艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 ようこそサイパン島へ!

 今回はいつもより強引かつ、ギャグ要素強め(当社比)です。


第95話 Welcome to Saipan!

 

 

「漸く、辿り着いたか…」

 

 

 水平線の向こうから僅かに顔を覗かせた島影を双眼鏡で確認した艦長の田沼少将が呟く。

 

 

 当初の予定では現地時間早朝を過ぎた時間帯に到着予定だったのだが、正午近くまで遅れた。

 

 

 Mk48魚雷の撤去作業完了後、浸水は水密隔壁で抑え込む事に成功し、浸水区画の水密扉も破孔から流入する水圧で破られる事の無い様に、補強作業も完了した。

 

 その作業には人間によるダメージコントロールの応急隊と、艦に乗り込んでいる艦娘の支援の他にあらゆる工作活動に於いて八面六臂の活躍を見せる妖精さん達の協力もあって、現状では最良と言える作業が出来た。

 

 

 艦体外板に出来た破孔を塞ぐ事も考えたが、いくら停船しているとはいえ、全長248メートルの排水量約20,000トンを誇る事から波浪の影響を受け難い安定性を誇る『いずも』型艦娘母艦ではあっても、作業は艦外に出て行なう必要性があるため、外洋での作業は不測の事態が原因とする事故による二次被害の危険があると判断されて断念された。

 

 

 破孔だけならまだしも、重量約1.66トンの重魚雷が約55ノット──時速換算で約102キロ──の猛スピードで激突した際の衝撃で出来た外板の亀裂と変形の歪みは、艦内からはどうする事も出来なかった。

 

 せいぜい、さらなる浸水の発生を早期に発見し、被害の拡大を食い止めるくらいだ。

 

 

 その都合から外板へと掛かる圧力を可能な限り減じるために、また破孔から流入する海水の水圧を抑えるためにも、下手に速力を出す訳にもいかなかった。

 

 幾ら補強しているとはいえ、過信は禁物だ。それに長年に渡る戦争で酷使し続けた事による老朽化もあるかもしれないが、衝撃の余波は思いのほか内部の水密隔壁や水密扉にも影響を与えており、万が一という事もある。

 

 事実、被雷した箇所とは違う思わぬ箇所で浸水が発生しているのを発見したとの報告が相次いで上がって来ていた。

 

 

 ダメージコントロールとの協議の末、巡航よりも速度を落として航行する事となった。

 

 

 

「土方司令、ご指示通り艦隊はタナパグ港()()に向かっておりますが、本当によろしいのですか?」

 

 

 艦隊にはタナパグ港が修繕されている事を認識している者がほぼ居なかった。

 

 

 前大戦での偵察衛星の大量破壊により、稼働している衛星はその総数が大きく減少し、衛星情報の更新は優先度の高い地域以外では放置される頻度が高く、サイパン島が存在するマリアナ諸島は放置されている訳では無いが、優先度が低い地域に指定されていた。

 

 特に日本は衛星情報をアメリカに依存しており、アメリカの事情や戦略方針に左右されやすい。

 

 最近新ロシア連邦(NRF)の動きが慌ただしく、アメリカの目がそちらに注意が向いてしまって太平洋方面がおざなりとなっており、新ロシア連邦(NRF)は日本に対して直接的な衛星情報の提供を行なっていない上に、現状はマリアナ諸島方面まで衛星監視が及んでいない。

 

 

 そのため現在日本軍が掴んでいるサイパン島に関しての最新情報は、港湾夏姫がやって来て港を再生する以前のかなり古い情報しか持っていなかった。

 

 

「構わない。現地へと先に特使として到着しているキリシマ(霧野)特務大佐から、入港に問題が無い程度まで復旧が完了している事を確認したとの報告を受けている」

 

 

「…そうですか」

 

 

 土方の返答に、田沼は詳しい内容は聞かない様にした。

 

 艦隊の通信記録からは、霧野特務大佐から何らかの通信があったとする報告は無かった。つまり土方司令と霧野特務大佐は独自の通信手段によって連絡を取り合っていると見て間違いない。

 

 

 だが、それと思しき通信電波が傍受されていないのが気掛かりだった。

 

 

 同行する新ロシア連邦(NRF)艦隊が本国のМосква(モスクワ)か、所属艦隊であるТихоокеанский Флот(太平洋艦隊)の司令部があるВладивосток(ウラジオストク)、若しくは東部軍管区司令部があるХабаровск(ハバロフスク)との遣り取りと思われる通信は傍受出来ているが、暗号ということもあり内容は不明だった。

 

 もしかしたら、霧野特務大佐は新ロシア連邦(NRF)の通信システムを使用しており、新ロシア連邦(NRF)艦隊経由で連絡将校Софи(ソフィー)少佐ことГангут(ガングート)が直接口頭で土方司令にのみ伝えているのかもしれない。

 

 

 土方司令もそうだが、霧野特務大佐とГангут(ガングート)の仲は非常に良好な関係であり、その信頼関係から独自のルートを築いているとされている。その(よしみ)でという可能性は少なからずあった。

 

 

 一応、そういう理由付けで自身を納得させた。

 

 

 なお、正解は地球軍の通信システムを使用してのものであり、これに関しては地球軍艦艇だった艦娘にしか分からない。現代の科学技術力ではノイズの様なものとしか検知されない。

 

 

「となりますと、後は港内とその周辺の水深状況に関してですか…。

 

 本艦の状況はユトランド沖海戦での巡洋戦艦『Seydlitz(ザイドリッツ)』の浸水被害よりかは遥かにマシですが───」

 

 

Große Kreuzer der(巡洋戦艦)Seydlitz(ザイドリッツ)』。オーストリア継承戦争・七年戦争で活躍したプロイセン王国騎兵軍の将軍Friedrich(フリードリヒ) Wilhelm(ヴィルヘルム) von(フォン) Seydlitz(ザイトリッツ)にちなんで命名されたKaiserliche Marine(帝政ドイツ海軍)の巡洋戦艦で、Hochseeflotte(大洋艦隊)に所属。Große Kreuzer der(巡洋戦艦)Moltke(モルトケ)』級と同様にドイツ初のGroße Kreuzer der(巡洋戦艦)Von der Tann(フォン・デア・タン)』の改良型とされ、Hamburg(ハンブルク)の造船会社Blohm + Voss(ブローム・ウント・フォス社)が建造を手掛け、1913年に就役。全長200.5メートル、全幅28.5メートル。排水量24,549トン。36,000馬力の海軍式石炭重油混焼水管缶が27基と海軍式高速型・低速型直結タービン2組4軸推進で最高速力26.5ノットを発揮。航続距離は14ノットで4,700海里。乗員1,068名、戦時1,425名。主砲Krupp(クルップ)社製1911年型50口径28センチSK L/50、連装砲5基10門。副砲、砲郭式の1908年型45口径15センチSK L/45、単装砲12基12門。他に魚雷艇対策として8.8センチ単装砲12基12門。50センチ舷側水中魚雷発射管4基。後に2基の8.8センチ単装高角砲が増設されたよ。舷側の最大装甲の厚さは水線部の300ミリ。

 この(フネ)の有名な逸話として、世界最大の艦隊決戦と云われているかの“Schlacht von Jütland(ユトランド沖海戦)”にFranz(フランツ) Ritter(リッター) von(フォン) Hipper(ヒッパー)提督の指揮するI. Aufklärungsgruppe(第1偵察群)の所属艦として参加し、イギリスRoyal Navy(王立海軍)Grand Fleet(大艦隊)との戦いで1st Battlecruiser Squadron(第1巡洋戦艦戦隊)の『Lion(ライオン)』級Battlecruiser(巡洋戦艦)3番艦『Queen(クイーン) Mary(メリー)』を僚艦『Derfflinger(デアフリンガー)』級巡洋戦艦『Derfflinger(デアフリンガー)』と共に撃破したけど、大口径弾21発と中口径弾2発が命中し、さらに53センチ魚雷1発が艦首に命中して、火災消火のための放水によるもの、4番主砲塔基部の換装室に『Queen(クイーン) Mary(メリー)』が発射した34.3センチ砲弾が被弾し炸裂した事による装薬の火災から弾薬庫への延焼、誘爆を防ぐ為に行なった注水も含めて約2,300トンもの浸水が発生。ほぼ廃墟同然と化して大破した艦首を中心に浸水が増加し、速度も低下して艦隊から落伍。最後は後進航行で母港のWilhelmshaven(ヴィルヘルムスハーフェン)に帰還したんだけど、その時には約5,308トンもの海水が流入してたんだ。ここまでメッタメタだと帰り着く前に沈没や自沈を決断してても可怪しくなかったんだけど、優秀で適切なダメージ・コントロール(被害対策・応急対応)で一番砲塔下部の舷側魚雷発射管室を密閉出来た事で浮力が辛うじて維持されたから帰還出来たんだ。その戦訓からレイテ沖海戦で艦首に大きな被害を受けた戦艦『武蔵』の猪口敏平(いのぐち としひら)艦長に巡洋艦『利根』の黛治夫(まゆずみ はるお)艦長から“『ザイドリッツ』の戦例にかんがみ、艦首浮力の保全に努められよ”との信号が送られ、“信号了解”との返答が送られた逸話も有名だね。私、清霜も“実際に()()を見てた”から、よく憶えているよ…。

 因みに、巡洋戦艦って言われているけどドイツには巡洋戦艦という艦種は無くて、それまでの装甲巡洋艦も含めて大型巡洋艦と分類されてるよ。それと巡洋戦艦を先駆けて建造したイギリス海軍だと巡洋戦艦はBattle Cruiser(バトルクルーザー)、戦闘巡洋艦と分類していたり、運用国で戦艦に分類されてるけど周辺国の軍や文献、時代によって巡洋戦艦に分類されたりして、巡洋戦艦という艦種そのものが結構曖昧だったりするよ。ソビエト連邦が建造した1144号計画『Орлан(オルラン)』型重原子力ミサイル巡洋艦、所謂『Киров(キーロフ)』級ミサイル巡洋艦がジェーン海軍年鑑だと巡洋戦艦に分類されてるのもその一例だね。確かにその時代の軍艦と比較して、巨艦で装甲が施されていたり、単艦で投射可能な火力も同世代の艦と比べても遥かに強力だけど、清霜としては流石に『Киров(キーロフ)』級を戦艦とするのは───」

 

 

 

「待て待て待て!清霜!!お前どっから入って来た!?」

 

 

 いつの間にそこに居たのか、土方と田沼の後ろで「ふんす!」といって胸を張って立っていた田沼の相棒、夕雲型駆逐艦艦娘の清霜による突然の解説という名の熱弁に、思わず田沼がややズレたツッコミを入れながらストップを掛けた。

 

 土方も面食らったかのように、一言も発せずにいた。

 

 

 なお、清霜の熱弁だが、息継ぎ無しである。清霜の戦艦愛、実に恐るべし…。

 

 

「何処からって、普通に入口からだよ?」

 

 

 相棒である田沼の当たり前の様な問いに、何言ってんの?と言わんばかりに首をコテンッと傾けながら清霜は答える。

 

 

「…すまん。いつからそこに居たんだ?」

 

 

「はい!是非とも先遣隊に、この清霜をとの志願に来ましたっ!」

 

 

 教本通りの見事な敬礼をしながら清霜は元気よく告げるが、そんな彼女を田沼は胡乱な目で見遣る。

 

 

「…本音は?」

 

 

「警備に出ているかもしれない戦艦タ級と戦艦ル級、それに超弩級戦艦の姫級、南方棲戦姫を間近でジックリと見たいです!」

 

 

却下!!

 

 

えーっ!?

 

 

「抜け駆けは許さんっ!俺だって見たいんだ!!

 

 

 

貴様ら、いい加減にせんかッ!!

 

 

 

 漫才を始めた2人に対して土方のカミナリが落ちた。

 

 

 周りの艦橋要員は、田沼と清霜の漫才の様な掛け合いはいつもの光景なのと、適度に緊張を(ほぐ)せるとの事で、いつもの微笑ましい光景として受け止めていた。

 

 

 なお、この清霜、相手が戦艦級であるならば仮令複数を相手取るという状況であっても、戦いながら一人一人じっくりその目で観察し尽くし、また戦艦の姫級という絶望的な相手との戦闘中であっても、撃破が無理と判断したら満足するまで徹底的かつ完璧に観察し尽くしたらほぼ無傷に近い状態で帰還を果たせる程の筋金入りの実力者である。

 

 しかし、その彼女の奇行とも異常なまでの執念とも言える観察行動により、戦艦級に関しては非常に精度の高い情報──それも個体一人一人の動きの細かい癖や見分けの難しい個体の正確な識別に至るまで──を確実に持ち帰るという凄まじさから、戦闘を有利に進める上で重要な貢献を果たす優秀な偵察兵として評価が高い。

 

 

 

 ───取り敢えず暫くお待ちください───

 

 

 

「なにしろ現在手元にある海図が古いですからね…」

 

 

 タナパグ港を中心にした海図を示しながら、清霜共々仲良く頭にタンコブを拵えた田沼が告げる。

 

 

 被雷による浸水で喫水が多少ながら下がってはいる事を田沼は少なからず懸念している。

 

 何故ならこの海図に記載された港周辺で座礁の危険性がある浅瀬や障害物等に関する正確な位置情報が古く、最後に更新されたのは第三次大戦以前という、二十年近く前の代物なのだ。

 

 当時は存在しなかった浅瀬や障害物、放置され沈んだ沈船の残骸などによって艦底部を傷付ける恐れがあった。

 

 

 そのため入港する前に、艦の水測による測定と艦隊の潜水艦艦娘部隊を中心に展開し、可能な限りの測量を行なう予定だ。タンコブを押さえて涙目の清霜はこの部隊を海上から支援する部隊に志願したかったのだ。

 

 この測量の結果次第では入港時に慎重な操艦が求められる事が予想されている。

 

 

 一応、深海棲艦の潜水艦達が安全に航行可能かどうかの確認はしているが、どうしても水深を正確に測定するノウハウに不安がある。

 

 

「ヒジカタ閣下、報告します。我が艦隊のЯковлев(ヤコヴレフ)大佐から、いつでもМорская пехота(海軍歩兵) спецназ(スペツナズ) を派遣可能との連絡がありました」

 

 

 自身の艦隊と連絡を取り合っていたГангут(ガングート)が連絡将校Софи(ソフィー)少佐として、新ロシア連邦(NRF)艦隊からも艦娘部隊──新ロシア連邦(NRF)軍名称、Морская пехота(海軍歩兵) спецназ(スペツナズ)──の人員を送る準備が整ったと報告を入れた。

 

 

「分かった。これまでの艦隊行動と違い、これが両国艦娘部隊による初の共同作戦となるが、指揮系統の統一の問題から、充分な連携がとれるまでには至っていない。一応区画を分けて各隊手分けしての作業になる。区画の確認を怠らない様に、念入りに注意を促しておいてくれ」

 

 

Всё понятно(承知致しました)

 

 

 再び艦隊との連絡に戻るГангут(ガングート)を横目に、土方と田沼は測量の結果が芳しくなかった場合を想定しての代案を話し合う。

 

 

「結果次第では港の近くに投錨する事になるな」

 

 

「やむを得ないでしょうね。しかし、測量作業に深海棲艦側からの監視が付くと思われますが、それによって現場で警戒心と緊張感から不測の事態が起きないとも限りませんが…」

 

 

「…信じるしかあるまい」

 

 

 土方にしてはなんとも歯切れの悪い言葉ではあるが、この場ではそれしか言い様が無かった。

 

 

 結論から言えば、その心配は杞憂に終わる事になるのだが、それが判明するのはもう少し後の事である。

 

 

 

 

「«Good morning! Everyone in Japan and New Russian Federations!»」

 

「«We extend our warmest welcome to the arrival of the visiting fleet.

 

 Welcome to Saipan!»」

 

 

 

 サイパン島から艦隊に向けて発せられた通信を傍受したとして、その内容がそのまま艦橋のスピーカーから流された。

 

 

「…歓迎されているみたいですけど、なんだか旅行客の到着を喜んでるみたいな感じですね」

 

 

「“敵対の意思が無い”と言葉から示しているのかもしれませんが、些か陽気に過ぎる感が否めませんな」

 

 

 アンドロメダによる歓迎の言葉は完全に滑っていた。

 

 土方は()()()()()()()()()()()をしながら「まったく、彼女は何をやっているんだ…」と内心で溜め息をついていたが、同時に画面越しでなく直接嘗ての同僚である地球軍組の他のメンバーと会える事が嬉しいのだろうと思うと、まぁ仕方がないかとの思いもあった。

 

 

「堅苦しい挨拶より、これくらいフランクなのが良い場合もある。

 

 なにより、彼女ら深海棲艦の常識を我々人類の物差しで図るものではないだろう」

 

 

 事実、サイパン島を取り仕切る陸上型姫級深海棲艦、飛行場姫と初めて画面越しに言葉を交わした時、彼女はとてもフランクな態度で接して来た。サイパン島のNo.2の立場になる泊地棲姫は、最初こそ緊張して真面目な態度でいたが、緊張が(ほぐ)れだすととても穏やかな雰囲気を纏うようになった。

 

 他にも何人かの姫級達と言葉を交わしたが、その一人一人に個性があり、価値判断なども概ね人間とそこまで大きな差はない様に思えた。

 

 

 ただし、姫級を統率者とする絶対的な階級社会、その姫級達による合議制での方針決定などの、独自の文化や社会性を有していたり、階級社会の割には姫級とイロハ級一般深海棲艦との間柄は、そこまで厳格に分け隔てられたものではなく、割と緩い主従関係で構築されているし、なんなら従者が誰を主人として仰ぐかを好きに決めて移籍したりもしている。

 

 

 まぁその緩さのお陰もあって、アンドロメダが末席とはいえ姫級として取り立てられ、駆逐ラ級などの従者が付くようになったのだろう。

 

 

 これらの事から、人間と似た価値観とは別に、深海棲艦独自の独特な考え方や価値観を有しているのだと、土方は認識している。

 

 

 

「…成る程。確かに閣下の仰る通りですね。謂わばこれは“未知との邂逅”。我々の常識を押し付けるものではありませんね」

 

 

 土方の言葉にГангут(ガングート)が納得した言葉を発するが、土方は「この歓迎の言葉を送った者は純粋な深海棲艦ではないのだがな…」との言葉を胸の内で呟いていた。

 

 いや、もしかしたらアンドロメダは全てを理解した上で、敢えて道化を演じる事で人類と深海棲艦とでは思考に若干の違いがある事を伝えるつもりだったのか?

 

 

 なお、それは土方の考え過ぎである。アンドロメダは純粋に春雨(ハルサメ)姉妹達や、嘗て地球軍でも智将として知られ、何より自身が父と慕う沖田の親友である土方と直接会える事が楽しみで仕方がないのだ。

 

 

 とは言え、その後から送られてくる通信の内容は非常に真面目な内容であり、入港に際しての注意事項や指示を事細かく伝えて来ていた。

 

 港湾周辺の測量に関しても直ぐ様了解の返答と同時に、後学の為にと測量を実施している所を見学する了承が欲しいと打診して来た。

 

 

 これに土方は了承の返答を送る。

 

 

「ところでヒジカタ閣下、何か気になる事でも?向こうの通信相手の声を聞いた時に、なにやら訝しむ顔をしたように見えましたので」

 

 

 Гангут(ガングート)が、やや躊躇いがちに少し怪訝そうな顔をしながら訪ねる。

 

 

「…いや、気の所為だと思うが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「土方司令のご友人ですか?士官学校校長の井上中将以外のご友人とは、初めて聞きました」

 

 

 この話に田沼は興味を持った様だ。

 

 なにせ土方は自身の親族や交友関係については余り語ろうとはしない。軍内部でそれなりの人脈を作り、多少人付き合いに難のある真志妻大将をサポートしているのだから、人付き合いが悪い訳ではないのだが、私的な交友関係に関してだと海軍士官学校で校長を務めている老将、井上隆義(いのうえ たかよし)中将くらいしか知られていない。

 

 

 それなりに付き合いのある田沼はその事に常々疑問に思っていた。

 

 そんな土方が珍しく、自身の友人についての話を口にしたのだ。興味を持たない訳がない。

 

 

「知らなくても無理は無い。奴は10年以上前に()()()()()()()()()…」

 

 

「っ…!失礼しました…!」

 

 

 明言した訳ではないが、その言葉の雰囲気から察した。まさか既に故人だったとは思わなかった。

 

 10年以上前に病気でと言う事は、恐らくパンデミックの頃に…。そしてその頃に海外と言う事は、墓もおそらく…。

 

 そう田沼は解釈し、不躾な事を聞いてしまったと思い、謝罪の言葉を口にした。

 

 

 無論、これはカバーストーリーの一部である。土方の友人、つまり沖田十三の事であるが、彼は確かに遊星爆弾症候群という病気によって亡くなっており、そして土方がこの世界に来て凡そ10年近い月日が流れていることからも、あながち嘘ではない。

 

 

「気にするな。その一人娘、明衣という名前なのだが、暫くして母親も亡くなって父親の親族に養子として預けられたと本人から伝えられてな。だが士官学校へと進むと聞き、友人の遺子という事もあって私が士官学校での評価や人事に口出ししているのではないかと疑われては、彼女に悪評が立って迷惑を掛けると思い、暫くはお互い会わないようにしていたら疎遠になっていたんだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、まさかな…?」

 

 

 ここがこのカバーストーリーの本題である。アンドロメダの偽名である安藤明衣(あんどう めい)という架空の人物を本物らしく見せるために作られた、虚実混交の話である。

 

 

 土方の亡き友人の忘れ形見である一人娘、海軍少尉安藤明衣は、士官学校を出て海軍少尉となり、護衛艦『むらさめ』の補給科勤務となった直後の初航海の戦闘で『むらさめ』が沈没。ほぼ爆沈に近い沈み方をしたため、乗員は誰一人として助かっておらず、公式記録で戦死扱いとなったが、生き残ってサイパン島で保護されていた。

 

 

 戦死したと思ったが生きていたというのは、嘗て『アンドロメダ』は戦闘艦として火星宙域での戦いで爆散し散華したが、その魂はこの世界に流れ着き、新たな生を満喫していた。という流れから作られた。

 

 

 一応、そういう方向性でカバーストーリーを作っていた。

 

 死んだと思っていた友人の忘れ形見と、思わぬ形で奇跡的な再会を果たす。

 

 

 問題があるとすれば、明らかに日本人離れしたアンドロメダの容姿であるが、そこはなんとか押し通す方法がある。

 

 日本政府は嘗て、というか今でも無闇矢鱈と過剰な迄の移民政策を推進しているのだ。その移民としてやって来て帰化した外国人とのハーフという事で押し切る。

 

 その事に関して、アンドロメダたっての希望で、ラテン民族にルーツを持つ南ヨーロッパ系のアメリカ人、Yamato(ヤマト) Alexis(アレクシス) Okita(オキタ)という名前が決まっていた。

 

 ヤマトとオキタは言わずもがなだが、アレクシスというのは男性で使われるAlexander(アレクサンダー)の女性名詞であるAlexandra(アレクサンドラ)を短縮したもので、またその語源となったギリシア語のἈλέξανδρος(アレクサンドロス)をアラビア語やペルシア語にすると 阿:إسْكَنْدَر 波:اسکندر(イスカンダル)となる。

 

 これは地球の恩人であるイスカンダルを意識しており、またアレクサンドロスにはギリシア語で“守護者”や“防衛者”という意味もある。

 

 ヤマトは地球とイスカンダルの間の子であり、平和を愛する守護者としての象徴たる存在であるとする、アンドロメダなりの強い(こだわ)りが込められている。

 

 

 そして友人の子という事で、土方が身元引受け人となる段取りを真志妻が札束で殴る(裏で工作)活動を進めていた。

 

 沖田姓でないのは、預けられた親族である姉夫妻の安藤姓に変えたためという事で、その姉夫妻も彼女の戦死報告から暫くして他界していたという、でっち上げの公文書も完成させていた。

 

 

 さらにアンドロメダが姉と慕う駆逐棲姫を、戦死扱いとなった安藤少尉は、実は戦闘によるものではなく、その前に『むらさめ』の甲板から不注意で転落して遭難し、溺れて死にかけていた所をたまたま助けてくれた命の恩人である姫級深海棲艦とする事で、安藤少尉は命を救ってもらった恩義と長く共に過ごしていたことから、駆逐棲姫に懐いたという事にする予定だ。

 

 

 

「流石に他人の空似でしょう…?それに特使として先に赴いています霧野特務大佐からなにも伝えて来ないのは…、あ、いえ。特務大佐とは面識が無いのですね」

 

 

 Гангут(ガングート)はそんな出来過ぎた、奇跡みたいな事は無いでしょうに。と、否定的だ。

 

 実際、論理的に見たらあまりにも出来過ぎた話だ。

 

 

 そして霧野特務大佐こと、足が不自由なイレギュラーの金剛型高速戦艦艦娘の霧島として扱われている霧島(キリシマ)なのだが、彼女が建造で顕現した時期には既に『むらさめ』は沈没していた。

 

 であるならば、時系列的に霧島(キリシマ)が安藤少尉と面識がある方が不自然となる。

 

 

「…そうだろうな。いくらなんでもあり得ないことだな」

 

 

「申し訳ありません閣下。私が妙なことを聞いたばかりに」

 

 

「構わんよ。私も歳をとったものだから、少し耳の聞こえが悪くなっているのかもしれんな」

 

 

 軽く笑い声が漏れ、これでこの話は打ち切りとなった。

 

 

 ただ、Гангут(ガングート)はアンドロメダの素姓を省いた、今回の裏事情についてМинистр(国防相)Мирослава(ミロスラヴァ)からおおよその話は聞いていた。

 

 

 ヒジカタの親友の子供がサイパン島でヒジカタが来てくれるのを待っていると。

 

 

 とは言え敵地であるサイパン島に土方の関係者が居たという事が、どういう理由であれ現地に到着した直後に発覚するというのは、特使という形で先行して赴いている事になっている霧島(キリシマ)は兎も角、後々にこの事実を本人は知りながら意図して隠していたのではないか?との疑惑を持たれる政治的な問題へと繋がりかねないとの懸念があった。

 

 真志妻大将の失脚を狙っている者達からしたら、真志妻大将最大の味方であり人脈面で強力な支えとなっている土方中将を排除出来るかもしれない醜聞は、この上なく利用価値が高い。

 

 

 そのため事前に軽くこの話題を艦橋という複数の耳目がある場所で出す事で、ある意味で第三者である自身がその話を聞いていたという事実を衆人環視の中で作り出し、気になったからと本国に確認を取り、そこから情報部を通じて新ロシア連邦(NRF)が独自の裏取り調査を行なったとして、後日日本軍で問題として取り上げられた際に牽制するなり、無理矢理にでも介入出来る布石を打った。

 

 

 実際にどうなるかは分からないが、打てる手は打つ。

 

 

 母なる祖国の為にも、ヒジカタ閣下は必要だと確信しているし、Мирослава(ミロスラヴァ)閣下もおなじ考えだ。

 

 出来れば直ぐにでも祖国に迎え入れたいが、今暫くは日本でマシツマ閣下と共に辣腕を振るってもらった方が、結果として祖国の利益に繋がるとМирослава(ミロスラヴァ)閣下はお考えの様だ。ならば日本での障壁となりそうなモノは、我々の手で粉砕するのみ。

 

 

 後日談となるが、日本国内で政府高官や官吏、軍関係者に報道関係者の事故や病気による入院報道が出たり、インフルエンサーの何人かの更新が途絶える事態が相次いだが、その後に関する続報が一切出ないという事態が暫く続く事になる。

 

 しかし政治に対する関心が希薄な日本国民の大半は、最初こそ関心は示しても特に気にも留める事もなく、直ぐに忘れ去って普段通りの日常を営む事への関心に注力する事となる。何が起きようとも知らなければ、民衆にとっては“All's right with the world.(世は事もなし。)”である。

 

 

 

 その後なんやかんやあったものの、測量や入港作業は無事に終わった。

 

 知識欲旺盛な港湾夏姫を始めとした深海棲艦達が、測量や入港作業とその指示の出し方や留意すべき点などに関して質問攻めを行なったため、作業が滞る事態が起きかけたものの、説明役として春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)を派遣したためそこまで大きな問題とはならなかった。

 

 

 そして────。

 

 

「土方のおじさま!」

 

 

 出迎えに来ていたアンドロメダが、接岸した『かが』から降りてきた土方に駆け寄り、満面の笑顔で盛大に抱き着いた。

 

 

「ようこそサイパン島へ!またお会い出来て嬉しいです!」

 

 

 なお、土方の身長は平均的な日本人の成人男性の身長である170センチとおなじくらいであり、それより20センチも長身な身長190センチのアンドロメダが抱き着いたものだから、色々と不味い絵面である。

 

 特に、土方の腰への負荷がとんでもない事になったとして、青筋を立てた霧島(キリシマ)に引っ剥がされ、そのまま耳を掴まれて港の隅に曳航され、しこたま怒られながら正座して小さく縮こまっているアンドロメダの姿が目撃される事となった。

 




 なんだか清霜を暴走させ過ぎたな…。でも書いてて楽しかった。個人的に『Seydlitz(ザイドリッツ)』を始めとします弩級艦や、それ以前の前弩級艦に準弩級艦が海を席巻していましたあの時代の軍艦は割とお気に入りだったりします。


 ヤマトの偽名は本編中で語ったAlexander(アレクサンダー)の女性形Alexis(アレクシス)を入れる以外は考え無しで決めましたので、女性名にYamatoってどうなの?とか有り得る名前なのか?は特に気にせず使いました。


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本編に関しまして訂正

 第90話の本編作中にて、新ロシア連邦(NRF)海軍艦娘部隊の潜水艦艦娘をСпецназ(スペツナズ)に所属する部隊としておりましたが、それ以前の投稿を読み返しましたところ、新ロシア連邦(NRF)海軍の艦娘部隊は同軍にてМорская пехота(海軍歩兵) спецназ(スペツナズ)と呼称されているとしていた設定を忘れていた事実に気が付き、急遽新ロシア連邦(NRF)潜水艦艦娘に関しましてはМорская пехота(海軍歩兵) спецназ(スペツナズ)Диверсант отряд(特殊遊撃隊)と呼称されているといった具合に改めました。

 
 Диверсант отряд(特殊遊撃隊)は水中から忍び寄り敵重要目標にのみ標的を絞って撃破する部隊とされ、空母艦娘が圧倒的に少ない新ロシア連邦(NRF)軍では、本土へと接近する深海棲艦の強力な空母機動部隊の空母群を、陸上や艦艇からの長距離ミサイル群やドローンの飽和攻撃、航空攻撃による攻撃で擾乱状態に陥らせ、そのタイミングで確実に仕留める空母キラーとして潜水艦艦娘が特に重要視されており、同時に母艦となるПодводный крейсер(潜水巡洋艦)との任務の兼ね合いから、最も機密レベルの高い部隊とされています。


 他にも過去の投稿内容との設定に違いがあるのを見つけましたら、その都度訂正致します。


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 アメリカとイランの合意。さて、これからどうなるかは未知数だ。中東に於けるアメリカの軍事的な影響力は確実に弱体化しており、それを回復するのにどれだけの年月と予算が掛かることになるやら…。

 それがアジアでどの様な影響を及ぼすだろうか?中東での軍事力を回復を優先させるとすれば、ヨーロッパかアジアから回すだろう。直接本国からは直近の選挙の絡みから難しい可能性が高い。今回の戦争はアメリカ本国での受けが悪い。となると他から回すしかない。アジア太平洋方面はアメリカ本国から中東へと戦力や物資を送り込む中継地点や後方支援拠点でもある。ヨーロッパ方面は徐々に縮小の動きを見せている。

 とは言え本来掲げていた方針から言えば、西半球と太平洋に軸足を動かす可能性も有り得る。

 だが同時にイスラエル・ロビーとの絡みの問題もあり、中東を下手に放置出来ないとの見方もある。


 しかし、アメリカ国民がこれ以上の直接的な対外戦争の関与に民意としてどう判断するか?“笛を吹けど踊らず”となってはどうにもならない。

 そうなった場合、矢面に立つ立場となるのは誰か?今一度落ち着いて考えてみるべきだろう。アメリカにとって自分達の代わりに都合良く踊ってくれるであろうと見做されているのは、果たして誰なのか?

 “国家に真の友人は居ない”

 この言葉の意味を、真剣に捉えるべき時なのだろう。


 それにしても、ちょいと就活とか諸々の事情が重なって情報収拾が疎かになっている間に、裏取りが追っ付かなくなっているのが痛い…。


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 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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