力を注ぐ事となった。

 

 先の大戦以前なら、戦いながらも兵器開発と製造も平行して行なうことも辛うじて出来ただろうが、今のアメリカにそんな余力は無かった。

 

 

 だが新ロシア連邦(NRF)の兵器開発、生産能力は未だ健在であると、計器越しではあるものの、今こうしてまざまざと見せ付けられた。

 

 

 しかし、発射後のその飛翔した方向が解せない。戦闘中の方向とはまるっきり別の方向へと向かって射った。敵の別働隊でも見付けたのか?

 

 

 この事に困惑していると、機体のレーダー警報受信機が反応。対空レーダーに捕捉された様だ。

 

 その直後に船舶で世界的に使用されている国際VHFの無線通信システムの、特に緊急時の呼び出しと応答の際に使用されるガードチャンネルにて通信が入った。

 

 

「«This is(こちらは) the NRF Pacific Fleet(NRF太平洋艦隊) missile guided-frigate(ミサイルフリゲート艦) 『Admiral Isakov』(『アドミラル・イサコフ』)!() Approaching U.S. aircraft(接近中のアメリカ軍機)!() Respond immediately(直ちに応答せよ)!()»」

 

 

 随分と高圧的だなぁ…。まぁ戦闘の最中(ドンパチの真っ最中)ならピリついていたとしても仕方ないか…。そういや、『Admiral(アドミラル) Isakov(イサコフ)』と言えば、このイワンの艦隊旗艦だったな。

 

 応答しない訳にはいかないな…。

 

 

This is a(こちらは) U.S. Forces Japan(ニホン駐留アメリカ軍) reconnaissance plane from Iwakuni Air Base(イワクニ基地所属偵察機).()My call sign is(コールサインは) “Dragonfly”(“ドラゴンフライ”).()Admiral Isakov(アドミラル・イサコフ),()Over(どうぞ)

 

 

 この空域での飛行目的でも聞いてくるか?と予想し、さてどこまで喋るべきか?と考えながら応答の文言を述べたが、返ってきた通信内容はあまりにも予想外なものだった。

 

 

「«Message to “Dragonfly”! At this moment,(“ドラゴンフライ”に告げる!現在、) both NRF and Japanese fleets(我がNRF艦隊と日本艦隊は) are being(貴国の) engaged by your submarine 『Long Island』(潜水艦『ロングアイランド』から攻撃を受け),() resulting in damage to the Japanese flagship 『Kaga』(日本艦隊旗艦『かが』が被弾した)!()»」

 

 

What's that!?(何だって!?)

 

 

 思わず叫んでしまう。捜索中の原潜『Long(ロング)Island(アイランド)』の艦名が告げられ、よりにもよってその艦から攻撃を受け被害が出ているという。

 

 レーダー反応から、ニホン艦隊の中央に位置する『カガ』の速度が徐々に低下している。周辺の艦艇は救援の動きを見せている。赤外線反応からは火災は起きていない様に見えるが、恐らく浸水が発生しているのだろう。

 

 

 …Shit(クソっ)!通信を傍受しても我が軍のMk48(魚雷)が被雷したと言ってやがるが、それ以上はわからない!かなり混乱してやがる!…これは、沈没しつつあるのか?

 

 

「«In response to this(この事態に対して) situation, our fleet(我が艦隊は) exercised the right of(やむを得ない措置) self-defense as an unavoidable measure(として自衛権を行使し、) and sank the 『Long Island』(『ロングアイランド』を撃沈した)!()»」

 

 

 なんてこった!さっきのミサイル発射は『Long(ロング) Island(アイランド)』に対する攻撃だったのか!

 

 …いや待て。そもそも()()()()()()()()

 

 

「«If your flight purpose(もし貴機の飛行目的が) has no connection to this attack(本攻撃と無関係であるなら), ()Turn back to(それを証明) Iwakuni Base at once to prove it(するために直ちに岩国基地へと引き返せ)!() Otherwise, you will(さもなくば、) be considered hostile and(敵対行動と見做して) shot down(撃墜する)!!(!!)»」

 

 

 事態の真偽、より詳細な情報を聞き出そうとしたが、この有無を言わせない事実上の最後通告が発せられた直後、これが単なる口先だけの脅しではなく、本気であることを証明するかの様に、U-2のコクピット内をけたたましいアラート音が鳴り響いた。射撃管制レーダーから照射を受け、自機が完全にロック・オンされた事を告げる警告音だ。

 

 

 パイロットの顔から血の気が引いた。

 

 

 事実新ロシア連邦(NRF)艦隊は先ほどの通信直後に、U-2に対して射撃管制レーダーからレーダー照射を開始していた。

 

 

 マジかよっ!?

 

 

 U-2のパイロットは自衛装備である電子対抗装置(ECM)の使用を考えたが、先の通告は敵対行動と見做さない基準は引き返す事だと発言した様なものであり、それ以外の行動は全て敵対行動と見做される危険性がある。

 

 

 …やむを得ないか。

 

 

 そう判断すると、返信はせずに操縦桿を傾けて翼を翻した。

 

 

 基地に戻れとの指図だったが、別にこっちはそれを了承する言質までしたわけじゃない。戻ってるフリをして距離をとり、連中の索敵圏外から限界まで通信傍受で情報収集を続けよう。それと、司令部に緊急連絡だ。

 

 

───────

 

 

 

「目標、射程外への離脱を確認。

 

 …艦長、少々やり過ぎなのでは?」

 

 

 レーダーに映る光点が艦隊から離れるのを見ながら、レーダー員が後ろに立つЯковлев(ヤコヴレフ)艦長へと尋ねる。

 

 この時『Адмирал(アドミラル) Исаков(イサコフ)』は先の射撃管制レーダーの照射と同時に、艦首VLS、3К96«Редут(リドゥート)»複合対空ミサイルシステムの長距離迎撃を対応する、指令・慣性・セミアクティブ・レーダーホーミングによる複合誘導方式の48N6系長距離対空ミサイルが収められているVLSのハッチを2基分、開放していた。

 

 警告を無視してさらに接近して来ていたら、躊躇なく即座に発射し撃墜する態勢だった。

 

 

「構わん。американский(アメリカンスキー)は警告をただの虚仮威しだと(タカ)を括って無視する時がある。

 

 なにより、奴は何も答えなかった。素直には引き返すつもりはないのだろう。おそらく一旦距離をとってこちらの索敵範囲外から様子を伺う可能性が高い。引き続き対空警戒を続けてくれ」

 

 

Всё понятно(フスョー パニャートナ)

 

 

「艦長、『Грозный(グロズヌイ)』より通信です。周辺を警戒しつつ()()()()艦隊と合流するとの事です」

 

 

 副長が日本艦隊への支援に出していた艦からの通信を伝えに来た。

 

 

 …どうやら、上手くいった様だな。

 

 

「分かった。Андропов(アンドロポフ)艦長には艦隊と合流するまで気を抜かず、充分に注意する様にと伝えてくれ」

 

 

понятно(パニャートナ)

 

 

 一通りの指示を出し終えたЯковлев(ヤコヴレフ)大佐は、ここで一息付いた。

 

 

 ヤレヤレ。何とかなったな…。後は()()()()()()()()()()()()()何事もなく艦隊へと合流するだけだ。

 

 それにしても艦隊に『Грозный(グロズヌイ)』を連れてきておいて良かった。

 

 

 『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級コルベット艦(警備艦)Грозный(グロズヌイ)』艦長のЮрий(ユーリ) Андропов(アンドロポフ)中佐は、Гангут(ガングート)が嘗て艦長を拝命していたコルベット艦(警備艦)Проворный(プロヴォルヌイ)』にて副長を務めていた人物で、彼女の為人と指揮官としてのやり方やその考え方を経験から熟知しており、多少の無茶振りにも慣れているとのこと。

 

 

 今回の謀略の実行にあたって閣下は彼を指名し、彼はそれを二つ返事で快諾してくれた。彼が居てくれたお陰で何とかなった。

 

 些か強引な謀略ではあったが、まぁ閣下らしいと言えば閣下らしいが、その結果として『かが』を損傷させてしまった。今頃閣下はヒジカタ閣下に釈明を───。

 

 

 ここでЯковлев(ヤコヴレフ)大佐はまだ終わっていない仕事が1つあったことを思い出した。

 

 

 

「と、いかんいかん。副長、『かが』との通信を繋いでくれ」

 

 

 

 

───────

 

 

 

「«前衛艦『ゆうぎり』の佐竹艦長から続報と、新ロシア連邦(NRF)旗艦『Адмирал(アドミラル) Исаков(イサコフ)』のЯковлев(ヤコヴレフ)艦長より報告です。

 

 『Long(ロング) Island(アイランド)』の魚雷発射管への注水音の確認を受け、第2射があると判断し、『Грозный(グロズヌイ)』がやむを得ず攻撃。当該艦を撃沈との報告です»」

 

 

「…そうか。Яковлев(ヤコヴレフ)大佐には後ほど私から支援への感謝を伝えておく」

 

 

「«それと、『Грозный(グロズヌイ)』艦長のАндропов(アンドロポフ)中佐から土方司令に、曙大尉は自身の職務に対して最善を尽くそうとしたに過ぎないと小官は判断しましたので、彼女には寛大な処置をとの嘆願がありました»」

 

 

「…了解した。だが今回の詳しい状況に関しての報告だけは直接曙本人の口から確認を取りたい。彼女の『ゆうぎり』への帰艦を待って、佐竹艦長共々リモートでの報告と聴取を行ないたいと伝えておいてくれ」

 

 

「«了解。

 

 最後に、超高々度で当艦隊へと接近していた米軍機をレーダーが捉えましたが、その後すぐに針路を反転。レーダー範囲外へと離脱しました。反転する直前に『 Исаков(イサコフ)』が警告を発していたのを確認しています»」

 

 

「ふむ…。Яковлев(ヤコヴレフ)大佐はその事に関して何か言及していたか?」

 

 

「«はい。いいえ、何も»」

 

 

「分かった。引き続き警戒態勢を緩めない様に、各艦及び各隊への伝達を頼む」

 

 

「«了解しました»」

 

 

 

 ここで通話は終了したが、ソファーで足を組み、煙草を吹かしているГангут(ガングート)は無線機を耳に当て、旗艦のЯковлев(ヤコヴレフ)大佐とは違う別の者からの報告を受けていた。

 

 

О да(ああ), ()товарищ Юрий(同志ユーリ),() ты(君は) справился отлично(良くやり遂げてくれた).()

 

 Хорошо(よろしい). ()Будь осторожен(気を付けて、) и сохраняй бдительность(警戒を維持してな)

 

 

 その報告に満足したのか、終始上機嫌なまま通信が終わり、無線機を懐に仕舞い込んだ。

 

 

「ま、概ね筋書き通りだな。まったく、Bates(ベイツ)大佐は聞きしに勝る優秀な潜水艦艦長だ。私の要望に完璧に応えてくれた。американский(アメリカンスキー)であることが実に勿体無い。親愛なる我が同志達も期待通りに動いてくれた」

 

 

 Гангут(ガングート)は大仕事を終えてとても気分が良いと言わんばかりに、上機嫌な口調で述べた。

 

 

「…そろそろタネ明かしを願いたいものだな?Гангут(ガングート)

 

 

 土方はГангут(ガングート)に対して問い詰める。

 

 確かに彼女には今回の事態への対応を依頼したし、その際の責任もとるとは言ったが、些かやり過ぎではないか?と思ったのだ。

 

 

「はい閣下。タネ明かしという程のものではありません。小官はBates(ベイツ)大佐に3つの条件を提示しての取り引きを致しました」

 

 

 土方からの詰問に、Гангут(ガングート)は煙草を灰皿に捨てると先程の上機嫌さとは打って変わって、しかも普段以上の真面目そうな態度で答える。

 

 

「1つ目、()()()()()()()()()()()()()()()()()をこの『かが』を目標にして発射し、()()()()()()()()()()()()()

 

 2つ目、適当なところで第2射の兆候を示しながら、密かに自艦のエンジン音を発する囮魚雷(デコイ)を発射。それを艦隊の脅威である『Long Island(ロングアイランド)』であるとして、我々が自衛権の行使を名目に攻撃、破壊する。

 

 そして最後の3つ目として、囮魚雷(デコイ)を発射後は爆音に紛れて離脱、艦隊へと戻って来てもらう。

 

 以上3つの条件を達成致しましたら、3艦全乗員の亡命受け入れに関して、Министр(国防相)に必ず口利きすると。

 

 ただそれだけの事です。先程同志Юрий(ユーリ)…、失礼。Андропов(アンドロポフ)中佐から『Грозный(グロズヌイ)』の航行雑音に紛れながら追随して艦隊と合流するために動いていると連絡がありました。

 

 ただ問題は、いかにして誰の目から見てもянки(ヤンキー)による犯行であると証明が可能な物的証拠を用意するかでしたが、上手いこと魚雷を突き刺してくれました。

 

 ですが、結果として閣下の乗艦を傷付けてしまったことは、陳謝します」

 

 

Shit(クソがっ)!やっぱりお前の企みか!?」

 

 

 たまらずScamp(スキャンプ)Гангут(ガングート)に掴み掛かるが、当のГангут(ガングート)は涼しい顔をしたまま抵抗する素振りを一切見せない。掴み掛かろうとした瞬間に、その挙動を見逃さなかった江風(カワカゼ)と、先程の魚雷が艦体に激突した際、つい油断してすっ転んで目を回していた夕立(ユウダチ)が復活してScamp(スキャンプ)を取り押さえるべく動こうとしたが、土方がそれを手で制した。

 

 

「ああそうだ。攻撃を仕掛けてきたянки(ヤンキー)の潜水艦を自衛のためやむを得ず撃沈。それがたまたま『Long Island(ロングアイランド)』と思しき音紋を発する水中移動音源だっただけの話だ。

 

 そうして全乗員は死亡した。という事にすれば、ある程度の追及は躱せる」

 

 

「いくらなんでも無理がないか!?」

 

 

「ふん!嘘と証明出来なければ嘘は嘘でなくなる。嘘とバレたところで、開き直ればいいさ。西側の連中もよくやる方法だよ。

 

 それにこの海域は深海棲艦の支配領域な上に、平均水深は並の潜水艦では到達不能な深さだ。撃沈を示す残骸の捜索をしたくても出来ん海だ」

 

 

 確かにな。と土方は内心で呟いた。

 

 

 国家は常に正直で清廉潔白であるわけではない。時には自国民にだって平然と嘘をついて欺く事だってやるし、曖昧な言葉を選んで煙に巻く事や、責任の所在を有耶無耶にして逃れたり、適当な尻尾切りのスケープゴートを仕立てて強引に幕引きを謀る事だってザラにある。

 

 そこに国家を統治する政治形態の違いによる差異は関係無い。洋の東西を問わず、どの国だって結局は人間が統治している以上は、似たり寄ったりの行動をしたり問題を抱えたりするものだ。

 

 

 そしてГангут(ガングート)が指摘した通り、この辺りの平均水深はおよそ3,000〜6,000メートル。マリアナ海溝の約10,000メートルには及ばないとはいえ、この深度の海底を丹念に調べるには専用の調査船や高精度の探索機材など、それなりに大掛かりな準備と諸々の諸経費等の計上も必要となるが、それだけの準備を整えることが出来たとしても、深海棲艦が実効支配している海に実際に調査船を繰り出して悠長に調査する事など、危険すぎて出来ん。

 

 

「それに貴様らと共に逃亡を決断した2艦も、ハワイ沖で沈んだ事にしたのだろう?なら今度は貴様の乗艦である『Long(ロング) Island(アイランド)』も沈んだことにしておかねば、不公平というものだろう?

 

 貴様ら全員、これで晴れて自由の身というわけだ」

 

 

 Scamp(スキャンプ)は掴んでいた手を離し、力無くソファへと座り込む。

 

 

「…皮肉なモンだな。自由を謳った国から抜け出して、死んだことになって自由を得るなんてよ」

 

 

 自嘲気味なこのScamp(スキャンプ)の言葉に、Гангут(ガングート)はニンマリとした笑みを湛える。

 

 

「ようこそ。無責任な自由の国から責任ある自由の国へ。偉大なる我が母なる祖国新ロシア連邦(NRF)は、貴艦らを心から歓迎しよう」

 

 

「…おい、アタイはまだ新ロシア連邦(NRF)に亡命するとは言っていないハズだぞ?」

 

 

 勝手に話を進めるなと言わんばかりに半眼で睨みながら文句を告げるが、当のГангут(ガングート)は「何を言ってるのだ?」と言わんばかりに肩を竦めてみせる。

 

 

「んん~?貴様は我が国の領海近くで艦から降ろして貰うつもりだったと言っていたではないか?

 

 それはつまり、初めから我が国に亡命を希望する気だったのだろう?何か問題でもあるのか?」

 

 

 ああ、そうだったと、Scamp(スキャンプ)は舌打ちする。

 

 この短時間の間に色々と有りすぎて、ウッカリ忘れていた。

 

 

「まぁそうは言っても、正式な亡命受け入れに関する受理と手続きは本国に帰還してからになるから、今の所は飽く迄も仮だ。暫くは私の指示に従ってもらうぞ」

 

 

「…ああ。分かったよ。アタイらの身柄、アンタに任せるよ」

 

 

 そう言ってScamp(スキャンプ)は観念したかの様に、或いは不貞腐れる様に行儀悪く机の上で足を組んでドカッと乗せようとして、土方に小言を言われる事を恐れて途中で止め、器用に身体を90°転回させてソファに仰向けに寝っ転がると、そのまま煙草を吹かしだす。

 

 自分の知らない所で勝手に話が進められ、色々と取り引きとか交渉とか、無い知恵を必死になって絞り出して考えていたのに、既に諸々のお膳立てがほぼ出来ていた。これではまるで自分はピエロを演じさせられていたみたいで、なんだかむしゃくしゃして、ちょっとくらい言い返してやろうとしたが、それも結局は墓穴を掘るだけに終わり、なんだか色々とバカバカしくなったのだ。

 

 

「…とんだ茶番劇だったな」

 

 

 呆れ返ったように土方は溜息を吐く。Гангут(ガングート)が艦娘現役時代に対日支援で派遣されていた際に自身の指揮下に居たが、その頃と大胆さは微塵も変わっていない。

 

 多少の無茶は強引にでも押し通る。嵌れば得られる成果は大きいが、外せば大損する運任せなやり方だ。だが彼女はその運すら強引という言葉で無理矢理にでも鷲掴みにし、力技で引っ張り込む様な“豪運”の持ち主でもあった。

 

 ただ新ロシア連邦(NRF)海軍に於いて最大の主力艦隊であるСеверный флот(北方艦隊)に次ぐ規模を誇り、極東太平洋方面の防衛を担当する主力艦隊のТОФ(太平洋艦隊)の司令官という重責を担う立場になった事で、少しは落ち着いたかと思っていたが…。

 

 

「まぁそう仰らないで下さい。それにянки(ヤンキー)の妨害工作とする明確な証拠と成り得る現物も手に入りましたし、お邪魔虫を追い払う口実にもなりました。まさに一石二鳥な結果に終わりましたから、万々歳ではありませんか」

 

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 

 ソファに寝っ転がって煙草を吹かしていたScamp(スキャンプ)が、徐ろに身体を起こして尋ねる。

 

 

「そのお邪魔虫ってのは、ひょっとしてさっきの話に出てたヤツか?ありゃ一体なんだったんだ?」

 

 

 このScamp(スキャンプ)からの質問に土方はやや怪訝な顔となった。

 

 Гангут(ガングート)に対して「Scamp(スキャンプ)に伝えていなかったのか?」と目で問い掛けるが、Гангут(ガングート)は「あ…っ」という顔をしたかと思うと、気不味そうに顔を逸らした。

 

 

 完全に忘れていた様である。これには流石にScamp(スキャンプ)から冷やかな目で見られても何も言い返せない。

 

 

 仕方ないと土方は掻い摘んでScamp(スキャンプ)に説明する。

 

 

「日本本土からこの艦隊へとU-2高々度偵察機が飛来して来ていた。

 

 本艦にオブザーバーとして乗艦している第7艦隊に所属するHeywood(ヘイウッド)はこの事に終始知らぬ存ぜぬと言っていたが、明らかにイレギュラーな事態なのは間違いなさそうだ。

 

 おそらく、この艦隊の追跡命令を出した直後から音信不通となった、貴艦と共に叛乱逃亡した『Long Island(ロングアイランド)』を捜索し、可能ならば接触を図るものだったと推測している。一応、これの対処もГангут(ガングート)に任せていた」

 

 

「カーッ!まさかここまで飛べる機体(ヤツ)がまだ残ってたのかよっ!?すまねぇ、コイツはとんだ手間をかけた!」 

 

 

 完全に想定外だった様で、両手で頭を乱雑にガシガシと掻くと、頭を下げた。

 

 

「なに、貴国アメリカの潜水艦から襲撃を受けた事実を素直に伝え、合同艦隊の旗艦を務める『かが』が被弾した事実も伝えた上で、犯人を撃沈。この海域は戦闘状態にあると親切に教えてやったのだ。

 

 そして無闇に接近すれば、無用な誤解と混乱を生むと伝え、不幸な衝突を回避するためにも引き返す様に警告し、レーダー照射を当てただけだ」

 

 

 まぁ撃墜する気満々だったがな。という言葉は流石に話さなかった。

 

 そしておそらく距離をとって様子を窺っているかもしれないということも、確定情報ではない事から伏せた。

 

 

 たださっきまで気不味そうに顔を逸らしていたにも関わらず、得意げに語ったものだからScamp(スキャンプ)は一瞬だけだが白い目を向けたが、すぐに真剣な目つきへと変わった。

 

 

「となると、暫くうちらは下手に通信で電波を出すマネはしない方が良さそうだな。

 

 多分だが、脅されて尻尾巻いて帰ってきました。なんて恥ずい報告はしたくねぇだろうから、ギリギリまで情報収集して成果を得ようと粘るだろうからな」

 

 

「…矢張り、貴様もそう思うか?」

 

 

「アタイならそーするよ」

 

 

 ここでScamp(スキャンプ)は一度紫煙を吐き、一拍の間を空ける。

 

 

States(アメリカ)本土でも貴重になりつつある長距離を飛べるヤツをわざわざ飛ばしたのに、何の成果もないってのは今のARMY()じゃマズい。最悪何人かのクビが飛ぶ。

 

 もしパイロットが恥も外聞とか諸々を捨てれるヤツだとしても、その上の連中が自身の保身のためにゼッテー許さねぇよ。帰った途端に尻尾切りの生贄にされるのがオチさ」

 

 

 充分に吸い尽くした吸い殻を灰皿に押し付け、少し悲痛な顔をしながら続きを話す。

 

 

「アタイら艦娘だって、杜撰な情報分析や希望的観測で立てられた無茶な作戦計画が原因で、案の定作戦が破綻して失敗する羽目になったにも関わらず、その一切の原因や責任をアタイら艦娘に擦り付けて来やがって、何人もの仲間がScapegoat(スケープゴート)として()()()()()()のを見たよ…。多分だが、もうこの世には居ねぇだろうな…」

 

 

 現在のアメリカ軍部内に於ける闇の一端を、図らずも知ることとなった。責任逃れや転嫁が横行し、組織としての自浄作用が機能しておらず、その弊害が現場へと押し付けられている。

 

 日本のAL/MI作戦と同時に開始された、アメリカのハワイ諸島奪還作戦が惨敗に終わった時に、アメリカ軍では少なくない艦娘が敗戦の責任をとらされて除籍処分という名の不名誉除隊や追放があった。

 

 しかしその処分が下された艦娘の殆どは、作戦の成否とはなんら関係のない艦娘だったと言われている。

 

 

 それに対して作戦の立案に携わっていた者達が何らかの処分が下されたとの話は殆ど無い上に、数少ない言い逃れや擁護が不能として処分が言い渡された者達も、それはほぼ形だけの処分に過ぎず、ほぼ全員が後に元職に復帰していたり、形ばかりの左遷からの新部署を立ち上げての重要な役職入りを果たすという、事実上の栄転を果たしている割合が多かった。

 

 

 だが組織とはそういう物だ。特に巨大化した組織ともなると、巨大化する過程で得た権益や利権との絡みもあり、組織の維持と保身を最優先に考え動く様になる。

 

 不都合なものは徹底的に隠蔽され、時には抹消される。組織の力を維持するために必要ならば罰則規定すら捻じ曲げたり都合良く利用する。これが所謂組織の論理に於ける弊害というものだ。

 

 

「つーか、さっきの通信は大丈夫なのか?」

 

 

 思い出したかの様に、Гангут(ガングート)に先程のАндропов(アンドロポフ)中佐との通信が傍受されたんじゃないのか?と問い掛ける。

 

 

「問題ない。傍受されている事を前提に、悟られぬ様にお互い言葉を選んで話ていた」

 

 

 それなら問題ないか…。と納得したところで、今度は土方へと顔を向ける。

 

 

「ところでよ、ヒジカタのオジキ、この艦にHeywood(ヘイウッド)が居るって言ってたな?そいつ第7艦隊(7F)の艦娘部隊で参謀やってるHeywood L.Edwards(ヘイウッド・L・エドワーズ)って名のDestroyer(デストロイヤー)の奴だろ?そっちはそっちで大丈夫なのか?」

 

 

「…問題が無いと言えば嘘になるな。この艦隊での彼女の立場は、あまり良くない。それでも職務には忠実であろうとはしているが、今回の騒動の発端となったサン・ディエゴの事件について聞いてからというもの、精神的にかなり参っていた。

 

 今は自室に籠もったままだが…」

 

 

「油断するなよオジキ。奴はクソ真面目なのが取り柄だとは聞いてるが、かなりのクセモノだって噂があるヤツだ。

 

 …何か企んでるかもしれねぇ」

 

 

 そこへ再び内線の呼び出し音が鳴り、土方がスピーカーへと繋ぐ。相手は田沼少将だった。

 

 

「«土方司令、たびたび申し訳ありません。Heywood(ヘイウッド)が詳しい状況の説明を求めて艦橋へと来たのですが…»」

 

 

 噂をすれば影。と、今丁度話題に出ていたHeywood(ヘイウッド)が動き出していた様だ。

 

 彼女の自室には艦橋へと直通している通信手段が無かったため、直接艦橋へと赴いたのだろう。

 

 

「«『Long Island(ロングアイランド)』から攻撃を受けたとの説明を聞いた途端に倒れました…。元々顔色が優れていませんでしたので…。

 

 今、()()()()()()()()()()()()()()春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の両名が医務室へと運んでいます…»」

 

 

 どうやらHeywood(ヘイウッド)は精神的キャパシティが限界を迎えてしまった様である。

 

 この報告に土方は「そうか」とだけ答え、Scamp(スキャンプ)は天を仰ぎながら「Oh my god…」と呟き、Гангут(ガングート)は蟀谷を押さえながら溜息を吐いていた。夕立(ユウダチ)江風(カワカゼ)は何とも言えない表情で互いの顔を見合わせ小声で何か話ていた。

 

 

 

 

 

「(春雨(ハルサメ)(ねぇ)海風(ウミカゼ)(ねぇ)、相変わらずやる時は過激っぽいぃ…)」

 

 

「(シッ!姉貴、変な事言うもンじゃねぇ!)」

 

 

 

 

 取り敢えず、艦隊は一時『かが』の応急修理のために停止する事となった。

 

 

 調査の結果、Mk48魚雷は艦体に激突した際の衝撃で弾頭部分が完全に潰れた状態で艦体の外板を突き破り、そのまま突き刺さっている状態で発見され、物的証拠として回収される事となった。

 

 魚雷によって出来た破孔の修理はドック入りするまでそのままにすることとなり、浸水は水密隔壁の水密区画で封じ込め、隣接する区画では排水作業と防水作業が夜通しで行なわれた。

 

 

 突き刺さった魚雷の信管が最初から破壊されている事実を知らない現場は、爆発物処理の訓練と経験のある潜水艦艦娘達を集めて撤去と回収作業に取り掛かったものの、魚雷の破損具合から信管の状態が分からず、作業中に誤作動を起こして爆発する事を恐れてどうしても慎重にならざるを得なく、時間が掛かると予想されたが、新ロシア連邦(NRF)艦隊からспецназ(スペツナズ)に所属するバラクラバで素顔を隠した潜水艦艦娘達がヘリに乗って応援に駆け付け、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事で、その後は双方の協力により、スムーズに撤去と回収作業が完了した。

 

 

 これによって回収されたMk48魚雷ADCAPは『かが』の格納庫で厳重に保管され、後日アメリカへの正式な抗議を行なう上での重要な物的証拠として活用されるであろう事は、誰の目にも明らかだった。

 

 

 その後、()()()()()()спецназ(スペツナズ)隊員の潜水艦艦娘が、土方から新ロシア連邦(NRF)側へと提供された今回の証拠資料を運び出すため、一次的に旗艦『Исаков(イサコフ)』へと戻る事となった連絡将校Софи(ソフィー)少佐ことГангут(ガングート)と共にヘリで帰還する際、同乗する潜水艦艦娘が1人増えていたが、誰も気にしなかった。

 

 無論、それは新ロシア連邦(NRF)潜水艦艦娘の恰好に変装し、バラクラバで顔を隠したScamp(スキャンプ)だった。

 

 

 彼女はこの後新ロシア連邦(NRF)艦隊預かりとなる。

 

 

 これら一連の作業が行われている最中に、土方は『ゆうぎり』の佐竹艦長と同艦に帰艦した自身の直属の部下である曙の両名とのリモートによる報告の聴取が行われた。

 

 

 その時の曙はいつものツンケンした態度とは打って変わり、やや意気消沈している様に見えたと土方は語っている。

 

 

 彼女は今回の魚雷探知からの自身の行動と、自分が指揮する七駆への指示と行動、そして『Long Island(ロングアイランド)』と思しき目標の探知と撃沈に至るまでについて、途中で土方からの質問への回答と補足説明を交えながら報告を行なった。

 

 その際に新ロシア連邦(NRF)艦『Грозный(グロズヌイ)』艦長Андропов(アンドロポフ)中佐とトラブルを起こした事、艦隊の安全よりも自身の感情を優先させてしまったとして、深く反省していると述べた。

 

 

 確かに言葉にすれば事実である。しかし日米のトラブルに新ロシア連邦(NRF)が介入する事で生じるであろう諸々の問題を恐れた、いや、懸念したというのを、ただの感情任せと簡単に切って捨てられるものでは無い。

 

 ただАндропов(アンドロポフ)中佐から「寛大な処置を」との口利きがあった事もあるが、元々事実確認が目的だった事もあり、正式な軍法に基づく懲罰等は初めから考えていなかったため、一応の措置として第七駆逐隊の指揮権は次席指揮権を持つ漣へと委譲し、自室謹慎という名の遠回しに「少し休め」という形にとどめた。

 

 

 それにである。もとを正せば今回の一件は土方がГангут(ガングート)と共に謀った謀略であり、曙はその謀略にあたって間接的に巻き込まれた、実質もらい事故の被害者でもあるのだ。そしてそれは佐竹艦長にも言える。

 

 

 その佐竹艦長からは、結果的に大事に至らなかったとは言え、艦隊の旗艦たる『かが』が被雷し損傷した事実に変わりはなく、それは艦隊の前方で航路の安全を確認するだけでなく、艦隊に迫る脅威を早期に発見、適切に対処する立場にある前衛艦としての役目を果たせなかった本艦の怠慢であり、その責任の所在は艦長たる自身にあるとして、如何なる処罰も甘んじて受けると申し出てきた。

 

 

 これに対して土方は、艦隊を構成する各護衛艦がマトモな対処行動に動けていなかった事実を引き合いに出し、この事態は深海棲艦への対策にのみ重点を置いてきた軍の戦略や教育方針に問題の根幹があるとして、誰にも対応出来無い不可抗力な結果であるとの考えを述べ、現時点での処罰は考えておらず、本作戦終了後に正式な調査委員会を設けて艦隊全体としての問題点の洗い出しを行なう上で協力してもらうため、委員会立ち上げと共に出頭する様に、またそれまでに問題点や改善点を思い付く範囲で書面にしたため纏めておく様にと申し渡して終了とした。

 

 

 

 兎も角これで漸く当初の目的地、マリアナ諸島サイパン島へと到着する事が出来る。

 





 次回、漸くWelcome to Saipan!

 …自分で言うのもなんですが、最後はちょっと巻き過ぎたかな?と思ったり、色々と無理矢理だったかと思う所。


 因みにHeywood L.Edwards(ヘイウッド・L・エドワーズ)春雨(ハルサメ)がコスモガンの出力を下げ──艦娘に対してスタンガンレベルの出力に相当──、背後から至近距離で撃ち気絶させた所を海風(ウミカゼ)が床に倒れ込む寸前に助け起こし、なに食わぬ顔でHeywood(ヘイウッド)を医務室へ運び込みました。

 銃声は出力を下げていたことにより最小限に抑えられ、なおかつ周りの喧騒によって掻き消されました。


───────


補足説明

U-2高々度偵察機

 米ソ冷戦時代の米国でLockheed(ロッキード)社(現在のLockheed Martin(ロッキード・マーティン)社)が同社のF-104 Starfighter(スターファイター)戦闘機をベースとして開発した高々度戦術偵察機。非公式愛称は“Dragon Lady(ドラゴンレディ)”(烈女)。

 最高高度は27,000メートル。最高速度はマッハ0.8。

 高々度を飛行するため、パイロットは特殊な与圧服を着用する必要があり、これはほぼ宇宙服と大差ない代物である。


 元々はソ連などの共産圏の邀撃機では迎撃困難な高々度で侵入し、軍隊の配備状況などの軍事機密情報を撮影する強行偵察目的で開発されたが、地対空ミサイルの発達により1960年の『U-2撃墜事件』などから、その優位性は薄れた。

 現在は電子・光学センサーの発達により、無理して強行偵察を行なう必要が薄まり、直接相手国の上空を飛行しなくても、かなりの情報収集が可能となっている。また偵察衛星よりも遥かに目標に近い位置での偵察行動が可能であり、より精度の高い情報が得られる。


 後継機SR-71の退役、無人偵察機RQ-4 Global Hawk(グローバルホーク)はペイロードが小さく多彩な偵察機材を積載出来ない上に、開発の遅延と運用コストの高騰による配備数縮小などの影響により、U-2は今暫く(運用寿命を2050年まで延ばして運用予定と言われている)現役で留まる見込み。(一応、後継機の開発は行われているもよう)


 
 当初の予定では問答無用の警告無しで撃墜するつもりでしたが、『Long Island(ロングアイランド)』撃沈の情報をアメリカに直接伝える役割が必要と判断し、追い返す算段に切り替えました。場合によっては48N6系長距離対空ミサイルを至近距離で爆発させる威嚇射撃も視野に入れていました。



48N6系長距離対空ミサイル

 3К96 «Редут(リドゥート)»長中近距離対応複合対空ミサイルシステムの長距離を対応する対空ミサイル。

 誘導方式は本編で語った通り、指令・慣性・セミアクティブ・レーダーホーミングによる複合誘導方式で、誘導に使用されるレーダーは『Горшко́в(ゴルシコフ)』級だと空中・水上目標の捕捉から、3К96«Редут(リドゥート)»による攻撃までを一括して担当する多機能レーダーの«Полимент(ポリメント)»と呼ばれるフェーズドアレイレーダーが使用されている。『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級及び同艦の発展型となる『Гремящий(グレミャーシュチイ)』級では«Полимент(ポリメント)»は装備されておらず、«Фуркэ(フルケ)»フェーズドアレイレーダーが使用されている。

 陸上型のS-400«Триумф(トリウームフ)»と平行して開発が進められたため、同系列のミサイルが使用されている。


 限定的ながら弾道ミサイルの迎撃能力を有しており、運用システムを含めて今なお改良及び性能向上が進められているため、 3К96とS-400で同名の48N6でも多少の性能の違いがあり、48N6の後ろに続く単語と数字で違いを見極める必要があります。そこがややこしいため、48N6“系”としました。


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 久々に本を一冊紹介させて頂きます。


 本作を執筆するにあたって少なからず参考にさせて頂いています、伊藤貫先生、ジェイソン・モーガン教授による対談本───


アメリカ帝国の衰亡と日本の窮地


 護憲左翼・拝米保守の欺瞞を撃つ!!

 100年ぶりの大転換期!
 自主防衛、中立主義、自主規制で
 存亡の危機を乗り越えよ!

 教養を失い、経済学に乗っ取られたアメリカ人/哲学なきアメリカ人が世界一の経済力・軍事力を持つ怖さ。
 ニコニコしながら悪いことをするのがアメリカ人/指導者層すら、他国の歴史に興味のないアメリカ。
 二大政党制が貧富の格差を広げている/マスコミ人が司祭の役割を務める社会は、最悪の社会。
 日本人はジャパノロジストとジャパンハンドを崇め、ひたすら服従してきた/日本人の外交議論は、単なる情緒主義。
 戦前の日本人が今後の日本人の〝逃げ場〞になる/日本は核保有して自主防衛・中立主義・自制主義を目指すべき。


前書き
第1章 アメリカ一極覇権の無謀な論理
第2章 教養を失い、経済学に乗っ取られたアメリカ人
第3章 アメリカ人は他国民の歴史と価値観に関して、無知で無関心
第4章 アメリカ文明とは何か
第5章 アメリカの機能不全をカトリックは救えるか
第6章 日本の「國體」を考える
第7章 日本は核保有して自主防衛・中立主義・自制主義を目指すべき
後書き

 全280ページ。

ビジネス社出版


税込1,980円



 現在の混迷する世界情勢を読み解く上で参考になる一冊だと思います。是非手に取ってご一読して頂けたらと思います。

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 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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